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審決分類 審判 無効  意9条先願 無効とする J7
管理番号 1111312 
審判番号 審判1999-35535
総通号数 63 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 意匠審決公報 
発行日 2005-03-25 
種別 無効の審決 
審判請求日 1999-09-28 
確定日 2000-06-26 
意匠に係る物品 輸液容器 
事件の表示 上記当事者間の登録第0929552号の類似第2号意匠「輸液容器」の意匠登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 登録第0929552号の類似第2号意匠の登録を無効とする。 審判費用は被請求人の負担とする。
理由 第一 請求の趣旨及びその理由
請求人は、「意匠登録第929552号の類似第2号の登録はこれを無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求める。」と申し立て、その理由として大要以下のとおり主張し、証拠方法として甲第1号証の1及び2,甲第2号証乃至甲第14号証、甲第15号証の1及び2,甲第16号証乃至甲第19号証、甲第20号証の1及び2,甲第21号証乃至甲第24号証の書証、検甲第1号証及び検甲第2号証の物証を提出し、証人尋問の申請をしたものである。意匠登録第929552号の類似第2号意匠については、以下、「本件登録意匠」という。
1 無効理由の1
本件登録意匠は、先願登録意匠である意匠登録第989089号の類似第1号意匠(以下、「甲号意匠」という。)に類似するので、意匠法第9条第1項の規定に違背して登録されたものであり、その登録は、無効とされるべきである。
1 無効理由の2
本件登録意匠は、本件登録意匠の出願前より公知公用の意匠(本件審判請求人の一人である扶桑薬品工業株式会社販売の製品「フィシザルツPL-D」の意匠。以下、「実施意匠」という。)に類似するので、意匠法第3条第1項第3号の規定に違背して登録されたものであり、その登録は、無効とされるべきである。
第二 被請求人の答弁及びその理由
被請求人は、「本件審判の請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求める。」と答弁し、その理由として大要以下のとおりの反論をし、証拠方法として乙第1号証乃至乙第3号証の書証を提出したものである。
1 無効理由の1に対する反論
両意匠は、意匠に係る物品が同一であって、その形態については、以下の共通点と差異点がある。
即ち、まず共通点について、全体の基本的な構成態様として(1)横幅が奥行きより長く、縦長の略角丸直方体状の上下面中央に口栓部を設けた容器本体の上側に容器本体より小さな略円筒状のニードルケースを取り付けた態様である点、(ただし、弦{答弁書の文字を便宜的に変更して使用する。}状吊り手段の有無という点は後述するごとく大きな差異点であるが)、各部の具体的な態様において、(2)容器本体は、本体部が丸みをおび、ニードルケースはほぼ角張っている点が認められる。
次いで、差異点について、全体の基本的な構成態様として、(イ)本件登録意匠は弦状吊り手段を有するのに対し、甲号意匠は弦状吊り手段を一切有しない点、各部の具体的な態様において、(ロ)容器本体について、本件登録意匠は正面幅が奥行きのほぼ1.5倍、高さがほぼ2倍の比率のもので、上方視楕円状で、下部口栓部には、有底円筒状のやや大きな蓋が被せられ、下面に円形フィルムシートが貼着されているのに対して、甲号意匠は、正面幅が奥行きのほぼ2倍、高さがほぼ3倍の比率のもので、上方視長円状で、下部口栓部には、鍔縁内に円盤状栓が嵌設され、下面に正方形フィルムシートが貼着されている点が認められる。
そこで、上記の共通点と差異点が両意匠の類否の判断に及ぼす影響の大きさについて、以下に検討する。
まず、共通点について、(1)の点については、全体の基本的な構成態様(ただし、弦状吊り手段の有無を除く)に係るものであるが、両意匠のみに認められるものでなく、甲号意匠の出願前において既に他の出願(登録第780294号意匠)にみられる態様であって、この点に甲号意匠の特徴があるものとはいえず、また構造上の必然的構成に近い態様でもあり、各部のより具体的な態様のありようが類否を左右するものというべきであり、その影響は、さほど大きいものとということはできない。このことは、甲号意匠が登録第926536号意匠と非類似の意匠として登録がなされていることからも肯けるものというべきである。
(2)の点は、輸液容器の本体部分の正面視の形態の共通感を感得させるものであるが、未だそれは輸液容器の形態の特徴の大半を占めるまでには至っておらず、また容器一般として特段の特徴のあるものでもなく、全体として及ぼすその影響は、いまだ軽微に止まるものである。
そうすると、上記の共通点は、これらが纏まって相乗的な効果が付加される余地を考慮したとしても、全体としてその影響は、類否を左右するまでのものと評価することができないものである。
次いで、差異点について、(イ)の点は、ニードルケースに取り付けられたアーチ状の吊り手段の有無を比較すると極めて大きな差異であり、この差異により看者が受ける印象の差異を考慮すると、その影響はかなり大きなものである。
すなわち、弦状の吊り手段はは本件登録意匠およびその本意匠において特異な美感を創出している。このことは、本意匠の出願前の公知意匠をみてもあきらかである。本意匠は公知意匠とは異なる特徴点(前記基本的構成態様および具体的構成態様)を有しており、それらの特徴点はそっくりそのまま本件登録意匠にも存在する。特に弦がバッキンガム宮殿の儀仗兵の胸像のごとき印象を与えるのである。かかる弦の大きな形状は公知意匠には全く存在しなかった形状である。弦の大きな形状は、本意匠および本件登録意匠の固有の特徴であり、この有無は、本件登録意匠と甲号意匠の差異を決定づける要素である。
この点、請求人は「この種の輸液容器は、何らかの吊り手段で吊り下げることが自明であり」「U字形状の吊り下げ手段自体は周知の形態である」と主張するが、弦状吊り手段のみを全体から切り離して判断するのでなく、全体の意匠を観察すべきである。(ロ)の点は、それぞれが輸液容器の注視される各部の具体的な態様および各部の比率に係る大きな差異点であって、そのような差異点から受ける印象の差異も大きく、その全体に及ぼす影響は、かなり大きいものというべきである。
そうすると、上記の差異点は、これらが合わさって全体に及ぼす影響は、かなり大きいというべきである。
以上のとおりであって、共通点が差異点を凌駕しているとはいえない両意匠は、類似しているとはいえないものである。
2 無効理由2に対する反論
請求人の実施意匠は、本件登録意匠の出願前の実施(平成8年10月1日)により公知となったものであるが、この実施意匠は本意匠に類似するので、本意匠の意匠権の効力の及ぶ範囲に属し、その実施は、本意匠の意匠権者に対する関係で許されない。この実施意匠に類似意匠登録を阻止する効力を認めることは、意匠権者の保護の強化を目的とする類似意匠登録制度の趣旨に反することとなる。(昭和58年行ケ232号判決)
第二 当審の判断
1 本件登録意匠
本件登録意匠は、平成9年4月24日に出願があり、平成11年2月12日に登録が為された登録第929552の類似2号意匠であって、意匠に係る物品が「輸液容器」、意匠に係る形態が願書及び添付図面に示されるとおりのものである。(別紙第一参照)
2 甲号意匠
甲号意匠は、本件登録意匠の出願の日前の平成7年12月28日に出願があり、平成9年5月9日に登録が為された登録第989089の類似1号意匠であって、意匠に係る物品が「医療用容器」、その形態が願書及び添付図面に示されるとおりのものである。(別紙第二参照)
3 本件登録意匠と甲号意匠の比較検討
本件登録意匠と引用意匠を比較すると、意匠に係る物品が共通するものと認められ、その形態については、主として以下の共通点と差異点が存在するものと認められる。
即ち、先ず、共通点について、全体の基本的な構成態様として、(1)横幅が奥行きより長く、高さが横幅より長い、上方視略横長長円状の容体の上下面中央から上下に向かって小径で背の低い口栓部を設けた態様の輸液容器の上側口栓部の上側に、輸液容器より稍小さい略有底円筒状のニードルケースを取り付けた態様のものである点、各部の具体的な態様において、(2)輸液容器の本体部につき、正面幅が奥行きの略2倍、高さが奥行きの略3倍、の概略比率のもので、肩部及びその下方の上下対称部分が角丸状を呈し、上下端寄り部分がなだらかな上下対称状の斜面を成して口栓部に集束し、上下の口栓部分が略短円筒状のもので、上側の口栓部の上下端と輸液本体部の上端部及びニードルケースの底面とが小さな段差状を現して結合している点、(3)ニードルケースについて、その高さが輸液容器本体部の高さの2分の1強、最大径が輸液容器本体部の奥行きより僅かに長く、底面周端部が角丸状に丸められ、上端部に鍔部を巡らせ、上端寄り外周部の対向部位に提げ手取り付け用の突片を突設している点、(4)ニードルケースの上面に僅かに外方にはみ出す態様でフィルムシートを貼着している点、(5)下側の口栓部について、その下方部分がその上方部分より一回り太径の円筒状を現している点、(6)下側の口栓部の下面に僅かに外方にはみ出す態様でフィルムシートを貼着している点、が認められる。
次いで、差異点について、各部の具体的な態様において、(イ) 輸液容器について、本件登録意匠は、その本体部が上方視楕円状で稍背が低く、正面視肩部の丸みが緩やかであり、下側口栓部の短円筒状は、上半部分の正背面部分を方形状の垂直平坦面状に削ぎ落としているのに対して、甲号意匠は、本体部が上方視長円状で稍背が高く、正面視肩部の丸みが稍鋭角的であり、下側口栓部の下側略半分の部分を太径状としている点(ロ)ニードルケースについて、本件登録意匠は、周側面の上端寄り部分につき、その下方部分より僅かに太径の帯状面を形成し、その下方部分に対して段差面を成しており、その下方部分が僅かに下窄まり状であるのに対して、甲号意匠は、段差面が存在せず、上下に掛けて同長径である点、(ハ)本件登録意匠にはU字状提げ手が取り付けられているのに対して、甲号意匠は、提げ手が取り付けられていない点、(ニ)ニードルケースの上面及び下側口栓部の下面に貼着されたフィルムシートについて、本件登録意匠が円形の一端を頂点を丸めた三角形状とした大小の相似形であるのに対して、甲号意匠は、大小の方形状の相似形である点、が認められる。
そこで、上記の共通点と差異点が両意匠の類否判断に及ぼす影響について、以下に検討する。
先ず、共通点について、(1)の点は、全体の基本的な構成態様を成すものであるから、類否に影響を及ぼすことは、明らかであるが、この態様と共通する意匠について、甲号意匠の出願の日前において出願(登録第780294号、平成2年1月26日意匠公報掲載。登録第926536号意匠、平成4年12月29日出願)があり、この事実を考慮すると、この基本的な態様の共通点のみによって両意匠が類似するとまではいえないものであって、、その影響は、稍大きい程度というべきである。(2)の点は、全体の中で過半の容積を占め、視覚に強く訴える輸液容器の態様の過半部分の共通点であって、両意匠の近似感をもたらすものであり、差異点を考慮したとしてもその影響は、かなり大きいというべきである。(3)の点は、全体の中で相当な容積を占め、且つ注視される部分の態様に係り、その大部分の態様の共通点であり、その影響は、かなり大きいというべきである。(4)及び(6)の点は、使用時には廃棄される一時的な機能を果たす付随的なものに過ぎず、その影響は微弱に止まるものである。(5)の点は、下側口栓部の態様の共通感をもたらすものであるが、特段特徴的なものでもなく、また大きな部分に係るものでもなく、その影響は、軽微に止まるものである。
そうすると、上記共通点が全体の類否に及ぼす影響は、(4)(5)(6)が微弱乃至軽微であることを考慮しても、(1)(2)(3)が纏まることによって、全体としては、かなり大きいものと評価されるものである。
次いで、差異点について、(イ)の点に関して、上方視楕円状と長円状の差異については平面形状としても近しい形状であり、肩部正面視の肩部の丸みについても程度差に過ぎず、その背の高さの差異も僅かの差異であって、これを立体として観察したときも近似の形態と把握されるものであり、下側口栓部の差異も全体から見れば小差に止まり、この差異が本願意匠に独特の特徴をもたらしているといえるものでもなく、この点の影響は、軽微というべきである。(ロ)の点は、子細に観察すれば、確かに感得される差異点ではあるが、帯状面の有無の点は、表面的、付加的で且つ特徴のあるものでもなく、その影響は、微弱に止まるものであり、下窄まりと上下同長径の差異についてはその窄まりの程度が極僅かで、底面周部の角丸状の共通点によってその差異感が薄められており、その影響は、微弱に過ぎないものである。(ハ)の点は、提げ手の有無という点では一見明白な差異ではあるが、甲号意匠においても同位置に提げ手が取り付けられて使用されることが明らかであり、一方本件登録意匠の提げ手の態様が本件物品の提げ手として極一般的なものに過ぎない点を合わせ考慮すると、本願意匠の特徴点ということができず、その影響は、軽微というべきである。(ニ)の点は、フィルムシートが使用時には廃棄される付随的なものであり、その態様も共に特徴のない一般的な形態に過ぎないことを考慮すると、その影響は微弱に止まるものである。
そうすると、上記差異点は、これらが纏まって相乗的な効果が発揮される点を考慮したとしても、全体としてのその影響は、軽微以上のものと評価することができないものである。
以上のとおりであって、差異点が共通点を凌駕するとはいえない両意匠は、結局類似するものと言わざるを得ない。
4 結び
従って、本件登録意匠は、意匠法第9条第1項の規定に違背して意匠登録を受けたものであるから、意匠法第48条第1項第1号に該当し、無効理由2についての判断をするまでもなくその登録は、無効とされるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
別掲

審理終結日 2000-02-21 
結審通知日 2000-03-28 
審決日 2000-05-09 
出願番号 意願平9-52744 
審決分類 D 1 11・ 4- Z (J7)
最終処分 成立  
前審関与審査官 生亀 照恵 
特許庁審判長 吉田 親司
特許庁審判官 岩井 芳紀
伊藤 栄子
登録日 1999-02-12 
登録番号 意匠登録第929552号の類似意匠登録第1号(D929552/1) 
代理人 岩谷 敏昭 
代理人 澤 由美 
代理人 岩谷 敏昭 
代理人 牛田 利治 
代理人 澤 由美 
代理人 朝日奈 宗太 
代理人 牛田 利治 
代理人 佐木 啓二 

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