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審決分類 審判 判定  同一・類似 属さない(申立不成立) F3
管理番号 1221393 
判定請求番号 判定2010-600007
総通号数 129 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 意匠判定公報 
発行日 2010-09-24 
種別 判定 
判定請求日 2010-03-09 
確定日 2010-08-09 
意匠に係る物品 アルバム 
事件の表示 上記当事者間の登録第1287461号の判定請求事件について、次のとおり判定する。 
結論 (イ)号図面に示す「ノート」の意匠は、登録第1287461号意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属しない。
理由 第1 請求の趣旨及び理由
請求人は、イ号図面に示す「ノート」の意匠(以下、「イ号意匠」という。)は、登録第1287461号意匠(以下、「本件登録意匠」という。)及びこれに類似する意匠の範囲に属する、との判定を求め、証拠方法として、甲第1号証ないし甲第13号証を提出し、以下のとおり、主張した。
(1)請求の理由
本件判定被請求人(以下「被請求人」という。)が現在販売しているイ号意匠は、本件登録意匠の意匠権を侵害するものであるので、通告書を2度送付したが、被請求人は、「イ号意匠は、本件登録意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属さない」旨主張するので、特許庁に判定を求める。
(2)本件登録意匠及びイ号意匠の説明と比較
両意匠の共通点は、両意匠は、ともに、基本的構成態様において、複数枚の台紙を配置する帳面における表表紙と裏表紙とが見開き可能に構成され、具体的構成態様において、表表紙と裏表紙は、対称形の半裁ハート形とし、表表紙と裏表紙を見開くと全体としてハート形が形成されるようになっていることである。
両意匠の差異点は、形態においては、表表紙と裏表紙との連結が、本件登録意匠では、背表紙で連設するように構成されているのに対し、イ号意匠では、リングで綴じるように構成されていることである。
(3)本件登録意匠及びイ号意匠の類否の考察
本件登録意匠に関する先行周辺意匠である、意匠登録第1119931号(甲第3号証)、意匠登録第239702号(甲第4号証)、意匠登録第130886号(甲第5号証)に鑑みれば、本件登録意匠の創作の要点は、表表紙と裏表紙は、対称形の半裁ハート形とし、表表紙と裏表紙を見開くと全体としてハート形が形成されるようになっているところが、本件登録意匠全体の基調を表出していることである。
そこで、本件登録意匠とイ号意匠の共通点及び差異点を検討すると、両意匠の共通点の、表表紙と裏表紙とを備える基本的構成態様を基調とし、且つ具体的構成態様において、表表紙と裏表紙が対称形の半裁ハート形とし、表表紙と裏表紙を見開くと全体としてハート形が形成される構成態様は、形態全体の骨格をなすものであり、両意匠の類否判断に大きな影響を及ぼすのに対して、イ号意匠の表表紙と裏表紙とは、背の部分でリングで綴じる構成態様とする点で本件登録意匠とは相違する点は、表表紙と裏表紙とが対称形の半裁ハート形とするという両意匠の共通する特徴的形態の中にあって、形態の基調にいささかの変化も生じさせない部分的変化に過ぎず、加えて、この態様自体は、アルバムやノート等の帳面の分野においては公知であり(甲第4号証、甲第5号証)、イ号意匠独自のものでないから、この差異は、類否判断に与える影響は微弱である。
さらには、意匠の類否判断に際して、需要者の視覚を通じて起こさせる美感に基づいて行うとされているが(意匠法第24条第2項)、特に、イ号意匠がその全体形状を周知の長方形形状とせずに、帳面にはこれまでにはない特徴的な構成形態として、本件登録意匠と同様の半裁ハート形にした構成態様とし、その用紙には写真等を貼り付けることも文章等を書き込むこともでき、且つ「アルバム」も「ノート」も文具店、同じ文具コーナに置かれて一般販売されていることを勘案すれば、本件登録意匠に係る物品の「アルバム」とイ号物件の「ノート」とは、一般需要者をして両物品の構成形態及び用途面の共通性から両物品間に混同を生じさせるおそれがあり、このことからも、本件登録意匠に係る物品の「アルバム」とイ号物件の「ノート」とは、類似物品であることに疑う余地もなく、以上の認定、判断を前提として両意匠を全体的に考察すると、両意匠の差異点は、類否の判断に与える影響はいずれも微弱なものであって、共通点を凌駕しているものとはいえず、それらが纏まっても両意匠の類否の判断に及ぼす影響は、その結論を左右するまでには至らないものである。

第2 被請求人の答弁の趣旨及び理由
被請求人は、イ号図面に示す意匠は、登録第1287461号意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属しない、との判定を求め、証拠方法として、乙第1号証ないし乙第7号証を提出し、おおむね以下のとおり、主張した。

本件登録意匠に関する先行周辺意匠について、乙第5号証は、実用新案登録第3103614号の登録実用新案公報であり、複数の用紙を内側に備える表表紙と裏表紙が、綴じた状態で半裁ハート形に(同公報の図1)、見開いた状態でハート形となる(同公報の図2)冊子が掲載され、乙第6号証-1、-2は、米国国会図書館に収録されているWebページの写しであり、16世紀に、表表紙と裏表紙が、綴じた状態で半裁ハート形に、見開いた状態でハート形となる冊子が存在していたことが説明されている。
本件登録意匠の要部が、細長長方形状の背表紙に半裁ハート形の表表紙と裏表紙を背表紙を介して一体に連続させた部分であるとして、本件登録意匠は、見開いた状態でハート形に近似する輪郭が表れる。一方、イ号意匠は、見開いた状態で、半裁ハート形の表表紙と裏表紙が離間し、その間の11ヵ所にダブルリングが掛け渡されているので、左右対象の半裁ハート形がそれぞれ独立して表れるとともに、その間にはしご状の模様が表れ、単純なハート形のみが表れる本件登録意匠と全く異なる美観を与える。
判定請求人が主張するとおり、表表紙と裏表紙を複数のダブルリングで連結することは、冊子のような物品において公知であるが、イ号意匠は、単に機能上の理由でこのような連結構造を採用したものではなく、11ヵ所の位置にダブルリングを掛け渡して半裁ハート形の表表紙と裏表紙を綴ることにより、見開いた状態で意図的にその間にリングの長さに相当する隙間を形成し、対称形状に二分された各半裁ハート形が、あたかも22本のリングで強く結ばれる印象を看者に与えるように創作したものである。
物品の類否は、より具体的な使用目的、使用態様を勘案して判断すべきものであり、「アルバム」は、すでに作られた写真、切り抜き等を、見やすく整理して保存する目的で使用されるのに対し、「ノート」は、新たに見聞きした情報や思いついた情報をその都度書きとめる目的で使用するもので、具体的な使用目的、使用態様を比較しても両物品の用途は明らかに異なる。

第3 当審の判断
1.本件登録意匠
本件登録意匠は、平成18年3月17日に出願され、平成18年10月20日に設定登録されたもので、意匠に係る物品を「アルバム」とし、その形態は、願書及び願書添付の図面の記載のとおりのものであり、部分意匠として登録を受けようとする部分を、実線で表したものである(別紙第1参照)。
2.イ号意匠
イ号意匠は、請求人が提出したイ号図面に示す「ノート」の意匠であり、イ号意匠について、当事者間に争いはない(別紙第2参照)。

3.両意匠の対比
両意匠は、意匠に係る物品が、本件登録意匠は「アルバム」であるのに対し、イ号意匠は「ノート」であり、形態において、以下の一致点と相違点がある。
(1)一致点
(A)両意匠は、複数枚の台紙を配置する帳面における表表紙及び裏表紙と、この両表紙を見開き可能に接続する連設部からなり、表表紙及び裏表紙は、対称形の半裁ハート形とし、表表紙と裏表紙を見開くと全体としてハート形が形成される基本的な態様である。
(B)見開くと形成されるハート形は、縦横の比率が約2:3の、横に広がったハート形とした具体的な態様である。
(2)相違点
(a)連設部について、本件登録意匠は背表紙で連設したのに対し、イ号意匠は多数のリングで連設した点、
(b)半裁ハート形ないしは見開きハート形の下方斜線部について、本件登録意匠は直線としたのに対し、イ号意匠は凸曲線とした点において相違する。

4.両意匠の類否判断
意匠の類否を判断するにあたっては、意匠を全体として観察することを要するが、この場合、意匠に係る物品の性質、用途、使用態様、更には公知意匠にはない新規な創作部分の存否を参酌して、意匠に係る物品の取引者・需用者の注意を最も惹きやすい部分を把握し、両意匠がこの部分において構成態様を共通にするか否かを中心にして観察して、両意匠が全体として美感を共通にするか否かを判断すべきものといえる。そして意匠法は、登録意匠とそれ以外の意匠が類似であるか否かの判断は、需要者の視覚を通じて起こさせる美感に基づいて行うものとするとしている(意匠法第24条第2項)。
以上を踏まえ、まず両意匠の物品について検討すると、広辞苑によれば、「アルバム」は「写真・絵画・切手などを貼って保存する帳面。また、写真などを編集し印刷・製本したものにもいう。」であり、「ノート」は「帳面」と同義で、「帳面」は「物を書き控えておくために、幾枚かの同型の紙を綴じ合わせて作った冊子。帳簿。」であるとされている。それゆえ「アルバム」と「ノート」は、厳密には使用目的が異なり、物品が同一とはいえない。しかしながら、両意匠はともに、記録できる用紙を備える冊子という枠でくくれるので、類似の物品ということができる。
よって、形態の類否が両意匠の類否を決定するので、両意匠の形態について検討すると、閉じたり開いたりして使用される表表紙と裏表紙を有する意匠(以下、「この種の意匠」という。)において、閉じると半裁ハート形であって開くとハート形をなす形態のものは、例えば参考意匠1(別紙第3参照)、参考意匠2(乙第5号証 別紙第4参照)、参考意匠3(乙第6号証-2 別紙第5参照)に明らかなように公然知られており、間に数枚の用紙を備えた冊子状のものも、参考意匠1のとおり知られている。これに基づけば、本件登録意匠の新規な創作部分は、閉じると半裁ハート形で見開くとハート形をなす冊子という基本的な態様にあるとすることはできず、そのハート形も一つの類型的なハート形としてありふれたものなので、新規な創作部分は、見開くと縦横の比率が約2:3の横に広がったハート形を半裁した形状の表表紙と裏表紙を背表紙で連設したという、具体的な態様にあるというべきである。中でも本件登録意匠の背表紙は、背文字を書き入れるに十分な横幅があり、需要者の注意を惹く部分となっているので、この部分を中心に意匠全体を観察し、両意匠が全体として美感を共通にするか否かを検討しなければならない。
そうすると、両意匠の一致点については、基本的な態様をなし、骨格的な形態は共通するといえるが、前記のとおり、見開いた時のハート形の形状を含めて既にみられる態様で、本件登録意匠の新規な創作部分ではないから、この点をもって直ちに需要者に圧倒的な共通感を与えるとはいえない。
次に、相違点についてみると、連設部の相違点(a)は、本件登録意匠の背表紙型もイ号意匠のリング型も、ありふれた連設の態様ではある。しかしながら、イ号意匠のリングは、見開くと両表紙間に本件登録意匠の背表紙の横幅程の間隔があくほどに直径が大きく、ダブルリングが11個連続形成され、それゆえ閉じるとリングが目立つし、表紙部の方に着目しても、開いた時のハート形は中央で離隔していて、分離したハート形との印象を与える。これに対して本件登録意匠の表紙部は、開いても分離せず、背表紙側から連設部を観察すると、縦方向に一定幅に隆起する背表紙が目立ち、背文字が書き込めるという、イ号意匠とは別異の、需要者への訴求力が認められ、連設部の視覚効果は相当程度異なるといえ、意匠全体が起こさせる美感に大きな影響を及ぼしているといわざるを得ない。
一方、半裁ハート形ないしは見開きハート形の下方斜線部の相違点(b)は、直線か、あるいは僅かな凸曲線かの、ハート形にありがちな軽微な局所的相違で、類否判断を左右するものではない。
以上を総合すると、本件登録意匠とイ号意匠の一致点は、既にみられる態様であるので需要者の注意を惹かず、これに対して、具体的な態様における連設部の相違点は、需要者の注意を惹く相違点であり、需要者の視覚を通じて起こさせる両意匠の美感に大きな影響を与えているので、類否判断を支配しており、イ号意匠は本件登録意匠に類似するものではない。
なお、請求人は、イ号意匠は本件登録意匠に類似する根拠として、「甲10号証-1」及び「甲10号証-2」を示しているが、その手続の経緯をみると、類似を立証する根拠とはならないものである。

5.むすび
したがって、イ号意匠は、本件登録意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属しない。
よって、結論のとおり判定する。
別掲
判定日 2010-07-30 
出願番号 意願2006-6764(D2006-6764) 
審決分類 D 1 2・ 1- ZB (F3)
最終処分 不成立  
特許庁審判長 関口 剛
特許庁審判官 樋田 敏恵
橘 崇生
登録日 2006-10-20 
登録番号 意匠登録第1287461号(D1287461) 
代理人 小林 幸夫 
代理人 宮崎 栄二 
代理人 坂田 洋一 
代理人 早崎 修 

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