• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 判定  同一・類似 属さない(申立成立) K1
管理番号 1195375 
判定請求番号 判定2007-600100
総通号数 113 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 意匠判定公報 
発行日 2009-05-29 
種別 判定 
判定請求日 2007-12-27 
確定日 2009-04-09 
意匠に係る物品 なた用鞘 
事件の表示 上記当事者間の登録第1090372号の判定請求事件について、次のとおり判定する。 
結論 イ号写真に示す「鉈用鞘」の意匠は、登録第1090372号意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属しない。
理由 理由
第1 請求人の申立及び理由
1.請求の趣旨
請求人は、結論同旨の判定を求めると申し立て、その理由として、要旨以下のとおり主張し、証拠方法として、甲第1号証ないし甲第8号証を提出した。
2.判定請求の必要性
登録第1090372号意匠(甲第1号証:以下「本件登録意匠」という)の意匠権者である判定被請求人は、判定請求人が販売する「鉈用鞘」の意匠(以下「イ号意匠」という)が本件登録意匠に類似し権利侵害である、との通告をした。
判定請求人並びに判定被請求人の間において、本件登録意匠とイ号意匠の類否に関して見解の一致を得ることが出来なかったので、本件登録意匠の類似範囲について、特許庁の判定を求めるものである。
3.本件登録意匠とイ号意匠との対比
(1)両意匠の共通点
i)両意匠共に「鉈用鞘」であり、同一物品である。
ii)全体の基本的構成態様について、扁平で約矩形箱状である鞘部と、鞘部上方背面に連結して、鞘部頂面より上方に突出させたベルト装着部と、鞘部の頂面より上方に突出した部分の上下中間に横長バンドである柄保持用帯部を備えている構成態様が一致し、その寸法比率も近似している。
iii)柄保持用帯部の具体的構成態様について、柄保持用帯部の具体的形態が一致する。
(2)両意匠の相違点
イ)イ号意匠に鉈刃の抜け止め帯部を備えているが本件登録意匠には存在しない。
ロ)本件登録意匠は、鞘部が硬質材(樹脂と推測できる)で形成されているのに対して、イ号意匠は、鞘部が木質の内容器と外皮で形成されている。
ハ)鞘部の外観について、本件登録意匠は、側縁がR状であるが、イ号意匠は非R状で一方の側縁及び側縁に外皮の縫合部が視認される。本件登録意匠は、着色部を備えているが、イ号意匠は全体が単一色で、上方部分が二重巻きで、一部表面に薄金属板を貼着している。鞘部底面孔は、本件登録意匠が長孔で、イ号意匠が小円孔である。
ニ)ベルト装着部について、本件登録意匠が相応の厚さを備えた硬質材で形成され、単一鋲で鞘部に止着されるのに対して、イ号意匠は、軟質材で形成した薄い帯部材であり、複数の鋲で鞘部に装着している。
4.本件登録意匠とイ号意匠の類否
(1)先行意匠の存在
甲第第5号証(実開昭56-62778号公報)には、イ号意匠に酷似した意匠が開示されている。また、甲第6号証(実公昭31-18497号公報)ないし甲第8号証(意匠登録第682927号公報)の形態から、扁平で約矩形箱状である鞘部と、当該鞘部の上方背面に連結して、鞘部頂面より上方に突出させてベルト通し孔を形成したベルト装着部と、ベルト装着部における鞘部の頂面より上方へ突出した部分の上下中間に、横長バンドである柄保持用帯部を備えている基本的な構成態様は、周知である。
(2)本件登録意匠とイ号意匠の共通点の考察
1)共通点ii)について、本件登録意匠とイ号意匠は、全体の基本的構成態様が共通する。この全体の基本的構成態様は、甲第5号証ないし甲第8号証から鉈や鋸等の柄付き刃物工具において、最も一般的なありふれた構成態様であり、その寸法比率も近似しており、創作性の程度も、意匠的刺激感(審美性)の程度も低い。
2)共通点iii)について、全ての先行公知意匠が備えている形態であり、ありふれた形態であり、意匠的評価は低い。
(3)本件登録意匠とイ号意匠の相違点の考察
1)相違点イについて、抜け止め帯部は、柄付き刃物工具の鞘において、多用されている構成であり、且つその具体的構成態様もありふれているので、その存在自体の意匠的評価は低い。
2)相違点ロについて、本件登録意匠の鞘部が薄板硬質材(樹脂製)であり、先行公知意匠が相応の厚さの木質材と外皮で形成されている点から、この態様は本件登録意匠の特質とも言え、本件登録意匠においてはその意匠的価値は高く評価される。他方イ号意匠は、先行公知意匠と同様であり、本件登録意匠とは明確に異なる印象を与えている。
3)相違点ハについて、本件登録意匠が硬質材で形成されたことによって、側縁をR状とし、底面部の水抜き孔を長孔とする形態を採用できたものであり、本件登録意匠における「鞘部外観」の態様は、看者の注意を喚起する態様であり、意匠的評価が高いものと認められる。他方イ号意匠は、従前の公知意匠と類似する形態であり、「鞘部外観」に従前品と同様な美感を発揮するに過ぎない。
4)相違点ニ(ベルト装着部の相違)について、本件登録意匠が相応の厚さを備えた硬質材で形成され、単一鋲で鞘部に止着されている態様は、従前品の多くが柔軟な帯部材で形成されていた点から、その意匠的評価は相応に高く評価できる。他方イ号意匠は、軟質材で形成した従前意匠と同様の形態である。特に背面において対比すると、その審美性の相違が明確に視認することができる。
(4)本件登録意匠とイ号意匠の類否の総合判断
本件登録意匠とイ号意匠の類否について考察すると、全体の基本的構成態様の共通性は、公知意匠にも認められ、物品としてありふれたものであり、意匠の類否判断への影響は非常に小さい。
本件登録意匠は、先行公知意匠では備えていない具体的構成態様、例えば鞘部の材質、鞘部の外観、ベルト装着部の硬質材での一体形成等に特徴点があり、この意匠的特徴を備えることで登録が認められたものである。
これに対してイ号意匠は先行公知意匠と酷似しており、前記した本件登録意匠の意匠的特徴を全く備えていない。
従ってイ号意匠は、本件登録意匠の意匠的特徴といえる態様を備えておらず、本件登録意匠とは異なる美感を備え、本件登録意匠と非類似である。
(5)結び
以上の通り本件登録意匠とイ号意匠は、公知でありふれた形態といえる全体の基本的構成態様が共通するのみで、本件登録意匠が備える意匠的特徴として評価しうる具体的形態を全く備えておらず、両意匠は明らかに全く異なる美感を有している。
またイ号意匠と本件登録意匠が類似することになると、当然甲第5号証に示されている先行公知意匠と類似することになり、本件登録意匠は無効原因(新規性欠如・創作性欠如)を有する結果となる。
以上の点を総合的に評価すると、イ号意匠は本件登録意匠の類似範囲には属するものではない。

第2 被請求人の答弁
被請求人に対し判定請求書を送り、期間を指定して、答弁書の提出を求めたが、被請求人からの応答はなかった。

第3 当審の判断
1.本件登録意匠
本件登録意匠は、意匠登録原簿及び出願書類によれば、平成11年9月30日の出願に係り、平成12年9月8日に意匠権の設定の登録がなされた意匠登録第1090372号の意匠であって、意匠に係る物品を「なた用鞘」とし、その形態は、次のとおりとしたものである(別紙第1参照)。
(1)上面側に鉈刃挿入用開口部を有する概略縦長扁平筒状鞘部と、鞘部背面側上端に設けられた、横方向の挿通部を有する環状ベルト装着部と、ベルト装着部の正面側中程に設けられた、縦方向の挿通部を有する環状柄保持部からなるものである。
(2)鞘部について、下辺は穏やかな凸弧状とし、正面視横幅に対する縦幅をほぼ3倍、厚み幅は1/3弱とし、左右両側辺および下面側は丸みを有するものとし、やや上寄り位置横方向に縦幅の1/3弱とした帯状明調子部を設け、他の部分を暗調子としたものであり、なお、明調子部は朱色、暗調子部は黒色状としている。
(3)ベルト装着部について、一体成形され、鞘上端部から上に突出する部分を扁平な縦長長方形状としてベルト挿入口を設け、下部は、厚みを増しながら鞘部背面側上端の取り付け部へと手前側に屈曲するもので、厚みを鞘部の約2/3としている。
(4)柄保持部について、横長帯状材よりなり、幅はベルト装着部の鞘上端部から上に突出する部分の高さの半分弱としたもので、手前側に連結用スナップを設け、ベルト装着部の正側中央下端寄りに取り付けたものである。
2.イ号意匠
イ号意匠は、請求人が提出したイ号意匠写真によれば、意匠に係る物品を「鉈用鞘」とし、その形態を判定請求書添付書類の「イ号意匠(写真)」に記載のとおりとしたものである(別紙第2参照)。
3.本件登録意匠とイ号意匠との比較検討
両意匠を対比すると、意匠に係る物品については、両意匠は共に鉈用鞘であるから共通する。また、形態については、主として以下の共通点と差異点がある。
まず、主な共通点として、(a)上面側に鉈刃挿入用開口部を設けた概略縦長扁平筒状鞘部と、鞘部背面側上端に設けられた、横方向の挿通部を有する環状ベルト装着部と、ベルト装着部の正面側中程に設けられた、縦方向の挿通部を有する環状柄保持部からなるものである点が認められ、(b)鞘部について、正面視横幅に対する縦幅をほぼ3倍、厚み幅は1/3弱としている点、(c)柄保持部について、横長帯状材よりなり、幅はベルト装着部の鞘上端部から上に突出する部分の高さの半分弱としたもので、手前側に連結用スナップを設けたものである点が認められる。
次に、主な差異点として、(ア)鞘部について、本件登録意匠は、左右両側辺及びそれに続く底辺を凸半円弧状とし、大きな丸みを持って正背面とつながる態様であるのに対して、イ号意匠は、概略扁平な箱状としたもので、左右側辺及び底辺は平面状とし、正背面との稜部に僅かに丸みを有する程度ものである点、(イ)鞘上部について、本件登録意匠は、均一な筒状であるのに対して、イ号意匠は、鞘部の上端寄り約1/8は、帯状に幅及び厚みを増した段差部が形成され、段差部の正面側中央に、左右及び下部に余地部をとって横長略矩形状の金属部を設けたものである点、(ウ)鞘部の明暗調子について、本件登録意匠は、鞘部やや上寄り位置横方向に縦幅の1/3弱とした明調子の帯状部を設け、残余の部分を暗調子とし、明調子部は朱色、暗調子部は黒色状としているのに対して、イ号意匠は、ほぼ全体を暗調子とし、黒色状としたものである点、(エ)ベルト装着部について、本件登録意匠は、一体成形され、鞘上端部から上に突出する扁平な縦長長方形状のベルト挿入口部分と、厚みを増しながら鞘部背面側上端へと屈曲する下部よりなるもので、鞘部の厚みの約2/3の厚みを有するものであるのに対して、イ号意匠は、柔軟な縦長帯状部材を上端で折り返して横方向の環状のベルト挿通部を設けた扁平な態様である点、(オ)柄保持部について、本件登録意匠は、ベルト装着部の正面側中央下端寄りに設けられているのに対して、イ号意匠は、ベルト装着部の正面側上部やや右寄りに設けられている点、(カ)鉈刃抜け止め帯部について、イ号意匠には、鞘部上面から正面上部にかけて、細幅帯状の鉈刃抜け止め部が設けられているのに対して、本件登録意匠には、これに相当するものがない点が認められる。
そこで、本件登録意匠とイ号意匠を全体として観察し、共通点及び差異点の類否判断に与える影響について、総合的に考察する。
まず、両意匠において共通するとした態様(a)は、両意匠の全体に係わる態様であるが、請求人が提出した甲5号証ないし甲8号証、すなわち、公開実用新案公報記載の昭和56年実用新案出願公開第62778号の第1図ないし第4図に示されたなたの革巻鞘(甲第5号証)、実用新案公報記載の昭和31年実用新案出願公告第18497号の第1図ないし第3図に示された鉈の革巻鞘(甲第6号証)、公開実用新案公報記載の平成5年実用新案出願公開第85370号の第2図及び第3図に示された腰鉈用鞘(甲第7号証)及び、意匠公報記載の意匠登録第682927号のどうづき鋸用鞘(甲第8号証)、にみられるように、この種物品分野において本件登録意匠の出願前から極普通にみられるありふれた態様と認められるから、共通点として格別重視することができないものである。
次に、共通する態様(b)について、例えば鞘部の正面視横幅に対する縦幅をほぼ3倍、厚み幅は1/3弱とする両意匠と、ほぼ同様の構成比率のものが、甲第5号証に示されたなたの革巻鞘等に見受けられるように、従前より見られるありふれた態様であって、類否判断を左右する要素として高く評価することができないものである。また、(c)については、横長帯状材とスナップからなる同様の態様のものが、例えば、甲第8号証のどうづき鋸用鞘の鋸柄係止バンド等に見られるように、本件登録意匠の出願前から見受けられるものであるから、格別の特徴があるとはいえず、類否判断を左右する要素として高く評価することができないものである。
このように、共通する態様(a)ないし(c)は、いずれも類否判断に及ぼす影響を大きいものとすることはできない。
一方、差異点(ア)について、この差異は、鉈用鞘の主たる構成部位である鞘部全体に亘る態様の差異であり、左右両側辺及び下辺が、イ号意匠は平面により構成され角張った印象を与えるのに対して、本件登録意匠は丸みを持った曲面により構成され、印籠を思わせる柔らかな印象を与えるもので、この差異点が、両意匠にもたらす印象は大きく異なるものであり、類否判断に与える影響は極めて大きいものである。
差異点(イ)について、この差異は、両意匠とも筒状の態様を保った上での、鞘上部という限られた範囲の差異であり、イ号意匠の、鞘部の上部に設けられた帯状段差部は、前記甲第5号証に示されたなたの革巻鞘の意匠にも見受けられるありふれた態様であり、微細な部分ではあるものの、帯状段差部正面側中央に余地部をとって表された金属部、及び鞘部上面から正面上部にかけて段差部をまたぐ態様で設けられている差異点(カ)の刃の抜け止め帯部とも相俟って、やや複雑な印象を与えるのに対して、それらが設けられていない本件登録意匠はシンプルな印象を与えるものであるから、異なる印象を看者に与えるものといわざるを得ない。
差異点(ウ)について、この差異は、鞘部の明暗調子の差異であるが、イ号意匠の、鞘部のほぼ全体を黒色状の暗調子とした態様は、独自の特徴を有しないありふれた、特段の印象を与えないものであるのに対して、本件登録意匠の、黒色状を呈する暗調子とした鞘部の上寄りに縦幅の約1/3弱とした幅広で朱色を呈する明調子の帯状部を表した態様がもたらす明暗及び色調における対比が視覚に及ぼす効果には大きなものが認められ、また、当該態様は、当審の調査によれば出願前には見受けられないものであることからも、類否判断を左右する要素として重視すべきものである。
差異点(エ)について、この差異は、ベルト装着部が平面的な態様であるか、立体的な態様であるかの差異であるが、イ号意匠の、柔軟な縦長帯状部材を折り返して二重とした平面的な態様は、この種物品において従来より極普通にみられるありふれた態様であるのに対して、本件登録意匠の、一体成形による、下部で厚みを増しながら手前側に屈曲する立体的な態様は、イ号意匠には無い塊感を抱かせるもので、両意匠は看者に異なる印象を与えるものであり、該部は鞘部背面側上端に取り付けられる部分的なものではあるが、その差異は類否判断において一定の影響を及ぼすものである。
差異点(オ)について、この差異は、柄保持部の取付位置の差異であるが、いずれもベルト装着部の前面中程から下側という限られた狭い範囲内での、取付位置の僅かな差異であり、両意匠の該部が取付位置以外の態様において共通する点を考慮すると、その差異が類否に与える影響は微弱なものである。
差異点(カ)について、この差異は、刃の抜け止め帯部の有無の差異であるが、イ号意匠に表された刃の抜け止め帯部は、柄付き刃物工具の刃部を納める鞘において、本件登録意匠の出願前より極普通にみられるありふれた態様であり、また、本件登録意匠のようにこれを設けない態様もまた、広く知られた態様であるが、鞘部上面から正面上部にかけての看者の視覚をよくとらえる部分における差異であり、類否に与える影響を無視することはできない。
このように、差異点(オ)は、微弱な差異であるとしても、差異点(ア)の鞘部全体に亘る構成態様における差異は、鞘部の具体的な構成態様に係る差異点(イ)の鞘上部の差異及び、差異点(ウ)の明暗調子における差異と相俟って、両意匠の鞘部は異なる視覚的まとまりをあらわすものであり、さらに、(エ)及び(カ)のベルト装着部の形状、鞘部状部の形状等における差異点も類否判断に及ぼす影響が大きいものであり、両意匠の全体の態様が別異の印象を与えるものである。
以上を総合すると、両意匠間における、差異点は、相俟って、共通点が生じさせる視覚的効果を優に凌駕するものであり、両意匠が看者に別異の印象を与えるに十分と認められる。
したがって、イ号意匠と本件登録意匠は、意匠に係る物品が共通し、形態については、共通点があっても、差異点がこれを凌駕するから、イ号意匠は、本件登録意匠に類似しているものということができない。
4.むすび
以上のとおり、イ号意匠は、本件登録意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属さないものであるから、結論のとおり判定する。
別掲

判定日 2009-03-30 
出願番号 意願平11-26519 
審決分類 D 1 2・ 1- ZA (K1)
最終処分 成立  
前審関与審査官 江塚 尚弘 
特許庁審判長 本田 憲一
特許庁審判官 市村 節子
山崎 裕造
登録日 2000-09-08 
登録番号 意匠登録第1090372号(D1090372) 
代理人 近藤 彰 

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ