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審決分類 審判 無効  1項2号刊行物記載(類似も含む) 無効としない D5
審判 無効  2項容易に創作 無効としない D5
管理番号 1047101 
審判番号 無効2001-35060
総通号数 23 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 意匠審決公報 
発行日 2001-11-30 
種別 無効の審決 
審判請求日 2001-02-13 
確定日 2001-09-21 
意匠に係る物品 厨房台用引き出し 
事件の表示 上記当事者間の登録第1078161号「厨房台用引き出し」の意匠登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。
理由 第1.請求人の申立て及び理由
請求人は、「登録第1078161号意匠の登録を無効とする。審判費用は被請求人の負担とする。との審決を求める。」と申し立て、その理由を要旨以下のとおり主張し、証拠方法として、甲第1号証ないし甲第4号証を提出した。
1.請求理由の要旨
登録第1078161号意匠(以下、「本件登録意匠」という。)は、(1)その出願前公知の甲第1号証のもの(以下、「引用意匠」という。)と類似するものであり、意匠法第3条第1項第3号の規定により意匠登録を受けることができないものであり、(2)その出願前に当該意匠の属する分野における通常の知識を有する者が、その出願前公知の甲第2号証のものと甲第3号証-1のものに基づいて容易に意匠の創作をすることができたものであり、同法第3条第2項の規定により意匠登録を受けることができないものであり、(1)(2)いずれの理由においても同法第48条第1項第1号により無効とすべきものである。
(1)本件登録意匠と引用意匠の類否について
両意匠は、意匠に係る物品が一致し、形態については両意匠の共通点である、基本的構成態様を全体を正面部と収納部により構成する引き出しとし、正面部は取手部が配設された前板部、および蹴込み部から成り、収納部を上面を開口した箱状とし、具体的構成態様について、前面板部を正面形状を横長長方形状とする板体とし、蹴込み部を前板部下方に前板部より奥まって設け、その形状を横長長方形状とする板体とした点において両意匠は共通する。これら共通点は全て本件登録意匠の部分意匠としての請求範囲に該当する。
加えて当該共通点を有する意匠は、引用意匠以外にも本件登録意匠出願前より見られる形状であることから(甲第2号証)、本件登録意匠の特徴とは認められない。
一方、両意匠の差異点について、まず、両意匠は前板部に取り付けられた取手部形状および取り付け位置について相違するが、本件登録意匠の取手部形状および取り付け位置は本件登録意匠出願前より広く一般的に見られる形状である(甲第3号証-1〜甲第3号証-7)。したがって、当該差異点は両意匠の類否判断を左右する要素とは成り得ない。
また、本件登録意匠は前板部と蹴込み部を、端部が折曲加工された薄板により接合しているのに対し、引用意匠は写真の角度からは前板部と蹴込み部の接合状態は不明である点については、引用意匠の前板部と蹴込み部の接合形状を仮に想定すると、引用意匠の前板部と蹴込み部の形状および前板部と蹴込み部の前後関係(蹴込み部を前板部下方に前板部より奥まって設けている)から、本件登録意匠と同様薄板による接合形状、または甲第2号証のような角柱による接合形状が考えられる。いずれにしても本件登録意匠と引用意匠は前板部と蹴込み部の形状のみならず、前板部と蹴込み部の前後関係(蹴込み部を前板部下方に前板部より奥まって設けている)についても共通することから、前板部と蹴込み部の接合形状が仮に異なるとしても、当該差異は微差にすぎないものと判断される。
よって本件登録意匠と引用意匠を意匠全体として総合的に比較すると、上記差異点は微差の範囲であり、両意匠の共通点を凌駕して、両意匠に別異感をもたらすほどのものとは言えず、両意匠が類似する意匠であることは明白である。
(2)本件登録意匠の創作の容易性について
本件登録意匠は甲第3号証-1の取手部形状および取手部取り付け位置と共通し、同様の取手部形状および取り付け位置を有する意匠は、甲第3号証-1以外にも広く一般的に見られる(甲第3号証-2〜甲第3号証-7)。
従ってその出願前に当該意匠の属する分野における通常の知識を有する者であれば、その出願前公知の甲第2号証の引き出しの前板部に甲第3号証-1の取手部を甲第3号証-1の引き出しと同位置に設けることは容易であると言わざるを得ない。
なお、前板部と蹴込み部の接合について本件登録意匠と甲第2号証は相違するが、角柱を薄板状に変更して接合することは当該意匠の属する分野における通常の知識を有する者であれば容易に置換できる接合方法であり、かつその差異は外観上も接合部が僅かな高さを有するか否かの微差の範囲にとどまるものであることから、当該結論を覆すほどの差異とは認められない。
第2.被請求人の答弁及び理由
1.答弁の理由の要旨
被請求人は、結論同旨の審決を求めると答弁し、その理由として要旨以下のとおり主張し、証拠方法として、乙第一号証ないし乙第六号証を提出した。
(1)本件登録意匠と引用意匠の類否について
甲第1号証の写真には、引用意匠は、本件登録意匠と対比すべき意匠の全体が開示されていない。請求人は、上板と下板の繋ぎの形態を推測により補って類似するとの判断をしているが到底受け入れ難い。平面及び側面の形態は引き出したときに直接眼に触れるもので、平面は使用状態において上から見下ろすことで平面図そのものに近い形態で眼に触れ、側面の形態は床面に近いことから視線としては斜め上方からとなりその形態で要部となるといえる。
いずれにしても、甲第1号証として提示された引き出しの前板の意匠は、本件物品の意匠上重要な部位を占める平面及び側面の詳細な形態を把握できず、少なくともその範囲では本件登録意匠と類否を検討することができない。
(2)本件登録意匠の創作の容易性について
請求人は、本件登録意匠と甲第2号証の意匠についての差異点については、把手と接合手段について触れるのみである。
本件登録意匠では、前板全体としては、蹴込み(下板)の高さの二倍以内であり、甲第2号証の意匠のように80cm近い高さを備えたものとは、全体としての大きさが極端に違い全体としての美感が異なることは明白である。
本件登録意匠は、実際の厨房家具における台輪や一体とした蹴込みの高さに配慮して、台輪(蹴込)の高さ(10cm程度)では出し入れに屈む必要のある保管収納スペースとしては不足していることから二倍弱の高さとしたものである。
甲第2号証に提示されたものは、本件登録意匠の具体的構成態様を悉く備えていないと評価される。
本件登録意匠が、甲第2号証及び甲第3号証-1の意匠に基づいて極めて容易に創作をすることができたとするには当たらないものである。
第3.請求人の弁駁及び理由
請求人は、弁駁書において、要旨以下のとおり主張し、証拠方法として、甲第5号証を提出した。
(1)本件登録意匠と引用意匠の類否について
(a)本件登録意匠は厨房台用引き出しにおける、前板部、蹴込み部、前板部と蹴込み部との接合部、および前板部に設けられた取手部のみを請求する部分意匠である。前板部と蹴込み部の接合方法は、正面からは見えず、背面(収納部内側)、側面または底面からしか見えない。従って、本件登録意匠の要部は、看者がまず第1に注視する部位である正面形状である。
(b)甲第1号証は前板部と蹴込み部の接合部を特定できないが、蹴込み部が前板部よりも奥まって設けられていることは特定でき、かつ前板部と蹴込み部はそれぞれ単体の板で形成されていることが想定できる。甲第1号証の前板部と蹴込み部の接合部は何らかの板体で接合されていることが想定できる。
(c)甲第1号証において前板背面側に表れる白色部材は補強部材または断熱部材と推定され、機能的な目的から付加されたものであるとおもわれるが、意匠的に何ら特徴を有する部位ではなく、当該部材の有無が類否判断を左右する要素とは成り得ない。
(d)被請求人は両意匠の蹴込み部の奥行きが異なることを主張しているが、両意匠は前板部に対して蹴込み部が奥まって設けられている点では共通しており、奥行きに相違があるとしても意匠全体として比較すれば微差に過ぎない。
(e)以上のように、引用意匠は形状が全て開示されていないものの、本件登録意匠との比較においては充分類否判断を行える程度に開示されており、引用意匠として採用されることに何ら問題はない。
(2)本件登録意匠の創作容易性について
被請求人は、答弁書6頁(4)において、甲第2号証が本件登録意匠とは大きさが異なる点を主張している。しかしながら甲第2号証の図1に示す引き出しを本件登録意匠の使用状態参考図に示すように最下段の引き出しに用いることは、図1の意匠が幅木を用いたものであることから、幅木は当然家具の最下部に用いられるものであり、当業者であれば容易に着想できたと言える。また甲第2号証図1の幅木は、明らかに本件登録意匠の蹴込み部に相当する部位である。
第4.当審の判断
1.本件登録意匠と引用意匠の類否について
(1)本件登録意匠
本件登録意匠は、平成11年6月8日の意匠登録出願に係り、平成12年4月28日に意匠権の設定の登録がなされたものであって、願書及び願書に添付した図面の記載によれば、願書に「部分意匠」の欄を設け、意匠に係る物品を「厨房台用引き出し」とし、その形態は、意匠登録を受けようとする部分を実線で表した「前板部分」とした、別紙第1に示すとおりとしたものである。
すなわち、本件登録意匠は、厨房台最下部の蹴込み部のデッドスペースを収納部として活用するために、蹴込み部上部の前面板(以下、「上板」という。)と蹴込み部の前面板(以下、「下板」という。)を接合して前板とする扁平箱形の収納部を形成した「引き出し」において、その引き出しの「前板部分」は、正面視において縦横比約1:5とする横長長方形状の上板とそれよりやや奥まったところに位置する正面視上板とほぼ同形、同大の下板から成り、上板の下端部と下板の上端部を同じ位置に、また、それらの左右端部を同じ位置に揃え、それらを背面側において側面視略クランク状に折曲した前板の横幅よりやや幅狭な薄板で接合したものであって、さらに、上板の正面側上方寄り中央に、細長い丸棒の両端部を折り曲げて略「コ」の字状に形成した取手を水平方向に取り付け、その取手の長さは上板の横幅の2分の1弱としたものである。
(2)引用意匠の特定について
引用意匠は、請求人が甲第1号証として提出した、ALNO社が1997年(平成9年)発行版のカタログ「Zum Kennenlernen」の第23頁上段所載の写真版で現された厨房台組込みのオーブン下方に配設された「引き出し」における「前板部分」の意匠である。(別紙第2参照)
そこで、上記写真版に現された引用意匠において、本件登録意匠の「前板部分」に相当する部分が開示されているか否かについて検討する。
上記写真版によると厨房台下方の引き出しを正面側に大部分引き出した状態で前方上方斜め方向から写したものであって、この写真版のみでは、前板の下板の縦幅(高さ)及び位置(奥行き)が明瞭でなく、厳密には特定できないが、同カタログの第22頁、第11頁所載の写真版に当該部位が現れており、これらを考慮すると、前板の正面側の態様は、一応特定できるとしても、その背面側が白色部材を除いて全く表れていないために、前板の上板と下板の接合態様は不明で特定することができない。
(3)両意匠の類否判断について
請求人も、接合状態が不明確である点は認めるところであるが、「正面側が要部であり、両意匠の正面側の形態、すなわち、下方を奥まったところに形成した態様が共通しているのに対して、取っ手の形状及びその配設位置の差異は、本件登録意匠独自の態様とはいえず、また、背面側の上板と下板の接合状態は、不明確であっても、要部とはいえないから、これらの態様は、両意匠の類否判断に影響を及ぼさず、本件登録意匠は引用意匠と類似するものである。」旨主張する。
しかしながら、本件登録意匠が引き出し全体の意匠であるならばともかく、引き出しにおける「前板部分」であり、その背面側が全く見えないわけではなく、使用時において、引き出しを前方へ引いたときに、背面側の態様も上方又は側方から見えるものであり、特に前板中央付近全体に段差を形成しているためにその部位は注意を引くものであること、また、前板の上板と下板の接合態様として、本件登録意匠の出願前においては、甲第2号証の公開特許公報(平成10年3月24日公開の特許出願公開、平成10年第75835号、別紙第3)の【図1】に示された角柱による接合態様が見受けられる程度であって、本件登録意匠のように薄板によって前板の上板と下板を接合することが、ありふれた態様とはいえないことから、前板の正面側の形態が背面及び側面側の形態に比べて多少重視されるとしても、その背面側の態様も類否判断の要素として評価すべきものとするのが相当である。
そうすると、引用意匠は、本件登録意匠の「前板部分」に相当する部分において、背面側の形態が不明で特定できないので、正面側の態様のみでは両意匠を比較検討することができない。
したがって、本件登録意匠は、意匠法第3条第1項第3号の意匠に該当しないものである。
2.本件登録意匠の創作容易性について
請求人は、「本件登録意匠は、その出願前に当該意匠の属する分野における通常の知識を有する者であれば、その出願前公知の甲第2号証の引き出しの前板部に甲第3号証-1の取手部を甲第3号証-1の引き出しと同位置に設けることは容易であると言わざるを得ない。なお、前板部と蹴込み部の接合について本件登録意匠と甲第2号証は相違するが、角柱を薄板状に変更して接合することは当該意匠の属する分野における通常の知識を有する者であれば容易に置換できる接合方法であり、かつその差異は外観上も接合部が僅かな高さを有するか否かの微差の範囲にとどまるものであることから、当該結論を覆すほどの差異とは認められない。」旨主張するので、この点について検討する。
本件登録意匠の取手部の態様については、まず、本件登録意匠の取手の形状は、甲第3号証-1の意匠公報(平成6年9月8日発行、意匠登録第906562号の流し台の意匠、別紙第4)に示された取手の形状、すなわち細長い丸棒の両端部を折り曲げて略「コ」の字状に形成したものを僅かに改変した程度のものであり、また、その取手の取り付け位置は、甲第3号証-1の意匠公報に示された取手の取り付け位置と同様に前板の上板のやや上方寄り中央の位置に取り付けていることから、容易に創作できたものといわざるを得ない。
また、本件登録意匠の前板の上方部とその下方の一段奥まった蹴込み部を収納部とした態様は、甲第2号証の公開特許公報【図1】に示された収納部に見られることから、この点については容易に創作できたものといわざるを得ない。なお、前板の上板と下板の縦幅(高さ)をほぼ同じとした点については、請求人は言及していないが、甲第1号証の引用意匠にみられることから、この点も容易に創作できたものといわざるを得ない。
しかしながら、上板と下板の接合状態については、甲第2号証のものは、前板背面側に前板横幅と同じ長さの角柱を水平方向において上板と下板を接合しているのに対して、本件登録意匠は、前板の横幅よりやや幅狭な薄板を折曲して側面視略クランク状に形成し、その上下の垂直面をそれぞれ上板及び下板に取り付けて接合していることから、両意匠の接合の態様は、角柱と薄板で視覚的にも大きく異なるものであり、本件登録意匠の接合態様は、本件登録意匠の出願時において、日本国内又は外国において公然と知られた形状とはいえないものである。また、この接合態様は、引き出しの「前板部分」の意匠としては、背面側の局部的で微細なものとして軽視することができない。
以上によれば、本件登録意匠は、公然と知られた形状に基づいて容易に創作をすることができたものということができない。
したがって、本件登録意匠は、意匠法第3条第2項の規定に該当するものではない。
3.むすび
以上のとおりであるから、請求人の主張及び証拠方法によっては、本件登録意匠を無効にすべきものとすることができない。
よって、結論のとおり審決する。
別掲
審理終結日 2001-07-24 
結審通知日 2001-07-30 
審決日 2001-08-10 
出願番号 意願平11-14935 
審決分類 D 1 11・ 121- Y (D5)
D 1 11・ 113- Y (D5)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 上島 靖範 
特許庁審判長 遠藤 京子
特許庁審判官 藤 正明
橘 崇生
登録日 2000-04-28 
登録番号 意匠登録第1078161号(D1078161) 
代理人 中村 盛夫 
代理人 日高 一樹 
代理人 小川 順三 
代理人 渡邉 知子 

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