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審決分類 |
審判 判定 同一・類似 属さない(申立不成立) K4 |
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管理番号 | 1314380 |
判定請求番号 | 判定2015-600038 |
総通号数 | 198 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 意匠判定公報 |
発行日 | 2016-06-24 |
種別 | 判定 |
判定請求日 | 2015-11-27 |
確定日 | 2016-04-23 |
意匠に係る物品 | アイスクリーム製造機 |
事件の表示 | 上記当事者間の登録第1439570号の判定請求事件について、次のとおり判定する。 |
結論 | イ号意匠の図面及びその説明により示された「アイスクリーム製造機」の意匠は,登録第1439570号意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属しない。 |
理由 |
第1 本件判定請求の趣旨及びその理由 1 請求趣旨 本件判定請求人(以下,「請求人」という。)は,「イ号意匠及びその説明書に示す意匠は,登録第1439570号意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属するとの判定を求める」と申立て,その理由として,要旨以下「2 請求理由」のとおりの主張をし,「3 添付物件」のとおりの添付書類及び添付物件を提出した。 2 請求理由 本件判定請求の請求理由は,以下のとおりである。 (1)判定請求の必要性 請求人は,本件判定請求に係る登録意匠「アイスクリーム製造機」(以下「本件登録意匠」という。)の意匠権について日本における使用許諾を受けることを検討している者である。 一方で,イ号意匠のアイスクリーム製造機(イ号物件)は,日本において開催された展示会に出展されており,日本において販売される可能性が高いことが予想される。その出展者が明らかではないが,販売された場合,本件登録意匠の意匠権を侵害するものである。 そこで,特許庁による判定を求める。 (2)本件登録意匠の手続の経緯 出願 平成23年8月2日 登録 平成24年3月30日 (3)本件登録意匠の説明 本件登録意匠は,意匠に係る物品を「アイスクリーム製造機」として,その形態の要旨を,次のとおりとする。 すなわち, ア 基本的な構成態様は,外観上,全体が昇降機能を有する操作ユニットと基台からなり,操作ユニットには操作表示部及び3本の操作レバーハンドルが配置されている。また,操作ユニットは上部より観察した場合,正面方向の2つの角は面取り形状になっている。 イ 具体的な構成態様は,操作ユニットはほぼ直方体の形状をしており,水平方向の分離ラインにより略上下半分に分断され,分断された上部の中央の位置に操作表示部が配されており,他方,下部の中央に均等間隔に3本のレバーハンドルが並列に配置している。同レバーハンドルは,夫々が独立しており,ハンドル先が何れも上向きになるように配され,操作ユニットの前面に均等間隔に空けられた穴より突き出すように配置されている。 (4)イ号意匠の説明 イ号意匠は,意匠に係る物品を「アイスクリーム製造機」として,その形態の要旨を,次のとおりとする。 すなわち, ア 基本的な構成態様は,外観上,操作ユニットと基台からなり,操作ユニットはほぼ直方体の形状をしており,上部より観察した場合,正面方向の2つの角を削った少し丸みを出した四角の形状をしており,同ユニットには操作表示部及び3本の操作レバーハンドルが配置されている。 イ 具体的な構成態様は,操作ユニットは水平方向にのびた分離ラインにより略上下半分に分断されており,その上部の中央の位置に操作表示部が配されており,分断された下部の中央に均等間隔に3本のレバーハンドルが並列に配している。同レバーハンドルは,夫々が独立しており,ハンドル先が何れも上向きになるように配されており,操作ユニットの前面に均等間隔に空けられた穴より突出するように配置されている。 (5)本件登録意匠とイ号意匠との比較説明 ア 両意匠の共通点 (ア)両意匠は,意匠に係る物品が「アイスクリーム製造機」で一致している。 (イ)基本的な構成態様において,外観上,操作ユニット及び基台からなり,操作ユニットはほぼ直方体形状をしており,水平なセパレートラインにより上下略半分に分断され,その上部に操作表示部を配し,下部に3本の操作レバーハンドルが配置されている。また,同ユニットは上部より観察した場合,正面方向の2つの角を削った少し丸みを出した四角の形状をしている。 (ウ)具体的な構成態様において,操作表示部は分断された操作ユニットの上部中央に配されており,一方の下部のほぼ中央に水平方向に均一の幅で3本のレバーハンドルが配されている。 イ 両意匠の差異点 (ア)本件登録意匠の操作ユニットが上下に昇降するのに対して,イ号意匠は,操作ユニットが固定されており可動式ではない。 (6)イ号意匠が本件登録意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属する理由の説明 ア 本件登録意匠に関する先行周辺意匠 公知資料1 意匠登録第1527290号 冷菓製造機 公知資料2 意匠登録第1513116号 冷菓製造機 公知資料3 意匠登録第1100196号 ソフトクリーム製造機 イ 本件登録意匠の要部 上記先行周辺意匠をもとに,本件登録意匠の創作の要点について述べればこの種の物品における意匠上の創作の主たる対象は,操作ユニットの構成形態にあることは明らかで,本件登録意匠については,他に全く見られない操作表示部及び操作レバーが一体となっている操作ユニットの形状,操作ユニットそのものから操作レバーハンドルが突出している形状,及び使用時に握り引きおろされるという機能上も重要な部分であるそのレバーの態様が相侯って,本件登録意匠全体の基調を表出している。 ウ 本件登録意匠とイ号意匠との類否の考察 そこで,本件登録意匠とイ号意匠の共通点及び差異点を比較検討するに, (ア)両意匠の共通点は,基本的な構成形態にかかるものであり,特に,本件登録意匠の要部である操作表示部と操作レバーハンドルが一体化している操作ユニットの全体形状,操作レバーハンドルが操作ユニットの穴から出ている形状及び操作レバーハンドルの基本態様が共通しており,両意匠の類似の判断に大きな影響を与えるものである。 (イ)本件登録意匠の操作ユニットが可動式であるのに対して,イ号意匠の操作ユニットは固定式という違いである両意匠の差異点の(ア)については,本件登録意匠の要部が操作表示部と操作レバーハンドルが一体である操作ユニットの形態であり,特段顕著な相違といえず,類否の判断に与える影響は微弱である。殊に,操作ユニットが一番高い位置に配置されている外観はイ号意匠においては差異が無い。 (ウ)以上の認定,判断を前提として両意匠を全体的に考察すると,両意匠の差異点は,類似の判断に与える影響はいずれも微弱なものであって,共通点を凌駕しているものとはいえず,それらが纏まって両意匠の類否の判断に及ぼす影響は,その結論を左右するまでには至らないものである。 (7)むすび したがって,イ号意匠は,本件登録意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属するので,請求の趣旨どおりの判定を求める。 3 添付物件 請求人は,本件判定請求に際し,以下の添付書類及び添付物件を提出した。 (1)イ号意匠 (2)本件意匠とイ号意匠の比較 (3)本件登録意匠の態様例 (4)意匠登録原簿謄本 (5)先行周辺意匠 第2 当審の判断 1 意匠の認定 (1)本件登録意匠 本件登録意匠は,平成23年(2011年)8月2日に出願され(意願2011-017748号),平成24年(2012年)3月30日に登録の設定(意匠登録第1439570号)がされたものであって,意匠に係る物品,及びその形状,模様若しくは色彩又はこれらの結合(以下,「形態」という。)を,平成24年5月7日に特許庁が発行した意匠公報に記載されたとおりとしたものであり(別紙第1参照),具体的には以下のとおりのものである。 1)意匠に係る物品 本件登録意匠の意匠に係る物品は,アイスクリームをカップやコーンに送出するための「アイスクリーム製造機」であって,操作ユニットを基台に対して上下方向に動かせるものである。 2)形態 ア 基本的構成態様 奥行き方向の厚みを薄くした扁平縦長直方体状の本体部(以下,「本体部」という。)の正面側下端部に,上下方向の厚みを薄くした奥行きのある扁平直方体状の載置台部を接続して固定し(以下,当該扁平直方体部を「載置台部」といい,本体部と載置台部をあわせて「基台部」という。),基台部を左側面視略L字状として,本体部の正面側の上下方向中央よりやや下方に,そこから下方向に動かすことが出来る,上下方向に厚みのある略直方体形状の操作ユニット部(以下,単に「操作ユニット部」という。)を設け,全体として左側面視略「ヒ」字状の構成態様としたものである。 イ 形態の具体的態様 (ア)本体部は,正面,左右側面の各面が接する稜線部分に細幅の面取り加工を施したものとし, (イ)載置台部は,上面を,正面側の横長長方形状の凹状面が形成されている部分を除いて略平坦面とし,正面と左右側面の各面が接する稜線部分に広幅の面取り加工を施したものとし, (ウ)操作ユニット部は,正面と左右側面の各面が接する稜線部分に広幅の面取り加工を施して,正面及び左右側面の操作ユニット部全体を上下に2分割するような位置に,左右周方向に別部材が細帯状に表れ(以下,当該細帯状部材をより上側の部分を「上方ユニット部」」といい,下側の部分を「下方ユニット部」という。),上方ユニット部の正面に,上方ユニット部の縦幅の約1/3の縦幅で上方ユニット部の横幅の約半分の横幅の横長長方形状の表示窓部を設け,下方ユニット部の正面に,縦長長方形状の孔部を横一列に3つ形成して,これらの孔部から断面視楕円状の把手部を備えた右側面視略L字状のレバー部をそれぞれ1本ずつ表出させたものである。 なお,意匠公報の意匠に係る物品の説明及び図面には,本件登録意匠の上方ユニット部に配された横長長方形状部分には,操作ボタンやタッチ式等の本件登録意匠の操作のための機能が備わっていることが明示されておらず,本件登録意匠の出願前には,タッチ式により操作することができるアイスクリーム製造機が見受けられないことから,アイスクリーム製造機が属する物品分野における通常の知識に基づいて本件登録意匠の図面を判断すると,当該横長長方形状部分は単なる表示窓部であると推認できる。 (2)イ号意匠 イ号意匠の意匠に係る物品,及びその形態は,請求人が判定請求書に添付した「イ号意匠」の写真に現されたとおりのものであり(別紙第2参照),具体的には以下のとおりのものである。 1)意匠に係る物品 イ号意匠の意匠に係る物品は,アイスクリームをカップやコーンに送出するための「アイスクリーム用製造機」である。 なお,請求人が判定請求書に添付した「イ号意匠」の写真では,操作ユニット部を上下に動かした形態が現されておらず,また,イ号意匠と同様の奥行きの長さの操作ユニット部及び載置台部を有するアイスクリーム製造機は従来から普通に見られ,それらのアイスクリーム製造機は,操作ユニット部が上下に動かないものが一般的であることから,アイスクリーム製造機が属する物品分野における通常の知識に基づいてイ号意匠の写真を判断すると,イ号意匠の操作ユニット部も上下に動かないものであると推認できる。 2)形態 以下,イ号意匠の形態について,本件登録意匠の向きに合わせて認定する。 ア 基本的構成態様 奥行き方向に厚みのある縦長直方体状の本体部の正面側上方を前方側に突出させて右側面視逆L字状とし,当該突出部分を操作ユニット部として(以下,この本体部と操作ユニット部をあわせた部分を「操作本体部」という。),操作本体部の下端部に,上下方向の厚みを薄くした奥行きが短い扁平直方体状の載置台部を設けて,全体として左側面視略逆「コ」字状の構成態様としたものである。 なお,イ号意匠の平面視態様,底面視態様,背面視態様,及び左右各側面視態様については,審判請求書並びに同請求書の添付書類及び添付物件のいずれにも現されていないが,イ号意匠と同様の奥行きの長さの操作ユニット部及び載置台部を有するアイスクリーム製造機は従来から普通に見られ,それらのアイスクリーム製造機は,本体部を奥行き方向に厚みのある直方体状のもので,本体部の正面側上方を前方側に突出させて右側面視逆L字状とし,当該突出部分を操作ユニット部とすることが一般的であることから,イ号意匠は,アイスクリーム製造機が属する物品分野における通常の知識に基づいてイ号意匠の写真から判断すると,本体部を奥行き方向に厚みのある縦長直方体状の本体部の正面側上方を前方側に突出させて右側面視逆L字状とし,当該突出部分を操作ユニット部としたものであると推認できる。 イ 形態の具体的態様 (ア)本体部は,正面,背面,左右側面の各面が接する稜線部分に面取り加工が施されているか否かが不明であり, (イ)載置台部は,正面を前方にやや弧状に膨出させた曲面とし,上面には複数の排水孔を中央付近に広い範囲で設け,正面と左右側面の各面が接する稜線部分には面取り加工を施していないものとし, (ウ)操作ユニット部は,正面と左右側面の各面が接する稜線部分に広幅の面取り加工を施し,正面及び左右側面の操作ユニット部全体を上下方向に2分割するような位置に,細幅溝を周方向に形成し(以下,当該細幅溝より上側の部分を「上方ユニット部」」といい,下側の部分を「下方ユニット部」という。),上方ユニット部の正面に,上方ユニット部の縦幅の約2/3の縦幅で上方ユニット部の横幅の約半分の横幅の横長長方形状の操作枠部を設け,当該操作枠部内の上下方向中央よりやや上方の左右方向中央に表示窓部,その左側及び右側に左右辺をやや弧状とした略横長長方形状の操作ボタンをそれぞれ1つずつ配し,操作枠部内の上下方向中央よりやや下方に左右辺をやや弧状とした略正方形状の操作ボタンを横一列に5つ配し,当該操作枠部内の下端縁部に沿って,白色のソフトクリームを連想させる模様を施して,下方ユニット部の正面に,縦長長方形状の孔部を横一列に3つ形成して,これらの孔部から断面視略長楕円状の把手部を備えた右側面視略L字状のレバー部をそれぞれ1本ずつ表出させたものである。 2 本件登録意匠とイ号意匠(以下,「両意匠」という。)との対比 (1)意匠に係る物品,並びに用途及び機能 両意匠の意匠に係る物品は,ともにアイスクリームをカップやコーンに送出するための「アイスクリーム製造機」であり,主たる機能であるアイスクリームを製造する機能も共通している一方,操作ユニット部の高さ調整機能の有無に相違が認められる。 (2)基本的構成態様 本件登録意匠は,奥行き方向の厚みを薄くした扁平縦長直方体状の本体部の正面側下端部に,上下方向を薄くした扁平直方体状の載置台部を設けて左側面視略L字状とした基台部と,その基台部の正面の上下方向中央よりやや下方に設けられた,そこから下方向に動かすことが出来る略直方体形状の操作ユニット部から成るものであり,全体として左側面視略「ヒ」字状となる基本的構成態様であるのに対して,イ号意匠は,奥行き方向に厚みのある縦長直方体状の本体部の正面側上方を前方側に突出させて右側面視逆L字状とし,当該突出部分を操作ユニット部とした操作本体部と,その操作本体部の下端部に設けられた載置台部から成るものであり,全体として左側面視略逆「コ」字状となる基本的構成態様であるから,両意匠の基本的構成態様は相違する。 (3)各部の具体的形態 1)共通点 両意匠は,主に以下の具体的形態について共通する。 (A)操作ユニット部の態様について,正面と左右側面の各面が接する稜線部分に広幅の面取り加工を施し,正面及び左右側面の操作ユニット部全体を上下方向に2分割して,上方ユニット部の正面に横長長方形状部分を設け,下方ユニット部の正面に,縦長長方形状の孔部を横一列に3つ形成して,これらの孔部から把手部を備えた右側面視略L字状のレバー部をそれぞれ1本ずつ表出させた点, が共通する。 2)相違点 一方,両意匠は,主に以下の具体的形態について相違する。 (a)本体部の稜線部分の面取り加工について,本件登録意匠は,正面,左右側面の各面が接する稜線部分に細幅の面取り加工を施しているのに対して,イ号意匠は,同部分に面取り加工が施されているか否かが不明である点, (b)載置台部の態様について,本件登録意匠は,上面を,正面側の横長長方形状の凹状面が形成されている部分を除いて略平坦面とし,正面と左右側面の各面が接する稜線部分に広幅の面取り加工を施しているのに対して,イ号意匠は,正面を前方にやや膨出させた弧状に形成して,上面には複数の排水孔を中央付近に広い範囲で設け,正面と左右側面の各面が接する稜線部分には面取り加工を施していない点, (c)操作ユニット部の上方ユニット部と下方ユニット部を分割する部分の態様について,本件登録意匠は,上方ユニット部及び下方ユニット部とは別の部材が細帯状に表れているのに対して,イ号意匠は,細幅溝を周方向に形成している点, (d)上方ユニット部の正面に配された横長長方形部分の態様について,本件登録意匠は,上方ユニット部の縦幅の約1/3の縦幅で上方ユニット部の横幅の約半分の横幅の大きさとした表示窓部としているのに対して,イ号意匠は,上方ユニット部の縦幅の約2/3の縦幅で上方ユニット部の横幅の約半分の横幅の大きさとした操作枠部とし,当該操作枠部内の上下方向中央よりやや上方の左右方向中央に表示窓部,その左側及び右側に左右辺をやや弧状とした略横長長方形状の操作ボタンをそれぞれ1つずつ配し,操作枠部内の上下方向中央よりやや下方に左右辺をやや弧状とした略正方形状の操作ボタンを横一列に5つ配し,当該操作枠部内の下端縁部に沿って,白色のソフトクリームを連想させる模様を施している点, (e)下方ユニット部の正面に表出させたレバー部の把手部の態様について,本件登録意匠は,断面視楕円状としているのに対して,イ号意匠は,断面視略長楕円状としている点, が相違する。 3 類否判断 以下,両意匠について,需要者を判断主体とし,意匠に係る物品の用途及び機能が同一又は類似であるか否かについて判断して,意匠に係る物品全体の基本的構成態様及び各部の形態における共通点及び相違点について,両意匠を対比観察した場合に注意を引く部分か否か,及び先行意匠群との対比に基づく注意を引く程度の個別評価を行い,それらすべての共通点及び相違点を総合的に観察した場合に,意匠全体として需要者に対して異なる美感を起こさせるものであるか否かを判断する。 なお,請求人は,両意匠の類否を考察するのに際し,操作ユニット及び基台からなる構成,請求人が両意匠の要部と認定した操作ユニット部の態様及び操作ユニット部が上下に昇降するか否かの点についてのみ検討を行っているが,意匠の類否判断は,すべての形態の共通点及び相違点について認定し,それらを総合的に観察した場合に,意匠全体として需要者に対して異なる美感を起こさせるものであるか否かを判断するべきであるから,上記検討のみでは両意匠の類否を判断するにあたって十分な検討がなされているとはいえない。 (1)意匠に係る物品,並びに用途及び機能 両意匠には,操作ユニット部の高さ調整機能の有無に相違が認められるものの,意匠に係る物品は,ともにアイスクリームをカップやコーンに送出するための「アイスクリーム製造機」であり,主たる機能であるアイスクリームを製造する機能も共通しているから,両意匠の意匠に係る物品は類似する。 (2)基本的構成態様 両意匠の基本的構成態様は,「2 本件登録意匠とイ号意匠との対比 (2)基本的構成態様」のとおり,相違しているものであり,本件登録意匠の,奥行き方向に薄くした扁平縦長直方体状とした本体部と載置台部とから成る基台部と,上下に動かすことが出来る操作ユニット部により構成し,全体として左側面視略「ヒ」字状としている基本的構成態様は,本件登録意匠の出願前には全く見られない特徴的な態様であって,これらの態様は,本件登録意匠の骨格を成す基本的な態様であるから,奥行き方向に厚みのある縦長直方体状の本体部の正面側上方を前方側に突出させて右側面視逆L字状として当該突出部分を操作ユニット部とした操作本体部と載置台部により構成し,全体として左側面視略逆「コ」字状としているイ号意匠と全体として比較観察すると,需要者に全く異なる視覚的印象を与えるものであり,この基本的構成態様の相違は,両意匠の類否判断を決定付けるほど極めて大きいものである。 (3)各部の具体的形態 1)共通点 共通点(A)については,正面と左右側面の各面が接する稜線部分に広幅の面取り加工を施し,正面及び左右側面の操作ユニット部全体を上下方向に2分割して,上方ユニット部の正面に横長長方形状部分を設け,下方ユニット部の正面に,縦長長方形状の孔部を横一列に3つ形成して,これらの孔部から把手部を備えた右側面視略L字状のレバー部をそれぞれ1本ずつ表出させた態様は,本件登録意匠の出願前には見られない態様であり,また,使用者が操作する際に目に付きやすい操作ユニット部の態様ではあるが,意匠全体として見たときには,意匠全体のうちの操作ユニット部の正面部分のみの態様の共通点であるから,上記基本的構成態様が相違する視覚的印象を凌駕して需要者の注意を引く態様であるとはいえず,この共通点(A)が両意匠の類否判断に与える影響は一定程度にとどまるものである。 2)相違点 相違点(a)の本体部の稜線部分の面取り加工の態様については,イ号意匠の正面,左右側面の各面が接する稜線部分に面取り加工が施されているか否かが不明ではあるが,本件登録意匠の正面,左右側面の各面が接する稜線部分に面取り加工が施されているといっても,その面取り加工は細幅であって,意匠全体として観察したときには目立つ部分・大きさの態様とはいえず,また,アイスクリーム製造機が属する物品分野に限らずあらゆる物品分野において,立体の稜線に面取り加工を施すことは普通に行われる手法であり,需要者の注意を引くような態様とはいえないから,イ号意匠の同部分に面取り加工が施されているか否かに拘わらず,この部分の態様が両意匠の類否判断に与える影響は小さいものである。 また,相違点(c)の,操作ユニット部を上下に2分割する部分が細帯状に表れる別部材であるか細帯状溝であるかの相違は,それが別部材であるか溝であるかという相違よりも,むしろ操作ユニット部を上下に2分割している部分が細幅状であるという共通性のほうが,需要者に与える印象が強いものであるから,この相違点(c)が類否判断に与える影響は小さい。 そして,相違点(d)の,上方ユニット部の正面に配された横長長方形部分の態様の相違についても,本件登録意匠の横長長方形部分には操作ボタン等がなく,単に表示機能のみを有するものと認められる一方,イ号意匠の横長長方形状部分には,表示窓部に加えて合計7つの操作ボタンが配されており,本件登録意匠とは使用方法が異なるものであるから,それら操作ボタンの有無の態様の相違は,使用者の注意を引くものであり,また,イ号意匠の横長長方形状部分は操作ボタンを配するために,本件登録意匠の横長長方形部分の縦幅の2倍の縦幅の大きさとなっており,操作ユニット部に占める横長長方形状部分の割合が大きく目立つものとなっているが,意匠全体として見たときには,意匠全体のうちの上方ユニット部の正面側のみの態様の相違であるから,この相違点(d)も両意匠の類否判断に与える影響は一定程度にとどまるものである。 さらに,相違点(e)の,下方ユニット部の正面に表出させたレバー部の把手部の態様の相違も,両意匠を全体として観察したときには,局所的な部分の形状の相違であり,また,本件登録意匠の把手部とイ号意匠の把手部のいずれの態様も,とりたてて特徴的な把手部の態様ではなく,需要者の注意を引くような態様とはいえないから,この相違点(e)も類否判断に与える影響は微弱である。 しかし,相違点(b)の載置台部の態様の相違については,意匠全体として見たときには,意匠全体のうちの載置台部のみの態様の相違ではあるが,本件登録意匠の載置台部は,上面を略平坦面とし,正面と左右各側面が広幅の面取り加工を経て垂直に形成されていることにより,全体として曲線のない角張った印象を需要者に与えるものであり,このような態様の載置台部を有するアイスクリーム製造機は本件登録意匠の出願前には見受けられず,本件登録意匠独自の特徴的態様といえるものであり,また,本件登録意匠のこの態様は,全体として曲線の多い丸みを帯びた印象を需要者に与えているイ号意匠とは,基本的構成態様に含まれる載置台部の奥行きの長さの相違も相俟って,需要者に与える印象を全く異にするものであって,さらに,載置台部の外形状及び上面の態様は,使用時には斜め上方から見ることとなる,需要者にとって見えやすい部分であるから,この相違点(b)は,両意匠の類否判断に一定程度の影響を与えるものである。 (4)総合判断 上記のとおり,両意匠は,意匠に係る物品が類似し,各部の具体的形態にも共通点が認められる。一方で,基本的構成態様及び各部の具体的形態に相違が認められ,共通点が両意匠の類否判断に与える影響が一定程度にとどまるのに対し,形態の相違点,とりわけ基本的構成態様及び相違点(b)が両意匠の類否判断に与える影響は大きいものであり,両意匠の形態の共通点及び相違点を総合して判断すると,両意匠は意匠全体として美感を異にするものであるから,イ号意匠は本件登録意匠に類似しない。 第3 むすび 以上のとおりであるから,イ号意匠は,本件登録意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属しない。 よって,結論のとおり判定する。 |
別掲 |
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判定日 | 2016-04-15 |
出願番号 | 意願2011-17748(D2011-17748) |
審決分類 |
D
1
2・
1-
ZB
(K4)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 並木 文子 |
特許庁審判長 |
斉藤 孝恵 |
特許庁審判官 |
渡邉 久美 久保田 大輔 |
登録日 | 2012-03-30 |
登録番号 | 意匠登録第1439570号(D1439570) |