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審判番号(事件番号) データベース 権利
無効2013880006 審決 意匠

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審決分類 審判    F4
管理番号 1286507 
審判番号 無効2013-880003
総通号数 173 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 意匠審決公報 
発行日 2014-05-30 
種別 無効の審決 
審判請求日 2013-02-01 
確定日 2014-03-10 
意匠に係る物品 包装用容器 
事件の表示 上記当事者間の登録第1452328号「包装用容器」の意匠登録無効審判事件について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 審判費用は,請求人の負担とする。
理由 第1 本件登録意匠
本件意匠登録第1452328号の意匠(以下,「本件登録意匠」という。)についての出願は,平成24年(2012年)5月25日に,意匠登録出願され,平成24年(2012年)8月31日に,設定の登録がなされ,本件登録意匠は,願書の記載によれば,意匠に係る物品を「包装用容器」とし,その形状,模様若しくは色彩又はこれらの結合(以下,「形態」という。)を願書の記載及び願書に添付した図面に記載されたとおりとしたものであり,「実線で表した部分が,部分意匠として意匠登録を受けようとする部分(当審注:以下,「本件実線部分」という。)である。」としたものである。(別紙第1参照)


第2 当事者の主張
1 請求人の主張
請求人は,「意匠登録第1452328号の登録は,これを無効とする,審判費用は被請求人の負担とする,との審決を求める。」と申し立て,その理由として,概略以下の主張をし,証拠方法として,甲第1ないし第6号証を提出した。(平成25年2月1日付け審判請求書,平成25年11月7日付け口頭審理陳述要領書,平成25年11月29日付け口頭審理陳述要領書(第2回)及び第1回口頭審理調書)

(1)意匠登録無効の理由の要点
本件登録意匠は,当該意匠登録出願の日前の他の意匠登録出願であって本件登録意匠の出願後に意匠公報に掲載されたもの(意匠登録第1455001号,(当該登録意匠を以下「先行登録意匠」という。(当審注:別紙第2参照)))の願書の記載及び願書に添付した図面に現された意匠の一部と類似であるので,本件登録意匠は意匠法第3条の2の規定に該当する。(当審注:以下,「無効理由1」という。)
また,本件登録意匠は,先願である先行登録意匠に類似するものであるから,本件登録意匠は意匠法第9条第1項の規定に該当する。(当審注:以下,「無効理由2」という。)
したがって,同法第48条第1項第1号の規定により,本件登録意匠の登録は無効とされるべきである。

(2)証拠方法
甲第1号証:意匠登録第1452328号の意匠公報
甲第2号証:意匠登録第1455001号の意匠公報
甲第3号証:本件登録意匠と先行登録意匠の比較図
甲第4号証:本件登録意匠製品と先行登録意匠製品の比較図
甲第5号証:審理事項1への応答書面
甲第6号証:本件登録意匠の早期審査に関する事情説明書

(3)無効理由1について
ア 本件登録意匠について
A 本件登録意匠の意匠の要旨
本件登録意匠は包装用容器に係る意匠であって,実線で表した部分に関する部分意匠である。本件登録意匠に係る物品は,特に,シチュー等の固形ルウを収容するために使用される。

B 本件登録意匠の形態
基本的構成態様として,
(a)左右二つの平面視正方形状の容器部を有する包装用容器において,片方の容器部のみについての部分意匠である。
(b)容器平面側の全周囲には薄いツマミ部が設けられている。
(c)容器部内は,上方容器部とその下方における四つのハート形凹みの二段にて構成されている。
(d)平面視において,ハート形凹みは,右上,右下,左下,左上に配置されており,向かい合う各ハート形凹み同士は対称に配置されている。

具体的構成態様として,
(e)容器部内の上方容器部は,容器上端から縦方向略中央部まで設けられており,底面に向けてやや窄む形状である。
(f)上方容器部の下端から下方へ四つのハート形凹みが設けられている。各ハート形凹みの側壁と底面の隅は,側面視において明らかなように,大きなアールを形成している。よって,各ハート形凹みはおおきなアールに囲まれている。

イ 先行登録意匠について
A 先行登録意匠の要旨

先行登録意匠は,包装容器に係る意匠であって,実線で表した部分に関する部分意匠である。先行登録意匠に係る物品は,特に,シチュー等の固形ルウを収容するために使用される。

B 先行登録意匠の形態
基本的構成態様
(a)左右二つの平面視正方形状の容器部を有する包装用容器において,片方の容器部の縦方向下半分についての部分意匠である。
(b)容器平面側の全周囲には薄いツマミ部が設けられている。
(c)容器部内は,上方容器部とその下方における四つのハート形凹みの二段にて構成されている。
(d)平面視において,ハート形凹みは,右上,右下,左下,左上に配置されており,向かい合う各ハート形凹み同士は対称に配置されている。

具体的構成態様
(e)容器部内の上方容器部は,容器上端から縦方向中央下まで設けられており,底面に向けてやや窄む形状である。
(f)上方容器部の下端から下方へ四つのハート形凹みが設けられている。各ハート形凹みの側壁と底面の隅は,側面視において明らかなように,大きなアールを形成している。よって,各ハート形凹みは大きなアールに囲まれている。

ウ 本件登録意匠と先行登録意匠との対比
A 共通点
本件登録意匠と先行登録意匠とは,シチュー等の固形ルウを収容する容器であって,左右に二つの平面視正方形状の容器部を有する包装用容器で片方一つの平面視正方形状の容器部に係る部分意匠である点で共通する。また,容器平面側の容器部の全周囲には薄いツマミが設けられていて,容器内は,上方容器部とその下方における四つのハート形凹みの二段構成で,ハート形凹みは,右上,右下,左下,左上に配置されており,向かい合うハート形凹み同士は対称である点で共通する。これら共通点は,本件登録意匠と先行登録意匠の形態の基本的骨格に係る共通点であり,両意匠に係る物品分野において,両意匠の美的印象を決定づける部分における共通点である。また,各ハート形凹みは底面において大きなアールに囲まれている点においても共通している。

B 相違点
本件登録意匠と先行登録意匠とは,上方容器部とハート形凹みの縦方向の深さの割合において異なる。本件登録意匠では,上方容器部とハート形凹みとの深さ割合はほぼ等しいのに対して,先行登録意匠では,上方容器部が深く,ハート形凹みが浅い形状となっている。

C 類否
本件登録意匠と先行登録意匠の片方容器部全体の形態においては,上方容器部とハート形凹みの深さ割合のみが異なり,その他の形状は酷似又はほぼ同一である。特に,本件登録意匠のハート形凹みの底面側隅の形状線を削除すれば,両意匠において,平面視におけるハート形凹みの配置及び形状はほぼ同一である。
その一方で,上方容器部とハート形凹みの深さ割合は,需要者が注視する形態とはいえない。本件登録意匠及び先行登録意匠に係る包装用容器は,特にシチュー等の固形ルウを入れる容器であるが,固形ルウを本件包装用容器に収容することにより,固形ルウの底面にハート形の凸部が形成される効果に注目されるデザインである。また,その固形ルウの底面にできたハート形の具体的なハートの形や各ハートの配置についても大きな注目があつまり,そこに需要者は美感を感じる。よって,両意匠に係る包装用容器においては,底面側のハート形凹みにおける各ハートの平面的な形状や配置に需要者は注目する。両意匠はこの点において,ほぼ同一といっていい形状であるので,その美感は大きく共通する。ハート形凹みの深さの違い自体は,各ハート形凹みの平面的な形状や配置の共通性から生じる美的印象に埋没する程度の些細な相違である。凹みの深さが多少異なったとしても,両意匠の各ハート形の平面形状と配置が大きく共通しているため,先行登録意匠を見た需要者は深さの異なる本件登録意匠を見ても特に新たな美感を感じることなく,美感共通として両意匠を類似のものと認識する。

D 意匠法第3条の2の適用
先行登録意匠は,平成24年4月23日に出願,同年10月12日に意匠登録,そして,同年11月12日に意匠公報が発行されている。よって,先行登録意匠は,本件登録意匠の出願前に出願されており,本件登録意匠の出願後に意匠公報に掲載されている。
本件登録意匠は,先行登録意匠を先願意匠として意匠法第3条の2に該当するものである。

(4)無効理由2について
意匠法第9条第1項の適用
先行登録意匠は,本件登録意匠の出願日前に出願されている。また,その実線部分の形態同士は,その範囲は異なるが,容器部下方において前記の通り類似しており,需要者が両意匠の実線部分から共通の美感を感じるのは明らかである。よって,両意匠は部分意匠の範囲は異なるが美感を共通にする類似関係にある。
本件登録意匠は,先行登録意匠を先願意匠として意匠法第9条第1項に該当するものである。

(5)むすび
上記の通り,本件登録意匠は,意匠法第3条の2及び同法第9条第1項の規定に該当し,同法第48条第1項第1号の規定により,本件登録意匠の登録は無効とされるべきである。
2 被請求人の主張
被請求人は,「本件意匠登録第1452328号の無効審判の請求は成り立たない,審判費用は請求人の負担とする,との審決を求める。」と答弁し,その理由として,概略以下の主張をし,証拠方法として,乙第1ないし第16号証を提出した。(平成25年4月8日付け審判事件答弁書,平成25年11月22日付け口頭審理陳述要領書,平成25年11月29日付け第1回口頭審理調書)

(1)証拠方法
乙第 1号証:本件登録意匠及び先行登録意匠に係る実施品の底面方向斜視線図
乙第 2号証:本件登録意匠及び先行登録意匠に係る実施品の底面方向斜視写真
乙第 3号証:両意匠の正面図に係る比較図
乙第 4号証:韓国意匠公報(書誌情報付)
乙第 5号証:意匠登録第1420956号意匠公報
乙第 6号証乃至乙第10号証:ウェブページ抜粋
乙第11号証:意匠登録第1456306号意匠公報
乙第12号証:意匠登録第1455001号意匠公報
乙第13号証:意願2012-9371(意匠登録第1456306号)に係る拒絶理由通知書
乙第14号証:容器カタログ抜粋
乙第15号証:本件登録意匠,乙第11号証意匠及び先行登録意匠比較図
乙第16号証:本件登録意匠及び先行登録意匠の実線部分比較図

(2)無効理由1について
ア 請求人の共通点の主張について
本件登録意匠は,請求人がいう「上方容器部」を「第一段部」とすれば,これとほぼ同等程度の深さを有する「第二段部」(ハート型凹み)を有する。
さらに,本件登録意匠の「第二段部」は,「第一段部」の側壁からやや内側に入ったところの底部から「第二段部」が形成されており,まさに一見して明らかな二段構成を有している。
しかしながら,先行登録意匠においては,上方容器部の側壁とハート型凹みの一部の側壁が一体に構成されている上に,それらの深さの比は,約6:1であり,その差があまりにも大きい。このように先行登録意匠の構成及び態様によれば,「二段にて構成されている」というのは明らかに言い過ぎで,当該ハート凹みは,容器に付された模様程度と認識できるものである。

先行登録意匠の各ハート型凹みは,「側壁と底面の隅が,大きなアールを描いている」という請求人の主張の通りである。しかしながら,先行登録意匠の当該部分は,むしろ「側壁全体が大きなアールを描きつつ底面に至っている」という形状を有している。実際に,先行登録意匠の側面視に係る図をみても,かなり丸みが強調されるデザインとなっている。
一方で,本件登録意匠は,直線的な側壁がその下部において水平な底面に急な角度で連結する形状をとっており,請求人がいうような大きなアールを描くものではない。

イ 差異点について
A 先行登録意匠は,上方容器部とハート型凹みの深さの割合は,約6:1であり,そもそも二段構成として認識されるものではない。一方で,本件登録意匠は,ほぼ同等の深さを有する第一段部及び第二段部からなる明らかな二段構成を有する。

B もう一つの大きな差異点としては,甲第1号証の底面図等に表れるように,本件登録意匠が「二重のハート形状」を有する点にある。本件登録意匠の「第二段部」と「第一段部」との連結部分において表れる「大きなハート形状」と,当該「第二段部」と「底面」との連結部分が作り出す「小さなハート形状」とからなる「二重のハート形状」である。側面視において直線的な当該「第二段部」の側壁がその上部において水平の「第一段部」の底面と,また,下部において同じく水平の底面に急な角度をもって連結する形状をとるため,このような「大きなハート形状」及び「小さなハート形状」がはっきりと表れる。
これに対し先行登録意匠は,「側壁全体が大きなアールを描きつつ底面に至っている」という形状を有しているため,本件登録意匠のように「二重のハート形状」が表れるものではない。

ウ 類否について
請求人が共通点として主張する「各ハート形の平面形状と配置」,具体的には,「4つのハートが,クローバー状に配置された形状」について,ハートを4つのクローバー状に配置するデザインは,包装の分野ではありふれたものである。従って,この様なハート形の平面的形状及び配置は,需要者にとっても何ら新規なものではないため,特に注視されるポイントではない。
ハートをクローバー状に4つ並べて配置することは,あまりに一般的なので,この「4つハートがクローバー状に配置された形状」というポイントが意匠の類否判断に与える影響は極めて小さいものである。
また,側面視等において表れる凹凸の形状が,「包装用容器」の分野の意匠の類否判断に大きな影響を与えている。

共通点について,請求人の主張する「各ハート形の平面的形状と配置」をはじめとする共通点は,いずれも先行登録意匠の出願前から一般的に知られており,需要者における類否判断に大きな影響を与えるものではない。

差異点について,本件登録意匠の「第一段部」と「第二段部」との深さの割合はほぼ同等であり,「第二段部」は強い存在感を放つ。そして,「第二段部」は,側面視において直線として表れる側壁が急な角度をもって水平な底面と「第一段部」底部に連結されるので底面図に表れるように,「二重のハート形状」を表す。
そのため,「第一段部」との連結部による「大きなハート形状」から底面に表れる「小さなハート形状」へと窄まっていく立体的な形状が極めてクリアに表現されるとともに,全体としてゴツゴツとした力強い印象を需要者に与える。
一方で,先行登録意匠のハート型凹みは,極めて浅く,かつ,その側壁部が終始弧をを描いて底面に連結する形状のため,本件登録意匠のような二重のハート形状は表れず,全体として丸みが際立ち,かつ,極めて控え目な印象を与えるものであり,模様程度に認識されるものである。

先行登録意匠(破線を含む全体の形態)の一部と本件登録意匠は,非類似である。よって,本件登録意匠は,意匠法第3条の2に該当するものではない。

(3)無効理由2について
両登録意匠は部分意匠であり,意匠登録を受けようとする部分(実線部分)位置,大きさ及び範囲が異なる上,純粋に形態のみに着目しても,本件登録意匠とは非類似である。よって,本件登録意匠は,意匠法第9条第1項に該当するものでもない。


第3 当審の判断
1 無効理由1(本件登録意匠が,先行登録意匠(以下,「甲2意匠」という。)の一部と類似するか否か)について

1-1 意匠法第3条の2の適用条件について
甲2意匠は,平成24年4月23日に出願され,同年10月12日に意匠登録,そして,同年11月12日に意匠公報が発行されている。よって,甲2意匠は,本件登録意匠の出願前に出願されており,本件登録意匠の出願後に意匠公報に掲載されている。
したがって,本件登録意匠は,この点に関しては,甲2意匠を先願意匠とする意匠法第3条の2の適用条件を満足するものである。

1-2 本件登録意匠
本件登録意匠は,第1で述べたとおり,意匠に係る物品を「包装用容器」とし,その形態を願書の記載及び願書に添付した図面に記載されたとおりとしたもので,「実線で表した部分が,部分意匠として意匠登録を受けようとする部分である。」としたものである。
すなわち,平面視略隅丸正方形状の容器部を左右2連とした包装用容器のうち,片方の容器部について部分意匠として意匠登録を受けようとするものであり,その本件実線部分の形態は,
(ア)基本的構成態様として,
平面視において,全体を略隅丸正方形状とし,その中央部分に,一回り小さい隅丸正方形凹部を設け,略ハート形凹部を隅丸正方形凹部の中心より上下左右対称に4つ,ほぼ隅丸正方形凹部一杯に設けたものであり,側面視において,容器全体の略中央部分で隅丸正方形凹部と略ハート形凹部をわけ,隅丸正方形凹部の上端に僅かにせり出す庇部を設けたものである。
(イ)具体的構成態様として,
(A)容器部上面の庇部は,平面視において外形を略隅丸正方形状とし,左辺上下角部の隅丸形状を上下対称に設け,右辺部上下角部は,僅かに円弧状とした後2連となる右側容器部と接続するミシン目状の切れ目の入った直線部とし,
(B)隅丸正方形凹部は,
(B-1)平面視において,容器部上面の庇部より僅かに上下左右部に余地部を残した隅丸正方形状で,
(B-2)側面視において,高さを容器部全体の半分強とし,底面方向に向け,やや窄まり,上面及び底面側角部を僅かな円弧状とし,
(C)略ハート形凹部は,
(C-1)平面視において,容器中心部に向かう2辺を直角とした直線状部の端部に大きな半円形状を2つ繋げて略ハート形とした同形の凹部4つを隅丸正方形凹部の中心より上下左右対称に配置し,
(C-2)側面視において,高さを容器部全体の半分弱とし,それぞれの略ハート形凹部を約60°の勾配で底面方向に向けて直線的に窄め,底面側角部を僅かな円弧状としたものである。

1-3 甲2意匠
成立に争いのない甲第2号証によれば,甲2意匠は,意匠に係る物品を「包装用容器」とし,「実線で表した部分が部分意匠として意匠登録を受けようとする部分である。一点鎖線は,意匠登録を受けようとする部分とそれ以外の部分との境界のみを示す。」(以下,「甲2実線部分」という。)としたものである。(別紙第2参照)
すなわち,平面視略正方形状の容器部を左右2連とした包装用容器のうち,片方の容器部の下半分の範囲について意匠登録を受けようとするものであるが,意匠法第3条の2の適用にあたって,本件実線部分に相当する範囲(以下,「甲2相当部分」という。)について,表された破線部を含め形態を認定すると,
(ア)基本的構成態様として,
平面視において,全体を略正方形状とし,その中央部分に,外形より一回り小さい隅丸正方形凹部を設け,略ハート形凹部を隅丸正方形凹部の中心より上下左右対称に4つほぼ隅丸正方形凹部一杯に設けたものであり,側面視において,容器全体の高さを略6:1で隅丸正方形凹部と略ハート形凹部を分け,隅丸正方形凹部の上部に僅かにせり出す庇部を設けたものである。
(イ)具体的構成態様として,
(A)容器部上面の庇部は,平面視において外形を略正方形状とし,左辺上下角部は上方角部をやや大きな隅丸形状で,下方角部は小さな隅丸形状とし,右辺部上下角部は,略直線状に角を落とし,
(B)隅丸正方形凹部は,
(B-1)平面視において,容器部上面の庇部より僅かに上下左右部に余地部を残した隅丸正方形状で,
(B-2)側面視において,高さを容器部全体の6/7程度とし,底面方向に向け,やや窄まり,底面側角部を大きな円弧状とし,
(C)略ハート形凹部は,
(C-1)平面視において,容器中心部に向かう2辺を直角とした直線状部の端部に大きな半円形状を2つ繋げて略ハート形とした同形の凹部4つを隅丸正方形凹部の中心より上下左右対称に配置し,
(C-2)側面視において,高さを容器部全体の1/7程度とし,それぞれの略ハート形凹部を弧状にしたものである。

1-4 本件登録意匠と甲2意匠の対比
(1)両意匠の意匠に係る物品について
意匠法第3条の2の適用にあたっては,意匠に係る物品の異同を問うものではないが,本件登録意匠及び甲2意匠の意匠に係る物品は,ともに「包装用容器」であって,両意匠の意匠に係る物品は,一致する。

(2)本件実線部分と甲2相当部分の形態について
(あ)共通点
(ア)基本的構成態様として,
平面視において,全体を略正方形状とし,その中央部分に,外形より一回り小さい隅丸正方形凹部を設け,略ハート形凹部を隅丸正方形凹部の中心より上下左右対称に4つほぼ隅丸正方形凹部一杯に設けたものであり,側面視において,容器全体を隅丸正方形凹部と略ハート形凹部の二段構成とし,隅丸正方形凹部の上部に僅かにせり出す庇部を設けたものである点,
において主に共通する。

(イ)具体的構成態様として,
(A)容器部上面の庇部は,外形を略正方形状とし,左辺上下角部は隅丸形状とした点,
(B)平面視において,容器部上面の庇部より僅かに上下左右部に余地部を残した隅丸正方形状で,側面視において,底面方向に向け,直線的にやや窄め,底面側角部を円弧状とした点,
(C)平面視において,容器中心部に向かう2辺を直角とした直線状部の端部に大きな半円形状を2つ繋げて略ハート形とした同形の凹部4つを隅丸正方形凹部の中心より上下左右対称に配置し,側面視において,それぞれの略ハート形凹部の底面側角部を円弧状としたものである点,
において主に共通する。

(い)相違点
具体的構成態様として,
(a)容器部上面の庇部について,本件実線部分は,外形を略隅丸正方形状とし,左辺上下角部の隅丸形状を対称に設け,右辺部上下角部は,僅かに円弧状とした後,ミシン目状の切れ目の入った直線部としているのに対し,甲2相当部分は,外形を略正方形状とし,左辺上下角部は上方角部をやや大きな隅丸形状で,下方角部は小さな隅丸形状とし,右辺部上下角部は,略直線状に角を落としている点,
(b)隅丸正方形凹部について,本件実線部分は,側面視において,高さを容器部全体の半分強とし,底面方向に向け,やや窄まり,底面側角部を僅かな円弧状としているのに対し,甲2相当部分は,側面視において,高さを容器部全体の6/7程度とし,底面方向に向け,やや窄まり,底面側角部を大きな円弧状としている点,
(c)略ハート形凹部について,本件実線部分は,側面視において,高さを容器部全体の半分弱とし,それぞれの略ハート形凹部を約60°の勾配で底面方向に向けて直線的に窄め,底面側角部を僅かな円弧状としたものであるのに対し,甲2相当部分は,側面視において,高さを容器部全体の1/7程度とし,それぞれの略ハート形凹部を弧状にしたものである点,
において主に相違する。

1-5 本件登録意匠と甲2意匠の類否判断
以上の本件実線部分と甲2相当部分の共通点及び相違点が,両意匠の類否判断に及ぼす影響を評価して,両意匠の類否を意匠全体として総合的に検討する。

(1)共通点の評価
本件実線部分と甲2相当部分の基本的構成態様の共通点は,両部分の形態にのみ見られる新規な特徴とは言えず,この種包装用容器においてごく一般的に見られる特徴である。
また,具体的構成態様における共通点(A)ないし(C)についても,この種包装用容器に見られる一般的な形態であって,特徴とはなり得ず,これら共通点を総合してとらえたとしても,両意匠の類否判断に与える影響は限定的なものである。

(2)相違点の評価
他方,相違点に挙げた各点は,両意匠の類否判断に大きな影響を及ぼすものである。
相違点(a)は,容器全体を平面方向から見た時に,容器の外形に関する相違点であり,包装用容器内に内容物が詰まっていたとしても,看者の目につくところであって,両意匠の類否判断に一定程度の影響を及ぼすものと認められる。
相違点(b)について,本件実線部分と甲2相当部分の隅丸正方形凹部(請求人のいうところの上方容器部)の側面視における高さの相違は,容器を側面から見た時,及び内容物を取り出した後にも目につくところであって,看者が強く注目する部分であって,両意匠の類否判断に大きな影響を及ぼすものである。
相違点(c)について,上記相違点(b)と相まって,そのハート形凹部の高さの相違が目につくところであり,本件実線部分の側面視において看取される直線部分は,当該ハート形凹部を大きな塊として認識する大きな特徴となっているのに対し,甲2相当部分のハート形凹部は,容器底部に設けられた浅いレリーフ模様としてイメージされ,ともに平面視において,容器中心部に向かう2辺を直角とした直線状部の端部に大きな半円形状を2つ繋げて略ハート形とした同形の凹部4つを隅丸正方形凹部の中心より上下左右対称に配置したという,共通点があったとしても,当該部分における相違は決定的なものであって,両意匠の類否判断に極めて大きな影響を与えるものである。
なお,請求人は,甲2相当部分におけるハート形凹部にも直線部分が看取されるというが,隅丸正方形凹部の底面からハート形凹部の角部が略直角につながっているのみであって,本件実線部分のハート形凹部の直線状斜面が看取されるものではなく,当該部位における相違点は明確なものであり,請求人の主張を採用することはできない。

1-6 無効理由1の小括
そうすると,両意匠の意匠に係る物品は,一致するが,本件実線部分と甲2相当部分の形態において,相違点が共通点を凌駕し,意匠全体として需要者に異なる美感を起こさせるものであるから,本件登録意匠は,甲2意匠の一部に類似するものとすることはできない。
したがって,本件登録意匠は,当該意匠登録出願の日前の他の意匠登録出願であって,当該意匠登録出願後に意匠公報に掲載されたものの願書及び願書に添付した図面,写真,ひな形又は見本に現された意匠の一部と同一又は類似であるとは認めることはできない。よって意匠法第3条の2に掲げる意匠には該当せず,無効理由1には,理由がない。

2 無効理由2(本件登録意匠が,先願である甲2意匠と類似するか否か)について

意匠法第9条第1項の適用の検討にあたっては,両意匠の意匠登録を受けようとする部分,すなわち本件実線部分と甲2実線部分の形態について比較する。

2-1 本件登録意匠
本件登録意匠及び本件実線部分の形態については,「1-2.本件登録意匠」に記載のとおりである。

2-2 甲2意匠
甲2意匠は,意匠に係る物品を「包装用容器」とし,「実線で表した部分が部分意匠として意匠登録を受けようとする部分である。一点鎖線は,意匠登録を受けようとする部分とそれ以外の部分との境界のみを示す。」としたものである。
すなわち,平面視略正方形状の容器部を左右2連とした包装用容器のうち,片方の容器部の下半分の範囲について意匠登録を受けようとするものであり,その甲2実線部分の形態は,

(ア)基本的構成態様として,
平面視において,全体を略正方形状とし,その中央部分に,外形より一回り小さい隅丸正方形凹部を設け,略ハート形凹部を隅丸正方形凹部の中心より上下左右対称に4つほぼ隅丸正方形凹部一杯に設けたものであり,
側面視において,容器全体の高さを略6:1で隅丸正方形凹部と略ハート形凹部を分けたものである。

(イ)具体的構成態様として,
(A)隅丸正方形凹部は,
(A-1)平面視において,隅丸正方形状で,
(A-2)側面視において,高さを容器部全体の6/7程度としたもののうち,容器底面から略半分の高さの範囲までを意匠登録を受けようとする部分の範囲とし,境界を示す一点鎖線の直下より底面方向に向け,やや窄まり,底面側角部を大きな円弧状とし,
(B)略ハート形凹み部は,
(B-1)平面視において,容器中心部に向かう2辺を直角とした直線状部の端部に大きな半円形状を2つ繋げて略ハート形とした同形の凹部4つを隅丸正方形凹部の中心より上下左右対称に配置し,
(B-2)側面視において,高さを容器部全体の1/7程度とし,それぞれの略ハート形凹み部を弧状にしたものである。

2-3 本件登録意匠と甲2意匠との対比
(1)本件登録意匠と甲2意匠の意匠に係る物品について
本件登録意匠及び甲2意匠の意匠に係る物品は,ともに「包装用容器」であって,両意匠の意匠に係る物品は,一致する。

(2)本件実線部分と甲2実線部分の用途及び機能について
本願実線部分及び甲2実線部分は,ともにシチュー等固形ルウを収容するための包装用容器の部分に係るものであり,その用途及び機能は一致する。

(3)本件実線部分と甲2実線部分の位置,大きさ及び範囲について
本件実線部分は,平面視略隅丸正方形状の容器部を2連とした包装用容器のうち,片方の容器部について意匠登録を受けようとするものであり,他方,甲2実線部分は,平面視略正方形状の容器部を2連とした包装用容器のうち,片方の容器部の略下半分の範囲について意匠登録を受けようとするものであり,両部分の位置,大きさ及び範囲は相違する。

(4)本件実線部分と甲2実線部分の形態について
(あ)共通点
(ア)基本的構成態様
平面視において,隅丸正方形凹部を設け,略ハート形凹部を隅丸正方形凹部の中心より上下左右対称に4つほぼ隅丸正方形凹部一杯に設けたものであり,側面視において,隅丸正方形凹部と略ハート形凹部の二段構成としたものである点,
において主に共通する。
(イ)具体的構成態様として
(A)側面視において,隅丸正方形凹部は,底面方向に向け,直線的にやや窄め,底面方向角部を円弧状とした点,
(B)平面視において,容器中心部に向かう2辺を直角とした直線状部の端部に大きな半円形状を2つ繋げて略ハート形とした同形の凹部4つを隅丸正方形凹部の中心より上下左右対称に配置し,側面視において,それぞれの略ハート形凹部の底面側角部を円弧状としたものである点,
において主に共通する。

(い)相違点
具体的構成態様として,
(a)隅丸正方形凹部について,本件実線部分は,側面視において,高さを容器部全体の半分強とし,底面方向に向け,やや窄まり,底面側角部を僅かな円弧状としているのに対し,甲2実線部分は,側面視において,高さを容器部全体の6/7程度としたもののうち,容器底面から略半分の高さの範囲までを意匠登録を受けようとする部分の範囲とし,境界を示す一点鎖線の直下より底面方向に向け,やや窄まり,底面側角部を大きな円弧状としている点,
(c)略ハート形凹部について,本件実線部分は,側面視において,高さを容器部全体の半分弱とし,それぞれの略ハート形凹部を約60°の勾配で底面方向に向けて直線的に窄め,底面側角部を僅かな円弧状としたものであるのに対し,甲2実線部分は,側面視において,高さを容器部全体の1/7程度とし,それぞれの略ハート形凹部を弧状にしたものである点,
において主に相違する。

2-4 本件登録意匠と甲2意匠の類否判断
以上の本件実線部分と甲2実線部分の共通点及び相違点が,両意匠の類否判断に及ぼす影響を評価して,両意匠の類否を意匠全体として総合的に検討する。

(1)共通点の評価
本件実線部分と甲2実線部分の基本的構成態様の共通点は,両部分の形態にのみ見られる新規な特徴とは言えず,この種包装用容器においてごく一般的に見られる特徴である。
また,具体的構成態様における共通点(A)及び(B)についても,この種包装用容器に見られる一般的な形態であって,特徴とはなり得ず,これら共通点を総合してとらえたとしても,両意匠の類否判断に与える影響は限定的なものである。

(2)相違点の評価
他方,相違点に挙げた各点は,両意匠の類否判断に大きな影響を及ぼすものである。
相違点(a)について,本件実線部分と甲2実線部分の隅丸正方形凹部の側面視における高さの相違は,甲2実線部分は,側面視において,高さを容器部全体の6/7程度としたもののうち,容器底面から略半分の高さの範囲までを意匠登録を受けようとする部分の範囲であって,本件実線部分とは範囲が異なる上,当該部分は,容器を側面から見た時,及び内容物を取り出した後にも目につくところであって,看者が強く注目する部分であって,両意匠の類否判断に大きな影響を及ぼすものである。
相違点(b)について,上記相違点(a)と相まって,そのハート形凹部の高さの相違が目につくところであり,本件実線部分の側面視において看取される直線部分は,当該ハート形凹部を大きな塊として認識する大きな特徴となっているのに対し,甲2実線部分のハート形凹部は,容器底部に設けられた浅いレリーフ模様としてイメージされ,ともに平面視において,容器中心部に向かう2辺を直角とした直線状部の端部に大きな半円形状を2つ繋げて略ハート形とした同形の凹部4つを隅丸正方形凹部の中心より上下左右対称に配置したという,共通点があったとしても,当該部分における相違は決定的なものであって,両意匠の類否判断に極めて大きな影響を与えるものである。
なお,請求人は,甲2実線部分におけるハート形凹部にも直線部分が看取されるというが,隅丸正方形凹部の底面からハート形凹部の角部が略直角につながっているのみであって,本件実線部分のハート形凹部の直線状斜面が看取されるものではなく,当該部位における相違点は明確なものであり,請求人の主張を採用することはできない。

2-5 無効理由2の小括
そうすると,本件登録意匠は,甲2意匠と物品,並びに意匠登録を受けようとする部分の用途及び機能が一致するが,該部分の位置,大きさ及び範囲が異なり,かつ,本願実線部分と甲2実線部分の形態について,両意匠の相違点が共通点を凌駕し,両意匠は,類似するということはできない。
したがって,本件登録意匠は,同一又は類似する意匠について異なった日に二以上の意匠登録出願があったときは,最先の意匠登録出願人のみがその意匠について意匠登録を受けることができるとした,意匠法第9条第1項の規定には該当せず,無効理由2には,理由がない。


第4 むすび
以上のとおりであるから,請求人の主張する無効理由1及び無効理由2ともに理由はなく,請求人の主張及び証拠方法によっては,本件登録意匠を無効とすることはできない。
審判に関する費用については,意匠法第52条の規定で準用する特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により,請求人が負担すべきものとする。

よって,結論のとおり審決する。
別掲
審決日 2014-01-29 
出願番号 意願2012-12337(D2012-12337) 
審決分類 D 1 113・ 1- Y (F4)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 成田 陽一 
特許庁審判長 原田 雅美
特許庁審判官 江塚 尚弘
橘 崇生
登録日 2012-08-31 
登録番号 意匠登録第1452328号(D1452328) 
代理人 山田 威一郎 
代理人 立花 顕治 
代理人 吉澤 大輔 
代理人 田中 順也 
代理人 吉澤 大輔 
代理人 秋元 輝雄 
代理人 松井 宏記 
代理人 秋元 輝雄 

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