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審決分類 審判 査定不服  2項容易に創作 取り消して登録 H2
管理番号 1256323 
審判番号 不服2011-19263
総通号数 150 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 意匠審決公報 
発行日 2012-06-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-09-07 
確定日 2012-05-08 
意匠に係る物品 配線用気密カバー 
事件の表示 意願2010- 25044「配線用気密カバー」拒絶査定不服審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の意匠は、登録すべきものとする。
理由 1.本願意匠
本願は,部分意匠として意匠登録を受けようとする,平成22(2010)年10月20日の意匠登録出願であって,その意匠は,願書及び願書添付の図面によれば,意匠に係る物品が「配線用気密カバー」であり,その形態は,願書及び願書添付の図面に記載されたとおりのもので,「実線で示した部分が部分意匠として登録を受けようとする部分である。」としたものである(以下,部分意匠として意匠登録を受けようとする部分を「本願意匠」という。)(別紙第1参照)。

2.原審の拒絶の理由
本願意匠に対する原審の拒絶の理由は,本願意匠が,出願前にその意匠の属する分野における通常の知識を有する者が日本国内又は外国において公然知られた形状,模様若しくは色彩又はこれらの結合に基づいて容易に意匠の創作をすることができたものと認められるので,意匠法第3条第2項の規定に該当するというものであって,具体的には,以下のとおりである。

この意匠登録出願に係る配線用気密カバーの分野において,全体を透明部材で形成し,外形が隅丸長方形状のフランジ部を構成することは,例えば意匠1乃至2のように本願出願前より普通に知られており,また,この種物品分野において接着及び気密のために両面テープを使用することも,例えば意匠1の記載や意匠3のように本願出願前より普通に行われているありふれたものである。
本願意匠の意匠登録を受けようとする部分は,単に,公然知られたフランジ部(外形が隅丸長方形状で透明部材により形成されたもの)の裏面左右両側に,ありふれた手法により周知の細長短冊状の両面テープを貼着した意匠を表したものと認められる。
なお,本願意匠の両面テープには剥離シートが貼着され,その上部には余地部が設けられているが,テープの長さや配置は設計上の要請により決定されるものであり,かつ,当該部位の配置態様自体も一対のテープをフランジの左右端部に単に配したまでのものなので,当業者にとって特段の創作力を要せずに容易に想到できる程度のものであると認められる。

意匠1(別紙第2参照)
特許庁発行の公開特許公報記載
特開2000-341824
図4に表されたカバー

意匠2(別紙第3参照)
特許庁発行の公開特許公報記載
特開2000-245031
図1に表された防気カバー

意匠3(別紙第4参照)
特許庁発行の登録実用新案公報記載
実用新案登録第3015649号
図1に表された両面テープ

3.請求人の主張の要旨
(1)本物品は,配線用気密カバーのフランジ部に剥離シートによって両面接着層の貼着面が保護された両面テープを備え,前記剥離シートを剥がし,壁に穿設した開口から壁内に配置された配線ボックス内へと配置され,前記壁に前記両面テープによって貼着され,配線器具が保持された保持枠と共に,ビスで固定されることによって,前記開口において前記壁内と室内との間で通気が発生することを防ぐことができるものである。
ところが,引用意匠1乃至引用意匠3の何れを見ても,またはその部分を如何に組み合わせてみても,本願意匠の部分意匠の特徴である配線用気密カバーのフランジ部に両面テープを縦方向に2本並行して貼着した形態を表象し,かつ,両面テープの剥離シートと両面接着層とがその上方側の長さのみを異にし,剥離シート側の上方側を長くした構造については,開示するものも示唆するものもない。
(2)拒絶理由通知では,配線用気密カバーが知られている物品であることを立証しているものの,そのフランジ部分の構造を何ら立証するものではない。特に,配線用気密カバーのフランジ部について,上下の幅を左右の幅の3倍にし,フランジ部の左右は2本の両面テープでシール性を確保し,上下は既設の枠体の取付け手段によって機密性を確保するという形状,形態,その種の本願意匠の特徴的な思想の開示は勿論,示唆さえもされていない。
(3)引用意匠1の段落番号〔0034〕に「例えば前記枠材20に接着剤層(および剥離(紙)シート)を設けておき,施工現場でカバー10のフランジ部12を貼着するようにしてもよい。さらには,場合によっては該枠材20を省略するようにしてもよい。」と記載されている事実からすれば,「枠材20に接着剤層(および剥離シート)を設け」と限定されているが,配線用気密カバーのフランジ部に両面テープを貼着する意匠を特定する形態ではない。
また,「場合によっては該枠材20を省略するようにしてもよい。」と記載し,引用意匠1は両面テープを使用した特定の形状を表象していない。そして,引用意匠3は,前述したように,コンセントの周りに四角形の枠状(ロ字状)に両面テープの両面接着層を形成する技術が開示されているのみで,ここには,両面テープを並行して2本貼着した意匠の形態を表象するものはない。
(4)配線用気密カバーのフランジ部について,上下の幅を左右の幅の3倍にし,フランジ部の左右は両面テープでシール性を確保し,上下は既設の配線器具が保持される保持枠と共に,ビスで固定される取付け手段によって機密性を確保するという形状,形態,その種の本願意匠の特徴的な思想は,引用意匠1乃至引用意匠3の何れにも開示は勿論,示唆さえもされていない。
(5)本願意匠にかかる物品は販売品であり「テープの長さや配置は設計上の要請」に基づくものではない。即ち,本物品は販売品であり,看者である電気工事士に如何に高効率で組み付けができるかを示すことにより,本願意匠にかかる物品を購入し,使用していただくことができるものである。その全体の配線用気密カバーの意匠は公知になっていることから,最も意匠の創作に特徴がある個所を部分意匠として出願したものである。
まず,看者は,特に,仕上げのプレートを正確に水平面に対して垂直配置する場合,本物品のフランジ部に剥離シートを剥離しないまま,壁に穿設された開口から壁内に配置された配線ボックス内へ位置決めされ,センターの垂直位置を決定し,その位置で,前記剥離シートを剥がしながら張り付け,壁に穿設された開口から壁内に配置された配線ボックス内へと配置されるとともに,前記壁に前記両面テープによって貼着され,配線器具が保持された保持枠と共に,ビスで固定されることによって,正確に位置決めされ,前記開口において前記壁内と室内との間で通気が発生することを防ぐことができるものである。
また,看者は,本物品の剥離シートが両面接着層よりも距離が長いことから,作業手袋をした状態で狭い空間であっても剥離シートを簡単に剥がすことができ,かつ,作業手袋にも剥離シートが取り付くことがないことを読取ることができる。また,本物品の配線用気密カバーのフランジ部の上下の幅は,左右の幅の3倍になっており,フランジ部の左右は両面テープでシール性を確保する形態であるから,その上下はコンセントまたはスイッチ等の配線器具が保持された保持枠と共にビスで固定されることによって,前記壁内と室内との間で通気が発生することなく機密に取り付けることができる構造を表出するものである。
(6)以上のように,引用意匠1の物品,引用意匠2の物品,引用意匠3の物品の各々の物品に関する技術は,本願意匠(部分意匠)にかかる物品の性状を具備するものではなく,引用意匠1乃至引用意匠3の各々でも,また,如何に組み合わせてみても物品の構造自体が創造され得ないものであり,当然,引用意匠1の物品に関する技術,引用意匠2の物品に関する技術,引用意匠3の物品に関する技術で開示された技術思想及びその実施物の形状を取り上げても,そこから本願意匠の部分意匠の特徴である剥離シートが両面接着層よりも距離が上方のみに長い2本の両面テープを張るという形態を導くことはできない。特に,引用意匠1乃至引用意匠3の物品の意匠を如何に組み合わせても,何の課題も存在しないことから,何の目的もないままに,その部分意匠の構造自体が創造され得ないものである。
したがって,引用意匠1乃至引用意匠3の何れにも,開示も,示唆もされていないことから,当該開示も,示唆もされていない形状に基づき,本願意匠に想到することは困難であり,創作性を欠くとの論拠が成立しないものである。
本願意匠は,看者である電気工事士に如何に高効率で組み付けができるかを示すものであり,また,本物品の剥離シートが両面接着層よりも上方のみに距離が長いことから,作業手袋をした状態で剥離シートを簡単に剥がすことができ,かつ,作業手袋にも剥離シートの取付け難さを表象するものである。
本願意匠の部分意匠の構成は,引用意匠1乃至引用意匠3の何れにも,開示も,示唆もされていないことから,日本国内又は外国において公然知られた形状,それらの結合に基づいて意匠の創作をすることができないものである。

4.当審の判断
本願意匠が,当業者であれば,容易に意匠の創作をすることができたものか否かについて,以下検討する。
(1)本願意匠
本願は,配線用気密カバーで,そのフランジ部の裏面の左右に両面テープを備えたものであって,フランジ部分と両面テープ部分を実線で示し,その部分を部分意匠として登録を受けようとする部分(本願意匠)としたものであって,その部分の形態は,透明な隅丸長方形状で薄板状のフランジ部とし,フランジ部の上下に余地部を広く,左右の余地部を細幅に形成し,剥離シートによって後面貼着面が保護された細長帯状の両面テープをフランジ部の裏面である壁面側の左右に2本平行に備えており,フランジ部の上端部より細長帯状の剥離シートを上方に突出させたもので,両面テープの前面貼着面と剥離シートが透明なフランジ部の左右に透けて視認でき,両面テープの長さをフランジ部中央の略縦長ボックス状部の縦の長さよりも長くしたものである。
(2)本願意匠と意匠1ないし3の対比
(a)意匠1には,透明又は半透明の気密性のカバーの隅丸長方形状のフランジ部が表されており,接着材層(および剥離紙)については,【発明の詳細な説明】【0034】に記載が認められるが,本願意匠のような両面テープは図面に表されていない。(b)意匠2には,防気カバーの隅丸長方形状のフランジ部が表されているが,本願意匠のような両面テープを貼着した状態は表されていない。(c)意匠3には,コンセント用の防塵防滴カバーを取り付けるための両面テープがコンセントカバーのコンセント差込口周囲に略ロの字状に貼着されているが,本願意匠のように2本の細長帯状剥離シートを設けてはいない。
(3)創作容易性の判断
まず,(ア)この種の配線用気密カバーの分野においては,施工現場での施工を容易にするため,配線用気密カバーに接着材層や剥離紙を設けることは本願出願前より既に行われていることである。本願意匠と意匠1及び意匠2は,配線用気密カバーの隅丸長方形状のフランジ部を有する点については共通するが,接着材層や剥離紙を設けることについては,その態様は各種のものが見受けられ,両面テープを貼着する場合も,フランジ部の左右に必ず貼着するものとは限らない。本願意匠の態様は,フランジ部中央の略縦長ボックス状部の縦の長さよりも長い細長帯状の両面テープを透明な隅丸長方形状のフランジ部の裏面の左右に貼着したもので,このような態様に両面テープを貼着した配線用気密カバーは他に見当たらず,意匠1と意匠2にコンセント差込口周囲に略ロの字状の両面テープを貼着した意匠3を組み合わせても,本願意匠の態様が容易に想到できるものとはいうことができない。次に,(イ)両面テープの態様について,本願意匠は,両面テープの細長帯状の剥離シートをフランジ部の上端部より上方に突出させたものであって,このフランジ部に貼着された両面テープの態様は,本願意匠独自のものといえ,意匠1ないし意匠3を組み合わせたとしても本願意匠の態様を導き出すことはできない。
そうすると,本願意匠の両面テープの態様は,透明なフランジ部の裏面に貼着された剥離シートにより,独特の態様といえるもので,このような両面テープを貼着した状態の本願意匠は,その出願前にその意匠の属する分野における通常の知識を有する者が日本国内又は外国において公然知られた形状,模様若しくは色彩又はこれらの結合に基づいて容易に創作をすることができた意匠に該当しない。

5.むすび
したがって,本願意匠は,意匠法第3条第2項の規定に該当しないものであり,同条同項により拒絶すべきものとすることはできない。
また,他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり審決する。
別掲

審決日 2012-04-19 
出願番号 意願2010-25044(D2010-25044) 
審決分類 D 1 8・ 121- WY (H2)
最終処分 成立  
前審関与審査官 井上 和之 
特許庁審判長 斉藤 孝恵
特許庁審判官 下村 圭子
橘 崇生
登録日 2012-05-18 
登録番号 意匠登録第1443988号(D1443988) 
代理人 特許業務法人 Vesta国際特許事務所 

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