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審決分類 審判    C3
管理番号 1146466 
審判番号 無効2005-88024
総通号数 84 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 意匠審決公報 
発行日 2006-12-22 
種別 無効の審決 
審判請求日 2005-11-02 
確定日 2006-08-28 
意匠に係る物品 室内用ハンガー 
事件の表示 上記当事者間の登録第1222276号「室内用ハンガー」の意匠登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 登録第1222276号の登録を無効とする。 審判費用は被請求人の負担とする。
理由 第1.請求人の申立及び理由
請求人は、結論同旨の審決を求める、と申し立て、その理由として、要旨以下の主張をし、立証として、甲第1号証ないし甲第8号証を提出した。
登録第1222276号意匠(以下、「本件登録意匠」という。)は、その出願前に、日本国内において頒布された特許庁発行の意匠公報に記載された登録第1107950号意匠(以下「甲号意匠」という。)に類似する意匠であり、意匠法第3条第1項第3号の規定により登録を受けることができないものであるので、本件登録意匠は同法第48条第1項第1号の規定に該当し、その登録は無効とすべきものである。
すなわち、両意匠に共通する基本的構成態様、すなわち、全体が天井に取り付ける横長略直方体状の本体とそれに格納される円形パイプ状の物干し竿から構成され、本体部について、左右両側に余地部を設けて、中央を、断面視略逆「凹」形状の溝状に形成し、その凹形溝状部に、物干し竿を嵌め込む態様とし、本体部に内蔵された装置により、物干し竿が昇降して、所定位置に停止するものとした態様は、形態全体の骨格を構成し、意匠の基調を成すところであり、類否判断に大きな影響を及ぼすものである。これに対し差異点はいずれもありふれた造形手法、或いは小さな部分に係るものにすぎず、両意匠は、従来の天井埋め込みタイプを、天井取り付きタイプに設計変更し、溝部両側の凸部の角部を略円弧面状に形成し、凹部を略円弧面状の溝状に形成し、その凹状溝状部に円形パイプ状の物干し竿の略半分の面が嵌め込まれる態様に形成し、物干し竿が外から目立たないようにした点に美感が表出されており、共通点が差異点を凌駕していることは明らかで、本件登録意匠は、甲号意匠に類似する。

第2.被請求人の答弁及び理由
被請求人は、本件審判の請求は理由がない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求める、と答弁し、大略以下の主張をし、立証として乙第1号証ないし乙第13号証を提出した。
請求人の主張は、第1に、本件登録意匠が、引き降ろし用の紐を引き下げることにより、竿が昇降する紐引き下げ型である点を看過し、第2に、全体が引き降ろし用の紐を中心に左右対称をなす点を看過し、第3に、本体部が厚みの小さな中央部と、厚みの大きな略直方体状の余地部とを備えた正面視逆凹字状をなす点を看過し、第4に、竿を上げた状態において、竿が厚みの大きな左右の余地部間に全高が嵌入し、正面視において竿の下辺が余地部の下面と略同一線状に位置する点を看過している。
両意匠のように、本体部が天井面等の取付面から突出するように取り付けられ、且つ底面視において略長方形状をなすものは、登録第1103935号意匠、1104196号意匠にみられ、更には実開平6-52796号公報(乙第1号証)、特開平6-296796号公報(乙第2号証)にも図示されており、両意匠のみの特徴ではない。
なお溝部に竿を嵌め込む態様についても、例えば乙第3〜7号証の蛍光灯の場合にみられるように、更にはペン皿、色鉛筆のケースなど長尺の円柱体を支持配置する場合にもみられるように、竿などの長いものを収納装着する場合の一般的な技法である。しかも吊り下げ式の物干し竿にあっても、両端が吊り紐によって支持された竿を乙溝に嵌合させて収納したものが実開昭57-87689号マイクロフィルム(乙第8号証)に認められる。従ってこれらの態様を本件登録意匠の要部とすることはできない。このことは前示の登録第1103935号、及び1104196号の両意匠が、甲号意匠とは類似しないとして、関連意匠ではなく登録されている事実からも明らかである。
この種の室内用ハンガーにあっては、実際に天井に取り付けられた形態が意匠の命であり、甲号意匠と登録第1103935号意匠とが別個に登録されている事実に照らせば、甲号意匠と本件登録意匠が別異と判断されるべきことは明らかである。また視覚の上でも、「左右対称」「安定感」(本件登録意匠)か「左右非対称」「不安定感・緊張感」(甲号意匠)かの正反対の美感を看者に与えるので、本件登録意匠が甲号意匠に類似しないことは明らかである。

第3.当審の判断

1.本件登録意匠
本件登録意匠は、平成15年12月18日に意匠登録出願をし、平成16年9月24日に意匠権の設定の登録がなされた登録第1222276号意匠であり、意匠に係る物品を「室内用ハンガー」とし、その形態を、願書及び願書に添付した図面の記載のとおりとするものである。(別紙第一参照)

2.甲号意匠
請求人が提出した甲号意匠は、平成13年5月2日発行の意匠公報に記載された登録第1107950号意匠であり、意匠に係る物品が「物干し器」で、形態を当該公報に記載されたとおりとするものである。(別紙第二参照)

3.本件登録意匠と甲号意匠の対比検討
本件登録意匠と甲号意匠を対比するに、両意匠は意匠に係る物品が共通し、形態について、以下の共通点と差異点が主に認められる。
すなわち共通点として、(1)頂面を天井等への取付面とする、上下に扁平な略横長直方体状の物干し器本体と、その下面に設けられた溝部に格納された物干し竿からなるもので、物干し器本体について、頂面を略横水平面として天井等への直付(じかづけ)面とし、その下面側の全体が、天井等から下向きに突出する態様で取り付けられるもので、下面側について、左右両端に余地部を設けて、その間の長尺部分につき、長手方向の全長の下面幅中央に溝部を設けて横断面全体を逆「凹」形状とし、この溝部に、昇降自在の竿が格納される態様としたものである点、更に、(2)前示の長尺部分(以下「凹尺部」とする)について、前面から下面を経て後面に至る全体が一体成型され、これが頂面板と嵌め合わされた構成であり、前面、及び後面が略鉛直面状を呈して、下面との稜部(下面前後の稜部)が大きな円弧面状に面取られ、更に溝部につき、溝幅が凹尺部の前後幅の大略1/3程度で、溝の深さが凹尺部の上下幅の大略1/2弱で、溝の横断面が上狭の隅丸、角丸の略台形状である点、(3)左右の余地部について、底面から前面、後面、及び一方の側面に至る全体が一体成型され、稜部が丸面状を呈する点、(4)物干し器本体の頂面について、左右両端に小幅を残して略全面に頂面板が嵌め合わされており、頂面板の前後の端縁が、凹尺部、及び余地部の前面、後面の上端に、細幅状に現れている点、(5)物干し竿は、両端にキャップを付けた円形パイプで、竿の両端近くで本体部から吊り紐で吊り下げられており、格納状態において、竿の略下半周が凹尺部から下方に突出する態様である点、が共通する。

一方両意匠には差異点として、(イ)余地部について、本件登録意匠は左右の余地部が横に等幅で、両端が平面視で半円弧状に形成されているのに対し、甲号意匠は、図面上、右の余地部の幅が狭く、両端が平面視で角丸の直線状である点、(ロ)凹尺部の上下幅について、本件登録意匠は余地部よりやや狭く、物干し竿の格納時に、竿の下辺が余地部の下面とほぼ一直線上に位置するのに対し、甲号意匠は、凹尺部の上下幅が余地部と等しく、竿の格納時に、竿の下辺が余地部より下位置となる点、(ハ)本件登録意匠は竿の中央から紐材が垂下し、これで竿を引き下ろす構造と認められるのに対し、甲号意匠はこの紐材がなく、左方の余地部に円形の小突起が設けられて、該部で竿の昇降を行うと認められる点、が主にある。

そこで上記の共通点と差異点を全体として検討するに、共通点(1)は、両意匠において全体の骨格をなす構成態様であって、全体の基調を形成しており、また、それ自体が、従来態様に照らして極めて特徴的な構成態様であることが認められ、両意匠の類否判断に極めて大きな影響を及ぼすものである。
すなわちこの種の物干し器、すなわち、天井等へ取り付けられる本体と、これに昇降自在に取り付けられた竿からなる物干し器の形態として、例えば、実開昭64-33995号公報記載の物干し器(請求人提出の参考資料)、実用新案登録第2544825号公報記載の物干し器(同)、或いは本件登録意匠の審査段階での拒絶理由に引用した事例(1995年1月12日特許庁意匠課受入のカタログ「住まいの収納総合カタログ’94-’95」第76頁所載の物干し器)にみられるように、下面を開口した逆箱状の枠を天井等に埋め込み、これに竿を格納する構成態様が、従来からの一般的なものとして認められるところであるが、本体部が天井等から下向きに突出するように取り付けられる態様も、実開平6-52796号公報記載の吊掛装置(乙第1号証)、特開平6-296796号公報記載の吊掛装置(乙第2号証)に認められるところである。(なお他に、甲号意匠と同時出願の請求人意匠に係る、登録第1103935号意匠、1104196号意匠も、天井面から僅かながら突出する。)
しかしながら、物干し器本体について、全体を略横長直方体状として頂面を天井等への直付(じかづけ)面とし、全体が天井等から下向きに突出する態様として、その下面の幅中央長手方向に溝部を設けて横断面を逆「凹」形状とし、この溝部に竿が格納されるものとした態様は、少なくとも甲号意匠の出願前に認めることができず、甲号意匠の特徴を最もよく表すところと認められ、この点での本件登録意匠との共通性は、両意匠の類否判断に極めて大きな影響を及ぼすものと判断するほかない。しかも両意匠は、(1)の骨格的な構成態様が共通することに加えて、(2)の、凹尺部分の具体的な態様、すなわち、下面の前後を大きく円弧面状に表した共通性、溝部の幅、深さの概略やその断面形態での共通性が認められ、(1)の基調の共通性を更に強め、際立つものとしており、しかも(2)のその余の共通する態様、及び(3)ないし(5)の各部の具体的な共通点も加わって、両意匠の共通感を極めて強いものとしている。従ってこれら共通点は、両意匠の類否判断に大きな影響を及ぼすというほかない。
ところで被請求人は、溝部に竿を嵌め込む態様は、竿などの長いものを収納装着する場合の一般的な技法である、として蛍光灯の事例を示し(乙第3〜7号証)、更にこのような技法は、物干し器の分野においても実開昭57-87689号(乙第8号証)にもみられる、と主張するところであり、確かに棒状の長いものを支持したり収納装着する手法として、その外側に溝部を有する枠材を配する手法は各種分野でなされることは想到できる。しかしながら、枠材の使われ方、枠材の形態にも様々なものが想定されるところ、上記の共通点(1)の構成態様が様々の分野で広く用いられているとも認められず、また物干し器の構成として広く用いられているともいえず、やはり極めて特徴的な構成態様であるというほかなく、またこの構成は全体の骨格を構成する態様であり、しかも両意匠には(2)ないし(5)の共通点も認められ、看者に強い共通感を印象付けるものであり、上記のとおり、両意匠の共通点は、類否に極めて大きな影響を及ぼすものと判断せざるを得ない。

一方、差異点について、(イ)の点は、本件登録意匠の余地部が左右に等幅で、また両端部が半円弧状をなすものであるが、両意匠に共通する上記(1)の極めて特徴的な全体構成の中にあっては、やはりこの中での局所的な差異というほかなく、しかも、本件登録意匠のように端部を半円弧状とすること自体は、特開平6-296796号(乙第2号証)に認められ、また左右が等幅である点についても、例えば実開平6-527968号(乙第1号証)にもみられるところであって、いずれの差異も、形態上格別の特徴をなすところとして評価できず、(ロ)の点についても、本件登録意匠の余地部と凹尺部の幅の差がさほど大きなものでなく、なお該部に幅差を設けること自体も特開閉06-296796号(乙第2号証)に認められ独自性に乏しく、また竿の下部が凹尺部から下方へ突出する態様は両意匠に共通するところであり、格納時の竿の下辺が余地部と一直線上となるか否かの差異を考慮に入れてもなお、全体としては、両意匠の全体の骨格についての特徴的な共通点を凌駕して両意匠を別異に特徴付けるまでには至っていない。
そして(ハ)の点は、形態の上では、やはり付加的な構造に係る部分での差異と判断せざるを得ず、また本件登録意匠のように、中央に紐を設けて竿を引き下ろす手法も例えば特開平6-15096号(乙第9号証)、或いは実開平7-27496号等にも認められ、新規な特徴ではなく、左右対称の強調効果を考慮してもなお、類否判断に及ぼす影響を大きく評価できない。
そして両意匠の差異の関連効果を考慮してもなお、両意匠の基調を覆し、別異の意匠を形成するほどのものは認められない。
被請求人は、差異が関連して、「左右対称」「安定感」(本件登録意匠)か「左右非対称」「不安定感・緊張感」(甲号意匠)かの正反対の美感が生じている、旨を強く主張するところであり、確かに本件登録意匠は、紐の位置を中央とし、余地部が左右等幅であるから、甲号意匠に比べると左右対称の構成となっているものである。しかしながらこれが由来する差異は上記のとおりであって、いずれも局所的な差異、或いは従来態様の域を出ないもので、また全体としても、左右対称である構成それ自体は、特に新規なものとはいえず(例えば乙第1号証)、両意匠においては前述のとおり、(1)の構成上の共通性が特徴として極めて顕著で、これに対してはやはり二次的な印象を与えるに止まり、共通点を凌駕して両意匠を別異に特徴付けるものとはいえない。
また被請求人は、甲号意匠と同日出願の請求人意匠である登録第1103935号意匠、及び1104196号意匠の両意匠が本件登録意匠と関連意匠とされずに別に登録されている(なおこの2つの意匠は、本意匠、及びその関連意匠として登録されている。)ことを理由に、本件登録意匠も、甲号意匠とは別異と判断されるべき、とも主張するところであるが、意匠の類否判断はやはり全体形状の対比がまずなされるべきところ、その骨格的な構成が必ずしも共通せず、すなわち、これら意匠は、本件登録意匠と甲号意匠との前示(1)の共通点を備えておらず、またそもそも、これら両意匠と甲号意匠との類否が、直ちに本件登録意匠と甲号意匠との類否に影響を及ぼしたり、拘束したりするものでないことは明らかで、この点に関する被請求人の主張は採用できない。

以上のとおりであって、両意匠の差異はいずれも類否判断に及ぼす影響が軽微なものというほかなく、関連効果を考慮しても、両意匠に共通する極めて特徴的な全体構成を覆して別異の特徴を形成するには到底至らず、差異点の類否判断に及ぼす影響は、共通点のそれを凌駕するには至らず、両意匠は、全体として類似するものである。

4.むすび
以上のとおりであって、本件登録意匠は、その出願前に日本国内において頒布された刊行物に記載された甲号意匠に類似し、本件登録意匠は意匠法第3条第1項第3号の意匠に該当するにもかかわらず意匠登録を受けたものであるから、その登録を無効とすべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
別掲
審理終結日 2006-06-23 
結審通知日 2006-06-28 
審決日 2006-07-18 
出願番号 意願2003-37360(D2003-37360) 
審決分類 D 1 113・ 113- Z (C3)
最終処分 成立  
特許庁審判長 日比野 香
特許庁審判官 正田 毅
市村 節子
登録日 2004-09-24 
登録番号 意匠登録第1222276号(D1222276) 
代理人 小出 俊實 
代理人 鮫島 武信 
代理人 鈴江 武彦 
代理人 吉田 親司 
代理人 河野 哲 

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