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審決分類 審判    K2
管理番号 1187455 
審判番号 無効2007-880022
総通号数 108 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 意匠審決公報 
発行日 2008-12-26 
種別 無効の審決 
審判請求日 2007-12-18 
確定日 2008-10-30 
意匠に係る物品 釣用ルアー 
事件の表示 上記当事者間の登録第1186922号「釣用ルアー」の意匠登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 登録第1186922号の登録を無効とする。 審判費用は被請求人の負担とする。
理由 第1.請求の主旨及び理由
請求人は、登録第1186922号意匠(以下、「本件登録意匠」という。)の登録を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求める、と申し立て、その理由として、要旨以下のとおり主張し、甲第1号証ないし甲第25号証(枝番号を含む)を提出した。
本件登録意匠は、創作者でない者によって出願、登録されたものであるから、意匠法第48条1項3号に違反し(冒認出願)、仮に伊藤(被請求人)が創作者であったとしても、創作者である請求人桑原に無断で単独出願したものであるから、意匠法第15条第1項で準用する特許法第38条(共同出願)に違反し、仮に請求人桑原が創作者でないとしても、本件登録意匠はその出願前に第三者に公然知られ、又は公然知られた意匠に類似するものであり、あるいは容易に創作できたものであるから、意匠法第3条1項1号、同3号又は同3条第2項に違反する。
1.(理由1)冒認出願
(1)本件登録意匠は、創作者及び出願人を伊藤のみとして平成15年2月21日に出願され、平成15年8月15日に登録を受けたが、伊藤は、請求人桑原が自発的に創作した釣用ルアーの譲渡を受けたに過ぎず、あるいは精々、製作を請求人桑原に依頼した、単なる指示者に過ぎない。本件登録意匠の真の創作者は請求人桑原のみであって、伊藤は請求人桑原の同意を得ることなく、自己のみを創作者と偽って出願し登録を受けたものであるから、いわゆる冒認出願であって意匠法第48条1項3号に該当し、無効とされるべきものである。
(2)事実関係
請求人桑原と伊藤とは、平成12年秋頃から平成16年4月頃までには、取引関係を有していた。具体的には、伊藤から依頼を受けた種々のハンドメイド釣用ルアーを請求人桑原が作製し、伊藤がイトウクラフトを通じて販売する協力関係にあった。このことは、甲第5号証、甲第6号証、及び甲第7号証からも裏付けられる。
平成14年3月6日、請求人桑原宛と伊藤との電話において、オスのヤマメを模したサイズ50mmの釣用ルアー作成を、請求人桑原が伊藤に発案し、請求人桑原がこの発案に基づいた新たな釣用ルアーを作製し、伊藤にサンプルを納品することになった。同日中に伊藤は、甲第8号証として提出する平成14年3月6日付伊藤から請求人桑原宛のファクシミリにおいて、全長5cmの釣用ルアーのアイデアをスケッチ(以下「50mmルアーのスケッチ」という。)で示した。このスケッチは、請求人桑原と伊藤との電話での話し合いに基づいて伊藤が描いたものである。請求人桑原は、この50mmルアーのスケッチを参照して、バルサ製ルアーを削り出すための型紙及び彩色用テンプレートを作製した上で、サイズ50mmの釣用ルアーを作製した。
一方で請求人桑原は、伊藤から特段の依頼を受けることなく独自に、異なるタイプのサイズ65mmの釣用ルアーの作製を思いつき、上記ファクシミリを受けてから2週間後に、伊藤に電話で提案し、承諾を得、平成14年9月頃、65mmルアーを作成した。この65mmルアーが本件登録意匠と同一の釣用ルアーである(甲第10号証及び甲第10号証の2)。
その後請求人桑原は、平成14年9月頃から10月頃にかけて自ら作成した65mmルアーを使ったテストを行う一方、平成14年10月頃から11月頃、請求人吉岡ら5人に65mmルアーを無償譲渡して、重りのバランスや性能、使用感等を確認した上で、平成14年12月頃から平成15年1月頃にかけて、伊藤に納品するための65mmルアーを作成した。
そして、平成15年1月16日、請求人桑原は、形状は相互に同一で色模様を変化させた4種類の50mmルアー、同4種類の65mmルアーを伊藤に納品した。
そして、平成15年4月4日、伊藤らは、甲第7号証の雑誌「トラウティストvol.9」(平成15年4月4日発行)の広告において、請求人桑原から納品を受けた本件登録意匠に係る釣用ルアーを含む商品を掲載し、販売の告知を行った。
しかしながら一方で、平成15年2月21日、伊藤は請求人桑原に無断で、自らを創作者と称する意匠登録出願を行い、本件登録意匠の登録を得た。伊藤は納品された50mmルアーと65mmルアーとを対比し、65mmルアーのみを自己の権利として出願、登録したものであり、その行為は冒認に他ならない。
(3)本件登録意匠と請求人桑原の作成した釣用ルアーとの完全一致
上述のとおり、本件登録意匠は、請求人桑原が自らの発案で作製したものであって、特に本件登録意匠の【本願意匠に色模様を付した一例を示す参考正面図】及び【本願意匠に色模様を付した一例を示す参考斜視図】に示す釣用ルアーは、請求人桑原が作製した釣用ルアーを撮影した「そのもの」である。甲第10号証に示すとおり、請求人桑原の作製した釣用ルアーは、模様のパターンも含めて完全に一致し、参考図の写真に示す釣用ルアーを作製したのが請求人桑原であることは明白である。
(4)本件登録意匠と50mmルアーとの相違点
甲第8号証のファクシミリは、サイズが50mmであると明記されるラフスケッチである。そして、本件登録意匠の各図面と対比すれば明らかなとおり、スケッチでは目が中心寄りの位置に、判別困難な程に小さく描かれているのに対し、本件登録意匠では上端に接して非常に大きく描かれ黒目もはっきり描かれている。
また、スケッチでは唇のラインがストレートでなく、波線状に曲がって描かれているのに対し本件登録意匠では、唇はストレートに描かれている。さらにスケッチでは唇のラインが水平からやや上方に傾斜しているのに対し、本件登録意匠ではストレートのラインが上方に大きく傾斜し、かつ鼻の部分でU字状に折曲された厚い唇を表現している。
また、エラの部分も、スケッチでは上端から斜め下方に伸びた後、円弧状に先端側に折り返されているのに対して、本件登録意匠では目の位置から斜め上方に伸びた後、放物線状に下方に折曲されて下端に接している。加えて、本件登録意匠では下端に沿って二重線が描かれているのに対し、スケッチにはこのような線がない。
さらにスケッチでは背面の盛り上がりがやや前方に位置するのに対し、本件登録意匠では背面の中央が盛り上がった山形となっている。加えてスケッチでは鼻が細くやや上方に突出しているのに対し、本件登録意匠では鼻がより太く短くなっている。
これら本件登録意匠の特徴部分は、伊藤の提示したスケッチからは見出せず、請求人桑原の手によってなされた創作的な特徴であるといえ、本件登録意匠の創作者は桑原のみである。
(5)参考図に係る釣用ルアーは請求人桑原の作製したもの
釣用ルアーの表面に付した模様は、伊藤のスケッチに何ら示されておらず、すべて請求人桑原が独自に創作したものであり、参考図に示す具体例そのものが請求人桑原の創作した釣用ルアーである以上、この現品の色模様を省略して形状のみを図面として抽出したにすぎない本件登録意匠の創作に、請求人桑原が大きく関与していることに疑義はない。
単なるラフスケッチの走り書きといったアイデアレベルの提供と、バランスのとれた商品として造形する作業とは、決して同レベルのものでなく、伊藤が提示したものは抽象的な、単なるアイデアに過ぎず、これを具体的な物品の形状に具現化したのは請求人桑原であり、最終商品から表面の色模様を捨象したとしても、その意匠には請求人桑原の創造したデザインの骨格たる形状が当然残っており、伊藤はこれを請求人桑原に無断で冒認出願したものであるから、本件意匠登録は意匠法48条1項3号に違反し、無効とされるべきである。
2.(理由2)共同出願違反
仮に、伊藤が甲第8号証等から、本件登録意匠の創作に多少なりとも貢献していたとしても、本件登録意匠に係る具体的なデザインを創作したのは請求人桑原であるから、又は少なくとも請求人桑原の創作が加えられているから、本件登録意匠の創作は共同でなされたこととなる。したがって、共同創作者の同意無く出願、登録された本件登録意匠は、意匠法第15条第1項で準用する特許法第38条に違反しており、意匠法第48条第1項第1号に該当し、無効とされるべきである。
甲第8号証のファクシミリで伊藤が50mmルアーのスケッチを描いたこと、及び該50mmルアーのスケッチが本件登録意匠と一見類似していることから、伊藤自身も本件登録意匠の創作に多少なりとも貢献していたと考えられなくもない。仮に本件登録意匠のベースがサイズ50mmのスケッチであったとしても、該アイデア具現化するために、多々の面で創作に寄与していることから、請求人桑原が創作者であることに変わりはなく、その一方で伊藤も創作者の一であるとするならば、本件登録意匠は共同創作に該当する。
3.(理由3)新規性又は創作非容易性
万一、請求人桑原が創作者でないとしても、本件登録意匠はその出願前に第三者に公然知られ、又は公然知られた意匠と類似し、あるいは該意匠に基づいて容易に創作できたものであるから、意匠法第3条1項1号、同3号、又は同第3条第2項に違反する。
仮に請求人桑原が創作者に該当せず、伊藤の依頼で本件登録意匠を制作した者に過ぎないとしても、請求人桑原は、本件登録意匠のの出願時においても現在も、伊藤が意匠登録出願することを知らされておらず、さらに新規性の観点から出願前に本件登録意匠を秘密にするよう依頼もされておらず、出願前の秘密保持義務の存在については認識しようがなく、本件意匠の出願に際して守秘義務を負わない第三者に該当する。
そして請求人桑原本人は、本件登録意匠に係る釣用ルアー(甲第10号証の2に示す紅鮭型ルアー。)を、本件登録意匠出願前に作製し、平成14年9月頃から10月頃にかけて、主に吉野川の山川町水域等、公の場所で秘密にすることなく使用しており、誰もが見える状態にあった。
さらに、請求人桑原本人の実施のみならず、請求人吉岡ら5人も無償譲渡を受けた本件登録意匠に係る釣用ルアーを用いて、平成14年10月頃から11月頃にかけて、主に吉野川の山川町水域等の場所で釣りを行っている(甲第16号証ないし甲第20号証)。
これらの譲渡は、あくまでも請求人桑原と吉岡らとの個人的な譲渡であり、吉岡らは、請求人桑原あるいは伊藤らに対して、何ら守秘義務を負っていない。したがって、当該譲渡行為及び公然実施が「意匠登録を受ける権利を有する者の行為に起因」するものでないことは明らかであり、意匠法第4条弟2項には該当せず、新規性を喪失していることは明らかである。
さらに加えて、請求人桑原が創作者でないというのであれば、本件登録意匠は、甲第8号証のサイズ50mmのスケッチに対して、何ら創作的な付加がなされていない、すなわち、該スケッチと本件登録意匠はほぼ同一である(あるいは少なくともこれから容易に創作できた)こととなる。
そして、創作者でない請求人桑原は第三者となり、伊藤とは守秘義務契約を締結しておらず、秘密保持義務を負わない第三者である請求人桑原に対し、伊藤は本件登録意匠の出願前である平成14年3月6日に、甲第8号証のファクシミリにて、本件登録意匠と実質同一(あるいは少なくとも類似)の意匠を開示し、さらに請求人桑原は上述のとおり、該意匠にかかる物品を同じく第三者である吉岡らに譲渡し、吉岡らは該物品を公然実施している。以上の事実から、本件登録意匠は出願前に「公然知られた」意匠に該当し、意匠法第3条1項1号及び同3号により新規性を喪失しており、又は意匠法第3条2項に該当する公然知られた意匠から容易に創作できたものであって、いずれにしても意匠法弟48条第1項1号に該当し無効とされるべきものである。

第2.請求人の弁駁の理由
請求人は、被請求人の答弁書に対して弁駁書を提出し、要点以下のとおり主張し、甲第26号証ないし甲第30号証を提出した。
伊藤は、本件登録意匠出願を自身が描いた「発注ルアーデザイン」(甲第8号証、以下、「伊藤のスケッチ」という。)ではなく、請求人桑原が作成した65ルアーに基づいて、意匠登録を行ったこと認め、さらに出願の事実を請求人桑原に対し秘匿していたことも認めている。これらの事実のみでも、伊藤の行為が冒認であること、あるいは少なくとも請求人桑原が創作に関与していることを示すに十分である。
伊藤のスケッチと本件登録意匠を重ねて表示した甲第26号証の図から明らかな通り、全体のシルエットや目の大きさ、エラの形状、口の線、舌片の長さ及び傾斜、底面の二重線の有無、底面の形状、背面形状、釣り針連結用リング等、多くの相違点が存在する。
伊藤のスケッチと本件登録意匠には多くの相違点があり、各相違点は創作的な要素を含んでいるので、請求人桑原は創作者である。
請求人桑原が創作者(の一)であるためには、本件登録意匠に伊藤のスケッチと異なる創作的な部分が一つでも存在すれば足りる。特に伊藤は、65ルアーに基づいて本件登録意匠の図面を作成したことを認めており、かつ65ルアーの図面代用写真を【本願意匠に色模様を付した一例を示す参考正面図】及び同斜視図として提出しているのであるから、本件登録意匠と65ルアーとは同視でき、甲第26号証の図から本件登録意匠と伊藤のスケッチとの相違点は多数存在し、これらには創作的価値が認められる。
また、伊藤のスケッチは正面図のみの簡単な平面であるが、本件登録意匠は立体である。言い換えると、甲第1号証に係る意匠公報の平面図、底面図、右側面図、左側面図に現れる意匠は、伊藤のスケッチからは把握できない、請求人桑原による創作である。
また、過去の取引において伊藤側が請求人桑原に対し、ルアーのデザイン料を支払った事実が複数ある。本件登録意匠にかかる65ルアー及び50ルアーに対しては、伊藤が請求人桑原に対し当該デザイン料を支払っていない事実は、本来必要な対価の支払いが無く、持分譲渡が生じていないことの裏付けとも言える。
単にデザインイメージの提示があればルアーを作製できるというものではない。ルアーに内蔵するウエイトを何gに設定するか、ウエイトの位置や個数、大きさをどの様に設定するか、等を設計しなければならず、また、このような機能的な設計は意匠の外観形状にも及ぶ。
請求人桑原にはそもそも持ち分譲渡を行う意志はなかったし、また出願の事実を知らされていない以上、持ち分譲渡の必要性も認識し得ず、よって持ち分譲渡の成立はあり得ない。また、持ち分譲渡の有無に拘わらず、創作者として請求人桑原が意匠登録出願の願書に表示されるべきことは言うまでもなく、該表示が願書から欠如していることは、伊藤による冒人を推認させるものである。
伊藤は、本件登録意匠に係る実物ルアーが公知等になったのは伊藤の秘密管理上の不注意である旨主張するが、出願の意図を知られないように「故意に」請求人桑原に連絡せず、出願の事実を秘匿するという自らの目的を達成したのであり、このような行為を「不注意」等と呼べるはずがない。

第3.被請求人の答弁の主旨及び理由
1.被請求人は、本件審判請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求める、と答弁し、要旨以下のとおり主張し、乙第1号証ないし乙第7号証を提出した。
(1)本件登録意匠の創作者は被請求人伊藤秀輝のみであり、冒認出願ではない。よって、意匠法第48条1項3号違反はない。
伊藤と請求人桑原との法律関係は、本件登録意匠に係るルアーの製造についての請負契約であり、請負契約であるとすると伊藤は注文主である。オスのヤマメを模したサイズ50mmの釣用ルアーを作成することを発案したのは、請求人桑原ではなく、伊藤である。
平成14年3月6日の朝、伊藤は、オスのヤマメを模したサイズ50mmの釣用ルアーを思いつき、請求人桑原に電話で自己のアイデアを話すとともに、本件スケッチ(甲8)を作成し、同日の12時28分に請求人桑原にFAXを送った。
甲第8号証のスケッチ(以下「発注ルアーデザイン」という。)に関しては、伊藤は、単に課題を指示・示唆した命令者ではなく、形態の創造・作出の過程に、その意思を直接に反映させ、実質上その形態の形成に参画した者、即ち創作者といえ、逆に、「発注ルアーデザイン」に関しては、請求人桑原は、その創作に全く関与していないのであるから創作者ではない。
上記のように「発注ルアーデザイン」については、伊藤が創作者であり請求人桑原は創作者でない点は、疑義のない事実であるが、本件登録意匠の出願の際には、請求人桑原が納品してきたHUMPBACK65mmサイズのルアー(以下「65ルアー」という。)が手元にあったことから、当該「65ルアー」に基づいて作成した。
本件登録意匠は、納品された「65ルアー」の実物ルアーのデザインそのものにあるのではなく、当該「65ルアー」の主要部分を抜き出して線図で描いたものにある。従って、「65ルアー」の主要部分の創作が、伊藤のみの創作であることが、立証されれば、本件登録意匠は、伊藤のみの創作によることになる。
即ち、「65ルアー」の主要部分の創作が、伊藤の創作に係る「発注ルアーデザイン」によりなされ、「65ルアー」の主要部分が本件登録意匠に反映していることである。
伊藤が本件登録意匠を出願する際には、請求人桑原が納品してきた「65ルアー」が手元にあり、この「65ルアー」に基づいて、本件登録意匠の図面を作成し、図面を起こす際には、「65ルアー」から、請求人桑原の創作にかかる部分は、採用しなかった。即ち、色模様は種々のデザインが施されることもあるので、色模様を取った。また、口の線は、伊藤の本意とするデザインではなかったし、他のデザインがあることから、当該口の線を取った。
その結果、「本件登録意匠」においては、その外郭線、目、唇、舌片、釣り糸結着用リング及び釣り針連結用リングが描かれ、そして、この「65ルアー」に対応する構成は、伊藤の創作にかかる〈発注ルアーデザインに目を入れ、口の線を除いたデザイン〉(乙第4号証)に対応しており、伊藤の創作にかかる主要部分である。
本件登録意匠においては、多少の変更を加えた。先ず、横下線を描くことにより外郭下線に沿う腹部分を表した。横下線は外郭下線の近傍にあってこれと平行な線であるから、外郭下線と一体的であり、主要部分の基本形状に変更を加えるものではない。更に、エラの外輪線の下側の角部を少し丸め、内線もやや小さく描くなど、細部においては、多少の変更も加えた。これらの変更は何れも伊藤の創作によるものである。
従って、「本件登録意匠」は、多少の変更はあるものの〈発注ルアーデザインに目を入れ、口の線を除いたデザイン〉と同等のデザインが反映した意匠であり、その主要部分は、全て伊藤の創作によって完成しているといえるのだから、本件登録意匠の創作者は、伊藤のみである。
請求人桑原は、伊藤のデザインを型紙で模写して、着色し、鱗模様を付したに過ぎない。「65ルアー」において、着色や鱗模様の創作、「への字」の口の線の加入を行い、その製造過程では手作業の困難性あったとしても、本件登録意匠で特定されるデザインは、伊藤のみによるものである。
請求人らは、本件登録意匠は請求人桑原が独自で創作したものであると主張するが、請求人桑原が伊藤から特段の依頼を受けることなく独自に、「65ルアー」の創作を思いついたのなら、伊藤の承諾など得る必要はないはずである。請求人桑原が、伊藤の承諾を得る必要があったのは、「65ルアー」が、請求人桑原独自のものではなく、50mmサイズのルアーを単に大きくしただけに過ぎなかったからである。
そしてまた、平成15年1月16日に伊藤に納品した「50ルアー」は、乙第5号証に示すように、前側背部ラインの傾きが「発注ルアーデザイン」の前側背部ラインと比較して緩やかであった。一方、「65ルアー」の前側背部ラインの方(乙第3号証)」は、「発注ルアーデザイン」の前側背部ラインに近いものであった。本件登録意匠の最も特徴的な前側背部ラインの傾きは、「発注ルアーデザイン」の前側背部ラインにおいて示されていたのである。よって、「65ルアー」は請求人桑原が独自に発案したものではない。
(2)共同出願違反について
本件登録意匠は、全て被請求人伊藤の創作によるものであり、請求人桑原が、製造上型紙で模写し、鱗模様を付すなどの製造工程に貢献していることは認めるとしても、依然として本件登録意匠に係るデザインを創作したのは伊藤にあるから、意匠法第15条第1項で準用する特許法第38条に違反するものではない。
仮に、請求人桑原が、本件登録意匠の一部の創作者であったとしても、伊藤は、請求人桑原の共有持ち分を譲り受けている。よって、伊藤のみが、本件登録意匠登録を受ける権利を有し、共同出願違反(意匠法第15条第1項、特許法第38条)は存在しない。
広告文言「伊藤秀輝プロデュース、MAYブランドビルダー桑原清志がビルドを担当する拘りのオリジナルハンドメイドミノー」の文言は、請求人桑原自身が伊藤に頼んで載せてもらったものであり、且つその後文句も言ってこなかったのだから、自分の創作として販売する意思はなく、伊藤の創作にして良いとする意思があったといえ、よって、上記広告文言は、請求人桑原が共有持ち分を伊藤に譲渡した現れでもある。
伊藤は、請求人桑原の要求に応じて、HUMPBACK50mmサイズ1個につき、2200円、HUMPBACK65mmサイズに1個につき、2700円と通常より高額の報酬を支払っているのだから、共有持ち分の譲渡について黙示の同意があったといえる。
(3)新規性又は創作非容易性がないことについて
請求人桑原が、請求人吉岡らに本件登録意匠に係る釣用ルアーを無償譲渡し、吉岡らが平成14年10月頃から11月頃にかけて、主に吉野川の山川町水域等の場所で釣を行っていることが真実とすれば、本件登録意匠は、新規性はないといえようが、本件登録意匠については、6ヶ月以内に出願しており、創作者伊藤の「意に反して」公然知られるに至ったといえるのであり、これにより、本件意匠にかかる実物ルアーは、創作者伊藤の「意に反して」公知になったといえ、本件登録意匠は意匠法第4条1項の適用が受けられる。
よって、意匠法第3条1項1号、同3号又は同3条2項が適用される余地はない。
以上のように、本件登録意匠の創作者は伊藤のみであるから、冒認出願に該当せず、また、仮に請求人桑原が本件登録意匠の一部を創作していたとしても、その共有持ち分の譲渡を受けているのだから、伊藤のみが、意匠登録を受ける権利を有する。よって、共同出願違反も存在しない。
さらに、本件登録意匠にかかる実物ルアーが、その出願前に公知等になったのは、伊藤の「意に反して」であるから、本件登録意匠に対して、新規性又は創作非容易性の規定の余地もない。
よって、無効事由はなく、本件審判の請求は成り立たない。

2.被請求人は、請求人の弁駁書の主張に対して、要点以下の答弁(第2回)をし、乙第8号証を提出した。
そもそも「65ルアー」の主要部分の創作が、「発注ルアーデザイン」によりなされ、その主要部分の創作が本件登録意匠に反映しているのであるから、当該「65ルアー」の主要部分を抜き出して線図で描いたとしても、それは、伊藤の創作を表現したことに変わりはない。また、写真で現した「65ルアー」の現物そのものとは異なったものになっているので、この点でも本件登録意匠は伊藤の創作であるといえる。
請求人らは、「発注ルアーデザイン」と「本件登録意匠」とを重ねて表示した図(甲26、本答弁書において乙8として提示、以下「重ね比較図」という)を示し、その相違点をあげているが、共通点が顕著に把握され、相違点も、伊藤の創作の範囲にあり、これを越える要素はない。
「全体のシルエット」について、「重ね比較図」(乙8)から分かるように、外形線は略重なる。特に、「本件登録意匠」の最大の特徴部分である前側背部ラインが目の位置から急激に競りあがった放物線を描いている点は、「発注ルアーデザイン」の前側背部ラインとほぼ重なり、創作性を同じにする。
「本件登録意匠」及び「発注ルアーデザイン」において、前側背部ラインと鼻のラインとの角度は、多少の違いはあるが、ほぼ同じであり、看者が受ける印象が異なるものではない。また、全体を見ても、全長と上下幅の比率もほとんど変わりがなく、鼻先の糸結着用リングと尾部分の釣り針連結用リングの位置は全く同じである。
更にいえば、「65ルアー」の製作において、請求人桑原は、所用の作業を行ったが、伊藤の創作による「発注ルアーデザイン」を型紙やテンプレートに模写しており、そこに多少の違いが出るが、製造上、仕上がりを綺麗にするために行う当然の修正であり、「発注ルアーデザイン」の創作範囲を超えるものではない。
「目のデザインの相違」について、オリジナルハンドメイドミノーである「蝦夷」(甲6)にあわせて「寄り目」にすることはごく必然的なことである。
「エラ形状の相違」について、外輪線及び内線の二重の線がある点は共通し、また、本件登録意匠を作図する際に、変更を加えたものであり、伊藤独自のものである。
伊藤の創作は「発注ルアーデザイン」のみならず「本件登録意匠も」創作しているのであり、「発注ルアーデザイン」にあるものが必ず本件登録意匠になければならないということにはならない。
「舌片の相違」について、多少突出角度を異にするが、大きく印象を異にするほどではなく、伊藤の創作範囲に入る。
「唇の相違」について、口の線を設けなかったのは、伊藤独自のものであり、「への字」状の口の線を入れた「65ルアー」とは異なる。また、唇は上向きの楕円形状であり、共通する。
請求人らは、「発注ルアーデザイン」と「本件登録意匠」とを直接比較し、その相違点をもって、請求人桑原は創作者であるとしているが、「本件登録意匠」は、「65ルアー」に基づいて当該「65ルアー」の主要部分を抜き出して線図にしているものの、「65ルアー」の主要部分の創作が「発注ルアーデザイン」によりなされ、しかも、「本件登録意匠」を描いた際の新たな創作もあり、その相違点については、何れも伊藤の創作範囲に入るのであるから、本件登録意匠の創作者は伊藤のみである。
また、請求人らは、「本件意匠の図面に挙げた『65ルアー』の写真について、本件登録意匠と65ルアーは同視できる。」としているが、本件意匠登録出願の図面に挙げた「65ルアー」の写真は、本件登録意匠を反映させた一例としての参考図として挙げたのであり、権利範囲を広く確保していることを明確に示すために挙げたものである。本件登録意匠は、あくまで、線図で描かれた意匠にある。
請求人らは、「50ルアー」と「65ルアー」の違いについてこだわっているが、大きさが違うだけで、デザインが異なるものではなく、従って、「65ルアー」は請求人桑原が、独自に発案したものではない。
本件登録意匠において、「横下線を描くことにより外郭下線に沿う腹部分を表した。」点について、1本の強い線になっており、新たな創作といえる。
「エラの形状の相違」について、このエラの線は、「本件登録意匠」を作図する際に、変更を加えたものであり、伊藤独自の新たな創作といえる。
請求人らは、米国意匠特許公報(甲第28ないし甲第30)を挙げて、「前側背部ラインが新規な形状でない」点を指摘しているが、前側背部ラインが目の位置から急激に競り上がった放物線を描いている点が特徴となるのは、鼻のラインを基準線にしてのことであり、前側背部ラインと鼻のラインとの角度や長さの比率を考慮し、全体観察をにより把握されてのことであり、従って、これら、米国意匠特許公報の各意匠は、本件登録意匠の新規性に何ら影響を与えるものではない。
請求人らが主張するように、持分譲渡契約した事実はないが、本件登録意匠が、全て被請求人伊藤の創作によるものであるからであり、仮に、請求人桑原が、本件登録意匠の一部の創作者であったとしても、伊藤は、請求人桑原の共有持ち分を譲り受けている。相当額の報酬を伊藤は請求人桑原に対し支払っている事実からして、黙示の同意があったといえるからである。
請求人桑原の意志や認識に関係なく、請負業者としての立場上、伊藤に対する共有持ち分の譲渡が生じる。
伊藤と請求人桑原の法律関係は、請負契約であり、社会通念上又は商慣習状、特段の指示や要求がなくとも請求人桑原は、その認識の有無に関わらず、暗黙の秘密保持義務を負っていたと言うべきである。
請求人桑原が公の釣り場でルアーの性能確認を行う行為及び請求人吉岡らに無償譲渡する行為について、伊藤は予期することができなかったのであるから、「65ルアー」の試作品が公知になったことは、伊藤の秘密管理上の不注意以外何ものでもない。
以上の通り、請求人らの弁駁には理由がなく、よって、無効事由はなく、本件審判の請求は成り立たない。

第4.当審の判断
1.本件登録意匠
本件登録意匠は、登録原簿によれば平成15年2月21日の意匠登録出願に係り、平成15年8月15日に意匠権の設定の登録がなされた登録第1186922号意匠であり、願書の記載によれば、創作者、及び出願人を「伊藤秀輝」とし、意匠に係る物品を「釣用ルアー」とし、その形態を、願書、及び、願書に添付した図面の記載のとおりとするものである(別紙1参照)。
そして、その形態については、以下のとおりとするものである。
(1)正・背両面側は平面状とし、上・下両面側は側面視半円弧状に表れる丸面状とした、肉厚盤状のものであって、左・右両端付近は、それぞれを平面視横長半楕円状に表れる前後に窄めた態様としたものである。
(2)正面視において、縦幅に対して横幅を3倍強とし、左・右両端側を上下に窄めた横細長状の魚を模したものであって、上辺側については、大きく膨出した態様の凸状とし、下辺側については、左・右両端側をやや上向きの斜状とし、全体としてごく僅か緩やかに膨らんだ態様としている。
(3)正面視頭部側について、上辺の端部近傍を凹弧状に迫り上がった態様とし、その先端側を小凸弧状に丸めている。
(4)正面視下辺の態様について、頭部側斜状部は全長の概ね1/6、尾部側斜状部は全長の概ね1/3程の範囲とし、残余のかなり広い範囲を水平状としたもので、両斜状部の傾斜について、頭部側はやや急なもの(概ね30°程)、尾部側は極く僅かなものとしている。
(5)下辺の頭部側先端僅か手前位置について、直径を肉厚盤状体前後幅とほぼ同じとした円形板状体を、前方斜め下ほぼ45度方向を向け設けている。
(6)頭部側端部、尾部側端部、下辺の中央僅か頭部寄りそれぞれの位置に、同大とする小リングを設けている。
(7)目を円図形により表したものであって、その前端付近に内接する塗りつぶした小円図形により黒目を表している。
(8)正面視において、エラを表す弧状の二重線、目の前端側に接する上唇を表すと思われる傾斜線を表している。
(9)正面視下辺付近について、下辺に対して平行状に沿う横方向の線を表している。
なお、本件登録意匠に係る出願は、添付図面において一組の図面の他に、「本願意匠に色模様を付した一例を示す」と表記された参考正面図、及び、参考斜視図(以下、単に「参考図」と言う。)が加えられている。
2.経緯について
請求人の主張によれば、平成14年3月6日、ファクシミリにより、被請求人から甲第8号証の「デザイン画」が請求人桑原に送られ、請求人桑原は、この「デザイン画」を参照し50mmサイズのルアーを製作し、同年9月頃、甲第10号証及び甲第10号証の2に現された65mmサイズのルアーを製作し、これらについて、請求人桑原は同年9月から10月頃にかけてテスト使用し、請求人吉岡ら5人は、同年10月から11月頃にかけてテスト使用したことにより、本件登録意匠はその出願前公然知られるに至ったとするものである。そして、平成15年1月16日、請求人桑原は甲第10号証に現されたものと同一のルアーを、被請求人に納品したとしている。また、これらの点については、疑うべき格別な理由はない。
そして、被請求人の主張によれば、請求人桑原が納品した65mmサイズのルアーが手元にあったことから、本件登録意匠の出願の際には、当該ルアーに基づいて図面を作成したとしており、前記のとおり、本件登録意匠の参考図に現されたものと甲第10号証に現されたものの形態は同一であると認められる。
3.甲第8号証のデザイン画
被請求人伊藤が描き、ファクシミリにより請求人桑原に送った釣用ルアーのデザイン画は甲第8号証に表されたとおりである(別紙2参照)。
4.「65mmルアー」の意匠
甲第10号証、及び、甲第10証の2に示されたルアーは請求人桑原が作製した65mmサイズのルアー(以下、「65mmルアー」という。)の意匠であって、その形態は、両証の写真に現されたとおりとするものである(別紙3参照)。
なお、甲第10号証に現されたものと、甲第10証の2に示されたものは、色彩及び塗り分け模様、すなわち「色模様」以外は共通し、甲第10号証に現されたものと、本件登録意匠の参考図に現されたものは、付された「色模様」も含め実質的差異が認められず、同一形態をしたものと認められる。
5.請求人が主張する無効理由1(冒認出願)について
請求人は、本件登録意匠が創作者でない者によって出願されたもので、意匠法第48条1項3号に違反すると主張するので、以下、検討する。
前記「4.経緯について」によれば、請求人桑原は、被請求人伊藤が描いた甲第8号証のデザイン画を参照して50mmサイズのルアーを製作し、更に「65mmルアー」を製作したとするものであるが、甲第8号証のデザイン画には、前記「1.本件登録意匠」の(2)における「正面視において、縦幅に対して横幅を3倍強とし、左・右両端側を上下に窄めた横細長状の魚を模したものであって、上辺側については、大きく膨出した態様の凸状とし、下辺側については、左・右両端側をやや上向きの斜状とし、全体としてごく僅か緩やかに膨らんだ態様としている。」とした点、同(3)の、「正面視頭部側について、上辺の端部近傍を凹弧状に迫り上がった態様とし、その先端側を小凸弧状に丸めている。」とした点が表され、なお、これらの点については「65mmルアー」においてもその存在が認められる。そうすると、少なくともこれら(2)及び(3)の点に関し、「65mmルアー」の意匠、本件登録意匠、何れの意匠も、甲第8号証のデザイン画に依拠していると判断せざるを得ず、また、これらの点は本件登録意匠において大きく且つ重要な構成要素に関するものと認められるから、後記する「65mmルアー」の意匠に対する本件登録意匠の差異点を含む、その他の点を検討するまでもなく、甲第8号証のデザイン画を描いた被請求人伊藤は、本件登録意匠の創作に一定以上の関与をしていたと判断せざるを得ない。
したがって、本件登録意匠の創作において、一定の関与が認められる被請求人伊藤を、意匠法第48条1項3号に規定する「意匠の創作をした者でない」とすることはできないから、同規定により本件登録意匠を無効とすることはできない。
6.請求人が主張する無効理由2(共同出願違反)について
請求人は、本件登録意匠に関し、創作者である請求人桑原に無断で単独出願したものであり、意匠法第15条1項で準用する特許法第38条に違反して登録を受けたものと主張するので、以下、検討する。
まず、本件登録意匠と、前記のとおり本件登録意匠の参考図に表されたものと同一と認められる請求人桑原の作成した「65mmルアー」(甲第10号証)の意匠と、被請求人の描いた甲第8号証の「デザイン画」に表された内容、これら三者を比較し、本件登録意匠において、甲第8号証の「デザイン画」には存在せず、「65mmルアー」の意匠には存在する点、すなわち、本件登録意匠において、請求人桑原が作製した「65mmルアー」と同一と認められる参考図に現されたものに依拠している点が有るか否かについて検討する。
本件登録意匠と「65mmルアー」の意匠を比較すると、両意匠は、下記(ア)及び(イ)の点に差異が認められるのみで、その余はほぼ一致する。すなわち、前記「1.本件登録意匠」における(1)ないし(8)の点が共通する。(本件登録意匠は「65mmルアー」と比較した場合、「色模様」を捨象した意匠に相当するから、その存在の有無に関しては差異に該当しない。)
(ア)エラを表す二重線における弧の態様。
(イ)本件登録意匠に表された、前記(9)「正面視下辺付近について、下辺に対して平行状に沿う横方向の線」に相当するものがない。
次に、本件登録意匠と甲第8号証のデザイン画を比較すると、前記のとおり「1.本件登録意匠」における(2)及び(3)の点については、甲第8号証のデザイン画に依拠しているとしても、同(1)の「正・背両面側は平面状とし、上・下両面側は側面視半円弧状に表れる丸面状とした、肉厚盤状のものであって、左・右両端付近は、それぞれを平面視横長半楕円状に表れる前後に窄めた態様とした」点、同(4)の「正面視下辺の態様について、頭部側斜状部は全長の概ね1/6、尾部側斜状部は全長の概ね1/3程の範囲とし、残余のかなり広い範囲を水平状としたもので、両斜状部の傾斜について、頭部側はやや急なもの(概ね30°程)、尾部側は極く僅かなものとしている。」とした点は、甲第8号証のデザイン画において表されておらず、あるいは特定されておらず、また、これらの態様が「釣用ルアー」の形状として自明とも認められない。
そうすると、第8号証のデザイン画に表されておらず、「65mmルアー」の意匠に表されている前記「1.本件登録意匠」における(1)及び(4)の点に関し、前記「4.経緯について」によれば、「65mmルアー」と同一と認められる請求人桑原が作成し納品した本件登録意匠の参考図に表されたものに依拠しているといわざるを得ない。
そして、これら(1)及び(4)の点は、本件登録意匠において「僅か」とは言い難い構成態様を形成するものであり、本件登録意匠が図面作成時において依拠した「65mmルアー」と同一と認められる参考図に表されたものを製作した請求人桑原は、上記(ア)及び(イ)の差異点があるとしても、その他の点を検討するまでもなくこれらの点を取り上げただけでも本件登録意匠の創作に大きく関与しているといわざるを得ず、したがって、請求人桑原は、本件登録意匠の意匠登録を受ける権利を有する者であると判断せざるを得ない。
被請求人は、(I)被請求人伊藤は、本件登録意匠の主要部分の創作をしているから、意匠登録を受ける権利は被請求人伊藤のみであり、(II)仮に請求人桑原が一部の創作者であったとしても、金銭ないし黙示の同意により共有持ち分を譲り受けており、共同出願違反でない旨主張するが、(I)の点については、前述の通りであって、甲第8号証の「デザイン画」が被請求人により描かれたとしても、これをルアーの立体形状として具体化し、特定したという点で、請求人桑原の創作関与は優に認められるところであり、また、II)の点についても、意匠登録を受ける権利が譲渡されたと解釈し得る証拠は特に提出されておらず、被請求人の主張は何れも採用することはできない。
以上のとおりであって、請求人桑原は、意匠登録を受ける権利を有する者であり、また、被請求人伊藤も意匠登録を受ける権利を有することは前記のとおりであるから、被請求人伊藤と共に請求人桑原は本件登録意匠の出願人になる権利を有する者である。それにも拘わらず、本件登録意匠は、創作者、出願人を被請求人伊藤とし、請求人桑原を欠いて出願されたものであるから、本件登録意匠は、意匠法第15条第1項で準用する特許法第38条に違反して出願され登録を受けたものである。
7.むすび
以上のとおり、本件登録意匠は、意匠法第15条1項で準用する特許法第38条に違反して出願され登録を受けたものであり、請求人が主張する無効理由3.(意匠法第3条1項1号ないし3号、及び、同条2項違反)を検討するまでもなく、その登録は、意匠法第48条第1項第1号の規定によって、無効とすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
別掲
審理終結日 2008-08-07 
結審通知日 2008-08-12 
審決日 2008-09-09 
出願番号 意願2003-4272(D2003-4272) 
審決分類 D 1 113・ 15- Z (K2)
最終処分 成立  
前審関与審査官 遠藤 行久 
特許庁審判長 本田 憲一
特許庁審判官 市村 節子
山崎 裕造
登録日 2003-08-15 
登録番号 意匠登録第1186922号(D1186922) 
代理人 豊栖 康弘 
代理人 深瀬 墾 
代理人 豊栖 康弘 
代理人 豊栖 康司 
代理人 豊栖 康司 
代理人 丸岡 裕作 
代理人 熊谷 隆司 

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