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審決分類 審判 判定  審理一般(別表) 属さない(申立不成立) L3
管理番号 1306441 
判定請求番号 判定2014-600040
総通号数 191 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 意匠判定公報 
発行日 2015-11-27 
種別 判定 
判定請求日 2014-08-27 
確定日 2015-10-22 
意匠に係る物品 手摺棒材 
事件の表示 上記当事者間の登録第1216268号の判定請求事件について,次のとおり判定する。 
結論 イ号意匠の図面及びその説明により示された「手摺棒材」の意匠は,登録第1216268号意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属しない。
理由 第1 請求の趣旨及び理由
1.請求の趣旨
本件判定請求人(以下,「請求人」という。)は,イ号意匠並びにその説明書に示す意匠は,意匠登録第1216268号及びこれに類似する意匠の範囲に属する,との判定を求め,要旨,以下のとおり主張した。

2.請求の理由
(1)判定請求の必要性
請求人は,登録第1216268号の登録意匠(以下,「本件登録意匠」という。)に係る意匠権(以下,「本件意匠権」という。)の意匠権者であり(甲第1号証,甲第2号証),本件判定被請求人(以下,「被請求人」という。)は,「UNIP」という製品名の手摺棒材(以下,「イ号製品」という。)を製造販売している(甲第3号証,甲第4号証)。
請求人は被請求人に対し,本件意匠権に基づき,イ号製品の製造販売を中止するよう求めたが(甲第5号証),被請求人は,イ号製品が備える形態(以下,「イ号意匠」という。)は本件登録意匠と類似しないなどの理由で,請求人の求めに応じない。
以上の事情により,請求人は,貴庁による厳正中立的な立場からの判定により,イ号意匠が本件登録意匠に類似する意匠の範囲に属することを明確にしたいので,判定を求めるものである。

(2)本件登録意匠の手続の経緯
出願 平成15年 3月18日
拒絶理由通知 平成15年 7月22日(起案日)
意見書 平成15年 9月 2日
登録日 平成16年 7月23日
特定承継による本件の持ち分移転 平成20年 1月15日(受付日)
特定承継による本件の持ち分移転 平成24年10月 1日(受付日)

(3)本件登録意匠とイ号意匠の要旨
本件登録意匠とイ号意匠の要旨については,本件意匠公報の手摺棒材の最も太い部分(山部の頂部と山部の頂部とを結ぶ部分)を,イ号意匠の最も太い部分(山部の頂部と山部の頂部とを結ぶ部分)の寸法と同じ寸法(具体的には38mm)にした本件登録意匠の図面とイ号意匠の図面に基づいて両意匠の形態を特定する。
なお,被請求人が製造販売している手摺棒材は,材質によって手摺棒材の直径が数ミリ程度異なるものも存在するが,このような製品についても実質的にイ号商品と何ら変わりなく,本件登録意匠に類似するものである。

(i)本件登録意匠の要旨
本件登録意匠は,意匠に係る物品を「手摺棒材」とし,その形態は以下のとおり特定される。
(ア)基本的構成態様
(A)棒体の周囲に,非常に緩やかな山部と非常に緩やかな谷部とが交互に連続することによりサインカーブが形成された手摺棒材である。
(イ)具体的構成態様
(B)山部の頂部と山部の頂部とを結ぶ頂部長さL1を1とした場合に,谷部の底部と谷部の底部とを結ぶ底部長さL2は約0.74である。
(C)山部の頂部と山部の頂部とを結ぶ頂部長さL1を1とした場合に,山部と谷部との差Dは約0.129である。
(D)山部の頂部と山部の頂部とを結ぶ頂部長さL1を1とした場合に,山部の頂部から山部の頂部までのピッチP1は約4.36である。

(ii)イ号意匠の要旨
イ号意匠は,意匠に係る物品を「手摺棒材」とし,その形態は以下のとおり特定される。
(ア)基本的構成態様
(a)棒体の周囲に,非常に緩やかな山部と非常に緩やかな谷部とが交互に連続することによりサインカーブが形成された手摺棒材である。
(イ)具体的構成態様
(b)山部の頂部と山部の頂部とを結ぶ頂部長さL1’を1とした場合に,谷部の底部と谷部の底部とを結ぶ底部長さL2’は約0.79である。
(c)山部の頂部と山部の頂部とを結ぶ頂部長さL1’を1とした場合に,山部と谷部との差D’は約0.105である。
(d)山部の頂部と山部の頂部とを結ぶ頂部長さL1’を1とした場合に,山部の頂部から山部の頂部までのピッチP1’は約3.42である。

(4) 本件登録意匠とイ号意匠との対比
(i)物品について
本件登録意匠とイ号意匠は,共に「手摺棒材」であり,両意匠の意匠に係る物品は共通する。

(ii)形態について
(ii-1)両意匠の共通点
本件登録意匠とイ号意匠とを対比すると,両意匠は以下の共通点が認められる。
(ア)棒材の周囲に,非常に緩やかな山部と非常に緩やかな谷部とが交互に連続することによりサインカーブが形成された手摺棒材である点。

(ii-2)両意匠の差異点
本件登録意匠とイ号意匠とを対比すると,両意匠は以下の差異が認められる。
(イ)本件登録意匠の具体的構成態様(B)の,山部の頂部と山部の頂部とを結ぶ頂部長さL1を1とした場合に,谷部の底部と谷部の底部とを結ぶ底部長さL2は約0.74であるのに対して,イ号の具体的構成態様(b)の,谷部の底部と谷部の底部とを結ぶ底部長さL2’は約0.79である点。
(ウ)本件登録意匠の具体的構成態様(C)の,山部の頂部と山部の頂部とを結ぶ頂部長さL1を1とした場合に,山部と谷部との差Dは約0.129であるのに対して,イ号の具体的構成態様(c)の,山部と谷部との差D’は約0.105である点。
(エ)本件登録意匠の具体的構成態様(D)の,山部の頂部と山部の頂部とを結ぶ頂部長さL1を1とした場合に,山部の頂部から山部の頂部までのピッチP1は約4.36であるのに対して,イ号の具体的構成態様(d)の,山部の頂部から山部の頂部までのピッチP1’は約3.42である点。

(5)両意匠の類否判断
本件登録意匠とイ号意匠における共通点と差異点が意匠全体として両意匠の類否判断に与える影響を評価し,検討する。
(i)共通点の評価
本件登録意匠とイ号意匠は,その形態について,上記(ii-1)の共通点が認められ,以下のとおり,この共通点が類否判断に与える影響は非常に大きい。
共通点(ア)のサインカーブは,山部の頂部付近と谷部の底部付近に緩やかな曲線があるものの,山部の頂部近傍と谷部の底部近傍とは略直線の緩やかな勾配で結ばれていることから,需要者等に略直線を基調とした丘陵又静かな湖面の波を連想させる。また,この共通点は,非常に握り心地の良い印象を与えるので,機能的な面でも需要者等が最も注意を引くところである。
また,本件登録意匠は,審査過程において大韓民国意匠公報1996年12月16日第174頁所載の手すり用支え棒の意匠(特許庁意匠課公知資料番号第HH09066640号)(以下,「引用意匠」という。)に類似するものと認められ,意匠法第3条第1項第3号に規定する意匠に該当する旨の拒絶理由通知書(甲第6号証)を受けた後,意見書(甲第7号証)を提出して登録になった意匠である。
具体的には,本件登録意匠は,山部と谷部との差が僅かで,ピッチが比較的長いため直線と緩やかな勾配からなる形態で,握りやすさを考慮した形態であるのに対し,引用意匠は,山部と谷部との差が大きく,ピッチが比較的短いため異なる大小の円弧の連続であり曲線と凹凸を強調した形態であったため,本件登録意匠と引用意匠では全く異なる印象を与えるという主張が認められ登録になったものである。
このことからも,本件登録意匠とイ号意匠における共通点は,従来にない特徴的な形態であり,需要者の注意を引くところであって,両者の類否判断に与える影響が非常に大きいことは明らかである。
(ii)差異点の評価
差異点(イ),(ウ)及び(エ)については,両意匠が酷似しているので,両意匠の構成態様について,差異点を表現する際,数値を用いて特定するほかなく,その数値が異なるために差異点となっているが,これらの差異点は,ほんの僅かな数値の差異にすぎない。
特に,差異点(イ)及び(ウ)については,両者を観察した場合,肉眼によって容易に認識し得る差異ではない。したがって,これらの差異が需要者に与える印象は全く異ならない。
差異点(エ)については,僅かなピッチの違いはあるものの,両意匠を並べて比べたときに初めて気付く程度の差異にすぎず,また,握り心地に影響するほどの差異ではない。したがって,当該差異が両意匠の類否に与える影響は極めて微弱である。
(iii)小括
両意匠は,意匠に係る物品が共通し,形態においても差異点が,両意匠を並べて比べたときに初めて気付く程度の差異にすぎないのに対し,共通点が従来にない特徴的な形態であると共に,両意匠の骨格的な態様をなしている。したがって,共通点が両意匠に及ぼす影響は差異点のそれを凌駕しており,意匠全体としてみた場合,イ号意匠は本件登録意匠に類似する。

(6)むすび
以上のとおり,イ号物件目録及びイ号図面に示す意匠は,意匠登録第1216268号及びこれに類似する意匠の範囲に属する。
よって,本件判定請求書の趣旨に記載のとおりの判定を求める。

3.証拠方法
甲第1号証 意匠登録原簿謄本
甲第2号証 意匠登録第1216268号公報
甲第3号証 イ号図面並びに説明書
甲第4号証 被請求人のカタログ等販売を証明する書類
甲第5号証 警告書
甲第6号証 拒絶理由通知書
甲第7号証 意見書

第2 判定被請求人の答弁

被請求人は,答弁書を提出し,以下の要旨を主張した。

1.答弁の趣旨
イ号図面並びにその説明書に示す意匠は登録第1216268号意匠及びこれに類似する意匠のいずれの範囲にも属しない,との判定を求める。

2.答弁の理由
(1)本件登録意匠の説明
本件登録意匠は,意匠に係る物品を「手摺棒材」とし,その形態の要旨を,次のとおりとする。
A 基本的構成態様
本件登録意匠の基本的な構成態様は,中空状の円筒に所定間隔ごとに90度回転させて押し潰したもの,つまり,縦方向,横方向に交互に押し潰すことで山部と谷部とが連続する潰し波形形状が形成されている手摺棒材である(甲第2号証,甲第7号証)。

B 具体的構成態様
(i)本件登録意匠の具体的な構成態様は,請求人が平成15年9月2日付けで提出した意見書によると,(イ)「パイプ状の棒の両端部を除き縦方向又は横方向に潰し波形形状の山部と谷部を設けた」ものであり,(ロ)「棒状の周囲に凹凸を付けパイプの直径を基準の1とした場合に山部1.27,谷部0.87,波形状のピッチ5.0の比率であり,潰した深さの差は0.4で,谷は-0.13で山は+0.27」であり,(ハ)「山頂部と谷底部の僅かに曲線のラインがあり,山部と谷部は緩やかな勾配を持った直線で結ばれることから,曲線部分はほとんどなく,直線を強調としたもので丘陵が連続していることを連想させる形態」であると認定することができる。
(ii)(イ)について
本件登録意匠のものは,90度ごとに回転させて押し潰すことで縦方向,横方向に山部と谷部が交互に形成された潰し波形形状をしている。特に,甲第2号証の【使用状態を示す参考図】において,「潰し」た形状が明確に現れている。
つまり,正面視で山部となっている部分は,平面視では谷部となることは甲第2号証より明らかである。また,本件登録意匠の山部,谷部が形成されている任意の位置で切断した場合,その切断面は円以外の形状(長円)になると判断される。
(iii)(ロ)について
判定請求書第4頁の図面に記載されている本件登録意匠の寸法は,出願当初から登録に至るまでの間に開示されたものとは異なるものであって,採用することはできない。つまり,本件登録意匠の寸法は,少なくとも甲第7号証の意見書に開示されているものをもって認定すべきであり,判定請求書第4頁に記載されている山部の頂部と山部の頂部とを結ぶ頂部長さL1を1.00とした場合,甲第7号証からL2は0.69,Dは0.16,Pは3.94である。
(iv)(ハ)について
判定請求書第4頁の1(1)(A)に「サインカーブが形成された」とあるが,サインカーブ,つまり正弦曲線とは,「正弦関数をその変数によって示した曲線。」(広辞苑第4版)である。つまり,本件登録意匠のような「深さよりも約2倍の高さを有した緩やかな勾配の連続にて構成されるもの」,「曲線部分はほとんどなく,直線を強調したもの」,「山部と谷部は緩やかな勾配を持った直線で結ばれることから,曲線部分はほとんどなく,直線を基調としたもの(いずれも甲第7号証)はサインカーブの形状とはいえず,本件登録意匠の要旨の認定に用いるものとして相応しくない。

(2)イ号意匠の要旨
イ号意匠は,手摺に用いる棒材であって,その形態の要旨を,次のとおりとする。
A 基本的構成態様
中空状の円筒(棒状のパイプ)に,両端部を除いて所定間隔の山部と谷部が交互に形成されたコブ状部が形成された手摺棒材である。

B 具体的構成態様
(イ)イ号意匠に形成されるコブ状部は,山部の大円弧と谷部の小円弧とがなめらかに曲線で繋げられたものである。
つまり,甲第3号証,甲第4号証より,正面視で山部となっている部分は平面視でも山部であり,正面視で谷部となっている部分は平面視でも谷部であって,側面のどの角度から見ても同じ山部と谷部が現れる形状となっている。さらに,イ号意匠において,山部,谷部が形成されたコブ状部の任意の位置で切断した場合,その切断面は全ての部分において円であることは明確である(甲第3,第4号証)。
(ロ)判定請求書に記載されている山部の頂部と山部の頂部とを結ぶ頂部長さL1’を1.00とした場合,L2’は0.79(0.80),D’は0.11(0.10),P’は3.42である。
(ハ)甲第3,4号証に示されているように,イ号意匠のコブ状部は緩やかなサインカーブを描いたものである。このカーブは,最も細い32mm(30mm)の谷部から直径が少しずつ大きくなって40mm(38mm)でピークになり(山部),また32mmまで直径が緩やかに小さくなっていくように形成され,山部と谷部のピーク深さは同じである(甲第3号証)。

(3)本件登録意匠とイ号意匠との比較説明
(i)両意匠の共通点
(a)両意匠は,意匠に係る物品が「手摺棒材」で一致している。
(b)基本的な構成態様において,両者は中空状(パイプ状)の円筒に山部と谷部とが形成されている点で共通している。

(ii)両意匠の差異点
(a)構成態様(イ)について
両意匠を対比観察した場合に最も注意を引く部分である棒材に形成される山部と谷部の形状が,本件登録意匠とイ号意匠の顕著な差異点として認識される。
具体的には,山部と谷部が,本件登録意匠はパイプ状の棒の両端部を除き縦方向又は横方向に90度ごとに回転させて潰し波形形状の山部と谷部が形成されているものであるのに対し,イ号意匠はパイプ状の棒の両端部を除き断面円形状となるコブ形状の山部と谷部が形成されているものである。
しかも,本件登録意匠は正面視と平面視では山部と谷部の出現位置が異なる(逆になっている)のに対し,イ号意匠は正面視と平面視で山部と谷部の出現位置は同じであり,この点大きく異なる。さらに,側面を斜め方向から見た場合,本件登録意匠の潰し波形形状,イ号意匠のコブ形状が明確な差異点として認識できる。
そして波形形状(コブ形状)が形成されている任意の位置で切断した場合,本件登録意匠は縦又は横方向に長い長円形状となり,一方,イ号意匠は円形状になり,この点,手摺を握ったときの手の感覚は勿論,視覚的にも大きく異なるものである。
(b)構成態様(ロ)について
構成態様で記載したように,本件登録意匠とイ号意匠の寸法は異なるものである。
(c)構成態様(ハ)について
本件登録意匠は,意見書(甲第7号証)より「山頂部と谷底部の「僅かに曲線のラインがあり,山部と谷部は緩やかな勾配を持った直線で結ばれていることから,曲線部分はほとんどなく,直線を強調としたもので丘陵が連続していることを連想させる形態」であるのに対し,イ号意匠は,判定請求人が認定しているように「緩やかなサインカーブを描いた」(判定請求書第4頁他,甲第3,4号証)ものである。
また,甲第4号証より明らかなように,イ号意匠は大小の円弧の連続により構成されるものであるが,この点,甲第7号証の意見書(第3頁(3))にて,「本願意匠は,・・・直線と緩やかな勾配である形態で,・・・引用意匠は,・・・異なる大小の円弧の連続であり曲線と凹凸を強調したものであります。これらの形態的な差異が認められ,本願意匠と引用意匠では全く異なる印象を与えるものであります。」と記載されており,つまり,本件登録意匠はイ号意匠や引用意匠のような異なる大小の円弧の連続により構成されるものとは異なる旨,主張している。

(4)イ号意匠が本件登録意匠又はこれに類似する意匠のいずれの範囲にも属しない理由の説明
(i)本件登録意匠に関する先行周辺意匠
公知資料1
刊行物名『大韓民国意匠公報1996年12月16日』
第174頁所載
手すり用支え棒の意匠
(特許庁意匠課公知資料番号第HH09066640号)
(甲第6号証参照)

公知資料2
独立行政法人工業所有権総合情報館が2001年8月23日に受け入れた
日経デザイン2001年8月24日171号
第24頁所載
手すり用笠木の意匠
(特許庁意匠課公知資料番号第HA13011858号)
(乙第1号証)

公知資料3
特許庁意匠課が1997年8月18日に受け入れた
介護用品カタログ
第3頁所載
トイレ用手すりの手すり部の意匠
(特許庁意匠課公知資料番号第HC09014364号)
(乙第2号証)

(ii)本件登録意匠の要部
本件登録意匠の要部は,甲第6号証,甲第7号証より,棒材の凹凸(山谷)の独特な形態にあると考えられる。そして,本件登録意匠の出願前に,棒材に凹凸を設けることは,例えば公知資料1?3にあるようにごく普通に行われていたありふれた手法である。
そして,本件登録意匠について,拒絶理由通知で引例として上記公知資料1が挙げられているが(甲第6号証),本件登録意匠は公知資料1のものとは類似しない点を主張して登録されたのであり(甲第7号証),この類似しない点,つまり,公知資料1のものは「異なる大小の円弧の連続であり曲線と凹凸を強調したもの」であるのに対し,本件登録意匠は「直線と緩やかな勾配である形態で」あり,この棒材の山部と谷部の独特の形状(潰し波形形状)が本件登録意匠の要部と判断するのが相当である(甲第7号証)。
(iii)本件登録意匠とイ号意匠との類否の考察
本件登録意匠とイ号意匠の共通点及び差異点を比較検討する。
まず,判定請求人は,判定請求書において正面図のみを用いて本件登録意匠とイ号意匠とを比較して説明しているが,手摺用の棒状部材は立体的な形状を有するものであるため適切ではなく,複数の図面から意匠を立体的に観察して比較するべきである。なお,本件登録意匠とイ号意匠とは正面図だけを比較してみた場合であっても,後述の構成態様(イ),(ハ)の差異点が顕著に現れていることが分かるのは言うまでもない。

(a)両意匠の共通点
両意匠の共通点は,物品が手摺用の棒状部材(手摺棒材)である点,パイプ状の棒材には山部,谷部が形成されている点である。
(b)両意匠の差異点
しかしながら,本件登録意匠の要部である山部と谷部の形状は,本件登録意匠とイ号意匠とで大きく異なる。
・構成態様(イ)について
本件登録意匠の山部と谷部は90度ごとに回転し縦横に押し潰して形成された潰し波形形状であるのに対し(甲第7号証),イ号意匠の山部と谷部は異なる大小の円弧の連続で形成されたコブ形状である(甲第3,4号証)。
つまり,本件登録意匠の山部と谷部がコブ形状ということはできず,逆にイ号意匠には90度ごとに回転して縦横に押し潰した潰し波形形状といえる形状ではないことは明白であり,この形状の違いは両意匠の類否判断に大きな影響を与えるものである。
・構成態様(ロ)について
本件登録意匠とイ号意匠とは山部と谷部,ピッチの割合がそれぞれ異なるものであるが,構成態様(イ),(ハ)と比べると,意匠の類否の判断に与える影響は小さく,その結論を左右するまでには至らないものである。
・構成態様(ハ)について
本件登録意匠は山部と谷部は緩やかな勾配を持った直線で結ばれ,曲線部分はほとんどない直線を基調としたものであり(甲第7号証),山部と谷部の形状はサインカーブを描いているということはできない。一方,イ号意匠は「緩やかなサインカーブを描いた」ものであって(判定請求書第5頁他,甲第3,4号証),この形状の違いは意匠の類否判断に大きな影響を与えるものである。

(5)むすび
以上より,イ号意匠は,本件登録意匠及びこれに類似する意匠のいずれの範囲にも属さないものであって,答弁の趣旨どおりの判定を求める。

3.証拠方法
乙第1号証 日経デザイン2001年8月24日171号第24頁
(特許庁意匠課公知資料番号第HA13011858号)
乙第2号証 介護用品カタログ第3頁
(特許庁意匠課公知資料番号第HC09014364号)

第3 判定請求人の弁駁

請求人は,答弁書に対する弁駁書を提出し,以下の要旨を主張した。

(1)問題の所在
被請求人は,(イ)本件登録意匠は山部と谷部が90度ごとに回転し縦横に押し潰して形成された潰し波形状であるのに対し,イ号意匠の山部と谷部は異なる大小の円弧の連続で形成されたコブ形状であること,(ハ)本件登録意匠は山部と谷部が緩やかな勾配を持った直線で結ばれ,曲線部分はほとんどない直線を基調としたものであるからサインカーブではないのに対し,イ号意匠は緩やかなサインカーブを描いていること,の2つの差異点を強調し,本件登録意匠とイ号意匠は非類似であると結論づける(答弁書8?9頁)。他方,被請求人は,(ロ)本件登録意匠とイ号意匠におけるピッチの割合に関する差異は類否判断に影響を与えないことを自認する(答弁書8頁)。
そこで,請求人は,以下,(イ)や(ハ)は本件登録意匠とイ号意匠の非類似を裏付ける要素になり得ないこと,及び,(ロ)の程度の差異によっては非類似を裏付けられないことを論証することにより,本件登録意匠とイ号意匠が類似することを説明する。

(2)(イ)の点について
(i)本件登録意匠の特定
被請求人は,本件登録意匠の基本的構成態様において「縦方向,横方向に交互に押し潰すことで山部と谷部とが連続する潰し波形状が形成されている手摺棒材である」と特定するほどに(答弁書3頁),(イ)の点を強調しようとする。
しかしながら,意匠の類否は,取引者・需要者の視点で共通の美感が生じるか否かによって決せられるところ,本件登録意匠に係る物品は手摺棒材であり(甲2),建築業者や最終の利用者である一般消費者が取引者・需要者となるから,これらの者の視点で検討する必要がある。しかも,本件登録意匠は写真によって特定されているから(甲2),建築業者や一般消費者が当該写真を観察した際の印象を基礎に検討する必要がある。しかるところ,建築業者や一般消費者は,階段等において手摺を握る行為に関心があるから,手摺を横長に見たときの形状に着目すると考えられ,特に本件登録意匠の場合,手摺が平坦ではなく山部と谷部が連続して存在することに対して,デザイン性や機能性を見いだす。したがって,山部と谷部が連続する形状であることは重要であるが,それ以上に,山部と谷部が縦方向と横方向に交互に存在することまで強調する積極的意義は見いだせない。
これに対し,被請求人は,【使用状態を示す参考図】を引用するが(答弁書3頁),同図はあくまでも参考であって本件登録意匠の範囲を特定する意味は有さないし,本件登録意匠は写真で特定される以上,その範囲の特定に際して図面を過度に強調すると,意匠の特定自体が不正確になりかねないから,かかる論法は妥当でない。事実,本件登録意匠の写真を観察した場合に,山部と谷部が縦方向と横方向に交互に存在することが殊更強調されているようにも読み取れない。また,被請求人は自らの主張の根拠として意見書(甲7)も引用するが(答弁書3頁),同意見書において山部と谷部が縦方向と横方向に交互に存在することを強調した箇所はなく,むしろ山部と谷部の緩やかな勾配を強調しているから(2,3頁),意見書の記載は,請求人の上記主張の正当性を裏付けるものである。
したがって,本件登録意匠につき,山部と谷部が縦方向と横方向に交互に存在することを基本的構成態様に含めて検討すべきでないから,被請求人の主張は失当である。

(ii)イ号意匠との類否判断
被請求人は,本件登録意匠とイ号意匠における,(a)正面視と平面視における山部と谷部の出現位置の違い,(b)斜視図の印象の違い,(c)切断面の違いなどを挙げて,両者が非類似であるとの結論に導こうとする(答弁書5?6頁)。
しかしながら,(a)本件登録意匠の正面視も平面視も,山部と谷部が緩やかに連続していることは見て取れるものの,手摺の詳細な形状について必ずしも専門的な知識を有するとはいえない建築業者や一般消費者において,両者の出現位置の違いを認識することは到底考えられず,(b)斜視図の印象が明確に異なると断じる根拠も一切ない。ましてや,(c)手摺の詳細な形状について必ずしも専門的な知識を有するとはいえない建築業者や一般消費者が手摺の断面形状まで推測の上,本件登録意匠とイ号意匠の差異を認識するなど,取引通念及び社会通念に著しく反する。
結局のところ,被請求人は,山部と谷部が縦方向と横方向に交互に存在することを過度に強調する結果,上記のような空論を繰り返す事態に陥っているが,かかる前提自体が失当であることは上記(i)のとおりである。被請求人の類否判断は,本件登録意匠の特定につき誤った理解を前提しているため,自ずと誤った結論に至っているものである。

(3)(ハ)の点について
(i)特定について
被請求人は,サインカーブを正弦曲線とし,その広辞苑における定義に基づいて縷々主張するが(答弁書4頁),意匠の類否判断においてサインカーブの意味を突き詰めても無意味である。
実質的に検討するに,被請求人は,意見書(甲7)における請求人の主張の内,山部と谷部が緩やかな勾配を持った略直線に結ばれる点に着目するところ,まさしく,本件登録意匠は,引用意匠(甲6)の山部と谷部が起伏の大きな曲線で連続するのに対し,緩やかな略直線の勾配が連続することによって起伏が小さく構成されており,この点が引用意匠との差異として強調される。そこで,請求人は,判定請求書において,山頂部と谷底部に存在する曲線部分も踏まえ,本件登録意匠の棒体周囲に現れるライン全体をもってサインカーブであると特定したものである。
かかる構成は,被請求人が主張するサインカーブの意味と乖離している訳でもないから,本件登録意匠の特定に際してサインカーブという表現を用いても全く問題はないが,仮にサインカーブという表現をあえて避けたとしても,そのことによって判定請求書に記載した本件登録意匠の特定や同特定に基づくイ号意匠との類否判断に何らかの影響が生じるわけではない。

(ii)イ号意匠との類否判断
被請求人は,イ号意匠は棒体周囲にサインカーブを描いていることを認めているから(答弁書5頁),本件登録意匠の棒体周囲の形状を上記(i)のとおりに正しく把握すれば,両意匠が非類似であると判断する根拠がないことは明白である。
実質的に見ても,建築業者や一般消費者の視点で甲3や甲4によって表現されているイ号意匠の形状を観察した場合,本件登録意匠と同様に,引用意匠(甲6)とは異なり,山部と谷部が緩やかな勾配を持って略直線に連続することによって起伏が小さく構成されている点に着目される。ここで,仮に,イ号意匠には,本件登録意匠とは若干異なる角度のカーブで山部と谷部を連結されていたとしても,甲3や甲4を見てもかかる差異は一見して確認できず,建築業者や一般消費者がイ号意匠を把握するに際して重要な要素にはなり得ない。
被請求人は,サインカーブなる用語の辞書的意味に拘泥するあまり,意匠の視点を離れた議論に終始してしまった結果,誤った結論に至ったものである。

(iii)(ロ)の点を踏まえた考察
以上のとおりであるが,被請求人ですら,(ロ)の点によって本件登録意匠とイ号意匠の非類似を主張していないことは,両意匠が類似することを裏付ける極めて重要な事情となる。
けだし,上記のとおり,(ハ)の点に関する被請求人の主張は,サインカーブなる用語の該当性を抽象的に論じるものにすぎず,具体的な形状を実質的論じるものではないのに対し,(ロ)の点は棒体周囲の山部と谷部のピッチや深さにつき具体的数値をもって特定するものであり,まさしく意匠の類否判断に直結する要素であるからである。すなわち,建築業者や一般消費者は,棒体周囲の山部と谷部のピッチや深さに具体的数値に基づき看取される形状をもって意匠の美感を把握するのであり,仮に,本件登録意匠とイ号意匠とでこの具体的数値に若干の差異があったとしても,全体として類否判断に影響しない程度のものであれば,両意匠の美感は共通すると判断することになる。しかるところ,被請求人は,この点につき請求人の特定に異論を唱えてはいるものの(答弁書3?4頁),上記のとおり,この点の相違が本件登録意匠とイ号意匠の非類似を裏付けないことを自認しているから(答弁書8頁),この点に関する被請求人の自認は,両意匠に共通の美感が共通することの自認と同等である。
以上のとおり,今般の被請求人の主張により,本件登録意匠とイ号意匠が類似することは,より一層明確になった。

(4)あるべき認定
被請求人の主張が失当であることは以上のとおりであるが,以下,本件登録意匠とイ号意匠が類似することを改めて敷衍しておく。
まず,本件登録意匠とイ号意匠は,判定請求書記載のとおりに特定することで何ら問題ない。上記(2)のとおり,本件登録意匠において,山部と谷部とが連続する形状であることは重要であるが,それ以上に,山部と谷部が縦方向と横方向に交互に存在することまで強調する積極的意義は見いだせず,また,上記(3)のとおり,サインカーブの辞書的な意味に拘泥しても意味はないからである。なお,本件登録意匠の山部と谷部のピッチや深さについては,本件ではイ号意匠との対比が問題になっているから,判定請求書記載のとおり,イ号意匠の寸法に合わせた方が便宜であり,別の引用意匠(甲6)との対比が問題となった意見書(甲7)における特定をそのまま用いる必要性も合理性もない。
次に,本件登録意匠の要部は,山部と谷部が緩やかな勾配を持って略直線に連続することによって起伏が小さく構成されている点にある。この点は,山部と谷部のピッチや深さの具体的数値から把握される本件登録意匠の美感であり,手摺を横長に見たときに特徴的に看取できるとともに,手摺を握った場合の感触に関わるからである。そして,請求人は,意見書(甲7)において,引用意匠(甲6)との関係でこの点を強調することによって,本件登録意匠につき登録査定を受けているのであり,山部と谷部が縦方向と横方向に交互に存在することや,棒体周囲の形状がサインカーブの辞書的な定義に該当するか否かにつき,意見書等で述べた事実もない。なお,被請求人は,別の公知意匠を提示するに至っているが(乙1,乙2),いずれも,山部と谷部が緩やかな勾配を持って略直線に連続することによって起伏が小さく構成されているようには見受けられないから,上記認定に影響を及ぼすものではない。
そして,イ号意匠は,山部と谷部のピッチや深さにおいて本件登録意匠とは若干の差異はあるものの,山部と谷部が緩やかな勾配を持って略直線に連続することによって起伏が小さく構成されていることに変わりはなく,被請求人においても,この具体的数値の差異によって意匠の非類似を主張していない。したがって,イ号意匠は,本件登録意匠の要部を備える。
以上により,本件登録意匠とイ号意匠が類似することにつき疑いの余地はない。

(5)むすび
よって,判定請求書における「請求の趣旨」記載のとおりの判定を求める。

第4 当審の判断
1.本件登録意匠
本件登録意匠は,平成15年(2003年)3月18日に意匠登録出願(意願2003-7140号)され,平成16年(2004年)7月23日に意匠権の設定の登録(意匠登録第1216268号)がなされ,平成16年(2004年)9月6日に意匠公報が発行されたものであって,願書の記載及び願書に添付した図面代用写真によれば,意匠に係る物品を「手摺棒材」とし,その形状,模様若しくは色彩又はこれらの結合(以下,「形態」という。)を,願書の記載及び願書に添付した図面代用写真に現されたとおりとしたものである。(別紙第1参照)

すなわちその形態は,
(1)全体は,正面視において左右方向にのみ連続する,略円筒形状の管体であって,その周面の左右両端の管端部を除く中間部は,緩やかな凸面を成す山部と緩やかな凹面を成す谷部とを,軸方向に等間隔に繰り返し連続して設け,上下・前後方向の凹凸が交互に現れる,半径方向対称の波状に形成したものであり,それは,垂直方向の最大幅部(山部)を成す箇所の軸方向同位置において水平方向の最小幅部(谷部)を成し,また,水平方向の最大幅部(山部)を成す箇所の軸方向同位置において垂直方向の最小幅部(谷部)を成すような凹凸態様としたものであり,
(2)山部は,正面視又は平面視のいずれかにおいて,周面が半径方向外側に突出し,軸対称に管の幅が広くなった部分であり,その山頂部は緩やかな丸みを帯びた山形を呈し,山頂部から軸方向の前後(正面視左右)に向かってなだらかな斜面状に管幅が減少して行き,谷部へ至る形態とし,一方,山頂部から周方向(正面視上下又は平面視上下方向に周回する方向)に向かっては,幅の狭い略山状に隆起した山頂部からなめらかに湾曲しつつ切り立った傾斜面が下降して行き,谷部である管の側面へ至る形態とし,
(3)谷部は,正面視又は平面視のいずれかにおいて,周面が半径方向内側に陥没し,軸対称に管の幅が狭くなった部分であり,その谷底部は緩やかな丸みを帯びた鞍形を呈し,谷底部から軸方向の前後に向かってなだらかな斜面状に管幅が増加して行き,山部へ至る形態とし,一方,谷底部から周方向に向かっては,谷底部の幅が広がって平坦状に延伸した後,略山状に湾曲して,山部である管の側面へ至る形態としたものである。

2.イ号意匠
本件判定請求の対象であるイ号意匠は,判定請求書と同時に提出された甲第3号証のイ号説明書及びイ号図面により示されたものであって,意匠に係る物品は「手摺棒材」であると認められ,その形態を,イ号説明書及びイ号図面に記載されたとおりものである。ただし,甲第3号証のイ号説明書及びイ号図面において,イ号意匠が正面図において左右方向に連続する長尺材である旨の記載がないが,甲第4号証の被請求人のカタログ等の記載及びこの種の物品の通常の知識に照らせば,イ号意匠も本件登録意匠と同様の長尺材であると解するのが相当であるから,正しくは甲第3号証のイ号説明書に同趣旨を記載すべきところを遺漏したものと認め,当審において,イ号意匠は正面図において左右方向にのみ連続するものと認定する。(別紙第2参照)

すなわち,その形態は,
(1)全体は,正面視において左右方向にのみ連続する,略円筒形状の管体であって,その周面の左右両端の管端部を除く中間部は,緩やかな凸面を成す山部と緩やかな凹面を成す谷部とを,軸方向に等間隔に繰り返し連続して設け,上,下,前及び後ろのいずれの方向にも一様である半径方向対称形の波状に形成したものであり,それは,管体の断面が全て円形となるように,周面が一様に半径方向外側に膨らんだ山部と周面が一様にくびれた谷部が交互に現れる態様で波状の凹凸を形成したものであり,
(2)山部は,正面視及び平面視において,周面が一様に半径方向外側に突出し,管の幅が広くなった部分であり,その山頂部は緩やかな丸みを帯びた山形を呈し,山頂部から軸方向の前後に向かってなだらかな斜面状に管幅が減少して行き,谷部へ至る形態とし,一方,周方向に向かっては,大きな円形に一定の丸みを持った一様な凸面を成す形態とし,
(3)谷部は,正面視及び平面視において,周面が一様に半径方向内にくびれて,管の幅が狭くなった部分であり,その谷底部は緩やかな丸みを帯びた鞍形を呈し,谷底部から軸方向の前後に向かってなだらかな斜面状に管幅が増加して行き,山部へ至る形態とし,一方,周方向に向かっては,小さな円形に一定の丸みを持った一様にくびれた鼓形の曲面を成す形態としたものである。

3.本件登録意匠とイ号意匠との対比
(1)意匠に係る物品
本件登録意匠とイ号意匠の意匠に係る物品は,共に「手摺棒材」であり,一致する。

(2)両意匠の形態
両意匠の形態を対比すると,主として以下の共通点及び相違点が認められる。

まず,共通点として,全体は,正面視において左右方向にのみ連続する,略円筒形状の管体であって,その周面の左右両端の管端部を除く中間部は,緩やかな凸面を成す山部と緩やかな凹面を成す谷部とを,正面又は平面から見たときに,軸方向に等間隔に繰り返し連続して設けて波状に形成したものである点が認められる。

他方,相違点として,
(ア)周面の波形状全体として,
本件登録意匠の周面の凹凸は,垂直方向の最大幅部(山部)を成す箇所の軸方向同位置において水平方向の最小幅部(谷部)を成し,また,水平方向の最大幅部(山部)を成す箇所の軸方向同位置において垂直方向の最小幅部(谷部)を成すような凹凸態様としたものであり,全体として,半径方向外側に突出する山部が,正面視上下方向と前後方向(平面視における上下方向)とに,交互にその突出する方向を変えて谷部の合間に現れる態様で波状の凹凸を形成したものであるのに対し,
イ号意匠の周面の凹凸は,上,下,前及び後ろのいずれの方向にも一様である半径方向対称形の波状に形成したものであり,それは,管体の断面が全て円形となるように,周面が一様に半径方向外側に膨らんだ山部と周面が一様にくびれた谷部が交互に現れる態様で波状の凹凸を形成したものである点。
(イ)山部の形態について,
本件登録意匠は,正面視又は平面視のいずれかにおいて,周面が半径方向外側に突出し,軸対称に管の幅が広くなった部分であり,その山頂部は緩やかな丸みを帯びた山形を呈し,山頂部から軸方向の前後に向かってなだらかな斜面状に管幅が減少して行き,谷部へ至る形態とし,一方,山頂部から周方向に向かっては,幅の狭い略山状に隆起した山頂部からなめらかに湾曲しつつ切り立った傾斜面が下降して行き,谷部である管の側面へ至る形態としているのに対し,
イ号意匠は,正面視及び平面視において,周面が一様に半径方向外側に突出し,管の幅が広くなった部分であり,その山頂部は緩やかな丸みを帯びた山形を呈し,山頂部から軸方向の前後に向かってなだらかな斜面状に管幅が減少して行き,谷部へ至る形態とし,一方,周方向に向かっては,大きな円形に一定の丸みを持った一様な凸面を成す形態としている点。
(ウ)谷部の形態について,
本件登録意匠は,正面視又は平面視のいずれかにおいて,周面が半径方向内側に陥没し,軸対称に管の幅が狭くなった部分であり,その谷底部は緩やかな丸みを帯びた鞍形を呈し,谷底部から軸方向の前後に向かってなだらかな斜面状に管幅が増加して行き,山部へ至る形態とし,一方,谷底部から周方向に向かっては,谷底部の幅が広がって平坦状に延伸した後,略山状に湾曲して,山部である管の側面へ至る形態としているのに対し,
イ号意匠は,正面視及び平面視において,周面が一様に半径方向内にくびれて,管の幅が狭くなった部分であり,その谷底部は緩やかな丸みを帯びた鞍形を呈し,谷底部から軸方向の前後に向かってなだらかな斜面状に管幅が増加して行き,山部へ至る形態とし,一方,周方向に向かっては,小さな円形に一定の丸みを持った一様にくびれた鼓形の曲面を成す形態としている点。

4.両意匠の形態の評価
以上の共通点及び相違点が両意匠の類否判断に及ぼす影響を評価し,本件登録意匠の出願前に存在する公知意匠を参酌し,新規な形態や需要者の注意を最も引きやすい部分を考慮した上で,本件登録意匠とイ号意匠が類似するか否かについて,考察する。

まず,共通点として挙げた全体の態様については,正面視において左右方向にのみ連続する,略円筒状の管体であって,その周面の左右両端の管端部を除く中間部に,正面又は平面から見て,凹凸を軸方向に繰り返し連続して設けて波状に形成した点であるが,それは,この種の手摺棒材の意匠の通常有する形態を概括的に捉えたにすぎないものであって,両意匠の基調を成すものとはいえないものである。すなわち,手摺棒材を使用する歩行者等が手で掴んで体勢を保持しつつ進行方向に歩行するための補助を担うという物品の用途に照らして,全体を長尺の略円筒状の管体形とすることはごく普通の態様であるし,また,甲第6号証,乙第1号証及び同第2号証によれば,手摺棒の周面に滑り止めのための各種の凹凸を波状に形成することは従来から広く行われており,なおかつ,その凹凸を含む手摺周面の具体的形態について多様な特徴のある意匠の創作が行われてきたことが認められる。
したがって,この種の手摺棒材の意匠の通常有する形態を概括的に捉えたにすぎない共通点が両意匠の類否判断に及ぼす影響は軽微なものにとどまるものである。

これに対し相違点(ア)は,管端部を除く両意匠の大部分を占める部分の基本的な立体形状に係るものであり,両意匠を比較した場合に,本件登録意匠の,管端部を除く周面全体に渡り,上下方向のみに突出する山部と水平方向のみに突出する山部とが交互にその角度を変えて谷部の合間に現れた態様の波状の形態と,イ号意匠の,周面が一様に膨らんだ山部と,一様にくびれた谷部とが交互に現れた態様の波状の形態とでは,両意匠の立体形状を大きく異にするものであるから,看者に異なる視覚的印象を与えるものである。
そして,相違点(イ)の山部及び同(ウ)の谷部の形態については,当該物品を使用する歩行者等が手で掴む部分の具体的形態に係るものであり,これらは,当該使用者,ひいては,当該物品を仕入れ,設置工事を行う建築業者等も,当該具体的形態に大きな関心を抱くものであるから,意匠の要部に係るものであると認められる。
そして,看者は,両意匠を観察する際に,図面又は図面代用写真に表現されたような,真正面又は真上から観察するのみならず,例えば,歩行者が手で掴んだ際に,その歩行者は斜め上方から手摺を見下ろす角度からも観察し,意匠を立体的に把握するものであるから,両意匠を立体的に把握した場合における視覚的印象の異同は,類否判断に大きな影響を与え得るものと認められる。
そうすると,両意匠を立体形状として比較した場合に,本件登録意匠の,周方向にたどった場合の周面の凹凸は,山部と山部の間に谷部が現れる態様であって,山部の周方向の形状は略山状に隆起した形態とし,谷部の周方向の形状は平坦状の形態とした態様と,イ号意匠の,周面の凹凸は周方向に一様のものであって,大きな円形に一定の丸みを持った一様な凸面を成す山部と,小さな円形に一定の丸みを持った一様にくびれた鼓形の曲面を成す谷部を形成した態様とでは,その視覚を通じて与える印象は明らかに異なるものである。

請求人は,建築業者や一般消費者は,階段等において手摺を握る行為に関心があるから,手摺を横長に見たときの形状に着目すると考えられ,特に本件登録意匠の場合,手摺が平坦ではなく山部と谷部が連続して存在することに対して,デザイン性や機能性を見いだすこととなり,したがって,山部と谷部が連続する形状であることは重要であるが,それ以上に山部と谷部が縦横に交互に存在することまで強調する意義は見いだせない旨主張する(弁駁書4頁)。
しかしながら,そもそも,意匠の類否判断は,意匠に係る物品を観察する際に通常用いられる方法により,意匠全体を観察し,その立体形状を把握して行うべきものであって,請求人が主張するような,ある特定の方向から見た場合の形状のみに着目すべき場合は,例えば,使用時又は設置時には埋め込まれて観察できなくなる部位が類否判断に与える影響を勘案する場合などの特別な事情がある場合に限られる。
そして,両意匠において,手摺を横長に見たときの形状のみに着目して類否判断を行うべき特別な事情は認められない。
よって,上記の請求人の主張を採用することはできない。

したがって,相違点(ア)ないし(ウ)が両意匠の類否判断に与える影響は大きいものである。

5.両意匠の類否判断
上記のとおり,両意匠は,意匠に係る物品については共通するものの,形態については,共通点が両意匠の類否判断に及ぼす影響は微弱であるのに対して,相違点が類否判断に及ぼす影響はそれぞれ大きく,それらにより生じる視覚的効果は,共通点のそれを凌駕して,類否判断を支配しているものであるから,意匠全体として需要者に与える美感が異なるものであって,本件登録意匠とイ号意匠とは類似しないものと認められる。

第5 むすび
以上のとおりであって,イ号意匠は,本件登録意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属しない。

よって,結論のとおり判定する。
別掲
判定日 2015-10-14 
出願番号 意願2003-7140(D2003-7140) 
審決分類 D 1 2・ 0- ZB (L3)
最終処分 不成立 
特許庁審判長 小林 裕和
特許庁審判官 清野 貴雄
渡邉 久美
登録日 2004-07-23 
登録番号 意匠登録第1216268号(D1216268) 
代理人 辻本 希世士 
代理人 鈴木 佑子 
代理人 辻本 一義 
代理人 廣瀬 哲夫 
代理人 金澤 美奈子 
代理人 辻本 希世士 
代理人 辻本 一義 
代理人 金澤 美奈子 
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