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審決分類 審判 判定  同一・類似 属する(申立成立) M3
管理番号 1093323 
判定請求番号 判定2003-60078
総通号数 52 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 意匠判定公報 
発行日 2004-04-30 
種別 判定 
判定請求日 2003-10-15 
確定日 2004-02-25 
意匠に係る物品 運搬車用キャスタ- 
事件の表示 上記当事者間の登録第0946347号の判定請求事件について、次のとおり判定する。 
結論 (イ)号図面及びその説明書に示す「運搬車用キャスタ-」の意匠は、登録第0946347号意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属する。
理由 第1 請求人の申立て及び理由の要点
請求人は、結論同旨の判定を求めると申し立て、要旨次のとおり主張し、その証拠方法として、甲第1号証乃至甲第5号証の書証を提出している。
すなわち、
(1)本件登録意匠の要部(特徴的部分)
小型、低床、耐超重荷重性を実現するために創作された本件登録意匠の要部は、以下のとおりである。
A 正面図及び背面図において、キャスターは、全高よりは全幅がやや大きい。本体の高さより幅(直径)がやや大きい。車輪幅は取付板の幅のほぼ2分の1弱、車輪幅は車輪径(高さ)のほぼ4分の3である。
B 側面図において、車軸ボルトは、取付板の中心から取付板の幅の約8分の1程度の距離偏心しており、車輪は取付板の端縁(投影面)から突出せず、その内側にある。本体は、全体として円筒の右側を斜めに、左側を垂直に切り欠いて形成された形状で、全体としてほぼ三角形状である。脚部は上部の円筒部に連続する円筒形状部が大きい。
C 底面図において、本体は、ほぼ全体が円筒部の円周内に収まる構成である。車輪の外周面は取付板の外縁のやや内側にある。
D 以上総合して、高さが低く、幅が広く、一塊りのずんぐりした形態、本体が太く短い円筒状で、その中に車輪の大半が隠れている全体的印象から、コンパクト感、安定感、耐荷重性、堅牢性を看者に直感させる。
(2)本件登録意匠とイ号意匠との類否
イ号意匠は、本件登録意匠の要部の構成はもちろん、その他多くの具体的構成を具備しており、高さが低く、幅が広く、ずんぐりした印象、本体が太く短い円筒状で、その中に車輪の大半が隠れている全体的印象を看者に与えるという共通の美感を有するものであり、イ号意匠は本件登録意匠に類似するものである。
相違点である構成は、甲第5号証に示すように何れも本件登録意匠の出願前に周知の構成であり、上記共通の美感を左右するに足るものではない。
(3)むすび
以上の通り、イ号意匠は本件登録意匠と美感を共通にするから、本件登録意匠に類似する意匠の範囲に属する、との判定を求める。
第2 被請求人の答弁及び理由の要点
被請求人は、イ号意匠は本件登録意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属しない、との判定を求める旨答弁し、その理由として要旨以下のとおり主張し、その証拠方法として、乙第1号証乃至乙第10号証の書証を提出している。
すなわち、
(1)「本件登録意匠の特徴部分」に関する請求人の主張について
請求人は、「・・高さが低く、幅が広く、一塊のずんぐりした形態、本体が太く短い円筒状で、その中に車輪の大半が隠れている全体的印象から、コンパクト感、安定感、耐荷重性、堅牢性を看者に直感させる。」(請求書3頁最終行〜4頁2行)、との構成が本件登録意匠の特徴点であると主張するが、いずれも、本件登録意匠の出願日以前から技術上当然の構成として広く採用されてきたものであり、本件登録意匠により初めて採用された新規な特徴ではない(乙第2号証〜乙第8号証)。かかる構成はいずれも自由技術であり、本件意匠権によって独占されるべきものではない。
(2)本件登録意匠とイ号意匠との類否について
イ.本件登録意匠とイ号意匠との一致点は、いずれも多数のキャスターが共通して備える構成、若しくは、キャスターに技術的に要求される構成であり、本件登録意匠のみが有する特徴的な構成ではない。
ロ.これに対し、本件登録意匠とイ号意匠との間には顕著な相違点が多数存在しており、看者が受ける印象としては、かかる顕著な相違点が共通点を遙かに凌駕しており、両意匠は美感を異にする非類似の意匠であることは自明である。
ハ.イ号意匠を見た場合、本件登録意匠には存在しない大きく角張った庇部と、鉢巻のような幅太で光沢のある黒い合成樹脂製カバーがまず目に飛び込んでくる。そして、庇部と連なる切欠部周縁が全て平滑に形成されているために、この庇部及び切欠部周縁の平滑部分が円筒部から浮かび上がって強調されており、意匠全体として看者に角張った印象を与える。これらの角張った印象と鉢巻のような存在感ある黒い合成樹脂製カバーが相俟って、イ号意匠は、意匠全体として力強く、ごつごつと角張った印象を与えている。さらに大きく出っ張った庇部により車輪が本体の内側に完全に収まっているため、障害物への衝突もこの頑丈な庇部によりガードされるという安心感を看者に抱かせる。
すなわち、イ号意匠は意匠全体として、力強く、ごつごつと角張った印象を受けるのに対して、本件登録意匠からはこのような印象を受けることは全くない。両意匠は基調とする美感を著しく異にしており、非類似であることは明白である。
(3)総括
以上の通り、イ号意匠は本件登録意匠と美感を著しく異にする非類似の意匠である。
第3 当審の判断
1 本件登録意匠
本件登録意匠は、昭和61年8月29日の意匠登録出願(昭和61年意匠登録願第33572号)に係り、平成7年11月24日に設定の登録がなされた意匠登録第946347号の意匠であって、願書の記載によれば、意匠に係る物品を「運搬車用キャスター」とし、その形態は、願書に添付した図面代用写真により現されたとおりのものである(本件判定書に添付の別紙第一参照)。
2 イ号意匠
イ号意匠は、判定請求書及びイ号意匠の説明書の記載によれば、意匠に係る物品を「運搬用キャスター(製品名、SHG-50型超重荷重用キャスター)」とし、その形態をイ号意匠の説明書の記載及びその説明書に添付の図面代用写真に示すとおりとしたものである(本件判定書に添付の別紙第二参照)。
3 本件登録意匠とイ号意匠との対比考察
本件登録意匠とイ号意匠とを対比すると、両意匠とも運搬車用キャスターに係るものであって、意匠に係る物品が一致し、その形態については、主として以下に示す共通点及び差異点が認められる。
以下、本件登録意匠の願書に添付した図面代用写真の方向に、両意匠を揃えて認定する。
[共通点]
(1)全体が、水平な略平板状の取付板と、その取付板の下部に、ベアリング部を介して回動自在に設けた略円筒形状の本体と、本体下端寄りに水平に設けた車軸ボルトによって支持した車輪とからなる、基本的な構成態様のものである点、
各部の具体的な態様において、
(2)取付板は、四隅を小円弧状に隅切りした略隅丸正方形状であって、四隅寄りに取付ボルト用の小円孔を設けており、中央に本体取付用主軸の頭部が円形に現れ、その周囲にベアリング受け溝を円環状に設けたものである点、
(3)本体は、取付板の一辺よりやや短い横幅であって、下側の正面及び背面側を切り欠いて、上部の円筒部と、下部の左右一対の脚部とからなるものである点、
(4)車輪は、幅(厚さ)が直径の略5分の4の、略倒円柱形である点、
(5)各部の寸法比率は、取付板の幅:取付板の奥行き:全高:本体幅:車輪幅:車輪径が、略1.0:1.0:0.9:0.8:0.5:0.6である点、
(6)脚部は、正面寄り略半分を内側に窪ませて平坦状の軸受部を形成し、そこに車軸ボルトを本体の中心軸よりやや正面側に偏心して設けている点、
(7)本体の切欠部は、正面側が下方に開放した略コ字形状であり、背面側が下広がりに開放する略等脚台形状である点、
(8)本体上部と取付板との間のベアリング部周囲に、本体とほぼ同幅で薄い円柱形状部材を設けている点、
[差異点]
(イ)本体上部の正面側形状について、本件登録意匠は、円筒形状であるのに対して、イ号意匠は、正面側切欠部とほぼ同幅で角張った庇部を突出形成している点、
(ロ)本体上部と取付板との間に設けられた円柱形状部材について、形状が、本件登録意匠の方がイ号意匠より薄く、また、本件登録意匠は、明調子であるのに対して、イ号意匠は、暗調子である点、
(ハ)軸受け部の側面視形状について、本件登録意匠は、平坦部の正面側端部をほぼ垂直状とし、上部の円筒形状部との境界線をほぼ水平状としているのに対して、イ号意匠は、正面側端部を上方が正面側にやや傾斜する直線状とし、上部の境界線を正面側が上がる傾斜直線状としている点、
(ニ)本体切欠部の形状について、正面側切欠部の上辺の二隅を、本件登録意匠は円弧状としているのに対して、イ号意匠は略直角状としており、背面側切欠部の上辺を、本件登録意匠は水平な直線状としているのに対して、イ号意匠は上方に膨らむ円弧状としている点、
4 類否判断
これらの共通点及び差異点を総合して、両意匠を全体として考察すると、前記共通するとした、(1)の基本的な構成態様、及び具体的な態様の共通点、特に(2)ないし(4)は、本件登録意匠の出願前に既に見られるものではあるが、形態の大部分を占める主要部を構成して、意匠全体の基調を成しており、(5)の各部の寸法比率が共通する点も加わって、両意匠の類否判断に支配的な影響を及ぼすものであり、具体的な態様におけるその他の共通点、(6)ないし(8)とも相俟って、類否判断に及ぼす影響は相当大きい。
一方、差異点については、
(イ)の本体上部の正面側形状については、切欠部の上部に庇部を形成しているか否かの差異であるが、両意匠が本体を略円筒形状としている中で、正面側切欠部の上部という限られた部位における、本体の幅の略6分の1程度の突出幅の小さな庇部の有無にすぎず、また、イ号意匠の庇部形状が、先端を本体の円筒形と同心円の円弧状としていることから、円筒形状としている本件登録意匠の同部とさほど顕著な差異があるものとは認められず、類否判断に与える影響は微弱である。
(ロ)の本体上部の円柱形状部材の形状及び明暗調子の差異については、まず、形状の差異については、この程度の厚さの.相違は通常の変更の範囲内であって、看者が着目するほどの差異ではなく、類否判断に与える影響は微弱である。次に、明暗調子の差異について、本件登録意匠の図面代用写真は、色彩を付さないものであるから、円柱形状部材について、被請求人が、本願意匠に付されていない色彩(肌色)について主張している点は、失当であり、また、イ号意匠について、請求人及び被請求人の提出した証拠によっては、黒色と特定することはできないが、取付板の下側というあまり目立たない部位における、厚さが薄い部材に係る明暗調子の違いであって、材質の選択によって各種明暗調子のものが見られる部位でもあるので、特段看者がその差異に着目するほどのものではなく、明調子であるか暗調子であるかの差異が、類否判断に与える影響は微弱である。
(ハ)の軸受け部の側面視形状の差異については、平坦部の正面側端部について、側面視において注視して初めて判る程度の傾斜の有無、及び上部の境界線という限られた部分における傾斜の差異であって、両意匠が、本体略下半分の正面寄りに平坦部を形成して軸受け部としている共通性に対して、部分的で微弱な差異に止まり、形態全体の基調に影響を与えるほどの要素でもないから、類否判断に与える影響は微弱である。
(ニ)の切欠部形状の差異については、いずれも正面側上辺の二隅、あるいは背面側上辺という限られた部位の差異に止まり、切欠部形状の共通性に対して部分的で僅かな差異にすぎないので、類否判断に与える影響も微弱に止まる。
そうすると、前記(イ)ないし(二)の 両意匠に係る形態の差異点は、いずれも類否判断に与える影響は微弱なものであって、これらが相俟って生じる効果を総合したとしても、類否判断に及ぼす影響は、微弱なものといわざるを得ない。
以上のとおりであって、両意匠は、意匠に係る物品が一致し、形態においても、共通点が、形態全体に係わる基調を形成して類否判断に大きな影響を及ぼし、差異点を凌駕しているので、イ号意匠は、本件登録意匠に類似するものである。
5 むすび
イ号意匠は、本件登録意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属する。
よって、結論のとおり判定する。
別掲
判定日 2004-02-13 
出願番号 意願昭61-33572 
審決分類 D 1 2・ 1- YA (M3)
最終処分 成立  
前審関与審査官 中川 シゲ子 
特許庁審判長 伊勢 孝俊
特許庁審判官 鍋田 和宣
永芳 太郎
登録日 1995-11-24 
登録番号 意匠登録第946347号(D946347) 
代理人 福島 三雄 
代理人 大塚 忠 

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