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審決分類 |
審判 無効 2項容易に創作 無効とする L5 |
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管理番号 | 1073446 |
審判番号 | 無効2002-35133 |
総通号数 | 40 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 意匠審決公報 |
発行日 | 2003-04-25 |
種別 | 無効の審決 |
審判請求日 | 2002-04-08 |
確定日 | 2003-02-10 |
意匠に係る物品 | 戸車 |
事件の表示 | 上記当事者間の登録第1130877号「戸車」の意匠登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 |
結論 | 登録第1130877号の登録を無効とする。 審判費用は被請求人の負担とする。 |
理由 |
1.手続の経緯及び本件意匠 本件意匠は、平成12年11月22日に出願(意願2000-33310号)され、平成13年11月16日に設定の登録がなされ、平成14年1月15日に意匠公報が発行された意匠登録第1130877号であって、願書及び願書添付の図面によれば、意匠に係る物品を「戸車」とし、その形態を同図面記載のとおりとしたものである(別紙1参照)。 本件意匠の構成態様は概ね次のとおりである。 (1)全体の基本構成 車輪を車輪枠に組み込んだ左右対称形の戸車であって、車輪については、外周の中央に扁平転動部を突出させて両側に小径転動部を形成し、車輪枠については、板状基材の中央に長方形状の車輪挿通孔を設け、その長辺部に沿って両側を直角に起立させて車輪支持片を形成し、さらに短辺側を水平に延ばして一対の取付片を形成。 (2)車輪の態様 車輪幅を外径の略1/3弱程度とし、扁平転動部の幅を車輪幅の略1/3強程度として角部を角張らせ、小径転動部の幅を扁平転動部の略2/3程度として角部を丸め、さらにその外側に小径転動部の幅の略1/2程度の幅の角部を丸めた一段小径の円盤部を形成。 (3)車輪枠の態様 車輪支持部について、該部を側面視台形(梯形)状とし、その両裾部を切り落として小幅な垂直辺部を形成し、さらに底辺部中央をやや上げ底状に切り上げ、取付片を矩形板状として中央にネジ孔を形成。 2.請求人の主張 これに対し、請求人は、「登録第1130877号意匠(以下、本件意匠という)の登録を無効とする、との審決を求める。」と申し立て、その理由として、本件意匠は、甲第2号証(意匠登録第1066150号公報、別紙2参照)記載の戸車用車輪と、甲第3号証(実用新案登録第3000376号公報、別紙3参照)記載の図1及び、甲第4号証の3(TOTAL CATAROGUE KG PALTEC THE AGE OF カタログ、64頁、75頁、別紙4参照)記載の車輪枠との結合に基づいて、当業者ならずとも容易に創作することができたものであり、意匠法第3条第2項の規定に違反して登録されたものである旨主張し、証拠方法として、甲第1〜7号証を提出している。 請求人の主張は概ね次のとおりである。 (1)本件意匠は、同日に出願された意匠登録第1130939号意匠(甲第5号証、別紙5参照)に係る戸車用車輪を車輪枠に結合した結合意匠であり、戸車用車輪については、出願前公知の甲第2号証意匠と類似し、車輪枠については、甲第3号証図1及び、甲第4号証の3(64、75頁)の記載のとおり出願前公知であるから、本件意匠は、両者を単に結合させるだけで創作することができた創作性のない意匠である。 (2)本件意匠における車輪の基本的構成態様は、甲第5号証(意匠登録第1130939号公報)記載の意匠に係る物品の説明にあるように、「車輪の中央部分に扁平な転動部と、転動部の両側方に角部をアールにした二段の小径転動部とを形成した点に特徴がある」ものであって、甲第2号証意匠と同じであることが甲第6号証の比較図(別紙6参照)から明らかである。 (3)本件意匠における車輪は、前記基本的構成に加えて、小径転動部の厚みの略半分の厚さの円盤部が小径転動部の両側面に形成されており、この円盤部と前記基本的構成の組み合わせが本件意匠における具体的構成態様となっているが、甲第2号証意匠においても、小径転動部の両側面に円盤部が形成されており、前記基本的構成に加えて、小径転動部の両側面に円盤部を形成した具体的構成態様は同じであって、本件意匠における車輪の意匠は、甲第2号証意匠に類似するものと言わざるを得ない。 (4)本件意匠における車輪と甲第2号証意匠には、小径転動部のアールの形状と、円盤部の厚み及び直径に若干の相違点があるが、これらの相違点は、全体形状に埋没してしまう程度の微差に過ぎない。また、甲第7号証意匠(意匠登録第976682号、別紙7参照)との対比から、角部をアールとした小径転動部が甲第2号証意匠の特徴的な構成要件となっているもので、この特徴的な構成要件がある本件意匠における車輪の意匠は、アールの形状に若干の相違点があっても甲第2号証意匠と類似するものである。 (5)本件意匠における車輪枠については、甲第3号証の図1及び甲第4号証の3の64頁、75頁の型番MUS-4500、M-45、MM-45で表示される車輪枠に見られるように、極めてありふれた形状であって、車輪枠単独の意匠には登録性がないものである。 (6)本件意匠は、意匠に係る物品が戸車というだけで、実質的には戸車用車輪の意匠と言えるものであって、戸車用車輪が出願前公知の甲第2号証意匠に類似する限り登録性のない意匠であると言えるものである。 [証拠方法] (1)甲第1号証 意匠登録第1130877号公報 (2)甲第2号証 意匠登録第1066150号公報 (3)甲第3号証 実用新案登録第3000376号公報 (4)甲第4号証の1 意願平9-51066号の写し (5)甲第4号証の2 意願平9-51066号に対する拒絶理由通知書の写し (6)甲第4号証の3 「TOTAL CATAROGUE KG PALTEC THE AGE OF」カタログの写し (7)甲第5号証 意匠登録第1130939号公報 (8)甲第6号証 本件意匠と甲第2号証意匠の比較図 (9)甲第7号証 意匠登録第976682号公報 3.被請求人の主張 一方、被請求人は、平成14年6月18日付で答弁書を提出し、本件登録意匠は、意匠法第3条第2項に該当するものではない旨主張し、証拠方法として、乙第1〜2号証を提出している。 被請求人の主張は、概ね次のとおりである。 (1)出願前公知の文献として請求人が引用した甲第4号証の3「TOTAL CATAROGUE KG PALTEC THE AGE OF」には発行日の記載がなく、出願前公知の文献であることは何ら立証されていない。 尚、甲第4号証の2の拒絶理由通知書には該文献の64頁所載の意匠が拒絶引例として記載されているが、甲第4号証の3の64頁所載の意匠には特許庁の公知資料番号が記入されていないから、該文献が特許庁受入のものかどうか不明であり、又、該文献75頁は拒絶引例ではないから、出願前公知であったかどうか全く分からないものである。 (2)本件意匠の車輪は、甲第5号証意匠の実施品であるが、甲第2号証意匠と甲第5号証意匠が非類似であることは、乙第1号証の斜視対比図(別紙8参照)からも明らかである。 (3)本件意匠の車輪枠は、中央の戸車保持部が梯形状で止め金具の外方に張り出して設けられているのに対して、甲第4号証の3の車輪枠は、中央の戸車保持部が止め金具の外方に張り出して設けられておらず、止め金具と面一となっている(別紙8参照)。 また、甲第3号証図1及び甲第4号証の3の64頁所載の車輪枠の戸車保持部は、上辺が丸い山形となっているのに対し、本件意匠の車輪枠の戸車保持部は、三角形の上辺を水平に切断した梯形となっており、両者の形状は相違している。 (4)したがって、本件意匠が甲第2号証の戸車用車輪と甲第3号証の図1及び甲第4号証の3の64頁、75頁記載の車輪枠を単に結合させるだけで創作することができたという請求人の主張は誤りである。 [証拠方法] (1)乙第1号証 斜視対比図 (2)乙第2号証 「戸車の車輪枠」の対比図 4.当審の判断 4.1 甲第5号証意匠について 本件意匠と甲第5号証意匠(別紙5参照)を対比検討すると、甲第5号証の戸車用車輪の意匠は、本件意匠における車輪の意匠と略一致するものと認められる。 4.2 請求人の主張について (1)請求人は、2.(2)において、甲第5号証の「意匠に係る物品の説明」の記載をそのまま援用し、本件意匠における車輪の意匠の基本的構成態様を「車輪の中央部分に扁平な転動部と、転動部の両側方に角部をアールにした二段の小径転動部とを形成した点」であるとした上で、基本的構成態様が甲第2号証意匠(別紙2参照)と同じであるとしているが、甲第2号証意匠の「角部をアールにした小径転動部」は、「二段」ではなく「一段」である。 しかしながら、請求人は、甲第6号証の比較図(別紙6参照)において、本件意匠における車輪の「二段の小径転動部」のうちの外側の段部を「円盤部」と認定し、2.(3)及び(4)において、小径転動部の両側面に形成されている「小径転動部の略半分の厚みの円盤部」を基本的構成態様に加えた組み合わせが本件意匠における車輪の意匠の具体的構成態様であるとしており、被請求人もこの認定に対して異論を唱えていないことから、上記基本的構成態様については、「車輪の中央部分に扁平な転動部を形成し、その両側に角部をアールにした小径転動部を形成した点」等と記載すべきであったものと思量される。 (2)請求人は、2.(6)において、「本件意匠は、意匠に係る物品が戸車というだけで、実質的には戸車用車輪の意匠と言えるものであって、戸車用車輪が出願前公知の甲第2号証意匠に類似する限り登録性のない意匠である」としているが、本件意匠を構成する車輪と車輪枠は、戸車を構成する部品であって、それぞれ機能、使用目的等が異なるものであり、両者を一体化した戸車もまた、車輪や車輪枠とは機能、使用目的等が異なるものであるため、相互に意匠の類否を論ずることができないものであることは明らかである。したがって、戸車の意匠である本件意匠を実質的に車輪の意匠であるとする請求人の主張は失当である。 4.3 被請求人の主張について (1)甲第4号証の3 被請求人は、請求人の提出した甲第1〜7号証のうち、甲第4号証の3の文献が特許庁受入のものかどうか、また該文献の64,75頁の記載内容が本件意匠の出願前に公知であったかどうか不明であるとしているが、当審の調査によれば、該文献は平成6年2月25日に独立行政法人工業所有権総合情報館(旧特許庁総合情報館)が受け入れたものであり、該文献の64,75頁の記載内容は甲第4号証の3の当該頁の記載内容と一致するので、該文献は、本件意匠の出願前に公知であったものと認められる。 (2)乙第1号証 被請求人の提出した乙第1号証の斜視対比図(別紙8参照)に記載された斜視図は、本件意匠に用いられている車輪と甲第2号証意匠の車輪における小径転動部の角部の丸みの違いを補助線や陰影を付加することによって故意に際立たせており、両者の他の図面に記載された形態との整合性を欠くものと認められるので、当該部位の形態の違いを示す証拠として採用することはできない。 4.3 本件意匠について そこで、本件意匠について検討すると、本件意匠の構成態様は、前記1.(1)〜(3)に示すとおりである。 (1)全体の基本構成 全体の基本構成については、甲第4号証の3(別紙4参照)及び甲第2号証(別紙2参照)から明らかなように、その出願前に公然知られていたものと認められる。 (2)車輪の態様 車輪の態様については、本件意匠の車輪と甲第2号証意匠には次に示す共通点と相違点が認められる。 【共通点】 (a)外周の中央に角部を角張らせた扁平転動部を突出させ、その両側に小径転動部を形成し、さらにその外側に一段小径の円盤部を形成している点。 (b)小径転動部の角部を丸めている点。 (c)車輪幅を外径の略1/3弱程度とし、中央の扁平転動部の幅を車輪幅の略1/3強程度としている点。 【相違点】 (a)小径転動部の幅について、本件意匠の車輪においては、該部の幅を扁平転動部の幅の略2/3程度としているのに対し、甲第2号証意匠においては、該部の幅を扁平転動部と同程度としている点。 (b)円盤部の態様について、本件意匠の車輪においては、該部の幅を小径転動部の幅の略1/2程度として、角部を丸めているのに対し、甲第2号証意匠においては、該部の幅を小径転動部の幅の略1/10程度として、角部を直角に角張らせている点。 上記共通点及び相違点について、検討すると、共通点(a)に示す車輪全体の基本的な態様に共通点(b)及び(c)に示す態様が加わった態様は、両意匠の骨格を成す態様ではあるが、共通点(a)に示す態様については、甲第2号証意匠の出願前に公然知られていたものであることが甲第7号証(別紙7参照)から明らかであるため、相違点(b)の円盤部における差異を圧倒するほど強い類似性をもたらすものではなく、創意に富んだ態様であるとすることもできない。 一方、相違点(a)の小径転動部の幅における差異については、形態の共通性を維持した範囲内での僅かな数量的改変の域を出ないものと認められる。 しかしながら、相違点(b)の円盤部の態様における差異については、甲第5号証公報(別紙5参照)の記載にあるように、本件意匠の車輪における円盤部が「角部をアールにした二段の小径転動部」のうちの外側のものであることから、転動部としての機能も併せ持つものであるのに対し、甲第2号証意匠の円盤部は、車輪全体に対する幅及び位置関係を考慮すれば、転動部として機能することを目的としたものではないと思量される。 してみると、相違点(b)の円盤部の態様における差異は、単なる数量的改変に止まらず、車輪の設計思想にまで及ぶ質的なものであって、視覚効果における差異も顕著であると判断せざるを得ない。 したがって、車輪同士の意匠の類否を論ずる場合においては、本件意匠における車輪の意匠が甲第2号証意匠と類似するものであるとする請求人の主張2.(2)〜(4)は採用することができない。 しかしながら、車輪を車輪枠に組み込んで一体化した戸車の意匠においては、意匠全体の構成要素が車輪単体とは異質のものとなることは明らかであり、戸車の意匠である本件意匠においては、相違点(b)に係る円盤部は、車輪単体の意匠における当該部位に比べて一段微細な部位となり、意匠の構成要素としての比重も著しく減少するものと認められる。 すなわち、本件意匠を全体的に見た場合においては、円盤部のもたらす視覚効果は、甲第7号証の車輪(別紙7参照)の小径転動部及び円盤部の角張った角部に常套的手法である面取りを施して丸面とし、ありふれた車輪枠に組み込むだけで表出する程度のありふれたものであって、本件意匠を特徴付けるものではなく、技術的効果についてはともかくとして、そこに意匠の構成要素として評価すべき創意は認められない。 (3)車輪枠の態様 車輪枠の態様については、車輪支持部を側面視台形(梯形)状として、底辺部中央をやや上げ底状に切り上げた態様が本件意匠の出願前に公然知られていたものであることが甲第4号証の3(別紙4参照)から明らかであり、車輪支持部の両裾部を切り落として小幅な垂直辺部を形成することも、甲第3号証(別紙3参照)、甲第4号証の3に示されるように、この種の物品におけるありふれた手法であることは明らかである。 また、取付片の両側に甲第4号証の3に記載された戸車の当該部位に見られる低いリブを形成せずに、取付片を矩形の単板状とした点については、最も基本的な端部処理であって、意匠の構成要素として特筆すべきものは無い。 なお、被請求人が3.(3)で主張する「戸車保持部(車輪支持部)が止め金具の外方に張り出して設けられている」点(別紙8参照)についても、張出幅が車輪支持部の肉厚程度であって、取付片の両側にリブを形成しないように車輪支持片を起立させたことに連動して生ずる位置ズレの域を出ないものであるため、やはり意匠の構成要素として特筆すべきものは無い。 すなわち、本件意匠は、出願前にその意匠の属する分野における通常の知識を有する者が、日本国内において公然知られた形状に基づいて容易に創作できたものであると認められる。 5.むすび 以上のとおりであって、本件意匠は、意匠法第3条第2項の規定に違反して登録を受けたものであるから、同法48条第1項第1号に該当する。 よって、結論のとおり審決する。 |
別掲 |
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審理終結日 | 2002-12-02 |
結審通知日 | 2002-12-05 |
審決日 | 2002-12-26 |
出願番号 | 意願2000-33310(D2000-33310) |
審決分類 |
D
1
11・
121-
Z
(L5)
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最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 石坂 陽子、早川 治子 |
特許庁審判長 |
藤木 和雄 |
特許庁審判官 |
江塚 尚弘 岩井 芳紀 |
登録日 | 2001-11-16 |
登録番号 | 意匠登録第1130877号(D1130877) |
代理人 | 大西 浩 |
代理人 | 杉本 勝徳 |