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審決分類 審判 判定  同一・類似 属さない(申立不成立) D3
管理番号 1144850 
判定請求番号 判定2006-60015
総通号数 83 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 意匠判定公報 
発行日 2006-11-24 
種別 判定 
判定請求日 2006-03-09 
確定日 2006-10-04 
意匠に係る物品 提灯 
事件の表示 上記当事者間の登録第0843835号の判定請求事件について、次のとおり判定する。 
結論 イ号図面に示す「提灯台」の意匠は、登録第0843835号意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属しない。
理由 第一 請求の趣旨及びその理由
請求人は、「イ号図面に示す意匠(以下、イ号意匠という。)は、意匠登録第843835号意匠(以下「本件登録意匠」という。)及びこれに類似する意匠の範囲に属する、との判定を求める。」と申し立て、その理由として判定請求書の請求の理由及び弁駁書の弁駁の理由に記載の通りの主張をし、証拠方法として甲第1号証ないし甲第7号証の書証を提出したものである。
その主張の要点は、以下の通りである。
1.判定請求の必要性
請求人は、本件登録意匠の意匠権者である。被請求人が販売しているイ号意匠(甲第3号証参照。)の提灯台(イ号物件)は、本件登録意匠の意匠権を侵害するものであり、請求人は平成16年3月19日付けで被請求人を被告として意匠権侵害差止請求訴訟を提起した。これに対して、被請求人は「イ号意匠は、本件登録意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属しない」旨主張している。
上記の事情を踏まえ、本件判定の請求をするものである。
2.本件登録意匠
本件登録意匠は、昭和58年9月1日の意匠登録出願に係り、平成4年4月27日に意匠登録の設定がなされたものである。
本件登録意匠は、意匠登録出願の願書及び添付図面の記載によると、意匠に係る物品を「提灯」とし、その形態の要旨を次のとおりとするものである(甲第4号証参照(別紙第1参照))。
(1)基本的な構成態様は、全体が縦長の形状を有している提灯であって、提灯は、縦に垂直に延びる直線状の支柱と、支柱から正面方向に突設した棒材と、支柱の上端に取り付けられた屋根部と、屋根部から吊り下げられた提灯本体と、支柱の下端に取り付けられた台座からなる。
(2)具体的な構成態様は、
(a) 屋根部本体は、屋根部本体の正面端部を構成する前板と、屋根部本体の背面端部を構成する後板と、前板及び後板の上部と固着された切妻形屋根板から構成される。厚味が一定の切破風板が屋根部本体の正面端部に取り付けられている。切破風板は、正面視した場合、その拝み部から上縁と下縁それぞれが下側に向けて湾曲しており、拝み部から破風尻に向けて除々に幅が広がっていると共に、上縁が下縁よりも長くなった左右対称構造を有している。
切破風板の拝み部上端には、切破風板と同じ厚みを有する鬼瓦板が取り付けられている。
鬼瓦板の後方には、鬼瓦板より高さが低く幅が狭い、屋根部本体の奥行きと同じ長さの棟部材が、屋根部本体の頂部稜線に沿って取り付けられている。
(b) 縦に垂直に延びる直線状の支柱上端が屋根部本体の後板中央位置に取り付けられ、支柱の下端は台座の背面端部の中央位置に取り付けられている。
(c) どちらも同じ構造を有する上段の井桁と下段の井桁が重ねられ、上段の井桁と下段の井桁との間に矩形の隙間を有する二段の井桁で台座は構成されている。
井桁は断面四角形状の互いに同一寸法の棒材で組み立てられている。上段若しくは下段の井桁に薄板を架設している。
(d) 支柱よりも幅が狭い断面四角形状の棒状が、支柱正面の中央よりやや下から正面方向へ地面と略平行に突設している。棒材の長さは、屋根部及び台座の奥行きよりも短い。
(e) 提灯本体が屋根部の内側から吊り下げられ、提灯本体の底部と支柱正面から突設した棒材が紐体によって連結されている。提灯本体は屋根部分及び台座よりも幅が狭く、屋根部分と奥行きが同じであると共に、台座より奥行きが長い。
3.イ号意匠
イ号意匠の要旨は、次のとおりである(甲第5号証参照(別紙第2参照))。
(1)基本的な構成態様は、全体が縦長の形状を有している提灯台であって、提灯台は、縦に垂直に延びる直線状の支柱と、支柱から正面方向に突設した棒材と、支柱の上端に取り付けられた屋根部と、支柱の下端に取り付けられた台座からなる。
(2)具体的な構成態様は、
(a)屋根部本体は、屋根部本体の正面端部を構成する前板と、屋根部本体の背面端部を構成する後板と、前板及び後板の上部と固着された切妻形屋根板から構成される。厚味が一定の切破風板が屋根部本体の正面端部に取り付けられている。切破風板は、正面視した場合、その拝み部から上縁と下縁それぞれが下側に向けて湾曲しており、拝み部から破風尻に向けて除々に幅が広がっていると共に、上縁が下縁よりも長くなった左右対称構造を有している。切破風板正面の、拝み部と左右両破風尻には、紋章が付されている。
切破風板の拝み部上端には、切破風板と同じ厚みを有する鬼瓦板が取り付けられている。鬼瓦正面には、紋章が付されている。
鬼瓦板の後方には、鬼瓦板より高さが低く幅が狭い、屋根部本体の奥行きと同じ長さの棟部材が、屋根部本体の頂部稜線に沿って取り付けられている。
(b)接合された3つの断面四角形状部材で構成された縦に垂直に延びる直線状の支柱の上端が屋根部本体の後板中央位置に取り付けられ、支柱の下端は台座の背面端部の中央位置に取り付けられている。
(c)どちらも同じ構造を有する上段の井桁と下段の井桁が重ねられ、上段の井桁と下段の井桁との間に矩形の隙間を有する二段の井桁で台座は構成されている。
井桁は断面四角形状の互いに同一寸法の棒材で組み立てられている。下段の井桁に2枚の板を架設している。
(d)支柱よりも幅が狭い断面四角形状の棒状が、支柱正面の中央よりやや下から正面方向へ地面と略平行に突設している。棒材の長さは、屋根部及び台座の奥行きよりも短い。
4.本件登録意匠とイ号意匠との比較
(1)両意匠の共通点
(a)基本的な構成態様において、全体が縦長の形状を有し、縦に垂直に延びる直線状の支柱と、支柱から正面方向に突設した棒材と、支柱の上端に取り付けられた屋根部と、支柱の下端に取り付けられた台座からなる。
また、具体的な構成態様において、
(b)屋根部本体は、前板、後板、前板及び後板の上部と固着された切妻形屋根板から構成され、正面視した場合、その拝み部から上縁と下縁それぞれが下側に向けて湾曲して拝み部から破風尻に向けて除々に幅が広がっていると共に、上縁が下縁よりも長くなった左右対称構造を有する切破風板が、屋根部本体の正面端部に取り付けられている。
(c)切破風板の拝み部上端に鬼瓦板が取り付けられている。
(d)鬼瓦板の後方には、鬼瓦板より高さが低く幅が狭い、屋根部本体の奥行きと同じ長さの棟部材が、屋根部本体の頂部稜線に沿って取り付けられている。
(e)縦に垂直に延びる支柱の上端が屋根部本体に取り付けられ、支柱の下端は台座に取り付けられている。
(f)上段の井桁と下段の井桁が重ねられ、上段の井桁と下段の井桁との間に矩形の隙間を有する二段の井桁で台座は構成されている。井桁は断面四角形状の互いに同一寸法の棒材で組み立てられている。
(g)支柱よりも幅が狭い断面四角形状の棒状が、支柱正面の中央よりやや下から正面方向へ地面と略平行に突設している。
(2)両意匠の相違点
(a)本件登録意匠に係る物品が「提灯」であるのに対して、イ号意匠に係る物品は「提灯台」である。
(b)本件登録意匠の切破風板には紋章が付されていないが、イ号意匠の切破風板には、その拝み部及び両破風尻に紋章が付されている。
(c)本件登録意匠の鬼瓦板には紋章が付されていないが、イ号意匠の鬼瓦板には紋章が付されている。
(d)本件登録意匠の支柱は一続きの柱であるのに対して、イ号意匠の支柱は接合した3つの部材で構成されている。
(e)本件登録意匠の井桁には薄板が架設されているのに対して、イ号意匠の井桁には2枚の板が架設されている。
(f)本件登録意匠は提灯本体を含んだものであるのに対して、イ号意匠は提灯本体を含んでいない。
5.イ号意匠が本件登録意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属する理由
(1)本件登録意匠の要部
本件登録意匠に係る物品における意匠上の創作の主たる対象は、従来、単なる切妻形の屋根や十字形の土台を備えた提灯が存在するばかりであることから、屋根部の構成態様と台座の構成態様にあることは明らかであり、本件登録意匠においては、屋根部に取り付けられた他に全く見られない切破風板の形状、さらにその上部に紋章等を付すことができるように鬼瓦板を配した結果、極めて優美かつ上品で豪華な印象を与えるような提灯台の構成態様、及び井桁状の台座の態様が相俟って、本件登録意匠全体の基調を表出している。また、このような審美的な形状の切破風板が取り付けられた屋根部を備えた本件登録意匠は、単なる切妻形の屋根を備えたものに比べて、本件登録意匠を見るものに華麗な印象を強く与え、更に、二段の井桁状の台座も提灯の持つ和風で伝統的なイメージと調和がとれて本件登録意匠を見るものに強い印象を与える。
井桁状の台座はそれまで皆無であったことが明らかであり、このような井桁状の台座に植木等の植栽を配し、日本古来の行事である盆の雰囲気を壊さないようにすることができる本件登録意匠の高い創作性は明瞭である。なお、庭園灯やかさ立てに井桁の形状があったとしても、意匠の類否は物品ごとに判断されるものである。
(2)本件登録意匠とイ号意匠との類否の考察
両意匠の共通点は、多数に及び、特に、本件登録意匠の要部である、切破風板の形状及び井桁状の台座の態様が共通しており、両意匠の類否の判断に大きな影響を与える。
両意匠の相違点(a)及び(f)については、イ号意匠も、本件登録意匠のように提灯本体を吊り下げて使用することが前提とされており、提灯本体は、盆提灯である以上、日本古来の提灯の形状を踏襲せざるを得ず、正円または楕円状の、公知かつありふれた形状のものにならざるを得ないから、提灯本体は本件登録意匠の要部にはならず、また、意匠の類否判断においては、通常の使用状態すなわち提灯を吊り下げた状態で判断するものであるから、特段顕著な相違とは言えず、意匠の類否判断において何ら影響を及ぼさないか若しくは影響は微弱である。
相違点(b)については、一般家屋の屋根に紋章を付すことは昔から行われてきた常套手段であり、一般家屋の屋根を模した屋根部を備えるこの種の物品において紋章を付した屋根部はありふれた形態であるから、特段顕著な相違とは言えず、類否判断に与える影響は微弱である。
相違点(c)についても、一般家屋の屋根の鬼瓦板に紋章を付すことは昔から行われてきた常套手段であり、一般家屋の屋根を模した屋根部を備えるこの種物品において紋章を付した鬼瓦板はありふれた形態であり、この点においても特段顕著な相違とは言えず、類否の判断に与える影響は微弱である。
相違点(d)については、意匠の外観として表れるものは支柱の途中に二箇所の継ぎ目であるが、支柱に二箇所継ぎ目が入っても、見るものに何ら審美的な強い印象を与えるものではなく、特段顕著な相違とは言えず、類否の判断に与える影響は微弱である。
相違点(e)については、本件登録意匠もイ号意匠も正面視される状態で主として使用されるものであり、このような状態では通常、井桁の内部は見えない上に、本件登録意匠もイ号意匠も、いずれも井桁内部に植栽などを置いて使用することが予定されており、通常の使用状態においては、井桁内部の板の配置状態が見られることはほとんどなく、また、板が2枚に分かれていても、見るものに何ら審美的な強い印象を与えるものではないから、特段顕著な相違とは言えず、類否の判断に与える影響は微弱である。
以上の点を前提として、両意匠を全体的に考察すると、両意匠の相違点は、類否の判断に与える影響がいずれも微弱なものであって、共通点を凌駕しているとはいえず、それらがまとまっても両意匠の類否の判断に及ぼす影響は、その結論を左右するまでに至らないものである。
なお、被請求人は、イ号意匠の屋根本体部の下方内側は、略矩形枠が収納される構造である旨主張している。しかし、本件登録意匠の意匠公報の図面からは看取できない部分に関する構成であり、類否判断の対象とはならない。
被請求人は、切妻形屋根板の形状が、本件登録意匠では漸次肉厚とした一定厚みの平坦な形状であるのに対し、イ号意匠においては厚みが均一な薄板の湾曲そり上がり形状である旨主張している。しかし、意匠を正面視した場合、このような相違は全くわからず、単に切破風板が看取されるのみであり、切破風板が看者の注意を引く部分であり、このような相違は意匠の類否判断において何ら影響を及ぼさないか若しくは影響は微弱である。提灯台は基本的には正面視される状態でしか使用されないもので、通常の使用状態は正面視される状態である。
被請求人は、イ号意匠において、切破風板は屋根部本体の内側に配設すなわち略矩形状枠の前面に取り付けられている旨主張している。しかし、正面視される状態では被請求人主張のこのような点は看取されず、側面視される状態においても、瑣末な差異を生ずるに過ぎず、意匠の類否判断において何ら影響を及ぼさないか若しくは影響は微弱である。
鬼瓦板の大きさは特定不能である。また、仮に若干の違いがあったとしても、瑣末な相違に過ぎず、意匠の類否判断において何ら影響を及ぼさないか若しくは影響は微弱である。
第二 被請求人の答弁
被請求人は、「イ号意匠は意匠登録第843835号意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属しないとの判定を求める。」と申し立て、その理由として答弁書の答弁の理由に記載の通りの主張をし、証拠方法として乙第1号証ないし乙第16号証の書証を提出したものである。
その主張の要点は、以下の通りである。
1.本件登録意匠
(1)意匠に係る物品は、「提灯」である。
(2)基本的構成態様について、「全体が縦長」との表現は不正確であり、削除されるべきである。
(3)具体的構成態様について、切妻形屋根板の形状は、山型に組合せた平坦状の屋根板本体である。屋根板支持部材の特定は本件登録意匠の意匠公報からは読み取れない図面不備がある。支柱は、丸棒か角棒かの判断が不能である。井桁の矩形空間を全面閉塞するような薄板が張設されているとしか解釈しようがない。
2.イ号意匠
(1)意匠に係る物品は、「提灯台」である。
(2)基本的構成態様について、「全体が縦長」との表現は不正確であり、削除されるべきである。
(3)具体的構成態様について、屋根部本体の下方内側は、略矩形枠が収納される構造である。切妻形屋根板は、薄板の湾曲そり上がり形状で山型に形成されている。切破風板が、屋根部本体の内側に配設されており、略矩形状枠の前面に取り付けられている。台座の2枚の底板の間には、細幅の窓が形成されている。
3.本件登録意匠とイ号意匠との比較
(1)意匠に係る物品
「提灯」と「提灯台」は、用途及び機能が明らかに異なるものであるから、本件登録意匠とイ号意匠とは、そもそも意匠に係る物品において非類似である。
(2)両意匠の共通点及び相違点
(a)基本的構成態様について、本件登録意匠は、三角形の屋根部と球状の提灯本体と方形状の台座との上下三段階の基本的構成態様を有しているのに対して、イ号意匠は、提灯本体が存在しない提灯台であり、三角形の屋根部と方形状の台座との上下二段階の基本的構成態様である。
具体的構成態様について、(b)イ号意匠における屋根部本体の下方内側は、略矩形枠が収納される構造となっている。(c) 切妻形屋根板の形状は、本件登録意匠においては、漸次肉厚とした一定厚みの平坦な形状であるのに対して、イ号意匠においては、厚みが均一な薄板の湾曲そり上がり形状である。(d) 切破風板が、本件登録意匠においては、厚みが一定で、屋根部本体の正面端部に取り付けられており、切妻屋根板の形状は正面からは切破風板に遮断されて見えないのに対し、イ号意匠においては、屋根部本体の内側に配設され、略矩形状枠の前面に取り付けられており、切妻屋根板の湾曲形状が正面や斜視面から鮮明に視認できる。(e) 鬼瓦板は、本件登録意匠よりもイ号意匠が大きい。(f) 台座について、本件登録意匠における台座の顕著な形状は、井桁の矩形空間を全面閉塞した超薄板と井桁との組み合わせにある。これに対して、イ号意匠における台座は、井桁の矩形空間中央に一定厚みで一定幅員の2枚の底板を架設し、底板の前後に狭幅の細窓を形成した形状である。
4.類否判断
(1)本件登録意匠の要部
井桁台座の形状は、本件登録意匠の前から公知であったことを考慮すると、本件登録意匠の要部は、屋根部の全体形状、すなわち、(a)表面が平坦なかつ裾部に向かって漸次肉厚の屋根部本体、(b)屋根部本体前端の切破風板、(c)屋根部本体の内部の前板、後板、縦板の枠組によって構成される屋根部の全体形状、及びこの特徴ある屋根部の下方に吊された提灯本体の組合せに他ならない。
(2)類否判断
両意匠は、(a)意匠に係る物品が異なり、(b)球状の提灯本体の有無は、看者に最も目に付きやすい部分である基本的構成の差異であり、及び、(c)具体的構成態様において最も看者の目を惹く屋根部において、切妻屋根形状、切破風板、屋根板内部の枠体の形状が異なり、顕著に異なる印象があり、また、(d)台座の外観は、足元にある形態であるため、看者には注視されない部分である。したがって、両意匠は類似しない。
すなわち、(a、b) 本件登録意匠を実施する際には、提灯本体に灯りがともされ、看者が最も注意を惹かれる部分は、提灯本体である。したがって、本件登録意匠において提灯本体は、意匠全体の印象に大きな影響を及ぼすものである。しかも、提灯本体は、本件登録意匠全体の中央部の最も目に付きやすい位置にあるため、この提灯本体のない単なる提灯台たるイ号意匠とは、全く異なる印象を与える。
(c)基本的構成態様が非類似であることは、明白である。本件登録意匠もイ号意匠も、基本的構成態様が出願前公知であるが、仮に互いの基本的構成態様が公知であったとしても、その基本的構成態様を対比すれば互いに非類似であるため、全体の類否判断において重要な対比項目とすべきである。
(d)台座については、一般に、支柱の台座として井桁形状を用いることは公知である。支柱の台座としての井桁形状は、各種の製品において周知の形状である。また、長尺物を縦方向に設置した場合、台座は足元にあり、しかも目線の位置には屋根本体があれば看者は台座まで目線を移動することは少なく、従って台座は目立つ存在ではない。仮に、台座を注視しようとすれば近づいてあえて覗き込むことになり、この際、井桁内部の構造形状は看者に強い印象を与える。したがって、本件登録意匠とイ号意匠との台座は、底板の張設形状が全く異なる台座形状であるため、台座部分においても非類似の形状である。
第三 当審の判断
1 本件登録意匠
本件登録意匠は、昭和58年9月1日の意匠登録出願に係り、平成4年4月27日に意匠権の設定の登録がなされた意匠登録第843835号の意匠である。
本件登録意匠は、その意匠登録出願の願書及び添付図面の記載によると、意匠に係る物品を「提灯」とし、その形態の要旨を次のとおりとするものである(別紙第1参照)。
(1)基本的な構成態様
全体が提灯台と提灯本体よりなり、提灯台は、縦に垂直に延びる直線状の支柱と、支柱の略中央から正面方向に突設した棒材と、支柱の上端に正面方向に突設して取り付けられた屋根部と、支柱の下端に取り付けられた台座からなり、略球状提灯本体は、屋根部から吊り下げられている。
(2)具体的な構成態様
(a)屋根部について、(a-1)屋根部本体は平面視略正方形状で、平坦状の屋根板により山型の切妻形屋根状に構成され、その屋根板は外側が徐々に厚くなり下端部は水平に切断され、(a-2)屋根部本体の下部には正面視及び背面視略三角形状の部材が配されている(なお、その下部部材の配置位置等の構成態様は特定できない。)、(a-3)切破風板は、厚味が一定で、屋根部本体の正面端部に取り付けられ、正面視した場合、その拝み部から上縁と下縁それぞれが下側に向けて湾曲しており、拝み部から破風尻に向けて除々に幅が広がっていると共に、上縁が下縁よりも長くなった左右対称形状を有している。(a-4)鬼瓦板は、切破風板と同じ厚みで、横幅が屋根全体の幅の約20分の1で、切破風板の拝み部上端に取り付けられている。(a-5)鬼瓦板の後方には、鬼瓦板より高さが低く幅が狭い、屋根部本体の奥行きと同じ長さの棟部材が、屋根部本体の頂部稜線に沿って取り付けられている。
(b)支柱は、縦に垂直に延びる直線状の支柱上端が屋根部本体の後板中央位置に取り付けられ、支柱の下端は台座の背面端部の中央位置に取り付けられている(なお、支柱の断面形状が、角か丸かは特定できない。)。
(c) 台座は、屋根部本体よりやや小さい平面略正方形状で、断面四角形状の棒材で構成された上下二段の井桁であり、平面全面が薄板で覆われている(なお、薄板の設置位置は特定できない。)。
(d)支柱よりも幅が狭い断面四角形状の棒材が、支柱正面の中央よりやや下から正面方向へ地面と略平行に、屋根部及び台座の奥行きよりも短く突設している。
(e)略球状提灯本体が屋根部の内側から吊り下げられ、提灯本体の底部と支柱正面から突設した棒材が紐体によって連結されている。
2 イ号意匠
イ号意匠は、甲第3号証に記載された意匠であって、意匠に係る物品が「提灯台」であり、その形態の要旨を次のとおりとするものである(別紙第2参照)。
(1)基本的な構成態様
縦に垂直に延びる直線状の支柱と、支柱の略中央から正面方向に突設した棒材と、支柱の上端に正面方向に突設して取り付けられた屋根部と、支柱の下端に取り付けられた台座からなる。
(2)具体的な構成態様
(a)屋根部について、(a-1)屋根部本体は平面視略正方形状で、湾曲そり上がり形状の屋根板により山型の切妻形屋根状に構成され、その屋根板は同じ厚みの薄板で、(a-2)屋根部本体の下部に、正面視略三角形状で、背面視すると上部山型の略扁平5角形状で、側面視すると屋根部本体よりも下方にはみ出した矩形状で、底面視すると全体略矩形状の枠部材が配されている、(a-3)切破風板は、厚味が一定で、屋根部本体の下部やや奥まった位置において下部枠部材の正面端部に取り付けられ、正面視した場合、その拝み部から上縁と下縁それぞれが下側に向けて湾曲しており、拝み部から破風尻に向けて除々に幅が広がっていると共に、上縁が下縁よりも長くなった左右対称形状を有している。(a-4)鬼瓦板は、切破風板と同じ厚みで、横幅が屋根全体の幅の約10分の1で、切破風板の拝み部上端に取り付けられている。(a-5)鬼瓦板の後方には、鬼瓦板より高さが低く幅が狭い、屋根部本体の奥行きと同じ長さの棟部材が、屋根部本体の頂部稜線に沿って取り付けられている。(a-6)紋章が、切破風板正面の左右両破風尻、及び鬼瓦板正面に付され、横幅が屋根全体の幅の約6分の1で横長板状の装飾具が切破風板正面の拝み部に付されている。
(b)支柱は、角柱であって、3つの部材で構成され、2箇所に継ぎ目があり、縦に垂直に延びる直線状の支柱上端が屋根部本体の後板中央位置に取り付けられ、支柱の下端は台座の背面端部の中央位置に取り付けられている。
(c) 台座は、屋根部本体よりやや小さい平面略正方形状で、断面四角形状の棒材で構成された上下二段の井桁であり、下段の井桁に幅が井桁平面全体の略4分の1の細幅薄板を2枚架設して約2分の1を覆っている。
(d) 支柱よりも幅が狭い断面四角形状の棒材が、支柱正面の中央よりやや下から正面方向へ地面と略平行に、屋根部及び台座の奥行きよりも短く突設している。
3 両意匠の対比
(1)共通点
両意匠は、(A)基本的な構成態様において、提灯台は、縦に垂直に延びる直線状の支柱と、支柱の略中央から正面方向に突設した棒材と、支柱の上端に正面方向に突設して取り付けられた屋根部と、支柱の下端に取り付けられた台座からなる点で共通する。
また、両意匠は、具体的な構成態において、(B)屋根部について、(B-1)屋根部本体は平面視略正方形状で、屋根板により山型の切妻形屋根状に構成され、 (B-2)屋根部本体の下部には正面視略三角形状の部材が配され、(B-3)切破風板は、厚味が一定で、 正面視した場合、その拝み部から上縁と下縁それぞれが下側に向けて湾曲しており、拝み部から破風尻に向けて除々に幅が広がっていると共に、上縁が下縁よりも長くなった左右対称形状を有し、(B-4)鬼瓦板は、切破風板と同じ厚みで、 切破風板の拝み部上端に取り付けられ、(B-5)鬼瓦板の後方には、鬼瓦板より高さが低く幅が狭い、屋根部本体の奥行きと同じ長さの棟部材が、屋根部本体の頂部稜線に沿って取り付けられている点、(C)支柱は、縦に垂直に延びる直線状の支柱上端が屋根部本体の後板中央位置に取り付けられ、支柱の下端は台座の背面端部の中央位置に取り付けられている点、(D) 台座は、屋根部本体よりやや小さい平面略正方形状で、断面四角形状の棒材で構成された上下二段の井桁である点、(E) 支柱よりも幅が狭い断面四角形状の棒材が、支柱正面の中央よりやや下から正面方向へ地面と略平行に、屋根部及び台座の奥行きよりも短く突設している点で共通する。
(2)差異点
両意匠は、意匠に係る物品について、本件登録意匠が「提灯」であるのに対し、イ号意匠が「提灯台」であり、差異がある。
また、その形態について両意匠は、(a)基本的構成態様において、本件登録意匠は、全体が提灯台と提灯本体よりなり、略球状提灯本体が屋根部から吊り下げられているのに対し、イ号意匠は、提灯本体がなく、提灯台のみである点に差異がある。
具体的構成態様において両意匠は、(b)屋根部について、(b-1)本件登録意匠は、屋根板が平坦状で、外側が徐々に厚くなり下端部は水平に切断されているのに対し、イ号意匠は、屋根板が湾曲そり上がり形状で、同じ厚みの薄板である点、(b-2)屋根部本体の下部に、本件登録意匠は、正面視及び背面視略三角形状の部材が配されているのに対し、イ号意匠は、正面視略三角形状で、背面視すると上部山型の略扁平5角形状で、側面視すると屋根部本体よりも下方にはみ出した矩形状で、底面視すると全体略矩形状の枠部材が配されている点、 (b-3)切破風板が、本件登録意匠は、屋根部本体の正面端部に取り付けられているのに対し、イ号意匠は、屋根部本体の下部やや奥まった位置において下部枠部材の正面端部に取り付けられている点、(b-4)鬼瓦板の横幅が、本件登録意匠は、屋根全体の幅の約20分の1であるのに対し、イ号意匠は、横幅が屋根全体の幅の約10分の1である点、(b-5)本件登録意匠には、紋章や装飾具がないのに対し、イ号意匠は、紋章が、切破風板正面の左右両破風尻、及び鬼瓦板正面に付され、横幅が屋根全体の幅の約6分の1で横長板状の装飾具が切破風板正面の拝み部に付されている点、(c)支柱は、本件登録意匠には継ぎ目がないのに対し、イ号意匠は、3つの部材で構成され、2箇所に継ぎ目がある点、(d)台部井桁の平面が、本件登録意匠は、全面が薄板で覆われているのに対し、イ号意匠は、幅が井桁平面全体の略4分の1の細幅薄板を2枚架設して約2分の1を覆っている点、(e)本件登録意匠は、略球状提灯本体が屋根部の内側から吊り下げられ、提灯本体の底部と支柱正面から突設した棒材が紐体によって連結されているのに対し、イ号意匠は、提灯及び紐体がない点に差異がある。
4.両意匠の類否判断
この種台付の提灯や提灯台は、その使用状態等を考慮すると、設置されて使用されるものであり、離れた所から全体が観察されるとともに、ある程度近寄って各部の構成態様も視認されるものと認められる。
そうすると、まず、(a)両意匠の意匠に係る物品における「提灯」と「提灯台」との差異は、機能的には照明機能の有無であり、形態的には提灯本体の有無の差異であるが、照明機能の有無は物品として大きな差異であり、かつ、形態的にも大きな差異である。本件登録意匠の提灯本体は、たしかにありふれた形状の提灯本体であって、格別特徴的な形態ではないが、提灯本体は、意匠全体に占める割合が大きいとともに中央部の最も目に付きやすい位置にあり、本件登録意匠の基本的構成態様において大きな要素となっており、提灯本体の有無は、形態的には両意匠の骨格を形成する基本的構成態様に係る差異である。なお、イ号意匠は使用状態において提灯本体を吊り下げる物品であるとしても、イ号意匠には提灯本体が含まれず、イ号意匠の図面に記載されているように提灯本体がない意匠として本件登録意匠と対比し、類否判断されるべきものである。次に、(b)屋根部の構成態様については、この種提灯や提灯台の通常の使用状態を考慮すると、斜視されることが普通であり、正面視はむしろ例外的な状態である。両意匠の屋根部は、斜視された場合、正面端部の切破風板の正面視形状のみならず、屋根板の形状、切破風板の取付け(配置)態様等を含めた構成態様全体が視認されるものと認められる。この観点から見ると、両意匠の屋根部は、(b-1)屋根板が平坦状か湾曲そり上がり形状か、(b-2)屋根部本体の下方にはみ出した下部部材の有無、(b-3)切破風板の取付け位置の差異等が明確に視認され、また、(b-5)切破風板の正面部における紋章や装飾具の有無も付加的な装飾要素ではあるが、正面部の目立つ部位における全くない状態とある状態の差異であって一定の視覚的効果があり、そして、これらの差異は屋根部全体にわたるものであるから、両意匠の屋根部の構成態様は顕著に相違するといわねばならない。なお、正面視する場合は、切破風板の正面形状のみが視認される場合があるが、図面上で対比するのと違い、立体的な意匠を対比するのであるから、両意匠を正面視する場合も、上記のような切破風板の取付け位置の相違等が視認されるものである。
したがって、両意匠は、物品の機能において大きく相違し、提灯本体の有無という基本的構成態様において差異があり、屋根部の構成態様においても顕著な差異があるものであり、その他の差異点をも勘案すると、両意匠は全体として美感が相違し、類似しないものである。
これに対して、共通する構成態様は、差異点を凌駕し共通する美感を起こさせるものではない。すなわち、(A)支柱、突設棒材、屋根部、台座による基本的構成態様は、この種提灯台の分野において、広く知られた態様であり(例えば、昭和14年実用新案公告第15093号、実公開昭和57-161801号、意匠登録第603102号。)、格別特徴的なものではなく、意匠に係る物品及び提灯本体の有無という基本的構成態様に係る差異点を希釈して、意匠全体に共通する美感を起こさせるまでのものではない。(B)屋根部の共通点は、上記のように、正面視した場合にのみ視認されるものであって、屋根部全体としては大きく相違するものであるし、また、切妻形屋根本体の先端に切破風板と鬼瓦板を設ける態様も、広く知られた態様であり(例えば、昭和14年実用新案公告第15093号、昭和14年実用新案公告台19965号。)、格別特徴的なものでもない。(C)支柱の態様、及び(E)突設棒材の態様は、基本的構成態様と同様、広く知られた態様で格別特徴的なものではない。(D)台座の上下二段の井桁の構成態様は、この種提灯や提灯台の意匠の分野において、本件登録意匠の出願前にはあまり見られない特徴的な態様である。しかし、井桁の形状は、一般的に周知の形状であり、かつ、庭園灯やかさ立て等家具分野においては普通に見られる形状である(例えば、意匠登録第287829号(乙第5号証)、同第405416号(乙第6号証)、同第556780号(乙第7号証)。)。たしかに、意匠の類否は物品ごとに判断されるものである。しかし、提灯や提灯台も家具分野の物品であるから、家具分野において普通に見られる形状であれば、当該形状については格別新規で特徴的な態様とはいえず、看者の注意を格別に引くものではない。さらに、台座部は、本件登録意匠の基本的構成態様の一要素ではあるが、他の基本的構成態様において提灯本体の有無、及び、屋根部の構成態様に顕著な差異があり、台座部の共通する態様は、意匠に係る物品及び基本的構成態様における差異点を凌駕して、両意匠全体に共通する美感を起こさせるまでのものとはいえない。そして、これらの共通する態様の相俟って奏する視覚的効果を勘案しても、差異点を凌駕して、両意匠全体に共通する美感を起こさせるまでのものではない。
以上のように、両意匠は、差異点が共通点を凌駕し、意匠全体として美感が相違し、イ号意匠は本件登録意匠に類似しないものである。
5.結び
よって、結論のとおり判定する。
別掲
判定日 2006-09-22 
出願番号 意願昭58-37876 
審決分類 D 1 2・ 1- ZB (D3)
最終処分 不成立 
前審関与審査官 水野 みな子 
特許庁審判長 梅澤 修
特許庁審判官 杉山 太一
樋田 敏恵
登録日 1992-04-27 
登録番号 意匠登録第843835号(D843835) 
代理人 有吉 修一朗 
代理人 田中 雅敏 
代理人 有吉 教晴 
代理人 松尾 憲一郎 
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