ポートフォリオを新規に作成して保存 |
|
|
既存のポートフォリオに追加保存 |
|
PDFをダウンロード |
審決分類 |
審判 査定不服 1項2号刊行物記載(類似も含む) 取り消して登録 H7 |
---|---|
管理番号 | 1325925 |
審判番号 | 不服2016-15277 |
総通号数 | 208 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 意匠審決公報 |
発行日 | 2017-04-28 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2016-10-12 |
確定日 | 2017-03-08 |
意匠に係る物品 | 携帯電話機 |
事件の表示 | 意願2015- 23765「携帯電話機」拒絶査定不服審判事件について,次のとおり審決する。 |
結論 | 原査定を取り消す。 本願の意匠は,登録すべきものとする。 |
理由 |
第1 本願意匠 本願は,2015年(平成27年)5月19日の中華人民共和国への出願に基づくパリ条約による優先権の主張を伴う,平成27年(2015年)10月26日に出願された意匠登録出願であり,その意匠(以下,「本願意匠」という。)は,願書及び願書に添付した図面の記載によれば,意匠に係る物品を「携帯電話機」とし,その形態を,願書に添付した図面代用写真に現されたとおりとしたものである。(別紙第1参照) 第2 原査定における拒絶の理由及び引用意匠 原査定における拒絶の理由は,本願意匠が意匠法第3条第1項第3号に掲げる意匠に該当する(先行の公知意匠に類似するため,意匠登録を受けることのできない意匠)とするものであって,拒絶の理由に引用した意匠(以下,「引用意匠」といい,本願意匠と合わせて「両意匠」という。)は,本願出願前,日本国特許庁発行の意匠公報(意匠公報発行日:平成27年(2015年)4月20日)に記載された意匠登録第1522206号(意匠に係る物品,携帯電話機)の意匠であって,その形態は,同公報の図面代用写真に現されたとおりのものである。(別紙第2参照) 第3 請求人の主な主張 これに対し,請求人は,審判を請求し,要旨以下のとおり主張した。 1.本件意匠が登録されるべき理由 (1)拒絶査定について 本件出願人は,拒絶査定における本願意匠と引用意匠の共通点が携帯電話機の分野で「ありふれた態様」である以上,両意匠の類否を判断するにあたっては,やはり各部分における差異点も十分に検討され重視されるべきものと思料する。 昨今さまざまな携帯電話機が,板状であって正面に大きなディスプレイ部を設ける等の基本的構成態様を共通にしつつも全体としては異なるデザインを備えて製造・流通されていることに鑑みると,同物品分野では細かな部位の差異も意匠全体に十分影響を及ぼしうると認識すべきと考える。 (2)本願意匠と引用意匠の形態について (ア)基本的形態 本願意匠と引用意匠は,いずれも正面視隅丸長方形の板状で,周側面が枠で囲まれ,背面部分が緩やかに膨出しているという全体形状を有している。 しかし,本件出願人は,この共通点については,携帯電話機の分野において比較的ありふれたものであり,両意匠の類否判断に当たってさほど重視されるべき特徴ではないと考える。 (イ)具体的形態 本願意匠と引用意匠とは具体的形態において以下のような差異点を有している。 (イ-1)正面部のガラスパネル部の形状が異なる。 本願意匠のガラスパネル部は,上下左右の端がいずれも一定の弧度をもって背面側へと湾曲して(回り込むように造形されて)いる。一方,引用意匠のガラスパネル部は全くの平面である。 (イ-2)正面部においてディスプレイ部の上部の形状が異なる。 本願意匠の受話口は角穴であり,その向かって右側に2つの円形部分が設けられている。 引用意匠の受話口の隅丸穴であり,その向かって左側がわに2つの部分(だ円状部分と円形部分)が設けられている。 (イ-3)正面部にあるディスプレイ部の周縁部の形状が異なる。 本願意匠のディスプレイ部には独立したフレームが設けられていない。 一方,引用意匠のディスプレイ部には,正面図に表されているように,フレームが設けられている。 また,ディスプレイ部の下部についても,本願意匠の同部分は,引用意匠の同部分の面積に比べて広めにとられている。 (イ-4)カードスロットの配置が異なる。 本願意匠において,設けられたカードスロットは1つである。 引用意匠においては,カードスロットは2つあり,左側面に上下に設けられている。 (イ-5)スピーカーの配置が異なる。 本願意匠のスピーカーは底面部にあり,左右2つに分かれて設けられている。 引用意匠では,スピーカーは背面側の左下部に設けられている。 (イ-6)背面と側面に設けられた2本の横線の太さが異なる。 本願意匠では帯状に太く光沢があり,それ以外の周りの部分とは質感が異なるので,需要者の目に付きやすい態様である。 一方,引用意匠の横線はかなり細く控え目で,あまり目立たない。 (イ-7)背面部の膨出の形状が異なる。 平面図を見ると明らかに認識できますが(第1号証),本願意匠の背面部の膨出は丸っこく,両端(側面部を含めて)から全体的に膨れている。 一方,引用意匠の背面部は,より角ばった形状に膨出している。 つまり,側面部は直線的であって,側面部から背面部への切り替え部分辺りから急に弧を描いている。 また,横幅と奥行き(厚み)の比率が両意匠で異なる。 ここで,(イ-1)の形状は携帯電話機の正面部全体に及ぶ特徴であるので,両意匠を全体的に見比べた際にすぐに認識されるものと思料する。 また,(イ-6)の形状は,携帯電話機はとくに正面部と背面部が注目される部分であるところ,本願意匠の明らかにデザイン性を意識した光沢のある2本の帯状部分は,同意匠の特徴として印象に残る。 引用意匠は2本の細い線を有するものの目立たないため,この差異点を「細部の差異」(拒絶査定)と評価するのは適切ではなく,両意匠の印象を分けるポイントとなると考える。 さらに(イ-2)と(イ-3)の形状は,携帯電話機の正面部に表われるものである。 正面部は購入時・操作時を通じて最も需要者の注意を引く部分であるため,たとえ細部における差異点であったとしても,印象に残りやすく,意匠全体に与える影響は無視し得ないものと考える。 (イ-7)の形状は,背面部の膨出の仕方(丸っこいか角ばっているか),中央部分や両端部分の厚み,横幅と奥行き(厚み)の比率の違いは,明確に触感の違いとなって現れる。 需要者は携帯電話機を使用する際に同機器を握って操作するため,購入の際にも触って使用感を確かめようとするのが通常である。 よって,(イ-7)は注目されやすい部分における差異であって,軽く評価されるべき点ではない。 同様に,(イ-4)と(イ-5)の形状も,操作性と機能性の観点から需要者に注目されやすい部分に属する。 メモリーカードをどこに挿入するのか,何枚入れられるかという興味から(イ-4)の形状は注目されやすいし,また,スピーカーで音を出したい場合,どこから音が出るのかは注意を引かれる部分である(イ-5)。 背面部は需要者に注目されやすい部分なので,同部分におけるスピーカーの有無という点でも印象に残る。 (ウ)小括 本願意匠と引用意匠とは,ガラスパネルの形状,正面部上部の受話口等の仕様,ディスプレイ部の周縁部の形状,カードスロットの配置,スピーカーの位置と形状,背面部から側面部へと続く横線の形状,背面部の膨出の形状などに差異点を有する。 両意匠において,基本的形態が「ありふれている」と評価され得るのに対して,これらの差異点は需要者に注目されやすい部分にあり,意匠全体の美感に少なからぬ影響を及ぼすものと考える。 よって,両意匠における差異点は,基本的形態に見られる共通性を凌駕して,両意匠全体の美感の違いに結びついていると思料する。 実際,両者の斜視図等を見比べると,(イ-1)ないし(イ-7)の形態の差異点によって,本願意匠からは全体として厚みと丸みのあるふっくらとした柔らかい印象が生じているのに対し,引用意匠からは全体としてスリムかつ平らな,やや無機質でクールな印象が生じている。 (3)両意匠の類否について 本願意匠と引用意匠は基本的形態において共通性を有するものの,具体的形態において複数の差異点を有する。 そしてこの差異点は,いずれも需要者に注目されやすい部分にあるものであり,両意匠の類否判断において重視されるべきものと考える。 また,全体として両者を比べると,本願意匠からはふっくらとした柔らかい感じ,引用意匠からは無機質かつクールな感じという異なる美感が生じている。 よって,両意匠は非類似の意匠と評価されるべきものと考える。 2.むすび 本願意匠は引用意匠と非類似であって,意匠法第3条第1項第3号に該当する意匠ではないと思料する。 第4 当審の判断 1.両意匠の対比 (1)意匠に係る物品 両意匠の意匠に係る物品は,いずれも「携帯電話機」であり,一致する。 (2)両意匠の形態 両意匠の形態については,主として,以下の通りの共通点及び差異点がある。 (2-1)共通点 両意匠は,基本的構成態様として, 全体を,背面に曲面を持たせた四隅の丸い板状とし,正面に液晶パネルの上下に略帯状部分をそれぞれ設け,背面側上部にカメラレンズ部分を配した点において共通する。 また,具体的構成態様として, (a)正面上の帯状部分中央に横に細長い受話口を設けている点, (b)右側面に縦に細長い操作ボタンを2つ配置している点, (c)背面上部に配置したカメラレンズ部分を隅丸略正方形とし,その下にカメラレンズ部分よりやや小さい隅丸略正方形部分を配した点, において共通する。 (2-2)相違点 両意匠は,具体的構成態様として, (ア)本願意匠の本体正面のガラス面は,上下左右のそれぞれ4辺の角を平面,底面及び両側面に向かって,緩やかに丸みを持たせているのに対し,引用意匠の正面側ガラス面は,上下左右のそれぞれ4辺の角には丸みを持たせていない点, (イ)本願意匠の本体背面は,平面視において,背面横中央を頂点とした左右方向に円弧を描く曲面とし,側面視において,上下にわたり平坦面としているのに対して,引用意匠は,平面視において,背面横中央から両側面手前までを平坦な面とし,左右の両端部において側面に向けて緩やかに湾曲させ,さらに,側面視において,背面縦中央から平面及び底面の手前までを平坦な面とし,上下の両端部において平面及び底面に向けて緩やかに湾曲させたものであって,背面側全体に大きな平坦面を持たせ,上下左右の辺に丸みを持たせた態様としている点, (ウ)本願意匠は,本体背面の上下それぞれに,背面全体とは光沢の異なる横線模様を正面側に回り込むように背面から両側面にかけて設けているのに対し,引用意匠は,本体背面の上下それぞれに,部材の合わせ目の線が表れているものの,横線模様は設けていない点, (エ)本願意匠は,本体底面において,中央に設けたケーブル接続の孔の左右に小さな縦長楕円形の孔をそれぞれ7個ずつ設けてマイク部分としているのに対し,引用意匠は,本体底面にマイクやスピーカーの孔はなく,背面左下隅に極めて小さな孔で構成された横長長方形状のマイク部を設けている点, (オ)本願意匠は,本体正面上部の受話口の右に2つの円形部分を配し,本体平面の中央から右寄りに1つの円形孔と,本体左側面上寄りにカードスロットを1つ設け,更に本体背面上部のカメラレンズ部の右を縦長略楕円形部としているのに対し,引用意匠は,正面上部の受話口の左に横長楕円形部分と円形部分をそれぞれ1つずつ配し,平面の中央から左寄りに円形孔と,左側面にカードスロットを2つ設け,更に背面上部のカメラレンズ部の左を隅丸略正方形部としている点, において相違する。 2.両意匠の類否判断 以上の共通点及び差異点が両意匠の類否判断に及ぼす影響を評価・総合して,両意匠の類否を意匠全体として検討し,判断する。 (1)意匠に係る物品についての評価 両意匠は,意匠に係る物品が一致するものであるが,意匠に係る物品が共通する点だけでは,両意匠の類否判断を決定づけるとまではいえない。 (2)両意匠の形態の共通点の評価 両意匠は,基本的構成態様において,全体を,背面に曲面を持たせた四隅の丸い板状とし,正面に液晶パネルの上下に略帯状部分をそれぞれ設け,背面側上部にカメラレンズ部分を配したとする共通点は,この種の携帯電話機の分野において,本願出願前から見受けられるありふれた態様といえるものであり,需要者にとって格別目立つ態様とはいえず,この点が両意匠の類否判断に及ぼす影響は,一定程度に留まるものである。 また,具体的構成態様において,正面上のスピーカーの共通点(a),右側面の操作ボタンの共通点(b),背面上部のカメラレンズ部分及びその下の隅丸略正方形部分の共通点(c)についても,この種の携帯電話機の分野において,いずれも従来から普通に見られる態様であって,両意匠にのみ見られる特徴とはいえず,意匠全体として観察した場合には,微細な部分の態様といえるものであるから,これら点が両意匠の類否判断に与える影響は小さい。 (3)両意匠の形態の差異点の評価 これに対して,正面側ガラス面の上下左右4辺の角の丸みの有無の相違点(ア)は,携帯電話機を利用するにあたっては,主に正面側を操作し情報を確認することから,正面側の態様は目につきやすい部分であり,需要者に,両意匠の印象を異なるものとすることから,類否判断に大きな影響を与えるものといえる。 次に,背面の曲面の態様の相違点(イ)については,背面に平坦な面があるものとないものとでは,需要者に与える背面の丸みの印象が異なり,携帯電話機を手にした際の印象の違いとなって表れることから,類否判断に与える影響は大きく,見る者に異ならしめる印象をもたらすものといえる。 また,本体背面の上下に設けられた横線模様の相違点(ウ)については,本体背面に施された装飾の有無であって,明らかに背面の装飾を目的とした背面上下の横線模様と部材の合わせ目といった技術的な側面から表れた背面上下の横線とは,需要者に与える印象は全く異なるものであるから,類否判断に大きく影響を与えるものである。 さらに,本体に設けられた携帯電話機のマイク部の相違点(エ)や本体各面の部位の形態の相違点(オ)については,格別目立つ部分の態様の差異とはいえないものの,携帯電話機の各種の機能を利用する際に,一定程度関心を払う部位であるから,これらの点は両意匠の類否判断に一定程度評価されるものである。 (4)小括 以上の通り,両意匠は,意匠に係る物品が一致するものであるが,両意匠の形態において,相違点が共通点を凌駕し,それらが意匠全体として需要者に異なる美感を起こさせるものであるから,両意匠は類似しないものと認められる。 第5.むすび 以上のとおりであって,本願意匠は,原査定の拒絶の理由によっては,意匠法第3条第1項第3号に掲げる意匠に該当するものとはいえないので,本願を拒絶すべきものとすることはできない。 また,当審において,更に審理した結果,他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。 よって,結論のとおり審決する。 |
別掲 |
|
審決日 | 2017-02-24 |
出願番号 | 意願2015-23765(D2015-23765) |
審決分類 |
D
1
8・
113-
WY
(H7)
|
最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 木村 智加 |
特許庁審判長 |
温品 博康 |
特許庁審判官 |
山田 繁和 正田 毅 |
登録日 | 2017-03-31 |
登録番号 | 意匠登録第1575138号(D1575138) |
代理人 | 阿部 達彦 |
代理人 | 小暮 理恵子 |
代理人 | 久保 怜子 |
代理人 | 行田 朋弘 |