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審決分類 審判 判定  同一・類似 属さない(申立不成立) H1
管理番号 1200351 
判定請求番号 判定2009-600014
総通号数 116 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 意匠判定公報 
発行日 2009-08-28 
種別 判定 
判定請求日 2009-03-16 
確定日 2009-07-23 
意匠に係る物品 電子回路用ノイズフィルター 
事件の表示 上記当事者間の登録第1243618号の判定請求事件について、次のとおり判定する。 
結論 (イ)号図面代用写真及びその説明書に示す「電子回路用ノイズフィルター」の意匠は、登録第1243618号意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属しない。
理由 第1 請求人の申立及び理由
請求人は、「イ号意匠及びその説明書に示す意匠(以下「イ号意匠」という)は、意匠登録第1243618号意匠(以下「本件登録意匠」という)及びこれに類似する意匠の範囲に属する、との判定を求める」と申し立て、その理由として判定請求書に記載のとおりの主張をし、証拠方法として甲第1号証乃至甲第6号証の書証を提出したものである。
(1)判定請求の必要性
本件請求人は、本件登録意匠の意匠権者であり、本件被請求人は、本件登録意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属するイ号意匠に係る電子回路用ノイズフィルターを、甲1号証のように、製品名称「TAC-16-472」として製造販売している。
(2)本件登録意匠とイ号意匠の比較説明
(A)両意匠の共通点
両意匠は、意匠に係る物品がいずれも「電子回路用ノイズフィルター」であり、一致している。
全体が略横長直方体状に形成され、底板が略横長矩形状の板状部材からなり、ケーシングの底部に取り付けられ、端子部がケーシングの長手方向両端部にそれぞれ2カ所ずつ設けられ、平面視において四隅に正方形状の凹部が形成されているという基本的構成態様が共通する。
具体的構成態様において、両意匠は、1)端子部を覆うカバーが、ケーシングから離脱せずに閉状態と開状態とに変化自在となっている点、2)底板が、上辺及び下辺に折り返し成形された4カ所のツメ部がケーシングの底部に嵌合することにより、ケーシングの底部に嵌合することにより、ケーシングの底面に装着されている点、3)底板の平面視における左上角部および右下角部に取付孔がそれぞれ形成され、右上角部及び左下角部に保護接地端子部が形成されている点、4)端子部はケーシングの長手方向両端部に設けられた段部にそれぞれ2カ所ずつ設けられ、端子部を構成する取り付けネジの上面がケーシングの上面の高さより僅かに低くなっており、4カ所の端子を同時に視認しやすくしている点、5)仕切り板がケーシングの長手方向両端部に3カ所ずつ設けられ、側面視において左端と右端との仕切り板の内面にはガイド溝が形成され、ワッシャーは平面視において略矩形形状であり、ガイド溝に近接する辺にはガイド溝に緩嵌する凸部が形成され、上下方向に摺動可能となっている点について共通する。
(B)両意匠の差異点
1)本件登録意匠は、カバーがヒンジ部を軸として回動するのに対し、イ号意匠は、カバーがケーシングの長手方向に摺動するスライド式となっている。2)イ号意匠の端子部に設けられたワッシャーには本件登録意匠のワッシャーには設けられていないバネ部材が取り付けられている。
(C)むすび
以上のように、本件登録意匠とイ号意匠とは基本的構成体が共通し、全体の形態は類似している。そして、具体的構成態様についても両意匠は大部分について共通する形態を有し、さらに本件登録意匠の従来にない新規な形状を表し看者の注意を惹く部分である要部はいずれもイ号意匠と共通している。このことから、本件登録意匠とイ号意匠とは需要者の視覚を通じて起こさせる美感が共通し、誤認混同を生じるものとなっている。
第2 被請求人の答弁の趣旨及び理由
(A)答弁の趣旨
被請求人は、「イ号意匠図面代用写真並びにその説明書に示す意匠は、意匠登録第1243618号及びこれに類似する意匠の範囲に属さない」、との判定を求め、答弁書に記載のとおりの主張をし、証拠方法として乙1号証乃至乙3号証の書証を提出したものである。
(B)本件登録意匠とイ号意匠との類否
基本的構成について、両意匠は意匠に係る物品が同一で、略横長直方体であり、平面視において四隅に正方形状の凹部が形成されている点は共通するが、本件登録意匠のケーシングが縦横高さの比が略2.4対1対1.4となる略横長直方体状であるのに対し、イ号意匠のケーシングが縦横高さの比が略2.8対1対1.7となる略横長直方体の上部4隅を長手方向に略45度のテーパ面を形成して上部に絞り込んだ略台形ピラミッド体である点で相違している。具体的構成において、1)本件登録意匠の端子台を覆うカバーは、ヒンジ部を軸として回動して開閉する回転式カバーであるのに対し、イ号意匠のカバーはスライド式カバーで、看者において全く異なる美感を惹起する。2)イ号意匠には端子台カバーの外側先端に上向きのノブが設けられているのに対して、本件登録意匠にはノブが存在せず、相違している。3)イ号意匠の端子台カバーの上面にはスライド方向を示す矢印が表示されているのに対して、本件登録意匠には矢印が存在せず、相違している。4)本件登録意匠の端子台を覆うカバーは透明で、閉じた状態で端子台が見えるのに対して、イ号意匠のカバーは不透明で、閉じた状態では端子台が隠されて上部からは内部が見えない形態であり、両者は大きく相違している。5)本件登録意匠の端子台の取り付けネジは間にワッシャーを介して締め付けた状態にあり、取り付け台座との間に隙間が形成されていないのに対し、イ号意匠は、締め付けていない取り付けネジが、ワッシャーが上部に保持されることによって、ネジ下端が取り付け台座のネジ穴から抜け出して大きく浮いた状態にあり、ネジ下端と取り付け台座との間にも圧着端子を入れるための隙間が形成されている点で全く異なった形態ということができる。
(C)むすび
以上のように、本件登録意匠とイ号意匠とは、基本的構成は略共通するが、本件登録意匠は、ケーシングが略横長直方体であるのに対し、イ号意匠のケーシングは略台形ピラミッド体という異なる形態を持つことでは相違し、全体の形態は類似していないということができる。具体的構成態様についても、イ号意匠は、スライド式カバー、不透明カバー、プッシュダウン式の端子台といった本件登録意匠には見られない特有の形態を有しており、本件登録意匠とイ号意匠とは、需要者の視覚を通じて起こさせる美感が相違し、誤認混同を生じるものでないことは明らかである。
第3.当審の判断
1.本件登録意匠
本件登録意匠(意匠登録第1243618号)は、平成16年3月24日の意匠登録出願に係り、平成17年5月13日に設定の登録がなされたものであり、その願書の記載及び願書に添付された図面によれば、意匠に係る物品を「電子回路用ノイズフィルター」とし、その形態は願書の記載及び願書に添付された図面に表された通りのものである。 2.イ号意匠
本件判定請求の対象とされるイ号意匠は、判定請求書に添付されたイ号意匠図面代用写真並びに説明書によれば、単相250V用のノイズフィルター(製品名称「NAC-16-472」)であり、その形態は判定請求書に添付されたイ号意匠前記書面に表された通りのものである。
3.両意匠の比較検討
両意匠は、意匠に係る物品がともに「ノイズフィルター」であることから物品が共通し、その形態には、主として以下の共通点と差異点が認められる。
すなわち、共通点として、(A)全体は略横長直方体状の筐体に機構部を収納したものであって、筐体の平面視四隅に入隅状の凹部を設け、平面視左右両端に端子部を設けた点、(B)端子部は、それぞれ等間隔2カ所に同形同大の箱状の凹部を形成して端子を取り付けた点、(C)筐体上面中央の横長矩形部の左右両端に端子部上面を覆うカバーを設けている点、(D)筐体の底面側に横長矩形状の薄い底面板を設けた点、(E)底面板の平面視左上及び右下に取り付け孔部を、底面板の平面視右上及び左下に保護接地端子部を取り付けた点、が認められる。
一方、差異点としては、(a)筐体の縦横の長さ及び高さの比並びに形状について、本件登録意匠は、略1対2.4対1.4で、扁平な横長の直方体状であるのに対し、イ号意匠は、略1対2.8対1.7で、本件よりもやや高さが高い略横長直方体状で、前掲の入隅部の左右両側面上端をいずれも同形同大に切り欠いて傾斜面としている点、(b)端子部のカバーについて、本件登録意匠は、横長矩形部の左右両端の前後両端寄りの切り込みの内部を支点として開閉自在の透明なカバーとしているのに対し、イ号意匠は、いずれも横長矩形部の裏面に収納自在であって、それぞれ左右両縁の中央に摘みを有する不透明なカバーとしている点、(c)左右両側面上端寄りの端子の側方視の態様について、本件登録意匠は、横長矩形状であるのに対し、イ号意匠は、略T字形状である点、(d)保護接地端子の取り付け部が、本件登録意匠は、平面側及び底面側が平板状であるのに対し、イ号意匠は、平面側及び底面側に筋状の凹部が設けられている点、が認められる。
そこで前記の共通点と差異点につき、イ号意匠が本件登録意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属するか否かの判断に及ぼす影響について、以下に検討する。
まず、共通点(A)について、筐体の平面視四隅に入隅状の凹部を設け、平面視左右両端に端子部を設けることは、この種ノイズフィルターの形態全体の基本的構成態様として本件登録意匠の出願前より、イ号意匠の他にも多数見受けられ(例えば、意匠登録第1081112号の意匠)、両意匠のみに共通する新規の構成態様とはいえない。(B)について、本件登録意匠の出願前に、端子部にそれぞれ等間隔に同形同大の箱状の凹部を形成して端子を取り付けた態様のものが見受けられ(例えば、特許庁意匠課平成13年2月2日受け入れの岡谷電機産業株式会社発行のカタログ「3SUP-HP500-ER-6」第1頁所載のノイズフィルター(特許庁意匠課公知資料番号HN12015235号)、(別紙第3、参考意匠1参照)の意匠)、また、端子部を2カ所ずつ設けることも、本件登録意匠の出願前より普通に認められ(例えば、特許庁意匠課平成10年8月1日受け入れの雑誌「NEW ELECTRONIC PRODUCTS」8号17巻第58頁所載のノイズフィルター(特許庁意匠課公知資料番号HA10016431号)、(別紙第3、参考意匠2参照)の意匠)、両意匠のみに共通する態様とはいえない。(C)については、端子部上面を覆うカバーを設けることも、本件登録意匠の出願前より、イ号意匠の他にも、例えば、前記意匠登録第1081112号の意匠が見受けられ、両意匠のみに共通する格別の態様ということはできない。(D)について、横長矩形状の薄い底面板は、この種のノイズフィルターにおいては一般的に用いられる形状で、その共通点が注意を惹く部分とはいえない。(E)について、取り付け部を設けることは、付加的な部分における目立たない細部に係る共通点といえ、また、底面板に貫通孔を設けることも、保護接地端子部を取り付けることも、いずれの態様も本件登録意匠の出願前より見受けられ(例えば、特許庁意匠課平成11年1月14日受け入れの雑誌「電子技術」2号41巻A-1頁所載の3SUP-HB75-ER-6のノイズフィルター(特許庁意匠課公知資料番号HA10026717号)、(別紙第4、参考意匠3参照)の意匠)、両意匠のみに共通する格別の態様とはいえない。
そうすると、これらの共通点に係る態様は、いずれも両意匠のみに共通する新規の態様とはいえないから、共通点に係る態様を総合した場合に生じる意匠的な効果を考慮したとしても、両意匠の類否判断を左右するものとなりえない。
次に、差異点が類否判断に及ぼす影響についても比較して検討する。
差異点(a)について、本件登録意匠は、筐体の縦横の長さ及び高さの比並びに形状が、イ号意匠とは明らかに異なり、両意匠の類否判断に与える影響を無視することはできない。(b)については、端子部のカバーについて、本件登録意匠は、横長矩形部の左右両端の前後両端寄りの切り込みの内部を支点として開閉自在の透明なカバーとしているのに対し、イ号意匠は、いずれも横長矩形部の裏面に収納自在であって、それぞれ左右両縁の中央に摘みを有する不透明のカバーであり、両意匠は、カバーの取り付け態様、開閉方法及び閉じた場合の態様がいずれも異なり、上面という看者の目に付きやすい場所における差異である点を考慮すると、両意匠は明らかに別異の態様であると言わざるを得ない。(c)について、左右両側面上端寄りの端子の側方視の態様における差異点は、露出部分の差異であるから、両意匠の類否判断に及ぼす影響を無視することができない。(d)については、保護接地端子部の取り付け部には様々なものが認められるが、両者の違いは明確で、類否判断に与える影響は無視することができない。
これらの差異点のうち、とりわけ(b)の端子部のカバーの態様は、その差異が看者の注意を強く惹くものであり、(a)の筐体の縦横の長さ及び高さの比並びに形状、及び(c)の左右両側面上端寄りの端子の側方視の態様における差異点と相俟って、両意匠の類否判断に及ぼす影響は無視することができず、これらの差異点が相乗的に本件登録意匠とイ号意匠との差異を明らかなものとし、両意匠の類否判断に大きな影響を及ぼすものといえる。
そうして、これらの共通点と差異点を総合すれば、共通点に係る態様が主として両意匠の基本的な構成態様を表したものであり、その余の共通点とが相俟ったとしても、両意匠にのみ共通する新規の態様とはいえないのに対し、差異点(a)、(b)及び(c)にそれぞれ係る態様が相乗して生じる意匠的な効果は、両意匠の形態の全体に影響を与え、両意匠の類否判断を左右するものといえるから、差異点は共通点を凌駕し、両意匠の類否判断を決定付けるものといえるので、意匠全体として、イ号意匠は、本件登録意匠に類似するものとはいえない。
したがって、本件登録意匠とイ号意匠は、意匠に係る物品が共通するが、その形態については、共通点よりも差異点に係る態様が相俟って生じる意匠的な効果の方が両意匠の類似性についての判断に与える影響が支配的であるから、両意匠は、全体として美感が異なり、類似しないものというべきである。
4.むすび
以上の通りであるから,イ号意匠は,本件登録意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属しない。
よって,結論のとおり判定する。
別掲
判定日 2009-07-09 
出願番号 意願2004-8904(D2004-8904) 
審決分類 D 1 2・ 1- ZB (H1)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 橘 崇生 
特許庁審判長 斉藤 孝恵
特許庁審判官 鍋田 和宣
並木 文子
登録日 2005-05-13 
登録番号 意匠登録第1243618号(D1243618) 
代理人 牛木 護 
代理人 竹内 進 
代理人 水野 恒雄 

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