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審決分類 審判 判定  同一・類似 属さない(申立不成立) K1
管理番号 1299415 
判定請求番号 判定2013-600049
総通号数 185 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 意匠判定公報 
発行日 2015-05-29 
種別 判定 
判定請求日 2013-12-02 
確定日 2015-04-10 
意匠に係る物品 包丁研ぎホルダ 
事件の表示 上記当事者間の登録第1214723号の判定請求事件について,次のとおり判定する。 
結論 イ号図面及びその説明書に示す意匠は,登録第1214723号意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属しない。
理由 第1 請求の趣旨及び理由の要点

1.請求の趣旨
イ号図面及びその説明書に示す意匠は,登録第1214723号意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属する,との判定を求める。

2.請求の理由
(1)判定請求の必要性
本件判定請求人(株式会社清水製作所)は,本件判定請求に係る登録意匠「包丁研ぎホルダ」(甲第1号証,以下「本件登録意匠」という。)の意匠権者である。
イ号図面及びその説明書に示す意匠(甲第2号証,以下「イ号意匠」という),即ち,本件判定被請求人(ナニワ研磨工業株式会社)が現在販売している「研げるよ!クリップ」という製品名の包丁研ぎ用クリップ(イ号物品)は,本件登録意匠の意匠権を侵害するものであるので,本件判定請求人は,平成24年11月2日付で「イ号物品は,本件登録意匠の範囲に属する」旨の見解書(甲第3号証)を本件判定被請求人に送付した。
これに対して,本件判定被請求人は,平成24年12月8日付の見解書(甲第4号証)において,「イ号物品は,本件登録意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属さない」旨主張している。
このため,本件判定請求人は,平成24年12月19日に文書(甲第5号証)にて,イ号物品の販売を継続する場合には必要な措置を講じる旨,本件判定被請求人に申し伝えた。しかるに,本件判定被請求人は,依然としてイ号物品の販売を継続している。
このため,本件判定請求人は,特許庁による判定を求める。

(2)本件登録意匠の手続の経緯
出願 平成15年7月22日(意願2003-21098号)
登録 平成16年7月2日(意匠登録第1214723号)

(3)本件登録意匠の説明
本件登録意匠は,意匠に係る物品を「包丁研ぎホルダ」とし,その形態の要旨を次のとおりとする。

ア 基本的な構成態様
本件登録意匠は,包丁を嵌挿するための嵌挿部と,細長に形成され包丁を嵌挿部に嵌挿した状態で砥石に対して所定の傾斜角で保持する本体部と,からなる。

イ 具体的な構成態様
嵌挿部は,包丁非嵌挿時には略五角形状の間隙となるように形成され,本体部は,長さ方向両端部が上方から下方に向けて長さ方向に長くなるように略細長台形状に形成され,中央部から上部は肉厚であり本体部の中央部から先端側に向けて段差を有しながら肉薄になっており全体として略楔状に形成され,幅方向上部には長さ方向に直方体のセラミックが嵌着され,包丁嵌挿側の長さ方向両端部は包丁を嵌挿し易くするためのテーパが形成され,包丁の峰が当接する当接側の長さ方向両端部はV字状の切欠きが形成されている。なお,セラミック以外は樹脂で一体成型されている。

(4)イ号意匠の説明
イ号意匠は,製品名を「研げるよ!クリップ」とし,その形態の要旨を次のとおりとする。

ア 基本的な構成態様
イ号意匠は,包丁を嵌挿するための嵌挿部と,包丁を嵌挿部に嵌挿した状態で砥石に対して所定の傾斜角で保持する本体部と,からなる。

イ 具体的な構成態様
嵌挿部は,包丁非嵌挿時には略五角形状の間隙となるように形成され,本体部は,細長に形成され,長さ方向両端部が上方から下方に向けて長さ方向に短くなるように略逆台形状に形成され,中央部から上部は肉厚であり本体部の中央部から先端側に向けて段差を有さずに肉薄になっており全体として略楔状に形成され,幅方向上部には長さ方向に円柱体のセラミックが嵌着され,包丁嵌挿側の長さ方向両端部は包丁を嵌挿し易くするためのテーパが形成され,包丁の峰の当接側の長さ方向両端部は凹字状の切欠きが形成されている。

(5)本件登録意匠とイ号意匠との比較説明
ア 両意匠の共通点
(ア)両意匠は,共に包丁の峰の部分に嵌挿して使用するものであり,かつ,砥石に対して所定の角度を保持しつつ包丁を研ぐものであるので,意匠に係る物品が「包丁研ぎホルダ」で一致している。
(イ)基本的な構成態様において,包丁を嵌挿するための嵌挿部と,包丁を嵌挿部に嵌挿した状態で砥石に対して所定の傾斜角で保持する本体部と,からなる。
(ウ)具体的な構成態様において,嵌挿部は,包丁非嵌挿時には略五角形状の間隙となるように形成され,本体部は,長さ方向両端部が上方から下方に向けて長さ方向に長短を有するように形成され,中央部から上部は肉厚であり本体部の中央部から先端側に向けて肉薄になっており全体として略楔状に形成され,幅方向上部には長さ方向にセラミックが嵌着され,包丁嵌挿側の長さ方向両端部は包丁を嵌挿し易くするためのテーパが形成され,包丁の峰の当接側の長さ方向両端部は切欠きが形成されている。

イ 両意匠の差異点
(ア)本体部が,本件登録意匠は,長さ方向両端部が上方から下方に向けて長さ方向に長くなるように形成されているのに対して,イ号意匠は,長さ方向両端部が上方から下方に向けて長さ方向に短くなるように形成されている。
(イ)幅方向上部に長さ方向にわたって嵌着されるセラミックは,本件登録意匠は,直方体であるのに対して,イ号意匠は,円柱体である。
(ウ)当該セラミックの長さ方向両端部は,本件登録意匠は,本体部両端から露出していないのに対して,イ号意匠は,当該セラミックの長さ方向の一端部が本体部から露出している。
(エ)本体部の中央部から先端側に向けて,本件登録意匠は,段差を有しているのに対し,イ号意匠は段差を有していない。
(オ)包丁の峰の当接側の長さ方向両端部は,本件登録意匠は,V字状の切欠きが形成されているのに対して,イ号意匠は,凹字状の切欠きが形成されている。

(6)イ号意匠が本件登録意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属する理由の説明
ア 本件登録意匠に関する先行周辺意匠
公知資料1 意匠登録第670276号公報(甲第6号証)
公知資料2 実開平5-51551号公開公報(甲第7号証)

イ 本件登録意匠の要部
上記先行周辺意匠をもとに本件登録意匠の創作の要点について述べれば,この種物品における意匠上の創作の主たる対象は,五角形の形状を有する嵌挿部,並びに,上部から先端部に向けて肉厚が薄くなり略襖状に形成される本体部,本体部の包丁嵌挿側の長さ方向両端部に形成されるテーパ,および,本体部の上部に長さ方向に嵌着されるセラミック,等の本体部および嵌挿部の態様が相侯って,本件登録意匠全体の基調を表出している。

ウ 本件登録意匠とイ号意匠との類否の考察
そこで,本件登録意匠とイ号意匠の共通点及び差異点を比較検討するに,
(ア)両意匠の共通点は,基本的な構成態様および具体的な構成態様に係るものであり,特に,本件登録意匠の要部である五角形の嵌挿部の形状,上部から先端部に向けて肉厚が薄くなり略楔状に形成される本体部の形状,本体部の包丁嵌挿側の長さ方向両端部に形成されるテーパ,本体部の上部に長さ方向に嵌着されるセラミックの態様が共通しており,これらは,両意匠の類否の判断に大きな影響を与えるものである。

(イ)両意匠の差異点(ア)については,本件登録意匠と異なり,イ号意匠は,長さ方向両端部が上方から下方に向けて長さ方向に短くなるように形成されているが,その差異は,長短を逆にしたに過ぎず,上記共通性の中では両者の共通の印象を変更する程の特段顕著な差異とは言えない。むしろ,その共通性故に,看る者をして両者をシリーズ製品と見紛わせる程のものであると言える。したがって,その差異が類否の判断に与える影響は小さいものである。差異点(イ)及び差異点(ウ)については,嵌着されるセラミックが直方体か円柱体かの相違,また,当該セラミックが長さ方向一端部に露出しているか否かの相違はあるものの,本体部全体におけるセラミックの大きさや嵌着方向あるいは配置位置の共通性を勘案すると,その共通性の中では両者の共通の印象を変更する程の特段顕著な差異とは言えない。この点においても特段顕著な相違といえず,類否の判断に与える影響は微弱である。差異点(エ)及び差異点(オ)については,本体部の段差の有無や切欠の形状の相違はあるものの,これらの段差や切欠を設けることはこの種物品において常套的な手法であって,また,物品の大きさ(包丁の峰の一部に嵌挿される程の大きさでしかない)からしても,それらの相違は全体としてさほど全体形状に影響を与えるものではないことから,この点においても特段顕著な相違といえず,類否の判断に与える影響は微弱である。

(ウ)以上の認定,判断を前提として両意匠を全体的に考察すると,両意匠の差異点は,類否の判断に与える影響はいずれも微弱なものであって,共通点を凌駕しているものとはいえず,それらが纏まっても両意匠の類否の判断に及ぼす影響は,その結論を左右するまでには至らないものである。

(7)むすび
したがって,イ号意匠は,本件登録意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属するので,請求の趣旨どおりの判定を求める。

3.証拠方法
(1)本件登録意匠の登録意匠公報の写し(甲第1号証)
(2)イ号意匠(イ号図面及びその説明書)(甲第2号証)
(3)請求人の見解書の写し(甲第3号証)
(4)被請求人側の見解書の写し(甲第4号証)
(5)請求人から被請求人への申し送り文書の写し(甲第5号証)
(6)先行周辺意匠(甲第6号証及び甲第7号証)


第2 判定被請求人の答弁

被請求人は,平成26年2月5日付けで答弁書を提出し,以下の要旨を主張した。

1.答弁の趣旨
イ号図面及びその説明書に示す意匠は,意匠登録第1214723号及びこれに類似する意匠の範囲に属さない,との判定を求める。

2.答弁の理由
(1)はじめに
請求人は,平成24年11月2日付けの「イ号物品は,本件登録意匠の範囲に属する」旨の見解書(甲第3号証)を被請求人に送付し,平成24年12月19日付けの文書(甲第5号証)にて,イ号物品の販売を継続する場合には必要な措置を講じる旨を被請求人に申し伝えたとし,被請求人がその後も依然としてイ号物品の販売を継続するとして,本件判定請求を請求するに至っている(判定請求書「2.請求の理由(1)判定請求の必要性」)。
しかしながら,請求人による平成24年11月2日付けの「イ号物品は,本件登録意匠の範囲に属する」旨の見解書(甲第3号証)が送付された直後の平成24年11月15日に,被請求人はイ号意匠に係る意匠登録出願を行っており,当該イ号意匠は意匠登録第1467972号(乙第1号証)として意匠登録されるに至っているのであるから,両意匠が非類似であることは明白である。
更に,敷衍するに,イ号図面及びその説明書に示す意匠(甲第2号証)に使用される6面図,A-A線断面図及び使用状態を示す参考斜視図は,乙第1号証の図面といずれも同一である。しかるに,上記のとおり,本件登録意匠と乙第1号証に係る登録意匠は非類似であることから,本件登録意匠とイ号物品との関係においても,両者が非類似であることが裏付けられる。

(2)本件登録意匠とイ号意匠の要旨
ア 本件登録意匠の要旨
本件登録意匠は,意匠に係る物品を「包丁研ぎホルダ」とし,その形態は以下のとおり特定される。

(ア)基本的構成態様
a 包丁を嵌挿するための嵌挿部と,包丁の背部を嵌挿部に嵌挿した状態で包丁の刃先を砥石に対して所定の角度で維持する横長の本体部とからなるホルダである。

b 正面視において,本体部の略中央部より上方位置に保持部が設けられており,当該保持部により包丁の刃先を砥石に対して所定の角度で維持できるようになっている。

c 側面視において,本体部は全体として略楔状に形成されている。

(イ)具体的構成態様
a 正面視において,本体部の両端部が上方から下方に向けて長さ方向に長くなるよう略弓状に形成され,各角部は丸みを帯びている。

b 正面視において,本体部における保持部の位置に,両端部が本体部の両端部から露出しないよう横方向にセラミックが嵌着されている。

c 側面視において,本体部の上方から下方にかけて段差を有してなる保持部の両端面であって,当該保持部の両端面から略長方形状のセラミックが微小に突出するように嵌着され,四角柱状に形成されるセラミック以外の本体部が一体成型されている。

d 側面視において,略中央部より上方部の保持部が肉厚であり,先端側に向けて肉薄であり,本体部における上端面の略中央部が頂点となるよう略Ω状に形成されている。

e 側面視において,嵌挿部は包丁の背部に装着し得るよう略五角形状に形成されている。

f 平面視において,本体部における横方向の両端部に略V字状の切欠部が形成されている。

イ イ号意匠の要旨
イ号意匠は,意匠に係る物品を「包丁研ぎホルダ」とし,その形態は以下のとおり特定される。

(ア)基本的構成態様
a 包丁を嵌挿するための嵌挿部と,包丁の背部を嵌挿部に嵌挿した状態で包丁の刃先を砥石に対して所定の角度で維持する横長の本体部とからなるホルダである。

b 正面視において,本体部の略中央部より上方位置に保持部が設けられており,当該保持部により包丁の刃先を砥石に対して所定の角度で維持できるようになっている。

c 側面視において,本体部は全体として略楔状に形成されている。

(イ)具体的構成態様
a 正面視において,本体部の両端部が上方から下方に向けて長さ方向に短くなるよう略く字状に形成され,下方の角部は丸みを帯びている。

b 正面視において,本体部における保持部は,その一端部が本体部の一端部に露出するよう横方向に嵌着されるセラミックである。

c 側面視において,本体部の上方から下方にかけて略平坦状の本体部の両端面から略半円状にセラミックが大きく突出するように嵌着され,円柱状に形成されるセラミック以外の本体部が一体成型されている。

d 側面視において,略中央部より上方部の本体部が肉厚であり,先端側に向けて肉薄であり,本体部における上端面の略中央部が頂点となるようなだらかな円弧状に形成されている。

e 側面視において,嵌挿部は包丁の背部に装着し得るよう略五角形状に形成されている。

f 平面視において,本体部における横方向の両端部に略コ字状の切欠部が形成されている。

3.本件登録意匠とイ号意匠との対比
(1)物品について
本件登録意匠及びイ号意匠は,ともに包丁の背部に装着し,包丁の刃先を砥石に対して所定の角度で維持して包丁を研ぐ際に使用される「包丁研ぎホルダ」と認められるものであるから,意匠に係る物品が一致するものである。

(2)形態について
ア 両意匠の共通点
本件登録意匠とイ号意匠とを対比すると,両意匠は基本的構成態様について,以下の共通点が認められる。

(ア)包丁を嵌挿するための嵌挿部と,包丁の背部を嵌挿部に嵌挿した状態で包丁の刃先を砥石に対して所定の角度で維持する横長の本体部とからなるホルダである点。

(イ)正面視において,本体部の略中央部より上方位置に保持部が設けられており,当該保持部により包丁の刃先を砥石に対して所定の角度で維持できるようになっている点。

(ウ)側面視において,本体部は全体として略楔状に形成されている点。

両意匠は具体的構成態様について,以下の共通点が認められる。

(エ)正面視において,本体部の略中央部より上方位置に横方向にセラミックが嵌着されている点。

(オ)側面視において,セラミック以外の本体部がー体成型されている点。

(カ)側面視において,略中央部より上方部が肉厚であり,先端側に向けて肉薄である点。

(キ)側面視において,包丁の背部に装着し得るよう略五角形状の間隙が形成されている点。

イ 両意匠の差異点
本件登録意匠とイ号意匠とを対比すると,両意匠は以下の差異点が認められる。

(ア)正面視において,本件登録意匠は,本体部の両端部が上方から下方に向けて長さ方向に長くなるよう略弓状に形成され,各角部は丸みを帯びているのに対し,イ号意匠は,本体部の両端部が上方から下方に向けて長さ方向に短くなるよう略く字状に形成され,下方の角部は丸みを帯びている点。

(イ)正面視において,本件登録意匠は,本体部における保持部の位置に,両端部が本体部の両端部から露出しないよう横方向にセラミックが嵌着されているのに対し,イ号意匠は,本体部における保持部が,その一端部が本体部の一端部に露出するよう横方向に嵌着されるセラミックである点。

(ウ)側面視において,本件登録意匠は,本体部の上方から下方にかけて段差を有してなる保持部の両端面であって,当該保持部の両端面から略長方形状のセラミック(全体として四角柱状)が微小に突出するように嵌着されるのに対し,イ号意匠は,本体部の上方から下方にかけて略平坦状の本体部の両端面から略半円状にセラミック(全体として円柱状)が大きく突出するように嵌着されている点。

(エ)側面視において,本件登録意匠は,略中央部より上方部の保持部が肉厚であり,本体部における上端面の略中央部が頂点となるよう略Ω状に形成されているのに対し,イ号意匠は,略中央部より上方部の本体部が肉厚であり,本体部における上端面の略中央部が頂点となるようなだらかな円弧状に形成されている点。

(オ)平面視において,本件登録意匠は,本体部における横方向の両端部に略V字状の切欠部が形成されているのに対し,イ号意匠は,本体部における横方向の両端部に略コ字状の切欠部が形成されている点。

ウ 両意匠の類否判断
本件登録意匠とイ号意匠における共通点と差異点が意匠全体として両意匠の類否判断に与える影響を評価し,検討する。

(ア)共通点の評価
本件登録意匠及びイ号意匠は,その形態について,上記(2)アの共通点が認められるものであるが,以下のとおり,これらが類否判断に与える影響は小さいものである。
共通点(ア)から共通点(ウ)は,意匠の骨格的形態であり,意匠の基本的構成態様が共通するものであるが,この種の包丁研ぎホルダとする物品にありふれて見られる形態であるから,需要者の注意を引くものではなく,意匠的な特徴として希薄なものであり,当該共通点が類否判断に与える影響は小さいものである。
また,共通点(エ)から共通点(カ)についても,甲第6号証又は甲第7号証に記載されるように,本件登録意匠の出願前から見られるありふれた形態であって,需要者の注意を引くものではなく,当該共通点が類否判断に与える影響は小さいものである。
また,共通点(キ)については,少なくとも甲第6号証及び甲第7号証に記載されるものではないが,包丁研ぎホルダとしての機能に基づき,単に包丁の背部を挿入し得る形状であるから,需要者の注意を引くものではなく,意匠的な特徴として希薄なものであり,当該共通点が類否判断に与える影響は小さいものである。
以上,共通点(ア)から共通点(キ)については,いずれも類否判断に与える影響は小さく,また,それらが相まった印象についても,両意匠が類似するという印象を強く与える程ではなく,共通点が両意匠の類否判断に与える影響は小さいといえる。

(イ)差異点の評価
一方で,上記(2)イの差異点が認められるものであるが,以下のとおり,これらが類否判断に与える影響は大きいものである。
差異点(ア)について,本件登録意匠は,本体部の両端部が上方から下方に向けて長さ方向に長くなるよう略弓状に形成され,各角部は丸みを帯びており,全体として丸みを帯びた幅広な印象であるのに対し,イ号意匠は,本体部の両端部が上方から下方に向けて長さ方向に短くなるよう略く字状に形成され,下方の角部は丸みを帯びており,全体としてコンパクトな印象であって,全体として丸みを帯びた印象が感じられないことから,当該差異点が類否判断に与える影響は極めて大きいものである。このことは,甲第2号証に記載されるイ号物品の製品パッケージの構成,乙第2号証に記載される本件登録意匠の製品パッケージの構成,及び乙第3号証からしても,需要者等が格別に注意を惹く部分であるといえる。請求人は,当該差異点について,両者がシリーズ製品であると見紛らわせる程であると主張するが,シリーズ製品であればこのような差異点をあえて設ける必要性はなく,当該差異点は,むしろ,シリーズ製品とは全く関連性のない別製品であることを感じさせる程である。
また,差異点(イ)及び差異点(ウ)について,本体部の上方から下方にかけて段差を有してなる保持部の両端面であって,当該保持部の両端面から略長方形状のセラミック(全体として四角柱状であって,その両端部が本体部の両端部から露出しない。)が微小に突出するように嵌着されるのに対し,イ号意匠は,本体部の上方から下方にかけて略平坦状の本体部の両端面から略半円状にセラミック(全体として円柱状であって,その一端部が本体部の一端部に露出している。)が大きく突出するように嵌着されており,この種の包丁研ぎホルダとする物品の使用時には,需要者が関心を持つ部分に係る差異である。すなわち,イ号意匠においては,包丁の刃先を砥石に対して所定の角度で維持できるようにする保持部を本体部の段差等で設けることなく,保持部そのものをセラミックとした形態であって,先行意匠においても見られることのない新規且つ斬新な形態であって,当該差異点が類否判断に与える影響は大きいものである。
また,差異点(エ)について,本件登録意匠は,略中央部より上方部の保持部が肉厚であり,本体部における上端面の略中央部が頂点となるよう略Ω状に形成されているのに対し,イ号意匠は,略中央部より上方部の本体部が肉厚であり,本体部における上端面の略中央部が頂点となるようなだらかな円弧状に形成されており,この種の包丁研ぎホルダとする物品の使用時には,包丁を装着する際に着目し得る形態であって,需要者が関心を持つ部分に係る差異であり,先行意匠においても見られることのない具体的な形態が異なるものであるから,当該差異点が類否判断に与える影響は大きいものである。
更に,差異点(オ)について,本件登録意匠は,本体部における横方向の両端部に略V字状の切欠部が形成されているのに対し,イ号意匠は,本体部における横方向の両端部に略コ字状の切欠部が形成されており,この種の包丁研ぎホルダとする物品の使用時には,差異点(ア)と相侯って,イ号意匠に関しては,甲第2号証に記載される「研げるよ!クリップの使い方」に示すように,包丁の背部に対してあてがいやすい,すなわち,包丁の背部を極めて誘導しやすい形態としたものであって,乙第2号証に記載される本件登録意匠における製品の使用方法と比較して,包丁を装着する際の作業性が大きく異なることから,需要者が関心を持つ部分に係る差異であり,当該差異点が類否判断に与える影響は大きいものである。

(ウ)小括
したがって,本件登録意匠とイ号意匠は,意匠に係る物品は一致するが,その形態においては,差異点が類否判断に与える影響は大きく,共通点が類否判断に与える影響を凌駕しており,両意匠に別異の感を生じさせるものであるから,意匠全体として,イ号意匠は本件登録意匠に類似するものではない。

4.むすび
以上のとおりであるから,イ号図面及びその説明書に示されたイ号意匠は,意匠登録第1214723号及びこれに類似する意匠の範囲に属さない。
よって,本件判定請求答弁書の趣旨に記載のとおりの判定を求める。

5.証拠方法
(1)意匠登録第1467972号(登録意匠公報の写し)(乙第1号証)
(2)本件登録意匠の製品パッケージの写し(乙第2号証)
(3)本件登録意匠の製品とイ号物品との比較(乙第3号証)


第3 判定請求人の弁駁

請求人は,平成26年7月25日付けで答弁書に対する弁駁書を提出し,以下の要旨を主張した。

1.弁駁の具体的な理由
(1)はじめに
被請求人は,本件登録意匠とイ号意匠の両意匠の共通点(ア)?共通点(キ)については,これらの共通点は需要者の注意を引くものではなく,意匠的な特徴として希薄であり,類否判断に与える影響は小さいと主張している。
また,両意匠の差異点(ア)?差異点(オ)については,需要者が格別に注意を引く部分あるいは需要者が関心を持つ部分であるところの差異であり,この差異点が類否判断に与える影響は大きいと主張している。
そして,本件登録意匠とイ号意匠の差異点の類否判断の影響が共通点の類否判断の影響を凌駕しており,両意匠に別異の感を生じさせるものであるから,イ号意匠は本件登録意匠に類似しない,と主張している。
しかし,この被請求人の主張は以下の理由により不当である。

(2)共通点(エ)の評価に対して
被請求人は,共通点(エ)の評価において,セラミックが嵌挿されていることが本件登録意匠の出願前から見られるありふれた形態であるとしているが,請求人が鋭意調査した限りでは,本件登録意匠の出願日前にセラミックが本体部に嵌挿されている包丁研ぎホルダは見出すことができなかった。したがって,このセラミック部分がありふれたものであると言うことは出来ない。
このセラミックは,包丁研ぎホルダの長寿命化や角度を常に一定に保たせるための条件であり,実際の販売においてはこのセラミック部分が需要者に一番訴えかけられる部分となり,また,この部分が包丁研ぎホルダを購入する需要者のもっとも注意を引く部分となる。
その1つの証左として,被請求人自身も,差異点(イ)及び差異点(ウ)の評価において,このセラミックの部分が「この種の包丁研ぎホルダの使用時には,需要者が関心を持つ部分である。」(答弁書第10頁第10行?第11行)と主張している。
そうとすれば,この需要者が関心を持つ部分であるセラミック部分の共通点は,本件登録意匠とイ号意匠の類否判断に大きく影響を与えることになる。
よって,この共通点が類否判断に与える影響は小さい,とする被請求人の主張は不当である。

(3)共通点(オ)の評価について
被請求人は,共通点(オ)の評価において,セラミック以外が一体成型されていることが本件登録意匠の出願前から見られるありふれた形態であるとしているが,請求人が鋭意調査した限りでは,本件登録意匠の出願日前にセラミック以外が一体成型されている包丁研ぎホルダは見出すことができなかった。甲第7号証については図面からは本体部は一体成形されていると見て取れるが,甲第7号証の包丁研ぎホルダにはセラミック部分はない。したがって,樹脂で一体成形された包丁研ぎホルダであってセラミック部分を有するのは本件登録意匠とイ号意匠だけである。
そうとすれば,前述したように,差異点(イ)及び差異点(ウ)で,このセラミック部分は需要者が関心を持つ部分であるとしているので,セラミック以外が一体成型されているという共通点は本件登録意匠とイ号意匠の類否判断に大きく影響を与えることになる。
よって,この共通点が類否判断に与える影響は小さい,とする被請求人の主張は不当である。

(4)共通点(キ)の評価について
被請求人は,共通点(キ),即ち,包丁が嵌挿される間隔が略五角形状に形成されていることについては,先行意匠には記載されてはいないものの,包丁研ぎホルダとしての機能からすれば,単に包丁の背部を挿入し得る形状であるから,需要者の注意を引くものではなく,意匠的な特徴として希薄であり,類否判断に与える影響は小さい,としている。
しかし,被請求人は,差異点(オ)において切欠部の相違を主張するにあたり,この部分の差異は「需要者が関心を持つ部分に係る差異である。」(答弁書第11頁第9行?同頁第10行)と主張している。そうであるならば,切欠部が設けられる位置から見える嵌挿部についても当然需要者は注意を引くはずである。
そうとすれば,この嵌挿部の略五角形状の共通点は,本件登録意匠とイ号意匠の類否判断に大きく影響を与えることになる。
よって,この共通点が類否判断に与える影響は小さい,とする被請求人の主張は不当である。

(5)共通点の評価に対してのまとめ
以上から明らかなように,セラミック部分の共通点,本体部の樹脂一体成形の共通点,包丁を嵌挿する嵌挿部の共通点,が意匠の大きな特徴と言うことができ,これら共通点が類否判断に与える影響が大きいことから,需要者はこれらを共通にしている本件登録意匠とイ号意匠とを見紛って認識するのを相当とする。

(6)差異点(ア)の評価について
被請求人は,差異点(ア)については,正面視での長さ方向両端部の形状と角部の形状が本件登録意匠とイ号意匠とでは異なるので,この差異点が類否判断に与える影響は大きいと主張している。
しかし,そもそも物品自体が包丁の背部に装着するような小さいものであり,包丁に装着した場合にそれらの違いが類否判断に与える影響は少ないと言わざるを得ない。また,イ号意匠を逆向きにすれば基本的な態様は略弓形状になるものであることから,その差異点が類否判断に与える影響は大きいとは言えない。むしろ,セラミック部分が本体中央部分にあることから,それらの違いが捨象され,両者をして混同を生じさせ得るものである。
したがって,差異点(ア)については,上記共通性の中では両者の共通の印象を変更する程の特段顕著な差異とは言えない。むしろ,その共通性故に,看る者をして両者をシリーズ製品と見紛わせる程のものであると言える。したがって,その差異が類否の判断に与える影響は小さいものである。
よって,この差異点(ア)が類否判断に与える影響は大きい,とする被請求人の主張は不当である。
なお,被請求人は,甲第2号証のイ号意匠の製品パッケージ,乙第2号証の請求人の製品パッケージ,乙第3号証のイ号意匠と請求人の製品の対比写真をもって,本件登録意匠とイ号意匠の違いを出そうとしているが,比較されるべきは本件登録意匠の意匠図面とイ号意匠の製品であって,製品同士を比較するのは大きさ等の違いなど予断が入り込む余地が多いので厳に慎むべきである。

(7)差異点(イ)及び差異点(ウ)の評価について
被請求人は,差異点(イ)及び差異点(ウ)について,本体端部でのセラミックの露出の有無や厚さ方向の突出度合について本件登録意匠とイ号意匠とでは異なるので,これらの差異点が類否判断に与える影響は大きいと主張している。
しかしながら,本体端部でのセラミックの露出の有無や厚さ方向の突出度合の相違が,使用時において,需要者が関心を持つ程の意味合いを持つものであろうか。
需要者とすれば,セラミックの一部が端部から露出していようがいまいが極端な作用の違いがない限り関心は持たないだろうし,また,前述したように,そもそも物品自体が包丁の背部に装着するような小さいものであり,包丁に装着した場合に厚さ方向の突出度合が余程極端に異ならない限り,注意は引かないと言えるであろう。したがって,それらの違いが類否判断に与える影響は少ないと言わざるを得ない。
よって,この差異点(イ)及び差異点(ウ)が類否判断に与える影響は大きい,とする被請求人の主張は不当である。

(8)差異点(エ)の評価について
被請求人は,差異点(エ)について,側面視での本体上端面の形状が異なるので,この差異点が類否判断に与える影響は大きいと主張しているが,これらの相違もまた,使用時において需要者が関心を持つ程の意味合いを持つものであろうか。
前述したように,そもそも物品自体が包丁の背部に装着するような小さいものであり,本体上端面の形状が余程極端に異ならない限り,関心は持たないと考えるのが相当である。したがって,それらの違いが類否判断に与える影響は少ないと言わざるを得ない。
よって,この差異点(エ)が類否判断に与える影響は大きい,とする被請求人の主張は不当である。

(9)差異点(オ)の評価について
被請求人は,差異点(オ)において,本体部両端部の切欠部の形状が異なるので,この差異点が類否判断に与える影響は大きいと主張している。
この差異点(オ)の説明において,本件登録意匠は本体部における横方向の両端部に略V字状の切欠部が形成されているとあるが,甲第1号証には平面図と底面図があり,平面図は包丁の背が入る部分の側面から見ると略五角形の上の部分が現れ,両端が略コ字状となっている。また,甲第1号証の底面図では両端が略V字状の切欠部となっている。
これに対して,イ号意匠も平面図では略コの字の切欠部が両端に形成されており,そして底面図では略V字状の切欠部も形成されていることがわかる。したがって,差異点(オ)は差異点というよりむしろ共通点である。また,この部分は,被請求人が主張するように需要者が関心を持つ部分であるので,この部分の共通点は本件登録意匠とイ号意匠の類否判断に大きく影響を与えることになる。
とすれば,需要者はこの共通点故に本件登録意匠とイ号意匠とを見紛って認識すると言うのが相当である。
なお,被請求人は,本体上面に形成した切欠部によって,「包丁の背部を極めて誘導しやすい形態とした」(答弁書第11頁第7行)と,あたかも切欠部を設けることが被請求人の独創に係るものであるかのように述べているが,これには異論を挟まざるを得ない。
何故ならば,切欠部を設けて「包丁の背部を極めて誘導しやすい形態とした」のは請求人の独創に係るものであるからである。即ち,甲第6号証に示す従来の請求人の製品は,包丁の切っ先の方から差し込んで取り付けるようにするものであったが,切っ先から差し込む場合,間違って手を滑らせて包丁の切っ先で手を傷つけるおそれがあったため,安全面を考え本件登録意匠に係る請求人の製品において初めて包丁の峰部から縦方向(柄側から切っ先方向へ)に差して倒して取り付けるようにしたものである(乙第2号証を参照)。
甲第2号証のイ号意匠の台紙裏側の説明書きに表された図にも,取り付け方向(切っ先側から柄側へ)こそ違うが包丁の峰部から縦方向に差して倒して取り付けるようにした図が記載されている。
時間的な前後関係に鑑みれば,イ号意匠は請求人の製品の記述を取り入れたと見るのが自然である。したがって,イ号意匠の切欠部の形成及びそれに伴う作用が初めてであるような記載をもってイ号意匠の特徴として主張するのはいかがなものであろうか。

(10)差異点の評価に対してのまとめ
以上から明らかなように,差異点(ア)?差異点(オ)は,それらの相違は全体としてさほど全体形状に影響を与えるものではないことから,この点においても特段顕著な相違といえず,類否の判断に与える影響は微弱であって,共通点を凌駕しているものとはいえず,それらが纏まっても両意匠の類否の判断に及ぼす影響は,その結論を左右するまでには至らないものである。

2.総合的判断
以上,被請求人の主張に沿って個々に弁駁して来たが,これらを総合すると,以下のように言うことができる。
両意匠は,略五角形の嵌挿部の形状,上部から先端部に向けて肉厚が薄くなり略楔状に形成される本体部の形状,本体部の包丁嵌挿側の長さ方向両端部に形成されるテーパ,本体部の上部に長さ方向に嵌着されるセラミックの態様が共通しており,これらは,両意匠の類否の判断に大きな影響を与えるものである。
一方,長さ方向両端部の形状に差異があるが,その差異は,長短を逆にしたに過ぎず,上記共通性の中では両者の共通の印象を変更する程の特段顕著な差異とは言えない。むしろ,その共通性故に,看る者をして両者をシリーズ製品と見紛わせる程のものであると言える。したがって,その差異が類否の判断に与える影響は小さいものである。
また,セラミックが長さ方向一端部に露出しているか否かの相違あるいは突出度合の相違はあるものの,本体部全体におけるセラミックの大きさや嵌着方向あるいは配置位置の共通性を勘案すると,その共通性の中では両者の共通の印象を変更する程の特段顕著な差異とは言えず,類否の判断に与える影響は微弱である。
更に,側面視での本体上端面の形状についても,言うまでもなく特段顕著な相違と言えず,類否の判断に与える影響は微弱というより皆無に等しい。
本体部両端部の切欠部にいたっては,むしろ共通点であり,この部分の共通点が両意匠の類否の判断に与える影響は大きいと言わざるを得ない。
以上を前提として両意匠を全体的に考察すると,両意匠の差異点が,類否の判断に与える影響はいずれも微弱なものであって,共通点を凌駕しているものとはいえず,それらが纏まっても両意匠の類否の判断に及ぼす影響は,その結論を左右するまでには至らないものである。

3.むすび
したがって,イ号意匠は,本件登録意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属するので,請求の趣旨どおりの判定を求める次第である。


第4 当審の判断

1.本件登録意匠

本件登録意匠は,平成15年(2003年)7月22日に意匠登録出願(意願2003-021098号)され,平成16年(2004年)7月2日に登録の設定(意匠登録第1214723号)がなされ,平成16年(2004年)8月16日に意匠公報が発行されたものであって,願書及び願書に添付した図面の記載によれば,意匠に係る物品を「包丁研ぎホルダ」とし,その形状,模様若しくは色彩又はこれらの結合(以下,「形態」という。)を,願書及び願書に添付した図面に表されたとおりとしたものであり,具体的な形態は,以下のとおりである。(別紙第1参照)

(1)全体を,略凧形四角形状が長手方向に連続した略ターンクリップの構成のものとし,その本体部は,
ア 正面視において,縦横比を約2:9とし,略直線状の上辺に対してわずかに下向きに湾曲した下辺と,外側に略弧状に膨らんだ左右両辺で形成される,四隅を円弧状にした略隅丸横長台形状とし,上半分の領域内にセラミック部を設けているものである。

イ 側面視において,縦横比を約3:2とし,上部は上向き弧状からなる略凸形状であり,中央には包丁を挿入する略縦長五角形からなる空間(以下,「嵌挿部」という。)を設けて,左右に表れるセラミック部の下方に隅丸状の段差を有する略凧形四角形状の外形となっており,嵌挿部の下端は,包丁を挿入する際に左右方向に拡がり,挿入後は挟んだ包丁を嵌挿部上面と左右一対の略くさび形状からなる先端保持部との3点で固定する仕組みとなっている。

ウ 平面視において,縦横比を約1:6とし,左右両辺の中央には略V字状の切り欠き部を設けて,その両端をわずかに内側寄りにすぼめるようにテーパーを備えた略横長長方形状となっている。

エ 底面視において,中央に横方向いっぱいに拡がる包丁挿入用の切れ目とその左右両端には略V字状の切り欠き部を設けているものである。

(2)セラミック部は,
ア 断面形状は,【A-A線断面図】より略縦長長方形の断面形状をしている。

イ 正面視において,本体部における縦方向の上から約2/5の位置に左右両端に余地部を有した状態で設置されており,その縦横比は約1:20からなる略横長長方形の細帯状となっている。

ウ 側面視において,断面の約9割が本体部に埋め込まれた状態であり,本体部表面にはセラミック部が略極細縦長長方形の形状でわずかに突出しており,セラミック部が埋められた部分については本体部が外側に膨らんだようになっている。

2.イ号意匠

本件判定請求の対象であるイ号意匠は,判定請求書と同時に提出された甲第2号証及び判定請求答弁書と同時に提出された乙第1号証により示されたものであって,乙第1号証によれば,イ号意匠は,平成24年(2012年)11月15日に意匠登録出願(意願2012-027903号)され,平成25年(2013年)3月29日に登録の設定(意匠登録第1467972号)がなされ,平成25年5月7日に意匠公報が発行されたものであって,願書及び願書に添付した図面の記載によれば,意匠に係る物品を「包丁研ぎホルダ」とし,その形状,模様若しくは色彩又はこれらの結合(以下,「形態」という。)を,願書及び願書に添付した図面に表されたとおりとしたものであり,具体的な形態は,以下のとおりである。(別紙第2参照)

(1)全体を,略凧形四角形状が長手方向に連続した略ターンクリップの構成のものとし,その本体部は,
ア 正面視において,縦横比が約1:3とし,上辺と下辺との長さの比率が約3:2である上辺よりも下辺が短く下辺両端部を円弧状にした略横長六角形とし,上半分の領域内にセラミック部を設けているものである。

イ 側面視において,縦横比を約4:3とし,上部は略へ字状であり,中央には嵌挿部を設け,セラミック部から下端に向け直線状とした略凧形四角形状の外形となっており,嵌挿部の下端は,包丁を挿入する際に左右方向に拡がり,挿入後は挟んだ包丁を嵌挿部上面と左右一対の略くさび形状からなる先端保持部との3点で固定する仕組みとなっている。

ウ 平面視において,縦横比が約1:4とし,左右両辺には略コ字状の切り欠き部を中央に設けた略横長長方形状となっている。

エ 底面視において,中央に横方向いっぱいに拡がる包丁挿入用の切れ目とその左右両端には略V字状の切り欠き部を設けているものである。

(2)セラミック部は,
ア 断面形状は,【A-A線断面図】より円形の断面形状をしている。

イ 正面視において,縦方向の上から約2/5の位置に設置されているが,その右端部はわずかな余地部を有し,左端部は本体部左辺の位置まで延伸しているものであり,その縦横比は約1:15からなる略横長長方形の細帯状となっている。

ウ 側面視において,断面の約7割が本体部に埋め込まれた状態となっており,本体部表面にはセラミック部が略半円形状となって突出しているが,セラミック部が埋められた部分についても本体部自体は膨らみはなく先端保持部に向けて直線状に形成されており,また,セラミック部が本体部左辺まで延伸しているため,左側面図にはその断面形状が表れているものである。

3.本件登録意匠とイ号意匠の対比

(1)意匠に係る物品
本件登録意匠とイ号意匠(以下,「両意匠」という。)の意匠に係る物品は,共に「包丁研ぎホルダ」であり,両意匠の意匠に係る物品は一致する。

(2)両意匠の形態
両意匠の形態を対比すると,主として以下の共通点及び相違点が認められる。

まず,共通点として,

(A)正面視において,上半分の領域内(縦方向の上から約2/5の位置)にセラミック部を設けている点,

(B)底面視において,中央に横方向いっぱいに拡がる包丁挿入用の切れ目とその左右両端には略V字状の切り欠き部を設けている点,

(C)側面視において,中央には包丁を挿入する略縦長五角形からなる嵌挿部を設けている点,

(D)包丁の固定方法について,本体部に挿入された包丁は嵌挿部上面と左右一対の略くさび形状からなる先端保持部との3点で固定する仕組みとなっている点,

が認められる。

他方,相違点として,

(ア)本体部の正面視形状について,本件登録意匠の正面視形状は,約2:9の縦横比からなり,略直線状の上辺に対してわずかに下向きに湾曲した下辺と外側に略弧状に膨らんだ左右両辺で形成される,四隅を円弧状にした略隅丸横長台形状であるのに対して,イ号意匠の正面視形状は,約1:3の縦横比からなり,その上辺と下辺との長さの比率が約3:2である上辺よりも下辺が短い,下辺両端部を円弧状にした略横長六角形である点,

(イ)本体部の側面視形状について,両意匠とも略凧形四角形状の外形状であるものの,本件登録意匠は縦横比を約3:2とした上部が上向き弧状からなる略凸形状であり,左右に表れるセラミック部の下方には隅丸状の段差を有するのに対して,イ号意匠は縦横比を約4:3とした上部が略へ字状であり,セラミック部から下端に向け直線状となっている点,

(ウ)本体部に埋め込まれた状態のセラミック部の側面視形状について,本件登録意匠のセラミック部は,その約9割が本体部に埋め込まれた状態となっており,本体部表面にはセラミック部が略極細縦長長方形の形状でわずかに突出し,セラミック部が埋められた部分の本体部は外側に膨らみ,そこには隅丸状の段差が一段生じているのに対して,イ号意匠のセラミック部は,その約7割が本体部に埋め込まれた状態となっており,本体部表面にはセラミック部が略半円形状となって突出しているが,セラミック部が埋められた部分についても本体部自体は膨らみはなく先端保持部に向けて一直線状に形成されており,また,セラミック部が本体部左辺まで延伸していることで左側面図にはその断面形状がすべて表れている点,

(エ)本体部の平面視形状について,本件登録意匠の平面視形状は,左右両辺の中央に略V字状の切り欠き部を有し,その両端をわずかに内側寄りにすぼめてテーパーを設けて,縦横比が約1:6の略横長長方形状となっているのに対して,イ号意匠の平面視形状は,左右両辺の中央に略コ字状の切り欠き部を有し,縦横比が約1:4の略横長長方形状となっている点,

(オ)セラミック部の正面視形状について,本件登録意匠のセラミック部は,左右両端に余地部を有した状態で本体部に設置され,その縦横比は約1:20からなる略横長長方形の細帯状となっているのに対して,イ号意匠のセラミック部は,右端部は本体部にわずかな余地部を有し,左端部は本体部左辺の位置まで延伸しており,その縦横比は約1:15からなる略横長長方形の細帯状となっている点,

(カ)セラミック部の断面形状について,本件登録意匠のセラミック部は縦長長方形の断面形状をしているのに対して,イ号意匠のセラミック部は円形の断面形状をしている点,

が認められる。

4.両意匠の形態の評価

以上の共通点及び相違点が両意匠の類否判断に及ぼす影響を評価し,本件登録意匠の出願前に存在する公知資料を参酌し,新規な形態や需要者の注意を最も惹きやすい部分を考慮した上で,両意匠が類似するか否かについて,考察する。
まず,共通点(A)については,両意匠のように本体部の正面上半分の領域内にセラミック部を設けることは,本件登録意匠の出願前に既に見られる態様(参考意匠1:昭和60年(1985年)1月12日に公開された公開実用新案公報,実開昭60-4362号(考案の名称:刃物の研ぎホルダ)に所載の第1図ないし第3図における刃物の研ぎホルダの一実施例の意匠,別紙第3参照)(参考意匠2:平成9年(1997年)9月2日に公開された公開特許公報,特開平9-225842号(発明の名称:刃物の研ぎホルダー)に所載の【図1】ないし【図4】における刃物の研ぎホルダーの意匠,別紙第4参照)であるから,この共通点が両意匠の類否判断に及ぼす影響は小さいものである。
次に,共通点(B)については,両意匠のように包丁挿入用の略V字状の切り欠き部を左右両端に設けることは,本件登録意匠の出願前に既に見られる態様(参考意匠3:昭和60年(1985年)10月19日に公開された公開実用新案公報,実開昭60-157171号(考案の名称:包丁研ぎ補助具)に所載の第13図ないし第16図における包丁研ぎ補助具の意匠,別紙第5参照)であるから,この共通点が両意匠の類否判断に及ぼす影響は小さいものである。
そして,共通点(C)の,嵌挿部の形状を略縦長五角形とすることは両意匠にのみ見受けられる態様ではあるものの,包丁を研ぐ際に重要となる包丁の刃と砥石とが一定に角度を保ちながら研ぐためには,包丁研ぎホルダは包丁の峰の部分が嵌挿部内で動かないように固定することが求められ,嵌挿部上面と包丁の峰部とが平面で密着しつつ先端保持部でしっかり挟む必要がある。この点において,両意匠は包丁の固定方法が共通しているが(共通点(D)),このように固定することは,本件登録意匠の出願前に既に見られる態様(参考意匠4:昭和25年(1950年)9月30日に公告された実用新案公報,実公昭25-6889号(考案の名称:両刃及片刃物研磨器)に所載の第3図における両刃及片刃物研磨器の意匠,別紙第6参照)であるから両意匠に特化したものとはいえず,嵌挿部の周囲を形成する本体部及び本体部に埋め込まれたセラミック部の形状の相違点がこれら共通点を圧しており,両意匠の類否判断に及ぼす影響は軽微なものに留まるものである。
そして,上記の共通点を総合しても,両意匠の類否判断を決定付けるまでには至らないものである。
なお,請求人は弁駁書において,本件登録意匠の出願日前にセラミックが本体部に嵌挿されている包丁研ぎホルダは見出すことができず,したがって,このセラミック部分がありふれたものであると言うことは出来ないと主張するが,上記参考意匠1及び参考意匠2に示したように本件登録意匠の出願前に既に存在しているものであるから(なお,参考意匠1及び参考意匠2は共に請求人代理人が代理人となっている案件である。),この包丁研ぎホルダの分野において本体部にセラミックを嵌挿することはありふれたものであるといえる。
これに対し,相違点(ア)の本体部の正面視形状については,特に目につく部分でもあり,略直線状の上辺に対してわずかに下向きに湾曲した下辺と,外側に略弧状に膨らんだ左右両辺で形成される,四隅を円弧状にした略隅丸横長台形状からなる本件登録意匠の正面視形状と,上辺よりも下辺が短く下辺両端部を円弧状にした略横長六角形状からなるイ号意匠の正面視形状とは,両端部の形状において大きく異なり,また,縦横比も違うことから,全体に丸みを帯びて横幅が長い本件登録意匠に対して,直線的でコンパクトなイ号意匠とは,意匠としてみた場合,全く異なる印象を与えるものであり,この相違点(ア)が両意匠の類否判断に及ぼす影響は非常に大きいといえる。なお,請求人は弁駁書において,その共通性故に看者は両意匠をシリーズ製品として見紛らわせる程である旨主張するが,両意匠を包丁に装着した場合,包丁における直線状の峰部と湾曲した刃先を連想させる本件登録意匠の上辺及び下辺に対して,研ぐ方向を示すように包丁の刃先側にあたる下辺側を上辺よりも短いものとしたイ号意匠とは,異なったデザインコンセプトから創作された意匠であると見受けられるため,請求人の主張は認めることができない。
次に,相違点(イ)の本体部の側面視形状については,両意匠の上部において表れる曲線状と直線状の違いについては側面視全体の中においてはわずかな違いであるものの,本件登録意匠の本体部はイ号意匠の本体部よりも縦長の構成であり,左右に表れるセラミック部から下方にかけての形状において,セラミック部の形状に合わせて隅丸状の段差を一段有する本件登録意匠に対して,セラミック部の形状とは関係なく一直線状に形成されたイ号意匠は異なっているものであるから,相違点(イ)が両意匠の類否判断に及ぼす影響は大きい。
さらに,相違点(ウ)の本体部に埋め込まれた状態のセラミック部の側面視形状において,本体部表面に略極細縦長長方形がわずかに突出した本件登録意匠に対して,本体部表面に略半円形状が突出したイ号意匠は,明らかに異なるものであり,特に左側面図においてはセラミック部が本体部の端部まで達していることで,イ号意匠はまるで昆虫の顔のような態様を呈しており,この態様はイ号意匠の特徴と呼べるものであるから,相違点(イ)と併せて考慮すると,大きな相違であると認められるため,相違点(ウ)が両意匠の類否判断に及ぼす影響は非常に大きいといえる。
そして,相違点(エ)の本体部の平面視形状の違いについては,両意匠の縦横比に加えてその左右両端に設けられた切り欠き部の形状が異なっており,切り欠き部自体は小さなものではあるが,両意匠を包丁に装着する際に支点となる部分であって,刃物への装着時に看者が注意を払う部分でもあるため,この相違点(エ)が両意匠の類否判断に及ぼす影響は大きい。
また,相違点(オ)及び相違点(カ)のセラミック部の正面視形状及び断面形状の違いについては,両意匠のセラミック部とも本体部に埋め込まれているものであるが,本体部に対して表れる部分の態様や左右余地部等,細部において異なっており,その結果,本体部におけるセラミック部の印象も異なるものとなっていることから,これら相違点(オ)及び相違点(カ)が両意匠の類否判断に及ぼす影響も一定程度あるといえる。

5.両意匠の類否判断

上記のとおり,両意匠は,意匠に係る物品については一致するものの,形態については,共通点が両意匠の類否判断に及ぼす影響はいずれも微弱であるのに対して,相違点が類否判断に及ぼす影響はそれぞれ大きく,相違点が相まって生じる視覚的効果は,共通点のそれを凌駕して,類否判断を支配しているものであるから,意匠全体として需要者に与える美感が異なっており,本件登録意匠とイ号意匠とは類似しないものと認められる。


第5 むすび

以上のとおりであって,イ号意匠は,本件登録意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属しない。


よって,結論のとおり判定する。
別掲
判定日 2015-04-01 
出願番号 意願2003-21098(D2003-21098) 
審決分類 D 1 2・ 1- ZB (K1)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 温品 博康 
特許庁審判長 斉藤 孝恵
特許庁審判官 江塚 尚弘
綿貫 浩一
登録日 2004-07-02 
登録番号 意匠登録第1214723号(D1214723) 
代理人 内藤 通彦 
代理人 藤本 正紀 
代理人 橘 哲男 
代理人 松田 裕史 
代理人 佐藤 大輔 
代理人 辻本 一義 
代理人 辻本 希世士 

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