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審決分類 審判 査定不服  意10条1号類似意匠 取り消して登録 D5
管理番号 1306405 
審判番号 不服2015-7960
総通号数 191 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 意匠審決公報 
発行日 2015-11-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-04-28 
確定日 2015-08-17 
意匠に係る物品 手洗器 
事件の表示 意願2014- 18004「手洗器」拒絶査定不服審判事件について,次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の意匠は,登録すべきものとする。
理由 第1 本願意匠
本願は,平成26年(2014年)8月19日の意匠登録出願であり,その意匠(以下「本願意匠」という。)は,願書の記載によれば,意匠に係る物品を「手洗器」とし,形態を,願書及び願書に添付した図面の記載のとおりとしたもので,願書の記載によれば,「各図において,桃色で着色された部分以外の部分が,部分意匠として意匠登録を受けようとする部分(当審注:以下「本願部分」という。)である。」としたものである(別紙第1参照)。

第2 原審の拒絶の理由
原審における拒絶の理由は,本願意匠が,願書に記載した本意匠(意願2014-18001。以下,単に「本意匠」という。)に類似する意匠と認められないので,意匠法第10条第1項の規定に該当しないとしたものであって,具体的には以下のとおりである。
「本願意匠(意願2014-18004号)と願書に記載された本意匠(意願2014-18001号)とは,部分意匠として意匠登録を受けようとする部分の形状を見ると,ともに手洗いスペースとなるボール部の底面奥に,従来見られない特徴的な形状である排水用の溝が設けられています。
しかし,ボール部の内壁形状にしても,両意匠の側壁は,意匠登録を受けようとする部分の広範囲を占め,ボール部全体の骨格的な枠組みを形成するものであり,この種分野の手洗器等の分野をみると,側壁の具体的な形状には,平面的なものや曲面的なものなどの面構成若しくは側壁自体の傾斜角度又は各側壁同士や側壁と底面とを繋ぐ角部の丸味具合などに種々の形状のものが存在し,ましてや,需要者が手を洗う際にはボール部の内壁を近接して目にすることになることから,ボール部の内壁の具体的な形状に需要者は十分注意を惹き,内壁形状の類否判断に及ぼす影響は大きいものです。
そうした場合,両意匠の主な相違点であるボール部の前面側(正面側)側壁の起立角度の相違,すなわち,本願意匠は,垂直面とするのに対して,本意匠は,約50度起立させた前屈みの傾斜面とし,その下端を底面のボール部奥行の約1/2の位置へと奥まらせたものであり,その相違により,本願意匠は,ボール部の手洗いスペースが略横長直方体状の箱体状となって,かなり深く広いスペースが確保できるものであり,一方の本意匠は,ボール部の手洗いスペースが略逆横長四角錐台状となり,前面側側壁の傾斜により,深さがかなり軽減され,広さも手洗いスペースが奥へと限られて手狭となるものであり,両意匠の内壁の構成態様は大きく異なるものと言うべきであり,需要者に与える印象も大きく異なります。
したがって,両意匠は,たとえ底面の一部の溝に共通性を有していたとしても,ボール部の内壁の構成態様自体が大きく異なる以上,意匠全体として両意匠に共通した美感を起こさせるものに至るものではなく,類似する意匠と認められません。」

第3 手続きの経緯
上記原審の拒絶の理由に対して,請求人は意見書を提出し,本願意匠が本意匠に類似する意匠であって,意匠法第10条第1項の規定に該当すると主張したが,平成27年(2015年)1月20日付けで拒絶の査定がなされたため,同査定を不服として同年4月28日に審判を請求し,原査定を取り消し本願意匠を登録すべきものとするとの審決を求め,同年6月11日に手続の補正により本願の本意匠の表示を削除した。

第4 当審の判断
以下,本願意匠が第10条第1項の規定に該当するか否かについて検討する。

1 本意匠
本意匠は,平成26年(2014年)8月19日に意匠登録出願され,平成27年(2015年)1月9日に意匠権の設定の登録がなされたものであり,同年2月9日に発行された意匠公報によれば,意匠に係る物品を「手洗器」とし,形態を,同公報の記載のとおりとしたもので,同公報の記載によれば,「各図において,桃色で着色された部分以外の部分が,部分意匠として意匠登録を受けようとする部分(当審注:以下「本意匠部分」という。)である。」としたものである(別紙第2参照)。

2 本願意匠と本意匠の対比
(1)意匠に係る物品
本願意匠の意匠に係る物品は「手洗器」であり,本意匠の意匠に係る物品も「手洗器」であるから,本願意匠と本意匠(以下「両意匠」という。)の意匠に係る物品は同一である。
(2)本願部分と本意匠部分の用途及び機能並びに位置,大きさ及び範囲
本願部分と本意匠部分(以下「両部分」という。)は,共に壁に設置される手洗器の内側下部の位置及び範囲にあり,手を洗うために手を差し入れる空間をかたちづくり,上部から給水される水を排水する機能を有することから,両部分の用途及び機能並びに位置,大きさ及び範囲は共通する。
(3)両部分の形態
両部分の形態を対比すると,主として,以下の共通点と差異点が認められる。なお,両意匠が壁に設置されることに鑑み,両部分の正面前方側を手前側,背面後方側を奥側ともいう。
ア 共通点
(A)両意匠の「B-B断面図」によれば,両部分の外周形状は両側部の奥側が内側に略弧状に窄まった略角丸横長矩形状であり,両意匠を平面から見ると,その手前側が略横長長方形状に看取される。
(B)両意匠の「A-A断面図」によれば,両部分の上端が水平状に表されており,その手前側が,両意匠の側面視前方張り出し部の上端と同じ高さとなっている。
(C)両意匠の「B-B断面図」によれば,両部分の底面の奥側に,平面視略細幅帯状の溝部が形成されており,その中央部に略横長長円形状の排水孔が2つ並んで配されている。また,両意匠の「A-A断面図」によれば,上記溝部が,左辺が弧状の略V字状に下方に突出して形成されている。
イ 差異点
(a)本願意匠の「A-A断面図」によれば,本願部分の手前側端部は鉛直の直線状に表されており,その下端がアール状に形成されて,水平状の底面に連結している。これに対して,本意匠の「A-A断面図」によれば,本意匠部分の手前側略半分は約50°に傾斜した直線状に表されており,奥側略半分は略水平状の底面と溝部がほぼ等幅で並んでいる。

3 両意匠の類否判断
(1)意匠に係る物品
前記認定したとおり,両意匠の意匠に係る物品は同一である。
(2)両部分の用途及び機能並びに位置,大きさ及び範囲
前記認定したとおり,両部分の用途及び機能並びに位置,大きさ及び範囲は共通する。
(3)形態の共通点の評価
両部分の形態の共通点(A)で指摘した態様は,壁に設置される手洗器の意匠として,その内側下部の外周形状について両側部の奥側を内側に窄ませた略角丸横長矩形状としたものが,本願の出願前に見受けられることから(例えば,意匠登録第1271843号。別紙第3参照。),本願部分の窄まりが略弧状であることを考慮したとしても,看者の注意を惹くものとはいえない。また,(B)で指摘した態様も,両意匠の側面視前方張り出し部の上端位置及び形状に合わせて,両部分の範囲の上限を水平状にしたにすぎず,手洗器の物品分野の意匠において側面視前方張り出し部を水平状に設けることは本願の出願前に普通に見受けられる(別紙第3参照)ことを踏まえると,看者の注意を惹くものとはいい難い。したがって,共通点(A)及び(B)は,いずれも両部分の類否判断に及ぼす影響が小さい。
一方,(C)で指摘した溝部の態様に係る共通点については,その態様が底面の奥側の部位にあり,看者が両意匠から離れて観察した際には看取され難い態様ではあるものの,溝部の傾斜は急であって側面側断面形状では下方に鋭く突出しているので,看者が正面斜め上方向から見た際にははっきりと看取され得るというべきであるから,2つの略横長長円形状の排水孔の存在とあいまって,両部分の類否判断に一定程度の影響を及ぼしているということができる。
このように,共通点(C)については一定程度評価され得るものの,両部分の形態の共通点を総合すると,共通点が両部分の類否判断に及ぼす影響は小さいといえる。
(4)形態の差異点の評価
これに対して,両部分の形態の差異点(a)については,以下のとおり評価され,両部分の類否判断に大きな影響を及ぼすといわざるを得ない。
この差異点(a)は,本意匠部分の手前側略半分が傾斜面状であるのに対して,本願部分のその部位に垂直面と幅広の底面で形成された形状が表されているという差異であり,一見した限りでは,本願部分のその形状は本願意匠の前面板に隠れて見え難いともいい得る。
しかし,両意匠の使用者は,実際の使用時において,手を両意匠の内部に差し入れて,手や指を自在に動かして手洗いを行うのであるから,両部分の内側がどのような立体形状になっているかについて観察し得るというべきであり,また,手や指が両部分の内壁面に当たったり,給水や手から落ちる水しぶきが跳ね返る様を見ることによっても,両部分の立体形状の差異を把握し得るというべきである。
そして,使用者は,当然ながら両意匠を清掃したりメンテナンスすることもあるので,清掃などの際には容易に両部分の立体形状の相違に気付くこととなり,更に清掃し易い形状であるか否かを意識して本願意匠(又は本意匠)を選択する場合もあることから,両部分における立体形状の差異について高い関心を持つというべきである。
そうすると,差異点(a)に対して使用者が注意を払うことは明らかであって,本願部分の垂直面と幅広の底面で形成された立体形状は本意匠部分の傾斜面状とは大きく異なり,その差異は両部分を別異のものと印象付けるものであるから,差異点(a)は両部分の類否判断に大きな影響を及ぼすものであるということができる。
(5)小括
したがって,両意匠は,意匠に係る物品が同一であり,両部分の用途及び機能並びに位置,大きさ及び範囲は共通するものの,両部分の形態においては,共通点が両部分の類否判断に及ぼす影響は小さいのに対して,差異点は両部分の類否判断に及ぼす影響が大きいので,本願意匠は本意匠に類似するということはできない。

4 本願意匠が第10条第1項の規定に該当するか否かについて
本意匠は,本願の意匠登録出願人の意匠登録出願に係る意匠であるから,意匠法第10条第1項に規定されている本意匠の要件を満たしている。
また,本願意匠と本意匠は,本願意匠の意匠登録出願の日が本意匠の意匠登録出願の日以後であって本意匠の意匠公報の発行の日前であるから,本願意匠の意匠登録出願の日は,意匠法第10条第1項に規定されている関連意匠の意匠登録出願の日の要件を満たしている。
しかし,上述のとおり,本願意匠は本意匠に類似するものとは認められないので,意匠法第10条第1項に規定されている,本意匠に類似する意匠(関連意匠)の要件を満たさない。
したがって,本願意匠は,意匠法第10条第1項の規定に該当しない。

そして,前記のとおり,本願は,審判請求後に願書の本意匠の表示を削除する補正がなされているから,原審の拒絶の理由によっては拒絶することはできない。

第5 むすび
以上のとおりであって,本願意匠は,意匠法第10条第1項の規定に該当しないから,本意匠の関連意匠として意匠登録を受けることができないものであって,願書の本意匠の表示を削除する補正がなされているから,原審の拒絶の理由によっては拒絶することができない。
また,当審において,更に審理した結果,他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。

よって,結論のとおり審決する。
別掲
審決日 2015-07-31 
出願番号 意願2014-18004(D2014-18004) 
審決分類 D 1 8・ 3- WY (D5)
最終処分 成立  
前審関与審査官 杉山 太一 
特許庁審判長 斉藤 孝恵
特許庁審判官 小林 裕和
正田 毅
登録日 2015-10-02 
登録番号 意匠登録第1536592号(D1536592) 

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