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審判番号(事件番号) データベース 権利
判定2014600010 審決 意匠

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審決分類 審判 判定  同一・類似 属する(申立成立) D3
管理番号 1291588 
判定請求番号 判定2013-600050
総通号数 178 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 意匠判定公報 
発行日 2014-10-31 
種別 判定 
判定請求日 2013-12-09 
確定日 2014-08-18 
意匠に係る物品 首掛けライト 
事件の表示 上記当事者間の登録第1341981号の判定請求事件について,次のとおり判定する。 
結論 イ号意匠は,登録第1341981号意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属する。
理由 第1 請求の趣旨及び理由の要点
1 請求の趣旨
本件判定請求人(以下「請求人」という。)は,結論同旨の判定を求めると申し立て,その理由として,要旨以下のとおりの主張をした。

2 判定請求の必要性
請求人は,本件判定請求に係る意匠登録第1341981号(以下「本件登録意匠」という。)の意匠権者である。
請求人は,5年程前から現在に至るまで,本件登録意匠に基づく製品を継続販売してきたことで,「首掛けライト」市場の開拓・拡張に成功し,販売数量や売上げを伸ばし続けているとともに,グッドデザイン賞等といった数多くの賞を受賞してきた実情にある。
一方,本件判定被請求人(以下「被請求人」という。)は,別紙イ号意匠説明書所載の説明及び同添付の写真に掲載の「首掛けライト」の意匠(以下「イ号意匠」という。)を実施しているが,イ号意匠は本件登録意匠に類似しており,請求人は,前記実情下での被請求人による類似意匠(イ号意匠)の実施行為は,本件登録意匠を明らかに意識した悪質な実施行為であり,本件登録意匠に係る意匠権を侵害するものと確信するが,このことを客観的に立証すべく,高度な専門技術的知識を有する特許庁にその判断を求める。

3 本件登録意匠とイ号意匠との対比
本件登録意匠とイ号意匠とは,いずれも意匠に係る物品が「首掛けライト」であって,その構成態様においては下記共通点と相違点がある。
(1)構成態様の共通点
ア 本件登録意匠とイ号意匠とは,以下の基本的構成態様において共通するものである。
(A)本体部と首掛け部とからなり,
(B)本体部は,正背面視,上方側か窄まり形状で下方側か末広がり形状を呈し,側面視,略滴形状を呈してなり,
(C)本体部の正背面上方には,首掛け部の延長線上に略弧状からなる縁取りが表れてなり,
(D)本体部の下方には,正面側から背面側に掛けて凸曲面形状に形成されてなる透明なカバー部が設けられてなり,
(E)本体部の背面側には,円形凹状部が形成されてなり,
(F)前記カバー部の内側には,略半球形状からなる光源が設けられてなり,
(G)首掛け部は,正背面視,本体部の両上隅から斜め外側上方に延出形成されてなる。
イ さらに,具体的構成態様においても,本件登録意匠とイ号意匠(以下「両意匠」ともいう。)とは,本体部の上方が内側に向く傾斜面状で上辺が正背面視凹円弧状に形成され(α),正面視,カバー部が本体部の左右に余地を残して,正面側に偏らせて設けられてなる点て共通にするほか(β),光源が左右方向に3個設けられてなる点(γ),側面視,首掛け部が本体部から上方へ窄まり状に形成されてなる点でも共通するものである(δ)。
(2)構成態様の相違点
これに対し,両意匠は下記具体的構成態様において相違するものである。
ア 本体部の縁取り
本件登録意匠は,首掛け部の延長線上に位置する本体部上方の縁取りが段差状でないのに対し,イ号意匠は,首掛け部の延長線上に位置する本体部上方の縁取りが段差状である点で相違する。
イ カバー部の正面視形状
本件登録意匠は,正面視,カバー部の外形ラインが凸曲線状を呈してなるのに対し,イ号意匠は,正面視,カバー部の外形ラインが直線状を呈してなる点で相違する。
ウ 光源の大きさ及び配置
本件登録意匠は,左右方向に3個設けられた光源が,密接させて同大で設けられてなるのに対し,イ号意匠は,左右方向に3個設けられた光源が,等間隔で中央を大きく形成して設けられてなる点て,光源の大きさ及び配置を相違する。

4 本件登録意匠とイ号意匠との類否
(1)公知意匠の参酌
本件登録意匠及びイ号意匠に係る「首掛けライト」は,使用者が首から吊り下げて,両手が自由に使える状態で夜道を歩いたりするときなどに使用されるものであるが,本件登録意匠の出願前においては,本件判定請求人が所有する甲第4号証に示す首掛けライト(以下「先行意匠」という。)しか存在しない実情にある。
(2)本件登録意匠の要部
ア 本件登録意匠は,先行意匠に基づいてデザインされたものであるが,先行意匠は,主に手元を自在に照らすことができるように,ライト部(光源)を回転させることで電源のオンオフや照射角度の変更を可能とし,薄さ感のあるシャープなデザイン基調からなる首掛けライトとすべくデザイン創作された実情にある。
イ 前記実情を踏まえて,本件判定請求人は,先行意匠からより一層需要者に対して,首に掛けて使用する際に,使用者の下方に向けて強い光が広範囲に放たれ,使用時に,本体部の上方側が窄まって指で摘みやすい,ソフトで丸みのあるデザイン基調であると強く印象付ける首掛けライトを実現,提供することをコンセプトとして,本件登録意匠をデザイン創作したものである。
ウ 具体的には,本件登録意匠は,本体部と首掛け部とからなることを前提として,正背面視,上方側が窄まり形状で下方側が末広がり形状で,側面視略滴形状に本体部を形成してなるとともに,本体部下方に正面側から背面側に掛けて,凸曲面形状に形成されてなる透明なカバー部を設け,カバー部内側に略半球形状からなる光源を設けてなることで,首に掛けた使用時に,使用者の下方に向けて強い光が広範囲で放たれる首掛けライトを実現したのである。
エ すなわち,本件登録意匠の基本的形態は,正に本件登録意匠の要部であって,従来には全く見られない極めて斬新なデザインで使いやすいとして高く評価され,市場において格別需要者から特徴ある形態として認識されているのである。
(3)本件登録意匠とイ号意匠との類否判断
ア 共通点の評価
(ア)基本的構成態様の共通性
本体登録意匠とイ号意匠とは,その基本的構成態様を共通にするが,本体部下方に,正面側から背面側に掛けて凸曲面形状に形成されてなる透明なカバー部を設け,カバー部内側に略半球形状からなる光源を設けてなる態様は,本体部の上方側が窄まり形状で下方側が末広がり形状を呈してなる正背面視形状と,略滴形状を呈してなる側面視形状と相侯って,下方側が大きくて,首に掛けた使用時に,足元に向けて強い光が広範囲に放たれる首掛けライトであると需要者に強く印象付けてなる点で共通するものである。
また,本体部の側面視形状が略滴形状を呈してなることで,首に掛けた使用時,本体部下方が前方側に向き(甲第5号証),使用者の足元前方に向けて強い光が広範囲に放たれる首掛けライトであると強く印象付けてなる点でも共通するものである。
さらに,本体部の上方側が正背面視窄まり形状に形成され,首掛け部が本体部の両上隅から斜め外側上方に延出形成されてなることで,より一層本体部上方側の窄まり感と本体部下方側の広がり感が際立ち,足元に向けて強い光が広範囲に放たれる印象が強調されるだけでなく,本体部上方側の窄まった部分から斜め外側上方に延出する首掛け部によって括れ形状が強調され,指で摘む部分であると目を惹きつけるとともに,電池交換する等の際に摘みやすいという利便性をも考慮した形状であると印象付けられてなる点についても共通するものである(甲第6号証)。
しかるに,本件登録意匠とイ号意匠とは,形態についての骨格的要素(意匠の要部)において共通し,しかも該共通点はこの種物品分野においては他に見られず,本件登録意匠とイ号意匠の特徴を表すものと認められるから,本体部の正背面上方で首掛け部の延長線上に略弧状からなる縁取りが表れてなる点や,本体部の背面側にスイッチと印象付ける円形凹状部が形成されてなる点等とも相侯って,本件登録意匠とイ号意匠とが,需要者に対して共通した使用感,審美感を与えることは明らかであり,類似するものであることは明白である。
(イ)具体的構成態様の共通性
さらに,本件登録意匠とイ号意匠とは,本体部の上方が内側に向く傾斜面状で上辺が正背面視凹円弧状に形成され(α),正面視,カバー部が本体部の左右に余地を残して,正面側に偏らせて設けられてなる点で共通にするほか(β),光源が左右方向に3個設けられてなる点(γ),側面視,首掛け部が本体部から上方へ窄まり状に形成されてなる点(δ)において,その具体的構成態様においても共通するため,両意匠からはより一層共通した印象が強く生じるものである。
特に,側面視において,首掛け部が本体部から上方へ窄まり状に形成されてなることで,本体部が略滴形状であることが強調されてなるため,本体部下方側が大きく広がった形状であると印象付けられる正面視形状と相侯って,より一層,本体部下方側が大きいと印象付けられ,使用者の足元に向けて強い光が広範囲に放たれる首掛けライトであるとの共通した印象が強調されるのであり,明らかに両意匠は類似するものである。
(ウ)小結
(a)意匠の類否判断については,「意匠の類否を判断するに当たっては,意匠を全体として観察することを要するが,意匠に係る物品の用途,機能,使用態様,公知意匠にない新規な創作部分の存否を参酌し,その意匠の中で需要者の注意を最も引きやすい部分を意匠の要部として把握し,両意匠が要部において構成態様を共通にするか否かを中心に観察して,両意匠が全体として美感を共通にするか否かを判断すべであり,これは物品の部分の意匠についても同様である。」と判断されている(判定2007-600037)。
(b)また,「意匠の類否を判断するに当たっては,意匠を全体として観察することを要するが,この場合,意匠に係る物品の性質,用途,使用態様,更には公知意匠にない新規な創作部分の存否等を参酌して,意匠に係る物品の取引者・需要者の注意を最も惹きやすい部分を意匠の要部として把握し,両意匠が要部において構成態様を共通にするか否かを中心に観察して,両意匠が全体として美感を共通にするか否かを判断すべきものといえる。」と判断されている(平成18年(ワ)第13406号判決)
(c)しかるに,本件登録意匠とイ号意匠は,上記したように,意匠の要部である基本的構成態様を共通にするとともに具体的構成態様のほとんどを共通にしてなるだけでなく,その物品の性質,用途,使用態様(甲第7号証,甲第2号証の1)及び部分意匠としての位置,大きさ,範囲においても共通にしてなるもので,本件登録意匠に係る実施品及びその改良品とイ号意匠は,何れも正面側か需要者に見えるようにパッケージされて陳列販売されてなる実情(甲第8号証乃至甲第10号証),インターネット上で正面側が見えるように販売されてなる実情においても共通にするものある(甲第11号証,甲第2号証の1,2)。
(d)しからば,使用態様や販売状況が共通する実情等にも鑑みれば,正背面視,本体部の上方側が窄まり形状で下方側が末広がり形状に形成され,その下方に正面側から背面側に掛けて凸曲面形状からなる透明なカバー部を設けた構成が際立ち,側面視略滴形状であることや本体部上方の首掛け部延長線上に略弧状からなる縁取りが表れてなること,カバー部内に略半球形状からなる光源が設けられてなることや本体部の背面側に円形凹状部が形成されてなること等とも相侯って,本件登録意匠とイ号意匠とは,需要者に対して,恰もシリーズ商品であると誤認させるほどに共通した印象を与えるものであることは明らかである。
(e)よって,本件登録意匠とイ号意匠の共通点である基本的構成態様は類否判断を左右する大きな要素として,本件登録意匠とイ号意匠の類似性を肯定するには十分な共通点であり,具体的構成態様のほとんどについても共通する以上,本件登録意匠とイ号意匠は明らかに類似するものである。
イ 相違点の評価
(ア)これに対し,本体部の縁取りについての相違点アは,単に段差があるかないかだけの相違であり,全体から生じる共通した印象に影響を与える程の形状相違ではなく,本件登録意匠とイ号意匠の類否判断を左右する相違には到底なり得ない。
(イ)また,カバー部の正面視形状についての相違点イは,共通する基本的構成態様及び具体的構成態様に対して占める割合が小さく,ライトのカバー部外形ラインを正面視,凸曲線状や直線状を呈するようにすることは,ごく一般的な形状変更に過ぎない程度の相違でしかなく,需要者の注意を喚起するものではないため,本件登録意匠とイ号意匠の類否判断を左右するほど格別特徴ある相違ではない。
(ウ)さらに,光源の大きさ及び配置についての相違点ウは,全体に占める割合が小さく,光源が略半球形状に形成されて左右方向に3個設けられてなる共通点に埋没する程度の微差であり,需要者に目立つ相違であると印象付けるものでなく,何ら異なる美感,使用感を与える相違ではないため,いずれも本件登録意匠とイ号意匠の類否判断を左右するほど格別特徴ある相違ではない。
(エ)特に,本件登録意匠及びイ号意匠は,いずれも首から掛けて使用する首掛けライトであるため,上記の相違点は,使用時に両手が自由に使えるとの強烈な印象に影響を与える程の相違ではなく,使用時には使用者の目に触れない部分でもあること等に鑑みても,本件登録意匠とイ号意匠の類否判断を左右するほどの相違でないことは明らかである。

5 むすび
(1)以上のとおり,本件登録意匠とイ号意匠において,共通する基本的構成態様((A)乃至(G))並びに具体的な構成態様((α),(β),(γ),(δ))における共通点は,需要者に共通した審美感,使用感を与えてなるとともに,その意匠的効果を共通にするものであるため,本件登録意匠とイ号意匠の類否判断に極めて大きな影響を与えるのに対し,前記相違点(ア乃至ウ,ただしウについては一部のみ相違)はいずれも類否判断に与える影響が微弱であり,共通点を凌駕するものではないため,格別需要者に別異の意匠としての印象を与える程のものではない。
(2)なお,本件登録意匠とイ号意匠に共通する基本的構成態様のうち,本体部と首掛け部とからなる構成は公知ではあるが,各部の形態における相違点は,上記のように類否判断に与える影響が小さいため,共通する基本的構成態様の一部が公知であっても,なお,その意匠の中で類否判断に与える影響が大きいと考えるのが相当であり,他の共通点と相侯って生じる意匠的効果は,本件登録意匠とイ号意匠の類似性を肯定するほどに大きな影響を与えると考えるのが相当である。
(3)さすれば,イ号意匠は本件登録意匠に類似するものであるため,イ号意匠は本件登録意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属するものであることは明白である。
よって,判定請求の趣旨どおりの判定を求めるものである。

6 証拠方法
(1)甲第1号証 本件登録意匠公報の写し
(2)甲第2号証の1 被請求人のホームページの写し
(3)甲第2号証の2 被請求人のホームページの写し
(4)甲第3号証 本件登録意匠とイ号意匠との対比図
(5)甲第4号証 登録第1222776号意匠公報
(6)甲第5号証 本件登録意匠とイ号意匠の使用状態説明図
(7)甲第6号証 本件登録意匠に係る実施品とイ号意匠の
電池交換時の説明写真
(8)甲第7号証 請求人のホームページの写し
(9)甲第8号証 本件登録意匠に係る実施品のパッケージ状態図
(10)甲第9号証 本件登録意匠に係る改良品のパッケージ状態図
(11)甲第10号証 イ号意匠のパッケージ状態図
(12)甲第11号証 本件登録意匠に係る実施品,改良品の販売状況
を示すホームページの写し


第2 被請求人の答弁の趣旨及び理由の要点
1 答弁の趣旨
被請求人は,「判定請求人の請求に反論する。」と申し立て,反論の理由として要旨以下のとおりの主張をした。

2 被請求人の主張
(1)誤解がある
ア 請求人の判定請求書の根本である「判定請求の必要性」における「実情下での本件判定被請求人による類似意匠(イ号意匠)の実施行為は,本件登録意匠を明らかに意識した悪質な実施行為であり,本件登録意匠に係る意匠権を侵害するものと確信する」とあるが,被請求人はもともとLED全般のOEM商品を輸入・販売しており,シリーズとして既に先に自転車用シリコンLEDライトという商品があり(請求人のシリーズには同様の形状品は無い),派生して夜の歩行者用が欲しいという市場のニーズによって中国取引先から提案を受けたシリコンLEDネックレス商品を2013年4月に一度のみのスポット商品として日本人使用者にわかりやすいようにパッケージングし販売したものである。また,今後の同様商品の発売予定は一切ない。
故に,既に中国にあった工場からの提案製品と既にあったパッケージを日本言語に変えたものを一般消費者の為に一度だけ輸入をしたという事実,かつ被請求人が白紙の状態から企画したものではないという事実から,意識をもって請求人に大きな損害や悪質な意図があったというのは完全な誤解と認識する。
イ 請求人は,LED光源が3個という類似点を意匠の類似の一つの要点に挙げているが,甲第9号証で請求人が自ら挙げているように請求人の「改良品」BF-AF10PシリーズはLED光源が1個のものである。既に生産終了しているLED光源3個の請求人の改良前のもの,かつ,被請求人がSLEDN-P-EL等を輸入した時点で一部ネット上にしか存在していなかったと思われる,旧品である型番BF-977Pを引き合いに出し意匠の類似の要点に挙げるのは,判定人に対して「類似する意匠の範囲に属する」との判定依頼の材料としては誤解を招くものと思われる。更に,甲第11号証にある通り,ヨドバシ.comで「販売終了」となっている事でもわかる通り,市場にほぼ無いBF-977Pシリーズを悪質な意識を持って実施する事は不可能である。
また,既に請求人は双方の商品を個別に比較し類似点を挙げているが,SLEDN-P-ELとBF-AF10Pシリーズを並べて見比べればわかる通り,大きさ自体及び見た目のシリコンの材質からも異なり,上記を含め,意匠の類比判断の要点である「美感を共通にするか否かを判断すべき」という観点から見ると,被請求人の商品の美感は請求人の製品の美感には遠く及ばないと認識する。
(2)間違っている部分がある
ア 「本件登録意匠とイ号意匠との対比」の「構成態様の共通点 ア」にて,本件登録意匠とイ号意匠の基本的構成態様として挙げられているものが全て共通するものである。とあるが,列挙したものは請求人が同じである部分を挙げているに過ぎず,前述の(1)イで述べた通り,見た目で大きく異なる部分があるため,基本的構成態様においても大きく異なる部分がある。
他基本的構成態様は,夜間の歩行者をハンズフリーで守るという観念から設計されれば,普通のネックレスを光らせるという着眼点を大きく外す必要が無く,思い至る自然な設計であると思われる。
また,その「イ 具体的構成態様」において(γ)が共通という事に両製品の市場への発売時期が重複していない事から誤解がある事は前述したとおりであるが,(β)は使用素材と光源を保護する際には最も自然の設計であると考えられる。また,(α)及び(δ)の類似については前述の「普通のネックレスを光らせる」という設計から類似してしかるべき部分であると考えられる。
本件登録意匠は「首掛けライト」という発想点から,ライトを首に掛けるという意味の登録であり,被請求人の商品名「エネルーチェ シリコンLEDネックレスハンズフリー」にもあるように「ネックレスを光らせる」という発想点からの商品とは出発点も異なると考えられることから,夜間の一般消費者の為の製品という着地点において形状が似通う部分があったと考えられる。
イ 判定請求書の「本件登録意匠の要部 ア」にあるように,元となる先行意匠はかなり「シャープなデザイン基調」であり,ライト部も回転するもので用途も「手元」が主である事から,ライト部がかなり大きめなイ号意匠とは全く異なる意匠である。もし本件登録意匠が先行意匠からの派生のアイデアであるならば,本件の根本の類似判定基準が覆るものと思われる。
またイ及びウの全文,特に「下方に向けて強い光が広範囲に放たれ」という記述があるが,これはLED光源が3個の型番BF-977Pシリーズと思われ,(1)イで述べた通り,意識を持って意匠を模倣する意味と,し得る可能性が無いと思われる。
よって,イ及びウが前提として成り立たないのであれば,エは結論としては結べない。
ウ 請求書の「本件登録意匠とイ号意匠との類比判断」について,「ア 共通点の評価」の「(ア)基本的構成態様の共通性」については,前述した通り誤解と誤りが多く,また「需要者に強く印象付けてなる点で共通する」とあるが,当該商品は店頭ではむき出しで陳列される事はほぼ無く,パッケージに入って下げて陳列されているものである。請求人が甲第9号証と甲第10号証で提出しているように,となりに陳列されていても,一般消費者は全くの別会社のものだと容易に判断出来る。以降の第2段落以下は当答弁書で既に述べた通り,前提となる比較対象製品に誤解がある為,認められない。
エ 「(イ)具体的構成態様の共通性」の両意匠の類似については前述した通り疑問点が多いため認められない。
オ 「(ウ)小結」(a)及び(b)において,「両意匠が全体として美感を共通にするか否かを判断すべきであり,これは物品の部分の意匠についても同様である。」とあるが,(1)イの結びでも述べた通り,両意匠の美感は全くと言っていいほど異なるものである。
また,その(c)において「何れも正面側が需要者に見えるようにパッケージされて陳列販売されてなる実情(甲第8証乃至甲第10号証),インターネット上で正面側が見えるように販売されてなる実情においても共通にするものある(原文ママ)(甲第11号証,甲第2号証の1,2)。」とあるが,「商品」を正面を向けて陳列するのは日本においては当然の常識であり,ここで言及すること自体に疑問を感じる。インターネット上も然りであるが,請求人が記述する甲第11号証,甲第2号証の1,2の見せ方が違うのは明白であるにもかかわらず「共通」と言及する事は疑問である。
また(d)においては,「恰もシリーズ商品であると誤認させるほどに共通した印象を与えるものであることは明らかである。」とあるが,前述した通り甲第9号証と甲第10号証がもし隣り合って陳列されていたとして,これだけ,表面の印象と裏面の記載事項の違い,販社及び商品ブランドの違いとその知名度を考えたときに,「シリーズ」と誤認してしまうと言及する請求人の感覚に甚だ疑問を感じる。
これら(a)乃至(d)の全ての疑問点を斟酌すると(e)の結論は希薄であると言わざるを得ない。
カ 判定請求書の「相違点の評価」及び「むすび」は当答弁書でここまで述べてきた誤解・誤り・疑問を加味したうえでの評価のし直しをする必要があると考える。
(3)結論
本件は特許及び実用新案登録ではなく意匠登録であるという観点から,双方の製品の外形が用途や設計から似通う部分があった事は述べた通りであるが,請求人も意識的か無意識か,随所で触れている「用途」及び「市場常識」に主眼を置く事による類似点である事から,本請求の類似箇所は意匠登録の範囲外との判定を求める。


第3 当審の判断
1 本件登録意匠
本件登録意匠(意匠登録第1341981号)は,平成19年(2007年)12月28日に意匠登録出願され,平成20年(2008年)9月19日に意匠権の設定の登録がなされ,願書の記載によれば,意匠に係る物品を「首掛けライト」とし,形態を,願書及び願書に添付した図面に記載されたとおりとしたもので,「薄墨を施している部分以外の部分,及び,実線で表された部分が,部分意匠として意匠登録を受けようとする部分(判定注:以下「本件部分」という。)である。」としたものである。(別紙第1参照)
本件部分は,「首掛けライト」の下部であり,ライト部を下端に設けた本体部と,本体部から伸びた左右の首掛け部の一部から成るものである。
本件部分の形態には,基本的構成態様として,以下の点が認められる。
(1)基本的構成態様について
全体が,扁平な略箱形状の本体部と,その左右上端から斜め上方向に伸びた略紐状の左側首掛け部及び右側首掛け部から成り,正面及び背面において左右対称に表されている。本体部の正面下端に,断面が略半円形状のランプ部が設けられており,側面から見ると,略滴形状の本体部側面部の円弧状の下端がこのランプ部を覆っている。
また,具体的態様として,以下の点が認められる。
(2)具体的態様について
ア 本体部左右下端寄りから左右の首掛け部にかけての構成について
正面から見た本体部の形状は,下端寄りから上方にかけて横幅が僅かに小さくなっていき,最も小さくなった部位(中央やや上)を経て左右の首掛け部に連続しており,本体部左右下端寄りの稜線から左右の首掛け部外縁にかけてのラインが,凹み状に表されている。
イ 本体部正面部及び背面部の形状について
本体部の上端は略弧状に形成されて左右の首掛け部に連続しており,本体部上端の稜線と首掛け部内縁にかけてのラインが,略放物線状に表されている。その略弧状上端の直下はテーパー状に面取りされており,上端寄りには,その面取りの境界として,該ラインよりも曲率の大きい略放物線状の稜線が形成されている。また,本体部下端の横幅は,ランプ部上端の位置から下端にいくにつれて窄まっている。そして,本体部背面部の中央やや下に,スイッチボタン部と推認される僅かに凹んだ略円形部が,二重線状に表されている。
ウ ランプ部の形状について
ランプ部は透明体のカバーで覆われていると推認され,正面から見て,カバーは下端が弧状に膨らんだ略横長矩形状であって左右に本体部の余地部を残して配されており,カバーの内部には,略下向きドーム形状の発光体が三つ横方向に密着して同じ大きさで並んでいる。側面から見ると,カバーが本体部側面部から斜め前方に少しはみ出ており,発光体の先端部分が斜め前方を向いている。
エ 底面から見た本体部の形状について
本体部の厚みが中央にかけて僅かに大きくなっている。また,ランプ部カバーの上下幅が本体部の厚みの約3/4であり,正面側に偏っている。
オ 側面から見た本体部の形状について
本体部側面部の上部の横幅が漸次縮小して首掛け部と連続している。また,底面視中央が僅かに膨出した本体部の稜線が略滴形状側面部からはみ出ている。

2 イ号意匠
請求人は,イ号意匠の形態を特定するにあたり,判定請求書において「イ号意匠の写真及びその説明書」(別紙第2参照)を提出した。
その説明書の記載によれば,イ号意匠の意匠に係る物品は「首掛けライト」である。
なお,本件部分と対比され,類否判断の対象になるイ号意匠の部分は,引用意匠における本件部分に相当する部分(以下「イ号部分」という。)であり,イ号部分の形態は,請求人が提出したイ号意匠の写真に現されたとおりのものである,
イ号部分は,「首掛けライト」の下部であり,ライト部を下端に設けた本体部と,本体部から伸びた左右の首掛け部の一部から成るものである。
イ号部分の形態には,基本的構成態様として,以下の点が認められる。
(1)基本的構成態様について
全体が,扁平な略箱形状の本体部と,その左右上端から斜め上方向に伸びた略紐状の左側首掛け部及び右側首掛け部から成り,正面及び背面において左右対称に表されている。本体部の正面下端に,断面が略半円形状のランプ部が設けられており,側面から見ると,略滴形状の本体部側面部の円弧状の下端がこのランプ部を覆っている。
また,具体的態様として,以下の点が認められる。
(2)具体的態様について
ア 本体部左右下端寄りから左右の首掛け部にかけての構成について
正面から見た本体部の形状は,下端寄りから上方にいくにつれて横幅が漸次小さくなり,最も小さくなった部位(上端寄り)から左右の首掛け部に連続しており,本体部左右下端寄りの稜線から左右の首掛け部外縁にかけてのラインが,略「く」字状に凹んで表されている。
イ 本体部正面部及び背面部の形状について
本体部の上端は略弧状に形成されて左右の首掛け部に連続しており,その略弧状上端の直下がテーパー状に面取りされているが,上端寄りに,その面取りの境界となる稜線は明瞭に現れてはいない。一方で,本体部中央やや上には,略下向き弧状の小さい段差が形成されている。また,本体部下端の横幅は,ランプ部上端の位置から下端にいくにつれて窄まっている。そして,本体部背面部の中央やや下に,スイッチボタン部と推認される僅かに凹んだ略円形部が,二重線状に表されている。
ウ ランプ部の形状について
ランプ部は透明体のカバーで覆われており,正面から見て,カバーは下端が水平の略横長矩形状であって左右に本体部の余地部を残して配されており,カバーの内部には,略下向き半球形状の発光体が中央に一つ,その左右に,それと同形状であるが大きさが約1/2の小発光体が間隔を空けて並んでいる。側面から見て,カバーは本体部側面部からはみ出ていない。
エ 底面から見た本体部の形状について
本体部の上辺及び下辺は直線状であり,厚みは一定である。また,ランプ部カバーの上下幅が本体部の厚みの約11/12であり,正面側に偏っている。
オ 側面から見た本体部の形状について
本体部側面部の上部の横幅が漸次縮小して首掛け部と連続している。また,本体部の稜線は略滴形状側面部からはみ出ていない。

3 本件登録意匠とイ号意匠の対比
(1)意匠に係る物品
本件登録意匠は「首掛けライト」であり,イ号意匠も「首掛けライト」であるので,両意匠の意匠に係る物品は同一である。
(2)本件部分とイ号部分の用途及び機能並びに位置,大きさ及び範囲
本件部分は「首掛けライト」の下部であり,ライト部を下端に設けた本体部と,本体部から伸びた左右の首掛け部の一部から成るものであり,イ号部分も同様であるので,本件部分とイ号部分(以下「両部分」ともいう。)の用途及び機能並びに位置,大きさ及び範囲は共通する。
(3)両部分の形態
両部分の形態を対比すると,主として,以下の共通点と差異点が認められる。
ア 共通点
両部分には,基本的構成態様として,以下の共通点が認められる。
(A)基本的構成態様についての共通点
全体が,扁平な略箱形状の本体部と,その左右上端から斜め上方向に伸びた略紐状の左側首掛け部及び右側首掛け部から成り,正面及び背面において左右対称に表されている。本体部の正面下端に,断面が略半円形状のランプ部が設けられており,側面から見ると,略滴形状の本体部側面部の円弧状の下端がこのランプ部を覆っている。
また,具体的態様として,以下の共通点が認められる。
(B)本体部左右下端寄りから左右の首掛け部にかけての構成についての共通点
正面から見た本体部の形状は,下端寄りから上方にかけて横幅が小さくなり,最も小さくなった部位を経て左右の首掛け部に連続しており,本体部左右下端寄りの稜線から左右の首掛け部外縁にかけてのラインが,凹み状に表されている。
(C)本体部正面部及び背面部の形状についての共通点
本体部の上端は略弧状に形成されて左右の首掛け部に連続しており,その略弧状上端の直下がテーパー状に面取りされている。また,本体部下端の横幅は,ランプ部上端の位置から下端にいくにつれて窄まっている。そして,本体部背面部の中央やや下には,スイッチボタン部と推認される僅かに凹んだ略円形部が,二重線状に表されている。
(D)ランプ部の形状についての共通点
ランプ部は透明体のカバーで覆われており,正面から見て,カバーは略横長矩形状であって左右に本体部の余地部を残して配されており,カバーの内部には,下向きの発光体が三つ横方向に並んでいる。
(E)底面から見た本体部の形状についての共通点
ランプ部カバーの上下幅が本体部の厚みよりも小さく,正面側に偏っている。
(F)本体部側面部の形状についての共通点
本体部側面部の上部の横幅が漸次縮小して首掛け部と連続している。
イ 差異点
一方,両部分には,具体的態様として,以下の差異点が認められる。
(ア)本体部左右下端寄りから左右の首掛け部にかけての構成についての差異点
正面から見た本体部の形状において,下端寄りから上方にかけて横幅が小さくなる態様が,本件部分では僅かであるのに対して,イ号部分では横幅が漸次小さくなっている。そして,横幅が最も小さくなる部位が本件部分では中央やや上であるのに対して,イ号部分では上端寄りである。また,本体部左右下端寄りの稜線から左右の首掛け部外縁にかけての凹み状ラインが,本件部分では略凹弧状であるのに対して,イ号部分では略「く」字状である。
(イ)本体部正面部及び背面部の形状についての差異点
本件部分では,本体部上端の稜線と首掛け部内縁にかけてのラインが略放物線状に表されて,本体部上端寄りには該ラインよりも曲率の大きい略放物線状の稜線が形成されているのに対して,イ号部分では,本体部上端の稜線と首掛け部内縁にかけてのラインが略放物線状ではなく,本体部上端寄りの略放物線状稜線も明瞭には現れておらず,中央やや上には,略下向き弧状の小さい段差が形成されている。
(ウ)ランプ部の形状についての差異点
本件部分のランプ部カバーの正面視下端は弧状に膨らんでおり,カバー内部の発光体の形状が略ドーム形状で密着して同じ大きさで並んでいるのに対して,イ号部分のランプ部カバーの正面視下端は水平であり,カバー内部の発光体の形状が略半球形状で間隔を空けて並んでおり,大きさが小-大-小になっている。また,側面から見ると,本件部分のカバーが本体部側面部から斜め前方に少しはみ出ているが,イ号部分でははみ出ていない。
(エ)底面から見た本体部の形状についての差異点
本件部分の本体部の厚みが中央にかけて僅かに大きくなっているのに対して,イ号部分では厚みは一定である。また,ランプ部カバーの上下幅が本体部の厚みに占める割合は,本件部分では約3/4であるが,イ号部分では約11/12である。
(オ)側面から見た本体部の形状についての差異点
本件部分では本体部の稜線が略滴形状側面部からはみ出ているのに対して,イ号部分でははみ出ていない。

4 本件登録意匠とイ号意匠の類否判断
(1)意匠に係る物品
両意匠は,共に「首掛けライト」であるから,意匠に係る物品は同一である。
(2)両部分の用途及び機能並びに位置,大きさ及び範囲
前記認定したとおり,両部分の用途及び機能並びに位置,大きさ及び範囲は共通する。
(3)形態の共通点の評価
両部分の基本的構成態様の共通点(A)のうち,「全体が,扁平な略箱形状の本体部と,その左右上端から斜め上方向に伸びた略紐状の左側首掛け部及び右側首掛け部から成り,正面及び背面において左右対称に表されている。本体部の正面下端に,断面が略半円形状のランプ部が設けられ」た態様については,判定請求書第6頁において示された本件登録意匠の「先行意匠」(別紙第3参照)により,本件登録意匠の出願前に公知となっていることから,その態様は本件部分にのみ見られる特徴とはいえず,両部分の類否判断に及ぼす影響は小さい。
しかし,その先行意匠においては,側面視本体部中央付近が本件部分に比べて肉厚であり,下端から中央付近にかけての側面視本体部左右稜線が平行線状に表れているので,本件部分のような側面視略滴形状を呈するものとはなっていない。そうすると,両部分の基本的構成態様の共通点(A)のうち,本体部側面部が略滴形状である共通点については,本件部分の特徴であって,看者が特に注意を惹くというべきであるから,この共通点が両部分の類否判断に及ぼす影響は大きい。
同様に,両部分の具体的態様の共通点のうち,「(B)本体部左右下端寄りから左右の首掛け部にかけての構成についての共通点」,すなわち本体部左右下端寄りの稜線から左右の首掛け部外縁にかけてのラインが凹み状に表されている共通点は,その先行意匠には表れておらず,先行意匠では,正面視本体部左右の稜線と左右の首掛け部外縁が単にR曲線状に接続されるに止まっている。両部分に見られる,この凹み状ラインは,造形上の確たる美感を看者に与えるものであり,看者の目を強く惹くものであり,かつ先行意匠には見られない本件部分のみの特徴であることから,(B)の共通点が両部分の類否判断に及ぼす影響は大きい。
そして,「(C)本体部正面部及び背面部の形状についての共通点」のうち,本体部下端の横幅がランプ部上端の位置から下端にいくにつれて窄まっている共通点,及び本体部背面部中央やや下にスイッチボタン部と推認される僅かに凹んだ略円形部が二重線状に表されている共通点と,「(D)ランプ部の形状についての共通点」のうち,ランプ部が透明体のカバーで覆われて,カバーの内部に下向きの発光体が三つ横方向に並んでいる共通点も,上記先行意匠には見られない本件部分のみの特徴であることから,これらの共通点が両部分の類否判断に及ぼす影響は大きい。
一方,「(E)底面から見た形状についての共通点」,すなわちランプ部カバーの上下幅が本体部の厚みよりも小さくて正面側に偏っている共通点は,比較的目立たない部位に関する共通点であるから看者が注視し難く,また,「(F)本体部側面部の形状についての共通点」のうち本体部側面部の上部の横幅が漸次縮小して首掛け部と連続している共通点は,上記先行意匠にも見られる形状であるから看者が特段注目することはないので,これらの共通点が両部分の類否判断に及ぼす影響は小さい。

なお,被請求人は,答弁書第3頁にて「旧品である型番BF-977Pを引き合いに出し意匠の類似の要点に挙げるのは,判定人に対して「類似する意匠の範囲に属する」との判定依頼の材料としては誤解を招く」と主張し,また,同第5頁にて「以降の第2段落以下は?前提となる比較対象製品に誤解がある為,認められない。」と主張するが,そもそも判定制度の趣旨は,判定請求人が登録意匠及びこれに類似する意匠の範囲について特許庁の公式見解を求めるものであって,仮に判定請求時において登録意匠が不実施であったり,代わりに登録意匠の改良品が実施されていたとしても,これらのことは判定請求や判定に何ら関係しないので,被請求人の主張を採用することはできない。
また,被請求人は,答弁書第3頁にて「SLEDN-P-ELとBF-AF10Pシリーズを並べて見比べればわかる通り」と指摘し,また,同第6頁にて「甲第9号証と甲第10号証がもし隣り合って陳列されていたとして」と指摘するが,これらの指摘は,本件登録意匠の改良品とイ号意匠を比較するものであり,この比較によって本件登録意匠とイ号意匠の類否がどのように判断されるかについての言及がないので,被請求人の該指摘による判定請求への反論には理由がない。
(4)形態の差異点の評価
これに対して,具体的態様の差異点については,以下のように,両部分の類否判断に及ぼす影響は小さい。
まず,(ア)の本体部左右下端寄りから左右の首掛け部にかけての構成についての差異は,横幅が小さくなる程度及び最小部位の位置並びに凹み状ラインの形状に関する差異であって,いずれも共通点(B)に包摂される差異であるということができ,特に,凹み状ラインは一定した美感を看者に与えるところ,略凹弧状と略「く」字状の形状の差異はこの美感を損ねて両部分を別異のものとして印象付けるまでには至らず,両部分の類否判断に及ぼす影響は小さい。
次に,(イ)の本体部正面部及び背面部の形状についての差異のうち,本体部上端の稜線と首掛け部内縁にかけての略放物線状ラインの有無の差異については,本件部分に見られる略放物線状ラインが,前記先行意匠にも見受けられることから本件部分のみの特徴とはいえず,看者が殊更その形状に着目するとはいい難い。また,本件部分に見られる,本体部上端寄りの曲率の大きい略放物線状の稜線がイ号部分では明瞭には現れていない差異については,共通点(C)で認定した略弧状上端の直下にあるテーパー状の面取りにおいて,その面取りの境界線の明瞭さに関する差異にすぎず,共にテーパー状の面取りが施されているという共通点を損ねるものではなく,その共通点に埋没する程度の差異であるというべきである。そして,イ号部分の本体部正面部及び背面部の中央やや上に見られる,略下向き弧状の段差についても,それ程大きな段差ではないので看者が注視する程のものではなく,両部分を全体として観察した際に,両部分を別異のものとして印象付けるには至らないというべきである。したがって,(イ)の差異が両部分の類否判断に及ぼす影響は小さい。
さらに,(ウ)のランプ部の形状についての差異は,ランプ部カバー内の発光体の形状と配列に関する差異であって,略ドーム形状と略半球形状とは大差はなく,間隔の有無や左右の発光体の大きさの差異も,両部分を全体として比較した際には,それ程目立つ差異であるということはできない。この点についての請求人の主張「全体に占める割合が小さく,光源が略半球形状に形成されて左右方向に3個設けられてなる共通点に埋没する程度の微差であり,需要者に目立つ相違であると印象付けるものでなく,何ら異なる美感,使用感を与える相違ではない」は首肯し得るものである。したがって,(ウ)の差異が両部分の類否判断に及ぼす影響は小さい。
最後に,(エ)の底面から見た形状についての差異,及び(オ)の側面から見た形状についての差異は,いずれも両部分を特定方向から観察した際にのみ気がつく差異であるから,看者が常にその差異を把握するものではあり得ず,両部分の類否判断に及ぼす影響は極めて小さい。
(5)小括
したがって,両意匠は,意匠に係る物品が同一であり,両部分の用途及び機能,並びに位置,大きさ,及び範囲も共通するものであり,両部分の形態においても,共通点は,看者に対して視覚を通じて一定の美感を与え,両部分の類否判断に支配的な影響を及ぼすものと認められるのに対して,差異点は,いずれも両部分の類否判断に及ぼす影響が小さく,これらが相まって生じる視覚的効果を考慮しても,共通点が看者に与える美感を覆して,両部分を別異のものと印象付けるほどのものとはいえないから,本願意匠は,引用意匠に類似するものと認められる。


第4 むすび
以上のとおりであって,イ号意匠は,本件登録意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属する。

よって,結論のとおり判定する。
別掲
判定日 2014-08-08 
出願番号 意願2007-36205(D2007-36205) 
審決分類 D 1 2・ 1- YA (D3)
最終処分 成立  
前審関与審査官 淺野 雄一郎宗 裕一郎 
特許庁審判長 斉藤 孝恵
特許庁審判官 小林 裕和
綿貫 浩一
登録日 2008-09-19 
登録番号 意匠登録第1341981号(D1341981) 
代理人 浅野 令子 
代理人 野村 慎一 
代理人 藤本 昇 

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