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審決分類 審判 判定  同一・類似 属する(申立成立) H1
管理番号 1241308 
判定請求番号 判定2010-600023
総通号数 141 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 意匠判定公報 
発行日 2011-09-30 
種別 判定 
判定請求日 2010-05-06 
確定日 2011-03-17 
意匠に係る物品 押しボタンスイッチ 
事件の表示 上記当事者間の登録第1199401号の判定請求事件について,次のとおり判定する。 
結論 イ号図面ならびにその説明書に示す「押しボタンスイッチ PS011-N11TAA」の意匠は,登録第1199401号意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属する。
理由 第1.請求人の申立及び理由

本件判定請求人(以下,「請求人」という。)は,請求の趣旨を,イ号図面ならびにその説明書に示す「押しボタンスイッチ PS011-N11TAA」の意匠(以下,「イ号意匠」という。)は,登録第1199401号意匠の範囲に属する,との判定を求めると申し立て,その理由として,要旨以下のとおり主張し,証拠方法として,甲第1号証ないし甲第5証(注:「甲第1号証」は,「甲1」と記し,その他も同様とする。以下,同じ。),及び,イ号の現物(検証物)を提出した。

1.判定請求の必要性
請求人は,本件判定請求に係る登録意匠「押しボタンスイッチ」(以下「本件登録意匠」という。)の意匠権者である。
本件判定被請求人(以下,「被請求人」という。)がイ号図面ならびに説明書(甲2)で示す「イ号意匠」の「押しボタンスイッチ PSO11-N1TAA」(イ号物件)を日本国内における展示会への出品及びユーザヘの拡販活動を行っていることを確認した。
そこで,請求人は,被請求人に対し,日本国内におけるイ号物件の販売及び拡販活動の自粛を求めるための証拠とするため,特許庁による厳正中立的な立場から判定を求めるものである。

2.本件登録意匠とイ号意匠との比較説明
(1)両意匠の共通点
(a)意匠に係る物品が「押しボタンスイッチ」で一致している。
(b)基本的な構成態様において,四角形状のケースに,ボタンが嵌合されたプランジャがケース内に上下動自在に配設されるとともに,カバーがケースに嵌合され,スイッチ本体から操作部が突出している。
(c)具体的な構成態様において,ケースは,内部にスイッチ素子,発光素子及びバネを備えるための空洞部を有する四角形状とし,側面には,凹部と,その凹部には凸部が形成され,底面には,プリント基板に固定するための突起とスイッチ素子及び発光素子の端子が突出している。プランジャは,略四角筒状とし,カバーは,ケースの開口した上端部を囲う四角形状の枠体とし,対向する二辺に垂下片が形成されるとともに垂下片の下方に角孔が形成されている。ボタンは,四角形状で上面中央部に円形の凹部を形成するとともに四隅を曲線で形成され,外形はプランジャの外形と同寸法としている。カバーがケースに被されてケース側面の凸部とカバーの垂下片の角孔が嵌合された時,垂下片はケース側面の凹部に嵌って一平面上に配設される。
(2)両意匠の差異点
(a)カバーの垂下片が形成されていない二辺において,本件登録意匠は凹部が形成されていないのに対して,イ号意匠は,凹部が形成されている。
(b)ケースの底面において,本件登録意匠は,発光素子の底面部分がケース底面から露出しているのに対して,イ号意匠は,発光素子の端子のみが突出している。

3.イ号意匠が本件登録意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属する理由の説明
(1)本件登録意匠の要部
先行周辺意匠をもとに,本件登録意匠の創作の要点について述べれば,プリント基板に実装するために設計された押しボタンスイッチにおける意匠上の創作の主たる対象は,ボタンの形状だけでなく,ケース及びカバーからなるスイッチ本体とボタン及びプランジャからなる操作部を含めた全体的な構成態様にあることは明らかで,本件登録意匠については,公知資料には見られないカバーの垂下片に形成された角孔とケース側面の凹部に形成された凸部の嵌合によって構成されるスイッチ本体の態様及び上面中央部に円形の凹部を形成するとともに四隅を曲線で形成された四角形状のボタンの態様によって,本件登録意匠全体の基調を表出している。
(2)本件登録意匠とイ号意匠との類否の考察
そこで,本件登録意匠とイ号意匠の共通点及び差異点を比較検討するに,
(a)両意匠の共通点は,具体的な構成態様に係るものであり,特に,本件登録意匠の要部であるカバーの垂下片に形成された角孔とケース側面の凹部に形成された凸部の嵌合によって構成されるスイッチ本体の態様,及び上面中央部に円形の凹部を形成するとともに四隅を曲線で形成された四角形状のボタンの態様が共通しており,両意匠の類否の判断に大きな影響を与えるものである。
(b)両意匠の差異点aについては,部品成形加工上で必要な形状であって,凹部の寸法はスイッチ全体の寸法に対して僅かなものであることから,特段顕著な相違とは言えず,類否の判断に与える影響は小さい。
差異点bについては,発光素子をケースの底面側から配設しているため,発光素子の底面部分がケースの底面から露出しているが,プリント基板に実装した後には視認できる部分ではなく,本件登録意匠の要部ではないことから,この点においても特段顕著な相違とは言えず,類否の判断に与える影響は小さい。
(c)以上の認定,判断を前提として両意匠を全体的に考察すると,両意匠の差異点は,類否の判断に与える影響はいずれも小さいものであって,共通点を凌駕しているものとは言えず,それらが纏まっても両意匠の類否の判断に与える影響は,その結論を左右するまでには至らないものである。

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(請求人が提出した証拠)
・甲1 意匠登録第1199401号の意匠登録原簿

・甲2 イ号図面ならびに説明書("PS011 SERIES LED PUSH BUTTON SWITCH" 取得日:2010.3.24 アドレス:http://www.wellbuying.com.tw/pdf/ps011.pdf)
(趣旨)イ号意匠が,本件判定被請求人に係るものである,との証明に関するもの(本件判定被請求人のホームページ等で掲載されているイ号図面ならびに説明書)

・甲3 本件登録意匠(意匠登録第1199401号)「押しボタンスイッチ」の形態の要旨

・甲4 「PS011-N11TAA」の形態の要旨と意匠登録第1199401号との比較
(趣旨)イ号意匠の形態の要旨について,本件判定請求人がまとめたもの

・甲5 公知資料 刊行物名「Nihon Kaiheiki 総合力タロダ 2003」 日本開閉器工業株式会社 平成14年12月発行 第458頁所載 照光式押ボタンスイッチ
(趣旨)本件登録意匠の先行周辺意匠に関するもの

・イ号の現物(PS011-N11TAA)(別紙第3参照)

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第2.被請求人の答弁

被請求人は,答弁書を提出していない。



第3.当審の判断

1.本件登録意匠
本件登録意匠は,意匠公報,意匠登録原簿,出願書類によれば,2003年(平成15年) 8月25日の出願に係り,2004年(平成16年) 1月23日に意匠権の設定の登録がなされたものであって,意匠に係る物品を「押しボタンスイッチ」とし,その形態は,願書の記載及び願書に添付した図面に表されたとおりとしたものである(別紙第1参照)。

2.イ号意匠
イ号意匠は,請求人が提出した甲2,すなわち,本件判定被請求人のホームページ等で掲載されているイ号図面ならびに説明書である電子カタログ"PS011 SERIES LED PUSH BUTTON SWITCH"(掲載URL:http://www.wellbuying.com.tw/pdf/ps011.pdf)の第2頁上欄に記載された品番を「PS011-N11TAA」とする「押しボタンスイッチ」(同カタログ上の表記は,"LED PUSH SWITCH")の意匠であって,その形態は,同カタログの図版に現されたとおりのものである。(別紙第2参照)

(なお,本件登録意匠とイ号意匠の対比のため,本件登録意匠の出願図面における斜視図,正面図の向きを右に90度回転させ,他の図もそれに合わせることとし,イ号意匠の正面,左側面等の向きも本願意匠に合わせるものとする。)

3.本件登録意匠とイ号意匠の対比検討
本件登録意匠とイ号意匠を対比すると,両意匠は,意匠に係る物品が,いずれも,ボタンを照光させる発光ダイオードと機器の電路を開閉する機構を内蔵した「押しボタンスイッチ」であって,一致し,その形態については,主として以下に示す共通点及び相違点がある。

(1)共通点
(A)基本的構成態様について,
(A-1)全体形状を,平面視正方形の略直方体形状とし,
(A-2)略矩形板状の「ボタン」,及び,その下部に平面視同形同大に形成・接合された扁平な四角柱状の「プランジャ」によって構成された,略立方体形状の『操作部』が,「ケース」,並びに,該ケースの底面に配設された「突起状脚」及び各種の「端子」で構成される略立方体形状の『スイッチ本体部』の上に,扁平な略四角錐台形状の外観をなす『カバー』を介して,突設された態様のものである点,
(A-3)操作部において,ボタンとプランジャの横幅は同じで,操作部全体としての横幅は,スイッチ本体部の横幅よりもやや小さいものである点,
(A-4)ケース内部には,発光素子である「発光ダイオード(LED)」と電路を開閉する機構などが内蔵されているものである点。

(B)各部の具体的構成態様について,
(B-1)操作部は,ボタンが,頂面の大半に平面視円形状の浅い球面状の凹部が形成され,頂面の四辺部を丸面状としたものであり,プランジャは,ケース内部に陥合していて扁平な四角柱状の部分のみが表出しているものである点,
(B-2)ケースは,左右両側面の縦中央に形成された浅い断面視倒「コ」字状「溝部」に,側面視略「T」字状に形成された「垂下片」が係合しているものであり,垂下片の下端は,ケース(溝部)の底辺に達しておらず,倒「コ」字状溝部の下辺は,側面視横長な「凹部」として表出しているものであって,垂下片の下方部には横長矩形状の「係止孔」及び「係止爪」が形成されており,略「T」字状の垂下片の「左右両腕部」は,正面及び背面も同様に延設状に形成されているものである点,
(B-3)ケース底面の四隅には,薄板状の「台部」に細長な略円柱状の脚が突設され,底面視中央には,縦1列に3つの発光素子用の長めの端子が,底面視右辺周辺には,縦1列に2つの電路開開閉用の端子が,それぞれ配設されているものである点。

(2)相違点
(ア)ケースの具体的態様について,イ号意匠は,正面及び背面の左右両腕部の中央部に横長な凹部が形成されているのに対して,本件登録意匠は,そのようなものがない点,
(イ)ケース底面の具体的態様について,本件登録意匠は,台部が,底面視略「L」字状をなしているのに対して,イ号意匠は,底面視扇状である点,また,本件登録意匠は,発光素子の3つの端子が底面視略縦長矩形状の凹部で囲まれているのに対して,イ号意匠は,発光素子の端子を囲む凹部はないものである点,さらに,本件登録意匠は,底面視左辺周辺に,横長矩形状部が,縦1列に2つ配設されているのに対して,イ号意匠は,そのようなものが配設されていない点,(なお,前項(2.)のなお書きに従い,甲2の第2頁上欄の右側に記載された底面図,"BOTTOM VIEW"は,右に90度回転して表示されているものとする。)
(ウ)色彩について,イ号意匠は,ボタンが透明,プランジャが黒色であるのに対して,本件登録意匠は,形状のみで,色彩の特定がないものである点。

3.本件登録意匠とイ号意匠の類否判断
以上の一致点,共通点及び相違点が両意匠の類否判断に及ぼす影響を評価・総合して,両意匠の類否を意匠全体として検討し,判断する。

両意匠は,意匠に係る物品が一致し,形態についても,共通点(A)及び同(B)に掲げた各共通点は,押しボタンスイッチとしての形態全体にわたり酷似するものであり,かつ,形態全体の骨格をなす態様であって,両意匠の形態の基調を形成するものである。とりわけ,共通点(A-2)の操作部のボタンとプランジャが平面視同形同大に形成・接合されている点,及び,共通点(B-2)の略「T」字状の垂下片等の態様は,両意匠にのみ特徴的なものであって,これら共通点全体が相まった態様は,見る者に対して,共通の印象を強く与えるものであり,両意匠の類否判断に及ぼす影響は支配的であるという他ない。

これに対して,相違点(ア)は,ケースのごく一部の比較的に目に付きにくい部位に係るものであって,これが両意匠の類否判断に及ぼす影響は,微弱という他ない。
相違点(イ)のケース底面の台部の形状の相違,また,ケース底面の発光素子の端子周辺の態様等の相違は,非常に目に付きにくい部位に係るものであるともに,底面視して初めて気が付く程度のものであるから,相違点としては微差であり,これらの相違点が両意匠の類否判断に及ぼす影響はほとんどない。
相違点(ウ)も,イ号意匠の色彩は,意匠を実施する際に,素材を選択した結果,通常想定される範囲内にあるものであって,両意匠の類否判断に及ぼす影響は微弱という他ない。

そして,相違点が相まって生じる意匠的効果を考慮したとしても,前記共通点が与える共通の印象を覆して,両意匠の類否判断を左右するほどではない。


したがって,本件登録意匠とイ号意匠とは,意匠に係る物品が一致し,その形態においても,両意匠の相違点が類否判断に及ぼす影響はいずれも微弱なものと判断せざるを得ず,それらが相まった意匠的効果を考慮しても,共通点が形成する強い共通の印象を覆して,別異の意匠を形成するまでのものとは言うことができず,両意匠においては,共通点の類否判断に及ぼす影響が相違点のそれを凌駕し,両意匠は,意匠全体として類似する。

4.むすび
以上のとおりであって,イ号意匠は,本件登録意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属する。

よって,結論のとおり判定する。
別掲
判定日 2011-03-08 
出願番号 意願2003-24360(D2003-24360) 
審決分類 D 1 2・ 1- YA (H1)
最終処分 成立  
特許庁審判長 瓜本 忠夫
特許庁審判官 杉山 太一
太田 茂雄
登録日 2004-01-23 
登録番号 意匠登録第1199401号(D1199401) 

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