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審決分類 審判 判定  同一・類似 属さない(申立不成立) J6
管理番号 1059725 
判定請求番号 判定2001-60051
総通号数 31 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 意匠判定公報 
発行日 2002-07-26 
種別 判定 
判定請求日 2001-04-19 
確定日 2002-05-20 
意匠に係る物品 消火器スタンド 
事件の表示 上記当事者間の登録第0959075号の判定請求事件について、次のとおり判定する。 
結論 (イ)号図面及びその説明書に示す「消火器スタンド」の意匠は、登録第0959075号意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属しない。
理由 第1.請求人の申し立て及び理由
請求人は、イ号図面及び説明書に示すイ号意匠は、登録第959075号の意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属する、との判定を求めると申し立て、立証として甲第1号証ないし甲第11号証を提出した。
主張の要旨は、以下のとおりである。
1.本件登録意匠とイ号意匠との比較
両意匠は、いずれも消火スタンドの態様に係るもので意匠に係る物品が一致する。そして、その構成態様は、以下の共通点と差異点がある。
(1)共通点
(a)薄板を折り曲げて、斜面からなる前面板と底面板からなる側面視三角形の形状をした消火器スタンドである。(b)前面板が四角形であり、そこに消火器を挿入するための透孔を形成している。(c)透孔内に消火器を挿入して消火器を立てると、消火器の中央部よりも上の部分が透孔から突出するようになっている。
(2)差異点
(a)本件登録意匠では前面板が真っ直ぐな板であるのに対し、イ号意匠では凸状に緩やかに湾曲した板である。(b)本件登録意匠では、前面板に形成された透孔の正面視の形状が円形であるのに対し、イ号意匠では上方が角形で下方が半円形をしている。(c)本件登録意匠では、前面板の底面板に対する傾斜角が45度であるのに対し、イ号意匠では約60度である。(d)本件登録意匠では、前面板と底面板との間の折り曲げ部に比較的大きな径の曲面を形成しているのに対し、イ号意匠では小さな径の曲面を形成している。(e)本件登録意匠では、底面板が四角形であるのに対し、イ号意匠では前方が角形で後方が半円形をした形状をしている。
2.本件登録意匠とイ号意匠との類否
(1)本件登録意匠の要部
従来の消火器スタンドは、ベースの背面側に板体を立てたもの(甲第9号証)や、ベースの背面側に柱体を立てそこに表示板を設けたもの(甲第10号証)や、ベースの前面に低い表示板を設けたもの(甲第11号証)がある。しかしながら、薄板を折り曲げて斜面からなる前面板と底面板からなる側面視三角形の形状とした本件登録意匠の形態は、従来の消火器スタンドにはない斬新な形状のものである。したがって、側面視三角形となった形態は、看者が観察したときに強い印象を与える部分となっており、本件登録意匠の要部といえる。また、透孔内に消火器を挿入して消火器を立てると、消火器の中央部よりも上の部分が透孔から突出するようになっている態様も従来の消火器スタンドにはないものであり、この態様も本件登録意匠の要部といえる。
(2)類否
両意匠の消火器スタンドの高さは約40〜45センチメートルであり、床面において使用するものであるので、通常看者は斜め上方から観察する。そのため、両意匠を比較する場合には、看者が最も観察しやすい斜め上方から観察した場合に受ける印象にウェイトをおいて観察すべきである。
イ.両意匠の共通点は、基本的な構成態様に係るものであり、特に本件登録意匠の要部である斜面からなる前面板と底面板からなる側面視三角形の形状及び前面板に消火器を挿入するための透孔を形成し、透孔内に消火器を挿入して消火器をたてると、消火器の中央部よりも上の部分が透孔から突出するようになっている態様が共通しており、これらの共通する態様は従来の消火器スタンドにはない斬新なものであるので、両意匠の類否判断に大きな影響を与えている。
ロ.両意匠の差異点の(a)の前面板が真っ直ぐであるか湾曲しているかの相違は、看者の観察しやすい部分の相違であるが、イ号意匠の前面板の湾曲は緩やかなものであるので、斜め上方から観察した場合には注意して観察しなければ分からない程の態様の相違であり、さして特徴のある部分であるとは言えず看者に別異の印象を与えるまでの相違にはなっていない。
ハ.両意匠の差異点の(b)の透孔の形状は、消火器より前になる部分は、半円形で略同一形状であり、消火器の後の部分は消火器を立てた場合には目立たない部分となるので、この相違は看者に与える印象にさほど影響を与えるものとはなっていない。
ニ.差異点の(c)の前面板の傾斜角度の相違は、前面板が傾斜しているものであるという斬新な態様から看者が受ける印象から比べると、この程度の差異は微差であり、看者に同一の美感を与えるものである。
ホ.差異点の(d)の前面板と底面板との間の折り曲げ部の径の大きさの相違は、床面に近い部分の態様の相違であり、この相違も微差であり、看者に別異の印象を与えるまでに至っていない。このことは、本件登録意匠の類似4の意匠が、折り曲げ部の態様が本意匠と相違しているにも関わらず類似登録になっていることから明かである。
ヘ.差異点の(e)の底面板の相違は、底面板の上に消火器を置いた場合は前面板と消火器の影になってしまい、看者が殆ど観察しない部分であるのでデザイン的な要部になっておらず、類否判断に与える影響は微弱である。
以上のように、両意匠の共通する態様から受ける印象が、異なる態様から受ける印象を凌駕しているので、両意匠は類似している。また、本件登録意匠は、態様の異なる類似1〜4の意匠が類似登録されているから、斬新な形状のもので類似の幅が広く認められたものであるので、イ号意匠に前記の態様の相違があっても本件登録意匠の類似する範囲に含まれる。
第2.被請求人の答弁
被請求人は、イ号図面及び説明書に示すイ号意匠は、登録第959075号の意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属しない、との判定を求める、と申し立て、立証として乙第1号証ないし乙第4号証を提出した。
主張の要旨は以下のとおりである。
1.本件登録意匠とイ号意匠との対比
(1)本件登録意匠とイ号意匠を対比すると、一見しただけでイ号意匠の方が本件登録意匠に比べて縦長の印象を看者に与える。
(2)本件登録意匠の透孔とイ号意匠の透孔を比較すると、貫通形成されている透孔自体の形状が大きく相違することは勿論、前面板に占める透孔の大きさや位置が大きく相違する。
(3)本件登録意匠の前面板と底面板の折り曲げ部の形状とイ号意匠の前面板と底面板の折り曲げ部の形状は、大きく相違すると共に前面板の傾斜角度も大きく相違する。
(4)本件登録意匠の底面板とイ号意匠の底面板を対比すると、形状が大きく相違することは勿論、底面板の大きさの割合が全く相違する。
2.請求人の主張に対する反論
(1)両意匠は、消火器スタンド自体に係る意匠であるから、両意匠を判断する場合は、消火器を取り除いた状態で判断すべきである。そうすると、被請求人が撮影したイ号意匠の写真(乙第1号証ないし乙第3号証)を見ても明らかなように、前面板及び透孔が明瞭に表れ両意匠の印象は大きく相違する。
(2)被請求人が撮影したイ号意匠の写真からも明白なように、斜め上方から観察しても前面板が湾曲している状態は明瞭に表れる。しかも、イ号意匠の前面板を湾曲して形成したことは意匠上極めて特徴的であり、看者に大きな印象を与える。
(3)両意匠は、消火器スタンドに係る意匠であり、消火器を取り除いた消火器スタンド自体を判断すべきである。そうすると、イ号意匠の透孔は略長円形状に形成され、前面板の下部、中央部、上部に渡って大きく貫通されているから看者に与える影響は大きい。
(4)前面板の傾斜角度が、本件登録意匠は45度であるのに対し、イ号意匠は約60度で大きく相違し、本件登録意匠に比べてイ号意匠は縦長の消火器スタンドであるという印象を看者に与える。
(5)前面板と底面板との間の折り曲げ部の径の態様は、側面図に明確に表れる。該部分の径が大きい本件登録意匠と極めて小さいイ号意匠とは異なる印象を看者に与える。
(6)底面板は、意匠の構成要素の重要な一つであり、看者が観察する重要な部分である。そうすると、矩形状に形成された本件登録意匠と半長円状に形成されたイ号意匠とは大きく相違した印象を看者に与える。
したがって、本件意匠とイ号意匠は、一見しただけで意匠上多数の相違点を指摘でき、看者に対し大きく相違した印象を与える。
第3.当審の判断
1.本件登録意匠
本件登録意匠は、意匠公報、願書及び願書に添付した図面によれば、平成4年4月30日の出願に係り、平成8年5月10日に登録第959075号として設定の登録がなされたものであって、意匠に係る物品を「消火器スタンド」とし、形態を別紙第1に示すとおりとしたものである。
2.イ号意匠
イ号意匠は、請求人が提出したイ号図面及び説明書によれば、意匠に係る物品を「消火器スタンド」とし、その形態を別紙第2に示すとおりとしたものである。
3.本件登録意匠とイ号意匠の対比
(1)意匠に係る物品について、両意匠は共に消火器スタンドに係るものであるから意匠に係る物品が一致する。
(2)次に、両意匠の形態については、以下の共通点及び差異点が認められる。
〈共通点〉
(イ)全体は、帯状薄板を略「く」の字状に折り曲げて、斜面板と底面板を形成した点、(ロ)斜面板の態様について、正面視縦長長方形状とし、透孔を形成した点が共通していると認められ、更に子細に見ると、(ハ)斜面板の角部を弧状に形成した点が共通していると認められる。
〈差異点〉
一方、両意匠には、基本的な構成において、(い)本件登録意匠は、正面視円形となる楕円形の透孔を比較的小さく形成しているのに対し、イ号意匠は、略U字状の透孔を斜面板に大きく形成している点に差異があり、その具体的態様においても、(ろ)折り曲げの態様について、本件登録意匠は全長の略3/5で略45度に折り曲げ、その角部を円弧状に形成しているのに対し、イ号意匠は、全長の略2/3で略60度に折り曲げ、その角部を小さな弧状に形成している点、(は)斜面板について、本件登録意匠は縦対横の比率が正面視略6:4であるのに対し、イ号意匠は正面視略8:5とし、外側に緩やかに湾曲している点、(に)底面板について、本件登録意匠は、縦対横の比率を略5:4とする縦長長方形であるのに対し、イ号意匠は、略5:6の略U字状であって、2個の小孔を形成している点、(ほ)透孔について、本件登録意匠は、斜面板横幅の略3/4を短径とし、斜面板縦幅の略5/9を長径とする楕円形を、下方に余地部を大きく取って形成しているのに対し、イ号意匠は、その横幅を斜面板横幅の略5/7とし、その縦幅を斜面板縦幅の略5/9とする略U字状に形成し、下方の余白部を本件登録意匠よりやや狭く取っている点に差異が認められる。
(3)そこで、両意匠を全体として観察し、上記差異点及び共通点が類否判断に与える影響について検討すると、両意匠において共通しているとした(イ)及び(ロ)は、消火器スタンドの分野においては、従来見られなかった構成ではあるが、両意匠の形態についてのいまだ概念的な共通点にとどまり、透孔の形状や折り曲げの態様、また、斜面板、底面板の各態様及びそれらが奏する効果により、その意匠的効果は自ずから異なってくるものであるから、上記概念的な共通点をもって直ちに両意匠を類似とする程のものとは認めることはできない。共通点の(ハ)は、ごく普通に見られる態様で局部的なものでもあるから、両意匠の類否判断上特に評価する程のものでない。そして、それらが相俟って奏する効果を考慮しても、下記に挙げる各差異点及びそれらが相俟って奏する効果を凌駕して両意匠を類似とする程のものには至っていないと認められる。
これに対して、差異点の(い)は、両意匠の基本的構成に係わり、他の差異点とも相俟って両意匠の基調を形成するものであり、特に、折り曲げの態様についての差異点(ろ)、斜面板についての差異点(は)及び透孔についての差異点(ほ)が相俟って奏する効果は、本件登録意匠とイ号意匠とを別異のものとする強い印象を与えているから、類否判断を左右する要素と認められる。また、斜面板に形成された透孔の形状は、使用時に消火器を挿入する部分であるから、看者の注視するところであり、使用時において斜め上方から観察した場合においても、その形状が楕円形であるか略U字状であるかの差異は、透孔の具体的態様の差異点(ほ)と相俟って両意匠の類否判断を左右する大きな要素であるといえる。差異点(に)については、底面板は消火器を置く部分であり、使用時にもその形状が見える部分であるから、その差異は両意匠の類否判断に影響を及ばす要素であるといえる。
なお、請求人は、態様の異なる類似意匠が類似登録されているから類似の幅は広く判断すべきと主張するが、類似1ないし類似4の意匠は、透孔の形状や折り曲げの態様等がイ号意匠と異なるから、同列に論ずることはできない。
(4)以上のとおり、両意匠の共通点(イ)ないし(ハ)は、いずれも両意匠の類否判断を左右する要素としては微弱なものにとどまるのに対し、差異点の(い)ないし(ほ)は、両意匠の類否判断を左右する要素に係り、かつ、それらは看者の注意を最も惹く部分であるから両意匠の要部に係るものと認められ、それら差異点が相俟って奏する効果は、本件登録意匠とイ号意匠との上記共通点を凌駕して、看者に別異の美感を与えていると認められるから、両意匠は類似するものということができない。
4.したがって、イ号意匠は、本件登録意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属さない。
よって、結論のとおり判定する。
別掲
判定日 2002-05-08 
出願番号 意願平4-13205 
審決分類 D 1 2・ 1- ZB (J6)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 鈴木 公明 
特許庁審判長 藤木 和雄
特許庁審判官 岩井 芳紀
温品 博康
登録日 1996-05-10 
登録番号 意匠登録第959075号(D959075) 
代理人 若林 拡 
代理人 辻本 一義 

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