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審決分類 審判 判定  同一・類似 属する(申立成立) D4
管理番号 1061433 
判定請求番号 判定2002-60023
総通号数 32 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 意匠判定公報 
発行日 2002-08-30 
種別 判定 
判定請求日 2002-02-21 
確定日 2002-06-24 
意匠に係る物品 電気スト―ブ 
事件の表示 上記当事者間の登録第887079号の判定請求事件について、次のとおり判定する。 
結論 (イ)号図面及びその説明書に示す「電気スト―ブ」の意匠は、登録第887079号意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属する。
理由 第1 請求の趣旨
本件判定請求は、「イ号意匠並びにその説明書に示す意匠は、登録第887079号意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属する。」との判定を求めるものである。

第2 本件登録意匠
本件登録意匠は、平成1年2月21日の意匠登録出願(意願平1-6333号)に係り、平成5年9月29日に設定の登録がなされた登録第887079号意匠であり、その願書の記載及び願書に添付した図面代用写真の記載によれば、意匠に係る物品が、「電気ストーブ」であり、その形態が、同添付図面に示されるとおりである(別紙第1参照)。

第3 イ号意匠
イ号意匠は、意匠に係る物品を「電気ストーブ」とし、その形態は判定請求書に添付した甲第3号証に示されるとおりのものである(別紙第2参照)。

第4 当事者の主張
1.請求人の主張
(1) 両意匠の共通点
a)両意匠は、意匠に係る物品が「電気ストーブ」で一致している。
b)基本的な構成態様において、本体の正面形状を、下部両側を末広がりにし、左右両肩部に比較的大きなコーナーアールを設けた縦長矩形状とし、本体の正面に、ガードを装着した発熱部を設け、左右両側面形状を、下部正面側を末広がりにした縦長台形状とし、平面形状を横長矩形状とし、前記正面及び左右両側面における末広がり形状により、本体の下部に、正面と左右両側面の底端を外側に向けてスカート状に膨出したベース部を一体に形成している。
c)具体的な構成態様において、本体天面の向かって右側に円柱状の切換つまみを設けている。
(2) 両意匠の差異点
a)本件登録意匠では、本体天面の向かって左側に蒸気放出孔を設けているのに対し、イ号意匠には蒸気孔がない。
b)本件登録意匠では、ベース部に何らの装飾を設けていないのに対し、イ号意匠では、ベース部の正面中央部に横長楕円状のサイン板を貼着し、かっこのサイン板の下方に略凹状の座押しを設け、更に、ベース部の正面左右から両側部に亘って、上下3本の突条を設けている。
c)本件登録意匠では、ガード内側に穿孔した通気孔が横長状であるのに対し、イ号物品は縦長状である。
d)本件登録意匠では、発熱部に装着したガードは、柵状であるのに対し、イ号意匠は網目状である。
(3)イ号意匠が本件登録意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属する理由の説明
i)本件登録意匠に関する先行周辺意匠
a)意匠登録第855772号公報(甲第6号証)
b)意匠登録第855772号の類似1号公報(甲第7号証)
c)意匠登録第855772号の類似2号公報(甲第8号証)
(4)本件登録意匠の要部
上記先行周辺意匠に基づき、本件登録意匠の創作の要点について述べれば、本体の正面形状を縦長矩形状とし、本体の正面に、ガードを装着した発熱部を設け、本体の下部に、ベース部を一体に形成する基本構成は周知であるものの、本体の正面形状を、下部両側を末広がりにし、左右両肩部に比較的大きなコーナーアールを設けた縦長矩形状とし、左右両側面形状を、下部正面側を末広がりにした縦長台形状とし、平面形状を横長矩形状とし、前記正面及び左右両側面における末広がり形状により、本体の下部に、正面と左右両側面の底端を外側に向けてスカート状に膨出したベース部を一体に形成する構成は、本件登録意匠独自の特徴部分である。
なお、本件登録意匠は、模様を限定しない形状だけの意匠であって、模様のないことは要部ではない。
(5) 本件登録意匠とイ号意匠との類否の考察
そこで、本件登録意匠とイ号意匠の共通点及び差異点を比較検討するに、
a)両意匠の共通点は、基本的な構成態様に係るものであり、特に、本件登録意匠の要部である、本体の正面形状を、下部両側を末広がりにし、左右両肩部に比較的大きなコーナーアールを設けた縦長矩形状とし、左右両側面形状を、下部正面側を末広がりにした縦長台形状とし、平面形状を横長矩形状とし、前記正面及び左右両側面における末広がり形状により、本体の下部に、正面と左右両側面の底端を外側に向けてスカート状に膨出したベース部を一体に形成する構成が共通しており、両意匠の類否判断に大きな影響を与えるものである。
b)両意匠の差異点a)c)については、意匠登録第855772号公報(甲第6号証)及び意匠登録第855772類似2号公報(甲第8号証)に示す如く、蒸気孔の有無及び通気孔の形状の相違に係らず類似意匠として登録されていることから、特段顕著な相違とはいえず、類否の判断に与える影響は微弱であり、相違点b)については、サイン板は「単なる文字」に該当するものであって意匠の要部を構成するものではなく、また略凹状の座押し並びに3本の突条は、これらの有無によって全体の印象が大きく相違するものではなく、類否の判断に与える影響は微弱なものであり、差異点d)については、意匠登録第952860号公報(甲第9号証)及び意匠登録第952860号の類似1号公報(甲第10号証)に示す如く、ガードの形状が相違しても類似意匠として登録されていることから、特段顕著な相違とはいえず、類否の判断に与える影響は微弱なものである。
なお、イ号意匠は、両側部と中央部との色彩を変え、ツートンカラーの模様を付しているが、本件登録意匠は、模様を限定しない形状だけの意匠であって、当該模様は極ありふれた目立たない模様で本件登録意匠に包含されるものであるから、かかる点は差異点とはなり得ない。
c)以上の認定、判断を前提として両意匠を全体的に考察すると、両意匠の差異点は、類否の判断に与える影響はいずれも微弱なものであって、共通点を凌駕しているものとはいえず、これらが纏まったとしても、その全体に及ぼす影響は軽微なものである。
(6)むすび
したがって、イ号意匠は、本件登録意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属するので、請求の趣旨どおりの判定を求める。

2.被請求人の答弁
(1)判定請求人も自認しているように、イ号意匠は本件登録意匠に対し下記の差異点を有している。
a)本件登録意匠では、本体天面の向かって左側に蒸気放出孔を設けているのに対し、イ号意匠には蒸気孔がない。
b)本件登録意匠では、ベース部に何らの装飾を設けていないのに対し、イ号意匠では、ベース部の正面中央部に横長楕円状のサイン板を貼着し、かっこのサイン板の下方に略凹状の座押しを設け、更に、ベース部の正面左右から両側部に亘って、上下3本の突条を設けている。
c)本件登録意匠では、ガード内側に穿孔した通気孔が横長状であるのに対し、イ号物品は縦長状である。
d)本件登録意匠では、発熱部に装着したガードは、柵状であるのに対し、イ号意匠は網目状である。
e)イ号意匠は、両側部と中央部との色彩を変え、ツートンカラーの模様を付しているが、本件登録意匠は、模様を付していない。
而して上記両意匠の差異点は、正面図に関するもので、これは両意匠の類似判断のための全体観察において、非常に大きなウエイトを占めていることは明らかである。
従って上記差異点を含めて両意匠を全体的に観察して総合的に判断すれば、両意匠は非類似と解するのが妥当である。このことは、一般の需要者が両意匠に係る物品(電気ストーブ)の正面を一見しただけで明白に認識することができ、混同を生じることはあり得ない。
(2)これに対し判定請求人は、本件登録意匠の要部なるものを抽出して、「本体の正面形状を縦長矩形状とし、本体の正面に、ガードを装着した発熱部を設け、本体の下部に、ベース部を一体に形成する基本構成は周知であるものの、本体の正面形状を、下部両側を末広がりにし、左右両肩部に比較的大きなコーナーアールを設けた縦長矩形状とし、左右両側面形状を、下部正面側を末広がりにした縦長台形状とし、平面形状を横長矩形状とし、前記正面及び作用両側面における末広がり形状により、本体の下部に、正面と左右両側面の底端を外側に向けてスカート状に膨出したベース部を一体に形成する構成」であるとし、本件登録意匠独自の特徴部分であるとして、これがイ号意匠と共通する旨主張している。
しかしながらかかる主張には全く根拠がない。即ち、上記本件登録意匠の要部は、要約すれば、本体の正面形状の左右両肩部に比較的大きなコーナーアールを設け、本体の下部に、正面と左右両側面の底端を外側に向けてスカート状に膨出させて末広がりとした点にあるが、かかる形状は、本件登録意匠に係る物品としては極めてありふれた意匠の部分と言わざるを得ない。
例えば、甲第6号証、甲第7号証及び甲第8号証の公知意匠においては、物品の本体下部に、正面と左右両側面の底端を外側に向けてスカート状に膨出させて末広がりとした形状となしており、特に甲第8号証の意匠においてはこの点が顕著である。また、前記「コーナーアール」を設ける点については、甲第7号証とは単に程度の違いがあるだけで、これを以って独自性のある特徴部分とすることはできない。
従って判定請求人が前記要部を以って本件登録意匠独自の特徴部分であるとしてイ号意匠との類似性を主張することには正当な根拠が認められない。
更に判定請求人は、前記両意匠の差異点の各々に対し、甲各号証を引用して微弱なものと独断しているが、両意匠の類似性は総合的かつ全体的に判断すべきであり、前記差異点を総合的に見れば、両意匠の差は一般の需要者にも歴然としていることは明らかである。
(3)以上説明したように両意匠は一見して非類似であることは明白であるので、イ号意匠は本件登録意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属しないとの判定を求める。

第5.当審の判断
1.本件登録意匠
本件登録意匠は、平成1年2月21日の意匠登録出願に係り、平成5年9月29日に意匠権の設定の登録がなされたものであって、その願書の記載及び願書に添付した図面代用写真によれば、意匠に係る物品を「電気ストーブ」とし、その形態が、同添付図面に示されるとおりのものである(別紙第1参照)。
2.イ号意匠
イ号意匠は、判定請求書に添付した甲第3号証に示されるとおりのものである(別紙第2参照)。
3.両意匠の対比
そこで、本件登録意匠とイ号意匠とを対比すると、両意匠は意匠に係る物品が一致し、その形態について、以下の共通点と差異点が認められる。
<共通点>
両意匠は、全体を、やや裾広がりの扁平な縦長筐体状とし、その上部四隅を大きな隅丸状に形成したものであって、その下部略5分の1の高さの前面及び両側面を略ハカマ状に突出させて脚部とし、本体部と一体として形成し、脚部を除く正面全体の中央部略5分の4に略正方形のガード部を装着した基本的構成態様が共通し、また、両意匠の具体的態様について、
(1)全体の構成比について、縦:横:奥行きを略6:5:2としている点、
(2)本体上面右方略3分の1の箇所に凸円盤状の調節つまみを設けた点、
(3)本体両側部を、別材によって平面視略円弧状に構成した点、
が共通している、また両意匠の差異点として、
<差異点>
(イ)本体前面に設けられたガード部について、本件登録意匠は、柵状であるのに対し、イ号意匠は網目状である点
(ロ)本体上面左側に設けられた蒸気放出孔について、本件登録意匠は、本体上面左側略4分の1の箇所に設けているのに対し、イ号意匠は蒸気放出孔を設けていない点、
(ハ)脚部表面のレリーフ模様等について、本件登録意匠は、脚部に何ら模様を表していないのに対し、イ号意匠は正面中央部に横長楕円状のエンブレム及びその周側に、エンブレムに沿って横長凹字状としたレリーフ模様を表し、また、両側面の同高の位置に上下3条のレリーフ模様を表している点、
(ニ)イ号意匠は本体両側の別材部及び調節つまみ部をやや暗調子に表しているのに対し、本件登録意匠は全体を明調子としている点、
に差異がある。
4.類否判断
そこで、前記の共通点と差異点が両意匠の類否判断に及ぼす影響について、以下に検討する。
まず、基本的構成態様の共通点、すなわち、全体を、やや裾広がりの扁平な縦長筐体状とし、その上部四隅を大きな隅丸状に形成したものであって、その下部略5分の1の高さの前面及び両側面を略ハカマ状に突出させて脚部とし、本体部と一体として形成し、脚部を除く正面全体の中央部略5分の4に略正方形のガード部を装着した点については、この本件登録意匠出願前にはみられない独特の、本件登録意匠を特徴づける態様であって、本件登録意匠とイ号意匠との類否判断に及ぼす影響は極めて大きいものといえる。
また、共通点の具体的態様の(1)〜(3)については、この出願前から普通に知られている態様であって、両意匠の類否判断に及ぼす影響はさほど大きいものとはいえない。
よって、本件登録意匠は、意匠全体としてイ号意匠と共通する意匠的効果を発揮しており、その類否判断に及ぼす影響は、大きいというべきである。
一方、両意匠の差異点(イ)について、この種物品分野においては、ガード部を柵状とすること、網目状とすることは共に普通に知られており、また、共に、ありふれた態様のものであることを考慮すると、両意匠の類否判断に及ぼす影響は微弱なものといわざるを得ない。
また、差異点(ロ)について、意匠全体として見れば、極部分的な差異といえ、両意匠の類否判断に及ぼす影響は微弱なものといわざるを得ない。
また、差異点(ハ)の脚部表面のレリーフ模様の有無については、この種物品の創作においては二義的な創作であり、両意匠の類否判断の要素としてさほど評価できず、この点が両意匠の類否判断に及ぼす影響は小さいものである。
(ニ)については、意匠を実施するときの一態様であり(例えば、1990年9月30日株式会社東芝発行の内国カタログ(独立行政法人工業所有権総合情報館受入1990年9月25日)「東芝電気暖房機」第32頁記載の温風暖房機(製品番号SF-702)の意匠(意匠課公知資料番号第HC02049460号、別紙第3参照 )等)本件意匠実施時の採り得べき態様のうちの一であって、その類否判断に及ぼす影響は微弱なものというほかない。
そうして、差異点(イ)乃至(ニ)が相俟って、相乗効果を生じることを考慮しても、
イ号意匠は意匠全体として本件登録意匠にない格別の特異性を発揮するまでには至っておらず、前記の各差異点が両意匠の類否判断に及ぼす影響は微弱なものといわざるを得ない。
以上のとおりであって、両意匠は、意匠に係る物品は一致し、また、その形態についても、両意匠の共通点は、その類否判断に大きな影響を及ぼすものと認められるのに対し、差異点は、その類否判断に及ぼす影響が、微弱なものであるから、結局、共通点が差異点を凌駕する両意匠は、類似するものというべきである。
第6 むすび
したがって、イ号意匠は、本件登録意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属するものである。
よって、結論のとおり判定する。
別掲
判定日 2002-06-12 
出願番号 意願平1-6333 
審決分類 D 1 2・ 1- YA (D4)
最終処分 成立  
前審関与審査官 足立 雅子上島 靖範 
特許庁審判長 吉田 親司
特許庁審判官 木村 恭子
西本 幸男
登録日 1993-09-29 
登録番号 意匠登録第887079号(D887079) 
代理人 山本 明良 

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