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審決分類 審判 判定  同一・類似 属さない(申立不成立) C6
管理番号 1146474 
判定請求番号 判定2006-60013
総通号数 84 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 意匠判定公報 
発行日 2006-12-22 
種別 判定 
判定請求日 2006-03-08 
確定日 2006-11-10 
意匠に係る物品 フ―ドプロセッサ― 
事件の表示 上記当事者間の登録第0952025号の判定請求事件について、次のとおり判定する。 
結論 イ号図面及びその説明書に示す「電動野菜スライサー」の意匠は、登録第0952025号意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属しない。
理由 第1.請求の趣旨及び理由並びに弁駁の理由
請求人は、イ号意匠及びその説明書に示す意匠(以下「イ号意匠」という)は、意匠登録第952025号意匠(以下、本件登録意匠という)及びこれに類似する意匠の範囲に属する、との判定を求める、と申し立て、その理由として判定請求書の記載のとおりの主張をし、証拠方法として甲第1号証ないし甲第4号証の書証を提出したものである。
その主張の大要は、以下のとおりである。
すなわち、本件登録意匠とイ号意匠とは共に、カバーに載置した駆動体によって外容器内でカッターを往復動させ、カバー上面から突出する投入筒から投入した野菜をスライスする物品に係るものであり、両意匠は用途および機能を共通にし、意匠に係る物品が一致する。
両意匠は、意匠の構成において以下に示す共通点および差異点が認められる。
(1)共通点
(あ)外容器は、透明な平面視長方形の略箱状で、長辺に対する短辺の長さ比を0.35とし、周壁は上方に向かって僅かに広がり、四隅は滑らかな曲線を描き、長手方向に平行な2辺の上部には可動枠のローラーがのる段部を形成している点、(い)カバーは、透明な外容器上部開口全体を覆い、長手方向の中央付近にカバーの横幅より小径の投入筒が上方に起立し、その投入筒の高さは外容器の下面からカバー上面までの寸法よりもやや長く、外周辺は下方に直角に折曲され、外容器の開口縁の外周を囲み外容器のレール部を隠している点、(う)押込体は、投入筒に上方から順に入れ子式に組み込まれる透明な円筒状の第1,第2の押込体と、不透明な第3押込体を持ち、第1押込体の下端には投入筒の内周に摺接して同心位置に保持するフランジが形成され、第1押込体の外周には環状のリングが遊動自在に取付けられ、このリングは投入筒の上部開口縁に嵌合して第1押込体を投入筒に対して同心に位置決めし、第2押込体の下端および上端にはフランジが形成され、外周には長手方向に平行で上下端のフランジにつながる4本のリブが周方向に等間隔に形成され、第3押込体は平断面十字型の4枚のリブからなる柱部の下端と上端に円板を形成したものであり、下端の円板は第2押込体の内周に摺動可能であり、上端の円板は第2押込体の上端のフランジの上部を覆い、第1,第2押込体の下端のフランジおよび第3押込体の下端の円板には複数個の円錐状の突起が形成している点、(え)駆動体は、投入筒の反変位側のカバー上面と投入筒とで挟まれる空間に載置され略箱状であり、平面視で一端がカバーの投入筒に接し他端および両側面がカバーの外周形状に沿っている。カバーの投入筒に組み付けたスイッチリングと略同一高さであり、左右両側面の上部を幅狭くしてグリップ部とした点、(お)可動枠は、外容器の左右内壁に形成された段部に載せられて長手方向にスライドし、幅の長辺に対する比は約0.5であり、左右側面にそれぞれ3個のローラーが突出し、これらのローラーが外容器の段部に載ってスライドする。カッターを形成するカッター刃枠およびプレートが着脱され、長手方向の一端中央に凸部が設けられ、この凸部がカバーに設けた長孔を通って上方へ突出し、この突出端が駆動体に係合して往復駆動する点、(か)内容器は、上方が開いた透明な略長箱状であり、可動枠の下方に着脱され、可動枠と共に往復動する。側面に設けた合計4個の爪を可動枠に設けた4個の小角孔に係合させて可動枠に固定する点、(き)以上の構成部分からなる組立体は、長方形の透明な箱状の外容器に被せた透明なカバーの上に、中央付近から太径の透明な投入筒が言わば煙突状に突出し、この投入筒に接して箱状でボリュウーム感が大きな駆動体が連続して、全体としてほぼ玩具の船の印象を与える点、また駆動部はカバー全長の約2/5を占め、透明で軽快な印象を与える投入筒と重量感と存在感が大きい駆動部とが接することにより、重量バランスの微妙な不安定感を与えるものである点。
(2)相異点
(ア)外容器を、本件登録意匠が平面視で短辺が僅かに外側へ円弧状に湾曲しているのに対し、イ号意匠は短辺をほぼ直線状にしている点、(イ)カバーを、本件登録意匠が平面視で短辺がその本体ケースの短辺に対応して僅かに外側へ弧状に湾曲しているのに対し、イ号意匠は短辺をその本体ケースの短辺に対応してほぼ直線状にしている点、イ号意匠では短辺に庇状の取手を設け、駆動体の外側面に沿って起立し駆動体に係合する3個の爪を突設している点。(ウ)押込体を、本件登録意匠がスイッチリングに駆動体上面に延びる舌状のスイッチ板が形成しているのに対し、イ号意匠にはこのようなスイッチ板が無い点。(エ)駆動体を、本件登録意匠が左右側面のグリップ部下縁を水平としているのに対し、イ号意匠ではグリップ部の下縁を前後で上方へ立上げるように折曲させている点、また、駆動部上面に、本件登録意匠では、平面視で投入筒側に向かって開く略半円状の溝と、この溝で囲まれた部分に設けた小長方形の押圧スイッチとが表れるのに対し、イ号意匠では、投入筒に近い位置に四角形のスイッチボタンを表した点。
(3)本件登録意匠とイ号意匠の類否
イ号意匠は、本件登録意匠と意匠に係る物品が一致し、意匠の構成において、上記共通点に記したように、物品の形態を構成する主要な点が共通するものであり、そして、これらの共通点に係る態様は、形態の基調を形成し、全体観察から得られる意匠全体の美的特徴を最もよく表出するものであり意匠上の要部をなし、この点における共通性は両意匠の類否を支配する、というべきである。
一方相異点は、後記するように類否を支配し得ない部分的乃至は微弱な差異にすぎないものであるから、イ号意匠は、本件登録意匠と類似することを免れるものではない。
本件登録意匠において、形態の基調を形成し意匠全体の美的特徴を決定づけている形態的構成要素、すなわち意匠上の要部は、(A)外容器にカバーを被せた状態で平面視で縦横の比を略0.35とする長方形状とし、その中央付近にカバーの幅に対する直径の比を約0.7とし、カバー全長に対する投入筒の直径の比を約0.26とした構成、(B)駆動体が略箱状であって、投入筒の反変位側のカバー上面に載置され、その高さが投入筒の装填したスイッチリングの上面と略同一とした構成、(C)投入筒とその内側に装填した第1,第2押込体が透明であり、外から不透明な第3押込体が視認可能である構成、(D)外容器の内側に可動枠とこの可動枠に吊した内容器と可動枠の長辺に設けた3個のローラが外から透視可能である構成、(E)投入筒の変位側のカバー上面を通して、可動枠及びカッター(カッター刃枠及びプレート)が透視可能とした構成、
イ号意匠は本件登録意匠の意匠上の要部をそのまま体現している意匠であって、本件登録意匠と意匠上の要部を共通にするイ号意匠は、看者に共通の美感を惹起せしめることは明らかであり、類似であることを免れるものではない。
上記構成を本件登録意匠の要部とする理由は、本件登録意匠の出願前にそのような構成のフードプロセッサ或いは電動野菜スライサーが存在しないから、上記要部の新規性、創作性が認められて登録されたものである。
請求人は、1989年10月以降の本件登録意匠と同分類の登録のものを確認したところ、往復動するカッター構造のものは本件登録意匠の他には発見できず、他のものはいずれも回転カッターによるものであって構造上登録意匠の基本構造を持つものは皆無であった。従って本件登録意匠は極めて特異で斬新なものであり、その類似の幅は極めて広いものであって、前記のように本件登録意匠の要部を判断した点には充分な理由があるものと考える。
これに反して、相異点は、(ア)は、長方形の略箱状の容器という基本構造を同じくするものにおいて短辺の僅かな円弧状の曲線を直線に変えるにすぎず、この部分の変更が上記した本件登録意匠の形態的特徴の形成に大きな影響を及ぼすものと言うことはできず、意匠の類否に影響を及ぼさない僅かな差異と言うべきである。(イ)の前半部は、上記外容器の短辺の形態の差に対応するものであり、イ号意匠がカバーの短辺に庇状の取っ手を設けても、また、駆動体に係合する3個の爪を設けても、それらの寸法はカバーの全体寸法に対して極僅かなものであり、同様な理由から意匠の類否に影響を及ぼさない僅かな差異と言うべきである。(ウ)は、スイッチの構造に関するものであって(エ)後半部と関連するものであるが、スイッチボタンを投入筒寄りの駆動体上面に配置するという基本形態を同じくするものである。また本件登録意匠では押し圧スイッチを囲む略半円状の溝に、スイッチリングの舌状のスイッチ板を係入させるのに対して、イ号意匠ではこのスイッチ板と略同一面積比のスイッチボタンを設けたものであるが、両者はその配置及び駆動体上面に対する面積比が略同一であり、看者に類似の美感を与えるものであることは明らかである。従ってこれらの(ウ)及び(エ)は意匠の類否に影響を及ぼさない僅かな差異と言うべきである。(エ)前半部は、グリップ部の下縁の形状であるが、全体の組立体における駆動部の寸法比はほぼ同一であり基本的形態に影響を及ぼすものではない。
これらの相違点を統合しても、意匠全体として前記共通点として挙げた構成により惹起される形態的特徴を超えるものではなく、両意匠は共通の美感を与えるものである、というべきものである。
このように両意匠の差異は部分的乃至微弱なものにすぎず、形態の主要部を共通とする両意匠は看者に共通の美感すなわち類似の美感を生じるものであるから、イ号意匠は本件登録意匠及びこれに類似する意匠の範囲に含まれる、というべきものである。
さらに、請求人は、弁駁書を提出して以下のように主張する。
被請求人はイ号意匠と自己の登録意匠(意匠登録第127319号)とは意匠上実質的に同一であるから特許庁はイ号意匠と本件登録意匠とは非類似の関係にある別意匠と認定したとの主張に対して、本件判定請求はイ号意匠が本件登録意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属するか否かの判断を求めており、被請求人がイ号意匠と類似すると主張する被請求人所有の登録意匠の存在をもって、イ号意匠が本件登録意匠及びこれに類似する意匠の範囲に含まれないと言うことはできない。
被請求人は、意匠の類否判断にあたっては「全体として観察することを要する」と「全体観察」によることを認めておきながら、意匠の要部としては意匠に係る物品、機能、使用態様を参酌して、取引者、需要者(主婦層)の最も注意を惹き易い部分を把握し、この要部が共通するか否かを観察すべきと主張し、需要者が重視する点は、売り易い斬新な造形処理が施されたデザインであるか、グリップ部分の滑り止めや、その形状が使い勝手の良いものか、不意にスイッチが入ることがないか、切載済み、おろし済み食材の取り出しが容易か、洗浄が簡単か、などの点であり、これらの点に対応する構成を個々に列記して本件登録意匠とのちがいを主張したが、売り易いか否かの点は需要者の主観的な好みによるのであって客観性を必要とする意匠の要部とは関係なく、その他の点はいずれも物品の機能に関するものであって外観に表れない限り意匠として考慮の対象になり得ない。
なお、被請求人は、スイッチボタンの構造、駆動体とカバーの着脱構造を請求人が看過している相異点として挙げているが、これらは機能の違いを説明しているのであって外観上にどのような相違として表れているのかという意匠上の判断を欠く主張と言うべきである。
被請求人が挙げた各乙号証は、単に「往復動するカッター構造のもの」であって請求人が弁駁書第4頁i)からv)に挙げた構成を備えるものではなく、その構成を備えるものが新規であり創作性を有するのであるから本件登録意匠は極めて特異で斬新なものであり、その類似の幅が極めて広いものであると主張しているのである。
被請求人が挙げる各乙号証のうち手動式以外のモータ駆動のものはいずれもモータを含む駆動部をカバー上面に載置したものではなく、カバーを被せる本体内あるいは切載した野菜を集める外容器側に持ち、本件登録意匠の前記構成ii)を備えていない。従って被請求人のこの点についての主張にも理由がない。
被請求人は答弁書において「かりに本件登録意匠が新種の商品であって、その基本的形状は極めて独創的であり、所謂原始的創作意匠にあたる〜(としても)〜新種の商品であるからと言って、直ちにその基本的構成部分に要部があるとはいえないとするのが判例の態度でもある。」と主張するが、ここで言う「新種の商品」が具体的に何か解らず、その基本的構成部分は外観に表れているものか否かも不明であり、この主張もどのような判例に基づくものか不明である。
第2.答弁の趣旨及び理由
被請求人は、イ号意匠は、意匠登録第952025号意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属しない、との判定を求める、と申し立て、その理由として判定請求答弁書の記載のとおりの主張をし、証拠方法として乙第1号証ないし乙第16号証の書証を提出したものである。
その主張の大要は、以下のとおりである。
被請求人は、本件登録意匠の意匠公報発行後に出願した意匠登録第1267319号の意匠権を保有しており、その登録意匠とイ号意匠の意匠に係る物品は同一であり、意匠の構成において、僅かに、押しボタンの形態のみが相違するのみで、両意匠は明らかに意匠上実質同一である。イ号意匠と実質的同一であるその登録意匠が権利付与専門官庁たる特許庁においてイ号意匠と本件登録意匠とは非類似の関係にあるとの判断認定が示された。
本件登録意匠とイ号意匠との対比
(1)共通点
請求人が共通点として挙げた外容器、カバー、押込体、駆動体(下記の相違点を除く)、可動枠、内容器については共通するが、駆動体のイ号意匠にはスイッチリングは存在しないのでこの点を共通点として抽出することは誤りである。
上記各構成部分から成る組立体について請求人が挙げた共通点は、単なる請求人の評価であり、主張であり、この点を共通点として抽出することは誤りといわざるを得ない。
(2)相異点
(a)外容器は、本件登録意匠が平面視で短辺が僅かに外周へ円弧状に湾曲しているのに対し、イ号意匠は短辺をほぼ直線状にしている点、(b)カバーは、本件登録意匠が平面視で短辺がその本体ケースの短辺に対応して僅かに外側へ弧状にしているのに対し、イ号意匠はほぼ直線状にし、かつ、カバー表面に4列5行計20個の斬新なスモーク状円形部が形成されている点、(c)イ号意匠ではカバー短辺の前後に庇状の二個の取手を設けているのに対し、本件登録意匠は設けていない点、(d)イ号意匠ではカバーの外周面に沿って起立し駆動体に係合する3個の爪が突設されているのに対し、本件登録意匠は設けていない点、(e)本件登録意匠がスイッチリングに駆動体上面に延びる舌状のスイッチ板が形成されるのに対し、イ号意匠にはこのようなスイッチリング及びスイッチ板がない点、(f)本件登録意匠が左右側面のグリップ部下縁を水平としているのに対し、イ号意匠ではグリップ部の下縁を前後で上方へ立上げるように折曲させている点、(g)本件登録意匠では上面に平面視で投入筒に向かって開く略半円状の溝と、この溝で囲まれた部分に設けた小長方形の押圧スイッチとが表れるのに対し、イ号意匠では投入筒に近い位置に四角形のスイッチボタンが表れている点と共に、両意匠のスイッチボタンの作用態様に相違がある点、(h)イ号意匠では駆動体の上面から後面にかけて目立つ大小二個の途中が90度折曲した形状のリング凹部が形成されているのに対し、本件登録意匠にはない点、(i)イ号意匠では第3押込体の上面には非常に目立つ大小四個の環状凹部が形成されているのに対し、本件登録意匠にはない点、(j)イ号意匠では投入筒の外周面には4等配位置に非常に目立つ四個の上側が半円弧状の略半円弧状の隆起凸部が形成されているのに対し、本件登録意匠にはない点、(k)イ号意匠では駆動体のグリップ部分の両表面には非常に目立つ五個の滑止凹状部が形成されているのに対し、本件登録意匠にはない点、(l)本件登録意匠の駆動体及びカバーは、カバー洗浄を優先的に考慮して嵌脱自在に設けられているのに対し、イ号意匠の駆動体及びカバーは、内容器及び外容器の食材の取り出しを優先的に考慮して一体に強固に固着されている点。
(3)本件登録意匠とイ号意匠との類否
(あ)本件登録意匠の要部
意匠の類否を判断するに当たっては、意匠を全体として観察することを要するが、意匠に係る物品の用途、機能、使用態様を参酌して、取引者、需要者の注意を最も惹きやすい部分を意匠の要部として把握し、両意匠が要部において共通するか否かを中心に観察し、判断すべきである。
そこで本件登録意匠の要部認定においては、購買担当者(取引者)及び家庭の主婦層(需要者)の注意を最も惹きやすい部分を要部とするのが妥当である。そして、購買担当者及び主婦層が「フードプロセッサー」を選択する際に重視するのは、(ア)売り易い斬新な造形処理が施されたデザインであるか否か、(イ)グリップ部分の滑り止めの形状やグリップ部分の形状が主婦にとって使い勝手の良いものであるか否か、(ウ)不意にスイッチが入ることのない安全性に配慮した形状となっているか否か、(エ)内容器及び外容器から切り載済み、おろし済みの食材の取り出しが容易であるか否か、(オ)内容器及び外容器の洗浄が簡単な形状になっているか否かのこれらの点であると認められる。
そうすると、本件登録意匠の要部は、(ア)の点からすれば、外容器が平面視で短辺が僅かに外周へ円弧状に湾曲している形状及びカバーが平面視で短辺がその本体ケースの短辺に対応して僅かに外側へ弧状に湾曲している形状にあり、(イ)の点からすれば、駆動体の左右側面のグリップ部下縁を水平としている形状にあり、(ウ)の点からすれば、スイッチリング及びスイッチリングから駆動体上面に延びる舌状のスイッチ板の形状及び駆動体の上面に平面視で投入筒側に向かって開く略半円状の溝の存在にあり、(エ)(オ)の点からすれば、駆動体及びカバーは相互に嵌脱自在に設けられている構成にあるものと認められる。
なお、請求人は、本件登録意匠の出願前に構造上本件登録意匠の基本構造を持つものは皆無であったことから、本件登録意匠は極めて特異で斬新なものであり、その類似の幅は極めて広いものであって、前記のように本件登録意匠の要部を判断した点には充分な理由があるものと考えると主張しているが、被請求人の調査によれば、往復動するカッター構造のものとして、乙第1号証乃至乙第16の各公報の図面に記載された意匠が存在しており、従って、このような請求は的はずれといわなければならない。
かりに、本件登録意匠が新種の商品でその基本的形状は極めて独創的であり、所謂原始的創作意匠に当たるから基本構成に要部がある旨の主張については、意匠権の場合においてはその意匠に係る物品についての当該意匠全体から受ける美観が問題とされるから、新種の商品であるからといって、直ちにその基本的構成部分に要部があるとはいえないとすることが判例の態度でもある。
(い)対比
イ号意匠は、本件登録意匠の基本的構成態様とされる前記(答弁書記載の)(3)〈2〉において共通点として記載した(A)〜(F)の点においてほぼ共通し、前記(ア)の点から意匠の要部とすべき外容器の短辺をほぼ直線状にしている点及びカバーの短辺をその本体ケースの短辺に対応してほぼ直線状にしている点、(イ)の点から意匠の要部とすべき駆動体のグリップ部の下縁を前後で上方へ立上げるように折曲させている形状及び駆動体のグリップ部の両表面には非常に目立つ五個の滑り止め凹条部が形成されている点、(ウ)の点から意匠の要部とすべきスイッチリング及び駆動体上面に延びる舌状のスイッチ板が全く無い構成及び投入筒に近い位置に四角形のスイッチボタンが表されている点、(エ)(オ)の点から意匠の要部とすべき駆動体及びカバーは一体に強固に固着されている点で相違する。
さらに、本件登録意匠には存在しない庇状の前後二個の取っ手、駆動体に係合する3個の爪、複数個のスモーク状円形部、90度折曲した形状のリング凹部、環状凹部及び隆起凸部が、イ号意匠では存在する点でも相違する。
この二個の取手はカバーの嵌脱に資する形状であり、また、駆動体に係合する3個の爪は組み付け時の駆動体とカバーとの一体性、連続性を維持して位置決め及び固着強度に資する形状であり、また、複数個のスモーク状円形部、90度折曲した形状のリング凹部、環状凹部及び隆起凸部については、売り易い斬新な造形処理が施されたデザインとされるのである。
(う)類否判断
本件登録意匠の要部は、前記(4)〈1〉に記載したとおり、〈1〉外容器が平面視で短辺が僅かに外周へ円弧状に湾曲している点及びカバーが平面視で短辺がその本体ケースの短辺に対応して僅かに外側へ弧状に湾曲している点、〈2〉駆動体の左右側面のグリップ部下縁を水平としている点、スイッチリング及びスイッチリングから駆動体上面に延びる舌状のスイッチ板の形状及び駆動体の上面に平面視で投入筒側に向かって開く略半円状の十分に深い溝の存在、駆動体及びカバーは相互に嵌脱自在に設けられている点である。
そして、本件登録意匠は、このような構成を備えることにより、全体として柔らかく、とりわけ駆動体の左右側面のグリップ部下縁を水平としている形状からは大小二個の四角ブロックを単純に積み重ねたごくありふれたノーデザイン的な普通の印象を与える点が意匠全体から受ける美感の中でもとくに印象に残るものと認められる。また、スイッチリング及び駆動体上面に延びる舌状のスイッチ板並びに駆動体上面の非常に深いU条の溝からなるスイッチ部分の形状からは駆動体と投入筒との一体感が醸出される点も、とくに強く看者の印象に残るものと認められる。
これに対し、イ号意匠は、要部とされるべき外容器及びカバーの形状において、外容器の短辺をほぼ直線状にし、カバーの短辺をその本体ケースの短辺に対応してほぼ直線状にしているため、全体として角張ったシャープな感じを与え、とりわけ駆動体のグリップ部分の上部が開放するほぼU状に大きく凹んだ形状からはバランスの取れた安定感を与えると共に開放的な斬新な印象を与える点が看者の印象に強く残るものとなっている。
また、意匠の要部とされるべきスイッチ部分において、本件登録意匠ではスイッチリングから駆動体上面に延びる舌状のスイッチ板の下面に小さな凸部が形成され、駆動体内部に押圧スイッチが内装され、駆動体の上壁体にこの小さな凸部が挿通可能な挿通穴が形成され、この挿通穴に押圧スイッチに設けられて常時上方に弾圧付勢された作動部が挿通穴の上面と面ー状に露呈し、スイッチ板の外周囲に垂下ガイド部が形成され、この垂下ガイド部が前記の上面に平面視で投入筒側に向かって開く略半円状の深い溝に嵌合し、垂下ガイド部と深い溝との嵌合によりスイッチ板は駆動体から離脱しないように上下方向に案内され、しかして、スイッチ板を指等で押下すると小さな凸部が作動部を押下しつつ挿通穴に挿通されてスイッチが入り、スイッチ板を釈放するとスイッチ板は常時上方に弾圧付勢された作動部により押し上げられてスイッチが切れる仕組みの構成となっているのに対し、イ号意匠にあっては、駆動体の上面に四角状のスライド部及びスライド部の上面に設けた半球殻状のスイッチボタンが設けられ、スライド部を前進スライドさせた状態でスイッチボタンの押下が可能となって押下している間はスイッチが入り、スイッチボタンから指等を釈放するとスイッチが切れ、スライド部を交替スライドさせた状態ではスイッチボタンの押下が不可能となって決してスイッチが入らない仕組みの構成による構成態様においても、明らかに別異の印象を看者に与えている。
さらには、駆動体のグリップ部の両表面には非常に目立つ五個の滑止凹条部が形成され、カバーの上面には複数個のスモーク状円形部が形成され、駆動体の上面及び後面にかけて90度折曲した形状のリング凹部が形成され、第三押込体の上面には環状凹部が形成され、投入筒の外表面にはどの方向からも見える隆起凸部が形成されている点につても、これら造形処理が存在しない本件登録意匠とはまったく印象を異にする。
またさらには、カバーに設けられた駆動体に係合する3個の爪の存在により駆動体とカバーとの連続性、一体性が維持され、両者が強固にして一体に固着されているという印象を与えることになる。
以上のとおり、イ号意匠は、本件登録意匠と共通点を有するが、その共通点は本件登録意匠のすべてを含むものではなく、要部についても大きな相違点があるほか、要部以外の点についても上記相違点が存在するから、全体として相違点が共通点を凌駕し、本件登録意匠とは美感を異にするというべきである。従って、イ号意匠は、本件登録意匠とは類似しないというべきである。
第3.当審の判断
1.本件登録意匠
本件登録意匠は、平成6年9月2日の意匠登録出願に係り、平成8年2月13日に設定の登録がなされたものであり、その願書及び願書に添付された図面の記載によれば、意匠に係る物品を「フードプロセッサー」とし、形態を願書及び願書に添付された図面に表されたとおりのものである(別紙第1参照)。
2.イ号意匠
本件判定請求の対象とされるイ号意匠は、判定請求書に添付されたイ号意匠並びに説明書によれば、意匠に係る物品が甲第2号証及び甲第3号証の記載によると「電動野菜スライサー」であり、その形態を写真版に表されたとおりのものである(別紙第2参照)。
なお、写真版中に背面図が欠落しているが、他の写真版からみた場合、正面図と対称に表れるものであることから正面図を対称に表した形状として認定する。
3.両意匠の比較検討
両意匠は、意匠に係る物品がともに、請求書の「カバーに載置した駆動体によって外容器でカッターを往復させ、カバー上面から突出する投入筒から投入した野菜をスライスする物品…意匠に係る物品が一致する」との記載から、物品が一致し、その形態には、主として以下の共通点と差異点が認められる。
すなわち、共通点は、全体の略下半部を占める外容器形状を正面視逆横長台形状とする透明体の横長隅丸逆角錐台形状とし、その上端細幅周縁部を、上部カバーとの嵌合するために垂直面とし、その両側長手側面に僅かな幅の平行段差を設け、その段差に内容器上部に被せたカッター刃枠載置可動枠の両側にそれぞれ僅かに突出した3個のローラーを架けてスライドするようにし、その内容器形状を外容器と同様に、外容器の高さ、長さともに約半分程とした透明体の正面視逆横長台形状とする横長隅丸逆角錐台形状としたもので、外周に細幅垂下板を設けた蓋状の透明カバーを外容器に被せ、そのカバーの長幅2/3程の上部に円筒状の野菜を投入する投入筒をほぼ中央に設け、その右側にその投入筒とほぼ同高の概略直方体状の駆動部を設けたものであり、その投入筒内には3種の押込体を入れ子状に挿入し、その投入筒、第1及び第2押込体を透明体としたもので、駆動体の投入筒側の両角部を斜めに面取りし、上面左側にスイッチを設け、その両側面ほぼ上半部をやや細幅にして手持ち部とした点。
さらに、第1押込体を円筒形の下端を円筒形径よりやや大きめの円板状とし、第2押込体を円筒側面に等間隔に僅かなリブを4本設け、上端に外側向けに僅かな幅の円環を設け、第3押込体を細幅長方形板を十字状に組み、下端に同幅の円板を、上端にやや大きな円板を設けた形状とした点、
一方差異点は、(イ)外容器、内容器及びカバーの短側面を本件登録意匠は湾曲面としたのに対して、イ号意匠は平面とした点、(ロ)イ号意匠は、カバーの両短側面に突出する取っ手を設け、平面部にスモーク状の小円形を多数配列し、駆動体下部の両側面及び後部に駆動体を支えるように細幅横長の突出片を設けた点、(ハ)イ号意匠は、投入筒外周面に細幅逆U字状の極僅かな凸形状を正面左右側面に表し、その上部に数条の線状のものを表した点、(ニ)イ号意匠は、第3押込体の上面に細幅同間隔の凸状同心円線を3本設けた点、(ホ)イ号意匠は、駆動体上面右半部から後面高さほぼ半部までの幅中央に二重凹線略細長楕円形状を表した点、(ヘ)駆動体の持ち手部を、本件登録意匠は駆動体の上半部やや細幅面と下半部面との境面を傾斜面とし、その上半部垂直面ほぼ中央位置に細長略楕円形状を設けたのに対して、イ号意匠は両側面約上半部程の高さを幅広U字形状に抉った形状とし、その抉り面上部寄りに同長の線条を複数並べた点、(ト)スイッチ形状を、本件登録意匠は投入筒から駆動体上面に延びた舌形状板としたのに対して、イ号意匠は駆動体上面投入筒側寄りに、四角形のほぼ中央に小円突出部を設けた突出形状とした点、が主として認められる。
なお、(ロ)ないし(ホ)の形状はイ号意匠のみに表されたもので本件登録意匠には表されていない。
そこで上記の共通点と差異点につき、イ号意匠が本件登録意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属するか否かの判断に及ぼす影響について、以下に検討する。
まず、共通点につき、この種の(大根おろし器を含むスライサーの手動、電動を問わず)野菜スライサーの分野においては、スライス等したものを受ける容器を横長隅丸略逆角錐台形状の透明体容器とすることは広く知られていることから格別特徴的なものとすることは言えない。また、カバーの上部に円筒状の投入筒を設け、押込体を挿入することも既に知られており、両意匠にのみ共通する独自の特徴とはいえない。第1ないし第3押込体のような柱状の押込体等の各形状を所謂射出成型する場合には、この種物品の分野を問わず広い分野(例えば、ジューサー、注射器等の押圧・押込体形状など)においてそれぞれ同様な形状を呈したものがあることから、この点も格別特徴的なものとは言えず、さらに、電動モーターにより容器上部に設けたカッター刃枠載置可動枠を往復動すること(各乙号証)も広く知られていたことから、この点も格別特徴的なものとは言えず、共通感を印象付ける効果は、さほど大きいものとはいえない。
そうすると、両意匠において共通する点としては、上記以外の外容器上端部の上部カバーとの嵌合部分細幅周縁部形状、その両側長手側面の僅かな幅の段差形状、内容器形状を外容器と同様に、外容器の高さ、長さともに約半分程とした透明体の正面視逆横長台形状とする横長隅丸逆角錐台形状、外容器に被せた蓋状の透明カバー形状、そのカバーの上面右側に概略直方体状の駆動部を設け、その駆動体の投入筒側の両角部を斜めに面取りし、その上面左側にスイッチを設け、上方両側面をやや細幅にして手で持ち易くした点、投入筒内には3種の押込体を入れ子状に挿入し、その投入筒、第1及び第2押込体を透明体とした点、が挙げられるが、これらは両意匠の基本的な構成態様であって、両意匠の骨格を形成しているものと認められる。
してみると、これら基本的な構成態様の共通点のみで、直ちに類否を決定付けられるまでには至らず、やはり、差異点が類否判断に及ぼす影響を比較考量せざるを得ない。
そして差異点につき、(イ)の点は、この種分野に止まらず広い分野において通常行われている程度の差異で、格別特徴的なものともいえない。しかしながら、本件登録意匠には設けられずに、イ号意匠のみに表された(ロ)ないし(ホ)の点、つまり、カバーに設けた両突出取っ手形状、その上面の多数配列した小円形模様、投入筒外周面に設けられた凸形状、押込体上面の模様形状、駆動体表面に表された模様形状がそれぞれ部分的であったとしても、それらが相俟って表す態様は、全体に模様等を表していない本件登録意匠とは明らかに別異の態様を表したものと言わざるを得ず、さらに(ト)のスイッチ形状の差異をも加味すれば、上述の差異と相乗的に本件登録意匠との差異をさらなるものとしたもので、両意匠の類否判断に、極めて大きな影響を及ぼすものとせざるを得ない。
そして、(ヘ)の駆動体の上半部、手持ち部(グリップ部)の形状の差異については、請求人も「重量感と存在感が大きい駆動部」というように、駆動部の形態が全体の形態の内に占める割合は1/3程を占める(特徴を有しない外容器を除いたカバー以上の部分においては1/2以上の部分を占める)ことから、全体の形態に占める割合も大きく、その部分の差異が形態の類否判断に与える影響も大きいと言わざるを得ない。そうすると、その駆動部における上半部程を占めるグリップ部分の態様の差異も全体の態様に与える影響も大きく、また、その部分が視認しやすいことから、両意匠のグリップ部の形態の差異、つまり、駆動体の両側面約半分程の高さ位置を傾斜面とし、その上部を垂直面とした形状、それは下半部に対して上半部全体をほぼ6割強程の厚さにし、その垂直面ほぼ中央位置に細長略楕円形状を設けた態様に対して、両側面約半分程の高さ面に幅広U字形状にほぼ垂直に抉った形状、それは平面視幅太の横I字状にし、その抉り面上部に幅広同長の線条を複数並べた態様との差異は、通常手で持つ部位であることからもその態様の差異を認識し易いところであって、その差異は両意匠の類否判断に極めて大きな影響を及ぼすものとせざるを得ない。
そうしてこれら共通点と差異点を総合すれば、共通点に係る態様が両意匠の基本的な構成態様を表したものであり、その余の共通点とが相俟ったとしても両意匠にのみ共通する独自の特徴として大きく評価できない以上、その特徴は、差異点(ロ)ないし(ホ)に係る、下部容器以外の全体の各所にイ号意匠のみに表された模様形状及び(ト)のスイッチ形状の差異形状、さらに大きな特徴ともいえるグリップ部形状の差異は、両意匠の類否判断に決定的な影響を及ぼすものとせざるを得ず、共通点が相俟った効果を考慮しても、差異点は共通点を凌いで両意匠の類否判断を決定付けるに十分で、意匠全体として、イ号意匠は、本件登録意匠に類似するものとはいえない。
以上のとおりであって、イ号意匠は、本件登録意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属しない。
よって、結論のとおり判定する。
別掲
判定日 2006-10-31 
出願番号 意願平6-26535 
審決分類 D 1 2・ 1- ZB (C6)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 西本 幸男 
特許庁審判長 日比野 香
特許庁審判官 市村 節子
正田 毅
登録日 1996-02-13 
登録番号 意匠登録第952025号(D952025) 
代理人 黒田 勇治 
代理人 山田 文雄 
代理人 黒田 勇治 
代理人 山田 洋資 

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