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審決分類 審判 判定  同一・類似 属さない(申立不成立) J6
管理番号 1241306 
判定請求番号 判定2010-600055
総通号数 141 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 意匠判定公報 
発行日 2011-09-30 
種別 判定 
判定請求日 2010-09-07 
確定日 2011-04-04 
意匠に係る物品 フック付親綱緊張具 
事件の表示 上記当事者間の登録第1110606号の判定請求事件について,次のとおり判定する。 
結論 イ号写真並びにイ号図面に示す「フック付親綱緊張具」の意匠は,登録第1110606号意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属しない。
理由 第1 請求の趣旨
本件判定請求人(以下,「請求人」という。)の請求の趣旨は,イ号写真並びにイ号図面に示すイ号意匠(以下,単に「イ号意匠」という。別紙第2及び第3参照。)は,意匠登録第1110606号意匠(以下,「本件登録意匠」という。別紙第1参照。)及びこれに類似する意匠の範囲に属する,との判定を求めるものである。

第2 当事者の主張
当事者の主張は,おおむね以下のとおりである。
1.請求人の主張
[1]判定請求の必要性
請求人は,本件登録意匠の意匠権者である。
本件判定被請求人(以下「被請求人」という。)が現在販売しているイ号意匠(型式番号「SMS16」の大嘉型フック付親綱緊張器)は,本件登録意匠に類似し,このイ号意匠を販売することは本件登録意匠の意匠権を侵害するものであるので,請求人は,2010年5月7日付でその旨の警告状を被請求人に送付した。
これに対して,被請求人は「イ号意匠は,本件登録意匠に類似しないので本件登録意匠の意匠権を侵害していない」旨主張するので,特許庁による判定を求める。

[2]本件登録意匠の説明
本件登録意匠は,意匠に係る物品を「フック付親綱緊張具」とし,その形態の要旨を次のとおりとする。
すなわち,
(1)基本的な構成態様は,全体が,親綱張設用支柱などに連結可能なフックと,親綱を固定可能な親綱緊張具と,このフックと親綱緊張具とを互いに回動自在且つ揺動自在に連結する自在継手とから成り,横長細帯状の自在継手の両端部に,横長環状のフックと,略長方形状の親綱緊張具とを軸着している。
具体的な構成態様は,
(2)フックは,正面視で略「C」字状のフック母体の開口部に,正面視で略「L」字状の開閉体を架設状態に設けて環状体とし,更にフック母体の前記開閉体と対向する位置に,前記開口部を閉塞している開閉体を開放回動不能状態にロックする正面視で略「I」字状のロック体を設けている。
(3)親綱緊張具は,一枚の板材を平面視で「コ」字状に折曲形成することで,正面視で角部をR面取りした略方形状の側板部が前後に平行に対設するように構成し,この平行に対設する側板部間に,親綱を支承する親綱支承体と,この親綱支承体に親綱を圧接させるカム体とを対向状態に設けている。また,前後の側板部を連設する連設板部は,外方へ突出状態に設けて,この外方へ突出する連設板部が正面視で側板部の右辺部に突出状態に表出するように設け,更にこの連設板部の存する右辺部と対向する側板部の左辺部にも外方へ板状に突出する突出板部を設けている。
(4)自在継手は,帯板を平面視で略「コ」字形に折曲形成した二体の継手半体で構成すると共に,各継手半体の中間の板部分を背中合わせに軸着することで各継手半体の両端の対向板部が互いに逆向きに突設して,正面視で全体的に横長の細帯状となるように構成し,更に一方の継手半体の対向両端板部間(自在継手の一側端部)には,前記フックの基端部を配して軸着し,他方の継手半体の対向両端板部(自在継手の他側端部)は,前記親綱緊張具の端部の対設する側板部間に配して軸着している。

[3]イ号意匠の説明
イ号意匠は,意匠に係る物品が「フック付親綱緊張具」であり,その形態の要旨を次のとおりとする。
すなわち,
(1)基本的な構成態様は,全体が,親綱張設用支柱などに連結可能なフックと,親綱を固定可能な親綱緊張具と,このフックと親綱緊張具とを互いに回動自在且つ揺動自在に連結する自在継手とから成り,横長細帯状の自在継手の両端部に,横長環状のフックと,略方形状の親綱緊張具とが軸着されている。
具体的な構成態様は,
(2)フックは,正面視で略「C」字状のフック母体の開口部に,正面視で略「L」字状の開閉体が架設状態に設けられて環状とされ,更にフック母体の前記開閉体と対向する位置に,前記開口部を閉塞している開閉体を開放回動不能状態にロックする正面視で「I」字状のロック体が設けられている。また,フック母体の先端部には,外方へ板状に突出する突片が形成されている。
(3)親綱緊張具は,正面視で角部がR面取りされた略方形状の側板部が前後に平行に対設するように構成され,この平行に対設される側板部間に,親綱を支承する親綱支承体と,この親綱支承体に親綱を圧接させるカム体とが左右対向状態に設けられている。
(4)自在継手は,帯板が平面視で「コ」字形に折曲形成された二体の継手半体で構成されると共に,各継手半体の中間部の板部分が背中合わせに軸着されることで各継手半体の両端の対向板部が互いに逆向きに突設されて正面視で全体的に横長の細帯状となるように構成され,更に一方の継手半体の対向両端板部間には,前記フックの基端部が配されて軸着され,他方の継手半体の対向両端板部は,前記親綱緊張具の端部の対設する側板部間に配されて軸着されている。

[4]本件登録意匠とイ号意匠との比較説明
(1)両意匠の共通点
(A)両意匠は,意匠に係る物品が「フック付親綱緊張具」で一致している。
(B)両意匠は,自在継手の両端部に,フックと親綱緊張具とを軸着して成り,自在継手は正面視で横長細帯状を呈し,フックは正面視で横長環状を呈し,親綱緊張具は正面視で略方形状を呈している。
(C)両意匠のフックは,正面視で略「C」字状のフック母体の開口部に,正面視で略「L」字状の開閉体を架設状態に設け,フック母体の前記開閉体と対向する位置に,正面視で略「I」字状のロック体を設けている。
(D)両意匠の親綱緊張具は,正面視で角部をR面取りした略方形状の側板部を前後方向に対設し,この対設する側板部間に,親綱支承体とカム体とを左右対向状態に設けている。
(E)両意匠の自在継手は,平面視で「コ」字形に折曲形成された二体の継手半体の各々の中間の板部分を背中合わせに軸着することで,正面視で全体的に横長の細帯状となるように構成し,一方の継手半体の両端の対向板部間に,フックの基端部を配して軸着し,他方の継手半体の両端の対向板部を,親綱緊張具の対設する側板部間に配して軸着している。
(2)両意匠の差異点
(a)本件登録意匠のフック母体は,先端部の外縁部をストレート縁に形成しているのに対し,イ号意匠のフック母体は,先端部に外方へ板状に突出する突片が形成されている。
(b)本件登録意匠の親綱緊張具の側板部は,一枚の板材を「コ」字状に折曲することで前後に対設しているのに対し,イ号意匠の親綱緊張具の側板部は,二枚の板材が前後に対設されている。
(c)本件登録意匠の親綱緊張具は,正面視で略方形状の側板部の左右対向二辺部に外方へ突出する連設板部と突出板部を形成しているのに対し,イ号意匠の親綱緊張具は,側板部にこのような突出部がない。
(d)本件登録意匠の親綱緊張具は,正面視で側板部の左辺部を,前記突出板部の外縁部も含めてストレート辺に形成しているのに対し,イ号意匠の親綱緊張具は,正面視で側板部の左辺部がやや内向きに凹み湾曲する湾曲辺に形成され,更に,この左辺部の右端側に,対向する右辺部方向に小さく凹んだ凹部が形成されている。
(e)本件登録意匠の親綱緊張具は,正面視で側板部の上辺部を,ストレート辺に形成しているのに対し,イ号意匠の親綱緊張具は,正面視で側板部の上辺部がやや外向きに凸湾曲する湾曲辺に形成されている。
(f)本件登録意匠の自在継手における親綱緊張具側の継手半体は,正面視でほとんど親綱緊張具の側板部に隠れてしまう長さであるのに対し,イ号意匠の親綱緊張具側の継手半体は,本件登録意匠のそれより長く,約半分が正面視で親綱緊張具の側板部から露出する長さに形成されている。

[5]イ号意匠が本件登録意匠の範囲に属する理由の説明
(1)本件登録意匠の要部
この種物品における意匠上の創作の主たる対象は,フックと親綱緊張具と自在継手とから成る意匠全体の基調にある。
(2)本件登録意匠とイ号意匠との類否の考察
そこで,本件登録意匠とイ号意匠の共通点及び差異点を比較検討するに,
(ア)両意匠は,自在継手の両端部に,フックと親綱緊張具とを軸着した全体の構成態様が共通し,また,フックが正面視で横長環状を呈する点も,親綱緊張具が正面視で略方形状を呈する点も,自在継手が正面視で横長細帯状を呈している点も共通していることから,両意匠の全体を正面視した際の美感が著しく共通している。そして,この両意匠の共通感は,意匠の類否の判断に大きな影響を与えるものである。
更に,フックが,正面視で略「C」字状のフック母体の開口部に,正面視で略「L」字状を呈する開閉体を架設状態に設け,フック母体の開閉体と対向する位置に,正面視で「I」字状のロック体を設けている点も,親綱緊張具が,正面視で角部をR面取りした略方形状の側板部を前後方向に対設し,この対設する側板部間に,親綱支承体とカム体とを左右対向状態に設けている点も,自在継手が,正面視で「コ」字形に折曲形成された二体の継手半体の各々の中間の板部分を背中合わせに軸着し,一方の継手半体の両端の対向板部間に,フックの基端部を配して軸着し,他方の継手半体の両端の対向板部を,親綱緊張具の対設する側板部間に配して軸着している点も明らかに共通している。
(イ)両意匠の各差異点について
(a)については,イ号意匠の先端部の突片がさほど大きく突出していないために外観上で目立たず,よってこの差異点は看者の注意を惹くほど特別顕著な相違といえず,類否の判断に与える影響は微弱である。
(b)については,本件登録意匠は,連設板部を有するものの,側板部に比べると側板部間の対向間隔程度の面積しかないたいめに外観上で目立たず,よってこの差異点は看者の注意を惹くほど特別顕著な相違といえず,類否の判断に与える影響は微弱である。
(c)については,本件登録意匠は,正面視で側板部の対向二辺に連設板部と突出板部とが表出しているが,いずれも突出度は小さくとどまる上,連設板部の最外縁が側板部の左辺部と同調したストレート縁で,突出板部の最外縁も側板部の右辺部と同調するストレート縁であるから目立たって見えるほどの装飾とはならず,よってこの差異点は看者の注意を惹くほど特段顕著な相違といえず,類否の判断に与える影響は微弱である。
(d)については,イ号意匠は,側板部の左辺部が湾曲辺であるとはいえ,その湾曲度が非常に小さいためにストレート辺との差は微差であり,更に,凹部も左辺部の右端に小さくあるにすぎないために目立たず,よってこの差異点は特別顕著な相違といえず,類否の判断に与える影響は微弱である。
(e)については,イ号意匠は,側板部の上辺部が湾曲辺であるとはいえ,その湾曲度が非常に小さいためにストレート辺との差は微差であり,よってこの差異点は特別顕著な相違といえず,類否の判断に与える影響は微弱である。
(f)については,自在継手の長さが異なるだけでその違いも小さくとどまるために微差であり,類否の判断に与える影響は微弱である。
(ウ)この種物品に用いられるフック,自在継手,親綱緊張具は,いずれも構造自体は公知であり,その外形状も市場には様々なデザインのものが存在しているが,このように様々なものがある中で,どのようなデザインのフックと自在継手と親綱緊張具とを採用し,これらを連結一体化するかでフック付親綱緊張具のデザインは創作されるものである。
即ち,このようにフックと自在継手と親綱緊張具とから成るフック付親綱緊張具にあっては,たとえフックや自在継手自体の構造や外形状が公知であっても,これらを意匠の構成要素から全く省いて親綱緊張具だけの類否で意匠の類否を判断するのは妥当ではなく,あくまで全体意匠(フックと自在継手と親綱緊張具とによって構成される全体形状)をデザイン創作の要部とすべきである。
してみると,フックのデザインも,自在継手のデザインも,親綱緊張具のデザインも,全てが似通っている両意匠は創作性が共通する(フック,自在継手,親綱緊張具に様々なものが存在している中で,あえて本件登録意匠と似通った部品を選定しているイ号意匠は,全体から受ける美感が共通し,本件登録意匠と創作同一性の範囲にあり,互いに類似する意匠と確信する。)。
しかも,両意匠のフックは,フック母体の先端部に多少の違いがあるもののほとんど同一デザインであり,また両意匠の自在継手も,長さに多少の違いがあるもののほとんど同一デザインである。
更に,両意匠の親綱緊張具も,フックや自在継手ほど同一に近いデザインではなく,相違点はあるものの,正面視で略方形状であって下部が右斜め下方に延びたような独特な形態である点は互いに共通しているために,雰囲気は非常に良く似通っている。
従って,フックと自在継手とがほとんど同一デザインで,親綱緊張具も雰囲気が非常に似通っている両意匠は,全体の雰囲気が個々の部品同士を見比べた時以上に酷似しており,一目で両意匠の全体の美感は共通していると看取できるものであり,両意匠は創作同一性の範囲にあり,全体観察すれば明らかに類似している意匠である。また,両意匠を全体的に考察すると,上記したとおり両意匠の差異点が類否の判断に与える影響はいずれも微弱なものであって,共通点を凌駕しているものとはいえず,それらが纏まっても両意匠の類否に及ぼす影響は,その結論を左右するまでには至らないものである。

[6]答弁書に対する弁駁
被請求人は,親綱緊張具の左辺部に一方の側板部外縁から他方側板部の外縁に向かって相互に非接触に突出する対向突出板部の有無の違いや,親綱緊張具のピンの配置やリブ溝の有無の違いや,カム体に竪孔が設けられるか横溝が設けられるかの違いなどを更に主張しているが,これらの相違点も両意匠の全体観察においては微差にすぎず,類否の判断に与える影響は微弱である。
被請求人は,乙第1?8号証を掲げて,本件登録意匠とイ号意匠の共通点はありふれたものであると主張しているが,フックと自在継手と親綱緊張具とから成るフック付親綱緊張具にあっては,たとえフックや自在継手自体の構造や外形状が公知であっても,これらを意匠の構成要素から全く省いて親綱緊張具だけの類否で意匠の類否を判断するのは妥当ではなく,あくまで全体意匠をデザイン創作の要部とすべきである。尚,被請求人は,乙第7号証を掲げ,これと本件登録意匠とが非類似と判断された審査例を示しているが,請求人は,この審査判断には承服していない。この審査例は,フックのロック体と開閉体のわずかな形の違いが重視されて非類似と判断されたものと考えるが,請求人は,本件登録意匠と乙第7号証とは創作同一性の範囲にあるものと考えている。

2.被請求人の主張
被請求人は,「判定請求は成り立たない,との判定を求める」と答弁し,その理由として,要旨以下のとおり主張し,証拠方法として,乙第1号証ないし乙第8号証を提出した。
[1]本件登録意匠とイ号意匠の共通点について
本件登録意匠とイ号意匠を対比すると,次のような点で共通する。
(1)フック付き親綱緊張具であることの共通性
このような基本的構成は,例えば上述の乙第1号証?乙第5号証の先行各意匠にあるように,ありふれたものである。
(2)フックの構成態様の共通性
このフックの構成態様も先行意匠である乙第6号証の意匠に示されている他,例えば上述の乙第2号証?乙第5号証の先行各意匠にあるように,ありふれたものである。
(3)親綱緊張具の構成態様の共通性
この親綱緊張具の構成態様も先行意匠である,例えば上述の乙第2号証?乙第4号証の各意匠にあるように,ありふれたものである。
(4)自在継手の構成態様について
この自在継手の構成態様も先行意匠である,例えば上述の乙第1号証,乙第2号証及び乙第5号証の各意匠にあるように,ありふれたものである。

[2]本件登録意匠とイ号意匠の相違点について
本件登録意匠とイ号意匠を対比すると,次のような点で相違する。
(1)フック母体の開放先端部の構成態様の相違について
イ号意匠のフック母体の開放先端部に設けた最先端の突片は,上述の各先行意匠である乙第1号証?乙第6号証の先行各意匠にもない,イ号意匠特有のものである。
イ号意匠では,このフック母体の最先端に突片を設けることによって,フック母体を係合してはならない小径孔のフック係合対象物に,誤ってフック母体を係合してしまうことを防止することができる。そのために,フック母体の内周中心部がフック係合対象物に係合する正しい使用状態を常に保つことができ,安全性を確保することができる。
したがって,フック付き親綱緊張具の需要者である高所作業員は,安全性確保に関心が高いので,このフック母体の最先端に安全性確保のために突片を設けたイ号意匠の特有の形態は,印象深く強く注意を惹くものである。
(2)両側板部の連設等の相違について
本件登録意匠の連設板部や対向突出板部は,上述の乙第2号証?乙第4号証の各意匠にもない本件登録意匠に特有のものである。
これに対してイ号意匠は,上述の乙第2号証?乙第4号証の各意匠と同様に,対設する側板部として別個独立した二枚の板材を用いており,本件登録意匠に特有の構成態様である上述の連設板部や対向突出板部はない。
(3)側板部の外縁輪郭の相違について
本件登録意匠では側板部の左辺部を突出板部の外縁部を含めてストレート辺に形成し,上辺部をストレート辺に形成し,右辺部を前記連設板部の外縁部を含めてストレート辺に形成し,下辺部を僅かに下に凸の湾曲辺に形成しているのに対して,イ号意匠では,側板部の左辺部をやや内側に凹の湾曲辺に形成し,その上端に内側に凹の小湾部を設け,上辺部をやや外側に凸の湾曲辺に形成し,右辺部をストレート辺に形成し,下辺部を僅かに下に凸の湾曲辺に形成し,下辺部と左辺部の角部は略半円状に形成している。
(4)側板部における支軸,ピンの配置の相違並びにリブ溝の有無の相違について
本件登録意匠では側板部の左辺部と上辺部の角部にカム体を揺動自在に支持する支軸を設け,右辺部に親綱支承体を固定する2本の固定ピンを設け,下辺部と左辺部の角部に自在継手を回動自在に支持する連結ピンを設けているのに対して,イ号意匠では,側板部の左辺部には小湾部の下方に支軸を設けると共に,小湾部の上方にストッパピンを設け,右辺部に2本の固定ピンを設け,下辺部と左辺部との角部に連結ピンを設け,下辺部の外縁に沿って外に凸のリブ溝を設け,このリブ溝の左端にバネ端係止ピンを設けている。
(5)カム体の上面形態(親綱への圧接解除用の竪孔ないし横溝)の相違について
カム体の親綱への圧接を解除するものとして,本件登録意匠ではカム体の上面に押圧揺動用の竪孔を略上下方向に設けているのに対して,イ号意匠では,カム体の上面に押圧揺動用の横溝を横方向に設けている。
親綱を引き抜くためにカムを揺動させるに際して,本件登録意匠ではてこの原理を使用しないために,カムの竪孔を利用してシノー等の工具で強く押し込まなければならないのに対して,イ号意匠では,てこの原理を使用するために,カムの横溝やストッパピン等を利用してシノー等の工具で軽く押圧するだけでよいので,作業性に優れている。
したがって,フック付き親綱緊張具の需要者である高所作業員は,親綱を引き抜く等の作業性に関心が高いために,親綱を引き抜くに際して,てこの原理を使用して軽く作業し得るかどうかの相違をもたらす本件登録意匠とイ号意匠との上述の構成形態の相違は,印象深く強く注意を惹くものである。
(6)親綱緊張具側の継手半体の長さの相違について
親綱緊張具側の継手半体は,本件登録意匠では親綱緊張具の側板部にほぼ隠れているのに対して,イ号意匠では,親綱緊張具の側板部から露出している。

[3]本件登録意匠とイ号意匠との類否について
このように,イ号意匠は,本件登録意匠と共通点を有するが,その共通点はありふれた構成形態であるから,需要者である高所作業員の注意を惹くものではない。
これに対して,本件登録意匠とイ号意匠との上述の構成形態の相違は,需要者である高所作業員にとって印象深く強く注意を惹くものである。
したがって,全体として相違点が共通点を凌駕し,イ号意匠は本件登録意匠とは美感を異にするから,本件登録意匠と類似しない。

第3 当審の判断
1.本件登録意匠
本件登録意匠は,2000年5月19日に出願され,2001年3月30日に意匠権が設定登録された,意匠に係る物品が「フック付親綱緊張具」の意匠であり,その形態は願書の記載及び願書添付の図面の記載のとおりのものであって,以下のとおりである。
[1]本件登録意匠の基本的構成態様
本件登録意匠は,全体が,フック,親綱緊張具,及び自在継手から成り,横長細帯状の自在継手の両端部に,横長環状のフックと略長方形状の親綱緊張具とを軸着している。

[2]本件登録意匠の具体的構成態様
(1)フックは,正面視で略「し」字状のフック母体の開口部に,正面視で略「L」字状の開閉体を架設状態に設けて環状体とし,更にフック母体の前記開閉体と対向する位置に,開閉体を開放回動不能状態にロックする正面視で略「I」字状のロック体を設けている。そして,このフック母体自体の形状は,正面視で開放先端部を先端に向かって次第に細くなるテーパー状に形成しつつ,外縁を直線状にし,かつ,根もと(ロック体を取り付けている所)は,一定の厚さの平板状で,曲部から先端にかけては,内側の厚さを根もとの厚さの約2倍,外側の厚さを根もとの厚さの約2分の1にし,その断面形状は,頂角を角丸にし,底辺がわにわずかな縁を設けた,縦長の略二等辺三角形としたものである。
(2)親綱緊張具は,一枚の板材を平面視で「コ」字状に折り曲げ成形することで,正面視で角部をR面取りした略長方形状の側板部が前後に平行に対設するように構成し,この平行に対設する側板部間に,親綱を支承する親綱支承体と,この親綱支承体に親綱を圧接させるカム体とを対向状態に設けている。また,前後の側板部を連設する連設板部は,外方へ突出状態に設けて,この外方へ突出する連設板部が正面視で側板部の右辺部に突出状態に表出するように設け,更にこの連設板部の存する右辺部と対向する側板部の左辺部にも外方へ板状に突出する突出板部を設けているものである。
(3)自在継手は,帯板を折り曲げ成形で略「コ」字状にした継手半体を2つ,背中合わせに軸着して,正面視で横長細帯状となるように構成し,一端にはフックの基端部を軸着し,他端には親綱緊張具を軸着している。

2.イ号意匠
イ号意匠は,請求人が提出した「イ号写真」と「イ号図面」にあらわされた意匠である。
イ号意匠は,フック付親綱緊張具であって,その形態は以下のとおりである。
[1]イ号意匠の基本的構成態様
イ号意匠は,全体が,フック,親綱緊張具,及び自在継手から成り,横長細帯状の自在継手の両端部に,横長環状のフックと略四角形状の親綱緊張具とを軸着している。

[2]イ号意匠の具体的構成態様
(1)フックは,正面視で,略「し」字状のフック母体の開口部に,略「L」字状の開閉体を設けて環状体とし,更にフック母体の開閉体と対向する位置に略「I」字状のロック体を設けている。そして,このフック母体自体の形状は,全体が平板状で,開放先端部を先端に向かって次第に細くなるテーパー状に形成しつつ,外縁の最先端部に略半円状に突出する板状突片を形成している。
(2)親綱緊張具は,正面視で角部がR面取りされた略四角形状の側板部を前後に平行に対設するように構成し,この平行に対設する側板部間に,親綱を支承する親綱支承体と,この親綱支承体に親綱を圧接させるカム体とを対向状態に設けている。
(3)自在継手は,帯板を折り曲げ成形で略「コ」字状にした継手半体を2つ,背中合わせに軸着して,正面視で横長細帯状となるように構成し,一端にはフックの基端部を軸着し,他端には親綱緊張具を軸着している。

3.対比
両意匠は,意匠に係る物品が,「フック付親綱緊張具」であって一致し,形態においては,主として以下の共通点と相違点がある。
(1)両意匠の共通点
(A)両意匠は,全体が,横長細帯状の自在継手の一端に,横長環状のフックを,他端に略四角形状(略長方形状を含む。)の親綱緊張具を軸着した点で基本的な構成態様が共通し,具体的な構成態様として,
(B)フックは,フック母体が,正面視で,略「し」字状であって,先端に向かって次第に細くなるテーパー状に形成し,そのフック母体の開口部に,略「L」字状の開閉体を設けて環状体とし,更にフック母体の開閉体と対向する位置に略「I」字状のロック体を設けている。
(C)親綱緊張具は,(C-1)正面視で角部をR面取りした略四角形状の側板部を前後方向に対設し,(C-2)この対設する側板部間に,親綱支承体とカム体とを左右対向状態に設けている。
(D)自在継手は,帯板を折り曲げ成形で略「コ」字状にした継手半体を2つ,背中合わせに軸着して,正面視で横長細帯状となるように構成し,一端にはフックの基端部を軸着し,他端には親綱緊張具を軸着している。
(2)両意匠の相違点
(a)フック母体の形状につき,本件登録意匠は,根もとは,一定の厚さの平板状で,曲部から先端にかけては,内縁部の厚さを根もとの厚さの約2倍,外縁部の厚さを根もとの厚さの約2分の1にし,その断面形状は,頂角を角丸にし,底辺がわにわずかな縁を設けた,縦長の略二等辺三角形としたものであると共に,正面視で,先端部の外緑部をストレート縁に形成しているのに対し,イ号意匠は,全体が平板状で,先端部の外縁に略半円状に突出する板状突片を形成している。
(b)親綱緊張具につき,本件登録意匠は,一枚の板材を「コ」字状に折り曲げることで側板部が前後に対設しているのに対し,イ号意匠は,二枚の板材を前後に対設している。
(c)親綱緊張具側板部の正面視による略四角形状につき,本件登録意匠は,四つの辺部の長さを,長い順に下,上,左,右辺部とし,左辺部を上辺部よりもやや短くして,左辺部と上辺部による頂部角の位置が側板部中央やや左寄りとし,左辺,右辺と上辺部をストレート辺にし,下辺をわずかに突出湾曲辺に形成して,上辺部と右辺部とでなす角を略直角(正確には鋭角)とし,対角の左辺部と下辺部とでなす角を鋭角とし,その他の角を鈍角として,各角部を角丸とした,平行四辺形状あるいは台形状に近い略長方形状,と言えるものであるのに対し,イ号意匠は,四つの辺部の長さを,長い順に下,左,上,右辺部とし,左辺部を上辺部よりも長くして,左辺部と上辺部による頂部角の位置が側板部中央やや右寄りとしたものであり,短い右辺部のみがストレート辺で,その他の各辺はいずれも,凸湾曲と凹湾曲が入り交じった曲線によるものであって,各角部は角丸で,特に左辺部右端の小凹湾曲部と,上辺部と右辺部とでなす角を鈍角とし,下辺部と左辺部とでなす角は下辺部から突出した半円形状が形成されているために,辛うじて略四角形状の原形をとどめているものの,略長方形状とは言えない,大きくゆがんだいわば変形四角形状というべきものである。
その上で,本件登録意匠は,略長方形状の左右対向二辺部に外方へ突出する連設板部と突出部を形成しているのに対し,イ号意匠は,両突出部が無い形状である。
(d)自在継手につき,正面視で,本件登録意匠は,親綱緊張具側の継手半体がほとんど親綱緊張具の側板部に隠れてしまう長さであるのに対し,イ号意匠は,親綱緊張具側の継手半体が本件登録意匠のそれより長く,継手半体の約半分が親綱緊張具の側板部から露出する長さに形成している。

4.類否判断
本件登録意匠は,フックと親綱緊張具を自在継手を介して連結して成るフック付き親綱緊張具であることを基本的な構成態様とし,具体的な構成態様として,フックの正面視形状については,略「し」字状のフック母体の開口部に,略「L」字状の開閉体を設けて環状とし,フック母体の開閉体と対向する位置に,略「I」字状のロック体を設け,親綱緊張具については,正面視で角部をR面取りした略長方形状の側板部を前後に平行に対設するように構成し,この平行に対設する側板部間に,親綱支承体とカム体とを対向状態に設け,自在継手については,帯板を折り曲げ成形で略「コ」字状にした継手半体を2つ,背中合わせに軸着して,正面視で横長細帯状となるように構成し,一端にはフックの基端部を軸着し,他端には親綱緊張具を軸着して成り立っている。
しかし,これらの基本的な構成態様を始め,フック,親綱緊張具,及び自在継手の構成態様は,本件登録意匠の出願前から公知の態様である。
そうであるならば,本件登録意匠の特徴は,各部位における,前記以上に具体的な態様にあると見るのが相当である。
以上を前提に,上記の共通点と相違点について総合的に検討するに,共通点(C-1)を除く(A)ないし(D)については,それぞれの態様が,又は,それぞれの態様を組合せた態様が,本件登録意匠の出願前から公知であって,本件登録意匠とイ号意匠のみの特徴とは言えず,看者の注意を強く引くことはないから,両意匠の類否判断に及ぼす影響は限定的である,と言うことができる。
そして,共通点(C-1)については,おおむね略四角形状という認定ができるが,具体的な形状としては,相違点(c)で挙げたとおりの点があるので,その検討をもって判断する。
相違点については,以下のとおりである。
(a)の点につては,使用者がフック係合対象物にフックを係合する場合において目に付く部分であり,手に持って作業するものであることから,あらゆる角度から観察し得る部分であり,この部分の形状は,全体を立体的に即座に認識するものであって,正面視のみで(B)の共通点があったとしても,断面形状を始め立体的には全く異なる形状であって,作業者である看者に異なる印象を与えると認められ,わずかな相違とは言えないものであり,類否判断に及ぼす影響は大きいと考えられる。
(b)の点については,底面がわ又は右側面がわから見て初めて分かる相違と認められ,類否判断に及ぼす影響は大きいとは言えない。
(c)の点については,正面視において,親綱緊張具側板部の基本をなす形状からして異なる印象を生じさせ,類否判断に大きな影響を与えると言えるが,具体的な相違点も含めて,親綱をつなぎ止める作業において目にする部分の相違点であって,類否判断に及ぼす影響は大きいものと言える。
(d)の点については,この部分のみを比較すると,大した違いには感じられないと考えられるが,イ号意匠において,親綱緊張具連結ピンを少し突出した位置に設けた事と,側板部の左辺部を長くして頂部角の位置をやや右寄りにした点と,左辺部をなだらかなへこみ曲線として自在継手の細帯状上辺からつながるようにした事との相乗効果によって,イ号意匠の方が連結部が長いように見受けられる点で,類否判断に及ぼす影響がある,と言える。
以上のとおりであって,両意匠は,意匠に係る物品が一致し,その形態については,両意匠の共通点及び相違点の視覚的効果を総合的に判断すると,相違点の意匠全体が起こさせる美感に与える影響は大きく,両意匠は類似しないものと言わざるを得ない。

5.むすび
したがって,イ号意匠は,本件登録意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属しない。
よって,結論のとおり判定する。
別掲
判定日 2011-03-25 
出願番号 意願2000-13299(D2000-13299) 
審決分類 D 1 2・ 1- ZB (J6)
最終処分 不成立 
前審関与審査官 早川 治子佐々木 朝康 
特許庁審判長 関口 剛
特許庁審判官 橘 崇生
樋田 敏恵
登録日 2001-03-30 
登録番号 意匠登録第1110606号(D1110606) 
代理人 吉井 雅栄 
代理人 東尾 正博 
代理人 田川 孝由 
代理人 吉井 剛 
代理人 鎌田 文二 
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