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審決分類 審判    J5
管理番号 1167433 
審判番号 無効2007-880004
総通号数 96 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 意匠審決公報 
発行日 2007-12-28 
種別 無効の審決 
審判請求日 2007-01-31 
確定日 2007-10-12 
意匠に係る物品 自動販売機 
事件の表示 上記当事者間の登録第1280551号「自動販売機」の意匠登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 登録第1280551号の登録を無効とする。 審判費用は被請求人の負担とする。
理由 第1.請求人の申立及び理由
請求人は、「登録第1280551号意匠(以下、「本件登録意匠」という。)の登録を無効とする。審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求める。」と申し立て、その理由として、審判請求書の記載のとおり主張し、証拠方法として、甲第1号証ないし甲第8号証の書証を提出した。その理由の要点は、以下のとおりである。
[1]意匠登録無効の理由の要点
1.本件登録意匠は、甲第1号証の意匠(以下、「甲号意匠」という。)に類似するものであるから、意匠法第3条第1項第3号の規定により意匠登録を受けることができないものであり、同法第48条第1項第1号により、無効とすべきである。(無効理由1)
2.本件登録意匠は、甲号意匠、甲第6号証ないし8号証の意匠(なお、請求人は、審判請求書の「(3)意匠登録無効の理由の要点」の項の記載において、「甲第6号証ないし8号証の意匠」に係る記載について、「甲第2号証の意匠、甲第3号証の意匠及び甲第4号証の意匠」と記載しているが、後記の「(4)本件登録意匠を無効とすべき理由」の項の記載の内容に照らせば、明らかな誤記と認められる。)に基づいて当業者が容易に創作できたものであるから、意匠法第3条第2項の規定により意匠登録を受けることができないものであり、同法第48条第1項第1号により、無効とすべきである。(無効理由2)
[2]本件登録意匠を無効とすべき理由
1.本件登録意匠の手続の経緯
本件登録意匠は、平成17年12月2日に出願され、平成18年4月28日に拒絶理由通知書が送付され、その後平成18年6月7日に意見書が提出され(なお、請求人は、審判請求書の第2頁の「(2)手続の経緯」において、「意見書 平成18年6月6日」と記載しているが、意見書の提出日は平成18年6月7日であり、誤記である。)、平成18年7月28日に意匠権の設定の登録がなされたものである。
2.無効理由1(意匠法第3条第1項第3号違反の点)
(1)本件登録意匠と甲号意匠との類否
(1-1)カプセル入りの商品の自動販売機は、背側が壁に寄り添うようにして設置されるのが一般的で、特に、正面側及び側面側が需要者にとって見やすい部分となり、意匠の類否判断に、特に、正面側及び側面側の形態の共通点が大きな影響を及ぼす。
(a)両意匠は、正面側及び側面側から見て、全体に対して、前面カバーの占める位置、大きさ及び範囲がほぼ同じであると共に、側面側から見て、前面カバーが前方に向けて膨らみ出し、各販売部の下半部が前面カバーの端から前方に向けて膨らみだし、全体的に見ると、需要者に共通の美感を与える。
(b)細部を見ても、両意匠は、正面側から見て、コイン投入口、操作ハンドル及び商品排出口用カバーの位置関係がほぼ同じであると共に、前面カバー及び商品排出口用カバーが透明となり、需要者に共通の美感を与える。
(c)本件登録意匠の各販売部の下半部の膨らみが弧状であり、甲号意匠の下半部の中央前面が鉛直平面となっている点で、両意匠は相違するが、甲号意匠の場合、本件登録意匠と同様、各販売部の前面カバーの端から下半部が前方に向けて膨らみ出しているため、全体的として両意匠は共通の美感を与える。
(d)両意匠は、正面側から見た場合、商品排出口用カバーの縦方向の長さが異なっているが、商品排出口用カバーの上縁は両意匠共弧状に湾曲し、両意匠は需要者に共通の美感を与える。
(e)正面側から見た場合、本件登録意匠は、コインメック表板の下縁が矩形状となっているのに対して、甲号意匠は、逆舌片状となっている点で両意匠は相違するが、コインメック表板が基体に占める位置、大きさ、範囲が両意匠は同じであるので、コインメック表板の下縁の形状の相違が両意匠の類否判断に与える影響は微弱である。
(1-2)本件登録意匠の審査段階の意見書の中での本件登録意匠に係る 出願人の主張について
本件登録意匠は、審査段階で拒絶理由通知が出され、甲号意匠を引用意匠として、意匠法第3条第1項第3号の規定に該当する旨の認定が一旦なされ、意見書の提出によってその拒絶理由が解消されたとして登録査定がなされている。この意見書の中で、被請求人(本件登録意匠に係る出願人)は次のように述べている。
(f)出願人は、「本願意匠は、上下販売部の基体夫々の正面がわ下半分が、前方へ大きく湾曲しており、・・、前面カバーの湾曲ラインに連続するように設けられており、上下の販売部夫々が側面から見て略B字状をイメージするように形成してあること(これに対して引用意匠にあっては、上下販売部の基体夫々の正面がわ下半分が、略鉛直平面となっており、・・、前面カバーの湾曲ラインに不連続となるように設けられている。しかして、上下の販売部夫々は、側面から見て略B字状をイメージできない。)」と述べているが、両意匠は、上下販売部の基体夫々の正面がわ下半分は前面カバーの端から正面がわに向けて張り出している点においては共通し、また、前面カバーと上下販売部の基体夫々の正面がわ下半分との占める面積は略同じであり、側面側からみた場合、看者に与える全体的印象はほぼ同じであり、湾曲ラインの有無は美感上において微差に過ぎず、両意匠の類否判断に与える影響は微弱である。
(g)出願人は、「本願意匠は、上下販売部の前面カバーが、正面から見て中央の湾曲基板・・と、左右側板・・との連設部分は、略直角となるように連接されていること、しかも、この前面カバーは、その全体が下部を支点として前方に揺動するように形成されていること(これに対して、引用意匠にあっては、・・前面カバーが、・・湾曲基板と左右側板とからなり、これらが相互に分離した状態で構成されたものであり、更に、左右側板の正面がわ縁部分は、・・大きく湾曲している。しかも、左右側板は、基体に固定されて、中央の湾曲基板のみが下部を支点として前方に揺動する。)」と述べているが、左右側板の正面がわ縁部分が、湾曲しているか否かは、角部が面取りされているか否かの問題であり、その差異は直接対比観察をしない限り見いだすことが困難であり、また、左右側板が基体に固定されて、中央の湾曲基板のみが下部を支点として前方に揺動するか否かは、物品の機能上の問題であり、意匠の問題ではない。
(h)出願人は、「本願意匠は、台座部の後部に基体の背面より後方に突出する後方突出部・・、・・前部に基体の正面より前方に突出する前方突出部が設けてあり、しかも、これら・・の上面部分は、夫々先端がわ・・比較的大きな湾曲面となって・・、台座部がどっしり安定感のある印象を与えるものとなっていること(これに対して、引用意匠にあっては、台座部の後部は、基体の背面に連続するような鉛直面・・、前方突出部の上面部分は、・・略楔状の傾斜面となって・・、台座部は、シャープな印象を与える・・。)」と述べているが、自動販売機の後面がわ及び足元部は購入者にとって見にくい部分であり、しかも、全体に対する面積割合が小さいものであるから、台座部の突出部分の有無及び形状の差異が類否判断に与える影響は微弱である。
(i)出願人は、「本願意匠は、平面から見て、上下販売部の基体の四隅部分は、比較的角張って形成してあること(これに対して、引用意匠にあっては、・・四隅部分は、かなり大きく湾曲している。)」と述べているが、自動販売機は、・・背面が壁に寄り添うように設置されるのが一般的であり、しかも、上下2つの販売部が一体とされているものでは上方から自動販売機を観察することは希であるから、自動販売機の上方から見ての差異が類否判断に与える影響は微弱である。特に、四隅が面取りされているか否かの差異が類否判断に与える影響は微弱である。
(j)出願人は、「本願意匠は、・・コインメック表板が、基体の湾曲部分に合致するような湾曲面となっており、・・、正面から見て略矩形状を呈していること(これに対して、引用意匠にあっては、・・コインメック表板が、基体の鉛直平面に合致するような鉛直平面となっており、・・、正面から見て略舌片状を呈している。)」と述べているが、コインメック表板が基体の前面に設けられるものである以上、両意匠でコインメック表板の湾曲部の有無の差異が生じるのは当然である。むしろ、両意匠において、コインメック表板の基体に占める位置がほぼ同じである点、・・、両意匠のコインメック表板の差異が該コインメック表板の下端の形状に過ぎない点を考慮すれば、その相違が類否判断に与える影響は微弱である。
(k)出願人は、「本願意匠は、・・商品排出口用カバーが、基体の湾曲部分に合致するような湾曲部となっており、・・、正面から見て上縁が稍湾曲した略矩形状を呈していること(これに対して、引用意匠にあっては、商品排出口用カバーが、正面から見て上下販売部の基体夫々の正面がわ右中央に配され・・、基体の鉛直平面に合致するような鉛直平面となっており、・・、正面から見て略逆舌片状を呈している。)」と述べているが、本件登録意匠において、・・基体の湾曲部分に合致するような湾曲部となっているのは当然のことであるが、正面側から見た場合、湾曲部の有無によって、両意匠における商品排出口用カバーの相違は美感の相違に大きな影響を与えず、また、上縁がどちらも弧状に湾曲していることは明らかであり、両意匠の商品排出口用カバーの差異は縦方向の長さの単なる相違に過ぎない。したがって、その相違が類否判断に与える影響は微弱である。
(l)出願人は、「本願意匠は、台座部底面にも、左右転倒防止板と前方転倒防止板とを設けてあり、しかも、これらの転倒防止板夫々は、その先端がわ部分を鉛直面内に於いて揺動させることにより引き出せるように形成してあること(これに対して引用意匠にあっては、・・、本願意匠のような前方転倒防止板は全く存在しない。しかも、左右転倒防止板は、水平方向で旋回させるようにして引き出せるようにしてある。」と述べているが、自動販売機の足元部は購入者にとって見にくい部分であり、転倒防止板の形状の差異が類否判断に与える影響は微弱である。
(m)出願人は、「本願意匠は、基体に於いて、前面カバーの左右側板部分に対応する凹部が、側面から見て前面がわに行くに従って漸次拡開するような略コ字溝状となっていること(これに対して引用意匠にあっては、・・凹部が、側面から見て略円弧状となっている。)」と述べているが、側面カバーが基体に占める位置、大きさ及び範囲は両意匠で近似し、また、側面において、基体の背面、天板及び台座部と残余の部分とで色分け模様を構成するが、その模様及びトーン差も近似している。したがって、凹部の形状に多少の差異はあるが、全体的に側面の美感が近似している。
(n)出願人は、「この種の意匠は、市場に於いて従来から種々のものが提供されており、かなり成熟したものとなっている。しかして、その類似範囲は狭く、基本的な構成態様の差異は勿論のこと、具体的な構成態様の差異も意匠の類否を判断する上で、重要な要素となっていることが明らかになっている。・・若し仮に、本願意匠の登録を拒絶するものとすれば、その創作に成功した者の創作意欲を無にするに等しく、また、意匠の創作を奨励する法目的とも合致しない。」と述べているが、何を根拠にこのようなことが言い得るのか疑問である。甲2号証から4号証までには甲第1号証の出願前に販売されていたカプセル入り玩具の自動販売機が開示され、この種自動販売機は箱形のもの、パイプで上下販売部を連結したもの等が一般的であり、甲第1号証の出願前には、パイプ無しの2段重ねで甲号意匠のように前面カバーを手前側に膨出させたものは存在しない。してみれば、甲第1号証の形態要素の本質的特徴部分はパイプを用いずに販売部を2段重ねすると共に前面カバーを手前側に膨出させた点に存し、この甲第1号証の形態要素の本質的特徴部分を殆どそのまま取り入れた本件登録意匠は甲号意匠のアイデアの範疇にあり、美感上も共通する。
(2)結論
以上のように、総合的に判断すると、両意匠の形態は需要者が物品を混同する程に共通するから、両意匠は類似する。
したがって、本件登録意匠は、甲号意匠と類似するものであるから、意匠法第3条第1項第3号の規定により意匠登録を受けることができないものであり、同法第48条第1項第1号により、無効とすべきである。
3.無効理由2(意匠法第3条第2項違反の点)
(1)本件登録意匠と甲号意匠との対比
甲号意匠と本件登録意匠との共通点及び差異点は、上述のとおりである。
また、甲第6号証の意匠と本件登録意匠は、側面側から見て、前面カバーが前方へ向けて膨らみ出すと共に、販売部の前面カバー設置部分が切り欠かれた形態となっていて、前面に向けて漸次拡開するような略コ字溝状となっている点で共通している。
さらに、甲第7号証の意匠(図1に示す意匠)と本件登録意匠は、側面側から見て、上下の販売部夫々は略B字状となっている。
また、甲第8号証の意匠(図2に示す意匠)と本件登録意匠は、正面側から見て、コインメック表板が矩形である点で共通する。
(2)本件登録意匠の創作容易
甲号意匠と本件登録意匠は、上記で述べたように、基本的な部分で共通する。そして、被請求人が意見書で差異点として述べている事項の多くは、甲第6?8号証に記載されており、それらは本件登録意匠の出願前に公知であるから、甲号意匠の各要素を適宜に甲第6?8号証の意匠の各要素と置換すれば本件登録意匠に容易に想到することになる。
(3)結論
以上から、本件登録意匠は、出願前に当業者が容易に創作できたものと認められる。
したがって、本件登録意匠は、甲号意匠、甲第6号証ないし8号証の意匠に基づいて当業者が容易に創作できたものであるから、意匠法第3条第2項の規定により意匠登録を受けることができないものであり、同法第48条第1項第1号により、無効とすべきである。
第2.被請求人の答弁
被請求人は、「本件審判請求は成り立たない。審判費用は請求人の負担とする、との審決を求める。」と答弁し、その理由として答弁書の記載のとおり主張し、証拠方法として、乙第1号証ないし乙第3号証の書証を提出した。その理由の要点は、以下のとおりである。
1.無効理由1について
(1)本件登録意匠と甲号意匠の対比
(1-1)本件登録意匠と甲号意匠は、共に、カプセル入り商品を販売するための自動販売機に係るものである点では共通している。
(1-2)本件登録意匠と甲号意匠の形態上の相違点
(ア)本件登録意匠は、上下販売部の基体夫々の正面がわ下半部が、前方へ大きく湾曲しており、前面カバーの湾曲ラインに連続するように設けられており、上下の販売部夫々が側面から見て略B字状をイメージするように形成し、更には、上下販売部に於いて湾曲ラインが4つ連続するような全体としての統一感が感じられるが、これに対し甲号意匠は、上下販売部の基体夫々の正面がわ下半部が、略鉛直平面となっており、前面カバーの湾曲ラインに不連続となるように設けられており、上下の販売部夫々は、側面から見て略B字状をイメージできず、上下販売部に於いて湾曲ラインが4つ連続するようにはなっていないこと。
(イ)本件登録意匠は、前面カバーが、正面から見て中央の湾曲基板と左右側板とからなり、これらが一体的に構成されたものであり、その連設部分は、略直角となるように連接され、更に、この前面カバー全体が下部を支点として前方に揺動するように形成されてあるが、これに対し引用意匠は、前面カバーが、湾曲基板と左右側板とが相互に分離した状態で構成され、これらの境界部分に上下方向に沿った2本の平行な境界線がかなり目立つように現れ、更に、左右側板の正面がわ縁部分は、大きく湾曲している。しかも、左右側板は、基体に固定されて、中央の湾曲基板のみが下部を支点として前方に揺動すること。
(ウ)本件登録意匠は、台座部の後部に基体の背面より後方に突出する後方突出部、前部に基体の正面より前方に突出する前方突出部が設けてあり、しかも、これら突出部の上面部分は、比較的大きな湾曲面となって、特に、前方突出部は、上下販売部に於ける4つの湾曲ラインに連続するように設けてあり、全体としての統一感が感じられるが、これに対し甲号意匠は、台座部の後部は、基体の背面に連続するような鉛直面となっており、前方突出部の上面部分は、略楔状の傾斜面となって、台座部は、シャープな印象を与え、本件登録意匠のように台座部がどっしりした安定感のある印象を与えるものとはなっておらず、更に、前方突出部が、本件登録意匠のように上下販売部に於ける4つの湾曲ラインに連続するようには全く設けられていないこと。
(エ)本件登録意匠は、平面から見て、上下販売部の基体の四隅部分は、比較的角張って形成してあるが、これに対し甲号意匠は、四隅部分は、かなり大きく湾曲していること。
(オ)本件登録意匠は、コインメック表板が、基体の湾曲部分に合致するような比較的大きな湾曲面となっており、正面から見て略矩形状を呈しているが、これに対し甲号意匠は、コインメック表板が、基体の鉛直平面に合致するような鉛直平面となっており、正面から見て略舌片状を呈していること。
(カ)本件登録意匠は、商品排出口用カバーが、基体の湾曲部分に合致するような比較的大きな湾曲面となっており、正面から見て上縁が稍湾曲した略矩形状を呈し、更に、湾曲部分の略半分以上の高さを有する比較的大きなものとなっているが、これに対し甲号意匠は、商品排出口用カバーが、正面から見て上下販売部の基体夫々の正面がわ右中央に配され、基体の鉛直平面に合致するような鉛直平面となっており、しかも、正面から見て略逆舌片状を呈し、更に、鉛直平面部分の1/3強の高さを有する比較的小さなものとなっていること。
(キ)本件登録意匠は、台座部底面に、左右転倒防止板と前方転倒防止板とを設けてあり、しかも、これらの転倒防止板夫々は、その先端がわ部分を鉛直面内に於いて揺動させることにより引き出せるように形成してあるが、これに対し甲号意匠は、本願意匠のような前方転倒防止板は全く存在しない。しかも、左右転倒防止板は、水平方向で旋回させるようにして引き出せるようにしてあること。
(ク)本件登録意匠は、基体に於いて、前面カバーの左右側板部分に対応する凹部が、側面から見て前面がわに行くに従って漸次拡開するような略コ字溝状となっているが、これに対し甲号意匠は、凹部が、側面から見て略円弧状となっていること。
(2)本件登録意匠と甲号意匠との類否における請求人の主張について
(a’)請求人は、前記(a)と主張しているが、両意匠には、前記(ア)で述べたような相違点があり、共通の美感を与えるものとはなっていない。特に、本件登録意匠は、上下販売部に於いて湾曲ラインが4つ連続するような全体としての統一感が感じられるが、この形態は、先行周辺意匠にも全く存在しない。
(b’)請求人は、前記(b)と主張しているが、両意匠には、前記(オ)(カ)で述べたような相違点があり、共通の美感を与えるものとはなっていない。
(c’)請求人は、前記(c)と主張しているが、両意匠には、前記(ア)で述べたような相違点があり、共通の美感を与えるものとはなっておらず、各販売部の下半部の形状が類否判断に与える影響は大きい。
(d’)請求人は、前記(d)と主張しているが、両意匠には、前記(カ)で述べたような相違点があり、共通の美感を与えるものとはなっておらず、商品排出口用カバーの相違が類否判断に与える影響は大きい。
(e’)請求人は、前記(e)と主張しているが、両意匠には、前記(オ)で述べたような相違点があり、共通の美感を与えるものとはなっておらず、コインメック表板の相違が類否判断に与える影響は大きい。
(f’)請求人は、前記(f)と主張しているが、両意匠には、前記(ア)で述べたような相違点があり、共通の美感を与えるものとはなっておらず、湾曲ラインの相違が類否判断に与える影響は大きい。
(g’)請求人は、前記(g)と主張しているが、両意匠には、前記(イ)で述べたような相違点があり、これらが類否判断に与える影響は大きい。
(h’)請求人は、前記(h)と主張しているが、両意匠には、前記(ウ)で述べたような相違点があり、前方突出部や後方突出部が類否判断に与える影響は大きい。特に、前方突出部は、上下販売部に於ける4つの湾曲ラインに連続するように設けてあり、全体としての統一感が感じられる。
(i’)請求人は、前記(i)と主張しているが、両意匠には、前記(エ)で述べたような相違点があり、この相違点は、必ずしも上方から見なくとも判るもので、しかも、甲第1号証の四隅の湾曲状態は大きく、単なる面取りの範囲を大きく超えて、これらが類否判断に与える影響は大きい。
(j’)請求人は、前記(j)と主張しているが、両意匠には、前記(オ)で述べたような相違点があり、これらが類否判断に与える影響は大きい。特に、基体の湾出部分に合致するような比較的大きな湾曲面となっている形態は、先行意匠に全く存在しないものである。
(k’-1)請求人は、前記(k)において、「本件登録意匠において、・・基体の湾曲部分に合致するような湾曲部となっているのは当然のことであるが、正面がわからそれを見た場合、湾曲部の有無によって、両意匠における商品排出口用カバーの相違は美感の相違に大きな影響を与えない。」と主張しているが、商品排出口用カバーが、基体の湾曲部分に合致するような湾曲部となっているのは当然のことではないし、また、両意匠には、前記(カ)で述べたような相違点があり、これらが類否判断に与える影響は大きい。
(k’-2)請求人は、前記(k)において、「両意匠の商品排出口用カバーの差異は縦方向の長さの単なる相違に過ぎない。したがって、その相違が類否判断に与える影響は微弱である。」と主張しているが、両意匠には、前記(カ)で述べたような相違点があり、これらが類否判断に与える影響は大きい。
(l’)請求人は、前記(l)と主張しているが、両意匠には、前記(キ)で述べたような相違点があり、これらが類否判断に与える影響は大きい。
(n’)請求人は、前記(n)と主張しているが、先行周辺意匠として、特に、乙第1号証と甲第1号証との関係(相互に非類似として夫々登録)を鑑みれば、この種の自動販売機の成熟度が高いことやその類似範囲が狭いことは明らかである。
(3)結論
本件登録意匠にあっては、前記(ア)ないし(ク)が意匠的効果の顕著な違いとなって発現しており、意匠上、本件登録意匠と甲号意匠とが夫々異なることは明らかとなっている。
従って、本件登録意匠と甲号意匠とに接した取引者等の看者(当業者)は、これらから相互に別異の美感を感受することは明白であり、これらは相互に非類似の意匠である。
2.無効理由2について
本件登録意匠には、前記(ア)(イ)(ウ)(オ)(カ)(キ)等の形態上の特徴を備えたものであり、これらを備えた本件登録意匠は、甲号意匠、甲第6?8号証の意匠に基づいて容易に創作できたものではない。
3.むすび
無効理由1及び無効理由2に対する各反論から明らかなように、本件審判の無効理由には、いずれも正当な理由は存在せず、特に、本件登録意匠は、甲号意匠の存在によって意匠法第3条第1項第3号に該当するものでもないし、また、意匠法第3条第2項に該当するものでもない。以上の理由から、本件審判の請求は成り立たないとの審決を求めるものである。
第3.当審の判断
1.無効理由1(意匠法第3条第1項第3号違反の点)
(1)本件登録意匠
本件登録意匠は、平成17年12月2日の出願に係り、平成18年7月28日に意匠権の設定の登録がなされた意匠登録第1280551号であって、願書及び願書に添付した図面によれば、意匠に係る物品を「自動販売機」とし、その形態を、願書の記載及び願書に添付した図面に記載されたとおりとしたものである(別紙第1参照)。
(2)甲号意匠
甲号意匠は、本件登録意匠の出願前に日本国内において頒布された刊行物である、特許庁が平成8年12月12日に発行した意匠公報に記載された意匠登録第970285号の意匠(意匠に係る物品「自動販売機」)であって、その形態を当該公報に現されたとおりとしたものである(別紙第2参照)。
(3)本件登録意匠と甲号意匠の対比
本件登録意匠と甲号意匠とを対比すると、両意匠は、意匠に係る物品がともに自動販売機であって共通し、形態について、以下に示すとおり、共通点及び差異点が認められる。
<共通点>
(A)全体を、略縦長直方体状とし、上下に2つの販売部を重ねて一体型として、下段の販売部の下側に、キャスターと転倒防止板を付設した略肉厚矩形板状台座部を設け、上段の販売部の上側に、略肉薄矩形板状天板を設けた点(なお、上段販売部上面と下段販売部下面とを垂直状に結んでできる略縦長直方体状筐体部分を、以下、「基体」という。)。
(B)上下販売部の各上半部について、(B-1)左右両側面の前方に、前方に従って漸次拡開する切り欠き凹部を形成し、(B-2)切り欠き凹部と正面側とにかけて、内部の商品収納部を覆う透明な前面カバーを設け、(B-3)前面カバーの正面側を、基体より前方へ円弧状に膨出する曲面とした点。
(C)上下販売部の各下半部を、(C-1)正面側を、基体より前方へ膨出する面とし、さらに、正面から見て、(C-2)左側に略縦長矩形状のコインメック表板を設けて操作ハンドルとコイン投入口を配した販売操作部とし、(C-3)右側に略縦長矩形状の透明な商品排出口用カバーを設けた点。
(D)前面カバーについて、正面側の前面板下端部を支点として前方に揺動して開蓋する点。
(E)販売操作部について、正面から見て、上下販売部の各下半部左側の縦方向ほぼ中央位置で、コインメック表板の下方に、円形状操作ハンドルを配した点。
(F)台座部の前部を、基体より前方へ基体奥行き幅の約1/3突出させ、その上面を前下がり略傾斜面状とした点。
(G)側面から見て、キャスターと転倒防止板を除く筐体部分の(なお、前面カバーは含まない。)、天板部、台座部及び上下販売部の背面側に沿って形成された幅広帯状部分をやや暗調子とし、残余の部分を明調子として、明暗調子模様を構成した点。
(H)転倒防止板を、台座部底面の左右側面寄りの中央に設けた点。
<差異点>
(あ)上下販売部の各下半部の正面側について、本件登録意匠は、基体より前方に円弧状に膨出する曲面としたのに対して、甲号意匠は、基体より前方に倒扁平台形状に膨出する平面とした点。
(い)前面カバーについて、本件登録意匠は、前面板と左右側板とが一体に構成され、その角部が角張っているのに対して、甲号意匠は、前面板と左右側板とが分離して構成され、角部となる左右側板の前面板寄りの縁部を前面板へと円弧状に屈曲している点。
(う)台座部について、本件登録意匠は、台座部の後部を、基体より後方へ前部突出部の突出幅の約1/3突出させ、更に、前部突出部及び後部突出部の各々上面を、湾曲面としたのに対して、甲号意匠は、台座部の後部を、基体の背面に連続する鉛直平面とし、突出部が無く、前部突出部の上面を、平面の傾斜面とした点。
(え)上下販売部の基体の四隅部分を、本件登録意匠は、角張って形成したのに対して、甲号意匠は、隅丸に形成した点。
(お)コインメック表板について、本件登録意匠は、上下販売部の各下半部の前面に合致して円弧状曲面とし、正面から見て、下端を水平状としたのに対して、甲号意匠は、鉛直平面状とし、正面から見て、下端を半円状とした点。
(か)商品排出口用カバーについて、(か-1)本件登録意匠は、上下販売部の下半部の前面に合致して円弧状曲面とし、正面から見て、上端を緩やかな円弧状としたのに対して、甲号意匠は、鉛直平面とし、正面から見て、上端を半円状とし、(か-2)位置及び高さを、正面から見て、本件登録意匠は、下半部の右側下に、下半部の高さの約半分としたのに対して、甲号意匠は、下半部の右側中央に、下半部の高さの約1/3とした点。
(き)転倒防止板について、(き-1)本件登録意匠は、台座部底面の左右に設けた転倒防止板を、前面寄りの中央にも設けたのに対して、甲号意匠は、台座部底面の左右側面寄りの中央のみで、前面寄りに転倒防止板は無く、(き-2)本件登録意匠は、転倒防止板後端を支点に垂直方向に揺動させ引き出すのに対して、甲号意匠は、転倒防止板後端を支点に水平方向に旋回させ引き出す点。
(く)上下販売部の左右両側面の各切り欠き凹部を、側面から見て、本件登録意匠は、後端を切り欠き凹部最大縦幅の約7/10とする垂直直線状とし、上下端を緩やかな円弧状として、前方に従って漸次拡開する略コ字状としたのに対して、甲号意匠は、上端から後端とに連続した円弧状とし、下端へ滑らかに繋ぎ、下端を切り欠き凹部最大縦幅の約1/4縦幅とする、前下がり直線状として、前方に従って漸次拡開する略円弧状とした点。
(4)本件登録意匠と甲号意匠の類否判断
そこで、両意匠の共通点及び差異点を総合して、両意匠の類否を意匠全体として検討し、判断する。
この種自動販売機は、カプセルに入ったおもちゃ等の商品を販売する自動販売機であって、使用者は、前面カバーから覗くことができる商品収納部の内部に収められたカプセルの商品を確認しながら、コインを投入し、操作ハンドルを回すことによって、排出される商品カプセルを、商品排出カバーを開けて取り出し受け取ることができるものである。したがって、商品収納部の内部が覗ける前面カバーや販売操作部等を有する正面側及び側面側を中心とした斜視状態で観察される意匠全体の構成態様が、看者の注意を惹き付けるものである。
そうとすると、共通点である(A)全体の構成は、全体の骨格を構成するものであり、また、(B)上下販売部の上半部態様は、販売部の上半分を占めて、使用者が覗く商品販売部を有する部分で、(C)上下販売部の下半部態様は、販売部の下半分を占めて、使用者が商品を出し入れするための販売操作部と商品排出カバーを有する部分で、(B)(C)いずれも全体に係る主要な部分を構成するものであり、共通点(A)ないし(C)による構成態様は、全体の基本的構成態様を形成し、かつ、(A)ないし(C)による構成態様は、全体の略縦長直方体状の正面側に透明な前面カバーと操作部の膨出面が縦に4個連続する意匠的効果を醸成し、甲号意匠出願前にこの種自動販売機の分野において見られない態様で、特徴的な態様であるから、格別看者の注意を惹くものである。加えて、各部の具体的構成態様として、共通点(D)ないし(H)の中で、共通点(E)販売操作部における操作ハンドルの位置及び形状は、使用者が商品カプセルを排出する際に直接触れる操作部分であり、(F)台座部の前部の態様は、基体より前方へ基体奥行き幅の約1/3突出させ、その上面を前下がり略傾斜面状とし、斜視状態で観ると視覚的に目立ち、(G)明暗調子模様は、斜視状態で明確に視認されるものであるから、両意匠の共通感をより強めるものである。
したがって、共通点(A)ないし(H)の構成態様の相まって奏する視覚的効果は、意匠全体として、両意匠に強く共通した美感を起こさせるものである。
これに対して、差異点は、微弱であり、両意匠の共通した美感を変更するものではない。
すなわち、差異点(あ)上下販売部の下半部の正面側の面態様の差異は、いずれも、基体より前方へ膨出している点では共通し、かつ、本件登録意匠のように、下半部を円弧状に膨出する曲面とすることが、本件登録意匠の出願前にこの種自動販売機の分野において、意匠登録第1116854号(意匠に係る物品「商品自動販売機」)、意匠登録第1116855号(意匠に係る物品「商品自動販売機」)、公開特許公報所載特開2002-133493号図4自動販売機等に示されるように、既に公然知られた態様で、本件登録意匠に限る特徴的な態様ではなく、共通点(A)ないし(C)による全体の基本的構成態様を変更して、両意匠に異なる印象を与える程のものではなく、この差異は看者の注意を惹くものではない。
差異点(い)前面カバーについて、前面板と左右側板とが一体に構成されるか、分離して構成されるかの差異は、前面カバーの開閉に構造的な違いが生じたとしても、視覚的には前面板と側板との境界線として現れるだけであって、看者にとって、前面カバーから内部を覗くことに格別異なる印象を与えるものではなく、また、前面板と左右側板とによる角部の差異は、角部が、全体から見れば、部分的な箇所であり、かつ、前面カバーが内部を覗けるように透明とし、看者は角部を格別意識することなく、前面カバーの差異は、看者の注意を惹くものではない。
差異点(う)台座部について、後部台座部の有無の差異は、突出幅も前部突出幅の約1/3と狭くなり、かつ、背面側の下部で、視覚的に隠れて目立たず、また、前部突出部の上面態様の差異は、上面がいずれも面一状に表現され、上方から見下ろす斜視状態からすれば、突出した前下がり傾斜面状の構成態様が視覚できる程であり、台座部形態の差異は、看者の注意を惹くものではない。
差異点(え)上下販売部の基体の四隅部分の差異は、角部の局所的な箇所で、細部の相違であって、看者の注意を惹くものではない。
差異点(お)コインメック表板について、面態様の差異は、上下販売部の下半部の正面側の面態様に合致するように、その面上に単にコインメック表板を設けただけであり、また、下端の態様の差異は、略縦長矩形状とする下端の部分的な箇所であり、コインメック表板の態様の差異は、看者の注意を惹くものではない。
差異点(か)商品排出口用カバーについて、(か-1)面態様の差異は、上下販売部の下半部の面態様に合致するように、その面上に単に商品排出口用カバーを設けただけであり、また、下端の態様の差異は、略縦長矩形状とする部分的な箇所であり、この商品排出口用カバーの態様の差異は、看者の注意を惹くものではない。また、(か-2)商品排出口用カバーの位置及び高さの差異は、いずれも上下販売部の下半部の右側の狭い範囲における僅かな差に過ぎず、商品カプセルを取り出す態様に格別異なる印象を与えるものではなく、この差異は看者の注意を惹くものではない。
差異点(き)転倒防止板について、(き-1)台座部底面の前面寄りの転倒防止板の有無の差異及び(き-2)転倒防止板の引き出し構造の差異は、いずれの差異も、転倒防止板が下部に設けられ、目立たないもので、かつ、付加的な構造であり、看者の注意を惹くものではない。
差異点(く)上下販売部側面の切り欠き凹部について、本件登録意匠が略コ字状で、甲号意匠が略円弧状としても、共に前面カバーから内部が覗けるように、上下端が前方に大きく開くもので、後端の態様の差異は、窄まる奥方の部分的な箇所であり、また、上下端の態様の差異は、本件登録意匠の上下端が緩やかな円弧状とし、引用意匠の上端が円弧状で、下端が直線状としても、いずれも凝視して分かる程度の僅かな差に過ぎず、共通点(B-1)左右両側面の前方に、前方に従って漸次拡開する切り欠き凹部を形成した構成態様を変更するものではなく、切り欠き凹部の態様の差異は、看者の注意を惹くものではない。
そして、これらの差異点の相まって奏する視覚的効果を勘案しても、これらの差異点は、両意匠の共通する美感を変更するまでの異なる美感を起こさせるものではない。
結局、両意匠は、意匠に係る物品が一致し、形態においても、共通点が差異点を凌駕し、意匠全体として美感が共通するものであり、本件登録意匠は、甲号意匠に類似する。
(5)小括
したがって、本件登録意匠は、意匠法第3条第1項第3号に掲げる意匠に該当する。
2.むすび
以上のとおりであって、本件登録意匠は、意匠法第3条第1項第3号に掲げる意匠に該当し、同条第同項の規定に違反して意匠登録されたものであるから、その他の無効理由について検討するまでもなく、意匠法第48条第1項第1号の規定に該当し、その意匠登録は無効とすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
別掲
審理終結日 2007-08-02 
結審通知日 2007-08-07 
審決日 2007-08-31 
出願番号 意願2005-35620(D2005-35620) 
審決分類 D 1 113・ 113- Z (J5)
最終処分 成立  
前審関与審査官 関口 剛 
特許庁審判長 梅澤 修
特許庁審判官 鍋田 和宣
杉山 太一
登録日 2006-07-28 
登録番号 意匠登録第1280551号(D1280551) 
代理人 中村 政美 
代理人 荒船 博司 
代理人 中村 政美 

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