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審決分類 審判 判定  同一・類似 属する(申立成立) D2
管理番号 1010817 
判定請求番号 判定請求1999-60036
総通号数
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 意匠判定公報 
発行日 2000-09-29 
種別 判定 
判定請求日 1999-05-18 
確定日 1999-10-25 
意匠に係る物品 いす 
事件の表示 上記当事者間の登録第1013161号意匠「いす」判定請求事件について、次のとおり判定する。 
結論 (イ)号図面及びその説明書に示す「いす」の意匠は、登録第1013161号意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属する。
理由 第1.請求人の申立及び理由
請求人代理人は、「イ号意匠ならびにその説明書に示す意匠は、登録第1013161号意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属する。との判定を求める。」と申し立て、その理由として、要旨以下のとおり主張し、証拠方法として、本件登録意匠及び本件登録意匠の類似1号ないし3号の登録意匠の各意匠公報並びに本件登録意匠の意匠登録原簿謄本、ならびにイ号意匠図面(図面代用写真)及びその説明書を提出した。
1.本件登録意匠の説明
本件登録意匠は、意匠登録第1013161号公報(甲第1号証)に示されるとおりであり、同公報の記載によれば、意匠に係る物品を「いす」とし、その形態の要旨は次のとおりである。
すなわち、座部と背部とを側面視略L形をなすように連続形成した背座部と、座部の両側に設けられた側面視略T字形の左右肘掛け体よりなる肘掛け部と、座部下面の略中央より垂下した脚柱の下端に先端下部にキャスターを有する5本の脚杆を放射状に設けた脚部とを有する「事務用いす」の態様において、前記背座部を、正面視略正方形状の座クッション体の後端より連続状として正面視略台形状の背クッション体を起立させて側面視略L字形をなす肉厚の一体形として背座クッション体を形成し、この背座クッション体の背面から下面の後部を略同形の一体成形品よりなる外殻状の背座カバー体により一体に覆ってなる態様とするとともに、側面視で背クッション体の前面を略くの字形にやや突出させるとともにその下端から連続して背クッション体の下部前面を後方に略半円形状に湾曲させて座クッション体の上面に連続させ、背クッション体から座クッション体の湾曲連続面に横方向に全通させて2条の切込み状の線条模様を形成し、背座カバー体背面の略フラットな上部面から外方に突出状に成形された段差よりなる横ラインを介して一体に連続する下部面を後方に膨らみを持たせた略卵形面とした態様とし、前記肘掛け部の肘掛け体を、座部の両側部から起立させた肘掛け杆の上端に正面視で前記肘掛け杆より左右広幅となる肘当て板を前後方向に延出させて側面視略T字形に形成すると共に、前記肘掛け杆を小径下部の上端が大径上部の下端に内挿されるようにして互いに伸縮する伸縮構造とし、大径上部の正面の肘当て板直下の上部には略L形をなす伸縮操作用のプッシュレバーを突設した態様とし、前記脚部を、脚柱下部が中央部を貫通して、全体がドーム状を呈するように、先端部に向かい緩やかな円弧を描出させて放射状に傾斜させた5本の脚杆を配置した態様とし、前記背座部底面の中央部の前部に円形ハンドルを突設し、該背座部底面左右の前記肘掛け体の取付基部の前方における前記円形ハンドルの左右にリクライニング及び昇降操作用のレバーを配した態様としている。
2.イ号意匠の説明
イ号意匠は、被請求人が「ダイナフィットチェアー2」なる商標により、現にそのカタログなどに表示などして販売などしている被請求人の商品「いす」の意匠であり、請求人がその現品を入手し、その写真により特定した。その形態は要旨を次のとおりとする。(別紙第2)
座部と背部とを側面視略L形をなすように連続形成した背座部と、座部の両側に設けられた側面視略T字形の左右肘掛け体よりなる肘掛け部と、座部下面の略中央より垂下した脚柱の下端に先端下部にキャスターを有する5本の脚杆を放射状に設けた脚部とを有する「事務用いす」の態様において、前記背座部を、正面視略正方形状の座クッション体の後端より連続状として正面視略台形状の背クッション体を起立させて側面視略L形をなす肉厚の一体形として背座クッション体を形成し、この背座クッション体の背面から下面の後部を略同形の一体成形品よりなる外殻状の背座カバー体により一体に覆ってなる態様とするとともに、側面視で背クッション体の前面を略くの字形にやや突出させるとともにその下端から連続して背クッション体の下部前面を後方に略半円形状に湾曲させて座クッション体の上面に連続させ、背クッション体から座クッション体の湾曲連続面に横方向に全通させて2条の切込み状の線条模様を形成し、背座カバー体背面の略フラットな上部面から外方に突出状に成形された段差よりなる横ラインを介して一体に連続する下部面を後方に膨らみを持たせた略卵形面とした態様とし、前記肘掛け部の肘掛け体を、座部の両側部から起立させた肘掛け杆の上端に正面視で前記肘掛け杆より左右広幅となる肘当て板を前後方向に延出させて側面視略T字形に形成すると共に、前記肘掛け杆を小径下部の上端が大径上部の下端に内挿されるようにして互いに伸縮する伸縮構造とし、大径上部の正面の肘当て板から離れた中間部には略矩形状をなす伸縮操作用のプッシュレバーを突設した態様とし、前記脚部を、脚柱下部が中央部を貫通して、全体がドーム状を呈するように、先端部に向かい緩やかな円弧を描出させて放射状に傾斜させた5本の脚杆を配置した態様とし、前記背座部底面の前部の一側に円形ハンドルを突設し、該背座部底面の左右における前記肘掛け体の取付基部を枠形にして該枠形内部にリクライニング及び昇降操作用のレバーを配した態様としている。
3.本件登録意匠とイ号意匠との比較説明
▲1▼共通点
a.両意匠は、その意匠に係る物品が、「いす」特に「事務用いす」であって、一致している。
b.両意匠は、背座部の底面の左右にある「肘掛け体伸縮操作用のプッシュレバー」の形状と配置位置及び「リクライニング及び昇降操作用のレバー」の配置位置を除いて、前記1.本件登録意匠の説明及び2.イ号意匠の説明のとおり、その基本的構成態様及びその他の具体的態様が共通している。
▲2▼差異点
本件登録意匠では、その「前記肘掛け体伸縮操作用のプッシュレバーを、略L形として肘掛け体の大径上部の正面の肘当て板直下に配した態様としている。」のに対し、イ号意匠では、その「前記肘掛け体伸縮操作用のプッシュレバーを、略矩形状として肘掛け体の大径上部の正面の肘当て板から離れた中間部に配した態様としている。」。また、本件登録意匠では、その「背座部底面左右の前記肘掛け体の取付基部の前方における前記円形ハンドルの左右にリクライニング及び昇降操作用のレバーを配した態様としている。」のに対し、イ号意匠では、その「背座部底面の左右における前記肘掛け体の取付基部を枠形にして該枠形内部にリクライニング及び昇降操作用のレバーを配した態様としている。」。このように、本件登録意匠とイ号意匠では、「肘掛け体伸縮操作用のプッシュレバー」の形状と配置位置及び「リクライニング及び昇降操作用のレバー」の配置位置に差異がある。
4.本件登録意匠の登録類似意匠及び本件登録意匠の先行周辺意匠の指摘
▲1▼本件登録意匠の登録類似意匠
本件登録意匠には、類似1〜3の類似意匠が意匠登録されている(甲第2〜4号証)。
▲2▼本件登録意匠に関する先行周辺意匠
公知資料1 意匠登録第901078の類似4号公報(甲第6号証)に記載の「いす」の意匠
上記公知資料1(甲第6号証)は、本件登録意匠公報(甲第1号証)に参考文献として記載されている。
5.イ号意匠が本件登録意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属する理由
(1)上述したように、イ号意匠と本件登録意匠とは、「肘掛け体伸縮操作用のプッシュレバー」の形状と配置位置及び「リクライニング及び昇降操作用のレバー」の配置位置に差異があるのみで、その他の具体的構成態様及び基本的構成態様並びに全体としてのプロポーション並びに美観の点が全て共通している。そして、上記「肘掛け体伸縮操作用のプッシュレバー」の形状と配置位置の差異は、該「プッシュレバー」自体、看者がほとんど注目することのない肘当て板の下面に隠れた「いす」の小さな部品にすぎず、また、「リクライニング及び昇降操作用のレバー」の配置位置の差異は、機能的には多少の差異が認められるとしても、この種「事務用いす」の意匠として、看者が注目することのほとんどない「いす」の底面部の態様の差異にすぎず、到底意匠創作の要部を構成するものとは言えず、意匠の類否判断に影響を与えることのない微差にすぎない。よって、イ号意匠が本件登録意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属することは明らかである。
(2)なお、甲第7号証(本件登録意匠実施品現品とイ号意匠現品とを対比して示す写真)を一見して明らかなように、本件登録意匠実施品現品とイ号意匠現品とは、この種「事務用いす」の意匠として看者が注目し、この種「事務用いす」の意匠創作の要部を構成する、斜め正面側から見た態様及び斜め背面側から見た態様がほとんど一致している。
第2.被請求人の答弁
1.答弁の趣旨
イ号意匠図面に示すいすの意匠は、登録第1013161号意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属さない、との判定を求める。
2.答弁の理由
(1)請求人の「請求の理由」に対する反論
1)「(3)本件登録意匠の説明」に関して
請求人の本件登録意匠の記載は、基本的構成態様と具体的構成態様という言葉こそ、最後の対比の項において使用しているものの、要旨の認定においては具体的に分説しないで、羅列的に行っており(そのこと自体はとくに可否を論ずるものではないが)、極めて特徴的な構成である背もたれの正面視において、その下部のくの字形切欠部に言及していない恣意的なものであり、客観性に欠けるものである。この点については、以下の被請求人の主張において記載する本件登録意匠の構成によって反論する。
2)「(4)イ号意匠の説明」に関して
この項の記載も前項同様に、イ号意匠の背もたれの正面視についての言及がなく、一方、全体の態様は肘掛け支柱に設けた肘掛け伸縮用のプッシュレバーの形態と座部底面のリクライニング及び昇降操作用レバーの配置の差異を除いて、一字一句違わず全く同一の態様に記載されたもので、恣意的なものであり、客観性に欠けるものである。この点についても、以下の被請求人の主張において記載するイ号意匠の構成によって反論する。
3)「(5)本件登録意匠とイ号意匠との比較説明▲1▼両意匠の共通点、▲2▼両意匠の差異点」に関して
上記1)、2)で述べたとおり、請求人は両意匠について背もたれの正面形状の特徴に言及していないほか、肘掛けに見られる明らかな差異点を無視して、一字一句違わぬ同一の態様に記載した上で、対比を行ったものであり、事実と相違する。この点についても、以下の被請求人の主張において記載する両意匠の対比によって反論する。
4)「(6)本件登録意匠の登録類似意匠及び本件登録意匠の先行周辺意匠の指摘」に関して
類似登録意匠の存在についてはそのとおりであるが、先行周辺意匠については欠落があり、このような不十分な周辺意匠の記載からは、客観的で妥当な本件登録意匠の特徴を求めることはできないと思料する。この点については、被請求人の主張において記載する「本件登録意匠の特徴」の項において反論する。
5)「(7)イ号意匠が本件登録意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属する理由」に関して
この項は両意匠の対比のまとめに相当する重要な部分であるが、上に再三にわたって指摘したように、請求人の両意匠の記載は極めて恣意的で、事実と相違するものである。また、周辺意匠の指摘も十分でない。そうして、両意匠を対比し、類否判断を行うにあたって、両意匠の要部を求めるという作業も行っていない。
被請求人としては、このような恣意的な意匠の態様についての記載、不十分な周辺意匠の提示、意匠の要部を特定しない両意匠の対比にもとづく、両意匠の類否判断とその結論を認めることはできない。この点に関しては、以下の被請求人の主張における両意匠の対比の項の記載によって反論する。
(2)被請求人の主張
被請求人は前記した請求人の主張に対する反論を以下のとおり主張する。
1)本件登録意匠の構成
▲1▼基本的構成態様
厚手の座部と背もたれ部が連続し、背もたれ部を側面視で略くの字形に折曲し、肘掛けは略T字状からなり、先端にキャスターを有する5本の放射状脚と脚用支柱からなっている。
▲2▼具体的構成態様
A.座部・背もたれ部
a.側面視
座部と背もたれ部は連続的に表され、側面視においてほぼL型をなし、硬質からなる外殻体と内側のクッション体とで肉厚に構成されており、座部と背もたれ部はやや鋭角に表されたあと、背もたれの高さの約1/3のところで大きく後方に反り返り、いわゆるくの字形をなしている。座部と背もたれ部の角部は弧状となっている。
b.正面視
背もたれの下部は、下端部から背もたれの高さの約1/6の位置まで内側に向かって傾斜したあと、同じく高さの約2/5の位置まで外に向かって開く、いわゆるくの字状切欠部を設けたあと、再び内側に傾斜しながら、台形状をなすように頂部に達している。
c.底部のハウジング
座部底部のハウジングは底部後部から連続するような放物線を描いて設けられており、その前端部は傾斜状の段部となっている。
B.肘掛け
a.側面視
肘掛け支柱は楕円柱状で座部の底部から斜め前方に向かって前傾するように約20°傾斜して設けられており、その高さは上端がほぼ背もたれのくの字状突出部に達している。肘掛けとの接続は肘掛けの前後をほぼ1:2に分割する前方寄りに接続されている。肘掛けの前端部は下方に向かってスキーの先端状に湾曲し、先端湾曲部に向かって肉厚となっている。
b.正面視
肘掛け支柱は座部の底部から左右に水平に張り出したあと、座部の外側で90゜折曲して垂直に上方に伸びており、座部から離れている。
c.平面視
肘掛けは前後でほぼ同巾である。
d.座部・背もたれ部との関係
肘掛け後端部との間には空間部がある。肘掛けの長さは座部の長さの約1/2.2と短い。
C.脚部
脚用支柱の下端部には先端にキャスターを有する5本の脚が放射状に設けられていて、各脚の上辺は凸弧状となっている。
2)本件登録意匠の特徴
本件登録意匠の特徴を求めるにあたって、本件登録意匠の各構成部分につき、過去の公知意匠と対比して本件登録意匠に固有の構成がどの点にあるかにつき検討する。
▲1▼基本的構成態様に関し、この構成はこの酢物品において普通にみられる構成に関するものであって、本件登録意匠のみの特徴ではない。
▲2▼具体的態様に関し、
A.座部・背もたれ部
a.側面視
別表1に示すとおり、登録第860688号意匠、同第864647号意匠、同第901077号意匠、同第901078号意匠、同第908975号意匠、同第912890号意匠、同第924935号意匠において公知であり、本件登録意匠のみの特徴ではない。
b.正面視
背もたれ下部のくの字状切欠部について、別表1に示すとおり、登録第659522号意匠、同第860688号意匠、同第864647号意匠、同第901077号意匠、同第901078号意匠(とくにその類似第4号)、同第924935号意匠において公知であり、本件登録意匠のみの特徴ではない。
B.肘掛け
a.側面視
別表2に示すとおり、登録第746592号意匠、同第795440号意匠、同第1012454号意匠(後願)、同第1025373号意匠(後願)において概念的には公知であり、具体的には乙第1号証、乙第2号証において公知である。
b.正面視
肘掛け支柱は座部の底部から左右に水平に張り出したあと、座部の外側90°折曲して垂直に上方に伸びており、座部から離れている点は公知意匠には見当たらない。
c.座部・背もたれ部との関係
肘掛け後端部との間には空間部を設けた点は乙第2号証において公知である。
よって、支柱下部の取付部を除く肘掛け自体は本件登録意匠のみの特徴ではない。
C.脚部
先端にキャスターを有する5本脚の脚部については普通に見られるところであるが、上部を凸弧状とした脚部について、登録第912890号意匠、同第912969号意匠において公知であり、本件登録意匠のみの特徴ではない。
▲3▼まとめ
上に検討したとおり、本件登録意匠に固有の特徴は、B-bのT字状肘掛けの支柱下部の取付部の具体的形状のみということになり、その他はいずれも各構成部分は公知の形状を寄せ集めたものということになる。
しかし、公知意匠の寄せ集め方にも創作があるという考えに立てば、これも一つの特徴といえるので、結局本件登録意匠の要部は公知意匠の各部の寄せ集め方という点に求められる。
3)イ号意匠の構成
▲1▼基本的構成態様
厚手の座部と背もたれ部が連続し、背もたれ部を側面視で略くの字形に折曲し、肘掛けは略T字状からなり、先端にキャスターを有する5本の放射状脚と脚用支柱からなっている。
▲2▼具体的構成態様
A.座部・背もたれ部
a.側面視
座部と背もたれ部は連続的に表され、側面視においてほぼL型をなし、硬質からなる外殻体と内側のクッション体とで肉厚に構成されており、座部と背もたれ部はやや鋭角に表されたあと、背もたれの高さの約1/3のところで大きく後方に反り返り、いわゆるくの字形をなしている。座部と背もたれ部の角部は角形となっている。
b.正面視
背もたれの両側部は直線状で並行となっており、何らの切欠部は無い。背面の下部の外殻部にわずかに切欠部が認められるが、クッション材で埋っており、切欠部とまでは言えない。
c.底部のハウジング
座部底部のハウジングは底部後部から脚用支柱部にかけて段差を設けてさらに一段と厚くなっており、その前端部は座部前端部に向って傾斜状となっている。
B.肘掛け
a.側面視
肘掛け支柱は楕円柱状で座部の底部からほぼ垂直に設けられており、その高さは上端がほぼ背もたれのくの字状突出部に達している。肘掛けとの接続は肘掛けの前後をほぼ2:1に分割する後方寄りに接続されている。肘掛けは全体が水平であり、先端に向かって肉薄となっている。
b.正面視
肘掛け支柱は座部の底部に沿って傾斜して左右に張り出したあと、座部の外側で鈍角に折曲して垂直に上方に伸びており、ほとんど座部から離れていない。
c.平面視
肘掛けは前方が巾広となっている。
d.座部・背もたれ部との関係
肘掛け後端部と背もたれはほとんど接触しており空間部はない。肘掛けの長さは座部の長さの約1/1.7と長い。
C.脚部
脚用支柱の下端部には先端にキャスターを有する5本の脚が放射状に設けられていて、各脚の上辺は凸弧状となっている。
4)イ号意匠の特徴
イ号意匠の特徴を求めるにあたって、イ号意匠の各構成部分につき、過去の公知意匠と対比してイ号意匠に固有の構成がどの点にあるかにつき検討する。
▲1▼基本的構成態様に関し、この構成はこの種物品において普通にみられる構成に関するものであって、イ号意匠のみの特徴ではない。
▲2▼具体的構成態様に関し、
A.厚手の座部と背もたれの連続的構成と背もたれのくの字状折曲部に関して、本件登録意匠の特徴の対応項(▲2▼-A)に示したようにこの構成は公知であり、イ号意匠のみの特徴ではない。
B.背もたれ両側部の直線状で並行している点について、特に例を挙げるまでもなく、公知であり、イ号意匠のみの特徴ではない。
C.T字状肘掛けについて、別表2に示すとおり、登録第746592号意匠、同第795440号意匠、同第1012454号意匠、同第1025373号意匠において公知であり、イ号意匠のみの特徴でない。
D.上部を凸弧状とした脚部について、登録第912890号意匠、同第912969号意匠において公知であり、イ号意匠のみの特徴ではない。
▲3▼まとめ
上に検討したとおり、イ号意匠に固有の特徴は、各構成部分について認めることができるものではなく、いずれも公知の形状を寄せ集めたものということになる。
しかし、本件登録意匠同様、公知意匠の寄せ集め方にも創作があるという考えに立てば、これも一つの特徴といえるので、結局イ号意匠の要部は公知意匠の各部をこのような形に寄せ集めた寄せ集め方という点に求められる。
5)両意匠の対比
以上の検討に基いて、両意匠の構成態様について対比する。
▲1▼基本的構成態様に関し、両意匠の構成は共通するが、この構成はこの種物品において普通に見られるところであって、本件登録意匠に固有なものではない。よって、この点に関する共通性でもって、両意匠の類否判断の決め手とすることはできない。両意匠の類否判断の決め手は、各部の具体的構成に求めねばならない。
▲2▼具体的構成態様に関し、
A.座部・背もたれ部
a.側面視
座部と背もたれ部は連続的に表わされ、側面視においてほぼL型をなし、硬質からなる外殻体と内側のクッション体とで肉厚に構成されており、座部と背もたれ部はやや鋭角に表わされたあと、背もたれの高さの約1/3のところで大きく後方に反り返り、いわゆるくの字形をなしている点において共通しているが、この点は公知意匠に見られるところであって、かつ部分的共通性に属するものであり、両意匠の類否判断の決め手とはならない。細部の相違点にふれるとすれば、座部と背もたれの角部は本件登録意匠では弧状となっているのに対し、イ号意匠では角形となっている点である。
b.正面視
本件登録意匠では背もたれの下部は、下端部から背もたれの高さの約1/6の位置まで内側に向かって傾斜したあと、同じく高さの約2/5の位置まで外に向かって開く、いわゆるくの字状切欠部を設けたあと、再び内側に傾斜しながら、台形状をなすように頂部に達しているのに対し、イ号意匠は両側部は直線状となっており、両意匠には顕著な差異が認められる。そうして、この差異は強く人目をひく点に関するものであって、両意匠の類否判断に強く影響する差異点である
c.底部のハウジング
座部底部のハウジングを設けることは普通に知られているが、本件登録意匠では底部後部から連続するような放物線を描いて設けられており、その前端部は傾斜状の段部となっているのに対し、イ号意匠では底部後部から脚用支柱部にかけて段差を設けてさらに一段と厚くなっており、その前端部は座部前端部に向かって傾斜状となっていて、両意匠には差異が認められるが、一般にいすの意匠の類否判断において、座部底面及び背もたれ背面の形状については特徴点と見なされない傾向があるので、差異点の指摘にとどめておく。
B.肘掛け
a.側面視
本件登録意匠の肘掛け支柱は座部の底部から斜め前方に向かって前傾するように約20°傾斜して設けられており、肘掛けとの接続は肘掛けの前後をほぼ1:2に分割する前方寄りに接続されていて、肘掛けの前端部は下方に向かってスキーの先端状に湾曲し、先端に向かって肉厚となっており、その平面形状は前後でほぼ同巾となっているのに対し、イ号意匠は肘掛け用支柱は座部の底部からほぼ垂直に設けられており、肘掛けとの接続は肘掛けの前後をほぼ2:1に分割する後方寄りに接続されていて、肘掛けは全体が水平であり、その平面形状は前方が巾広となっていて、両意匠の構成には極めて顕著な差異がみられる。なお、この点に関する両意匠の構成は、公知意匠に見られるものであって特にどちらかの意匠が新規であるというものではない。そうして肘掛けは、この種いすの意匠において強く人目をひく部分に関するものであるから、両意匠の差異はこの種いすの類否判断の要部にかんする差異といえるものである。
C.脚部
両意匠の構成は共通するが、この点は公知意匠に見られるところであり、両意匠の類否判断の決め手とはならないものである。
▲3▼各構成部分の寄せ集め方に関する特徴について
本件意匠を構成する各構成部分すなわち、A.座部・背もたれ部、B.肘掛け、C.脚部を本件登録意匠のように寄せ集める構成について、固有の特徴があるか否かについて検討するに、そのような組合せは、例えば、登録第1025373号意匠に見られるように、普通に行われているところであって、格別特徴のある結合方法ではなく、したがってこの点に特徴を求めることは出来ない。
▲4▼結論
A.共通点
上記したとおり、両意匠の共通点はいずれも公知意匠に見られる点に関するもので、特徴がなく、これらの共通点によって、両意匠の類否判断の決め手とすることは出来ないものである。
B.差異点
一方、両意匠には
a.背もたれの正面視において、下部の大きなくの字形切欠部の有無。
b.肘掛けのT字状構成における支柱の角度、支柱と肘掛けの接続部の構成比、及び背もたれとの間隔、肘掛けの先端部の形状(側面視、平面視)において顕著な差異が認められる。
これらの差異はいずれも公知意匠に見られる形状についての差異であって、結局両意匠はそれぞれに異なった形状の公知意匠を寄せ集めた結果、両意匠は互いに要部を異にする意匠を作成したということである。
本件登録意匠は上記したとおり、各構成部分に関して新規なものはなく、その寄せ集め方の特徴によって登録されたものと解さざるを得ないものであるから、このようにして成立した意匠の類似範囲は登録意匠とほぼ同一性の範囲にとどまるものと解するのが自然であり、結局両意匠は最も人目をひくところの肘掛け、背もたれの形状において顕著な差異が認められ、全体として互いに非類似であると結論せざるを得ないものである。
なお、請求人が差異点として主張している「肘掛け体伸縮操作用のプッシュレバー」、「リクライニング及び昇降操作用レバー」及び「座部側部の線模様」の類否に触れなかったのは、本答弁書で検討した各部の構成に比してほとんど目立たない点に関するものであり、この種意匠の類否判断において、ほとんど影響を持たない点であると思料するためである。
第3.当審の判断
1.本件登録意匠
本件登録意匠は、平成7年11月21日の意匠登録出願に係り、平成10年4月10日に意匠権の設定の登録がなされたもので、願書の記載及び願書に添付された図面の記載に表されたところによれば、意匠に係る物品が「いす」であり、その形態は別紙第1に示すとおりであって、その要旨は以下のとおりである。
すなわち、(1)全体は、縦長隅丸の略長方形板状体を側面視略「L」字状に屈曲し、座部と背もたれ部とを連続して一体に形成して背座部とし、座部の左右両側略中央に、側面視略「T」字状の一対の肘掛けを設け、座部下面の略中央から円柱状の脚柱を垂下し、その略下端に、先端の下面にキャスターを有する細棒状の脚杆5本を略水平放射状に設けた基本的な構成態様である。そして、その各部の具体的態様は、(2)背座部について、側面視略「L」字状に屈曲した縦長隅丸の略長方形板状体を肉厚のクッション体とし、その全長にわたって横方向の緩やかな凹湾状を形成して背もたれ部及び座部を形成するクッション体とし、その背もたれ部背面から座部底面側を、クッション体と略同形の一体的に形成した外殻状のカバー体(背座カバー体)で覆った構成のものとし、座部を、平面視において、前方が小さい弧状で、後方がやや大きな弧状の略隅丸正方形状に形成し、その座部の後端から背もたれ部を連続して立ち上げたもので、背もたれ部を、正面視において、座部の後端両隅から背もたれ部の高さの下から略1/6までを徐々に縮幅しつつ立ち上げ、その後同略2/5までを徐々に拡幅して略「く」の字状の切り欠き部を表し、その上方略2/3を上端に向かって徐々に窄まる略隅丸台形状に形成し、また、座部から背もたれ部に連続するクッション体の屈曲部に、横方向に2条の切り込み様の線条模様を表し、側面視においては、座部を略水平状に配し、背もたれ部を若干前傾させて立ち上げた後、背もたれの高さの略1/3のところで後方に反り返えらせて、略「く」の字状に形成し、背座カバー体を、その背面上方の背もたれ部の略2/3の部分が左右に緩やかな凸弧状をなし、その下方略1/3から座部底面にかかる部分を球面状に後方にやや膨らんだものとし、その上下の面の境界(切り替わる部分)に、下向きの略弓形状の小段差が残して略水平に表れている。(3)また、座部底面に添ってその中央に、前後に細長いやや扁平な膨出(可動機構部等を内蔵するためのハウジング)部を設け、その膨出部は、後方部分が背座カバー部から連続するように放物線状を呈し、前端部分が傾斜状の段部となっており、その前方部に円形ハンドルを突設し、前記円形ハンドルの左右の膨出部の両脇に、リクライニング及び昇降操作用のレバーハンドルを配している。(4)肘掛け部について、略水平な肘当て部とそれを支えるやや前傾した肘掛け支持部、及び支持部下端から連続する座部への取付部とから形成され、側面視において、肘当て部と支持部が略「T」字状を呈し、正面視において、座部底部から左右に水平に張り出す帯板状の取付部に連続して、座部の外側で垂直方向に折曲させて肘掛け支持部を設け、その上端に支持部より幅広の厚板状の肘当て部を前後に載置して接合したものとし、支持部を、側面を幅広とする扁平な略楕円柱状とし、その下方部分を上方部分より一回り径の小さいものとして上方部分に挿通させ、伸縮可能な構造のものとし、側面視において、座部の両側中央から前方に略20度傾斜させ、その上端(通常の高さ)が背もたれ部の「く」の字状突出部の高さに達するものとし、肘当て部を、やや厚みのある略帯板状のものとし、側面視において、全体としてほぼ水平状を呈し、その先端部分が下方に向かってスキーの先端様に僅かに湾曲し、その先端の湾曲に向かって若干肉厚となり、平面視において、等幅の略隅丸矩形状を呈するものとし、その上面側の四周を面取りして丸みを付け、長さを座面奥行きの略3/5とし、その前後を略1:2に分割する前方寄りで支持部に接合し、その前端が座部前端から奥行きの略1/4の位置に、後端を背もたれ部よりやや手前の位置に若干離して設け、取付部を、支持部下方部と断面同形(略扁平楕円)のやや厚みのある略細幅帯板状とし、座部底部に(上方が開口した)樋様の受け具で支持部の前傾角度を固定して嵌着し、また、肘当て部直下の支持部前端面の上端から略中央にかかる位置に、正面視略縦長長方形状の肘掛け高さ調節用のプッシュレバーを、側面視において傾斜する支持部に対して略「L」字状に表れるように設けている。(5)脚部につき、脚杆を、等角度の放射状に張り出し、全体がドーム状を呈するように、先端部に向かい緩やかな凸円弧状に傾斜させたものとし、脚柱を、上方が太径で下方を細径のものとし、その下端部が脚杆の集合した中央部に貫通した構成のものとしている。
2.イ号意匠
イ号意匠は、判定請求書に添付されたイ号図面代用写真(カラー写真)及びイ号意匠説明書により現されたものであって、意匠に係る物品が「いす」と認められ、その形態は、色彩を除いて別紙第2に示すとおりであり、要旨以下のとおりのものである。
すなわち、(1)全体は、縦長隅丸の略長方形板状体を側面視略「L」字状に屈曲し、座部と背もたれ部とを連続して一体に形成して背座部とし、座部の左右両側略中央に、側面視略「T」字状の一対の肘掛けを設け、座部下面の略中央から円柱状の脚柱を垂下し、その略下端に、先端の下面にキャスターを有する細棒状の脚杆5本を略水平放射状に設けた基本的な構成態様である。そして、その各部の具体的態様は、(2)背座部について、側面視略「L」字状に屈曲した縦長隅丸の略長方形板状体を肉厚のクッション体とし、その全長にわたって横方向の緩やかな凹湾状を形成して背もたれ部及び座部を形成するクッション体とし、その背もたれ部背面から座部底面側を、クッション体と略同形の一体的に形成した外殻状のカバー体(背座カバー体)で覆った構成のものとし、座部を、平面視において、前方両角が小さな弧状の略正方形状に形成し、その座部の後端から背もたれ部を連続して立ち上げたもので、背もたれ部を、正面視において、その高さの下から略1/3までを座部と等幅に立ち上げ、その上方略2/3を上端に向かって徐々に窄まる略隅丸台形状に形成し、また、座部から背もたれ部に連続するクッション体の屈曲部に、横方向に2条の切り込み様の線条模様を表し、側面視においては、座部を略水平状に配し、背もたれ部を若干前傾させて立ち上げた後、背もたれの高さの略1/3のところで後方に反り返えらせて、略「く」の字状に形成し、背座カバー体を、その背面上方の背もたれ部の略2/3の部分が左右に緩やかな凸弧状をなし、その下方略1/3から座部底面にかかる部分を球面状に後方にやや膨らんだものとし、その上下の面の境界(切り替わる部分)に、下向きの略弓形状の小段差が残して略水平に表れている。(3)また、座部底面に添ってその中央に、前後に細長いやや扁平な膨出(可動機構部等を内蔵するためのハウジング)部を設け、その膨出部は、後方部分が角錐台状にやや厚く、前方部分がなだらかな斜面状に薄くなっており、その前方部に円形ハンドルを突設し、また、膨出部後方の両脇(後述する肘掛け部の環状の取付部の内)に、リクライニング及び昇降操作用のレバーハンドルを配している。(4)肘掛け部について、略水平な肘当て部とそれを支えるやや前傾した肘掛け支持部及び支持部下端から連続する座部への取付部とから形成され、側面視において、肘当て部と支持部が略「T」字状を呈し、正面視において、座部の底部に沿ってやや傾斜して左右に張り出す取付部に連続して、座部の外側で垂直方向に折曲させて肘掛け支持部を設け、その上端に支持部より幅広の厚板状の肘当て部を前後に載置して接合したものとし、支持部を、側面を幅広とする扁平な略楕円柱状とし、その下方部分を上方部分より一回り径の小さいものとして挿通させ、伸縮可能な構造のものとし、側面視において、座部の両側中央から前方に略7度傾斜し、その上端(通常の高さ)が背もたれ部の「く」の字状突出部の高さに達するものとし、肘当て部を、やや厚みのある略帯板状のものとし、側面視において、全体としてほぼ水平状で、その上面側が先端に向かって僅かに肉薄となるごく緩やかな凸弧状を呈し、平面視において、前方に向かってやや幅広となる略隅丸矩形状を呈するものとし、その上面側の四周を面取りして丸みを付け、長さを座面奥行きの略2/3強とし、その前後を略2:1に分割する後方寄りで支持部に接合し、その前端が座部前端から奥行きの1/4弱の位置に、後端を背もたれ部に近接して設け、取付部を、支持部より拡幅して略隅丸方形板状に形成し、座部下面に貼り付くように接合し、その隅丸方形板状の中央に略方形状の穴を設けてリクライニング及び昇降操作用のレバーハンドルを配し、また、支持部前端面の略中央に、正面視略長円形状の肘掛け高さ調節用のプッシュレバー(スイッチ)を、側面視略長方形状に表れるように設けている。(5)脚部につき、脚杆を、等角度の放射状に張り出し、全体がドーム状を呈するように、先端部に向かい緩やかな凸円弧状に傾斜させたものとし、脚柱を、上方が太径で下方を細径のものとし、その下端部が脚杆の集合した中央部に貫通した構成のものとしている。
3.本件登録意匠とイ号意匠との対比
本件登録意匠とイ号意匠とを比較すると、両意匠は意匠に係る物品が一致し、その形態については、主として以下の共通点及び差異点が認められる。
まず、共通点について、(1)全体は、縦長隅丸の略長方形板状体を側面視略「L」字状に屈曲し、座部と背もたれ部とを連続して一体に形成して背座部とし、座部の左右両側略中央に、側面視略「T」字状の一対の肘掛けを設け、座部下面の略中央から円柱状の脚柱を垂下し、その略下端に、先端の下面にキャスターを有する細棒状の脚杆5本を略水平放射状に設けた基本的な構成態様である。また、その各部の具体的態様において、(2)背座部につき、側面視略「L」字状に屈曲した縦長隅丸の略長方形板状体を肉厚のクッション体とし、その全長にわたって横方向の緩やかな凹湾状を形成して背もたれ部及び座部を形成するクッション体とし、その背もたれ部背面から座部底面側を、クッション体と略同形の一体的に形成した外殻状のカバー体(背座カバー体)で覆った構成のものとし、座部を、平面視において、前方両隅が小さな弧状の略正方形状に形成し、その座部の後端から背もたれ部を連続して立ち上げ、背もたれ部を、正面視において、その高さの下から略1/3までを座部とほぼ等幅に立ち上げ、その上方略2/3を上端に向かって徐々に窄まる略隅丸台形状に形成し、また、座部から背もたれ部に連続するクッション体の屈曲部に、横方向に2条の切り込み様の線条模様を表し、側面視においては、座部を略水平状に配し、背もたれ部を若干前傾させて立ち上げた後、背もたれの高さの略1/3のところで後方に反り返えらせて、略「く」の字状に形成し、背座カバー体を、その背面上方の背もたれ部の略2/3の部分が左右に緩やかな凸弧状をなし、その下方略1/3から座部底面にかかる部分を球面状に後方にやや膨らんだものとし、その上下の面の境界(切り替わる部分)に、下向きの略弓形状の小段差が残して略水平に表れている点、(3)また、座部底面に添ってその中央に、前後に細長いやや扁平な膨出(可動機構部等を内蔵するためのハウジング)部を設け、その前方部に円形ハンドルを突設し、また、膨出部の両脇に、リクライニング及び昇降操作用のレバーハンドルを配している点、(4)肘掛け部につき、略水平な肘当て部とそれを支える概略垂直の肘掛け支持部及び支持部下端から連続する座部への取付部とから形成され、側面視略「T」字状を呈し、正面視において、座部の底部から左右側方へ張り出す取付部に連続して、座部の外側で垂直方向に折曲させて肘掛け支持部を設け、その上端に支柱より幅広の厚板状の肘当て部を載置して接合したものとし、支持部を、側面を幅広とする扁平な略楕円柱状で、その下方部分を上方部分より一回り径の小さいものとして上方部分に挿通させ、伸縮可能な構造のものとし、側面視において、座部の両側中央からやや前方に傾斜して設けられ、その上端(通常の高さ)が背もたれ部の「く」の字状突出部の高さに達するものとし、肘当て部を、やや厚みのある略帯板状のもので、側面視において、全体としてほぼ水平状で、その上面側がやや緩やかな凸弧状を呈し、平面視において、ほぼ等幅の略隅丸矩形状を呈するものとし、その上面側の四周を面取りして丸みを付け、長さを座面奥行きの略2/3程度として、その中間(略中央付近)で支持部に接合し、その前端が座部前端から奥行きのほぼ1/4の位置に、後端を背もたれ部に近い位置まで達するように設け、また、支持部の前端面に、プッシュレバーを突設している点、(5)脚部につき、脚杆を、等角度の放射状に張り出し、全体がドーム状を呈するように、先端部に向かい緩やかな凸円弧状に傾斜させたものとし、脚柱を、上方が太径で下方が細径のものとし、その下端部が脚杆の集接した中央部に貫通した構成のものとしている点、が共通していると認められる。
一方、差異点については、両意匠の具体的態様において、(イ)背座部につき、本件登録意匠は、背もたれ部を、後方がやや大きい弧状の略隅丸正方形状の座部の後端から連続して、正面視において、座部の後端両隅から背もたれ部の高さの下から略1/6までを徐々に縮幅しつつ立ち上げ、その後同略2/5までを徐々に拡幅して略「く」の字状の切り欠き部を表しているのに対し、イ号意匠は、背もたれ部を、略正方形状の座部の後端から連続して、正面視において、その高さの下から略1/3までを座部と等幅に立ち上げている点、(ロ)座部下面につき、本件登録意匠は、膨出部を、後方部分が背座カバー部から連続するように放物線状を呈し、前端部分が傾斜状の段部となっているものとし、また、その膨出部の前方の両脇に、リクライニング及び昇降操作用のレバーハンドルを配しているのに対して、イ号意匠は、膨出部を、後方部分を角錐台状にやや厚く、前方部分がなだらかな斜面状に薄くなるものとし、また、その膨出部後方の両脇の、肘掛け部の環状の取付部の内にリクライニング及び昇降操作用のレバーハンドルを配している点、(ハ)肘掛け部につき、本件登録意匠は、肘当て支持部の前傾角度を略20度とし、肘当て部を、側面視において、その先端部が下方に向かってスキーの先端様に僅かに湾曲し、その先端湾曲部に向かってやや肉厚となり、平面視において、等幅の略隅丸矩形状を呈するものとし、長さを座面奥行きの略3/5とし、その前後を略1:2に分割する前方寄りで支持部に接合し、後端を背もたれ部よりやや手前の位置に若干離して設け、取付部を、座部底部から左右に水平に張り出し、座部の外側でほぼ直角に上方に曲して支持部に連続する、断面同形(略扁平楕円)のやや厚みのある略細幅帯板状とし、座部底部に上方が開口した樋様の受け具で支持部の前傾角度を固定して嵌着し、また、肘当て部直下の支持部前端面の上端から略中央にかかる位置に、正面視略縦長長方形状の肘掛け高さ調節用のプッシュレバーを、側面視において傾斜する支持部に対して略「L」字状に表れるように設けられているのに対し、イ号意匠は、肘当て支持部の前傾角度を略7度とし、肘当て部を、側面視において、全体がほぼ水平状で、その上面側が緩やかな上方凸弧状を呈し、先端に向かって僅かに肉薄となるものとし、平面視において、前方がやや幅広の隅丸の帯幅状を呈するものとし、長さを座面奥行きの2/3強として、その前後を略2:1に分割する後方寄りで支持部に接続し、肘当て部後端は背もたれ部に近接して設け、取付部を、座部底部に沿ってやや傾斜して左右に張り出し、座部の外側で垂直方向に折曲して支持部に連続する、支持部より幅広の略隅丸方形板状とし、座部下面に貼り付くように接合し、その隅丸方形板状の中央に略方形状の穴を設けてリクライニング及び昇降操作用のレバーハンドルを配し、また、支持部前端面の略中央に、正面視長円形状の肘掛け高さ調節用のプッシュレバー(スイッチ)を、側面視略長方形状に表れるように設けている点、が認められる。
そこで、上記の共通点及び差異点について総合的に検討するに、まず、共通点について、(1)の両意匠に共通する基本的構成態様は、この種の物品においては、本件登録意匠の出願前に、既に公知(特許庁が保有する公知資料、平成6年3月31日受け入れの株式会社内田洋行発行のカタログ「UCHIDA SYSTEM CHAIR SERIES コアチェア」第12頁所載の製品番号C-485のいすの意匠、特許庁意匠課公知資料番号第HN06005553号の意匠、被請求人摘示の乙第1号証に掲載された意匠と同一のもの)となっており、やや類型的な構成態様の一つといえるが、両意匠において、その形態全体を占め、両意匠の骨格をなすものであることから、それは類否判断において捨象されるべきものでなく、具体的な構成態様における共通点及び差異点と合わせて、その類否判断に及ぼす影響が判断されるべきものである。(両意匠の具体的な態様において意匠全体の類否判断に影響を及ぼすような顕著な差異が認められる場合には、基本的な構成態様の共通性を凌駕し、看者は別異の印象をもつといえ、前記の基本的な構成態様の共通性が両意匠の類否判断に及ぼす影響は相対的に減じ、また、顕著な差異が認められない場合には、前記の基本的な構成態様の共通性に看者は惹かれるといえ、その両意匠の類否判断に及ぼす影響は相対的に増すことになるというべきである。)
そこで、両意匠に共通する具体的構成態様について検討すると、前記の(2)、(4)及び(5)の点について、各々は全体に係る主要な部位を構成するものであり、その概要としての各類型は、いずれも従来から既に知られている態様といえ、特に際立った特徴のあるものとはいえず、その類否判断に及ぼす影響は大きいものとはいえない。しかしながら、(2)については、意匠登録第860688号意匠、同第864647号意匠、同第901077号意匠、同第901078号意匠、同第908975号意匠、同第912890号意匠、同第924935号意匠等において公知となっている、クッション体とカバー体とから成る背座部を連続的に一体に形成した全体にやや厚みのある態様の類型ともいえるものの、その厚みのある背座部を、その上方の面との境界に段差部を設けて、背もたれ部下方から座部下面にかけて、さらに球面状に後方にやや膨らんだ態様としてボリューム感のある印象を強調したものとなっており、それが側面及び斜め正面からも見て取れ、意匠全体として観察した場合にも両意匠の特徴といえ、両意匠の類否判断に相当の影響を及ぼすものといえ、(4)については、側面視において概念的に「T」字状を呈する肘掛けは公知の態様といえ、また、肘当て部を細幅帯板状のものとし、支持部を角形あるいは丸形の細棒(パイプ)状や細幅帯板状様のものとする構成態様のもの等は、意匠登録第746592号意匠、同第795440号意匠(いずれも、被請求人が答弁書において摘示した公知例)等において、従来から多数見られるところであるが、本件登録意匠及びイ号意匠に共通する態様は、それらとは具体的な点でかなり異なるものであり、特に、支持部の飛行機等の操縦桿を想起させる、やや前傾した側面視幅広の楕円柱状で上方部分を大径とし下方の小径部分を挿通させて伸縮可能な構造のものとし、その上端に支持部より幅広でやや厚みのある帯板状の肘当て部が載置状に接合した、やや頑丈で、重厚感のある印象を与える態様は、略「T」字状を呈する肘掛けの類型の中でも比較的特徴的なものであって、公知例(前出、特許庁意匠課公知資料番号第HN06005553号の意匠)にやや近似した態様が見られるものがあるとはいえ、両意匠の類否判断に相当の影響を及ぼすものといえ、また、(5)については、この種の物品、特に事務用回転椅子においては、通常、座部、背もたれ部、肘掛け部などよりも、意匠の類否判断に及ぼす影響が少ない部位の共通点でもあり、また、脚杆を緩やかな凸弧状に傾斜させた態様は、既に公知の類型ではあるものの、具体的な態様において、さらに、5本の脚杆が、集合する中央部も含めて全体を一体感のあるドーム状をなす点で、両意匠はより具体的に共通しており、意匠登録第912890号、意匠登録第912969号意匠などに近似する公知例があるとしても、両意匠の類否判断に若干の影響を及ぼすものといえる。そして、各部の構成態様が個別には、概略において公知の態様の類型といえるものであるとしても、その各部の細部においてまで共通するといえる両意匠の背座部、肘掛け部、脚部の具体的な態様が、(1)の基本構成態様の共通点と一つにまとまとった態様は、新規な特徴あるものといえ、その全体にわたる特徴が両意匠の基調をなし、両意匠の共通感を強く印象づけており、両意匠の類否判断に大きな影響を及ぼすものといわざるを得ない。
付言すると、意匠の創作において、全体の基本的構成態様、各部の具体的態様を如何に新規な特徴あるものとするかが重要であることは言うまでもないが、それに加えて、全体あるいは各部において際立った斬新な特徴を表出させることが難しい成熟した物品分野の意匠の創作においては、その各部の態様を如何に全体として構成するかも一つの重要かつ大きな要素であり、各部の具体的態様、全体の構成の仕方がともに周知といえない限り、単なる「寄せ集め」とはいえず、本件登録意匠も、各部の具体的構成態様の細部を僅かながらでも変化を付けるとともに全体の構成を考慮して選択し、それら各部をバランスよく構成した点で特徴を有するものといえる。
なお、(3)については、座部の底面という目立ちにくい、この種の物品の意匠においてさほど重視されない部位に係る共通点であって、その類否判断に及ぼす影響は微弱なものにとどまるといえる。
一方、差異点について、(イ)の点については、本件登録意匠の略「く」の字状の切り欠き部は、座部両側に設けた肘掛け部の背後にあたる、遮られるようなかたちでやや目立ちにくい部位のもので、また、切り込みの最深部の位置の背もたれの横幅もその上方の最大幅の略90%であり、背もたれ部の下方がごく僅かに括れているという程度のさほど深いといえないものであって、しかも、両意匠はともに、当該背もたれ部下方から座部にかかる部分を後方へ球面状に膨出させており、側面あるいは斜め前方からみた場合に、その後方への膨出(湾曲)と相俟って両意匠の該部位はほとんど同様に表れ、両意匠を立体的に捉えて観察してみれば、真正面視に表れるほどには際立つものといえず、両意匠の背もたれ部下方の該切り欠き部の有無の差異は、意匠全体としてみれば、細部の僅かなものといえ、その類否判断に与える影響は微弱なものにとどまるというほかない。(ロ)の点は、具体的態様の共通点(3)と同様に、座部底面という目立ちにくく、この種の物品の意匠においてはさほど重要視されない部位の差異であり、かつ、同(3)の共通性の中における部分的な差異であって、意匠全体としてみれば、その類否判断に及ぼす影響は微弱なものというほかない。(ハ)の点について、両意匠は、支持部の傾斜角度、肘当て部の先端部の形状及び前後の張り出しの割合等において差異はあるものの、前記のとおり、共通するとした具体的態様(4)の共通性、特に、支持部の飛行機等の操縦桿を想起させる、やや前傾した側面視幅広の楕円柱状で、上方部分を大径とし、下方の小径部分を挿通させて伸縮可能な構造のものとし、その上端に支持部より幅広でやや厚みのある帯板状の肘当て部を載置状に接合した、頑丈で、重厚感のある印象を与える点で共通する印象が強く、肘掛け部のみに着目すればともかく、意匠全体としてみれば、それらの差異は細部の僅かなものといわざるをえず、その類否判断に及ぼす影響は微弱なものにとどまるというほかない。
そして、これらの差異が相互に相俟って、相乗的な効果を生じることを考慮しても、イ号意匠は、意匠全体としては、本件登録意匠にない格別の特異性を発揮するまでには至らず、前記の各差異点が、類否判断に及ぼす影響は微弱なものといわざるを得ず、したがって、前記のとおり、両意匠がその具体的態様においても顕著な差異が認められない以上、両意匠に共通する基本的構成態様及び具体的な構成態様、特に(2)、(4)及び(5)の点に看者が強く惹かれるものというほかない。
被請求人は、「両意匠に共通する背座部、肘掛け部、脚部それぞれの態様が、いずれも既に公知のものであって、それらを寄せ集めたものにすぎず、両意匠はともに固有の特徴を有するものではなく、具体的態様の差異によって類否が判断されるべきであり、本件登録意匠は、各構成部分に関して新規なものはなく、その寄せ集め方の特徴によって登録されたものと解さざるを得ないものであるから、このようにして成立した意匠の類似範囲は登録意匠とほぼ同一性の範囲にとどまるものと解するのが自然であり、結局両意匠は最も人目をひくところの肘掛け、背もたれの形状において顕著な差異が認められ、全体として互いに非類似であると結論せざるを得ないものである。」旨主張しているが、前記のとおり、各部の構成態様が個別には、概略において公知の態様の類型といえるものであるとしても、その各部の細部においてまで共通するといえる両意匠の背座部、肘掛け部、脚部の具体的な態様が、基本構成態様の共通点と一つにまとまとった態様は、新規な特徴あるものといえ、その全体にわたる特徴が両意匠の基調をなし、両意匠の共通感を強く印象づけており、全体観察によってなされる、全体としてのまとまりを創作として評価する意匠の類否判断として当を得ず、被請求人の主張は採用できない。
4.結び
以上のとおりであって、両意匠は、意匠に係る物品が一致し、その形態においても、両意匠の共通点は、類否判断に大きな影響を及ぼすものと認められるのに対し、差異点は、いずれも類否判断に及ぼす影響が微弱なものであり、共通点を凌駕ることができず、イ号意匠は本件登録意匠に類似するものといわざるを得ない。
したがって、イ号意匠は、本件登録意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属する。
よって、結論のとおり判定する。
別掲 別紙第1


判定日 1999-09-28 
出願番号 意願平7-35030 
審決分類 D 1 2・ 1- YA (D2)
最終処分 成立  
前審関与審査官 遠藤 行久 
特許庁審判長 吉田 親司
特許庁審判官 本多 誠一
市村 節子
登録日 1998-04-10 
登録番号 意匠登録第1013161号(D1013161) 
代理人 西村 教光 
代理人 松原 美代子 
代理人 宮滝 恒雄 
代理人 僧野 兼世 

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