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審決分類 審判 判定  同一・類似 属さない(申立不成立) K3
管理番号 1251557 
判定請求番号 判定2011-600025
総通号数 147 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 意匠判定公報 
発行日 2012-03-30 
種別 判定 
判定請求日 2011-05-31 
確定日 2012-02-17 
意匠に係る物品 除草鍬用鍬板 
事件の表示 上記当事者間の登録第1008670号の判定請求事件について,次のとおり判定する。 
結論 イ号写真及びイ号説明書に示す「除草鍬用鍬板」の意匠は,登録第1008670号意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属しない。
理由 第1 請求の趣旨及び理由
1.請求の趣旨
イ号写真及びイ号説明書に示す意匠は,意匠登録第1008670号及びこれに類似する範囲に含まれる,との判定を求める。

2.請求の理由
(1)判定請求の必要性
請求人は,同人所有の意匠登録第1008670号に係る意匠(以下,「本件意匠」という。)に係る鍬を「ウェーブホー」と称して製造・販売している。この名称は,鍬の板部が側方からみて波状に形成されることから付けられたものである。
一方,被請求人は,イ号写真及びイ号説明書に示す意匠(以下,「イ号意匠」という。)に係る物品を製造・販売している。当該物品の販売時には柄が取り付けられ,当該柄には図形とともに「BONSAI」の商標が付されている。また,被請求人のホームページは,同じ図形とともに「BONSAI」の商標が付され,シャークホーが記載されている。そのため,イ号意匠に係る商品は被請求人の製造・販売によるものである。このイ号意匠に係る商品も鍬の板部が側方から見て波状に形成され,請求人の商品との混同が生じている。
そこで,被請求人の行為が本件意匠を侵害することを確認するため,本件判定を求める。
(2)本件意匠とイ号意匠との対比説明
あ)意匠に係る物品
両意匠とも,柄を取り付けて除草鍬にするための除草鍬用鍬板であり,用途,機能が共通する。よって,意匠に係る物品は同一である。
い)形態
(ア)一致点
両意匠の形態は,以下の点で一致する。
(i)鍬板は,板部と,板部の表面から突出する柄取付部とを有する。
(ii)板部は,相対する2つの長辺と短辺とからなる二等辺三角形状である。
(iii)板部の相対する2つの長辺の接点から,板部の中央にそって短辺までを中央線で折曲させて2つの長辺までを傾斜させている。
(iv)板部の長辺の側縁部には斜め下方に傾斜する凹凸を板部に形成し,側縁を板厚に対して斜め方向に切除することによって,側面から見て凹凸に対応して波状となる波状歯を形成している。
(イ)相違点
両意匠は,以下の点で相違する。
(v)波状歯は,本件意匠が相対する2つの長辺のいずれにも形成されるのに対し,イ号意匠が長辺の一方に形成され,もう一方は通常の刃が形成される。
(vi)柄取付部は,本件意匠が平板状の部材のみからなるが,イ号意匠の柄取付部が屈曲した円筒状部材に連続して平板状部材である。
(vii)中央線から長辺までの傾斜は,本件意匠は約20度であるのに対し,イ号意匠は約25度である。
(viii)短辺と長辺の長さの比率は,本件意匠は概ね1:8であるのに対し,イ号意匠は概ね1:1.9である。
(ix)短辺は本件意匠が歯を形成していないのに対し,イ号意匠は櫛歯状に形成した櫛歯が形成される。
(x)波状歯は,本件意匠の正面側に丸みのある凸部と凹部を形成して凹凸とするのに対し,イ号意匠の正面側が全体的に丸みのある凸部を形成して凹凸とする。
(3)イ号意匠が本件意匠及びこれに類似する範囲に含まれるとする理由
(ア)意匠の要部
本件意匠の基本的構成態様のうち,鍬板の板部に柄取付部があること(A),板部は2つの長辺と短辺とからなる二等辺三角形状であること(B),板部は2つの長辺の接点から板部の中央にそって短辺までにかける中央線を頂点として2つの長辺までを傾斜していること(C),は,先行公知意匠(a)に示されており,先行意匠にない新規な創作部分とはいえない。
そこで,本件意匠は,板部の長辺の側縁部には斜め下方に傾斜する凹凸を板部に形成し,側縁を板厚に対して斜め方向に切除することによって,側面から見て凹凸に対応して波状となる波状歯を形成することが,本件意匠の要部である(D)。
この形状は先行公知意匠にない斬新な刃の形状である。これは,後願意匠の拒絶査定において,その基本形状,基本的構成態様が共通していて,この共通点は意匠の骨格として見る者に強い印象を与えます,と記載されていることからも,示されるものである。
よって,本件意匠の要部は基本的構成態様(D)であり,これはイ号意匠と共通するので,両意匠が要部において構成要件を共通にするといえる。
(イ)本件意匠とイ号意匠との相違点について
上記のとおり,本件意匠の要部はイ号意匠にも存在するが,本件意匠とイ号意匠とは相違点(v)?(ix)があるため,全体として美感を共通にするかどうかについて述べる。
かかる相違点のうち,中央線から長辺までの傾斜(vii),短辺と長辺の長さの比率(viii)は,先行公知意匠(a)?(f)において様々な傾斜角,比率により形成されているので,これらの違いにより本件意匠とイ号意匠に美感を異なる印象を持つとは考え難い。
また,柄取付部が屈曲した円筒状部材に連続して平板状部材が形成されることも(vi),先行公知意匠(e)に示されたものであるため,需要者が顕著な相違と認識するものではない。
また,先行公知意匠(e)は短辺に刃があり,先行公知意匠(f)には短辺に櫛歯が形成されているので,短辺を櫛歯にすることも(ix),需要者が顕著な相違として認識するものではない。
そのうえ,相対する2つの長辺を異なる刃とすることは(v),先行公知意匠(b),(c),及び(d)に示すように公知なものであって,需要者が顕著な相違として認識するものではない。また,イ号意匠の波状歯は正面側に丸みのある凸部が形成されるが(x),本件意匠の正面側にも丸みのある凸部が形成され,両者とも凹凸が形成されるので,正面側に凹部がないとしても,需要者に格別の美感の相違をもたらさない。
よって,イ号意匠は本件意匠の要部を構成要件に有し,その相違点も需要者に美感が異なるものと印象付けるものではないので,両意匠が全体として美感を共通にすると評価できる。
したがって,イ号意匠は,本件意匠の類似する範囲にある。
(4)むすび
したがって,イ号意匠は,本件意匠及びこれに類似する意匠の範囲に含まれるので,請求の趣旨どおりの判定を求める。

3.請求人が提出した添付資料
(1) 甲第1号証 意匠登録第1008670号公報
(2) 甲第2号証 被請求人商品の写真(柄の拡大写真)
(3) 甲第3号証 被請求人のホームページ
(4) 甲第4号証 意匠登録第453886号公報
(5) 甲第5号証 意匠登録第455866号公報
(6) 甲第6号証 意匠登録第857785号公報
(7) 甲第7号証 意匠登録第167941の類似の1号公報
(8) 甲第8号証 意匠公報第400438号公報
(9) 甲第9号証 意匠公報第61021号公報
(10)甲第10号証 意願2004-033259号に係る出願書類
(11)甲第11号証 平成17年6月9日を起案日とする拒絶理由通知書
(12)甲第12号証 平成17年6月30日を起案日とする拒絶査定書

第2 被請求人の答弁の趣旨及び理由
1.答弁の趣旨
イ号写真及びイ号説明書に示す意匠は,意匠登録第1008670号意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属しない,との判定を求める。

2.請求の理由に対する答弁の理由
(1)目録対案について
請求人提出のイ号説明書の「(1)基本的構成態様」は,後述する通り,イ号意匠の部分的な形態を含み,誤った記載となっている。
また,請求人が記載した両意匠の態様以外にも,類否判断に影響を与える態様が存在し,これらの態様についても記載されなければならない。
更に,請求人がイ号意匠の波状歯と称する部分は波状とはいえず,誤解を招きかねない表現となっている。
よって,イ号説明書は,請求人のイ号説明書に示される通りではなく,別紙1に示すとおりとされるべきである。また,以下では被請求人の説明に基づき述べる。
(2)本件登録意匠の要部
まず,本件登録意匠の要部について検討する。
あ)除草鍬用鍬板の性質,用途,使用状態等
除草鍬用鍬板は,柄に取り付けられて,畑などの耕作地において,除草作業及び耕作作業に用いられる実用品である。
そして,需要者は,除草鍬用鍬板を使用する際,それぞれの刃部を用いて作業を行う。したがって,除草鍬用鍬板の性質,用途,使用状態等に基づいて判断すると,需要者は,除草鍬用鍬板に形成されている刃部及び櫛歯の組合せ,及び,刃部の具体的な形状にも注目すると考えられる。
そして,柄取付部は,使用時に強い力が加わる部分であり,頑丈さが求められる部分であり,柄取付部の形状にも注目すると考えられる。
い)検討
前記あ)で検討したとおり,除草鍬用鍬板の性質,用途,使用状態等に基づいて本意匠の要部を判断すると,刃部及び櫛歯の組合せ,刃部の具体的な形状,及び柄取付部の形状に注目すると考えられる。
そして,公知意匠によると,板部及び柄取付部に係る基本的構成態様は,ありふれた態様であったといえる。しかし,除草鍬用鍬板に形成されている刃部及び櫛歯の組合せには,様々なものがあり,少なくとも,本件意匠は,相対する2つの長辺の両方に凹部と凸部が連続する刃部が形成され,短辺が直線状に形成されているという形状を有しているところ,この形状は,公知意匠において見当たらない。
したがって,相対する2つの長辺の両方に凹部と凸部が連続する刃部が形成され,短辺が直線状に形成されているという刃部及び櫛歯の組合せ形状が,需要者の注意を惹く部分であると認められる。
また,公知意匠によると,凹部と凸部が連続する刃部はありふれた態様であったといえるが,略円弧状の凸部と略円弧状の凹部が連続する波状刃が接点から底角近傍に亘って形成されている形状は,公知意匠において見当たらない。
更に,公知意匠によると,その何れも平板状部材は,円筒状部材を介して板部と接続されており,平板状部材が直接板部に取り付けられている形状は,公知意匠において見当たらない。
以上より,本件意匠の要部は,「相対する2つの長辺の両方に凹部と凸部が連続する刃部が形成され,短辺が直線状に形成されているという刃部及び櫛歯の組合せ形状」,「略円弧状の凸部と略円弧状の凹部が連続する波状刃の具体的な形状」,及び「柄取付部の平板状部材が直接板部に取り付けられている具体的な形状」にある。
(3)本件意匠とイ号意匠との対比
本件意匠に係る物品は,「除草用鍬用鍬板」であり,イ号意匠に係る物品も同様のものであり,用途,機能において共通する。そして,これらの態様における共通点及び差異点は以下の通りである。
あ)基本的構成態様
前記のとおり,両意匠の基本的構成態様は共通する。
い)具体的態様
(ア)板部の態様
a 全体の態様
(差異点)
本件意匠は,短辺と長辺の長さの比率が,概ね1:1.8である。
これに対し,イ号意匠は,短辺と長辺の長さの比率が,概ね1:1.9であり,本件意匠よりも長辺が長く形成されている。
また,本件意匠は,平面視における,板部の中央線から両長辺にかけての傾斜角度が約20度である。
これに対し,イ号意匠は,平面視における,板部の中央線から両長辺にかけての傾斜角度が約25度であり,本件意匠よりも傾斜角度が大きく形成されている。
b 正面視右側の長辺の態様
(共通点)
両意匠は,刃部が斜め下方に傾斜して形成されている。
(差異点)
本件意匠は,側面視において,略円弧状の凸部と略円弧状の凹部が連続するように形成された刃部(波状刃)が接点から底角近傍に亘って形成されている。そして,正面視において,この波状刃は,略円弧状の凸部と略円弧状の凹部が連続する波状に形成され,接点と底角を結ぶ緩やかな円弧状の線上に位置している。そして,底角部には,直線状の刃部が形成されている。
これに対し,イ号意匠は,側面視において,略V字状の凸部と略V字状の凹部が連続するように形成された刃部(シャーク刃)が接点近傍から底角近傍に亘って形成されている。そして,正面視において,このシャーク刃は,略U字状の凸部と略V字状の凹部が連続する鮫歯状に形成され,接点と底角を結ぶ緩やかな円弧状の線から突出して位置している。そして,接点部及び底角部には,直線状の刃部が形成されている。
c 正面視左側の長辺の態様
(差異点)
本件意匠は,正面視右側の長辺における刃部と略鏡像対称形状の波状刃が形成されている。
これに対し,イ号意匠は,接点と底角を結ぶ緩やかな円弧状の縁部の全域に亘って直線状の刃部(ストレート刃)が形成されている。
d 短辺の態様
(差異点)
本件意匠は,直線状に形成されている。
これに対し,イ号意匠は,中間部に略V字状の8個の谷と略V字状の7個の山を有する櫛歯が形成されている。
(イ)柄取付部の態様
(差異点)
本件意匠は,平板状部材を備え,その基端が板部の表面に取り付けられている。そして,平板状部材を貫通する取付孔が1つ形成されている。
これに対し,イ号意匠は,基端が板部の表面に取り付けられている丸棒状の円筒状部材と,その先端に連続して板状の平板状部材を備えている。円筒状部材は,側面視において,緩やかなS字状に形成されている。そして,平板状部材を貫通する取付孔が2つ形成されている。
また,本件意匠は,その板部の中心線方向の長さに対する柄取付部の高さの比率が約0.5である。
これに対し,イ号意匠は,板部の中心線方向の長さに対する柄取付部の高さの比率が約0.8であり,本件意匠よりも柄取付部の高さが高く形成されている。
(4)類否判断
あ)両意匠の基本的構成態様は,一致している。しかし,上述のとおり,この基本的構成態様は非常にありふれた態様であり,需要者の美感に与える影響は小さい。
い)次に,具体的態様のうち,本件意匠の要部である「相対する2つの長辺の両方に凹部と凸部が連続する刃部が形成され,短辺が直線状に形成されているという刃部及び櫛歯の組合せ形状」について検討する。
上記(3)い)(ア)のb,cにおいて述べた通り,本件意匠は,相対する2つの長辺の刃部が略鏡像対称形状であるのに対し,イ号意匠は,相対する2つの長辺の刃部が全く異なる形状である。この差異点によって,本件意匠は,左右対称で簡素な美感を与える一方で,イ号意匠は,左右非対称で装飾的な美感を与える。また,上記(3)い)(ア)のdにおいて述べた通り,本件意匠は,その短辺が直線状に形成され,上記簡素な美感が一層強められている。これに対し,イ号意匠は,その短辺に櫛歯が形成され,上記装飾的な美感がより一層強められている。
このように両意匠は,上記要部において差異点を有し,当該差異点は,需要者の美感に大きな影響を与えている。
う)次に,本件意匠の要部である「略円弧状の凸部と略円弧状の凹部とが連続する波状刃の具体的な形状」について検討する。
上記(3)い)(ア)のbにおいて述べた通り,イ号意匠には,波状刃ではなく,シャーク刃が形成されている。波状刃とシャーク刃とでは,単なる形態上の差異にとどまらず機能も相違する。よって,実用品である鍬板において,需要者は,両者の形態の差異についてより強く関心が惹かれる。また,正面視において,本件意匠の波状刃は,接点と底角とを結ぶ緩やかな円弧状の線上に位置しているのに対し,イ号意匠のシャーク刃は,接点と底角とを結ぶ緩やかな円弧状の線から突出して位置している。この差異点によって,本件意匠は,さほど鋭利な印象は与えないが,イ号意匠は,鋭利な印象を与える。
このように両意匠は,上記要部において差異点を有し,当該差異点は,需要者の美感に大きな影響を与えている。
なお,本件意匠の波状刃及びイ号意匠のシャーク刃は,いずれも刃部が斜め下方に傾斜して形成されているという点においては共通するが,当該態様が独立して特徴的な美感を生ずることはなく,波状刃及びシャーク刃の凹凸形状,及びこれらが形成されている位置といった他の具体的な態様と一体となって特徴的な美感を生じているものであるから,当該共通点自体が需要者の美感に与える影響は軽微である。
え)次に,本件意匠の要部である「柄取付部の平板状部材が直接板部に取り付けられている具体的な形状」について検討する。
上記(3)い)(イ)において述べた通り,使用時において,板部の上に載った土等を払い落とそうとしても,本件意匠では,平板状部材の面がこれを阻止し払い落とし難い印象を与える。一方,イ号意匠では,払い落とし易い印象を与える。また,本件意匠は,中央線に沿った方向の強度が高く,これに比べ,中央線と直行する方向の強度が低い印象を与える。これに対し,イ号意匠は,いずれの方向へも強度が高い印象を与える。更に,イ号意匠は,本件意匠とは異なり2つの取付孔を備え,柄をしっかりと取り付けることができる印象を与える。このように両意匠の柄取付部は,単なる形態上の差異にとどまらず機能も相違する。よって,実用品である鍬板において,需要者は,両意匠の形態の差異についてより強く関心が惹かれる。また,イ号意匠は,板部の中心線方向の長さに対する柄取付部の高さの比率が約0.8であり,当該比率が約0.5である本件意匠よりも柄取付部の高さが高く形成されている。
このように両意匠は,上記要部において差異点を有し,当該差異点は,需要者の美感に大きな影響を与えている。
(5)請求人の主張に対する被請求人の反論
あ)イ号意匠及び本件意匠の内容について
請求人は,「板部の長辺の側縁部には斜め下方に傾斜する凹凸を板部に形成し,側縁を板厚に対して斜め方向に切除することによって,側面から見て凹凸に対応して波状となる波状歯を形成している」形態を両意匠の基本的構成態様(態様d)と主張する。しかし,当該態様は,板部の縁部という部分的な形態であり,ましてイ号意匠において対応する部分(シャーク刃)はさらに部分的な形態(一方の長辺のみの形態)である。当該態様が基本的構成態様ではなく,具体的な態様であることは明白である。
また,イ号意匠のシャーク刃は,上述の通り,波状ではない。よって,請求人のイ号意匠における当該表現は誤りである。
い)意匠の要部について
請求人は,請求人が基本的構成態様と主張する本件意匠の態様a?dのみについてこれらが要部となりうるか否かについて述べ,このうち,態様dを要部と主張する。
しかし,上述の通り,意匠の部分的な形態である態様dは具体的な態様であり,その他の具体的な態様(態様e?j)について触れることなく態様dを要部とする請求人の主張は理由が無い。また,態様dは他の具体的な態様の差異点から受ける印象を排して視覚的印象に大きな影響を及ぼすものでもない。
よって,態様dは,具体的な構成態様と評価されるものであり,その他の具体的な態様と同列に評価されなければならない。そして,このように評価すると,本件意匠の要部は,上記の通り,「相対する2つの長辺の両方に凹部と凸部とが連続する刃部が形成され,短辺が直線状に形成されているという刃部及び櫛歯の組合せ形状」,「略円弧状の凸部と略円弧状の凹部とが連続する波状刃の具体的な形状」,及び「柄取付部の平板状部材が直接板部に取り付けられている具体的な形状」である。
う)本件意匠とイ号意匠の相違点について
請求人は,本件意匠とイ号意匠との相違点のうち,(v)(波状歯が形成されている位置),及び(ix)(櫛歯の有無)に係る相違点が先行公知意匠に示されている相違点であることを理由に需要者が顕著な相違と認識するものではないと主張する。
しかし,共通点又は差異点における形態が公知の形態であったとしても,その共通点又は差異点を単純除外して,その他の共通点及び差異点のみについて判断されるべきでない。類否判断は,意匠全体の観察により,需要者に対して異なる美感を起こさせるか否かにより行われるものであるからである。したがって,公知形態の組合せが新規であり,需要者の美感に大きな影響を与える場合は,当然に,その組合せに係る態様が要部となりうる。上述の通り,本件意匠において,「相対する2つの長辺の両方に凹部と凸部が連続する刃部が形成され,短辺が直線状に形成されているという刃部及び櫛歯の組合せ形状」は要部である。
また,請求人は,イ号意匠の(vi)(柄取付部の形態)に係る形態が先行公知意匠に示されている形態であることを理由に,需要者は(vi)(柄取付部の形態)に係る差異点を顕著な相違と認識するものではないと主張する。
しかし,上述の通り,本件意匠の柄取付部は本件意匠の要部であり,本件意匠が登録されるに至った根拠となるものである。イ号意匠の柄取付部の形態が公知のものであったとしても,本件意匠の要部を備えないイ号意匠と本件意匠とは類似しない。
(6)結び
以上の通り,本件意匠とイ号意匠との差異点が意匠全体の美感に与える影響は,本件意匠とイ号意匠との共通点に係る態様が意匠全体の美感に与える影響を凌駕し,需要者に対して,イ号意匠は,本件意匠と異なる美感を与えている。よって,イ号写真及びイ号説明書に示す意匠は,本件意匠に類似しないとの判定を求める。

3.被請求人が提出した証拠
(1)乙第1号証 実開平2-17001号公報
(2)乙第2号証 意匠登録第856164号公報
(3)乙第3号証 意匠登録第1406418号公報
(4)乙第4号証 不服2010-16764号審決書

第3 当審の判断
1.本件登録意匠
本件登録意匠(意匠登録第1008670号の意匠)は,1996年(平成8年)11月11日付けで意匠登録出願されたものに係り,1998年(平成10年)2月13日に意匠権の設定の登録がなされたものであり,その願書及び願書に添付した図面代用写真によれば,意匠に係る物品を「除草鍬用鍬板」とし,その形態は願書の記載及び願書に添付した図面代用写真に現したとおりのものである(別紙第1参照)。
すなわち,本件登録意匠は,田畑に生える雑草を除去する除草鍬の鍬板であって,その構成態様は,以下のとおりである。
(1)基本的構成態様
a 鍬板は,板部と柄取付け部から成り,
b 板部は,相対する2つの長辺と1つの短辺から成る略二等辺三角形状であって,板部の2つの長辺には波状刃が形成されており,
c 上記略二等辺三角形の接点から短辺の中点までの中央線で板部を折り曲げ,
d 波状刃は,板部の長辺に斜め下方に傾斜する凹凸を形成し,側縁を板厚に対して斜め方向に切除することによって,側面視の凹凸に対応した波状となるように形成されている。
(2)具体的構成態様
e 板部の中央線から長辺までの傾斜は約20度であり,
f 板部の,中央線での折り曲げ角度(以下,「板部の折り曲げ角度」という。)は,約140度であり,
g 短辺と長辺の長さの比率は,約1:1.8であり,
h 長辺は,全体として接点と底角を結ぶ緩やかな略円弧状とし,
i 波状刃は,相対する2つの長辺の両方に,上記円弧状線上に位置して,底角側に少しの余地を残して形成され,正面側に丸みのある凸部と凹部を形成し,背面側の側縁を切除することによって形成されているものであって,
j 短辺の角度(右側面視において,底辺(中央線で折り曲げた鍬板の底面(背面側の面)中央の外形線)と短辺でなす角)を,約105度とし,
k 短辺には,歯を形成せず,
l 柄取付部を,中心線方向に合わせた縦長長方形の平板状のものとし,柄を取り付ける取付孔を上下2か所に設けたもので,その高さを,板部の中央線長さ(底辺長さ)の約0.5倍としたものである。

2.イ号意匠
イ号意匠は,判定請求書に添付されたイ号意匠写真及びイ号説明書に示すとおりのものである(別紙第2及び第3参照)。
なお,被請求人は,請求人が提出した判定請求書に添付したイ号説明書の記載の一部に疑義が生じる箇所があるとして,判定請求答弁書に添付の別紙1を添付し,これを含めて答弁をしている。よって,請求人の提出したイ号意匠写真及びイ号説明書の記載内容と,被請求人の提出した判定請求答弁書に添付の別紙1(イ号説明書)(別紙第4参照)の記載内容を踏まえて,検討し,判断する。
イ号意匠は,本件登録意匠に係る物品と用途及び機能において共通し,同様の物品であり,その形態は以下に述べるとおりである。
(1)基本的構成態様
a 鍬板は,板部と柄取付け部から成り,
b 板部は,相対する2つの長辺と1つの短辺から成る略二等辺三角形状であって,板部の(正面視)右側の長辺には波状刃(シャーク刃)が,左側の長辺には平刃(ストレート刃)が,そして,短辺には櫛歯がそれぞれ形成されており,
c 上記略二等辺三角形の接点から短辺の中点までの中央線で板部を折り曲げ,
d 波状刃は,板部の長辺に斜め下方に傾斜する凹凸を形成し,側縁を板厚に対して斜め方向に切除することによって,側面視の凹凸に対応した波状となるように形成されている。
(2)具体的構成態様
e 板部の中央線から長辺までの傾斜は約25度であり,
f 板部の折り曲げ角度は,約130度であり,
g 短辺と長辺の長さの比率は,約1:1.9であり,
h 長辺は,全体として接点と底角を結ぶ緩やかな略円弧状とし,
i 波状刃は,右側長辺に,上記円弧状仮想線からほんの少し突出した位置に,接点側と底角側に少しの余地を残して形成され,正面側に丸みのある凸部を形成し,背面側の側縁を切除することによって形成されるものであって,
j 短辺の角度を,約130度とし,
k 短辺の櫛歯は,左右両側(底角側)に少し余地を残して,略角丸V字状の谷を8個と略角丸V字状の山を7個で構成されており,
l 柄取付部を,側面視で緩やかなS字状の円筒状部材上端に縦長長方形の平板状部材を設けたものとし,柄を取り付ける取付孔を上下2か所に設けたもので,その高さを,板部の中央線長さの約0.8倍としたものである。

3.両意匠の対比
両意匠を対比すると,いずれも柄を取り付けて除草鍬にするための除草鍬用鍬板であり,用途と機能が共通するので,意匠に係る物品は共通すると認められ,形状については,主として以下の共通点と相違点が認められる。
(1)共通点
基本的構成態様として,(a)鍬板が,板部と柄取付け部から成る点,(b)その板部が,相対する2つの長辺と1つの短辺から成る略二等辺三角形状である点,(c)上記略二等辺三角形の接点から短辺の中点までの中央線で板部を折り曲げた点,(d)板部の長辺に斜め下方に傾斜する凹凸を形成し,側縁を板厚に対して斜め方向に切除することによって,側面視の凹凸に対応した波状となる波状刃を形成し,(e)柄取付部に,取付孔を上下2か所に設けた縦長長方形の平板状部材を用いている点において主に共通する。
(2)相違点
(ア)長辺の態様につき,本件登録意匠は,左右対称状に,両側長辺に波状刃を設けているのに対して,イ号意匠は,左側長辺を平刃とし,右側長辺のみに波状刃がある非対称の構成としている点,(イ)短辺の態様につき,本件登録意匠は刃を形成していないのに対して,イ号意匠は,左右両側に少し余地を残して,略角丸V字状の谷を8個と略角丸V字状の山を7個で構成する櫛歯を設けた点,(ウ)柄取付部につき,本件登録意匠は,中心線方向に合わせた縦長長方形の平板状のものとし,その高さを板部の中央線長さの約0.5倍としたものであるのに対して,イ号意匠は,側面視で緩やかなS字状の円筒状部材上端に縦長長方形の平板状部材を設けたものとし,その高さを板部の中央線長さの約0.8倍としたものである点,(エ)板部の中央線から長辺までの角度につき,本件登録意匠は,約20度であるのに対して,イ号意匠は約25度である点,(オ)板部の折り曲げ角度につき,本件登録意匠は,約140度であるのに対して,イ号意匠は,約130度である点,(カ)短辺と長辺の長さの比率につき,本件登録意匠は,約1:1.8であるのに対して,イ号意匠は約1:1.9である点,(キ)右側長辺の波状刃につき,本件登録意匠は,長辺円弧状線上に位置して,底角側に少しの余地を残して形成しているのに対して,イ号意匠は,長辺円弧状仮想線からほんの少し突出した位置に,頂角側と底角側に少しの余地を残して形成した点,(ク)波状刃の形状につき,本件登録意匠は,正面側に丸みのある凸部と凹部を形成した上で,背面側の側縁を切除することによって形作られた形状であるのに対して,イ号意匠は,正面側に丸みのある凸部のみを形成した上で,背面側の側縁を切除することによって形作られた形状である点,(ケ)短辺の角度につき,本件登録意匠は約105度であるのに対して,イ号意匠は約130度である点に主な相違がある。
(3)類否判断
そこで,イ号意匠が本件登録意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属するか否かについて,すなわち,両意匠の類似性について,本件登録意匠の出願前に存する公知意匠等を参酌し,新規な態様や需要者の注意を最も引きやすい部分を考慮した上で,共通点と相違点が意匠全体として両意匠の類否判断に及ぼす影響を評価し,検討する。
まず,共通点が類否判断に及ぼす影響について比較して検討する。
共通点(a)については,この種鍬用鍬板の基本的な構成態様であり,この分野において本件登録意匠の出願前に多数見受けられ,本件登録意匠の特徴とはいえず,両意匠のみに共通する新規の構成態様とはいえないし,共通点(b)についても,この種物品分野においては古くから採用されているごく普通の態様といえ,特徴のないものといえ,両意匠のみに格別共通する構成態様とはいえないし,共通点(c)についても,この種物品分野において古くから数多く採用されているごく普通の態様であって,両意匠のみに共通する態様とはいえず,共通点(d)については,両長辺,又は,長辺の片方に刃を設けること,その刃を斜め下方に傾斜する凹凸によって構成すること,側縁に凹凸を形成した上で,板厚に対して斜め方向に切除することによって波状刃を形成することも,本件登録意匠の出願前から見受けられ,特別新規の構成態様とはいえない上に,共通点(e)についても,ごく普通の柄取付部の態様といえ,両意匠のみの特徴とは成り得ない。
そうすると,これらの共通点に係る態様は,公知意匠を参酌すれば,両意匠のみに共通する特徴的な態様とはいえないものに過ぎず,両意匠の類否判断を決定付けるものとは成り得ない。
次に,相違点が類否判断に及ぼす影響について検討する。
相違点(ア)については,使用者にとって,本件登録意匠は,左右どちらの刃を使おうとも同じ性能が得られるものである事を認識できる態様であるのに対して,イ号意匠は,二種の違う効果が得られるものであることを認識できる態様であって,両意匠の類否判断に及ぼす影響が多少あると認められる。相違点(イ)については,長辺ほど主要な部分とは認められず,副次的部分と考えられるが,通常の使用状態においては,目に付きやすい鍬板上辺部(短辺部)の差異であり,また,イ号意匠の短辺の態様は,刈り払った草のかき集め作業に適しているものとの認識を促す形状であり,両意匠の違いは明白で,類否判断に与える影響を無視することはできない。相違点(ウ)については,鍬用鍬板を鍬とするために必要な柄取付部の付け根の形状及び高さの相違であって,鍬板本体の各部形状ほど大きな影響を与えるとは考えられないが,両意匠の類否判断に影響を与えることは,充分に認められるものである。相違点(エ)及び(オ)については,どちらの角度も,この種物品分野においては,各種のものがあり,その差は小さく,両意匠を並べた上に,それらの部分を注視して,初めて分かるほどの差であるから,この相違点が両意匠の類否判断に与える影響は,ごく小さい。相違点(カ)についても,この種物品分野においては,各種のものがあり,その差は小さく,両意匠を並べて初めて気付くほどの差であるから,この相違点が両意匠の類否判断に与える影響は,小さい。相違点(キ)については,イ号意匠の突出度合いは,ほんの少しではあるが,この種物品に係る意匠の要部といえる部分の態様であるから,看者の注意を強く引く部分における相違であって,刃の突出状況の差と,刃を形成していない余地部分の態様の差異が相まって,両意匠の類否判断に影響を与えるものであると言わざるを得ない。相違点(ク)については,この物品分野における意匠の,使用に際する性能に関係する,機能的かなめの部分といえ,この形状の差異は,類否判断に一定の影響を与えるものといえる。相違点(ケ)については,側面視と正面視において,看者に多少の差異を感じさせ,両意匠の類否判断に与える影響があると認められる。
そうして,これらの共通点と相違点を総合すれば,共通点に係る態様が両意匠にのみ共通する特徴とはいえないものであるのに対して,両意匠の要部において,看者の注意を引く相違が相違点(キ)及び(ク)として表れているもので,特に,イ号意匠に設けてある短辺における櫛歯の具体的な形状が,イ号意匠を実施する以前の先行公知意匠に見受けられないのであるから,この部分の独自性が高く,一定の評価がされるものである相違点(イ)は,相違点(ケ)と相まって,イ号意匠の独自で特徴的な態様と認められ,本件登録意匠には見られないものであって,結果,相違点(キ)と(ク),及び,相違点(イ)と(ケ)が,相違点(ア)と相まって,両意匠の類否判断に決定的な影響を及ぼすものとせざるを得ず,さらに他の相違点による態様も合わせれば,意匠全体として,イ号意匠は,本件登録意匠に類似するものとはいえない。

4.結び
以上のとおりであるから,イ号意匠は,本件登録意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属しない。

よって,結論のとおり判定する。
別掲
判定日 2012-02-09 
出願番号 意願平8-34179 
審決分類 D 1 2・ 1- ZB (K3)
最終処分 不成立 
前審関与審査官 並木 文子 
特許庁審判長 斉藤 孝恵
特許庁審判官 橘 崇生
瓜本 忠夫
登録日 1998-02-13 
登録番号 意匠登録第1008670号(D1008670) 
代理人 藤田 邦彦 
代理人 藤田 典彦 
代理人 特許業務法人 有古特許事務所 
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