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審決分類 審判 査定不服  1項2号刊行物記載(類似も含む) 取り消して登録 C6
管理番号 1292732 
審判番号 不服2013-22952
総通号数 179 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 意匠審決公報 
発行日 2014-11-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-11-25 
確定日 2014-10-21 
意匠に係る物品 おろし器 
事件の表示 意願2012- 20261「おろし器」拒絶査定不服審判事件について,次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の意匠は,登録すべきものとする。
理由 第1 本願意匠
本願は,平成24年(2012年)8月24日の意匠登録出願であって,その意匠(以下「本願意匠」という。)は,意匠に係る物品を「おろし器」とし,形態を,願書及び願書に添付した図面に記載されたとおりとしたもので,願書の記載によれば,「表裏の両面に取り外し可能なトレーを備えると共に,縁面に三角歯を設けた貫通穴を複数おろし金に設け,貫通穴の三角歯を表裏異なる大きさとする事で食材のすりおろしサイズを表裏で異なる様にした」ものである(別紙第1参照)。

第2 原査定における拒絶の理由及び引用意匠
原査定における拒絶の理由は,本願意匠が意匠法第3条第1項第3号に掲げる意匠(先行の公知意匠に類似するため,同条同項の規定により意匠登録を受けることができない意匠)に該当するとしたものであって,拒絶の理由に引用した意匠は,本願出願前,独立行政法人工業所有権情報・研修館が2012年1月16日に受け入れた,内国雑誌「モノ マガジン 2012年 1月16日2号」第151頁所載の,おろし器の意匠(特許庁意匠課公知資料番号第HA23009149号)である(別紙第2参照)。

第3 本願意匠と引用意匠の対比
1 意匠に係る物品
本願意匠の意匠に係る物品は「おろし器」であり,引用意匠の意匠に係る物品も「おろし器」であるから,本願意匠と引用意匠(以下「両意匠」という。)の意匠に係る物品は同一である。

2 両意匠の形態
両意匠の形態を対比すると,主として,以下の共通点と差異点が認められる。なお,本願意匠の向きに合わせて引用意匠の向きを認定する。
(1)共通点
両意匠には,基本的構成態様として,以下の共通点が認められる。
(A)基本的構成態様について
全体が,略しゃもじ形状のおろし部と,着脱可能なトレー部から成り,平面から見て,おろし部の中央から左方にかけて略左向き倒立角丸台形状のおろし金が嵌め込まれて,右方には幅太の握り部が形成されたものである。
また,具体的態様として,以下の共通点が認められる。
(B)おろし部の態様について
平面から見て,左端は略直線状であって,上端及び下端の形状は,おろし金付近が緩やかな凸弧状に表されて握り部略中央部では凹弧状となり,左右にわたって緩やかな略S字状に形成されている。左端部及び握り部は緑色系で着色されている。
(C)おろし金と刃部の態様について
平面から見て,おろし金の外形は,上端と下端がおろし部の上端と下端に沿うように緩やかな凸弧状に形成されており,左端と右端も凸弧状に膨らんでいる。また,おろし金の内部には,ほぼ全域にわたって,複数の貫通孔が縦に並び,その縦列が横方向に十数個並んで,刃部が構成されている。
(D)おろし金周囲の境界線及び溝部の態様について
平面から見て,おろし金の周囲に,おろし金の外形状とほぼ相似形でやや大きい略左向き倒立角丸台形状の境界線が表されており,おろし金の左端と該境界線の左端の間には余地部が表されている。また,その余地部の上寄りと下寄りの2箇所に略矩形状の溝部が浅く形成されている。
(E)トレーの態様について
トレーの全体形状は略皿形状であって,上端縁部(おろし器に接する部分)の外形形状はおろし金とほぼ相似形でやや大きい略左向き倒立角丸台形状であり,左端に突起部が形成されており,右端には,上方に突出した爪部が形成されている。
(F)握り部とその周辺の形状について
握り部の右端寄りには略円形孔部が1つ設けられており,握り部とおろし金の中間には,トレー右端の爪部を挿入するための略縦長矩形状の開口部が配されている。

(2)差異点
一方,両意匠には,具体的態様として,以下の差異点が認められる。
(ア)おろし部の溝部とその周囲の態様について
平面から見て,本願意匠では,溝部の左側が,おろし部左端部の濃い緑色で着色されている部分に伸長して,白色の矩形状部が表されており,溝部の中間部上下には,該緑色部右端とおろし金周囲の境界線に挟まれて成る,側面視隆起状の出っ張り部が形成されて,この部分にトレー左端の突起部が留まるようになっている。これに対して,引用意匠では,溝部の左側が,おろし金周囲の境界線に接しており,おろし器左端部の蓬色で着色されている部分には伸長しておらず,溝部の左側壁後方部が左方奥に入り込むように延伸し,その延伸部にトレー左端の突起部が留まるようになっている。
(イ)刃部の形状について
平面から見て,本願意匠では,刃部を構成する貫通孔は,全て略縦長長方形状であって,上端と下端は水平状であり,左端と右端が略波状に形成されている。左右幅の狭い貫通孔が縦に並んだ列と,左右幅が広い貫通孔が縦に並んだ列が,横方向に交互に並んで合計14列配されている。これに対して,引用意匠では,貫通孔は全て円形であって,主として,大きな円形の貫通孔が縦に並んだ列と,小さな円形の貫通孔が縦に並んだ2列が,横方向に交互に繰り返されて合計16列配されている。また,引用意匠の大きな円形の貫通孔の左側には,頂点が丸い略左向き三角形状部があり,貫通孔と合わせた外形が略左向き滴形状に表されている。
(ウ)トレーの形状について
本願意匠のトレーは,略鍋底状であって,正面又は側面から見て左右の稜線が傾斜して表れ,底面部には四隅に円形区画部が形成されている。これに対して,引用意匠のトレーは,略平皿状であって,底面部が湾曲しており,四隅に円形区画部は形成されていない。
(エ)おろし金周囲の境界線及び余地部の形状について
平面から見て,本願意匠では,おろし金周囲の境界線が,おろし部の上端と下端のやや内側に設けられており,おろし金の右端と該境界線の右端の間にはごく僅かな余地部が表されている。これに対して,引用意匠では,おろし金周囲の境界線が,おろし部の上端と下端の縁(稜線)に一致しており,おろし金の右端と該境界線の右端の間には広めの余地部が表されて,トレー右端の爪部を挿入するための縦長矩形状部の開口部がその余地部内に配されている。
(オ)握り部の態様について
本願意匠の握り部は濃い緑色で着色されて,左端寄りに略左向きハート模様が白色で表されているが,引用意匠では蓬色に着色されて,そのような模様があるかは不明である。

第4 類否判断
1 意匠に係る物品
前記認定したとおり,両意匠の意匠に係る物品は同一である。

2 形態の共通点の評価
おろし器の通常の使用状態において,看者がおろし器を観察するに当たっては,そのおろし器を全方向から眺めることとなり,おろし部の立体形状について観察するとともに,おろし金やその内側の刃部の形状に特に注意を払うことになる。したがって,おろし器の意匠の類否判断においては,おろし部の立体形状と,おろし金や刃部の形状を評価し,かつそれらを総合して意匠全体として形態を評価することとなる。
そうすると,両意匠の共通点(A)及び(B)で指摘した,おろし部が略しゃもじ形状で上端及び下端が左右にわたって緩やかな略S字状に形成されている共通点は,おろし器の立体形状についての共通点であり,特徴的な形状であって,看者に対して視覚を通じてまとまった一つの美感を与えていることから,看者の注意を惹くというべきであり,この共通点は両意匠の類否判断に影響を及ぼすものである。
また,両意匠の共通点(A),(D)及び(F)で指摘した,おろし部の中央から左方にかけて略左向き倒立角丸台形状のおろし金が嵌め込まれて,おろし金の左方に2つの溝部が形成され,右方に略縦長矩形状の開口部が配されている共通点は,おろし金とその周囲に関する共通点であって,おろし器の実際の使用時において看者が特に注意を払う部分であり,特におろし金の略左向き倒立角丸台形状は一定した美的印象を醸し出していることから,この共通点は両意匠の類否判断に影響を及ぼすこととなる。そして,共通点(E)で指摘した,全体形状が略皿形状で,上端縁部の外形形状がおろし金とほぼ相似形でやや大きい略左向き倒立角丸台形状である共通点も,おろし金の略左向き倒立角丸台形状の印象が強調されることから,両意匠の類否判断に影響を及ぼすといえる。
しかし,両意匠の共通点(C)で指摘した複数の貫通孔は,おろし金の内部のほぼ全域に縦に並んでいる点で共通しているものの,次項で述べるように,両意匠の貫通孔の形状が異なっているので,複数の貫通孔が存在する共通点が両意匠の類否判断に及ぼす影響は小さい。

3 形態の差異点の評価
一方,両意匠の形態の差異点については,以下のとおり評価され,差異点を総合すると,両意匠の類否判断に大きな影響を及ぼすといわざるを得ない。
まず,差異点(ア)については,おろし部の溝部とその周囲が意匠全体に占める面積が小さいことから,両意匠を意匠全体として見たときに,両意匠の美感を異にする程の差異であるとはいえないものの,おろし器左端部の緑色で着色されている部分に伸長された本願意匠の溝部の態様は,その部分のみ観察すれば,溝部中間部上下の出っ張り部の存在とあいまって,引用意匠と比べた際に看者に異なる印象を与えることから,差異点(ア)は,両意匠の類否判断に一定程度の影響を及ぼす。
次に,差異点(イ)については,本願意匠に見られる刃部の貫通孔が全て略縦長長方形状であって,左端と右端が略波状に形成されていることから,引用意匠の刃部とは明らかに異なる形状であり,また,略左向き倒立角丸台形状のおろし金と複数の略縦長長方形状貫通孔の組み合わせは本願意匠に見られる特徴であるから,看者の注意を強く惹くこととなり,おろし金の意匠全体に占める面積も大きいことから,差異点(イ)は両意匠の美感を異にするものというべきであり,差異点(イ)が両意匠の類否判断に及ぼす影響は大きい。
そして,差異点(ウ)については,おろし器の分野において,略鍋底状のトレーを有する意匠が本願の出願前に既に見受けられるので(特許庁意匠課公知資料番号HH15020600。別紙第3参照。),略鍋底状のトレーが本願意匠固有の特徴ではないこと,及び底面部四隅に形成された円形区画部が小さいものであって目立たないことから,本願意匠の略鍋底状トレーの形状に対しては看者はそれ程注目することはないものの,本願意匠のトレーがおろし部の表裏の両面に取り付け可能なものであることを考慮すると,看者は本願意匠のトレーに対して一定の注意を払うといえることから,差異点(ウ)は,本願意匠の引用意匠に対する差異として,両意匠の類否判断に及ぼす影響は一定程度認められる。
他方,差異点(エ)については,おろし金周囲の境界線の配置態様に関する差異であって,両意匠の境界線は大きな段差を形成するものでも特異な面分割を呈するものでもなく,また,境界線形状が両意匠共におろし金の外形状とほぼ相似形でやや大きい略左向き倒立角丸台形状であるから,おろし金の外形状の共通点を損ねるものではないので,差異点(エ)が両意匠の類否判断に及ぼす影響は小さい。また,差異点(オ)についても,本願意匠に見られる白色の略左向きハート模様は,握り部に占める面積が小さく,かつハート模様自体がありふれた模様であることから,看者がことさらその模様に注目するとはいい難く,濃い緑色と蓬色は共に緑色系であってむしろ共通しているというべきであるから,差異点(オ)が両意匠の類否判断に及ぼす影響は小さい。
そうすると,(ア)ないし(ウ)の差異点は,いずれも両意匠の類否判断に影響を及ぼすものであり,特に,差異点(イ)が両意匠の類否判断に及ぼす影響は大きいことから,両意匠の差異点は共通点を凌ぐものであるということができる。

4 小括
したがって,両意匠は,意匠に係る物品が同一であるが,両意匠の形態においては,共通点が両意匠の類否判断に及ぼす影響は一定程度認められるものの,差異点を総合すると両意匠の類否判断に及ぼす影響は大きく,共通点が看者に与える美感を覆して両意匠を別異のものと印象付けるものであるから,本願意匠は,引用意匠に類似するということはできない。

第5 むすび
以上のとおり,本願意匠は,原査定の引用意匠をもって意匠法第3条第1項第3号に掲げる意匠に該当するということはできないから,同法同条同項の規定によって本願を拒絶すべきものとすることはできない。
また,当審において更に審理した結果,他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり審決する。
別掲
審決日 2014-10-09 
出願番号 意願2012-20261(D2012-20261) 
審決分類 D 1 8・ 113- WY (C6)
最終処分 成立  
前審関与審査官 温品 博康 
特許庁審判長 斉藤 孝恵
特許庁審判官 小林 裕和
綿貫 浩一
登録日 2014-10-31 
登録番号 意匠登録第1512971号(D1512971) 
代理人 特許業務法人湘洋内外特許事務所 

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