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審決分類 審判 無効  1項2号刊行物記載(類似も含む) 無効としない D2
管理番号 1058424 
審判番号 無効2001-35422
総通号数 30 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 意匠審決公報 
発行日 2002-06-28 
種別 無効の審決 
審判請求日 2001-09-26 
確定日 2002-04-30 
意匠に係る物品 脇机 
事件の表示 上記当事者間の登録第0930147号「脇机」の意匠登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。
理由 第1.請求人の申立及び理由
請求人は、登録第930147号意匠(以下、「本件登録意匠」という。)の登録はこれを無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求める、と申し立て、その理由として、要旨以下のとおり主張し、甲第1号証ないし甲第11号証を提出した。
1.意匠登録無効の理由の要点
本件登録意匠は、甲第1号証又は甲第2号証又は甲第3号証のもの(以下、順に、「甲第1号証意匠」、「甲第2号証意匠」、「甲第3号証意匠」という。)と類似し、意匠法第3条第1項第3号に該当し、同法第48条第1項第1号により無効とすべきである。
2.本件登録意匠を無効とすべきである理由
本件登録意匠の特徴点は、一見したところ、(1)天板が、脇机本体から、所定高さに浮上がっている点、(2)天板の浮上状態では、脇机本体のやや斜め後方に天板が位置する点、(3)4本の揺動リンクと、1本の傾斜リンクと、から成る天板昇降リンクを有する点、(4)脇机本体が3個の引き出しを有している点、であると一応推定できる。
甲第1号証意匠ないし甲第3号証意匠各々の特徴点は、いずれも、一見したところ、(一)天板が、脇机本体から、所定高さに浮上がっている点、(二)天板は、脇机本体の真上に上昇している点、(三)天板は4本のスライド柱にて昇降する点、(四)脇机本体が2個の引き出しを有している点、であると一応推定できる。
ところが、本件登録意匠には、その意匠に類似すると認定された類似意匠登録、すなわち、類似1〜類似6(甲第6号証〜甲第11号証。以下、これらを総称して、「本件登録類似意匠」という。)が存在し、本件登録意匠の類似範囲が特許庁にて確認済みである。
そこで、甲第1号証意匠ないし甲第3号証意匠各々と本件登録意匠とを対比する。本件登録類似意匠を参酌し、それらと本件登録意匠との差異点に鑑みると、本件登録意匠の(2)ないし(4)の点と甲第1号証意匠ないし甲第3号証意匠各々の(二)ないし(四)の点は、各々、特徴点として列挙する必要のない「ありふれた部分」、「軽視すべき部分」であり、引き出しの取っ手部、車輪の数の増加又は減少、及び、手前へ引き出し自在な副プレートの有無の差異も類否判断においては「ありふれた部分」、「軽視すべき部分」である。
してみると、本件登録意匠の特徴点は、(1)天板が、脇机本体から、所定高さに浮上がっている点にのみ存在すると判断すべきであり、甲第1号証意匠ないし甲第3号証意匠各々の特徴点とすべき点は、(一)天板が、脇机本体から、所定高さに浮上がっている点である。したがって、本件登録意匠は、甲第1号証意匠ないし甲第3号証意匠各々と類似することは明らかである。
第2.被請求人の答弁及び理由
被請求人は、結論同旨の審決を求めると答弁し、要旨以下のとおり主張し、乙第1号証ないし乙第38号証を提出した。
本件登録意匠の全体的審美感を支配している構成要素は、請求人の摘示する4点のみに存在するものではなく、本件登録意匠は、それらの点の組合せと、更にはそれらの点と他の具体的構成要素との特定の組合せに基づいて、特定の審美感を表しているものである。
すなわち、本件登録意匠は、引き出しの前面鏡板、把手、天板のいずれも、丸みを強調していることにより、曲面構成を基調としながら、全体として重厚で、柔和な外観印象を与えるものとなっているところにデザインモチーフとしての特徴を有するものであり、脇机本体とその上方に昇降可能に設けられた天板との基本構成を前提としながら、特に脇机の前面及び上面に位置する部分の具体的構成の相互に関連づけられた組合せの点にこそ主たる本件登録意匠の要部が存するものというべきである。
請求人は、本件登録意匠と本件登録類似意匠との相違点をすべて「ありふれた部分」、「軽視すべき部分」であるとし、それら相違点に係る構成部分のすべてを除外して本件登録意匠の要部抽出を行い、結果として、本件登録意匠の要部は、「天板が、脇机本体から、所定の高さに浮上がっている点」のみであると結論付けている。
しかしながら、本件登録意匠と本件登録類似意匠各々とは、相互に相違する構成要素の影響力に対し、共通する構成要素による外観印象の支配力が凌駕していることをもって、意匠としては相互に類似するものとされているのであり、請求人が主張される判断手法のように、本件登録意匠の要部を唯一「天板が浮上がっている点」にあるとして相互の類似が認定されているわけでは決してなく、本件登録意匠と本件登録類似意匠各々とは一部構成要素が相違するからといって、当該相違点に係る部分が即本件登録意匠の要部を構成しないということになるものではない。
そこで、本件登録意匠と甲第1号証意匠ないし甲第3号証意匠各々とを対比検討すると、甲第1号証意匠ないし甲第3号証意匠各々は、いずれも全体として、平面構成を基調として角張り感がある、メカニカルで乾燥した、硬質、粗剛な外観印象を与えるものであり、本件登録意匠とは、全く対照的な外観イメージを表出しているものである。
したがって、本件登録意匠は、本件登録類似意匠の存在を前提としても、甲第1号証意匠ないし甲第3号証意匠各々とは明らかに非類似である。
第3.当審の判断
1.本件登録意匠
本件登録意匠は、意匠登録原簿、願書及び願書に添付の図面の記載によれば、平成5年8月12日に意匠登録出願をし、平成7年5月12日に意匠権の設定の登録がなされた登録第930147号意匠であり、意匠に係る物品を「脇机」とし、その形態を、願書及び願書に添付の図面の記載のとおりとするものである(別紙第1参照)。
2.甲第1号証意匠
甲第1号証意匠は、甲第1号証に示す意匠であって、武藤工業株式会社が昭和52年1月1日前後に発行した総合カタログNo.4「MUTOH ドラフター 」第13頁の左上の写真版及びその下方の「ST-15型」と表示の図面に記載された「脇机」の意匠であり、その形態を、当該写真版及び当該図面に記載のとおりとするものである(別紙第2参照)。
3.甲第2号証意匠
甲第2号証意匠は、甲第2号証に示す意匠であって、武藤工業株式会社が昭和56年9月1日前後に発行した総合カタログNO.12-E「MUTOH ドラフター/製図用機器」第39頁の右上の写真版に現された「脇机」の意匠であり、その形態を、当該写真版に現されたとおりとするものである(別紙第3参照)。なお、当該写真版の下方に、当該写真版に現された意匠における図面収納ボックスの配置を机の背面側から側面側の位置に変更して成る意匠を記載した「ST-25」と表示の図面が掲載されている。
4.甲第3号証意匠
甲第3号証意匠は、甲第3号証に示す意匠であって、昭和61年5月23日に発行の実用新案出願公告昭61-16833号公報の第11図に示す「脇机」の意匠であり、その形態を、当該図面に記載のとおりとするものである(別紙第4参照)。
5.甲第1号証意匠との対比
本件登録意匠と甲第1号証意匠を対比すると、両意匠は、意匠に係る物品が共通し、形態については主として以下の共通点及び差異点がある。
先ず共通点として、(1)前面開放の縦長直方体状箱体とした本体枠内に数段の引き出しを配して脇机本体を構成している点、(2)脇机本体上方に昇降機構を介して昇降する天板を設けている点、さらに具体的に見ると、(3)引き出しにつき、下段の引き出しを他の引き出しに比してかなり深い(高い)ものとしている点、(4)引き手を下段の引き出しには前板の上部中央に、その他の引き出しには前板の中央に各々設けている点、(5)天板の幅につき、脇机本体幅と略同大としている点、(6)脇机本体の下面にはキャスターを有している点、がある。
一方、差異点として、(ア)本体枠に対する引き出しの納まりにつき、本件登録意匠は、引き出しをその前板が本体枠前面全体に覆い被さるように本体枠前面から突出して配置しているのに対して、甲第1号証意匠は、引き出しをその前板が本体枠前面と面一状に本体枠の内側に収まるように配置して、本体枠前面四周(開放縁周り)を引き出しの周りに額縁状に表している点、(イ)各引き出しの前板につき、本件登録意匠は、前面周縁及び四隅を丸く面取りしているのに対して、甲第1号証意匠は、前面周縁及び四隅を角張ったものとしている点、(ウ)本体枠上面につき、本件登録意匠は、左右側板及び背面板各々の上部が上面板を囲い上方に突出し、左右側板上端前隅を丸く面取りしているのに対して、甲第1号証意匠は、そのような突出及び面取りの態様を有さないものである点、(エ)天板につき、本件登録意匠は、上面周縁及び四隅を丸く面取りしているのに対して、甲第1号証意匠は、上面周縁及び四隅を角張ったものとしている点、(オ)引き手につき、本件登録意匠は、横長楕円状とした円形凹陥状のものであるのに対して、甲第1号証意匠は、横長長方形状とした方形凹陥状のものの前面上半部に引き手板を架設したものである点、(カ)天板下方の棚部の有無につき、甲第1号証意匠は、天板直下に左右側板と下面板で囲って成る棚部を有するのに対して、本件登録意匠は、そのような棚部を有さない点、(キ)昇降機構につき、本件登録意匠は、天板下方に垂下して本体枠上面に達する4本脚の棒状の揺動リンクと1本の棒状の傾斜リンクとから成るものであるのに対して、甲第1号証意匠は、天板下方に垂下して本体枠上面に達し、上下に摺動する垂直状の棒状柱4本から成るものである点、(ク)天板の昇り(浮上)状態における天板の位置につき、本件登録意匠は、脇机本体の上方斜め後方にずれて位置しているのに対して、甲第1号証意匠は、脇机本体の真上に位置している点、(ケ)天板の奥行につき、本件登録意匠は、脇机本体奥行と略同大としているのに対して、甲第1号証意匠は、脇机本体奥行より前後に広いものとしている点、(コ)引き出しの構成につき、本件登録意匠は、上段と中段の引き出しを同形同大のものとし、下段を含み3段の引き出しとしているのに対して、甲第1号証意匠は、上段と下段の2段の引き出しとしている点、(サ)キャスターの設置数につき、本件登録意匠は、前部3個、後部2個の計5個であるのに対して、甲第1号証意匠は、前部2個、後部2個の計4個である点、がある。
そこで、上記の共通点と差異点について総合的に検討するに、共通点のうち、(1)及び(2)の点は、本件登録意匠の出願前において甲第1号証意匠ないし甲第3号証意匠の他にも見られる態様であり、本件登録意匠の特徴とは成り得ず、全体に係るところであることを考慮してもなお、その類否判断に及ぼす影響はさほど大きいものとはいえない。(3)ないし(5)の点も、従前に見られる態様であって、特徴といえるほどのものではなく、類否判断に及ぼす影響は小さい。(6)の点は、キャスターを比較的観察し難い脇机本体の下面に配したに過ぎず、キャスターの配置自体も適宜選択されるありふれたことであり、類否判断に然したる影響を及ぼすものではない。そして、意匠全体としてこれら共通点が相俟ったとしても、その類否判断に及ぼす影響はさほど大きいものとはいえず、共通点のみをもって、両意匠の類否を決するものとすることはできない。
一方、差異点につき、(ア)、(イ)及び(オ)の点は、脇机本体の前面の態様を具体的にあらわすところであって、使用状態を勘案すると、顕著に観察される形態上の主要な部分に係るところともいえ、両意匠は、それぞれ共通点に係る態様とした上で、その態様と脇机本体の前面の具体的な態様とが纏まることで特徴を成し、基調を形成しており、その結果、本件登録意匠は、脇机本体の前面に丸みを表すことでふっくらとした柔和な印象を与えるものであり、一方、甲第1号証意匠は、脇机本体の前面に丸みを表すことなく、平面的で角張った印象を与えるものであって、両意匠の印象は大きく異なり、以上によれば、これら差異点に係る両意匠の態様は、それぞれ両意匠の基調の形成に強く係わり、両意匠を別異の基調のものと看者に印象づける効果を発揮するものであって、これら差異点は、両意匠の類否判断に大きな影響を及ぼすものというほかない。そして、(エ)の点は、天板の丸みの有無自体は微弱な差異といえるとしても、天板の丸みは、前記のとおりの本件登録意匠の柔和な印象を補強する働きをしており、(ア)、(イ)及び(オ)の脇机本体の前面の態様に係る差異点と相俟って、その類否判断に及ぼす影響は軽視できないものとなっている。なお、本件登録意匠の基調を前記のとおりのものであるとした点は、本件登録意匠と類似するとして意匠登録を受けた本件登録類似意匠(意匠登録第930147号類似第1号ないし類似第6号)を参酌しても首肯される。すなわち、本件登録類似意匠のうち、引き手の形状を正円状とした意匠(類似第4号)、あるいは、引き手の左右に横溝を設けた意匠(類似第6号)についても、引き手を円形凹陥状とした点で本件登録意匠と共通しており、本件登録類似意匠は、いずれも、(1)ないし(6)の共通する態様とした上で、(ア)、(イ)及び(オ)の差異点に係る脇机本体の前面の態様とが纏まることで形成された本件登録意匠の基調と共通する基調を有し、ふっくらとした柔和な印象を与えるものといえる。次に、(ウ)の点につき、本件登録意匠の本体枠上面の突出態様は、その突出の程度もさほど大きいものではなく、上面を囲むように表した従前にも見られる態様であって、特徴といえるほどのものではなく、(カ)の点につき、甲第1号証意匠の棚部は、天板の下方に近接して収まっているものに過ぎず、しかも、このような棚部を設けることは使用上の便宜を考慮して適宜選択される程度のことといえ、特徴といえるほどのものではなく、(キ)の点につき、両意匠の昇降機構についての具体的な態様の差異は、これのみを注視すれば顕著といえるが、共に棒状のものから成るものであって、格別注目されるものとはいえず、そうすると、(ウ)、(カ)及び(キ)の点それぞれが別個に類否判断に及ぼす影響はさほど大きいものではない。しかしながら、前記のとおり、共通点のみをもって両意匠の類否を決するものとすることができず、かつ、(ア)、(イ)及び(オ)の脇机本体の前面の態様に係る差異点が両意匠の類否判断に大きな影響を及ぼすものというほかない両意匠にあっては、(ウ)、(カ)及び(キ)の点は、他の差異点と相俟って両意匠別異の基調のものとの感を補強する効果を発揮しており、それぞれが別個に類否判断に及ぼす影響を大きく凌いで、類否判断に一定の影響を及ぼしているものといえる。なお、その他の差異点のうち、(ク)の点は、天板の一使用状態における差異にすぎず、(ケ)の点は、甲第1号証意匠の天板の奥行はさほど広いものではなく、(コ)の点は、下段の引き出しを他の引き出しに比してかなり深いものとした共通する態様における、ありふれた引き出しの構成に係る差異に止まり、(サ)の点は、キャスターの配置数の差異にすぎず、いずれの差異も、その類否判断に及ぼす影響は微弱である。
したがって、形態についての共通点が両意匠の類否判断に及ぼす影響はさほど大きいものとはいえないのに対して、差異点については、とりわけ、(ア)、(イ)及び(オ)の脇机本体の前面の態様に係る差異点は、両意匠の類否判断に大きな影響を及ぼすものであり、他の差異点と相俟って共通点を凌駕することは明らかであり、意匠全体として、本件登録意匠は、甲第1号証意匠に類似するものとはいえない。
6.甲第2号証意匠との対比
本件登録意匠と甲第2号証意匠を対比すると、両意匠は、意匠に係る物品が共通し、形態については主として以下の共通点及び差異点がある。
先ず共通点として、(1)前面開放の縦長直方体状箱体とした本体枠内に数段の引き出しを配して脇机本体を構成している点、(2)脇机本体上方に昇降機構を介して昇降する天板を設けている点、さらに具体的に見ると、(3)引き出しにつき、下段の引き出しを他の引き出しに比してかなり深い(高い)ものとしている点、(4)引き手を下段の引き出しには前板の上部中央に、その他の引き出しには前板の中央に各々設けている点、(5)天板の幅及び奥行につき、脇机本体の幅及び奥行と略同大としている点、(6)脇机本体の下面にはキャスターを有している点、がある。
一方、差異点として、(ア)本体枠に対する引き出しの納まりにつき、本件登録意匠は、引き出しをその前板が本体枠前面全体に覆い被さるように本体枠前面から突出して配置しているのに対して、甲第2号証意匠は、引き出しをその前板が本体枠前面と面一状に本体枠の内側に収まるように配置して、本体枠前面四周(開放縁周り)を引き出しの周りに額縁状に表している点、(イ)各引き出しの前板につき、本件登録意匠は、前面周縁及び四隅を丸く面取りしているのに対して、甲第2号証意匠は、前面周縁及び四隅を角張ったものとしている点、(ウ)本体枠上面につき、本件登録意匠は、左右側板及び背面板各々の上部が上面板を囲い上方に突出し、左右側板上端前隅を丸く面取りしているのに対して、甲第2号証意匠は、そのような突出及び面取りの態様を有さないものである点、(エ)天板につき、本件登録意匠は、上面周縁及び四隅を丸く面取りしているのに対して、甲第2号証意匠は、上面周縁及び四隅を角張ったものとしている点、(オ)引き手につき、本件登録意匠は、横長楕円状とした円形凹陥状のものであるのに対して、甲第2号証意匠は、横長長方形状とした方形凹陥状のものの前面上半部に引き手板を架設したものである点、(カ)天板下方の棚部の有無につき、甲第2号証意匠は、天板直下に配した左右側板間に前後に摺動自在に棚板を取着すると共に左右側板間に後方に突出して図面保持枠を架設して成る棚部を有するのに対して、本件登録意匠は、そのような棚部を有さない点、(キ)図面収納ボックスの有無につき、甲第2号証意匠は、幅及び高さを脇机本体の幅及び高さと略同大とした図面収納ボックスを脇机本体の背面側に突出して付設しているのに対して、本件登録意匠は、そのような図面収納ボックスを有しない点、(ク)昇降機構につき、本件登録意匠は、天板下方に垂下して本体枠上面に達する4本脚の棒状の揺動リンクと1本の棒状の傾斜リンクとから成るものであるのに対して、甲第2号証意匠は、天板下方に垂下して本体枠上面に達し、上下に摺動する垂直状の棒状柱4本から成るものである点、(ケ)天板の昇り(浮上)状態における天板の位置につき、本件登録意匠は、脇机本体の上方斜め後方にずれて位置しているのに対して、甲第2号証意匠は、脇机本体の真上に位置している点、(コ)引き出しの構成につき、本件登録意匠は、上段と中段の引き出しを同形同大のものとし、下段を含み3段の引き出しとしているのに対して、甲第2号証意匠は、上段と下段の2段の引き出しとしている点、(サ)キャスターの設置数につき、本件登録意匠は、前部3個、後部2個の計5個であるのに対して、甲第2号証意匠は、前部2個、後部2個の計4個である点、がある。
そこで、上記の共通点と差異点について総合的に検討するに、共通点のうち、(1)及び(2)の点は、本件登録意匠の出願前において甲第1号証意匠ないし甲第3号証意匠の他にも見られる態様であり、本件登録意匠の特徴とは成り得ず、全体に係るところであることを考慮してもなお、その類否判断に及ぼす影響はさほど大きいものとはいえない。(3)ないし(5)の点も、従前に見られる態様であって、特徴といえるほどのものではなく、類否判断に及ぼす影響は小さい。(6)の点は、キャスターを比較的観察し難い脇机本体の下面に配したに過ぎず、キャスターの配置自体も適宜選択されるありふれたことであり、類否判断に然したる影響を及ぼすものではない。そして、意匠全体としてこれら共通点が相俟ったとしても、その類否判断に及ぼす影響はさほど大きいものとはいえず、共通点のみをもって、両意匠の類否を決するものとすることはできない。
一方、差異点につき、(ア)、(イ)及び(オ)の点は、脇机本体の前面の態様を具体的にあらわすところであって、使用状態を勘案すると、顕著に観察される形態上の主要な部分に係るところともいえ、両意匠は、それぞれ共通点に係る態様とした上で、その態様と脇机本体の前面の具体的な態様とが纏まることで特徴を成し、基調を形成しており、その結果、本件登録意匠は、脇机本体の前面に丸みを表すことでふっくらとした柔和な印象を与えるものであり、一方、甲第2号証意匠は、脇机本体の前面に丸みを表すことなく、平面的で角張った印象を与えるものであって、両意匠の印象は大きく異なり、以上によれば、これら差異点に係る両意匠の態様は、それぞれ両意匠の基調の形成に強く係わり、両意匠を別異の基調のものと看者に印象づける効果を発揮するものであって、これら差異点は、両意匠の類否判断に大きな影響を及ぼすものというほかない。そして、(エ)の点は、天板の丸みの有無自体は微弱な差異といえるとしても、天板の丸みは、前記のとおりの本件登録意匠の柔和な印象を補強する働きをしており、(ア)、(イ)及び(オ)の脇机本体の前面の態様に係る差異点と相俟って、その類否判断に及ぼす影響は軽視できないものとなっている。なお、本件登録意匠の基調を前記のとおりのものであるとした点は、本件登録意匠と類似するとして意匠登録を受けた本件登録類似意匠(意匠登録第930147号類似第1号ないし類似第6号)を参酌しても首肯される。すなわち、本件登録類似意匠のうち、引き手の形状を正円状とした意匠(類似第4号)、あるいは、引き手の左右に横溝を設けた意匠(類似第6号)についても、引き手を円形凹陥状とした点で本件登録意匠と共通しており、本件登録類似意匠は、いずれも、(1)ないし(6)の共通する態様とした上で、(ア)、(イ)及び(オ)の差異点に係る脇机本体の前面の態様とが纏まることで形成された本件登録意匠の基調と共通する基調を有し、ふっくらとした柔和な印象を与えるものといえる。次に、(ウ)の点につき、本件登録意匠の本体枠上面の突出態様は、その突出の程度もさほど大きいものではなく、上面を囲むように表した従前にも見られる態様であって、特徴といえるほどのものではなく、(カ)の点につき、甲第2号証意匠の棚部は、天板の下方に近接して収まっているものに過ぎず、しかも、このような棚部を設けることは使用上の便宜を考慮して適宜選択される程度のことといえ、特徴といえるほどのものではなく、(キ)の点につき、甲第2号証意匠の図面収納ボックスは、比較的観察し難い脇机本体の背面側に付設されたものであって、さほど顕著なものではなく、(ク)の点につき、両意匠の昇降機構についての具体的な態様の差異は、これのみを注視すれば顕著といえるが、共に棒状のものから成るものであって、格別注目されるものとはいえず、そうすると、(ウ)及び(カ)ないし(ク)の点それぞれが別個に類否判断に及ぼす影響はさほど大きいものではない。しかしながら、前記のとおり、共通点のみをもって両意匠の類否を決するものとすることができず、かつ、(ア)、(イ)及び(オ)の脇机本体の前面の態様に係る差異点が両意匠の類否判断に大きな影響を及ぼすものというほかない両意匠にあっては、(ウ)及び(カ)ないし(ク)の点は、他の差異点と相俟って両意匠別異の基調のものとの感を補強する効果を発揮しており、それぞれが別個に類否判断に及ぼす影響を大きく凌いで、類否判断に一定の影響を及ぼしているものといえる。なお、その他の差異点のうち、(ケ)の点は、天板の一使用状態における差異にすぎず、(コ)の点は、下段の引き出しを他の引き出しに比してかなり深いものとした共通する態様における、ありふれた引き出しの構成に係る差異に止まり、(サ)の点は、キャスターの配置数の差異にすぎず、いずれの差異も、その類否判断に及ぼす影響は微弱である。
したがって、形態についての共通点が両意匠の類否判断に及ぼす影響はさほど大きいものとはいえないのに対して、差異点については、とりわけ、(ア)、(イ)及び(オ)の脇机本体の前面の態様に係る差異点は、両意匠の類否判断に大きな影響を及ぼすものであり、他の差異点と相俟って共通点を凌駕することは明らかであり、意匠全体として、本件登録意匠は、甲第2号証意匠に類似するものとはいえない。
7.甲第3号証意匠との対比
本件登録意匠と甲第3号証意匠を対比すると、両意匠は、意匠に係る物品が共通し、形態については主として以下の共通点及び差異点がある。
先ず共通点として、(1)前面開放の縦長直方体状箱体とした本体枠内に数段の引き出しを配して脇机本体を構成している点、(2)脇机本体上方に昇降機構を介して昇降する天板を設けている点、さらに具体的に見ると、(3)引き出しにつき、下段の引き出しを他の引き出しに比してかなり深い(高い)ものとしている点、(4)引き手を下段の引き出しには前板の上部中央に、その他の引き出しには前板の中央に各々設けている点、(5)天板の幅及び奥行につき、脇机本体の幅及び奥行と略同大としている点、(6)脇机本体の下面にはキャスターを有している点、がある。
一方、差異点として、(ア)本体枠に対する引き出しの納まりにつき、本件登録意匠は、引き出しをその前板が本体枠前面全体に覆い被さるように本体枠前面から突出して配置しているのに対して、甲第3号証意匠は、引き出しをその前板が本体枠前面と面一状に本体枠の内側に収まるように配置して、本体枠前面四周(開放縁周り)を引き出しの周りに額縁状に表している点、(イ)各引き出しの前板につき、本件登録意匠は、前面周縁及び四隅を丸く面取りしているのに対して、甲第3号証意匠は、前面周縁及び四隅を角張ったものとしている点、(ウ)本体枠上面につき、本件登録意匠は、左右側板及び背面板各々の上部が上面板を囲い上方に突出し、左右側板上端前隅を丸く面取りしているのに対して、甲第3号証意匠は、そのような突出及び面取りの態様を有さないものである点、(エ)天板につき、本件登録意匠は、上面周縁及び四隅を丸く面取りしているのに対して、甲第3号証意匠は、上面周縁及び四隅を角張ったものとしている点、(オ)引き手につき、本件登録意匠は、横長楕円状とした円形凹陥状のものであるのに対して、甲第3号証意匠は、横長長方形状とした方形凹陥状のものの前面上半部に引き手板を架設したものである点、(カ)天板下方の棚部の有無につき、甲第3号証意匠は、天板直下に配した左右側板間に前後に摺動自在に棚板を取着すると共に左右側板間に後方に突出して図面保持枠を架設して成る棚部を有するのに対して、本件登録意匠は、そのような棚部を有さない点、(キ)昇降機構につき、本件登録意匠は、天板下方に垂下して本体枠上面に達する4本脚の棒状の揺動リンクと1本の棒状の傾斜リンクとから成るものであるのに対して、甲第3号証意匠は、天板下方に垂下して本体枠上面に達し、上下に摺動する垂直状の棒状柱4本から成るものである点、(ク)天板の昇り(浮上)状態における天板の位置につき、本件登録意匠は、脇机本体の上方斜め後方にずれて位置しているのに対して、甲第3号証意匠は、脇机本体の真上に位置している点、(ケ)引き出しの構成につき、本件登録意匠は、上段と中段の引き出しを同形同大のものとし、下段を含み3段の引き出しとしているのに対して、甲第3号証意匠は、上段と下段の2段の引き出しとしている点、(コ)キャスターの設置数につき、本件登録意匠は、前部3個、後部2個の計5個であるのに対して、甲第3号証意匠は、前部2個、後部2個の計4個である点、がある。
そこで、上記の共通点と差異点について総合的に検討するに、共通点のうち、(1)及び(2)の点は、本件登録意匠の出願前において甲第1号証意匠ないし甲第3号証意匠の他にも見られる態様であり、本件登録意匠の特徴とは成り得ず、全体に係るところであることを考慮してもなお、その類否判断に及ぼす影響はさほど大きいものとはいえない。(3)ないし(5)の点も、従前に見られる態様であって、特徴といえるほどのものではなく、類否判断に及ぼす影響は小さい。(6)の点は、キャスターを比較的観察し難い脇机本体の下面に配したに過ぎず、キャスターの配置自体も適宜選択されるありふれたことであり、類否判断に然したる影響を及ぼすものではない。そして、意匠全体としてこれら共通点が相俟ったとしても、その類否判断に及ぼす影響はさほど大きいものとはいえず、共通点のみをもって、両意匠の類否を決するものとすることはできない。
一方、差異点につき、(ア)、(イ)及び(オ)の点は、脇机本体の前面の態様を具体的にあらわすところであって、使用状態を勘案すると、顕著に観察される形態上の主要な部分に係るところともいえ、両意匠は、それぞれ共通点に係る態様とした上で、その態様と脇机本体の前面の具体的な態様とが纏まることで特徴を成し、基調を形成しており、その結果、本件登録意匠は、脇机本体の前面に丸みを表すことでふっくらとした柔和な印象を与えるものであり、一方、甲第3号証意匠は、脇机本体の前面に丸みを表すことなく、平面的で角張った印象を与えるものであって、両意匠の印象は大きく異なり、以上によれば、これら差異点に係る両意匠の態様は、それぞれ両意匠の基調の形成に強く係わり、両意匠を別異の基調のものと看者に印象づける効果を発揮するものであって、これら差異点は、両意匠の類否判断に大きな影響を及ぼすものというほかない。そして、(エ)の点は、天板の丸みの有無自体は微弱な差異といえるとしても、天板の丸みは、前記のとおりの本件登録意匠の柔和な印象を補強する働きをしており、(ア)、(イ)及び(オ)の脇机本体の前面の態様に係る差異点と相俟って、その類否判断に及ぼす影響は軽視できないものとなっている。なお、本件登録意匠の基調を前記のとおりのものであるとした点は、本件登録意匠と類似するとして意匠登録を受けた本件登録類似意匠(意匠登録第930147号類似第1号ないし類似第6号)を参酌しても首肯される。すなわち、本件登録類似意匠のうち、引き手の形状を正円状とした意匠(類似第4号)、あるいは、引き手の左右に横溝を設けた意匠(類似第6号)についても、引き手を円形凹陥状とした点で本件登録意匠と共通しており、本件登録類似意匠は、いずれも、(1)ないし(6)の共通する態様とした上で、(ア)、(イ)及び(オ)の差異点に係る脇机本体の前面の態様とが纏まることで形成された本件登録意匠の基調と共通する基調を有し、ふっくらとした柔和な印象を与えるものといえる。次に、(ウ)の点につき、本件登録意匠の本体枠上面の突出態様は、その突出の程度もさほど大きいものではなく、上面を囲むように表した従前にも見られる態様であって、特徴といえるほどのものではなく、(カ)の点につき、甲第3号証意匠の棚部は、天板の下方に近接して収まっているものに過ぎず、しかも、このような棚部を設けることは使用上の便宜を考慮して適宜選択される程度のことといえ、特徴といえるほどのものではなく、(キ)の点につき、両意匠の昇降機構についての具体的な態様の差異は、これのみを注視すれば顕著といえるが、共に棒状のものから成るものであって、格別注目されるものとはいえず、そうすると、(ウ)、(カ)及び(キ)の点それぞれが別個に類否判断に及ぼす影響は、さほど大きいものではない。しかしながら、前記のとおり、共通点のみをもって両意匠の類否を決するものとすることができず、かつ、(ア)、(イ)及び(オ)の脇机本体の前面の態様に係る差異点が両意匠の類否判断に大きな影響を及ぼすものというほかない両意匠にあっては、(ウ)、(カ)及び(キ)の点は、他の差異点と相俟って両意匠別異の基調のものとの感を補強する効果を発揮しており、それぞれが別個に類否判断に及ぼす影響を大きく凌いで、類否判断に一定の影響を及ぼしているものといえる。なお、その他の差異点のうち、(ク)の点は、天板の一使用状態における差異にすぎず、(ケ)の点は、下段の引き出しを他の引き出しに比してかなり深いものとした共通する態様における、ありふれた引き出しの構成に係る差異に止まり、(コ)の点は、キャスターの配置数の差異にすぎず、いずれの差異も、その類否判断に及ぼす影響は微弱である。
したがって、形態についての共通点が両意匠の類否判断に及ぼす影響はさほど大きいものとはいえないのに対して、差異点については、とりわけ、(ア)、(イ)及び(オ)の脇机本体の前面の態様に係る差異点は、両意匠の類否判断に大きな影響を及ぼすものであり、他の差異点と相俟って共通点を凌駕することは明らかであり、意匠全体として、本件登録意匠は、甲第3号証意匠に類似するものとはいえない。
8.結び
以上のとおりであって、本件登録意匠は、請求人の提出した証拠及び主張によっては、意匠法第3条第1項第3号の規定に該当しないから、同条同項の規定に違反して登録されてものとして、その登録を無効とすることはできない。
よって、結論のとおり審決する。
別掲
審理終結日 2002-03-01 
結審通知日 2002-03-06 
審決日 2002-03-19 
出願番号 意願平5-24878 
審決分類 D 1 11・ 113- Y (D2)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 小林 裕和 
特許庁審判長 遠藤 京子
特許庁審判官 山崎 裕造
市村 節子
登録日 1995-05-12 
登録番号 意匠登録第930147号(D930147) 
代理人 中谷 武嗣 

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