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審決分類 審判 判定  同一・類似 属する(申立成立) H1
管理番号 1172462 
判定請求番号 判定2007-600078
総通号数 99 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 意匠判定公報 
発行日 2008-03-28 
種別 判定 
判定請求日 2007-10-15 
確定日 2008-02-19 
意匠に係る物品 チョークコイル 
事件の表示 上記当事者間の登録第1144593号の判定請求事件について、次のとおり判定する。 
結論 (イ)号図面及びその説明書に示す「チョークコイル」の意匠は、登録第1144593号意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属する。
理由 理由
1.請求の趣旨
本件は、相手方製品説明書記載のチョークコイル(以下、イ号物件といい、その意匠をイ号意匠という)が意匠登録第1144593号の意匠(以下、本件登録意匠という)の範囲に属するとの判定を求めるものである。
2.請求人の主張
請求人は、本件登録意匠とイ号意匠について概ね次のとおり主張し、甲第1?4号証を提出している。
2.1 本件登録意匠の構成
(1)基本的構成
A チョークコイル1において、コア部材2は前後端にそれぞれ設けられた大径の各鍔部5、5、及び該各鍔部5、5によって挟持された鍔部より小径の巻芯部3より構成されている。
B 前記各鍔部5、5には正面側及び背面側に各1個、合計各2個の脚部が下方に突出し、該脚部にチョークコイルの電極6、6が1箇所ずつ(コア部材全体につき4箇所)形成されている。
C 巻芯部3にはワイヤ4が巻線され、該ワイヤの端末は、前記各脚部の各底面に形成された前記電極6,6、・・・に接続されている。
(2)具体的態様
D 各鍔部5、5は略直方体状に形成され、周囲が面取り状に丸みを帯びている。なお脚部の巻芯部側端縁は正面視において鍔部の巻芯部側端縁よりやや端部側に引き込んでいる。
E 巻芯部3の断面形状は、幅方向に長く高さ方向に短い長方形状である。
F 各脚部の電極6は底面視略正方形状であって、周囲が面取り状に丸みを帯びている。
G ワイヤ4は巻芯部3において2本を1組として平行に巻線されており、各2本1組の巻線間には間隔が保たれている。
H ワイヤ4端末の電極6との接合部分は、略楕円匙状に扁平化されている。
I コア部材2はその天面において透明または半透明の樹脂7によって覆われている。
2.2 イ号意匠の構成
(1)基本的構成
2a チョークコイル201において、コア部材202は全後端にそれぞれ設けられた大径の各鍔部205、205、及び該各鍔部205、205によって挟持された鍔部よりも小径の巻芯部203から構成されている。
2b 前記各鍔部205、205には正面側及び背面側に各1個、合計各2個の脚部が下方に突出し、該脚部にチョークコイルの電極206、206が1箇所ずつ(コア部材全体につき4箇所)形成されている。
2c 巻芯部203にはワイヤ204が巻芯され、該ワイヤの端末は、前記各脚部の各底面に形成された前記電極206、206、・・・に接続されている。
(2)具体的態様
2d 各鍔部205、205は略直方体状に形成され、周囲が面取り状に丸みを帯びている。
2e 巻芯部203の断面形状は、幅方向に長く高さ方向に短い長方形状である。
2f 各脚部の電極206は底面視略正方形状であって、周囲が面取り状に丸みを帯びている。
2g ワイヤ204は巻芯部203において2本を1組として平行に巻線されており、各2本1組の巻線間には間隔が保たれている。
2h ワイヤ204端末の電極206との接合部分は、略楕円匙状に扁平化されている。
2i コア部材202はその天面の略全面において透明の樹脂207によって覆われている。
2.3 対比
(1)本件登録意匠の基本構成A?Cとイ号意匠の基本構成2a?2cは全て同一である。
(2)本件登録意匠の具体的態様D前段とイ号意匠の具体的態様2dとは同一である。
イ号意匠と本件意匠との正面視における鍔部上側と脚部との各長手方向の長さとの差異は微差である。
(3)本件登録意匠の具体的態様E、F、H、Iとイ号意匠の具体摘記態様2e、2f、2h、2iは全て同一である。
(4)本件登録意匠の具体的態様Gとイ号意匠の具体的態様2eとは、ワイヤ4が巻芯部において2本を1組として並行に巻線されている点で共通し、本件登録意匠においては各2本1組の巻線間に間隔が保たれているのに対して、イ号意匠においては間隔の保たれた疎の部分と間隔の小さな密の部分がある点で相違するが、本件登録意匠の関連意匠として意匠登録第1145060号が、巻線されたワイヤが密巻されているにも関わらず登録されており、2本1組の巻線の疎密は本件登録意匠とイ号意匠の類否判断を左右しない微差である。
3.被請求人の主張
これに対し、被請求人は答弁書を提出し、概ね次のとおり主張し、乙第1?5号証を提出している。
3.1 本件登録意匠の構成
(1)基本構成
A チョークコイル1において、コア部材2は前後端にそれぞれ設けられた大径の各鍔部5、5及び該各鍔部によって挟持された鍔部より小径の巻芯部3より構成されている。
B 前記各鍔部5、5には正面側及び背面側に各1個、合計各2個の脚部が下方に突出し、該脚部にチョークコイルの電極6、6が1箇所ずつ(コア部材全体につき4箇所)形成されている。
C 巻芯部3にはワイヤ4が巻線され、該ワイヤの端末は、前記各脚部の各底面に形成された前記電極6,6、6、6に接続されている。
(2)具体的態様
D 各鍔部5、5は略直方体状に形成され、周囲が面取り状に丸みを帯びている。なお脚部の巻芯部側端縁は正面視において鍔部の巻芯部側端縁よりやや端部側に引き込んでいる。すなわち、正面視において、鍔部の幅は上側から巻線部にかけて同じであり下部の脚部にかけて幅狭となっている。
E 巻芯部3の断面形状は、幅方向に長く高さ方向に短い長方形状である。
F 各脚部の電極6は底面視略正方形状であって、周囲が面取り状に丸みを帯びている。
G ワイヤ4は巻芯部3において2本を1組として平行に巻線されており、各2本1組の巻線間には間隔が保たれている。
H ワイヤ4端末の電極6との接合部分は、略楕円匙状に扁平化されている。
I コア部材2はその天面において透明または半透明の樹脂7によって覆われている。
3.2 イ号意匠の構成
(1)基本的構成
2a チョークコイル201において、コア部材202は全後端にそれぞれ設けられた大径の各鍔部205、205、及び該各鍔部205、205によって挟持された鍔部よりも小径の巻芯部203より構成されている。
2b 前記各鍔部205、205には正面側及び背面側に各1個、合計各2個の脚部が下方に突出し、該脚部にチョークコイルの電極206、206が1箇所ずつ(コア部材全体につき4箇所)形成されている。
2c 巻芯部203にはワイヤ204が巻芯され、該ワイヤの端末は、前記各脚部の各底面に形成された前記電極206、206、206、206、に接続されている。
(2)具体的態様
2d 各鍔部205、205は略直方体状に形成され、周囲が面取り状に丸みを帯びている。また、正面視において、鍔部の幅は上側から脚部(下部)にかけて同じである。
2e 巻芯部203の断面形状は、幅方向に長く高さ方向に短い長方形状である。
2f 各脚部の電極206は底面視略正方形状であって、周囲が面取り状に丸みを帯びている。
2g ワイヤ204は巻芯部203において2本を1組として平行に巻線されており、各2本1組の巻線間には間隔が保たれている。
2h ワイヤ204端末の電極206との接合部分は、略楕円匙状に扁平化されている。
2i コア部材202はその天面の略全面において透明の樹脂207によって覆われている。
3.3 類似性
(1)本件登録意匠の基本構成A?Cとイ号意匠の基本的構成2a?2cは対応している。
(2)本件意匠の具体的態様E?Hとイ号意匠の具体的態様2e?2hは対応している。
なお、本件登録意匠の具体的態様Gとイ号意匠2gの巻線は、「ワイヤは、巻芯部において2本を1組として平行に巻線されており、各2本1組の巻線間には間隔が保たれている」との構成は、例えば、特開2000-311816号(乙2号証)の図1、2、3に示されるように、「バイファイラ巻きしながら整列巻きすることにより高周波領域における特性を良好にする」こと、と同じ記載であり、機能を構成する態様であり、必然的に使用されている周知技術である。
(3)本件登録意匠の具体的態様Dとイ号意匠2dとは同一又は類似でない。 イ号意匠は、本件登録意匠のように脚部の巻芯部側端縁が正面視において鍔部の巻芯部側端縁よりやや端部側に引き込んでいないことが異なる。すなわち、本件登録意匠の正面視において、鍔部の幅は、上側から巻線部にかけての幅が幅広で、巻線部から下部の脚部にかけて幅狭となっている。
これに対し、イ号意匠におけるコア部材の構造は、イ号意匠写真(乙第1号証)の正面視、底面視から観られるように、コア部材の鍔部の幅は上面から脚部(下面)にかけてストレート(b)であり、鍔部と巻芯部との間にテーパー段差(c)が設けてあることが判る。
このように、コア部材の構造においても、本件登録意匠とイ号意匠とは異なることは明白である。
また、本件登録意匠の関連意匠として意匠登録第1145059号(甲第号証)が記載されているが、正面視において、鍔部の幅は上側から脚部にかけて同じである。しかし、この意匠は、ワイヤ端末と接合する部分の電極を上面に形成したことが要部になっているものと考慮する。
このように、イ号意匠(乙第1号証)および意匠登録第1145059号(甲第4号証)におけるコア部材の構造に置いて、鍔部の幅を上部から脚部(下部)にかけて同じ幅にすることは、例えば、特開2000-208331号(乙第3号証)の図9の従来例として記載されているように、当業者における極めて一般的な構造である。
(4)本件登録意匠の具体的態様Iとイ号意匠2iとは同一又は類似でない。
コア部材の天面において透明樹脂で覆われている部分が本件登録意匠では上面から側面の一部にかけて全面に覆われているのに対し、イ号意匠は略上面にのみ覆われていることが異なる。
ここにおいて、コア部材の天面を透明樹脂で覆う構成は、当業者における周知技術であり、例えば、公知資料1:M&E、28巻7号(2001-7-1)、200頁にnH帯巻線タイプチップインダクタLLQシリーズとして掲載されている(乙第4号証)。そのLLQ1608外観写真より透明樹脂で覆われていることおよび巻線状態が見える。また、公知資料2:Coilcraft社のカタログ(Document 117-1 Revised7/17/95)”Surface Mount Wide Band RF Transformers”に ”a flat top for auto insertion”としても記載されており、中央部の外形寸法図においてもコア部材の天面から側面にかけて樹脂を覆う構成が記載されている(乙第5号証)。
そして、コア部材の天面を透明樹脂で覆う構成において、本件登録意匠、公知意匠1、公知意匠2におけるコア部材の天面を覆う構成は、コア部材の天面を下方にして、天面から所定の深さまで液状樹脂に浸責して硬化させたものである。
これに対し、イ号意匠におけるコア部材の天面を液状樹脂で覆う構成は、コア部材の天面に液状樹脂を塗布して仮硬化した後、平板で加圧本硬化させたものであり、添付、イ号意匠写真(乙第1号証)の平面視に観られるように、コア部材の天面の一部端部(角部)が透明樹脂で覆われていない部分(a)が存在する。すなわち、コア部の天面部のみで、側面を覆うような製造方法ではない。
このように、コア部材の天面部を透明樹脂で覆う構成において、本件登録意匠とイ号意匠は透明樹脂で覆う製造方法の違いからくる仕上がり状態が異なる。
(5)以上のことから、イ号意匠はコア部材、巻線仕様、天面の透明樹脂を覆う構成において従来技術から成る周知形状及び構成であり、コア部材の天面を透明樹脂で覆う構成において全面か略全面かは両者の美感に差異を生じさせない微差としても、本件登録意匠の意匠としての要部は具体的態様Dの鍔部の形状からくる美感を基本とするものであり、イ号意匠の具体的態様1dとは異なることから類似するものではない。
(6)外観上の美感からくる印象はコア部材の鍔部の形状から本件登録意匠の重厚な印象に対し、イ号意匠は華奢な印象を与えるものである。これらの点を総合的に判断するとイ号意匠は本件登録意匠の範囲を離脱しており、類似するものではない。
3.4 需要者との関係
本物品の一般需要者は、電気通信機器のセットメーカーである。この種の物品の購入には機能が重要視され、その機能から形状構造が点検されるのでその形状の差も詳細に点検されるのが一般的である。従って、この種の物品の類似範囲は通常極めて狭いものである。前記イ号意匠と本件意匠が意匠上混同される恐れはない。また、その他の需要者においても、前述の如き形状の差異から、意匠の混同の恐れはない。よって、この点でもイ号意匠は本件意匠の類似範囲にないと考える。
4.当審の判断
そこで、イ号意匠が本件登録意匠に類似するか否かについて以下検討する。
4.1 本件登録意匠
本件登録意匠は、意匠に係る物品を「チョークコイル」として、平成13年9月6日に出願され、平成14年4月26日に意匠登録を受けたものであり、願書及び願書添付の図面によれば、本件登録意匠は、該物品の形状に関する創作物であって、その構成態様は同図面に記載されたとおりである。(別紙1参照)
本件登録意匠の主な構成態様を摘記すれば、概ね次のとおりである。
(1)全体の基本的構成態様
全体の基本的構成態様について、コア部材と、コア部材に導線を巻回して形成した巻線部と、天面に形成した被覆部とによって全容を形成し、コア部材については、扁平な四角柱状巻芯部の両端に巻芯部よりも一回り大径の矩形板状鍔部を並行に対置させるとともに、巻芯部に対する鍔部の下方突出幅を上方及び前後方向の突出幅よりも多少大きくとり、さらに両方の鍔部の下端中央を側面視矩形状に切り欠くとともに、四隅を脚状に突出させて先端部に電極端子を形成し、巻線部については、対を成す2本の導線を密接させた状態で巻芯部の周囲に巻回すとともに、各導線の端部を隣接する電極端子の底部にそれぞれ接合し、被覆部については、コア部材の天面を透光性樹脂によりキャップ状に浅く覆うように形成。
(2)鍔部における脚状突出部及び周縁の出隅部の態様について、鍔部下端の矩形状切欠部の横幅及び深さ(即ち、脚状突出部の突出幅)を、鍔部の側面視における横幅及び高さのそれぞれ略1/3程度として、脚状突出部を略四角柱状に形成し、さらに正面視において、脚状突出部の内側を抉るようにして該部の肉厚を上方に位置する鍔部外周面よりも2割程度削減し、鍔部周縁の出隅部を丸面状に形成。
(3)コア部材における対向する鍔部の間隔及び巻芯部と鍔部が連接する隅部の態様について、対向する鍔部の脚状突出部側の間隔を上方部側の略1.3倍程度拡張し、巻芯部と鍔部が連接する隅部のうち、正面から平面を経由して背面に至る部分を直角の入り隅状に形成し、底面部分を正面視円弧状の凹面に形成。
(4)巻線部における導線の巻数、巻き方及び端部形状について、導線の巻数を5回として、巻線の間隔を一定に保って巻回し、電極端子との接合部を底面視略楕円形に拡張。
(5)被覆部の態様について、コア部材の天面全域及び天面に接する周側面の上縁部付近を被覆し、上面を平坦面として周縁部に一定の丸みを持たせるとともに、下縁部を上面と並行に整形。
(6)コア部材の概略的な寸法比率について、正面図を基にした高さ:横幅:奥行きを略1:2.2:1.3程度とし、正面視において、巻芯部の横幅をコア部横幅の略2/5程度、鍔部の厚みの略1.5倍程度とし、鍔部における脚状突出部の突出幅を鍔部全高の略3/10倍程度に設定。
4.2 イ号意匠
一方、イ号意匠は、請求人が提出した「相手方製品目録」によれば、意匠に係る物品が「チョークコイル」であり、その構成態様は、「イ号意匠写真(別紙2参照)」に現されたとおりである。
なお、イ号意匠の構成要素は、形状、模様及び色彩の結合したものであるが、模様及び色彩については、ともにこの種の物品に用いられる素材に見受けられる一般的なもの又は、製造工程において発生した変色の域を出ないものであって、意匠の構成要素として特筆すべきものはなく、本件両意匠の類否判断に影響を及ぼすものではないと認められることから、以下は、形状についてのみ認定・判断する。
イ号意匠の主な構成態様を摘記すれば、概ね次のとおりである。
(1)全体の基本的構成態様
全体の基本的構成態様については、前記5.1(1)に示す本件登録意匠のそれと一致する。
(2)鍔部における脚状突出部及び周縁の出隅部の態様について、鍔部下端の矩形状切欠部の幅及び深さを、鍔部の側面視における横幅及び高さのそれぞれ略1/3程度として、脚状突出部を略四角柱状に形成し、さらに脚状突出部を含む鍔部外周面を等幅として、鍔部周縁の出隅部を丸面状に形成。
(3)コア部材における対向する鍔部の間隔及び巻芯部と鍔部が連接する隅部の態様について、対向する鍔部の間隔を全域において略等間隔とし、巻芯部と鍔部が連接する隅部のうち、正面から平面を経由して背面に至る部分に低く小幅な階段状縁部を形成し、底面部分を直角の入り隅状に形成。
(4)巻線部における導線の巻数、巻き方及び端部形状について、導線の巻数を6回として、巻線の間隔に疎密を付けて巻回し、電極端子との接合部を底面視略楕円形に拡張。
(5)被覆部の態様について、コア部材の天面のうち、鍔部を除く部分の天面及び該天面に接する正面側及び背面側の上縁部付近を被覆し、上面を平坦面として正面側及び背面側の縁部に樹脂溜まり状の丸みを持った緩やかな膨出部を形成。
(6)コア部材の概略的な寸法比率について、正面図を基にした高さ:横幅:奥行きを略1:2.4:1.4程度とし、正面視において、巻芯部の横幅をコア部横幅の略3/5程度、鍔部の厚みの略2.5倍程度とし、鍔部における脚状突出部の突出幅を鍔部全高の略3/10程度に設定。
4.3 本件登録意匠とイ号意匠の対比
本件登録意匠とイ号を対比すると、両者は、意匠に係る物品がコモンモードノイズ除去用の「チョークコイル」である点で一致し、意匠の主な構成態様については、次に示す共通点及び相違点が認められる。
[共通点]
(1)全体の基本的構成態様
全体の基本的構成態様について、コア部材と、コア部材に導線を巻回して形成した巻線部と、天面に形成した被覆部とによって全容を形成し、コア部材については、扁平な四角柱状巻芯部の両端に巻芯部よりも一回り大径の矩形板状鍔部を並行に対置させるとともに、巻芯部に対する鍔部の下方突出幅を上方及び前後方向の突出幅よりも多少大きくとり、さらに両方の鍔部の下端中央を側面視矩形状に切り欠くとともに、四隅を脚状に突出させて先端部に電極端子を形成し、巻線部については、対を成す2本の導線を密接させた状態で巻芯部の周囲に巻回すとともに、各導線の端部を隣接する電極端子の底部にそれぞれ接合し、被覆部については、コア部材の天面を透光性樹脂によりキャップ状に浅く覆うように形成している点。
(2)鍔部における脚状突出部及び周縁の出隅部の態様について、鍔部下端の矩形状切欠部の横幅及び深さ(即ち、脚状突出部の突出幅)を、鍔部の側面視における横幅及び高さのそれぞれ略1/3程度として、脚状突出部を略四角柱状に形成し、鍔部周縁の出隅部を丸面状に形成している点。
(3)巻線部における導線の端部形状について、電極端子との接合部を底面視略楕円形に拡張している点。
[相違点]
(1)鍔部における脚状突出部の態様について、本件登録意匠においては、脚状突出部の内側を抉るようにして該部の肉厚を上方に位置する鍔部外周面よりも正面視2割程度削減して小幅な段差を形成しているのに対し、イ号意匠においては、脚状突出部を含む鍔部外周面を等幅に形成している点。
(2)コア部材における対向する鍔部の間隔及び巻芯部と鍔部が連接する隅部の態様について、本件登録意匠においては、対向する鍔部の脚状突出部側の間隔を上方部側の略1.3倍程度拡張し、巻芯部と鍔部が連接する隅部のうち、正面から平面を経由して背面に至る部分を直角の入り隅状に形成し、底面部分を正面視円弧状の凹面に形成しているのに対し、イ号意匠においては、対向する鍔部の間隔を全域において略等間隔とし、巻芯部と鍔部が連接する隅部のうち、正面から平面を経由して背面に至る部分に低く小幅な階段状縁部を形成し、底面部分を直角の入り隅状に形成している点。
(3)被覆部の態様について、本件登録意匠においては、コア部材の天面全域及び天面に接する周側面の上縁部付近を被覆し、周縁部に一定の丸みを持たせるとともに、下縁部を上面と並行に整形しているのに対し、イ号意匠においては、コア部材の天面のうち、鍔部を除く部分の天面及び該天面に接する正面側及び背面側の上縁部付近を被覆し、正面側及び背面側の縁部に樹脂溜まり状の丸みを持った緩やかな膨出部を形成している点。
(4)巻線の巻数及び巻き方について、本件登録意匠は巻数を5回として、巻線の間隔を一定に保って巻回しているのに対し、イ号意匠は巻数を6回として、巻線の間隔に疎密をつけて巻回している点。
(5)コア部材の概略的な寸法比率について、本件登録意匠においては、正面図を基にした高さ:横幅:奥行きを略1:2.2:1.3程度とし、正面視において、巻芯部の横幅をコア部横幅の略2/5程度、鍔部の厚みの略1.5倍程度としているのに対し、イ号意匠においては、正面図を基にした高さ:横幅:奥行きを略1:2.4:1.4程度とし、正面視において、巻芯部の横幅をコア部横幅の略3/5程度、鍔部の厚みの略2.5倍程度としている点。
4.4 類否判断
以上の共通点及び相違点に基づいて、イ号意匠が本件登録意匠に類似するか否かを以下検討する。
先ず、共通点(1)に示す全体の基本的構成態様については、これが両意匠全体の骨格を構成するものであり、これに共通点(2)に示す鍔部における脚状突出部及び周縁の出隅部の態様を併合することによって、両意匠に共通の支配的基調が形成され、さらに共通点(3)に示す巻線部における導線の端部形状が加味されることで、前記支配的基調の共通性が一層強められていることが図面上看取できる。
なお、共通点(1)に示す全体の基本的構成態様のうち、「コア部材と、コア部材に導線を巻回して形成した巻線部と、天面に形成した被覆部とによって全容を形成し、コア部材については、四角柱状巻芯部の両端に巻芯部よりも一回り大径の矩形板状鍔部を並行に対置させるとともに、巻芯部に対する鍔部の下方突出幅を上方及び前後方向の突出幅よりも多少大きくとり、さらに両方の鍔部の下端中央を側面視矩形状に切り欠き、四隅を脚状に突出させて先端部に電極端子を形成し、巻線部については、対を成す2本の導線を密接させた状態で巻芯部の周囲に一定の間隔を保って巻回すとともに、各導線の端部を隣接する電極端子の底部にそれぞれ接合」した構成態様は、乙3号証の【図1】(別紙3参照)に見受けられるが、この図面には「コア部材の天面を透光性樹脂によりキャップ状に浅く覆う」構成態様及び、共通点(2)に示す構成態様「鍔部下端の矩形状切欠部の幅及び深さ(即ち、脚状突出部の突出幅)を、鍔部の側面視における横幅及び高さのそれぞれ略1/3程度として、脚状突出部を略四角柱状に形成し、鍔部周縁の出隅部を丸面状に形成」が記載されておらず、また、本件登録意匠の出願前に共通点(1)及び(2)を併合することによって形成される支配的基調を有する意匠が公然知られたものであることを示す証拠も見当たらないことから、前記支配的基調の共通性は、相違点(1)?(4)に係る差異を凌駕して看者に強く印象づけられるとともに、共通の美感を起こさせるものということができる。
一方、相違点(1)の鍔部における脚状突出部の態様の差異については、本件登録意匠の「脚状突出部の内側を抉るようにして該部の肉厚を上方に位置する鍔部外周面よりも正面視2割程度削減して小幅な段差を形成している」態様が乙3号証の【図5】に、イ号意匠の「該部の肉厚を上方部分と等幅に形成している」態様が同【図1】等にそれぞれ見受けられることから、この差異は、公然知られた構成態様間の差異であって、看者の注意を格別喚起するものとはいえない。
つぎに、相違点(2)のコア部材における対向する鍔部の間隔及び巻芯部と鍔部が連接する隅部の態様の差異については、本件登録意匠の脚状突出部側の間隔が上方部と比べて多少大きいとしても、全体的に見ればその差は僅かであり、イ号意匠の巻芯部と鍔部が連接する隅部に形成された低く小幅な階段状縁部も小規模なものであって、外観上は前面に位置する等幅の鍔部外周面の奥部に巻芯部の端部を縁取るように形成されているため、全体的に見ればさほど目立つものではないことから、これらの差異は、いずれも局所的微差に止まり、前記支配的基調の共通性に抗してイ号意匠を特徴付ける程の視覚効果をもたらすものではない。
つぎに、相違点(3)の被覆部の態様の差異については、その差異が被請求人の主張するように、製造方法の違いからくる仕上がり状態の相違であるとしても、本件両意匠ともコア部材の大部分を占める巻芯部の天面全域を覆っている点においては共通することから、全体的に見れば、この差異は、局所的微差というほかなく、イ号意匠の被覆部の態様についても、本件登録意匠と比較すれば、製品間における品質のばらつき程度のものであって、前記支配的基調に抗してイ号意匠を特徴付ける程の視覚効果をもたらすものではない。
つぎに、相違点(4)の巻線の巻数及び巻き方の差異については、巻数の差異が目視上は極めて僅かであり、巻き方の差異が、巻線において普通に見受けられる巻き方同士の差異であって、看者の注意を格別喚起するものではないことから、いずれの差異も本件両意匠の類否判断に影響を及ぼすものではない。
また、相違点(5)に係るコア部材の概略的な寸法比率の差異については、その差異は僅かであって、本件両意匠の類否判断に影響を及ぼすものではない。
さらに、これらの相違点に係るイ号意匠の形態が相俟って表出する視覚効果を勘案しても、イ号意匠を全体的に特徴付ける構成態様を見出すことはできない。
なお、被請求人は、本物品の需要者が電気通信機器のセットメーカーであるから、購入に際しては機能が重要視され、その機能から形状構造が点検されるので形状の差も詳細に点検されるのが一般的であるとし、この種物品の類似範囲が通常極めて狭いものである旨主張するが、技術的観点から見た場合の形状の差異に対する評価が直ちに視覚を通じて美感を起こさせることを要件とする意匠の観点からみた場合の形状の差異に対する評価につながるものではないことから、被請求人のこの主張は採用できない。
以上を総括すると、本件両意匠は、意匠に係る物品が一致し、意匠の主な構成態様において、共通点(1)及び(2)を併合することによって形成される支配的基調が本件登録意匠特有のものであり、しかもこの共通性は、両意匠の相違点を凌駕するものと認められる。
5.むすび
したがって、イ号意匠は、本件登録意匠に類似するといわざるをえないものである。
よって、結論のとおり判定する。
別掲
判定日 2008-02-04 
出願番号 意願2001-26286(D2001-26286) 
審決分類 D 1 2・ 1- YA (H1)
最終処分 成立  
前審関与審査官 奥家 勝治 
特許庁審判長 関口 剛
特許庁審判官 岩井 芳紀
木本 直美
登録日 2002-04-26 
登録番号 意匠登録第1144593号(D1144593) 
代理人 岩坪 哲 
代理人 速見 禎祥 

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