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審決分類 審判 無効  1項2号刊行物記載(類似も含む) 無効とする L3
管理番号 1045261 
審判番号 無効2000-35417
総通号数 22 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 意匠審決公報 
発行日 2001-10-26 
種別 無効の審決 
審判請求日 2000-07-31 
確定日 2001-09-03 
意匠に係る物品 手すり用ジョイント 
事件の表示 上記当事者間の登録第1062765号「手すり用ジョイント」の意匠登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 登録第1062765号の登録を無効とする。 審判費用は被請求人の負担とする。
理由 第1 請求人の申し立て及び請求の理由
1.請求人は、結論同旨の審決を求めると申し立て、その理由として、要旨以下のとおり主張し、立証として、甲第1号証の1ないし3、甲第2号証ないし甲第6号証を提出した。
2.意匠登録無効の要点
登録第1062765号の意匠(以下、本件登録意匠という。)は、その出願前である平成10年4月1日に発行された月刊雑誌「室内 4月号(通巻628号)」(甲第1号証)の広告の頁(表紙の裏頁、甲第1号証の2)に記載された意匠(甲第1号証意匠)と類似であって、意匠法第3条第1項第3号の規定により意匠登録を受けることができないものであり、同法第48条第1項第1号の規定により、その登録は無効とされるべきものである。
3.本件登録意匠の説明
甲第2号証に示すように、本件登録意匠は、意匠に係る物品が「手すり用ジョイント」であり、その態様は下記のとおりである。
左右一対の短丸棒状の手摺取付部材の対向部が球状の継ぎ手部を介して180度から90度に屈折自在に結合された基本的構成態様を有し、前記球状の継ぎ手部は一対の半球状の継ぎ手部材の半割分割面が互いに接合され、前記一対の手摺取付部材の前記継ぎ手部に接する対向面の周縁部は内向き傾斜面とされた手すり用ジョイントの態様である。
4.甲第1号証意匠の説明
(1)甲第1号証の広告の頁(表紙の裏頁:甲第1号証の2)には、本請求人(株式会社野口ハードウエアー)の商品「バニスタ35N」の広告が記載され、赤線にて示した手摺棒のコーナージョイント具の写真が甲第1号証意匠を示すものである。 しかして、甲第1号証の2の上記広告頁中段に「バリアフリー対応連続手摺 手摺の安全性・・・を追究して開発したバリアフリー対応連続手摺「バニスタ35N」。・・・新発売の「自在エルボー」もあり・・・各種パーツを続々登場させます。」と記載され、説明されていることからも、甲第1号証意匠の意匠に係る物品は「手すり用ジョイント」であることが明らかであり、上記本件登録意匠と意匠に係る物品が同一である。
(2)そして、上記甲第1号証意匠に係る「手すり用ジョイント」の態様は下記のとおりである。
左右一対の短円筒状の手摺取付部材の対向部が球状の継ぎ手部を介して屈折形状に結合された基本的構成態様を有し、前記一対の手摺取付部材の前記継ぎ手部に接する対向面の周緑部は内向き傾斜状の湾曲面とされた手すり用ジョイントの態様である。
5.本件登録意匠と甲第1号証意匠との対比
(1)上述したように、本件登録意匠と甲第1号証意匠とは、意匠に係る物品が「手すり用ジョイント」であって同一である。
(2)次に、態様の点について、本件登録意匠では、左右一対の手摺取付部材が短丸棒状であって、丸棒状手摺材とはリング金具などを用いて突き合わせ状に結合されると推定されるのに対し、甲第1号証意匠では、左右一対の手摺取付部材が短円筒状であって、丸棒状手摺材の先端部が挿入されて結合されている基本的構成態様の点で相違するが、全体としては類似の範囲であると判断される。
6.結論
以上説明したように、本件登録意匠は、その出願前に頒布された刊行物である甲第1号証に記載された意匠に類似し、意匠法第3条第1項第3号の規定により意匠登録を受けることができないものである。
第2 被請求人の対応
審判請求書の副本を被請求人に送達し、期間を指定して答弁書の提出を求めたが、その期間を経過しても何らの応答がなかったものである。
第3 当審の判断
1.本件登録意匠
本件登録意匠は、意匠登録原簿及び出願書類の記載によれば、平成10年6月11日の意匠登録出願に係り、平成11年11月19日に登録第1062765号として意匠権の設定の登録がなされたものであって、意匠に係る物品を「手すり用ジョイント」とし、その形態を別紙第一に示すとおりとするものである。
すなわち、基本的な構成態様について、全体を中央の連結部とその左右両側に対称状に設けた手すり取付部で構成したものであって、連結部は、略球状のもので、手すり取付部は、短円柱状とし、連結部を軸として左右の手すり取付部を回動可能とした態様のものである。そして、各部の具体的な態様について、連結部は、その径を手すり取付部の径とほぼ同じ程度とした大きさのもので、連結部の中央部分に区割り線を形成して略球状の連結部を前後に分割する態様とし、左右の手すり取付部との係合部分は、連結部の左右の曲面部分が手すり取付部の側面部分に嵌合した態様とし、左右の手すり取付部は、その長さが径の二倍弱のもので、連結部側の側面周縁部を斜状に形成し、外側の側面を平滑状に形成したものであり、そして、連結部を軸として左右の手すり取付部を水平から直角の状態まで折り曲げ可能としたものである。
2.甲号意匠
甲号意匠は、請求人が甲第1号証の1ないし3として提出した刊行物に記載されたものに係り、本件登録意匠の出願前に国内において工作社が発行、頒布した雑誌「室内 4月号」(平成10年4月1日付発行)の表紙の裏頁の上段に記載の写真版によって表された意匠(二本の手すり材の中間に設けられているもの)であって、同頁の記載によれば、意匠に係る物品を「手すり用継ぎ手」とし、その形態を別紙第二に示すとおりとするものである。
すなわち、基本的な構成態様について、全体を中央の連結部とその左右両側に対称状に設けた手すり取付部で構成したものであって、連結部は、略球状のもので、手すり取付部は、短円柱状とした態様のものである。また、同頁記載の記事から、連結部を軸として左右の手すり取付部を回動可能とした継ぎ手の構成であることが認められる。そして、各部の具体的な態様について、連結部は、その径を手すり取付部の径とほぼ同じ程度とした大きさのもので、左右の手すり取付部との係合部分は、連結部の左右の曲面部分が手すり取付部の側面部分に嵌合した態様とし、左右の手すり取付部は、その長さを径の一倍強とした短いもので、連結部側の側面周縁部を斜状に形成し、その側面周縁部の外周辺を僅かに丸みを有する態様としたものである。
3.本件登録意匠と甲号意匠の比較検討
(1)本件登録意匠に係る物品と甲号意匠に係る物品は、共に手すりの継ぎ手として使用されるものであるから、両意匠は、意匠に係る物品が共通している。
(2)次に、両意匠の形態については、以下の共通点及び差異点が認められる。
両意匠の形態は、基本的な構成態様において、全体を中央の連結部とその左右両側に対称状に設けた手すり取付部で構成したものであって、連結部は、略球状のもので、手すり取付部は、短円柱状とし、連結部を軸として左右の手すり取付部を回動可能とした点が共通しており、その具体的な態様においても、連結部は、その径を手すり取付部の径とほぼ同じ程度とした大きさのもので、左右の手すり取付部との係合部分を、連結部の左右の曲面部分が手すり取付部の側面部分に嵌合した態様としている点、左右の手すり取付部は、連結部側の側面周縁部を斜状に形成している点が共通していると認められる。
一方、両意匠の形態には、具体的な態様のうち、主として、(イ)連結部の態様について、本件登録意匠は、連結部の中央部分に区割り線を形成して略球状の連結部を前後に分割する態様としている点、(ロ)左右の手すり取付部の態様について、本件登録意匠は、その長さを径の二倍弱とし、外側の側面を平滑状に形成しているのに対し、甲号意匠は、その長さを径の一倍強とした短いもので、外側の側面の態様が明らかでない点、さらに手すり取付部を詳細にみると、(ハ)甲号意匠は、連結部側の側面周縁部の外周辺を僅かに丸みを有する態様としている点、そして、(ニ)本件登録意匠は、連結部を軸として左右の手すり取付部を水平から直角の状態まで折り曲げ可能としたものであるのに対し、甲号意匠は、折り曲げ可能の範囲が明らかでない点に差異が認められる。
(3)そこで、両意匠を全体として観察し、共通点及び差異点の類否判断に与える影響について総合的に検討する。
先ず、両意匠において共通しているとした基本的な構成態様、すなわち、全体を中央の連結部とその左右両側に対称状に設けた手すり取付部で構成したものであって、連結部は、略球状のもので、手すり取付部は、短円柱状とし、連結部を軸として左右の手すり取付部を回動可能とした構成態様は、この種の物品分野においては格別のものではないが、両意匠の形態についての骨格的要素となるものであるから、両意匠の類否判断に影響を与えるものと認められる。次に、上記態様を基本構成とする意匠については、形態各部の造形処理に意匠の創作上の配慮がなされ、評価すべき要素となり得る場合があるから、各部の具体的な態様も要素として判断すべきところ、両意匠において共通しているとした各部の具体的な態様、すなわち、連結部につき、その径を手すり取付部の径とほぼ同じ程度とした大きさのもので、左右の手すり取付部との係合部分を、連結部の左右の曲面部分が手すり取付部の側面部分に嵌合した態様としている点、左右の手すり取付部につき、連結部側の側面周縁部を斜状に形成している点は、いずれも形態を構成する連結部と手すり取付部の態様に係り、その連結部と手すり取付部の形態上の基調を形成し、意匠的効果を有する要素と認められるから、両意匠の類否判断に影響を及ぼすものと認められる。そうして、両意匠の全体的な観察において、共通しているとした基本的な構成態様及び具体的な態様が相俟って、意匠的なまとまりと特徴を形成しているということができるから、共通しているとしたこれらの態様は、看者の注意を強く惹くところであり、両意匠の類否判断を左右するほどの要素と認められる。
(4)これに対し、差異点の(イ)については、本件登録意匠は、連結部の中央部分に区割り線を形成して連結部を前後に分割する態様としたものであり、一方の甲号意匠は、区割り線及び分割の点について明らかでないが、本件登録意匠の連結部に形成した区割り線は、略球状面に単に線状に表れた特異性の見られない態様であって、形態上の特徴を表す要素としては極めて微弱であること、また、この種の物品分野においては、本件登録意匠のように中央の連結部に分割構造を示す区割り線が表れた態様のものが見受けられることから、形態全体としては、連結部の態様に関する軽微な差異に止まり、両意匠の全体的な観察の際にその差異が与える影響も極めて微弱である。
差異点の(ロ)については、本件登録意匠は、手すり取付部の長さを径の二倍弱とし、外側の側面を平滑状に形成した態様のものであり、一方の甲号意匠は、手すり取付部の長さを径の一倍強とした短いものであって、外側の側面の態様が明らかでないから、そのことのみでは看者の注意を惹くほどの差異となり得る。しかしながら、両意匠は、前記のとおり基本的な構成態様及び具体的な態様において類否判断を左右する要素と認められる共通点があること、そして、この種の物品分野においては、本件登録意匠に近似した長さに左右の手すり取付部を形成したものが他に見受けられることから(公開実用新案公報:平6-78459号参照)、本件登録意匠は、手すり取付部の長さの割合につき格別新規なものといえず、形態全体としては、本件登録意匠が甲号意匠に対して手すり取付部をやや長くした程度のものであって、長さの割合を変更した程度の軽微な差異と認められる。また、手すり取付部の側面の態様に関する差異については、本件登録意匠のものは、平滑状とした態様のもので、格別の造形処理ではないから、形態上の特徴となり得ず、一方の甲号意匠は、手すり取付部の側面が手すり材と継ぎ合わされており、その態様が明らかでないものの、物品の性質、機能からみて格別の態様のものであるとは考えられず、たとえ、その部位の構成態様が異なるものであったとしても、形態全体のうちの一部位についての差異であり、さらに、使用状態においては、手すり材と継ぎ合わされて目立たなくなる部位であることから、両意匠の全体的な観察の際に与える影響も微弱なものといえる。以上の点を勘案すると、手すり取付部の態様についての差異が両意匠の要部判断に影響を及ぼす度合いは相対的に低いものというべきであって、意匠的効果の観点からも両意匠の美感を異ならせる要素としては微弱であるから、その差異は、看者に別異の意匠を構成したとの印象を与えるほどのものとはなり得ず、類否判断を左右する要素には至っていない。
差異点の(ハ)については、甲号意匠は、手すり取付部の連結部側の側面周縁部の外周辺を僅かに丸みを有する態様としたものであって、その部位を詳細に観察した場合に僅かに目立つ程度であるから、形態全体としては、前記の共通しているとした各態様が相俟って形成する意匠的なまとまりの中に包摂される程度の小さな差異であって、両意匠の美感を異ならせる要素となり得ず、両意匠の全体的な観察の際に与える影響も極めて微弱である。
差異点の(ニ)については、甲号意匠は、折り曲げて変化する状態の態様が明らかでないが、甲号意匠の記載頁の記事から、本件登録意匠と同様に、連結部を軸として左右の手すり取付部を回動可能とした継ぎ手の構成であることが認められるから、両意匠間には、折り曲げた状態に共通した態様が表出することがあると認められる。したがって、折り曲げ可能の範囲に差異があったとしても、その差異が両意匠の類否判断に与える影響は微弱である。
(5)以上を総合すれば、両意匠の基本的な構成態様における共通点及び具体的な態様における共通点は、いずれも両意匠の類否判断に影響を及ぼし、それら共通点が相俟って両意匠の類否判断を左右するほどの要素と認められるのに対し、両意匠の具体的な態様における差異点の(イ)、(ハ)及び(ニ)は、いずれも両意匠の全体的な観察の際に与える影響が微弱であり、差異点の(ロ)は、両意匠の要部判断に影響を及ぼす度合いが相対的に低く、これら差異点が相俟って形成する意匠的な効果を考慮しても、いまだ両意匠の全体的な観察の際に与える影響は小さいものといえるところである。
そうすると、本件登録意匠と甲号意匠との前記の共通点は、両意匠の全体的な観察の際に与える影響が大きく、両意匠間における前記の差異点を大きく凌駕して、看者に共通の美感を与えているといえるところであるから、前記の共通点は、両意匠の類否判断を左右する要部における共通点といわざるを得ない。
(6)したがって、本件登録意匠と甲号意匠は、意匠に係る物品が共通し、両意匠の形態については、前記のように差異点があっても、類否判断を左右する要部において共通しているから、全体として類似するものというほかない。
5.むすび
以上のとおり、本件登録意匠は、その出願前に国内において頒布された刊行物に記載された意匠に類似するものであって、意匠法第3条第1項第3号に該当し、その意匠登録は、同法第同条の規定に違反してされたものであるから、同法第48条第1項の規定により、その意匠登録を無効とすべきである。
よって、結論のとおり審決する。
別掲
審理終結日 2001-06-28 
結審通知日 2001-07-02 
審決日 2001-07-13 
出願番号 意願平10-16522 
審決分類 D 1 11・ 113- Z (L3)
最終処分 成立  
前審関与審査官 正田 毅早水 香苗 
特許庁審判長 足立 光夫
特許庁審判官 藤木 和雄
伊藤 栄子
登録日 1999-11-19 
登録番号 意匠登録第1062765号(D1062765) 
代理人 僧野 兼世 
代理人 西村 教光 

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