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審決分類 審判 判定  同一・類似 属さない(申立不成立) K1
管理番号 1231549 
判定請求番号 判定2010-600062
総通号数 135 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 意匠判定公報 
発行日 2011-03-25 
種別 判定 
判定請求日 2010-10-12 
確定日 2011-02-18 
意匠に係る物品 部品収納ケース 
事件の表示 上記当事者間の登録第1093142号の判定請求事件について、次のとおり判定する。 
結論 (イ)号図面及びその説明書に示す「部品収納ケース」の意匠は、登録第1093142号意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属しない。
理由 第1 請求人の申立及び理由
本件判定請求人(以下、「請求人」という。)は、「イ号意匠及びその説明書に示す意匠(以下、「イ号意匠」という。)は、意匠登録第1093142号意匠(以下、「本件登録意匠」という。)及びこれに類似する意匠の範囲に属する、との判定を求める」と申し立て、その理由として判定請求書に記載のとおりの主張をし、証拠方法として甲第1号証ないし甲第6号証の書証を提出したものである。
1.判定請求の必要性
本件被請求人(以下、「被請求人」という。)は、イ号図面並びにその説明書に示す意匠に係る物品を、甲第1号証のように、製品名称「ポケットケース(PC-143)」として製造販売しているが、被請求人の行為が請求人の本件登録意匠に係る意匠権を侵害していることを確認するため、本件判定を求めた。
2.本件登録意匠とイ号意匠の対比と、イ号意匠が本件登録意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属する理由の説明
(1)両意匠の共通点
両意匠は、いずれも部品収納ケースに関するものである。
(A)蓋と本体が背面側に設けられたヒンジ部により結合された、平面図において横方向の寸法が縦方向の寸法の2倍弱とした横長の透明な長方形状のケースである。
(B)正面側の左右方向中央において、上端から下端に至る凹部が形成されており、蓋と本体が閉じた状態を保持できるように、当該凹部の本体側に回動可能に設けられた止め具がその上方に位置する蓋側に形成された突起に係合するようになっている。
(C)外側に露出する各面は、全体的に無数の微小な凹凸により透明度が抑えられているが、蓋の平面図にあらわれた面においては、4辺周縁部に形成された枠状隆起部分のみが、透明度が抑えられた態様となっている。
(D)前記ヒンジ部は、背面側に突出しており、平面視において左右両側に外方に向かって徐々に細くなる傾斜部分を有している。
(E)蓋の左側縁中央の下端に、外端側が半円形状で内側に丸孔を有する吊り下げ片を外方に向けて延設している。
(F)本体内部には4つの縦方向の仕切板が設けられている。
(2)両意匠の差異点
(ア)正面図における横方向の寸法は、本件登録意匠では、高さ方向の寸法の6倍弱であるのに対し、イ号意匠では、高さ方向の寸法の5倍強である。
(イ)蓋の平面図にあらわれた面において、本件登録意匠では、正面側中央の前記凹部に臨む箇所に長方形状隆起部分を設け、その内側に4本の凹条を形成しているのに対し、イ号意匠では、そのような隆起部分が存在しない。
(ウ)本体上部の周囲の鍔は、本件登録意匠では、正面側において途切れた箇所が存在しないのに対し、引用意匠では、正面側の左側及び右側にそれぞれ途切れた箇所が存在する。
(エ)留め具は、本件登録意匠では、表面に3本の凹条を形成した四角形の板状部の左右両側から細い腕が延びた形状としている。
(オ)底面は、本件登録意匠では、全面的に平坦な面であるのに対し、イ号意匠では、中央にリング状の突起が設けられ、角部に各1対のリング状突起と十字状突起が対角配置されたものとなっている。
この種「部品収納ケース」は、釣具、手芸用品、工芸用の部品等の小物を収納するためのものであり、需要者は、主に蓋を開閉するための留め具のある正面側の上方から見下ろして、蓋の形態や、背面側のヒンジ、正面側の留め具の位置関係等を考慮しつつ、意匠全体を観察するものと考えられる。
上記共通点のうち、特に(A)?(D)の、正面側の左右方向中央の凹部と、背面側に突出するとともに左右両側の外方に向かって徐々に細くなる傾斜部分を有するヒンジ部により形成される全体的な外形、並びに当該外形の中に蓋の枠状隆起部分を形成し、前記凹部に留め具を配置した態様を中心とする、両意匠の共通する態様の視覚的効果は、従来この種物品の分野において見られないものであり、意匠全体として、両意匠に強く共通した美感を起こさせるものである。
一方、(ア)の寸法の差異は僅かな相違に過ぎず、前記共通点の態様に希釈され、(イ)の長方形状隆起部分の有無については、本件登録意匠における長方形状隆起部分は、蓋の枠状隆起部分の内側に付加されたものに過ぎず、前記共通点の態様を凌駕したり格別異なる印象を付与したりするものではない。(ウ)の本体上部の周囲の鍔の形態の差異は、小さく目立ちにくいものであり、いずれも需要者の注意を惹くものではない。(エ)の留め具、及び(オ)の底面の形態の差異も、前記共通点の態様を凌駕したり格別異なる印象を付与したりするものではない。
そして、これらの差異点の相まって奏する視覚的効果を勘案しても、両意匠に共通する美感に影響を及ぼすものではない。
3.むすび
以上のように、本件登録意匠とイ号意匠は、意匠に係る物品が一致し、形態についても、共通点が差異点を凌駕しており、意匠全体として美感が共通し、イ号意匠は、本件登録意匠に類似するものである。

第2 被請求人の答弁の趣旨及び理由
1.答弁の趣旨
被請求人は、「イ号図面並びにその説明書に示す意匠は、意匠登録第1093142号の類似範囲に属さない」、との判定を求め、答弁書に記載のとおりの主張をし、証拠方法として乙第1号証ないし乙第6号証の書証を提出したものである。
2.本件登録意匠とイ号意匠との類否判断
(1)共通点
請求人が主張する本件登録意匠とイ号意匠の共通点(A)及び(B)あるいは共通点(E)、(F)は、本件登録意匠とイ号意匠だけでなく、先行意匠とも共通する一般的な態様であり、意匠的な特徴として希薄なものである。
共通点(C)のうち、4辺周縁部に枠状隆起部分を形成する構成は、多くの先行意匠とも共通する一般的な態様である。
共通点(C)のうち、蓋の上面の枠状隆起部分にのみ無数の微小な突起を形成することは、一般的な態様であり、全体が透明なプラスチック製品において、外側に露出する全体に微小な突起を形成する(シボ加工)ことは、普通に行われる加工であり、また、全体のシボ加工の有無によって需要者は、意匠的な違いとして認識しないし、シボ加工の有無によって、蓋上面の凹所の形状が強調されるが、蓋上面の凹所の形状は本件登録意匠とイ号意匠とでは相違する。
請求人が、共通点(D)と主張するヒンジ部分の構成は、本件登録意匠とイ号意匠とでは相違する。
(2)差異点
本件登録意匠における「蓋の平面図にあらわれた面において、正面側中央の凹部に臨む箇所に長方形状の隆起部分を設けその内側に4本の凹条を形成している。」という差異点〈1〉の形態は、意匠的な特徴として顕著なものである。「ヒンジ部は、蓋の上面から斜め後方に向けて下がる傾斜面を備え、ヒンジ部の左右両側は、平面視において蓋の両端に向けて傾斜している。」という差異点〈2〉の形態も意匠的な特徴として顕著なものである。留め具の違いという差異点〈3〉は、蓋を開ける場合に、直ちに需要者の目に入るものであり形状の違いが認識される。底面図の形態である差異点〈4〉は、この種物品における底面には、突起を設けないもしくは半球状などの突起が形成されるのが普通の形態であるが、イ号意匠の突起は、十字状とリング状の突起を対称位置に配置したもので、一般的な突起とは異なるため需要者は意匠的な違いとして認識するものである。その理由の一つは、イ号意匠では十字状突起とリング状突起を嵌合させ、物品を底面同士で結合することができるためである。
(3)類否判断
上記(1)で述べた共通点は、先行意匠とも共通するこの種物品における普遍的な形態であって、意匠的な特徴として希薄なものである。
これに対して差異点〈1〉ないし〈4〉は、意匠的な違いとして顕著なものである。すなわち差異点〈1〉、〈2〉、〈3〉は、いずれも上方や斜め上方あるいは正面から見たときに、需要者の目に入り易いもので、一見して異なる意匠、非類似の意匠と認識される。
特に、差異点〈1〉及び〈2〉は、本件登録意匠の最も特徴のある部分、すなわち本件登録意匠の骨格をなす要部における差異であり、この差異によって需要者は、本件登録意匠とイ号意匠は別意匠であると認識するものである。
なお、差異点〈4〉は物品の底面の態様であるが、この種物品が手で持つような小さなものであること、二つの物品を底面同士で結合させることができることなどから、需要者が物品の形態として認識するものである。
以上のとおり、本件登録意匠とイ号意匠の差異点は、本件登録意匠の要部に係る特徴部分であり、イ号意匠は本件登録意匠に類似するものではない。

第3 当審の判断
1.本件登録意匠
本件登録意匠は、平成11年10月5日の意匠登録出願に係り、平成12年10月6日に意匠権の設定の登録がなされたものであり、その願書の記載及び願書に添付された図面によれば、意匠に係る物品を「部品収納ケース」とし、その形態は願書の記載及び願書に添付された図面に表されたとおりのものである(別紙第1参照)。
すなわち、蓋と本体が背面側のヒンジ部によって結合された、縦横高さの比が約1:2:0.4の、平面が隅丸長方形状で全体が略横長直方体状の透明なケースであって、正面側に凹状部を設けて留め部とし、ヒンジ部が背面側に平面視略扁平台形状に突出したもので、留め部は本体側に略矩形状の回動可能な留め具を設け、蓋側に設けた小型矩形状突起部に係合する態様で、蓋の上面の四辺の枠状部分以外の略長方形状枠内を除いて蓋と本体の外側面の略全面に微小な凹凸模様を施し、蓋の平面視右側中央に端部が円弧状で内側に円形状孔を有する吊り下げ片を設け、本体内部に4つの仕切り板を縦方向に等間隔に配したもので、蓋上面の留め部に臨む正面側中央部に凹条模様を有する矩形状隆起部を設け、ヒンジ部は、背面側に平面視略扁平台形状に突出した中央部が蓋上面から背面側へ漸次下り傾斜するように連続しているため、背面側に向けて側面視傾斜状に突出しており、本体上部の開口部周囲に蓋止め用の鍔状部が連続して設けられ、底面部全体が平坦な面で、留め具は、表面に3本の凹条を形成した略隅丸長方形状の板状部の左右側のわずかに段落ちした位置から細い隅丸状アーム部が設けられて支持されており、吊り下げ片の形状が、隅丸凸字状に左右が段状になっているものである。
2.イ号意匠
イ号意匠は、判定請求書に添付されたイ号図面及び説明書に示すものであり、被請求人もこれに基づき答弁をしている。その形態は、判定請求書に添付された図面に表されたとおりのものである(別紙第2参照)。
すなわち、蓋と本体が背面側のヒンジ部によって結合された、縦横高さの比が約1:2:0.4の、平面が隅丸長方形状で全体が略横長直方体状の透明なケースであって、正面側に凹状部を設けて留め部とし、ヒンジ部が背面側に平面視略扁平台形状に突出したもので、留め部は本体側に略矩形状の回動可能な留め具を設け、蓋側に設けた小型矩形状突起部に係合する態様で、蓋の上面の四辺の枠状部分以外の略長方形状枠内を除いて蓋と本体の外側面の略全面に微小な凹凸模様を施し、蓋の平面視右側中央に端部が円弧状で内側に円形状孔を有する吊り下げ片を設け、本体内部に4つの仕切り板を縦方向に等間隔に配したもので、蓋上面の留め部に臨む位置に矩形状隆起部がなく、ヒンジ部は、蓋の側面視垂直状の背面部の周壁下端部に円弧状係合部分を設けたヒンジ部としたもので、蓋部の周壁下端部から背面側に向けて側面視水平状に突出形成されており、本体上部の開口部周囲に蓋止め用の鍔状部が形成され、鍔状部は、正面左右に各1/3程度途切れた部分が存在し、留め具は、表面に2本の凸条とその間に横長の孔を形成し、角張った略矩形状の板状部の左右に連続して細いアーム部が設けられて支持されており、底面部は、中央に浅いリング状の突起、前方側の左右に十字状突起とリング状突起、後方側の左右にリング状突起と十字状突起を配し、対角線上に同じ形状の突起を配置し、吊り下げ片の形状は、左右に段状部がないものである。

3.両意匠の対比
両意匠を対比すると、いずれも小さな部品などを分けて収納する、小型の収納ケースに係るものであり、意匠に係る物品が共通し、形態については、主として以下の共通点と差異点が認められる。
(1)共通点
A)蓋と本体が背面側のヒンジ部によって結合された、平面の縦横高さの比が約1:2:0.4の、平面が隅丸長方形状で全体が略横長直方体状の透明なケースである点、B)正面側に凹状部を設けて留め部とし、本体側に略矩形状の回動可能な留め具を設け、蓋側に設けた小型矩形状突起部に係合する態様である点、C)蓋の上面の四辺の枠状部分以外の略長方形状部分以外の略長方形状枠内を除いて蓋と本体の外側面の略全面に微小な凹凸模様を施した点、D)ヒンジ部が背面側に平面視略扁平台形状に突出している点、E)蓋の平面視右側中央に端部が円弧状で内側に円形状孔を有する吊り下げ片を設けた点、F)本体内部に4つの仕切り板を縦方向に等間隔に配した点において共通する。
(2)差異点
(a)蓋の上面について、本件登録意匠は、蓋上面の留め部に臨む上面側に凹条模様を有する矩形状隆起部を設けているのに対し、イ号意匠は、このような矩形状隆起部がない点、(b)ヒンジ部について、本件登録意匠は、中央部が蓋上面から背面側へ漸次下り傾斜するように連続しているため、背面側に向けて側面視傾斜状に突出形成されているのに対し、イ号意匠は、蓋の側面視垂直状の背面部の周壁下端部に円弧状係合部分を設けたもので、蓋部の周壁下端部から背面側に向けて側面視水平状に突出形成されている点、(c)本体上部の開口部周囲の蓋止め用の鍔状部について、本件登録意匠は、鍔状部が連続して設けられているのに対し、イ号意匠は、正面左右に各1/3程度途切れた部分が存在する点、(d)留め具について、本件登録意匠は、表面に3本の凹条を形成した略隅丸長方形状の板状部の左右側のわずかに段落ちした位置から細い隅丸状アーム部が設けられて支持されているのに対し、イ号意匠は、表面に2本の凸条とその間に横長の孔を形成し、角張った略矩形状の板状部の左右に連続して細いアーム部が設けられて支持されている点、(e)底面部について、本件登録意匠は、全体が平坦な面であるのに対し、イ号意匠は、中央に浅いリング状の突起、前方側の左右に十字状突起とリング状突起、後方側の左右にリング状突起と十字状突起を配し、対角線上に同じ形状の突起を配置した点、(f)吊り下げ片の形状が、本件登録意匠は、隅丸凸字状に左右が段状になっているのに対して、イ号意匠は、左右に段状部がない点に差異が認められる。
(3)類否判断
そこで前記の共通点と差異点につき、イ号意匠が本件登録意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属するか否かの判断に及ぼす影響について、本件登録意匠の出願前に存する公知意匠等を参酌し、新規な態様や需要者の注意を最も惹き易い部分を把握した上で、共通点と差異点が意匠全体として注意を惹くものであるのか等を以下に検討する。
まず、共通点が類否判断に及ぼす影響について比較して検討する。
A)について、蓋と本体が背面側のヒンジ部によって結合された、縦横高さの比が約1:2:0.4の、平面が隅丸長方形状で全体が略横長直方体状の透明なケースは、この種の部品収納ケースの形態全体の基本的構成態様として本件登録意匠の出願前に多数見受けられ、本件登録意匠の特徴的態様ではなく、両意匠のみに共通する新規の構成態様とはいえない。B)については、正面側に凹状部を設けて留め部とし、本体側に略矩形状の回動可能な留め具を設け、蓋側に設けた小型矩形状突起部に係合する態様も、本件登録意匠の出願前より見受けられ(例えば、参考意匠1、意匠登録第997128号の意匠、別紙第3参照)、また、乙第1号証も留め具に共通点を有するものであり、両意匠のみに共通する態様とはいえない。C)については、外側面の略全面に微小な凹凸模様を施し、蓋上面の四辺の枠状部分以外の略長方形状枠内のみ模様がない態様も、本件登録意匠の出願前より、普通に見受けられる態様(例えば、参考意匠2、意匠登録第1030198号の意匠、別紙第4参照)であって特徴のないものといえ、両意匠のみに共通する格別の態様ということはできない。D)について、ヒンジ部の平面視の輪郭形状という、大まかな構成における共通点でしかなく、ヒンジ部の差異点(b)と合わせて検討すると、本件登録意匠の蓋部上面から連続するヒンジ中央部の形状は、側面視や斜視状態、さらには平面視状態でもその形状が視認できるもので、差異点による視覚効果の方がより強い印象を与え、差異点(b)に埋没し、両意匠に共通感を与えるものとはいえない。E)について、吊り下げ片は目立たない付加的な部分における細部の共通点といえ、また、端部が円弧状で内側に円形状孔を有する吊り下げ片は、この種の部品収納ケースにおいては一般的に用いられる形状で、その共通点が注意を惹く部分とはいえない。F)について、内部に4つの仕切り板を縦方向に等間隔に配した態様は、本件登録意匠の出願前より見受けられ(例えば、参考意匠3、特許庁意匠課公知資料番号HC12028614号の意匠、別紙第5参照匠)、特徴とはなり得ないし、内部という目立たない部分における共通点といえるもので、両意匠のみに共通する格別の態様とはいえない。
そうすると、これらの共通点に係る態様は、公知意匠を参酌すれば、いずれも両意匠のみに共通する新規の態様とはいえず、本件登録意匠の特徴的態様ともいえないから、両意匠の類否判断を左右するものとなりえない。
次に、差異点が類否判断に及ぼす影響についても比較して検討する。
(a)について、本件登録意匠は、蓋部の留め部上面に矩形状隆起部を有し、平面の前方側上面という、通常の使用状態で視認する方向といえる斜め前方上方から見た場合に看者の注意を惹き易い、目立つ部位における差異であり、この隆起部は、他に余り例がなく、本件登録意匠の独自の特徴といえるもので、両意匠の類否判断に与える影響を無視することはできない。(b)について、前記したとおりであって、差異点に係る形状は、異なる視覚効果を表すものであり、本件登録意匠のヒンジ部の形状は、ヒンジ部が蓋部から傾斜状に背面側に突出しているので、ヒンジ部と合わせて大きめの蓋部であるかのような印象を与えるものであり、本件登録意匠の特徴的な態様をなすものであって、両意匠の類否判断に影響を与えるものであると言わざるを得ない。(c)については、蓋を開けた場合には、前方から目に付く部分であるから、その差異が両意匠の類否判断に与える影響は看過できない。(d)について、留め具自体は意匠全体の中では小さいものであるが、本件登録意匠の留め具が、略隅丸長方形状でアームも隅丸状であるのに対し、イ号意匠では、全体が角張った略逆凹字状であるから、正面から観察した場合の印象が異なり、その差異は両意匠の類否判断に一定の影響を与えるものといえる。(e)については、底面部に何も設けない本件登録意匠は、ありふれた態様である一方、対角線上に同じ形状の突起を配置したイ号意匠の態様は、他のケースと底面同士で結合させることができ、需要者にもその存在が認識されるものであり、両意匠の違いは明確で、類否判断に与える影響は無視することができない。(f)については、吊り下げ片という付加的で小さな部位の細部に係る差異であるが、上記の差異点と相俟って、両意匠の類否判断に一定の影響を与えるものといえる。
そうして、これらの共通点と差異点を総合すれば、共通点に係る態様が両意匠にのみ共通する特徴とはいえず、本件登録意匠の特徴的な態様は、差異点(a)及び(b)に顕著に表れているもので、イ号意匠には見られない以上、両意匠の類否判断に決定的な影響を及ぼすものとせざるを得ず、類否判断を決定付けるものといえ、さらに他の差異点による態様も合わせれば、意匠全体として、イ号意匠は、本件登録意匠に類似するものとはいえない。
したがって、本件登録意匠とイ号意匠は、意匠に係る物品が共通するが、その形態については、イ号意匠は本件登録意匠の特徴的な態様を有さず、共通点よりも差異点に係る態様が相俟って生じる意匠的な効果の方が両意匠の類似性についての判断に与える影響が支配的であるから、両意匠は、全体として美感が異なり、類似しないものというべきである。

4.むすび
以上の通りであるから、イ号意匠は、本件登録意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属しない。
よって、結論のとおり判定する。
別掲
判定日 2011-02-10 
出願番号 意願平11-27195 
審決分類 D 1 2・ 1- ZB (K1)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 江塚 尚弘 
特許庁審判長 斉藤 孝恵
特許庁審判官 北代 真一
樋田 敏恵
登録日 2000-10-06 
登録番号 意匠登録第1093142号(D1093142) 
代理人 藤田 典彦 
代理人 上野 康成 
代理人 森田 拓生 
代理人 辻本 一義 
代理人 辻本 希世士 
代理人 藤田 邦彦 
代理人 神吉 出 

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