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審決分類 審判 判定  同一・類似 属さない(申立不成立) C3
管理番号 1219809 
判定請求番号 判定2010-600006
総通号数 128 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 意匠判定公報 
発行日 2010-08-27 
種別 判定 
判定請求日 2010-03-01 
確定日 2010-07-15 
意匠に係る物品 医療廃棄物用容器 
事件の表示 上記当事者間の登録第1166295号の判定請求事件について、次のとおり判定する。 
結論 イ号意匠は、登録第1166295号意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属しない。
理由 第1.請求人の申立て及び理由
請求人は、「イ号意匠は、登録第1166295号意匠(以下、「本件登録意匠」という。)及びこれに類似する意匠の範囲に属する、との判定を求める。」と申立て、要旨以下のとおり主張し、証拠方法として、甲第1号証、検甲第2号証及び甲第3号証ないし甲第8号証を提出した。
1.本件登録意匠の説明
本件登録意匠は、意匠に係る物品を「医療廃棄物用容器」とし、基本的な構成態様は以下のとおりである。
内蓋、外蓋及び把手を備え、内蓋及び外蓋は一体に成型され、内蓋と外蓋との間は薄肉部となっている。外蓋は薄肉部を中心に回動可能となっている。把手はヒンジ部を中心に回動可能である。
2.イ号意匠の説明
イ号意匠については、イ号物件(検甲第2号証)として現物を提出することで特定する。
3.本件登録意匠とイ号意匠との類否の考察
(1)本件登録意匠は、持運び状態、使用状態及び廃棄状態(組立状態)の3つの状態に変化して使用されるものであり、本件登録意匠における「持運状態を示す各参考図」、「使用状態を示す各参考図」及び「廃棄状態を示す各参考図」とそれらに対応するイ号意匠の態様とを比較すると両者は3つの状態に変化して使用するという点において同一である。
(2)本件登録意匠については製造・販売を行っていないので、実際に製造・販売している、本件登録意匠の本意匠(甲第5号証:登録第1166202号)(以下、「本件参考意匠」という。)にかかる写真を用いて、この本件参考意匠を本件登録意匠と同様の平面形状が略正方形の立方体の容器であると仮想して、イ号意匠との類否の考察を行うと、
(a)組立状態は甲第6号証の写真3及び4に示すように、いずれも、外蓋が閉じた状態で、かつ、把手が奥側に向って斜めに下がった状態であり、
(b)持運状態は甲第6号証の写真5及び6に示すように、いずれも、外蓋が閉じた状態で、把手が上方に持ち上げられた状態であり、(c)使用状態は甲第6号証の写真7及び8に示すように、いずれも、外蓋が開いた状態で係止されており、把手が奥側に向って斜めに下がった状態であり、
本件参考意匠の平面形状が略正方形であるとすれば、各状態において、この仮想の意匠とイ号意匠の全体的な形状が酷似していることは明白である。
このように、本件参考意匠とイ号意匠とは基本的な態様(内蓋、外蓋及び把手を有する医療廃棄物用容器)において共通しており、かつ、3つの状態に変化して使用されるという点において共通している。
一方、本件登録意匠とイ号意匠とは細部において形状に差異点はあるものの、本件においては本件登録意匠とイ号意匠とを全体的に観察したときに相互に類似しているかが問題となるので、3つの状態に変化して使用されるという点について共通していること、及び、基本的な各態様が共通していること等を考慮して両意匠を全体的に対比すれば、それらの差異点が類否の判断に与える影響はいずれも微弱なものである。
さらに、色彩についてイ号意匠は容器本体に黄色の有色透明の彩色が施され、内蓋及び外蓋に無色透明の彩色が施されているが、かかる彩色については何ら特徴がなく意匠の類否判断に影響を与えるものではない。
(3)以上のとおり、両意匠を全体的に考察すると、両意匠の差異点は、類否の判断に与える影響はいずれも微弱なものであって、共通点を凌駕しているものとはいえず、それらが纏まっても両意匠の類否の判断に及ぼす影響は、その結論を左右するまでには至らないものであるから、イ号意匠は、本件登録意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属する。

第2.被請求人の答弁及び理由
被請求人は「イ号意匠は、意匠登録第1166295号の意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属しない、との判定を求める。」と答弁し、その理由として要旨以下のとおり主張し、証拠方法として乙第1号証ないし乙第11号証を提出した。
本件登録意匠とイ号意匠とは、
(a)内蓋及び外蓋を備えていること、
(b)内蓋及び外蓋が一体に成型されていること、
(c)内蓋と外蓋との間に薄肉部が設けられていること、
(d)外蓋がこの薄肉部を中心に回動可能になっていること、
(e)把手はヒンジ部を中心に回動可能であること、
との構成態様において一応共通するが、これらの構成態様は、乙第1?乙第11号証に同一又は類似の形態が開示されていることから、本件登録意匠の要部とはなり得ない。本件登録意匠において要部となり得る構成態様は、乙第1?乙第11号証に開示された公知の意匠及びこれに類似する形態を除く形態であるが、これらの構成態様のいずれもがイ号意匠と異なっている。
従って、医療廃棄物用容器全体の形態を対比したときにも、イ号意匠は、本件登録意匠の要部を備えることがなく、本件登録意匠と非類似である。

第3.当審の判断
1.本件登録意匠
本件登録意匠は、平成14(2002)年6月19日に意匠登録出願をし、平成14(2002)年12月27日に意匠権の設定の登録がなされた意匠登録第1166295号の意匠(部分意匠)であり、願書の記載によれば意匠に係る物品を「医療廃棄物用容器」とし、その形態は願書及び添付図面に記載のとおりであって、部分意匠として意匠登録を受けようとする部分を実線で表したものである(別紙第1参照)。
2.イ号意匠
イ号意匠は、請求人がイ号物件(検甲第2号証)として提出した現物の意匠である(別紙第2(甲第6号証の写真3、5、7を転載)参照)。
3.本件登録意匠とイ号意匠との類否判断
(1)両意匠の対比
両意匠を対比すると、両意匠は、医療廃棄物の回収容器に係るものであるから、意匠に係る物品が一致し、その形態については、主として以下の共通点と差異点がある。
〈共通点〉
すなわち、基本的構成態様において、(A)容器体を上面が開口した下窄まりの方形箱状体とし、上面の開口部に外蓋が開閉自在に形成された内蓋を嵌着し、把手を容器体の左右に跨って回動可能に設けている点。各部の具体的態様において、(B)容器体について、開口部縁の断面形状を倒「コ」字状に屈曲し、側面の開口部縁中央直下に、把手両端との枢着部を直方体状に一対形成した点、(C)蓋体について、(C-1)外蓋を容器体の開口部よりもやや小さい一枚の薄板状に形成し、(C-2)外蓋の前辺側に、中央に縦溝を設けた半円形の係合爪を一対形成して、これに対応する係合細孔を内蓋に形成するとともに、(C-3)外蓋の後辺側を両端を除いて後ろ向きに延伸し、その後端を、一直線状の薄肉部で内蓋の後辺と回動可能に一体化し、薄肉部の両端下方の内蓋の後辺に2つの係止凸部を設けた点、(D)把手について、断面を円形とする棒状体によって全体を略「U」字状に湾曲形成した点。
〈差異点〉
各部の具体的態様において、(ア)容器体について、本件登録意匠は開口部縁より下の側面外周に段部を形成して、容器体の上部に外方にベルト状に張り出した周回部を形成し、この周回部上に把手との枢着部を円形孔を1つ設けたやや縦長のものとして一対設けたのに対し、イ号意匠は周回部を形成せず、枢着部は円形孔を横に3つ連続した横長のものとして設けた点、(イ)蓋体について、(イ-1)外蓋につき、本件登録意匠は、外形の左右及び前方(先端側)の3辺を直線状とする略矩形とし、その前辺中央に矩形状の切欠部を形成して外蓋の中心を内蓋の中心と略一致するように設けたのに対し、イ号意匠は、外形の前辺が直線状で左右側辺が内蓋の外縁よりも強い弧状に湾曲する樽形とし、前辺の中央に側面視略「V」字状の係合部(以下「V字係合部」という)を下向きに形成し、外蓋の中心を内蓋の中心よりも後方側にずらして内蓋手前に余地部をやや大きく設けた点、(イ-2)内蓋につき、本件登録意匠は前辺に切欠きが無く、上面全域を略平坦面として、外蓋の閉状態において、外蓋が内蓋の上面に一段高くなるよう形成したのに対し、イ号意匠は、前辺に切欠きを設け、上面に、外蓋に形成されたV字係合部に対応する係合孔とV字係合部を操作するための操作凹部を設けるとともに、外蓋と係合爪の形状に対応した収容凹部を浅く形成し、外蓋の閉状態において、外蓋の上面と内蓋の上面とが略同一の平面をなすよう形成した点、(イ-3)蓋部後端につき、イ号意匠は外蓋と内蓋とを繋ぐ薄肉部を3つの切欠孔によって短く分断し、中央の切欠孔の下方に、すなわち内蓋後辺の中央に係止凸部を1つ追加し、左右端の係止凸部と合わせて3つとしているのに対し、本件登録意匠の薄肉部には切欠孔及び分断が無く、係止凸部も内蓋後辺の中央には設けず、左右端の2つとしている点、(ウ)把手について、イ号意匠は把手中央に外方に突出する扁平な略「円」字状の握り部を設けたのに対し、本件登録意匠は該当する握り部を形成していない点。
(2)両意匠の類否
そこで、これらの共通点及び差異点を総合し、両意匠の類否を意匠全体として検討し、判断する。
共通点(A)については、両意匠の形態全体にかかわる骨格的な構成をなすものであるが、この種の医療廃棄物の回収容器においては、全体を上面が開口した若干下窄まりの箱状容器体とし、その開口部に蓋体を嵌着した構成は広くみられ(例えば、意匠登録第915178号(乙第1号証)、意匠登録第1073244号(乙第2号証)、意匠登録第1073486号(乙第3号証)。)、さらに蓋体が外蓋と内蓋からなる構成としたものも広くみられる(例えば、意匠登録第1120974号(乙第4号証)、実開平4-18524号の図1?図4(乙第6号証)、(株)井内盛栄堂が発行したカタログ「ナビス看護用病院備品No.2000」212頁上段記載の「セーフティコンテナシステム」(第乙第8号証)。)。また、把手を容器体の左右に跨る態様で回動自在に設けることは、各種小型容器においてはごく普通で特異性はなく、医療廃棄物用容器においても既に公然知られている(実用新案登録第3024038号の図6?図7(別紙第3参照))。また、持運びや蓋を開閉した使用の状態(請求人のいう3つの状態)は、蓋が開閉し、把手が回動可能であれば当然に予定されている変化態様と認められる範囲のものである。したがって、この共通点(A)の態様が類否判断に与える影響はさほど大きく評価することはできない。
また、共通点(B)及び共通点(D)について、開口部縁に形成された断面を倒「コ」字状に屈曲した形状は、従来より極めてありふれた補強形状の一つであり、把手の枢着部の形状を直方体状として容器体側面の開口部縁中央直下に形成した点や、把手を略「U」字状に湾曲した形状も、容器の分野において広く知られている態様であり(例えば、意匠登録第890580号、意匠登録第912945号。)、また、把手を断面が円形の棒状体によって構成することも、様々な分野で広く行われていることである。したがって、共通点(B)及び(D)は何れも形態上の特徴を生じるまでには至らず、類否判断に及ぼす影響は微弱である。
共通点(C)についても、(C-1)のうち外蓋を薄板状とすること、(C-2)のうち外蓋の前辺側に中央に縦溝を設けた半円形の係合爪を設け内蓋側に係合細溝を設けることについては、既に公然知られている態様であり(前掲の乙第4号証、前掲の乙第8号証)、(C-1)の外蓋を容器体の開口部よりも小さい一枚構成とすることについても実開平2-72202号の第1図ないし第4図(別紙第4参照)にみられるところである。(C-2)の係合爪と係合細溝を2つとした点は蓋体の幅の変化に対応させたまでのものであり、(C-3)の態様についても、一直線状の薄肉部で内蓋の後辺と一体化することは既に公然知られていることであって(前掲の乙第4号証、前掲の乙第8号証の他に、特開平9-295701号の図2、図6、図7に表された符号12(乙第5号証)。)、また、内蓋の後辺に外蓋との係合部を設けた態様も乙第8号証のカタログに認められるとおり、新規なものではない。したがって、これら何れの態様も本件登録意匠のみにみられる独自の態様とはいえず、しかも共通点(C)に関しては、その構成に差異点(イ-1)ないし(イ-3)の差異も同時にみられることから、共通するまとまりとしての視覚効果はさほど強いものとはいえず、類否判断に与える影響は限定的である。
他方、差異点について検討すると、差異点(ア)の周回部の有無の差異は、本件登録意匠の周回部はその張り出しの程度をごく僅かとしたものであって、枢着部の縦横比や孔数の差異も局所的で、両意匠の類否判断に与える影響はさほど大きなものではない。しかし、差異点(イ-1)の外蓋と(イ-2)の内蓋の形状に認められる差異については、使用状態において明瞭に視認される部位にあり、かつ、通常の使用時において頻繁に手に触れる部位における差異であることから、看者の注意を惹くものであって、特に本願意匠は、内蓋の外形と外蓋の外形との間の余地部の幅を、前辺側及び左右辺側が略等しくなるよう形成し、外蓋においては、開閉操作のための形状を前辺の中央に矩形状の切欠きを設けただけのシンプルな構成としたものであるのに対し、イ号意匠は外蓋の前辺にV字係合部を形成し、内蓋上の係合孔や操作凹部と一体化させたものであり、内蓋上の当該操作凹部は、両隣の直線部とその外側に続く半円形の段差形状と一体となって、係合爪を備えた外蓋前辺の外形状に対応する特徴的な凹形状を現すものとなっており、当該凹形状は、内蓋上面の広幅の余地部上に形成されていることと相俟って、本件登録意匠の形状との違いが強調されるものとなっている。また、差異点(イ-3)の蓋部後端の差異も外蓋の係止機能に直接の影響を及ぼすものであるから、一定程度の看者の注意を惹く差異と認められるものであり、加えて、差異点(ウ)の握り部の差異も、イ号意匠に形成された握り部は正面形状を扁平な略「円」字状とする特異な形状を呈し、基本形状をシンプルな略「U」字形の棒状体とする本件登録意匠とは大きく異なる構成としたものとなっている。
そしてこれらの共通点及び差異点を総合して意匠全体として観察すると、共通点(A)ないし(D)の態様は、何れも従来からみられる態様、若しくは局部的なものであって、類否判断に及ぼす影響が微弱であるのに対し、差異点(イ-1)及び(イ-2)は類否判断に大きな影響を及ぼし、これに(イ-3)、(ア)、(ウ)の差異が加わり一体となって類否判断に及ぼす影響は、上記共通点の類否判断に及ぼす影響を凌ぎ、意匠全体として両意匠に異なる美感を起こさせるものとなっている。
以上のとおりであり、両意匠は意匠に係る物品が一致するが、形態において類似するものではないから、意匠全体として類似しない。
4.むすび
したがって、イ号意匠は、本件登録意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属しない。
よって、結論の通り判定する。
別掲
判定日 2010-07-05 
出願番号 意願2002-16394(D2002-16394) 
審決分類 D 1 2・ 1- ZB (C3)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 原田 雅美外山 雅暁 
特許庁審判長 遠藤 行久
特許庁審判官 杉山 太一
市村 節子
登録日 2002-12-27 
登録番号 意匠登録第1166295号(D1166295) 
代理人 岸本 忠昭 
代理人 岸本 忠昭 
代理人 山村 喜信 

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