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審決分類 審判 判定  同一・類似 属する(申立成立) C3
管理番号 1158829 
判定請求番号 判定2006-60065
総通号数 91 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 意匠判定公報 
発行日 2007-07-27 
種別 判定 
判定請求日 2006-11-30 
確定日 2007-06-08 
意匠に係る物品 物干しざお支持具 
事件の表示 上記当事者間の登録第1026676号の判定請求事件について、次のとおり判定する。 
結論 イ号意匠は、登録第1026676号意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属する。
理由 第1.請求の趣旨及び理由
請求人は、「イ号意匠は、意匠登録第1026676号の意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属する、との判定を求める。」と申し立て、その理由を要旨以下のとおり主張し、甲第1号証及び甲第2号証を提出した。

意匠登録第1026676号の意匠(以下「本件登録意匠」という)は、全体が、前面及び背面にレール部を設けた略角棒状の支柱部、物干し竿を支持するアーム部、及び、支柱部をベランダに固定するブラケット部から構成され、アーム部が、支柱前面に設けたレール部を上下にスライドし、支柱上方から鈍角の斜状に延伸して固定されるもので、またブラケット部が、支柱背面に設けたレール部を上下にスライドして、支柱部をベランダ等の所定の高さに調節して固定するという基本的構成態様のものである。そしてこの基本的構成態様については、本件登録意匠の出願前に、意匠登録第756126号意匠、意匠登録第756227号意匠、及び意匠登録第925254号意匠(以上甲第2号証)がみられるが、これらには、ベランダ等に固定して高さを適宜調節するブラケット部は設けられておらず、支柱部、アーム部、ブラケット部の3つの部品によって構成された「物干し竿支持具」は、本件登録意匠がその魁を成すものであり、この点での共通性は、要部に係るもので、類否判断に大きな影響を及ぼすものである。
更に各部の具体的な構成態様においても、アーム部につき、先端部が略円弧状の細長い板状のもので、その外周縁部を枠状に形成して、その内側を一段低く(薄く)形成し、アーム部の背部の枠状が支柱のレール部を上下にスライドするものとしている点、支柱部につき、アーム部よりやや長い角棒状で、その前面に溝幅の略1/3幅の溝状のレール部を形成し、そのレール部の内側をアーム部の背部がスライドし、アーム部が支柱部に平行に納まる態様とし、その支柱の上端部にキャップが被せられている点、ブラケット部につき、その長さが支柱の略1/3の略角柱状であり、その上下端にキャップを設けている点、があり、これに対して差異はいずれも部分的、或いは普通に知られた態様にすぎず、意匠全体として、両意匠の共通点が差異点を凌駕していることは明らかで、意匠全体として、イ号意匠は本件登録意匠に類似するものである。

第2.被請求人の答弁
被請求人は、「イ号意匠は、意匠登録第1026676号の意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属さない、との判定を求める。」と答弁し、その理由を要旨以下のとおり主張し、乙第1号証ないし乙第24号証を提出した。

請求人が特徴として主張する本件登録意匠のアーム部の形状は、本件登録意匠の出願前に、甲第2号証の各意匠、或いは乙第1号証の実願平02-13733号記載の意匠にみられるように公然知られた形状であり、イ号意匠のアーム部の形状も、これら事例のうちの本件被請求人自身の意匠にもみられるように、既に公然知られたものである。また、支柱部及びブラケット部の組み合わせについても、高さを調節して壁面に取り付けられる支柱部及びブラケット部の組み合わせの技術は公知の技術である。
即ち本件登録意匠は、その出願前に公知のアーム部の形状と、公知の支柱部の形状とブラケット部の形状が存在しながら審査の結果登録となったもので、本件登録意匠の権利の範囲は、意匠の出願図面に示されたアーム部の形状、支柱部の形状、ブラケット部の形状に限定されるべきである。そしてこのことは、本件登録意匠がありながら、登録第1166868号意匠(乙第2号証)、同第1190295号意匠(乙第3号証)が登録されていることからも明らかである。またこの種の意匠は、乙第4号証ないし乙第24号証にみられるように、各社からも多数販売されている。
両意匠は、アーム部につき、本件登録意匠は基部の段差が1段で、アーム収納時のアーム部の下方が平らであるが、イ号意匠は、基部に相似形の2段の段差を設け、アーム収納時の基部の形状が下方に突起の突き出した形状である点の差異、孔の形状が略長円形状か角丸略平行四辺形状かの差異、先端部の孔の形状が真円形か略涙滴形状かの差異、また支柱の背側につき、本件登録意匠は、両側にL型レール部を形成した溝部内にブラケット部のT型レール状突出部をスライド自在に嵌め合わしたものであるが、イ号意匠は、背面中央に、両側に向かって翼を広げたT字状のモノレールを突設し、ブラケット部の両側のL型レールがこれにスライド自在に嵌め合わされている点での差異、更に、支柱部の上端のキャップが、大きな略平行四辺形状か、略くさび状かの差異、ブラケット部の断面が略台形形状の略角柱状か断面角柱状かの差異があり、更に、ブラケット部の上下端のキャップの形状、ロックボタンの位置、アームに延伸角度等にも差異があり、両意匠は全体として類似しない。

第3.当審の判断

1.本件登録意匠
本件登録意匠は、平成8年12月3日に意匠登録出願をし、平成10年9月25日に意匠権の設定の登録がなされた登録第1026676号意匠であり、意匠に係る物品を「物干しざお支持具」とし、その形態を、願書及び願書に添付した図面に記載されたとおりとするものである。(別紙第1参照)

2.イ号意匠
イ号意匠は、判定請求書及び添付された書類に「イ号意匠」として示された写真、及び「イ号意匠並びに説明書」として提出されたカタログ(写し)に「アーム付上下移動式ポール KS-DA556ASP」として示された物干しざお支持具の意匠であり、その形態は「イ号意匠」として示された写真(別紙第2参照)に現されたとおりである。

3.本件登録意匠とイ号意匠の対比検討
本件登録意匠とイ号意匠を対比すると、両意匠は、意匠に係る物品が共通し、形態については主として以下の共通点と差異点がある。

即ち、共通点として、(1)前面、及び背面にレールを設けた縦長角柱状の支柱、その前面のレールに取り付けられた、物干し竿を支持するためのアーム、及び、背面のレールに取り付けられた、支柱をベランダ等に固定するためのブラケットから構成されている点、(2)アームは、先端が円弧状の、等幅の帯板状のもので、外周が肉厚状に縁取られ、その内側の肉薄部に、物干し竿を挿通するための孔が帯板方向(長手方向)に等間隔に穿たれたもので、使用時に、支柱前面の上端から、斜め上向きの傾斜状に延伸する態様で固定され、非使用時には、アームの先端を上向として、帯板上辺が支柱前面の凹状のレールに嵌め合されて下降し、支柱と平行状に収まるよう構成されたものである点、(3)ブラケットは、支柱と平行に取り付けられた、支柱の1/3弱の丈の略角柱状のもので、支柱の背面側にスライド自在に取り付けられて、支柱を固定すると共に、支柱の高さを適宜調節できるように構成されたものである点、が認められ、更に、各部の態様を具体的にみても、(4)アームについて、全長が支柱の長さよりやや短い程度で、アーム幅(短手幅)が支柱の前後幅より僅かに広い程度で、基端寄りにやや広い余地面を残して、4つの同形同大の横長孔と、先端の横に短い孔が、狭い間隔を介して配され、基端寄りの肉薄部に、略平行四辺形の浅い段部が形成されている点、(5)ブラケットについて、横幅、前後幅が支柱のそれと大差がなく、上下両端に短丈のキャップが被せられ、更に支柱の上端にもキャップが被せられている点、がある。

一方、両意匠には差異として、(イ)アームの孔の形状につき、本件登録意匠はいずれも楕円形であるのに対し、イ号意匠は、4つの横長孔が隅丸平行四辺形で、先端の孔が水滴形である点、(ロ)アームの基端寄りの段部につき、本件登録意匠は幅狭で、段差を示す2本の平行縦線のうちの左の縦線が、支柱にほぼ接する位置に表されているが、イ号意匠はやや幅広で、段差を示す2本の平行縦線が支柱とやや離れて、余地面のほぼ中央に2本表されている点、(ハ)アームの収納時にアーム下端に現れる基端辺の形状について、本件登録意匠は僅かに傾斜する直線状であるが、イ号意匠は、内寄り(支柱寄り)がL形に切り欠かれて、外寄りが略三角に突き出た形状である点、(ニ)支柱上端のキャップについて、本件登録意匠は、上下にやや長い側面視平行四辺形のもので、側面に略L字形の段差があり、頂面の傾斜がアームの傾斜と同じ向きであるが、イ号意匠は、上下に幅狭の側面視楔形のもので、側面に該当する段差はなく、頂面の傾斜がアームの傾斜と逆向きである点、(ホ)ブラケットについて、本件登録意匠は、横断面が前後2段の構成で、後方の段部が中空台形状で、前方の段部の前面に凸部が設けられ、これが支柱背面の凹部に嵌め込まれてスライドする構成であるのに対し、イ号意匠は、横断面が略方形状と認められ、その前面に凹部が設けられ、これが支柱背面の凸部に嵌め合わされてスライドする構成と認められる点、(ヘ)イ号意匠は、ブラケットの側面にロックレバーが設けられているが、本件登録意匠は対応するロック部材がブラケットの下面に設けられていると認められる点、が主にある。

そこで上記の共通点と差異点を全体として検討するに、まず共通点について、(1)ないし(3)の点は、形態全体の基本的な構成を表す態様であり、また従来態様に照らしても、本件登録意匠の特徴を最もよく表すところと認められ、類否判断に大きな影響を及ぼすものである。
即ち、この種の物干し竿支持具の形態として、本件登録意匠の出願前に、全体が物干し竿を支持するアームとアームを取り付ける支柱からなり、アームの形状が、先端を円弧状とする等幅の帯板状で、内側に物干し竿を挿通する孔が等間隔に穿たれ、これが支柱の上端に、斜め上向きの傾斜状に延伸する態様で取り付けられた形態は、意匠登録第756126号の意匠、或いは意匠登録第756227号の使用状態示す参考図に表された物干し竿支持具に認められ(甲第2号証)、またこの種のアームが非使用時に、支柱前面の凹状のレールに嵌め合されて下降し、支柱と平行状に収まるよう構成されたものも、意匠登録第925254号の意匠(甲第2号証)に認められるところである。
しかしながら、支柱の背面にレールを設けて、このレールに略角柱状のブラケットをスライド自在に取り付けて、支柱を固定すると同時に支柱の高さを適宜調節できるようにした構成は、物干し竿支持具の分野において従前に認めることができず、本件登録意匠は、このブラケットを(3)の形態のものとし、更にアームの構造、及び形態を(2)の態様にものとして、全体を一体化したものであり、一体化された(1)ないし(3)の構成態様は、本件登録意匠の基本的なところを構成し、且つ本件登録意匠の特徴を最もよく表すところであり、その共通性は、両意匠の類否判断に大きな影響を及ぼすものである。
そして両意匠においては、この(1)ないし(3)の共通点に、更に(4)および(5)のアーム、及びブラケットについての具体的な共通点も加わり、両意匠において全体のまとまりが形成されて、全体の基調を決定付けており、この基調の共通性は、看者に両意匠の共通性を強く印象付けるものである。従って両意匠の(1)ないし(5)の共通点は、両意匠の類否判断に極めて大きな影響を及ぼすものである。

被請求人は、本件登録意匠はその出願前に公知のアームの形状と、公知の支柱の形状とブラケット部の形状が存在しながら審査の結果登録となったもので、これらの公知形状は本件登録意匠の範囲から除かれるべきであり、本件登録意匠の権利の範囲は、出願図面に示されたアームの形状、支柱の形状、ブラケットの形状に限定されるべきである、旨主張するところであり、確かに、本件登録意匠、及びイ号意匠のアームの形状及びこれに穿たれた孔の形状それ自体は、本件登録意匠の出願前から公然知られていた範囲のものと認められ(甲第2号証、乙第1号証)、アームを支柱に斜め上向きに固定することも公然知られていたものと認められる(甲第2号証)。またこれらのアーム付き支柱が、昇降するようにベランダ等に取り付けられていたことも認められる(意匠登録第756126号の使用状態参考図、甲第2号証)。
しかしながら、被請求人の提出した各乙号証をみても、支柱の背面にレールを設けて、背面のレールに略角柱状のブラケットをスライド自在に取り付けて、支柱の高さを適宜調節できるようにした構成が、本件登録意匠の出願前に、物干し竿支持具の分野において行われていたとする事例を認めることができず(乙第2号証、及び乙第3号証は、本件登録意匠が登録された後の出願意匠に係るもので、乙第4号証ないし乙第24号証については、これらカタログが本件登録意匠の出願前のものであるとする理由を見出せない。)、また仮に、被請求人の主張するように、高さを調節して壁面に取り付けられる支柱及びブラケットの組み合わせの技術が公知であったとしても、これを物干し竿支持具において採用し、アームの構成と一体化して(1)ないし(3)の構成態様のものに具体化したところは、やはり本件登録意匠の大きな特徴と認められるところであり、この(1)ないし(3)を含む両意匠の(1)ないし(5)の共通点は、やはり上記のとおり、類否判断に極めて大きな影響を及ぼすものと判断せざるを得ない。

一方差異点について、(イ)の点は、この種の孔の形状として、楕円形も、隅丸平行四辺形も極普通にみられるもので、また先端の孔が水滴形であることにも特徴はなく、アームに関する(2)、及び(4)の共通する構成態様の中でみられる微差に止まり、(ロ)の点も、両意匠とも段部は極浅く、差異としてさほど目立たず、この点も、アームについての(2)及び(4)の共通点に吸収される程度の微差に止まる。そして(ハ)の点は、アームの端部という局所的な差異であり、しかもアームの収納時に初めて現れる態様で、類否への影響は微弱であり、(ニ)の点は、両意匠においてはやはり(1)ないし(3)の構成態様が特徴的であって、これを凌いで両意匠を別個に特徴付けるまでの差異とは到底いえず、全体としては、支柱の上端という局所的な部分での差異に止まる。また(ホ)の点も、全体構成を変更するようなものではなく、全体としては、ブラケット及び支柱についての部分的な形態変更に止まる。更に(ヘ)の点は、ロック釦も小さく、局所的な微差に止まる。

すなわち、両意匠の差異はいずれも局所的で、全体としての類否に及ぼす影響はいずれも微弱なものというほかなく、そして差異の関連効果を考慮にいれてもなお、(1)ないし(5)の共通点が形成する全体のまとまりを覆し、別異の意匠を形成するには至らず、両意匠においては、共通点の類否に及ぼす影響が差異点のそれを凌駕することが明らかで、両意匠は全体として類似するものである。

4.結び
以上のとおりであって、両意匠は全体として類似し、イ号意匠は、本件登録意匠、及びこれに類似する意匠の範囲に属する。
よって、結論のとおり判定する。
別掲
判定日 2007-05-24 
出願番号 意願平8-36540 
審決分類 D 1 2・ 1- YA (C3)
最終処分 成立  
前審関与審査官 高野 善民下村 圭子 
特許庁審判長 藤 正明
特許庁審判官 山崎 裕造
市村 節子
登録日 1998-09-25 
登録番号 意匠登録第1026676号(D1026676) 
代理人 井村 照雄 
代理人 若林 拡 
代理人 小出 俊實 
代理人 吉田 親司 
代理人 石川 義雄 
代理人 鈴江 武彦 

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