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審決分類 審判 判定  同一・類似 属さない(申立不成立) C6
管理番号 1032735 
判定請求番号 判定2000-60069
総通号数 17 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 意匠判定公報 
発行日 2001-05-25 
種別 判定 
判定請求日 2000-05-11 
確定日 2001-01-17 
意匠に係る物品 固形燃料用こんろ 
事件の表示 上記当事者間の登録第0985748号の判定請求事件について、次のとおり判定する。 
結論 (イ)号図面に示す「固形燃料用こんろ」の意匠は、登録第0985748号意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属しない。
理由 第1.請求人の申し立て及び理由
請求人は、「イ号図面代用写真に示す固形燃料用こんろ(以下「イ号意匠」という)は、登録985748号登録意匠(以下「本件登録意匠」という)及びこれに類似する意匠の範囲に属する、との判定を求める。」と申し立て、その理由として要旨以下のように主張し、証拠方法として、甲第1号証乃至甲第3号証の書証を提出した。
(1)本件登録意匠とイ号意匠の共通点及び差異点について
両意匠を比較すると、その意匠に係る物品は、共に固形燃料用こんろであって同一と認められ、その形態については、共通点として、(A)全体が鉢状本体からなり、つまり中空体で上部が開口して上げ底部を有し、下部から上部に推移して末広がり状に現した基本的な態様のものである点、
各部の具体的な態様において、
(B)上部開口周縁について、その外周縁から内側に設けた同心円の全周にわたって等間隔に上方へのびた多数の突片を鍋の支持部とした点、
(C)底部につき、その周縁に沿って空気流入用の弓状になった3つの切り欠き溝が等間隔に現れている点、
が認められ、また差異点として、
(a)上部開口周縁について、イ号意匠は1ヶ所に立ての切り欠き部を設けているのに対して、本件登録意匠はそのような立ての切り欠き部を設けていない点、
(b)上部側面部につき、イ号意匠はフランジ状にして側周面との間で段差を有するが、本件登録意匠はそのような段差がなく、わん状に滑らかに推移している点、
(c)鉢状本体下部につき、イ号意匠は3つの脚部がその下部周縁に沿って等間隔に付加されているが、本件登録意匠はこのような脚部はなく、鉢状本体の下部がそのまま床面に支持され、またその下部側面に空気流入用の3つの立て状の切り欠き部が設けられている点、
が認められる。
(2)本件登録意匠とイ号意匠の類否について
共通点について、(A)と(B)の組合せは、両意匠の形態全体の基調ないし特徴を決定づけている点で、その影響は顕著であり、(C)は平面図及び底面図により現れるもので、とくに平面図では(B)も顕著に映し出される点で、結局これら3つの共通点は両意匠の近似感を強くもたらすものである。
一方差異点について、
(a)は上部開口周縁ぶ内側に設けた多数の上方にのびた突起片の形状群に埋没して目立たなく、よく見ればその存在が認められる程度であって、類否の判断に及ぼす影響は小さく、
(b)のイ号意匠は、鍋、釜などにみられる一般的なもので特徴的とは言えず、その影響はほとんどなく、このことは本件登録意匠の類似範囲として認められた登録第985748号類似1号(甲第2号証)により明白であり、
(c)は、本件登録意匠では特徴的ではあるが、イ号意匠では一般的なものであるので、全体に及ぼす影響は大きくなく軽微と言え、
結局、これら差異点はいづれも類否の判断に及ぼす影響は小さく、また、これらを組み合わせても類否判断に影響を及ぼすまでに至らないものである。
したがって、両意匠の類否の判断に及ぼす影響について共通点の影響が決定的に大きく、両意匠は類似するものといわざるを得ない。
第2.被請求人の答弁及び理由
被請求人は、「イ号意匠は、本件登録意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属しない、との判定を求める。」と答弁し、その理由として要旨以下のように主張し、証拠方法として、乙第1号証乃至乙第18号証の書証を提出した。
(1)本件登録意匠とイ号意匠の共通点及び差異点について
請求人は、イ号意匠と本件登録意匠との共通点として、
(A)基本的態様において、全体が鉢状本体からなる点、つまり中空体で上部が開口して上げ底部を有し、下部から上部に推移して末広がり状とした点、
(B)具体的態様において、上部開口周縁について、その外周面から内側に設けた同心円の全周にわたって等間隔に上方にのびた多数の突片を鍋の支持部とした点、
(C)底部につき、その周縁に沿って空気流入用の弓状になった3つの切り欠き溝が等間隔に現れている点、
を挙げているが、(C)について言及すると、本件登録意匠にあっては、イ号意匠と異なり底部に独立した切り欠き溝は存在せず、平面図及び底面図(甲第1号証)に現された3つの間隙形状は、本体側面部に形成された空気流入用の切り欠き溝が、平面視又は底面視にあって僅かに現出しているにすぎず、イ号意匠のものとは大きく異なり、看者にとって底部における両者の違いは歴然としたものであって、少なくとも両意匠の共通点として認識され得るものではない。
差異点として、
(a)鉢状からなる本体形状において、イ号意匠は周壁部上方に厚巾のフランジ状風防部を有して開口部縁が上向きに立ち上がった態様をなすのに対し、本件登録意匠にあっては周壁上方が平皿状をなし開口部縁が外向とされている点、
(b)鉢状からなる本体形状において、イ号意匠は上記フランジ状風防部を鋭角的な段差をもって突出させたことと相俟って、正面視(左右側面視)直線的な形態をなすののに対し、本件登録意匠にあっては意匠周壁部中途より開口方向に段差なく椀状に滑らかな広がりをもっていることと相俟って正面視(左右側面視)曲線的な形態をなす点、
(c)周壁部において、イ号意匠は上部開口縁よりの舌状切り欠き部を1つを設けているのに対して、本件登録意匠にあってはかかる切り欠き部を有さない点、
(d)周壁部において、本件登録意匠はその下方部に下端縁よりの
空気流入用切り欠き部を3つ設けているのに対し、イ号意匠にあっては周壁部に何等の空気流入用切り欠き部を有さない点、
(e)本体下端縁部において、イ号意匠は3つの支持脚を突設しているのに対し、本件登録意匠にあってはかかる支持脚を有さない点、
(f)本体底面部において、イ号意匠は底面部周縁に沿って3つの大きな空気流入孔が穿設されているのに対し、本件登録意匠にあっては底面部にかかる独立した孔を有さない点、
(g)上部開口周縁の内側に多数設けた突片において、イ号意匠の突片形状は縦長方形であるのに対し、本件登録意匠のそれは横長方形である点、
(h)イ号意匠の突片は周壁部内面との間で排気間隙が形成されるような位置及び形状をもって植立されているのに対し、本件登録意匠にあっては突片と周壁内面部との間でかかる間隙が形成されていない点、
が認められる。
(2)本件登録意匠とイ号意匠の類否について
共通点について、(A)は殆ど本件物品の構造上必然的な態様であって意匠の創作要素としては意味をなさず、また、(B)も陳腐かつ公知の態様であって、創作要素として重視することができず、類否判断に与える影響は微弱というべきである。
対して両意匠の差異は多大で、鉢状本体における形態上の差異点
(a)及び(b)は、看者をしてその基本的印象すら著しく異にするもので,加えるに、差異点(c)乃至(h)の存在は両意匠が非類似であることをより明確にしたものであり、特に、側面周壁部に空気流入用の切り欠きを有するか否かの差異点(d)、底面部に独立した空気流入孔を有するか否かの差異点(f)及び脚部を有するか否かの差異点(e)は両意匠に係る物品の特質からして最も目立つ部分における差異であり、更にまた(c)乃至(h)の差異点におけるイ号意匠の形態は、従来のコンロにはみられない特徴的な創作要素であって、この種の物品における意匠の類否判断をするにあたって結論を左右する重要な要素というべきである。
したがって、イ号意匠と本件登録意匠とは、意匠に係る物品が一致するが、両意匠の形態において差異点が共通点を圧倒的に凌駕するものであって、両意匠は明らかに非類似である。
第3.当審の判断
1.本件登録意匠
本件登録意匠は、平成7年8月31日の意匠登録出願に係り、平成9年4月25日に意匠登録第985748号として意匠権の設定の登録がなされたものであって、願書の記載及び願書に添付した図面代用写真により現されたものによれば、意匠に係る物品を「固形燃料用こんろ」とし、その形態を別紙第一に示すとおりとするものである。
2.イ号意匠
イ号意匠は、イ号図面代用写真により現されたものであって、その記載によれば、意匠に係る物品を「固形燃料用こんろ」とし、その形態を別紙第二に示すとおりとするものである。
3.本件登録意匠とイ号意匠の比較検討
(1)本件登録意匠とイ号意匠の共通点及び差異点について
両意匠は、その意匠に係る物品については、共に「固形燃料用こんろ」であって、共通すると認められ、その形態については、主として次のような共通点及び差異点があると認められる。
まず、両意匠の共通点として、
(A)全体を、上方を開口する、略逆円錐台状の深鉢状の容器体としている点、
(B)容器体の周側面内上方に、小方形状の突片を等間隔に多数突設し、鍋等容器の支持部を形成している点、
(C)容器体の周側面下方に、空気流入用の切り欠き孔を等間隔に3つ形成している点、
が認められる。
一方、両意匠の差異点として、
(a)容器体について、本件登録意匠は、その周側面下半部を逆円錐台状とし、その上半部を緩やかなわん状に膨出させ、開口部周縁を、平皿状に形成する、正面視柔らかい曲線的な態様を表しているのに対して、イ号意匠は、その周側面を逆円錐台状とし、その周側面上方部を、上広がりの鉢巻き帯状の隆起部に形成し、開口部周縁を、極めて僅かに垂直面に形成する、正面視角張った直線的な態様を表している点
(b)空気流入用の切り欠き孔について、本件登録意匠は、容器体周側面上下中央部位から底面部縁際にかけて、孔上方を円弧状とする高さのある切り欠き孔を、等間隔に3つ形成しているのに対して、イ号意匠は、底面部外周縁に沿って、両端を弧状とし、辺を周縁に沿った弓状とする、幅狭でやや長い切り欠き孔を、等間隔に3つ形成している点、
(c)底面部について、本件登録意匠は、支持脚を有していないのに対して、イ号意匠は、底面部下方周縁に沿って、湾曲させた横長方形板状の、支持脚を等間隔に3つ突設している点、
(d)容器体上部の周側面内上方に形成している多数の小方形状の突片について、本件登録意匠は、突片を周側面内上方と一体密接状に形成しているのに対して、イ号意匠は、突片を周側面内上方とは間隔を設けて植立形成している点、
(e)容器体縁部について、イ号意匠は、縁部の一箇所を角状に切り欠いているのに対して、本件登録意匠は、切り欠いていない点、
が認められる。
(2)本件登録意匠とイ号意匠の類否について
そこで、以上の共通点及び差異点を総合して、本件登録意匠とイ号意匠との類否を意匠全体として検討する。
意匠に係る物品について、ともに「固形燃料用こんろ」であって共通する。
そして、形態について、差異点である、(a)については、本件登録意匠の正面視柔らかい曲線的な態様か、イ号意匠の正面視角張った直線的な態様かは、看者をもって、両意匠の特徴を表す主要な要素の1つとして、両意匠を十分に別異の感を抱かせる程の異なった態様を表しており、(b)については、何ら共通性が見いだせい程の異なった態様を表しており、(c)については、(b)の別異感をさらに強める要素になっており、(d)については、(e)の点も含め、多数設けた突片の共通性を凌ぐに十分な異なった態様となっている。
他方、共通点である、
(A)については、この種意匠においては、基本的な態様とその具体的な態様が相俟って醸し出す特徴を捉え、そこに看者に別異の感を抱かせるものがあれば、類否判断を左右する主要な要素になりうると言えるところ、両意匠の容器体の態様を、略逆円錐台状の深鉢状の容器体状としている捉え方は、いまだ、基本的に必要な態様の捉え方に止まり、上記したように、両意匠の特徴ある具体的な態様を考慮せずに意匠的評価をすることは、未だ不十分な評価と言わざるを得ず、また、基本的な態様の共通性のみをもって、両意匠のもののみの特徴とすることはできないので、類否判断に与える影響はわずかであると認められる。
(C)についても同様で、空気流入用の切り欠き孔の、孔自体の形状、位置あるいは大きさ等、特徴ある具体的な態様を考慮せずに、空気流入用の切り欠き孔を等間隔に3つ形成していることのみの態様をもって意匠的評価をすることは、未だ不十分な評価と言わざるを得ず、また、両意匠のもののみの特徴とすることはできないので、類否判断に与える影響はわずかであると認められる。
また、(B)については、鍋等容器の支持部として小方形状の突片を等間隔に複数形成することは、これまでに普通に行われているところで、それを多数形成したことをもって、両意匠のみの特徴とすることはできないので、意匠全体からみれば、類否判断に与える影響は未だわずかであると言わざるを得ない。
そして、それら共通点の態様を総合してみても、類否判断に影響を与えるまでに至っていないものと認められる。
そうとすると、前記の両者間の各差異点は、そのいずれもが看者の注意を惹く部分の、類否を左右する主要な部分についての差異と認められ、そして、これら差異点を総合すると、看者に別異の感を抱かせるに十分な両意匠それぞれの特徴が表出し、意匠全体の基調を決定づけていることから、両意匠は、意匠全体としては、類似すると言うことはできない。
(3)むすび
以上のとおりであって、イ号意匠は、本件登録意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属するとすることができない。
よって、結論のとおり判定する。
別掲
判定日 2000-12-19 
出願番号 意願平7-25701 
審決分類 D 1 2・ 1- ZB (C6)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 西本 幸男 
特許庁審判長 山田 啓治
特許庁審判官 伊藤 晴子
秋間 哲子
登録日 1997-04-25 
登録番号 意匠登録第985748号(D985748) 
代理人 池田 定夫 
代理人 野原 利雄 

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