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審決分類 審判    H1
管理番号 1310774 
審判番号 無効2014-880014
総通号数 195 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 意匠審決公報 
発行日 2016-03-25 
種別 無効の審決 
審判請求日 2014-09-30 
確定日 2016-01-12 
意匠に係る物品 電気自動車用充電コネクタ 
事件の表示 上記当事者間の登録第1478580号「電気自動車用充電コネクタ」の意匠登録無効審判事件について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 審判費用は,請求人の負担とする。
理由 第1 手続の経緯
本件意匠登録第1478580号の意匠(以下「本件登録意匠」という。)は,平成24年(2012年)12月3日に意匠登録出願(意願2012-29580。以下「本願」という。)されたものであって,審査を経て平成25年(2013年)8月2日に意匠権の設定の登録がなされ,同年9月2日に意匠公報が発行され,その後,当審において,概要,以下の手続を経たものである。

・本件審判請求 平成26年 9月30日
・審判事件答弁書提出 平成27年 2月25日
・審判事件弁駁書提出 平成27年 7月29日
・口頭審理陳述要領書(被請求人)提出 平成27年 9月15日
・口頭審理陳述要領書(請求人)提出 平成27年 9月30日
・口頭審理 平成27年10月14日


第2 当事者が提出した証拠
1 請求人は,以下の甲第1号証ないし甲第21号証(全て写しである。)を,審判請求書,審判事件弁駁書及び口頭審理陳述要領書の添付書類として提出した。
甲第1号証 意匠登録第1478580号(本件登録意匠)意匠公報
甲第2号証 意匠登録1417577号(公知意匠)意匠公報
甲第3号証 本件登録意匠と公知意匠との比較図
甲第4号証 自動車用給電コネクタの形状とデザインの変遷
甲第5号証 CHAdeMO協議会第6回整備部会議事録
甲第6号証 公知意匠実施品 社内報抜粋
甲第7号証 公知意匠実施品 ウェブサイトプリントアウト
甲第8号証 本件登録意匠実施品 プレスリリース
甲第9号証 本件登録意匠実施品 チラシ
甲第10号証 本件登録意匠に関する平成25年4月26日提出の意見書
甲第11号証 意匠登録第1478392号意匠公報
甲第12号証 意匠登録第1478582号意匠公報
甲第13号証 意匠登録第1433072号意匠公報
甲第14号証 意匠登録第1452864号意匠公報
甲第15号証 意匠登録第950460号意匠公報
甲第16号証 意匠登録第950460号の類似1意匠公報
甲第17号証 意匠登録第950460号の類似2意匠公報
甲第18号証 意匠登録第1476923号意匠公報
甲第19号証 意匠登録第1464742号意匠公報
甲第20号証 請求人製品の表示ランプに係る写真
甲第21号証 意匠登録第1478583号意匠公報

2 被請求人は,以下の乙第1号証ないし乙第6号証(枝番を含む。全て写しである。)を,審判事件答弁書及び口頭審理陳述要領書の添付書類として提出した。なお,乙第2号証及び乙第3号証は,公報の表紙及び該当図面の抜粋である。
乙第1号証 本件登録意匠と公知意匠の対比図
乙第2号証-1 特開平9?161898号公報
乙第2号証-2 特開2003-346981号公報
乙第2号証-3 特開2010-123521号公報
乙第2号証-4 特開2010-161910号公報
乙第2号証-5 米国特許第6123569号特許公報
乙第2号証-6 特開平7-37644号公報
乙第2号証-7 特開平10-262340号公報
乙第2号証-8 特開平11-122714号公報
乙第2号証-9 特開平6-290836号公報
乙第2号証-10 特開平6-325830号公報
乙第2号証-11 特開平6-325834号公報
乙第2号証-12 特開平9-106861号公報
乙第2号証-13 特開2009-194958号公報
乙第3号証 特開平7-85926号公報
乙第4号証 CHAdeMO Association インターフェイスの解説のウェブページ(http://www.chademo.com/wp/japan/technology/details/)
乙第5号証 広辞苑第六版 2565頁,表紙,奥付
乙第6号証 広辞苑第六版 1705頁,表紙,奥付


第3 請求人の申し立て及び理由の要点
請求人は,請求の趣旨を
「意匠登録第1478580号の登録は,これを無効とする,
審判費用は被請求人の負担とする,との審決を求める。」と申し立て,その理由を,要点以下のとおり主張し(「審判事件弁駁書」及び「口頭審理陳述要領書」の内容を含む。),その主張事実を立証するため,「第2 1」に掲げた証拠を提出した。

1 意匠登録無効の要点
意匠登録第1478580号の意匠(以下,「本件登録意匠」という。甲第1号証。別紙第1参照。)は,当該意匠登録出願前に日本国内又は外国において公然知られた意匠,及び,日本国内又は外国において,頒布された刊行物に記載された意匠又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった意匠である意匠登録第1417577号の意匠(以下,「公知意匠」という。甲第2号証。別紙第2参照。)に類似する意匠であるので,本件登録意匠は意匠法第3条第1項第3号に該当する。
したがって,同法第48条第1項第1号の規定により,本件登録意匠の登録は無効とされるべきである。

2 本件意匠登録を無効にすべき理由
(1)本件登録意匠の要旨
本件登録意匠(甲第1号証)は,「電気自動車用充電コネクタ」に係る意匠である。以下,その形態について特定する。各部名称及び図の向きについては,甲第3号証(別紙第3参照)を元に特定する。
ア 基本的構成態様
(A)本件登録意匠は,挿入部,コネクタ本体,ケーブル部及びグリップ部とからなる,ガンタイプのワンアクション・グリップ式電気自動車用充電コネクタである。前記各部は,大きな段差なくスムーズですっきりとした表面形状を形成している。
(B)挿入部は円柱状であって,その先端には,4つの円形のコネクタが設けられている。また,挿入部平面側には,抜け止めフックが設けられている。
(C)コネクタ本体は,挿入部よりもやや太幅の円柱状であって,グリップ方向にかけやや膨らんだ後,緩やかに細幅になっている。
(D)コネクタ本体と上方向から接続してグリップ部が設けられており,グリップ部の上端にはリリーススイッチが設けられている。また,グリップ部背面には表示ランプ部が設けられている。
(E)コネクタ本体と下方向から接続して,内部にケーブルを有するケーブル部が設けられている。
(F)コネクタ本体上側及びグリップ部外側は,上側デザインカバーに覆われている。また,コネクタ本体下側及びケーブル部外側は,下側デザインカバーに覆われている。
イ 具体的構成態様
(G)挿入部に設けられた抜け止めフックはやや長めであって先端に爪部を有する。
(H)コネクタ本体は,上方が挿入部から弧状に膨らんで,また,外側に膨らみを持たせた弧状で幅細になっているが,コネクタ本体の下方及び中部は内側に弧状でえぐれて細幅になっている。
(I)リリーススイッチは,隅丸長方形状の押しスイッチである。
(J)グリップ部は,ストレート状にケーブル部と平行するように設けられている。
(K)グリップ部には,その内側上方に人差し指引っ掛け用の凹みが設けられていて,グリップ部とケーブル部とで形成する空間は略楕円形状である。
(L)表示ランプ部は,中央にやや膨らみを持たせた線状である。
(M)上側デザインカバーと下側デザインカバーとは,コネクタ本体前方側面及びグリップ部下方とケーブル部下方とにおいて,空間を設けている。(2)公知意匠の要旨
公知意匠は,「自動車用給電コネクタ」に係る意匠である。以下,公知意匠の形態を本件登録意匠との比較に必要な範囲において特定する。各部名称及び図の向きについては,甲第3号証(別紙第3参照)を元に特定する。
ア 基本的構成態様
(a)公知意匠は,挿入部,コネクタ本体,ケーブル部及びグリップ部とからなる,ガンタイプのワンアクション・グリップ式電気自動車用充電コネクタである。前記各部は,大きな段差なくスムーズですっきりとした表面形状を形成している。
(b)挿入部は円柱状であって,その先端には,4つの円形のコネクタが設けられている。また,挿入部平面側には,抜け止めフック及びガイドが設けられている。
(c)コネクタ本体は,挿人部よりもやや太幅の円柱状であって,グリップ方向にかけてやや膨らんだ後,緩やかに細幅になっている。
(d)コネクタ本体と上方向から接続してグリップ部が設けられており,グリップ部の上端にはリリーススイッチが設けられている。また,グリップ部背面には表示ランプ部が設けられている。
(e)コネクタ本体と下方向から接続して,内部にケーブルを有するケーブル部が設けられている。
(f)コネクタ本体上方からケーブル部に掛けて,デザインラインが設けられていて,前記(c)幅の切替が行われている。
イ 具体的構成態様
(g)挿入部に設けられた抜け止めフックはやや短めであって先端に爪部を有する。
(h)コネクタ本体は,上方が挿入部から弧状に膨らんで,また,外側に膨らみを持たせた弧状で幅細になっているが,下方及び中部はデザインラインを境に内側に弧状でえぐれて細幅になっている。
(i)リリーススイッチは,隅丸長方形状のスライドスイッチである。
(j)グリップ部は,外側に僅かに膨らみを持たせたストレート状でケーブル部と平行するように設けられている。
(k)グリップ部には,その内側にグリップ溝を設けていて,グリップ部とケーブル部とで形成する空間は略楕円形状である。
(l)表示ランプ部は,円状である。
(3)共通点と相違点
ア 共通点
本件登録意匠と公知意匠とは,挿入部,コネクタ本体,ケーブル部及びグリップ部とからなる,ガンタイプのワンアクション・グリップ式電動自動車充電コネクタであって,前期各部が大きな段差無くスムーズですっきりとした表面形状を形成している点,及び,全体的な各部の大きさの割合において共通しており,全体印象が大きく共通している。
基本的構成態様の各部を見れば,まず挿入部においては,挿入部が円柱状であること,その先端には,4つの円形のコネクタが設けられていること,挿入部平面側に,抜け止めフックが設けられていることが共通している。また,コネクタ本体においては,コネクタ本体は挿入部よりもやや太幅の円柱状であってグリップ方向にかけてやや膨らんだ後,緩やかに細幅になっている点が共通している。さらに,太幅のコネクタ本体が,やや幅細になって下方ヘケーブル部となり,さらに幅細になってグリップ部になっているという幅の太さの流れも共通である。グリップ部に設けられたリリーススイッチや表示ランプ部の位置において共通している。
具体的構成態様を見れば,主には,コネクタ本体の幅の切り替わりにおいて,コネクタ部は挿入部から弧状に膨らんで,下方及び中部において内側に弧状でえぐれて細幅になっている点が共通している。また,グリップ部は,ストレート状にケーブル部と平行するように設けられていて,グリップ部とケーブル部とで形成する空間が略楕円形状である点で共通する。
イ 相違点
両意匠は,まず,デザインカバーの有無という点において相違する。すなわち,本件登録意匠は上側デザインカバーと下側デザインカバーによってコネクタ本体,グリップ部及びケーブル部の外側がカバーされているのに対して,公知意匠にはデザインカバーは存在しない。
公知意匠ではコネクタ本体からケーブル部に掛けて,デザインラインが設けられていて,コネクタ本体とケーブル部及びグリップ部の幅の切替が行われているのに対して,本件登録意匠にはそのようなラインはなく,アールを用いて幅の切替が行われている点が相違する。
また,本件登録意匠ではグリップ部がストレート状にケーブル部と平行していて人差し指引っ掛け用の凹みがあるのに対して,公知意匠では外側に僅かに膨らみを持たせたストレート状でグリップ部内側にグリップ溝が設けられている点で相違する。
さらに,リリーススイッチ,表示ランプ部の具体的形状において相違する。挿入部に設けられた抜け止めフックの形状が本件登録意匠ではやや長いのに対して,公知意匠では短めである点が相違する。また公知意匠には挿入部にガイドが設けられているのに対して本件登録意匠にはガイドが無い点が相違する。
(4)類否
ア 共通点と相違点の評価
相違点は,いずれも些細な相違であって,両意匠の類否判断において全く大きく評価されるものではない。
第一に,デザインカバーの有無という相違点がある。この点については,本件登録意匠の審査過程において公知意匠が引用されて意匠法第3条第1項第3号に該当との拒絶理由通知が出されていたが,それに対する意見書の中で,被請求人は「基本的構成態様においてデザインカバーの有無という決定的な差異点がある」と述べている(甲第10号証:意見書5頁,7頁)。しかし,このデザインカバーの有無は類否判断に影響を与えることの無い相違である。その理由は,本件登録意匠の本意匠である意匠登録第1478392号(甲第11号証)に対して,その関連意匠として意匠登録第1478582号(甲第12号証)が登録されていることから明らかである。
すなわち,前記本意匠はデザインカバーが設けられた意匠であるのに対して,前記関連意匠は当該本意匠からデザインカバーを外した形態に係る意匠である。このようなデザインカバーの有無という相違があっても,類似と判断されて登録されていることからすれば,デザインカバーの有無という相違点は類否判断に影響を与えない些細な相違と解釈されていることが分かる。また,この登録例からは,逆に,デザインカバーの有無という相違点よりも,挿入部,コネクタ本体,ケーブル部,及びグリップ部の形状を重視して類否判断を行ったことが分かる。このような登録例(しかも,被請求人自身の登録例)から,デザインカバーの有無を顕著な相違点と評価できないことは明らかである。
第二に,デザインラインの有無であるが,公知意匠のデザインラインはコネクタ本体の膨らみがケーブル部及びグリップ部へと緩やかに凹む切替の線であり,ここに線が入っているというよりも,膨らみが緩やかに凹む形状変化がこの辺りにあるという美的印象を重視すべきものである。一方,本件登録意匠では,公知意匠のようなデザインラインは入っていないが,同様の場所で,コネクタ本体の膨らみがケーブル部及びグリップ部へと緩やかに凹む切替が行われており,このような美的処理の切替が行われているという美的印象を生じている。とすれば,デザインラインの有無というのは顕著な相違点と捉えるのではなく,同様の場所で,コネクタ本体の膨らみがケーブル部及びグリップ部へと緩やかに凹打切替が行われているという美的処理の共通点とすら捉えられるべきものである。
第三に,グリップ部の具体的形状の相違がある。具体的には,グリップ部の背面側か本件登録意匠ではストレートであるのに対して公知意匠では僅かに外側に膨らんだストレートである点である。しかし,ここに形状を特定したように,公知意匠の背面側は僅かに外側に膨らんでいるのみであって,本件登録意匠と比較した際に,デザイン上の顕著な相違があるとまで言えるものではない。むしろ,グリップ式でケーブル部と平行に同様の太さにて形成されたグリップ部という共通の概念に埋没するものである。また,グリップ部内側において,本件登録意匠には人差し指用の凹みがあるのに対して,公知意匠では凹みはなくグリップ溝が設けられているという相違があるが,これらはいずれもグリップの把持性を高めるためによく行われる造作であって,特にいずれかが顕著に美的印象を発揮する部分とは言い難いものである。よって,このようなグリップ部内側の相違よりも,グリップ部とケーブル部の間に形成された空間が共に似たような略楕円形であるという点が評価されるべきである。
第四に,リリーススイッチ及び表示ランプ部の具体的形状の相違,及び,挿入部におけるガイドの有無,抜け止めフックの長さの相違がある。しかし,これらは,給電コネクタ全体からみれば,小さな部位かつ補助的な部位に係る些細な相違でしかなく,両意匠の類否判断を決する相違でないことは明らかである。
上記のように,両意匠の相違点がいずれも大きく評価できるものではなく,これらが集まったとしても,両意匠から異なる美的印象を生じさせるほどのものでないことは明らかである。

一方,両意匠には,以下のような共通点がある。
・本件登録意匠と公知意匠とは,挿入部,コネクタ本体,ケーブル部及びグリップ部の各部が大きな段差なくスムーズですっきりとした表面形状を形成している点,及び,全体的な各部の大きさの割合および全体印象。
・コネクタ本体は挿入部よりもやや太幅の円柱状であってグリップ方向にかけてやや膨らんだ後,緩やかに細幅になっている点。具体的には,コネクタ本体の幅の切り替わりにおいて,コネクタ部は挿入部から弧状に膨らんで,下方及び中部において内側に弧状でえぐれて細幅になっている点。
・グリップ部は,ストレート状にケーブル部と平行するように設けられていて,グリップ部とケーブル部とで形成する空間が略楕円形状である点。
・円柱状の挿入部に,その先端には4つの円形のコネクタ,上面には抜け止めフックが設けられていること。

自動車用給電アダプタの意匠において,挿入部,コネクタ部,ケーブル部及びグリップ部の全体形状及び全体印象が重視されていることは意匠登録例から明らかである。例えば,次のような事例がある。意匠登録第1433072号(本意匠:甲第13号証)と同第1452864号(関連意匠:甲第14号証)とが類似として登録されており,挿入部,コネクタ本体,グリップ部,ケーブル部を総合した全体形状および全体印象が共通していれば,各部の具体的形状が多少異なっていても類似と判断されている。
また,意匠登録第950460号(本意匠:甲第15号証),同第950460号の類似1 (類似意匠:甲第16号証)及び同第950460号の類似2(類似意匠:甲第17号証)が類似として登録されており,全体形状及び全体印象は,特にコネクタ本体及び挿入部が重視されており,グリップ部の細部までは特に重視されていない。
以上より,本件登録意匠と公知意匠の類否判断においても,先の登録例から考えて,また,受容者が美的印象を生じる部位から考えて,全体形状及び全体印象を重視しつつ,特にコネクタ本体及び挿入部に係る全体印象を重視すべきことが分かる。この点,本件両意匠においては,上述の通り,挿入部,コネクタ全体,ケーブル部及びグリップ部の各部が大きな段差なくスムーズですっきりとした表面形状を形成していて,全体に生じている美的処理に共通点が大きく,また,その各部のプロポーションにおいて共通しているため,全体印象も共通する。また,コネクタ本体は挿入部よりもやや太幅の円柱状であってグリップ方向にかけてやや膨らんだ後,穏やかに細幅になっていて,具体的には,コネクタ本体の幅の切り替わりにおいて,コネクタ部は挿入部から弧状に膨らんで,下方及び中部において内側に弧状でえぐれて細幅になっている点という類否判断において重視すべきポイントが共通している。グリップ部においても,上述した若干の相違点はあるが,ストレート状にケーブル部と平行するように設けられていて,グリップ部とケーブル部とで形成する空間が略楕円形状であるという印象において共通しており,類否判断において重視すべきポイントにおいて共通している。
類否判断および意匠法第3条第1項第3号該当性
本件登録意匠と公知意匠の相違点は重視されない点又は些細な点に関するものであって,類否判断においては重きを置けないのに対して,両意匠の共通点はこの種物品分野においては重視されるべき部分にかかる共通点であって各共通点および共通点を総合したところから生じる共通の美感が需要者に強烈な共通の美的印象を与える。よって,両意匠は類似である。
また,公知意匠は2011年6月27日に公報発行により公知となっているところ,本件登録意匠は2012年12月3日に出願されている。
よって,本件登録意匠は公知意匠の存在により,意匠法第3条第1項第3号に該当する。
(5)むすび
上記の通り,本件登録意匠は,意匠法第3条第1項第3号の規定に該当するものであるから,同法第48条第1項第1号の規定により,本件登録意匠の登録は無効とされるべきである。

3 平成27年7月29日付け「審判事件弁駁書」における主張
両意匠の差異点の評価を総合すると,以下のようになる。
第一に,デザインカバーの有無という差異点については,甲第11号証と同第12号証の存在からして大きく評価できない。
第二に,デザインラインの有無という差異点については,公知意匠のデザインラインはコネクタ本体の膨らみがケーブル部及びグリップ部へと緩やかに凹む切替の線であり,ここに線が入っているというよりも,膨らみが緩やかに凹む形状変化がこの辺りにあるという美的印象を重視すべきものである。一方,本件登録意匠では,公知意匠のデザインラインと同様の場所で,コネクタ本体の膨らみがケーブル部及びグリップ部へと緩やかに凹む切替が行われており,このような美的処理の切替が行われているという美的印象を生じている。とすれば,デザインラインの有無というのは顕著な相違点と捉えるのではなく,同様の場所で,コネクタ本体の膨らみがケーブル部及びグリップ部へと緩やかに凹む切替が行われているという美的処理の共通点とすら捉えられるべきものである。
第三に,グリップ部の背面側が本件登録意匠ではストレートであるのに対して公知意匠では僅かに外側に膨らんだストレートである点という差異点については,公知意匠の背面側は僅かに外側に膨らんでいるのみであって,本件登録意匠と比較した際に,デザイン上の顕著な相違があるとまで言えない。むしろ,グリップ式でケーブル部と平行に同様の太さにて形成されたグリップ部という共通の概念に埋没するものである。また,グリップ部内側において,本件登録意匠には人差し指用の凹みがあるのに対して,公知意匠では凹みはなくグリップ溝が設けられているという相違があるが,これらはいずれもグリップの把持性を高めるためによく行われる造作であって,特にいずれかが顕著に美的印象を発揮する部分とは言い難いものである。よって,このようなグリップ部内側の相違よりも,グリップ部とケーブル部の間に形成された空間が共に「楕円」であるという点が評価されるべきである。
第四に,リリーススイッチ及び表示ランプ部の具体的形状の相違,及び,挿入部におけるガイドの有無,抜け止めフックの長さの相違がある。しかし,これらは,給電コネクタ全体からみれば,小さな部位かつ補助的な部位に係る些細な相違でしかなく,両意匠の類否判断を決する相違でないことは明らかである。逆に,リリーススイッチと表示ランプの位置に重きが置かれるべきであって,その点においては,両意匠ではリリーススイッチと表示ランプの位置において共通するものである。
上記のように,両意匠の差異点はいずれも大きく評価できるものではなく,これらが集まったとしても,両意匠から異なる美的印象を生じさせるほどのものでないことは明らかである。
一方,両意匠の共通点は以下の通りであって,被請求人の答弁書の記載内容からしても,いずれの共通点も崩れることはない。特に,下記共通点(1)ないし(4)において両意匠から共通の美的印象が生じる。
(1)本件登録意匠と公知意匠とは,挿入部,コネクタ本体,ケーブル部及びグリップ部の各部が大きな段差なくスムーズですっきりとした表面形状を形成している点,及び,全体的な各部の大きさの割合および全体印象。
(2)コネクタ本体は挿入部よりもやや太幅の円柱状であってグリップ方向にかけてやや膨らんだ後,緩やかに細幅になっている点。具体的には,コネクタ本体の幅の切り替わりにおいて,コネクタ部は挿入部から弧状に膨らんで,下方及び中部において内側に弧状でえぐれて細幅になっている点。
(3)グリップ部は,ストレート状にケーブル部と平行するように設けられていて,グリップ部とケーブル部とで形成する空間が「楕円」である点。
(4)円柱状の挿入部に,その先端には4つの円形のコネクタ,上面には抜け止めフックが設けられている点。

審判請求書で述べたように,本件登録意匠と公知意匠の類否判断においては,全体形状及び全体印象を重視すべきである。この点,両意匠においては,前記の通り,挿入部,コネクタ本体,ケーブル部及びグリップ部の各部が大きな段差なくスムーズですっきりとした表面形状を形成していて,全体に生じている美的処理に共通点が大きく,また,その各部のプロポーションにおいて共通しているため,全体印象も共通する。また,コネクタ本体は挿入部よりもやや太幅の円柱状であってグリップ方向にかけてやや膨らんだ後,緩やかに細幅になっていて,具体的には,コネクタ本体の幅の切り替わりにおいて,コネクタ部は挿入部から弧状に膨らんで,下方及び中部において内側に弧状でえぐれて細幅になっている点という類否判断において重視すべきポイントが共通している。グリップ部においても,上述した若干の相違点はあるが,ストレート状にケーブル部と平行するように設けられていて,グリップ部とケーブル部とで形成する空間が略楕円形状であるという印象において共通しており,類否判断において重視すべきポイントにおいて共通している。
総合すると,当該共通点から生じる美感が,差異点から生じる印象よりも強く,両意匠は類似している。

4 平成27年9月30日付け「口頭審理陳述要領書」における主張
(1)デザインカバーの存在
第一に,本件登録意匠には「大きな段差」がないという点は重要である。自動車用給電コネクタの意匠においては,甲第13号証,甲第18号証,甲第19号証のような「大きな段差」の存在が認められる意匠が多数存在している中で,本件登録意匠(および公知意匠)には「大きな段差」がないという点は全体印象における大きな共通点として評価される。
第二に,本件登録意匠にはデザインカバーが存在しているが,デザインカバーは,類否判断において重視すべき部分ではなく,全体的に大きな段差がないという全体印象の共通点に埋没する程度の存在である。デザインカバーの存在の評価については,甲第11号証と甲第12号証とが,関連関係として登録されている事例を挙げて,デザイカバーの有無は類否判断においては重視されない旨を既に説明しているところであるが,被請求人は,平成27年9月15日提出の口頭審理陳述要領書(以下「要領書」という。)において,「甲第11号証と甲第12号証は,カバー以外が完全に同一であって差異点以上に共通点が圧倒的に上回っているだけであるから事案が全く異なる」旨を主張する。しかし,デザインカバーの有無の相違があっても類似になっているのは,紛れもなく,デザインカバーは類否判断において重視されない要素と判断されたからである。逆に,デザインカバーの有無が重要な要素であるならば,甲第11号証と甲第12号証の意匠は互いに非類似のはずであるし,全体形状とデザインカバーのどちらに重きが置かれたかといえば,全体形状であることに間違いはない。
よって,本件登録意匠にデザインカバーは存在するが,類否判断においてデザインカバーは重視されない。それよりも,両意匠の全体形状が「大きな段差がなく,スムーズですっきりした表面形状」となっている共通点にかかる形態が重視されるべきであるし,前記共通点に係る形状が他の意匠にはない特徴点な部分である。
(2)リリーススイッチの配置箇所および形状
本件登録意匠と公知意匠の類否判断においては,グリップ部とコネクタ本体の境界がどこであるかが重要ではなく,問題は,リリーススイッチがどこにあるかという点である。グリップを握って本物品を操作する際に,親指でリリーススイッチを操作する関係上,リリーススイッチはグリップにあると認識されるものであって,リリーススイッチはグリップ部上端にあると捉えるのが素直な特定である。よって,両意匠の類否判断においても。リリーススイッチの位置は略共通していると認定されるべきである。
(3)グリップ部とケーブル部とで形成する空間
両意匠のグリップ部とケーブル部とで形成する空間については,両者ともに「楕円状」といえるものであって,ほぼ同じような外形を持つ空間と評価されるのが正しい。
(4)コネクタ本体の内側形状
公知意匠の平面視において,コネクタ本体が内側に屈折して細くなっていて,かつ,側面視においてデザインラインが出ていることから,「内側にえぐれている」と被請求人は繰り返し特定している,しかし,デザインラインは単なる幅の切り替え線であって,デザインラインから内側は幅細になっていくことを示すのみである。また,その幅細への切り替わりも,平面視において内側に少しだけ弧を描いて細くなっているが,えぐれているとまで表現されるものではない。よって,両意匠の「コネクタ本体は挿入部よりもやや太幅の円柱状であってグリップ方向にかけてやや膨らんだ後,緩やかに細幅になっている」という両意匠の共通点は維持されるし,他の意匠にはない特徴点な部分である。
また,要領書において,被請求人は,本件登録意匠のコネクタ本体内側形状について,意匠法24条を根拠に。我々の主張する前記部分に関する形状は,図面に記載されていないため,本件登録意匠の具体的態様となり得ないのは明らかと主張する。本件登録意匠は図面不備であるが,この場合は既に提出されている図面から意匠の形状を合理的に解釈する他ない。本件登録意匠の図面からは,弁駁書第5頁【表2】(別紙第4参照)において背面図の赤丸で示された湾曲線により内側に凹んで細幅になっていると解釈するのが合理的である。また,この図面の解釈を否定できる図面上の記載がない。この点,被請求人は,「コネクタ本体から,グリップ部とケーブル部とで形成する空間へつながる面の僅かな変化が,かすかに一本の線として表れているにすぎない」旨述べているが,結局何ら具体的な形状は特定されておらず,合理的な形状特定と言えないのは当然である。


第4 被請求人の答弁及び理由の要点
被請求人は,答弁書を提出し,答弁の趣旨を
「本件審判の請求は,成り立たない。
審判費用は請求人の負担とする。との審決を求める。」と答弁し,その理由を,要点以下のとおり主張し(平成27年9月15日付け「口頭審理陳述要領書」の内容を含む。),その主張事実を立証するため,「第2 2」に掲げた証拠を提出した。

1 答弁の理由
(1)共通点と差異点の評価
請求人は,両意匠の差異点につき,「いずれも些細な相違であって,類否判断において全く大きく評価されるものではない」などと述べているが,全くもって妥当でない。各差異点は,両意匠全体の美感に多大な影響を与えるものである。
そこで先ず,請求人が差異点と主張している部位の評価につき詳述する。
ア デザインカバーの有無
本件登録意匠は,コネクタ本体部とグリップ部を上からカバーする上側デザインカバーと,コネクタ本体部とケーブル部を下側からカバーする下側デザインカバーに覆われているのに対して,公知意匠にはそのようなカバーは存在しない点において両意匠は明らかに異なり,本件登録意匠のデザインカバーにはビス穴やパーツの合わせ目ラインを隠すという美的処理も行われている点で,表面にビス穴やパーツの合わせ目ラインが目立つ公知意匠との差異点をより際立たせており,当該カバーが意匠全体の大きさに占める割合も比較的大きいことから,両意匠全体の美感に与える影響は極めて大きいと言える。
これに対して,請求人は,当該デザインカバーの有無は類否判断に影響を与えることのない差異であるとし,その根拠として,甲第11号証及び甲第12号証において関連意匠の登録事例を示しているが,事案が全く異なる。
請求人の示す関連意匠の登録事例は,確かに互いに類似と判断されて登録されたものではあるが,両意匠と比較すると,カバー以外が完全同一といえ,単に,差異点以上に,共通点が圧倒的に上回っているというだけである。デザインカバーの有無の差異があれば,どんな意匠でも非類似という訳ではなく,力バーの有無の差異があっても類似の場合もある,ということを示したあくまで一例に過ぎない。
言うまでも無く,審査・審判における類否判断は,あくまで個別具体的に行うべきであり,各意匠同士の類否は相対的なものであるから,本件登録意匠と公知意匠が非類似であることと,上記関連意匠が互いに類似であることは,直ちに矛盾するものではない。
イ デザインラインの有無
公知意匠では,コネクタ本体部からケーブル部に掛けてクエスチョンマーク状のデザインラインが設けられているが,本件登録意匠には,そのようなデザインラインは存在しないという点で,両意匠は明白に異なる。当該デザインラインは,意匠全体に占める割合の大きなコネクタ本体部及びケーブル部において大きく設けられていることから,当該差異点が両意匠全体の美感に与える影響も極めて大きいと言える。
現に,請求人白身も「デザインライン」と称している通り,まさにデザインを強調するために敢えて設けたラインであり,明らかに視覚的効果を意図したものである。このラインにより,公知意匠のコネクタ本体部の内側へ抉られた印象が強調されており,本件登録意匠とは明らかに異なる美感を生じさせている。
請求人は,デザインラインの存在しない本件登録意匠についても,「緩やかに凹む切替」が行われており,これを公知意匠との共通点と捉えるべきと述べているが,前述のように,公知意匠においては,デザインラインを境に形状が全く異なっており,切替と言うよりも,はっきりと内側へえぐられていることから,コネクタ本体部の幅の切替がアールによって行われている本件登録意匠とは,明白に異なると言える。
ウ グリップ部の形状
本件登録意匠には,人差し指引っ掛け用の凹みがあるが,公知意匠には存在しない点,公知意匠にはグリップ内側にグリップ溝(滑り止め)が設けられているが,本件登録意匠には存在しない点において異なり,そして何より,グリップの背面側か,本件登録意匠ではストレート状にケーブル部と平行しているのに対し,公知意匠では外側へ大きく湾曲している点において,両意匠は明白に異なる。
請求人は,公知意匠につき,「僅かに外側に膨らんでいるのみ」などと述べているが,上記のように本件登録意匠とは明らかに異なる形状であり,これより生ずる印象も全く別異のものである。即ち,本件登録意匠からはL字状と例えられるような直線的で整然としたイメージ,公知意匠からは,C字状を連想させる湾曲して滑らかなイメージという対照的な印象の差異がみられ,この差異が意匠全体の美感に与える影響も極めて大きい。
また,人差し指引っ掛け用の凹みの有無の差異についても,請求人は,「グリップの把持性を高めるためによく行われる造作であって,美的印象を発揮する部分とは言い難い」と主張しているが,グリップ部の形状が把持性に影響を与えるのであれば,寧ろ,それを取り扱う取引者,需要者の注意を強く惹くと考えられ,コネクタの選択・購入の際に,細部がどのような構成態様であるかという点が重要な判断要素となる。このような事情を考慮すれば,この人差し指引っ掛け用の凹みの有無の差異は,両意匠全体の類否判断においても十分に評価されるべきであり,意匠全体の美感に与える影響も多大なものであると言える。
グリップ部とケーブル部とで形成する空間についても,請求人が述べているような「似たような略楕円形」などと一括りにできるものではなく,前記の通り,本件登録意匠が「繭玉形」,公知意匠が「ナマコ形」と言う点で明らかに異なる。グリップ部とケーブル部とで形成する空間は,グリップ部と同様,需要者がグリップ部を把持する際に関心を持って観察する部位であることから,これも両意匠全体の美感に与える影響は大きい。
エ リリーススイッチ,表示ランプ,抜け止めフック,挿入ガイドにおける差異
請求人は,これらの差異につき,「全体からみれば,小さな部位かつ補助的な部位に係る些細な相違」などと述べているが,これは極めて大雑把,かつ,何らの具体的根拠のない主張である。
各部にはそれぞれ明白な差異が見られ,リリーススイッチについては,需要者が操作する際に直接手に触れる箇所であり,また,表示ランプ,抜け止めフック,挿入ガイドについても,使用時において需要者が目視・確認等する箇所であり,いずれもコネクタ自体の操作性等に大きな影響を与えるものである。よって,これらの差異点も,コネクタの選択・購入の際に,重要な判断要素となるから,両意匠全体の類否判断においても十分に評価されるべきであり,意匠全体の美感に与える影響も多大なものであると言える。
オ 挿入部における差異
本件登録意匠においては,平面視挿入部手元側の切りロが湾曲状であるのに対し,公知意匠においては,平面視挿入部手元側の切りロが直線状であり,これも対照的な差異点であると言え,上記の抜け止めフック,挿入ガイド等と同様,使用時に需要者の注意を惹き易い箇所であるから,当該差異点も両意匠全体の類否判断において十分に評価されるべきであり,意匠全体の美感に与える影響も大きい。

以上のように,両意匠の各部位の差異点は,いずれも意匠全体の類否判断において最大限に評価されるべきであり,更に,請求人が「共通点」として評価すべきとしている以下の点についても,殆どが,寧ろ「差異点」として評価されるべきものである。
カ 両意匠の全体的な印象等
両意匠は,確かに,挿入部,コネクタ本体部,ケーブル部及びグリップ部とからなる,ガンタイプのワンアクション・グリップ式電気自動車用充電コネクタであり,全体的な各部の大きさの割合についても大まかには共通していると言えるが,請求人が主張するように,「大きな段差なくスムーズですっきりとした表面形状を形成している点」は共通点ではない。
即ち,本件登録意匠においては,公知意匠には存在しないデザインカバーが存在するため,「大きな段差なくスムーズですっきりとした表面形状」とは言い難く,寧ろ,デザインカバーの存在感による,意匠全体のがっしりとした肉厚感を看取することができる。よって,この点は,デザインカバーがなく肉厚感が感じられない公知意匠との大きな差異点として評価すべきである。
キ コネクタ本体部の形状
請求人の主張する「コネクタ本体は挿入部よりもやや太幅の円柱状であってグリップ方向にかけてやや膨らんだ後,緩やかに細幅になっている点」についても,両意匠の共通点とは言えない。本件登録意匠は,そのような態様であると言えるが,公知意匠は,「緩やかに細幅」ではなく,「急激にえぐられたように」細幅になっており,内側へ絞られた印象が強いため,共通する態様ではないことは明らかであり,このような態様の違いは,寧ろ両意匠の差異点と言える。
コネクタの本体部は,言うまでも無く,意匠全体に占める割合が大きく,コネクタを取り扱う取引者,需要者の注意を強く惹くと考えられることから,上記差異点が両意匠全体の類否判断においでも最大限に評価されるべきであり,意匠全体の美感に与える影響も多大なものであると言える。
ク グリップ部
公知意匠が,ストレート状ではなく,ストレート状にケーブル部と平行している本件登録意匠と明白に異なる点,及び,グリップ部とケーブル部とで形成する空間が,両意匠共に略楕円形状とは言えず,本件登録意匠が「繭玉形」,公知意匠が「ナマコ形」という点で明らかに異なる点は,前記の通りであり,これらも,グリップの把持性に影響を与えるため,取引者,需要者の注意を強く惹くと考えられ,両意匠全体の類否判断においても十分に評価されるべきであり,意匠全体の美感に与える影響も大きいと言える。
ケ 挿入部
請求人は,挿入部の先端に4つの円形コネクタが設けられていることを共通点として主張しているが,この態様については,自動車側のインレットとの結合性の要請から必然的に同様な形状にならざるを得ないこともあり,既に公知意匠の意匠登録出願前において,乙第3号証(特開平7-85926号公報)掲載の図1及び図2にほぼ同様な挿入部の外観形状が開示されている。
また,上記のような態様は,CHAdeMO協議会の規定するインターフェイスとしても統一されているものである(乙第4号証)。
よって,挿入部の先端に4つの円形コネクタが設けられているという点は,両意匠全体の類否判断において然程評価できないと言える。
(2)類否判断および意匠法第3条第1項第3号該当性
以上に述べた通り,本件登録意匠と公知意匠には,請求人の述べている共通点を圧倒的に凌駕するほどの明白な差異点が多数存在し,両意匠全体としても,共通の美感を看取し得ることは到底不可能であるから,本件登録意匠と公知意匠とは非類似の意匠であり,本件登録意匠は意匠法第3条第1項第3号に該当しない。

2 平成27年9月15日付け「口頭審理陳述要領書」における主張
(1)自動車給電コネクタの意匠について
請求人は,「全体が大きな段差なくスムーズですっきりとした表面形状でコネクタは本体挿入部よりもやや太幅の円柱状であってグリップ方向にかけてやや膨らんだ後,緩やかに細幅になっている」点を,公知意匠の特徴と述べているが,公知意匠では「緩やかに細幅に?」ではなく,「急激にえぐられたように」細幅になっているため,そもそもこの特徴点の認識が誤っている。公知意匠の特徴点を正確に捉えたとして,それが仮に市場において如何に斬新であったとしても,本件登録意匠とは異なる特徴であるため,その事実は,本件意匠登録を無効とすべき根拠とは到底なり得ない。
(2)共通点と差異点の評価について
ア 請求人は,弁駁書において,デザインカバーの有無に関する差異点につき,甲第11号証及び同12号証(カバーの有無の差異を有していても類似」とされた関連意匠登録事例)で示しているのは,「デザインカバーの有無は類否判断において大きく評価されていない」という事実であり,本件においても,デザインカバーの有無は類否判断において大きく評価されないことは明確である旨を主張する。
しかしながら,被請求人が答弁書でも述べた通り,事案が全く異なる。上記事例は,カバー以外が完全同一であり,単に,差異点以上に共通点が上回っているというだけである。請求人は,上記の関連意匠登録事例に必要以上に固執して,兎にも角にも「カバーの有無は評価されない」と主張するが,類否判断においては,当然,カバー以外の構成態様も考慮した上で個別具体的な判断を行うべきである。このたった一つの登録事例を以って,他の事例においてもデザインカバーの有無は類否判断において大きく評価されていない」などと断定することはできず,あくまで他の構成態様も考慮した上で,個別具体的な判断をおこなうべきである。請求人の主張は,このような点を完全に見落としており,失当である。
被請求人が答弁書においても既に述べたように,本件登録意匠のデザインカバーにはビス穴やパーツの合わせ目ラインを隠すという美的処理も行われている点で,表面にビス穴やパーツの合わせ目ラインが目立つ公知意匠との差異点をより際立たせており,また,当該カバーが意匠全体の大きさに占める割合も比較的大きく,デザインカバーの存在感が高まることで,公知意匠には感じられない本件登録意匠のがっしりとした肉厚感がより強調されていることから,両意匠全体の美感に与える影響は極めて大きいと言える。
イ 請求人は,弁駁書において,公知意匠のデザインラインについて,デザインラインは,コネクタ本体からケーブル部への幅の切り替えが行われるラインであり,重要なのは呼び名の問題ではなく,ラインに沿って幅の切り替えが行われているという物理的な形状の変化である旨を主張する。
しかしながら,被請求人が答弁書でも既に述べた通り,デザインラインは,公知意匠のコネクタ本体部の内側へえぐられた印象を強調するという視覚的効果をもたらしているものであるから,まさにデザインを強調するために敢えて設けたラインと言えるのであり,決して呼び名だけに捉われている訳ではない。この点は,寧ろ請求人の方が,審判請求書において自ら「デザインライン」と積極的に定義しているのであり,被請求人は,敢えてこの定義に従ったに過ぎない。そして,請求人は,このような内側へ抉られ印象を強調するラインを,「幅の切り替え」などという表現で,単なる言い換えを行っているに過ぎず,物理的な形状の変化を客観的に捉えれば,デザインラインを境に明らかに内側にえぐられているのであるから,本件登録意匠とは明白に異なると言え,かかる明白な差異点は,類否判断に大きな影響を与えているのである。
ウ 被請求人が答弁書において既に述べたように,グリップ部,リリーススイッチ,表示ランプ,抜け止めフック,挿入ガイド,挿入部の各部にはそれぞれ明白な差異が見られ,先ず,グリップ部については,その形状が把持性に影響を与え,それを取り扱う取引者,需要者の注意を強く惹くと考えられ,コネクタの選択・購入の際に,細部がどのような構成態様であるかという点が重要な判断要素となる。また,リリーススイッチについても,需要者が操作する際に直接手に触れる箇所であり,また,表示ランプ,抜け止めフック,挿入ガイドについても,使用時において需要者が目視・確認等する箇所であり,いずれもコネクタ自体の操作性等に大きな影響を与えるものである。よって,これらの差異点も,コネクタの選択・購入の際に,重要な判断要素となるから,両意匠全体の類否判断においても十分に評価されるべきであり,意匠全体の美感に与える影響も多大なものであると言える。
(3)むすび
以上の通りであるので,請求人の主張は失当であって,本件意匠登録に瑕疵はなく,意匠法第3条第1項第3号に該当するものではないことは明白である。


第5 口頭審理
当審は,本件審判について,平成27年(2015年)10月14日に口頭審理を行った。(平成27年10月14日付け「第1回口頭審理調書」)


第6 当審の判断
1 本件登録意匠
本件登録意匠は,意匠に係る物品を「電気自動車用充電コネクタ」とし,形態を願書及び願書に添付した図面に記載されたとおりとしたものであり,意匠に係る物品の説明によれば,「本物品は,電気自動車やプラグインハイブリッド自動車等のバッテリーに電力を供給するために使用される充電コネクタである。」としたものである。(別紙第1参照)
本件登録意匠の形態は,以下のとおりである。なお,本件登録意匠の各部名称及び図の向きについては,甲第3号証(別紙第3参照)を元に特定する。
(1)基本的構成態様
ア 全体の構成
全体が,挿入部,コネクタ本体,グリップ部及びケーブル部から成るガンタイプのものであって,グリップ部とケーブル部の間には,指を入れる縦長の囲われた空間部(以下,単に「空間部」という。)が形成されている。
イ 挿入部とコネクタ本体の構成態様
挿入部は略円柱状であって,略円柱状のコネクタ本体が後方に連接し,挿入部の中心とコネクタ部の中心が同軸水平線上に位置している。
ウ グリップ部とケーブル部の構成態様
コネクタ本体の後部上側は右側面視右下方向に傾斜するグリップ部に連続し,コネクタ本体の後部下側も右側面視右下方向に傾斜するケーブル部に連続している。また,コネクタ部の下部とグリップ部の下部は連続しており,その連続部の下端は右側面視右上方向に傾斜している。
エ デザインカバーの構成態様
コネクタ本体上側及びグリップ部外側に,上側デザインカバーが配されており,コネクタ本体下側及びケーブル部外側にも,下側デザインカバーが配されている。両デザインカバーの厚みは小さく表されている。
(2)具体的態様
オ 挿入部の形状
挿入部の正面内側には,4つの円形状コネクタが十字状の位置に配されており,挿入部の平面中央には,先端に爪部を有する縦長の止め抜けフックがコネクタ本体から伸びるように設けられている。
カ コネクタ本体の形状
コネクタ本体は,平面から見て挿入部寄りの左右両端が緩やかな弧状に膨らんでおり,グリップ部寄りにいくにつれて幅が漸次窄まっている。また,斜視図1,斜視図3及び斜視図4によれば,コネクタ本体の右側面視空間部左上付近が窄まっている。
キ グリップ部の形状
グリップ部は,内側上部が窄まっているものの,内側の中間部から下部にかけて隆起部(以下,単に「隆起部」という。)が形成されて,その隆起部の上端に段差面が形成されている。そして,隆起部の下部はケーブル部側に漸次膨らんで伸びているので,隆起部は右側面視略逆L字状(内角が弧状)に表されている。また,右側面から見てグリップ部の外側は略直線状に表されている。
ク ケーブル部の形状
ケーブル部は,内側の殆どが窄まっており,下端部が隆起して漸次膨らんでいるので,ケーブル部の内側の稜線は右側面視略L字状(内側が弧状)に表されている。右側面から見て,そのケーブル部内側稜線略L字状の下端先端部の下に,隆起部略逆L字状下端先端部が接するように形成されている。
ケ 空間部内側稜線の形状
右側面から見て,空間部内側稜線の上部は山型状であり,その右端が隆起部によって遮られて段差が形成されており,空間部内側稜線の左側と右側(隆起部の稜線)は平行である。空間部内側稜線の左側下部は弧状に表れ,右側下部も弧状に表れて,前者が後者よりもやや上方の位置にあることから,下部に段差が形成されている。
コ デザインカバーの形状
右側面から見て,上側デザインカバーの略左半部は略倒逆「し」字状であり,下側デザインカバーの略左半部も略倒「し」字状であって,両「し」字状の先端が近接しているので,両者が合わさって略倒「U」字状に表されている。
また,上側デザインカバーはほぼ中間部で略「へ」字状に屈曲し,略右半部がグリップ部の大部分を覆うように形成されており,その端部の傾斜はグリップ部の下端の傾斜よりも急である。そして,下側のデザインカバーも上側と同様に屈曲して,略右半部がケーブル部の外側と下部を覆うように形成されて,略右半部全体として左に傾いた略L字状(内側が弧状)に表されている。
さらに,平面から見て,上側デザインカバーの下端は,略凹弧状に形成されており,左右端も弧状に切り欠かれているので,全体として,略逆「Y」字状に表されている。その略逆「Y」字状の中央下端から,止め抜けフックが長めに表されている。
サ リリーススイッチの形状と位置
上側デザインカバーの略「へ」字状屈曲部の外側の位置に,平面視略角丸縦長長方形状のリリーススイッチが突設されており,その周囲にはやや大きい平面視略角丸縦長長方形状の台座部が隆起して形成されている。また,右側面から見て,リリーススイッチの位置は,空間部の上端位置よりも右方にある。
シ 表示ランプ部の形状と位置
上側デザインカバー背面視略中央に,略倒細幅涙滴状の表示ランプ部が配されている。
ス ケーブル取付部とケーブル部の形状
ケーブル部の下方には,下側デザインカバー略右半部の略L字状部下部を経て,略逆円錐台状のケーブル取付部が設けられ,更にその下方にそれよりもやや径の小さい円柱状のケーブル(一部)が設けられている。

2 無効理由の要点
請求人が主張する本件意匠登録の無効理由は,本件登録意匠が,意匠登録出願前に日本国内又は外国において公然知られた意匠,及び,日本国内又は外国において,頒布された刊行物に記載された意匠又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった意匠である意匠登録第1417577号の意匠(甲第2号証の意匠)に類似する意匠であり,意匠法第3条第1項第3号に規定する意匠に該当するので,同項柱書の規定により,意匠登録を受けることができないものであるから,本件意匠登録は,同法第48条第1項第1号に該当し,同項柱書の規定によって,無効とされるべきであるとするものである。
なお,当審においては,意匠登録第1417577号の意匠が記載された意匠公報(甲第2号証)が発行された日付が平成23年6月27日であり,本件登録意匠の出願日(平成24年12月3日)の17ヶ月以上も前に同公報が発行されているので,意匠登録第1417577号の意匠が当該意匠登録出願前に日本国内又は外国において公然知られた意匠であることは明らかであるから,本件登録意匠がその出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物に記載された意匠又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった意匠である意匠登録第1417577号の意匠(甲第2号証の意匠。以下,当審においても「公知意匠」という。)に類似する意匠であるか否かについて審理する。

3 無効理由の判断
本件登録意匠が,公知意匠と類似する意匠であるか否かについて検討する。
(1)公知意匠
甲第2号証(別紙第2参照)によれば,公知意匠は,意匠に係る物品が「自動車用給電コネクタ」であり,形態が甲第2号証に記載されたとおりであって,意匠に係る物品の説明によれば,「本物品は,電気自動車のバッテリーに給電するために使用される。この給電コネクタは,電源に接続されたケーブルの先端に設けられ,電気自動車の受電口に差し込むことで,内部の端子が受電口内の端子と接続される。」としたものである。
公知意匠の形態は,以下のとおりである。なお,公知意匠の各部名称については,甲第3号証(別紙第3参照)を元に特定する。
ア 基本的構成態様
(ア)全体の構成
全体が,挿入部,コネクタ本体,グリップ部及びケーブル部から成るガンタイプのものであって,グリップ部とケーブル部の間には,指を入れる縦長の囲われた空間部(以下,単に「空間部」という。)が形成されている。
(イ)挿入部とコネクタ本体の構成態様
挿入部は略円柱状であって,それよりもやや太幅の略円柱状のコネクタ本体が後方に連接し,挿入部の中心とコネクタ部の中心が同軸水平線上に位置している。
(ウ)グリップ部とケーブル部の構成態様
コネクタ本体の後部上側は右側面視右下方向に傾斜するグリップ部に連続し,コネクタ本体の後部下側も右側面視右下方向に傾斜するケーブル部に連続している。また,コネクタ部の下部とグリップ部の下部は連続しており,その連続部の下端は右側面視右上方向に傾斜している。
(エ)面分割線による構成態様
右側面から見て,コネクタ本体中央部からケーブル部の下端にかけて略逆「?」字状の面分割線が形成されており,コネクタ本体はその分割線を境にして右方向が略凹面状に窪んでいる。その分割線は,平面から見ると,コネクタ本体左右の稜線に表れる屈曲点として表れている。
イ 具体的態様
(オ)挿入部の形状
挿入部の正面内側には,4つの円形状コネクタが十字状の位置に配されており,挿入部の平面中央には,先端に爪部を有する縦長の止め抜けフックがコネクタ本体から伸びるように設けられている。また,平面から見て,止め抜けフックの左右には,縦長で浅い溝状のガイドが形成されている。
(カ)コネクタ本体の形状
コネクタ本体は,平面から見て,挿入部寄りの左右両端がグリップ部方向にいくにつれて幅が漸次広がっていき,上記屈曲点を境にして内側に略凹弧状に窄まっている。また,コネクタ本体とグリップ部の間には分割線が表されており,同分割線は右側面視左側に傾斜している。
(キ)グリップ部の形状
グリップ部は,全体が略弓状に曲がって,特に上部がコネクタ本体方向に湾曲しており,グリップ部の内側には上下に13個の横長状溝部が形成されている。また,グリップ部の上部には,コネクタ本体とグリップ部の間の分割線,及び上記略逆「?」字状の面分割線上部の延長線によって区画された,平面視略釣鐘状の区画部が形成されており,その後端部が若干隆起している。さらに,グリップ部の下部の上面は略平坦面状に表されている。
(ク)ケーブル部の形状
ケーブル部の略逆「?」字状面分割線の外側,すなわち略左半部は,略半円柱状に表されている。ケーブル部の略右半部は,側面部が略平坦面状に表されている。
(ケ)空間部内側稜線の形状
右側面から見て,空間部内側稜線の上部から右側にかけては,特に上方がコネクタ本体方向に湾曲した略弓状であり,空間部内側稜線の左側と下側は略直線状である。
(コ)リリーススイッチの形状と位置
グリップ部上部の平面視略釣鐘状区画部の内側に,平面視略角丸縦長長方形状のリリーススイッチが設けられており,上下にスライド可能な右側面視山型状のボタンが配されている。また,右側面から見て,リリーススイッチの位置は,空間部の上端位置にほぼ一致している。
(サ)表示ランプ部の形状と位置
グリップ部の背面の下部に,円形状の表示ランプ部が配されている。
(シ)ケーブル取付部の形状
ケーブル部の下方には,略逆円錐台状のケーブル取付部が設けられて,その上端寄りから略中央にかけて3本の溝部が形成されている。
(2)本件登録意匠と公知意匠の対比
本件登録意匠の意匠に係る物品は「電気自動車用充電コネクタ」であり,公知意匠の意匠に係る物品は「自動車用給電コネクタ」であり,共に電気自動車などのバッテリーに電力を給電するために使用されるものであるから,本件登録意匠と公知意匠(以下「両意匠」という。)の意匠に係る物品は共通し,形態については,以下の共通点と差異点が認められる。
ア 共通点
(A)全体の構成
全体が,挿入部,コネクタ本体,グリップ部及びケーブル部から成るガンタイプのものであって,グリップ部とケーブル部の間には,空間部が形成されている。
(B)挿入部とコネクタ本体の構成態様
挿入部は略円柱状であって,略円柱状のコネクタ本体が後方に連接し,挿入部の中心とコネクタ部の中心が同軸水平線上に位置している。
(C)グリップ部とケーブル部の構成態様
コネクタ本体の後部上側は右側面視右下方向に傾斜するグリップ部に連続し,コネクタ本体の後部下側も右側面視右下方向に傾斜するケーブル部に連続している。また,コネクタ部の下部とグリップ部の下部は連続しており,その連続部の下端は右側面視右上方向に傾斜している。
(D)挿入部の形状
挿入部の正面内側には,4つの円形状コネクタが十字状の位置に配されており,挿入部の平面中央には,先端に爪部を有する縦長の止め抜けフックがコネクタ本体から伸びるように設けられている。
(E)ケーブル取付部の形状
ケーブル部の下方には,略逆円錐台状のケーブル取付部が設けられている。
(F)リリーススイッチの形状
リリーススイッチは,平面視略角丸縦長長方形状である。
イ 差異点
(a)デザインカバーの有無の差異について
本件登録意匠には,コネクタ本体上側及びグリップ部外側に,上側デザインカバーが配されており,コネクタ本体下側及びケーブル部外側にも,下側デザインカバーが配されているが,公知意匠にはそのようなデザインカバーは配されていない。
(b)面分割線の有無の差異について
公知意匠には,右側面から見て,コネクタ本体中央部からケーブル部の下端にかけて略逆「?」字状の面分割線(平面視で屈曲点として表れる。)が形成されており,コネクタ本体はその分割線を境にして右方向が略凹面状に窪んでいるが,本件登録意匠にはそのような面分割線はない。
(c)コネクタ本体の形状の差異について
本件登録意匠のコネクタ本体は,平面から見て挿入部寄りの左右両端が緩やかな弧状に膨らんでおり,グリップ部寄りにいくにつれて幅が漸次窄まっている。また,コネクタ本体の右側面視空間部左上付近が窄まっている。
これに対して,公知意匠のコネクタ本体は,平面から見て,挿入部寄りの左右両端がグリップ部方向にいくにつれて幅が漸次広がっていき,平面視屈曲点を境にして内側に略凹弧状に窄まっている。また,コネクタ本体とグリップ部の間には分割線が表されており,同分割線は右側面視左側に傾斜している。
(d)グリップ部の形状の差異について
本件登録意匠のグリップ部は,内側上部が窄まっているものの,内側の中間部から下部にかけて隆起部が形成されて,その隆起部の上端に段差面が形成されている。そして,隆起部の下部はケーブル部側に漸次膨らんで伸びているので,隆起部は右側面視略逆L字状(内角が弧状)に表されている。また,右側面から見てグリップ部の外側は略直線状に表されている。
これに対して,公知意匠のグリップ部は,全体が略弓状に曲がって,特に上部がコネクタ本体方向に湾曲しており,グリップ部の内側には上下に13個の横長状溝部が形成されている。また,グリップ部の上部には,コネクタ本体とグリップ部の間の分割線,及び上記略逆「?」字状の面分割線上部の延長線によって区画された,平面視略釣鐘状の区画部が形成されており,その後端部が若干隆起している。さらに,グリップ部の下部の上面は略平坦面状に表されている。
(e)ケーブル部の形状の差異について
本件登録意匠のケーブル部は,内側の殆どが窄まっており,下端部が隆起して漸次膨らんでいるので,ケーブル部の内側の稜線は右側面視略L字状(内側が弧状)に表されている。右側面から見て,そのケーブル部内側稜線略L字状の下端先端部の下に,隆起部略逆L字状下端先端部が接するように形成されている。
これに対して,公知意匠のケーブル部の略逆「?」字状面分割線の外側,すなわち略左半部は,略半円柱状に表されている。ケーブル部の略右半部は,側面部が略平坦面状に表されている。
(f)空間部内側稜線の形状の差異について
右側面から見て,本件登録意匠の空間部内側稜線の上部は山型状であり,その右端が隆起部によって遮られて段差が形成されており,空間部内側稜線の左側と右側(隆起部の稜線)は平行である。空間部内側稜線の左側下部は弧状に表れ,右側下部も弧状に表れて,前者が後者よりもやや上方の位置にあることから,下部に段差が形成されている。
これに対して,公知意匠の空間部内側稜線の上部から右側にかけては,特に上方がコネクタ本体方向に湾曲した略弓状であり,空間部内側稜線の左側と下側は略直線状である。
(g)リリーススイッチの形状と位置の差異について
本件登録意匠では,上側デザインカバーの略「へ」字状屈曲部の外側の位置に,リリーススイッチが突設されており,その周囲にはやや大きい平面視略角丸縦長長方形状の台座部が隆起して形成されている。また,右側面から見て,リリーススイッチの位置は,空間部の上端位置よりも右方にある。
これに対して,公知意匠のリリーススイッチは,グリップ部上部の平面視略釣鐘状区画部の内側に設けられており,上下にスライド可能な右側面視山型状のボタンが配されている。また,右側面から見て,リリーススイッチの位置は,空間部の上端位置にほぼ一致している。
(h)表示ランプ部の形状と位置の差異について
本件登録意匠では,上側デザインカバー背面視略中央に,略倒細幅涙滴状の表示ランプ部が配されているのに対して,公知意匠では,グリップ部の背面の下部に,円形状の表示ランプ部が配されている。
(i)ケーブル取付部の形状の差異について
公知意匠のケーブル取付部には,上端寄りから略中央にかけて3本の溝部が形成されているが,本件登録意匠にはそのような溝部は形成されていない。
(j)ケーブルの有無の差異について
本件登録意匠では,ケーブル取付部の下方にそれよりもやや径の小さい円柱状のケーブル(一部)が設けられているが,公知意匠にはそのようなケーブルはない。
(k)ガイドの有無の差異について
公知意匠には,平面から見て,挿入部の止め抜けフックの左右に縦長で浅い溝状のガイドが形成されているが,本件登録意匠にはそのようなガイドはない。
(l)止め抜けフックの長さの差異について
本件登録意匠では,平面視略逆「Y」字状の上側デザインカバー中央下端から,止め抜けフックが長めに表されているが,公知意匠の止め抜けフックの長さは,本件登録意匠に比べて短い。
(3)両意匠の類否判断
ア 意匠に係る物品
前記認定したとおり,両意匠の意匠に係る物品は共通する。
イ 「電気自動車用充電コネクタ」の物品分野の意匠の類否判断
「電気自動車用充電コネクタ」の使用状態においては,その意匠の全体が使用者の手に触れるものであるから,使用者(看者)は意匠の全体形状について観察することとなり,全方向から見た各部の形状についても詳細に観察し,注意を払うということができる。したがって,「電気自動車用充電コネクタ」の物品分野の意匠の類否判断においては,全体形状や各部の形状の全てを評価し,かつそれらを総合して意匠全体として形態を評価する。
ウ 形態の共通点の評価
両意匠の共通点(A)ないし(C)で指摘した構成態様については,「電気自動車用充電コネクタ」の物品分野の意匠において,本願の出願前に普通に見受けられることから,看者の注意を惹くものとはいえない。具体的にはその構成態様は,特開平6-325830号に表された「充電コネクタ(20)」の意匠(乙第2号証の10。別紙第5参照。)に見られるものである。また,共通点(D)の構成態様も,特開平7-85926号に表された「給電側コネクタ(B)」の意匠(乙第3号証。別紙第6参照。)に見られるものである。そして,(E)ケーブル取付部が略逆円錐台状である点,及び(F)リリーススイッチが平面視略角丸縦長長方形状である点は,どちらも特異な形状ではなく,ありふれた形状であるといえるので,看者の注意を惹くものとはいえない。したがって,共通点(A)ないし(F)が両意匠の類否判断に及ぼす影響は小さいといえる。
エ 形態の差異点の評価
一方,両意匠の形態の差異点については,以下のとおり評価され,差異点を総合すると,上記共通点の影響を圧して,両意匠の類否判断に大きな影響を及ぼすといわざるを得ない。
まず,差異点(a)については,デザインカバーの有無についての差異であり,本件登録意匠のコネクタ本体上下からグリップ部外側及びケーブル部外側に配されたデザインカバーは,意匠全体に占める面積が大きいことから看者が一見して気が付くものであり,看者に一定の美感を与えているというべきであるから,そのようなデザインカバーのない公知意匠との差異は顕著であり,差異点(a)が両意匠の類否判断に及ぼす影響は大きい。
特に,右側面から見た,上側デザインカバーと下側デザインカバーが合わさった略倒「U」字状の態様や,平面から見た,上側デザインカバーの略逆「Y」字状の態様は,看者に独特の印象を与えるというべきである。また,下側デザインカバー略右半部の略L字状部分と,グリップ部の略逆L字状隆起部が下方で連続して表されているので,両者が合わさって左に傾いた略コ字状部が顕現し,かつ両L字状の内角が弧状であるためにその略コ字状部の内側稜線が左に傾いた略U字状に看取されることから,下側デザインカバー略右半部は,グリップ部の隆起部とあいまって,看者に独特の美感を呈することとなっている。
請求人は,デザインカバーの有無について,過去の意匠登録例(互いに類似するとして登録された甲第11号証と甲第12号証。)を参照して,「デザインカバーの有無という相違があっても,類似と判断されて登録されていることからすれば,デザインカバーの有無という相違点は類否判断に影響を与えない些細な相違と解釈されていることが分かる。(中略)デザインカバーの有無を顕著な相違点と評価できないことは明らかである。」と主張する。
しかし,本件登録意匠と公知意匠の類否判断を行うに当たっては,両意匠の共通点と差異点の全てを比較衡量してその判断を行うことが必要であり,差異点(a)の存在によって類否判断の全てが決せられるというものではなく,また,その過去の意匠登録事例においても,デザインカバーの有無の差異点(及びそれ以外の差異点)と複数の共通点を比較衡量して判断されたものであって,その判断内容が本件登録意匠と公知意匠の類否判断に直ちに適用できるとはいい難い。したがって,請求人の主張を首肯することはできない。
次に,(b)面分割線の有無の差異,及び(c)コネクタ本体の形状の差異については,公知意匠に形成された面分割線が,コネクタ本体中央部からケーブル部の下端に亘っており,それを境にしてコネクタ本体の右方向が略凹面状に窪み,平面視では屈曲点として表れていることから,看者に特別な視覚的印象を与えているというべきであり,そのような面分割線がなく平面視屈曲点も表れていない本件登録意匠と比較すると,両意匠が看者に与える視覚的印象は大きく異なるということができる。なお,本件登録意匠においてもコネクタ本体が窄まっているが,その位置は,斜視図1,斜視図3及び斜視図4によれば,コネクタ本体の右側面視空間部左上付近であり,平面から見て,コネクタ本体がグリップ部寄りで漸次窄まっていく位置に相当するので,公知意匠の形状とは異なっている。したがって,差異点(b)が両意匠の類否判断に及ぼす影響は大きい。
この面分割線について,請求人は,「公知意匠のデザインラインはコネクタ本体の膨らみがケーブル部及びグリップ部へと緩やかに凹む切替の線であり,ここに線が入っているというよりも,膨らみが緩やかに凹む形状変化がこの辺りにあるという美的印象を重視すべきものである。一方,本件登録意匠では,公知意匠のようなデザインラインは入っていないが,同様の場所で,コネクタ本体の膨らみがケーブル部及びグリップ部へと緩やかに凹む切替が行われており,このような美的処理の切替が行われているという美的印象を生じている。とすれば,デザインラインの有無というのは顕著な相違点と捉えるのではなく,同様の場所で,コネクタ本体の膨らみがケーブル部及びグリップ部へと緩やかに凹打切替が行われているという美的処理の共通点とすら捉えられるべきものである。」と主張し,さらに,「デザインラインは単なる幅の切り替え線であって,デザインラインから内側は幅細になっていくことを示すのみである。また,その幅細への切り替わりも,平面視において内側に少しだけ弧を描いて細くなっているが,えぐれているとまで表現されるものではない。よって,両意匠の『コネクタ本体は挿入部よりもやや太幅の円柱状であってグリップ方向にかけてやや膨らんだ後,緩やかに細幅になっている』という両意匠の共通点は維持されるし,他の意匠にはない特徴点な部分である。」と主張する。
しかし,公知意匠に見られる面分割線は,平面視屈曲点として表れているように不連続面の境界として形成されており,それよりも右のコネクタ本体が略凹面状に窪んでいることは明らかであるから,仮にえぐれているとまで表現される窪みではないとしても,面分割線を境にしたコネクタ本体右方向の窪みが,請求人のいう「膨らみが緩やかに凹む形状変化」であるとはいい難い。また,上記認定したとおり,本件登録意匠におけるコネクタ本体の窄まりの位置は右側面視空間部左上付近であるので,公知意匠の面分割線と「同様の場所で,コネクタ本体の膨らみがケーブル部及びグリップ部へと緩やかに凹む切替が行われており,」「両意匠の共通点は維持される」ともいい難い。したがって,請求人の主張を首肯することはできない。
更に請求人は,請求人のいう「緩やかに凹む切替」について,「本件登録意匠の図面からは,弁駁書第5頁【表2】(別紙第4参照)において背面図の赤丸で示された湾曲線により内側に凹んで細幅になっていると解釈するのが合理的である。」と主張するが,本件登録意匠の背面図に見られる同湾曲線の平面図における位置は,平面から見て挿入部寄りの左右両端が緩やかな弧状に膨らんだ箇所からグリップ部寄りまでの範囲内にあると推認されるにすぎず,本件登録意匠の斜視図1,斜視図3及び斜視図4において看取されるコネクタ本体の右側面視空間部左上付近の窄まりと同湾曲線との関係が定かではないものの,上述したとおり,その窄まりの位置は公知意匠の面分割線の位置と異なることから,同湾曲線の存在を殊更強調する請求人の主張を採用することはできない。
そして,(d)グリップ部の形状の差異,(e)ケーブル部の形状の差異,及び(f)空間部内側稜線の形状の差異は,デザインカバーの有無の差異とあいまって,各差異が看者に異なる視覚的印象を与えるというべきであり,これらの差異が看者が直接手にふれる部位及びその周辺の形状に関わる差異であることを踏まえると,看者はこれらの差異に大いに注目するというべきである。したがって,差異点(d)ないし(f)が両意匠の類否判断に及ぼす影響は大きい。
この空間部内側稜線の形状について,請求人は,「両意匠のグリップ部とケーブル部とで形成する空間については,両者ともに『楕円状』といえるものであって,ほぼ同じような外形を持つ空間と評価されるのが正しい。」と主張するが,本件登録意匠の空間部内側稜線は,隆起部による段差及び下部の段差により歪な形状になっており,上部から右側にかけて略弓状であり左側と下側は略直線状である公知意匠の空間部内側稜線の形状とは大きく異なるというべきであるから,請求人の主張を首肯することはできない。
さらに,(g)リリーススイッチの形状の差異については,看者が操作を行うスイッチの形状に関する差異であり,押しボタン状のスイッチである本件登録意匠と,スライドスイッチである公知意匠に対して看者は常に注意を払うということができる。また,右側面から見たリリーススイッチの位置が,本件登録意匠では空間部の上端位置よりも右方にあり,公知意匠では空間部の上端位置にほぼ一致しているという位置の差異については,使用時には,親指と人差し指の位置の差として表れることとなり,ひいてはグリップ部を握る際の手首の角度にも影響することから,看者がその位置の差異を注視するということができる。したがって,差異点(g)が両意匠の類否判断に及ぼす影響は一定程度認められる。
他方,(h)表示ランプ部の形状と位置の差異,(i)ケーブル取付部の形状の差異,及び(l)止め抜けフックの長さの差異は,表示ランプ部,ケーブル取付部及び止め抜けフックの意匠全体に占める面積が小さいことから看者の注意を惹く差異であるというには及ばず,また,(j)ケーブルの有無の差異と(k)のガイドの有無の差異についても,本件登録意匠に見られるケーブルや,公知意匠に見られるガイドが,「電気自動車用充電コネクタ」の物品分野の意匠において,本願の出願前に普通に見受けられる(例えば,特開平7-85926号に表された「給電側コネクタ(B)」の意匠。乙第3号証。別紙第6参照。)ことから,看者が特段注意を払うとはいい難い。したがって,差異点(h)ないし(l)が両意匠の類否判断に及ぼす影響は小さい。
そうすると,差異点(a)ないし(g)は,いずれも両意匠の類否判断に大きな影響を及ぼすものであり,その余の差異点の影響が小さいものであるとしても,両意匠の差異点を総合すると,両意匠を別異のものと印象付けるものであるから,両意匠の類否判断に及ぼす影響は大きく,両意匠の共通点を凌ぐものであるということができる。
オ 小括
以上のとおり,両意匠は,意匠に係る物品が共通するが,両意匠の形態においては,共通点が両意匠の類否判断に及ぼす影響は小さく,これに対して,両意匠の形態の差異点を総合すると,両意匠の類否判断に及ぼす影響は大きく,共通点が看者に与える美感を覆して両意匠を別異のものと印象付けるものであるから,本件登録意匠は,公知意匠に類似するということはできない。
すなわち,本件登録意匠は,意匠登録出願前に日本国内又は外国において公然知られた意匠,及び,日本国内又は外国において,頒布された刊行物に記載された意匠又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった意匠である意匠登録第1417577号の意匠(公知意匠)に類似する意匠ではない。
したがって,請求人が主張する本件意匠登録の無効理由には,理由がない。


第7 むすび
以上のとおりであるから,本件登録意匠は,請求人の主張する無効理由によっては,意匠法第3条第1項第3号の規定に該当するにもかかわらず意匠登録を受けたものとはいえず,同法第48条第1項第1号の規定によってその登録を無効とすることはできない。

審判に関する費用については,意匠法第52条で準用する特許法第169条第2項で準用する民事訴訟法第61条の規定により,請求人が負担すべきものとする。

よって,結論のとおり審決する。
別掲
審決日 2015-12-01 
出願番号 意願2012-29580(D2012-29580) 
審決分類 D 1 113・ 113- Y (H1)
最終処分 不成立 
前審関与審査官 宮田 莊平 
特許庁審判長 斉藤 孝恵
特許庁審判官 小林 裕和
正田 毅
登録日 2013-08-02 
登録番号 意匠登録第1478580号(D1478580) 
代理人 松井 宏記 
代理人 田中 彰彦 
代理人 田中 景子 
代理人 安部 聡 
代理人 高柴 忠夫 
代理人 石上 和輝 
代理人 田中 景子 
代理人 山田 威一郎 
代理人 石上 和輝 
代理人 山田 威一郎 
代理人 棚井 澄雄 
代理人 松井 宏記 
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