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審決分類 審判 査定不服  1項2号刊行物記載(類似も含む) 取り消して登録 G2
管理番号 1330167 
審判番号 不服2017-3972
総通号数 212 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 意匠審決公報 
発行日 2017-08-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-03-17 
確定日 2017-07-10 
意匠に係る物品 自動二輪車用タイヤ 
事件の表示 意願2016- 16155「自動二輪車用タイヤ」拒絶査定不服審判事件について,次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の意匠は,登録すべきものとする。
理由 第1 本願意匠

本願は,平成28年(2016年)7月28日の意匠登録出願であって,その意匠(以下「本願意匠」という。)は,願書の記載及び願書に添付した図面によれば,意匠に係る物品を「自動二輪車用タイヤ」とし,その形状,模様若しくは色彩又はこれらの結合(以下「形態」という。)を,願書の記載及び願書に添付した図面に記載されたとおりとしたものである。(別紙第1参照)

第2 原査定における拒絶の理由及び引用意匠

原査定における拒絶の理由は,本願意匠が意匠法第3条第1項第3号に規定する意匠に該当するとしたものであり,拒絶の理由に引例した意匠(以下「引用意匠」という。)は,本願出願前,日本国内又は外国において電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった意匠,すなわち,欧州共同体商標意匠庁が2016年1月18日に発行した欧州共同体意匠公報(2016/010)に記載の「タイヤ(登録番号002944884-0002)」の意匠,掲載ページのURL:https://euipo.europa.eu/eSearch/#details/designs/002944884-0002であって,その形態は,同サイト掲載ページの図面に記載されたとおりのものである。(別紙第2参照)

第3 当審の判断

1.本願意匠と引用意匠の対比
(1)意匠に係る物品
本願意匠の意匠に係る物品は「自動二輪車用タイヤ」であり,引用意匠の意匠に係る物品は「タイヤ」であるが,いずれも幅の細い自動二輪車用のタイヤであるから,本願意匠及び引用意匠(以下「両意匠」という。)の意匠に係る物品は共通する。

(2)形態
両意匠の形態を対比すると,形態については,主として,以下のとおりの共通点及び相違点がある。
なお,対比にあたっては,引用意匠の図面の図の表示を本願意匠の図面に合わせることとし,引用意匠の図面「0002.1」を「正面図」,「0002.2」を「背面図」,「0002.3」を「平面図」,「0002.4」を「左側面図」,「0002.5」を「右側面図」,「0002.6」を「斜視図」,「0002.7」を「正面図の部分拡大図」として表されているものとする。
また,両意匠の正面図において,タイヤ周方向の中心線である赤道位置に補助線αを引き,この補助線αの左隣に補助線β1の平行線を,補助線αの右隣に補助線β2の平行線を引き,補助線β1の左外側に補助線γ1の平行線を,補助線β2の右外側に補助線γ2の平行線を引いたものを用いて以下説明する。(当審で作成した,溝部,補助線及び接地面を説明する参考正面図,別紙第3参照)

まず,共通点として,
(A)全体は,正面図において上に向かって左側又は右側に斜行した溝(以下,左側に斜行した溝を「左斜行溝」,右側に斜行した溝を「右斜行溝」という。)が刻まれた断面視略円弧状のトレッド部と,その左右端部下側に,タイヤ内側に向かって傾斜したサイドウォール部を一体的に形成した構成の環状体としたものであって,
(B)トレッド部に,タイヤの赤道に位置する補助線α上の一点を始点として,先端部が補助線β1にまで延びている最も長い左斜行溝(以下「左斜行中央溝」という。)と,補助線α上の他の一点を始点として,先端部が補助線β2にまで延びている最も長い右斜行溝(以下「右斜行中央溝」という。)を,左右の溝が交互になるように,上下方向にほぼ等間隔に形成している点,
(C)左斜行中央溝の右隣に,斜行溝の上端が補助線β2付近に位置する,左斜行中央溝より僅かに緩傾斜で約4/9の長さの細長い楔状の略三角形の斜行溝(以下「左斜行内側溝」という。)を,上下方向にほぼ等間隔に形成している点,
(D)右斜行中央溝の左隣に,斜行溝の上端が補助線β1付近に位置する,右斜行中央溝より僅かに緩傾斜で約4/9の長さの細長い楔状の略三角形の斜行溝(以下「右斜行内側溝」という。)を,上下方向にほぼ等間隔に形成している点,
(E)左斜行中央溝の左隣に,その下端部が補助線γ1付近に位置する,右斜行中央溝より僅かに緩傾斜で短い斜行溝(以下「右斜行外側溝」という。)を,上下方向にほぼ等間隔に形成している点,
(F)右斜行中央溝の右隣で,その下端部が補助線γ2付近に位置する,左斜行中央溝より僅かに緩傾斜で短い斜行溝(以下「左斜行外側溝」という。)を,上下方向にほぼ等間隔に形成している点,
(G)左斜行中央溝,右斜行外側溝,及び左斜行内側溝からなり,全体として左に傾斜した略「小」字状に表れる溝群(以下「略小字状溝群」という。)と,右斜行中央溝,左斜行外側溝,及び右斜行内側溝からなり,全体として略小字状溝群と線対称で右に傾斜した略反転「小」字状に表れる溝群(以下「略反転小字状溝群」という。)を,補助線γ1とγ2の間で,2つの溝群が交互になるように,上下方向にほぼ等間隔に形成している点,
(H)トレッド部の左側端部部分の略小字状溝群と略反転小字状溝群との間の位置に,補助線γ1上の一点付近を始点とする短い溝(以下「左縁溝」という。)を,上下方向にほぼ等間隔に形成している点,
(I)トレッド部の右側端部部分の略小字状溝群と略反転小字状溝群との間の位置に,補助線γ2上の一点付近を始点とする短い溝(以下「右縁溝」という。)を,上下方向にほぼ等間隔に形成している点,
が認められる。

他方,相違点として,
(ア)左右の斜行中央溝の態様について,本願意匠は,溝部中央部分でくびれた形態とし,上下端部分でほぼ同じ溝幅であるのに対して,引用意匠は,上に向かって先細の細長い楔状の略三角形である点,
(イ)左右の斜行内側溝の態様について,本願意匠は,上に向かって先細であるのに対して,引用意匠は,下に向かって先細である点,
(ウ)左右の斜行外側溝の態様について,本願意匠は,補助線γ1又は補助線γ2の内側に位置し,溝部中央部分でくびれた形態の短い溝であるのに対して,引用意匠は,補助線γ1又は補助線γ2をまたがって形成され,下に向かって先細で,細長い楔状の略三角形のやや長めの溝である点,
(エ)略小字状溝群及び略反転小字状溝群の態様について,本願意匠は,斜行中央溝と斜行外側溝が溝部中央部分でくびれた形態とし,斜行内側溝のみが上に向かって先細としているのに対して,引用意匠は,斜行中央溝が上方に向かって先細とし,斜行内側溝及び斜行外側溝が下方に向かって先細としている点,
(オ)左右の縁溝の態様について,本願意匠は,溝部中央部分でくびれた形態とし,上下端部分でほぼ同じ溝幅であるのに対して,引用意匠は,下に向かって先細の細長い楔状の略三角形である点,
が認められる。

2.両意匠の形態の評価
以上の共通点及び相違点が両意匠の類否判断に及ぼす影響を評価し,本願意匠と引用意匠が類似するか否か,すなわち両意匠の類似性について考察する。

(1)両意匠の類否判断手法について
自動二輪車が旋回する際には車体を傾ける必要があることから,自動二輪車用タイヤにおけるトレッド部の断面形状は,半円弧に近い形状となっており,直進時においてはトレッド部の赤道付近の部分のみが接地し,旋回時にはトレッド部の円弧状の傾斜面のみが接地することとなる。(当審で作成した,溝部,補助線及び接地面を説明する参考正面図,別紙第3参照)
このことを理解している自動二輪車用タイヤの需要者は,自動二輪車用タイヤを観察する際,直進時に接地するタイヤの赤道付近の部分の溝の形態及びその配置態様,並びに旋回時に接地するタイヤの円弧傾斜面部分の溝の形態及びその配置態様を走行性能等の観点から各々重視して観察するとともに,直進時に接地する部分及び旋回時に接地する部分を区別せず,タイヤに形成されたトレッドパターン全体の態様についても装飾的な観点から注意を払って観察するものと認められる。
したがって,本願意匠と引用意匠の類否判断においては,直進時に接地するタイヤの赤道付近の部分の各溝の形態及びその配置態様,並びに旋回時に接地するタイヤの円弧傾斜面部分の各溝の形態及びその配置態様が与える印象について検討するとともに,トレッドパターン全体の形態が与える印象についても検討して,意匠全体として両意匠が類似するか否かを判断することとする。

(2)共通点の評価
まず,共通点(A)の全体の態様における共通点は,自動二輪車用タイヤの構成態様を概略的に捉えたに過ぎないものであるから,この共通性のみをもって両意匠の類否判断を決定することはできない。
次に,共通点(B)ないし(I)の態様は,両意匠の基調を形成し,需要者に共通の印象を与えるものであるが,この自動二輪車用タイヤの分野において,本願意匠の出願前に既に見られるもの(参考意匠:米国特許商標公報(2013年8月6日発行)に記載された「自動二輪車用タイヤ(登録番号US D687368S)」の意匠(特許庁意匠課公知資料番号第HH25315270号),別紙第4参照)であるから,この共通点(B)及び共通点(I)の態様の共通性のみをもって両意匠の類否判断を決定することはできないものである。
そして,これらの共通点(A)ないし(I)が相まって生じる視覚的効果は,需要者に対して共通する視覚的印象を与えるものであるが,先行公知意匠を参酌した場合,これらの共通点のみで両意匠の類否判断を決定付けるまでには至らないものである。

(3)相違点の評価
これに対し,相違点(ア)の左右の斜行中央溝の態様については,本願意匠のように上下の方向性が認められない形態のものと,引用意匠のような上に向かって先細の形態のものとでは,当該溝部の形態を直進走行時の排水性を想定して観察する需要者にとって全く別異の印象を与えるものと認められるから,この相違点(ア)が両意匠の類否判断に及ぼす影響は大きい。
次に,相違点(イ)の左右斜行内側溝の態様については,両意匠の当該溝の形態が細長い楔状の略三角形であって共通するものであるが,その先細となる方向が全く異なるものであるから,この相違点(イ)が両意匠の類否判断に及ぼす影響は一定程度あるといえる。
また,相違点(ウ)の左右斜行外側溝の態様についても,本願意匠のように上下の方向性が認められない形態のものと,引用意匠のような下に向かって先細の形態のものとでは,当該溝部の形態を旋回走行時の排水性を想定して観察する需要者にとって全く別異の印象を与えるものと認められるから,この相違点(ウ)が両意匠の類否判断に及ぼす影響も大きい。
また,相違点(エ)の略小字状溝群及び略反転小字状溝群の態様については,斜行中央溝及び斜行外側溝が独特のくびれた形態のために,当該溝群全体が筆書きされたもののような印象を与える本願意匠の態様と,各溝が先端に向かって漸次狭まる形態のために,当該溝群全体がペン書きされたもののような印象を与える引用部分の態様とは,斜行内側溝の先細となる方向の相違も含めて看者に別異の印象を強く与えているものであるから,この相違点(エ)が両意匠の類否判断に及ぼす影響は大きい。
更に,相違点(オ)の左右の縁溝の態様については,走行には関係しないトレッドパターンの形態に係るものではあるが,本願意匠の溝部中央部分でくびれた形態は特徴的なものであるから,この相違点(オ)が両意匠の類否判断に及ぼす影響も一定程度認められる。
そして,上記共通点(ア)ないし(オ)が相まって生じる視覚的効果は大きく,それらが相まって生じる別異の印象は,両意匠の類否判断を決定付けるほどのものである。

3.両意匠の類否判断
上記のとおり,両意匠は,意匠に係る物品において共通し,両意匠の形態においても,共通点が類否判断に及ぼす影響は両意匠の類否判断を決定付けるまでには至らないものであるのに対して,相違点が類否判断に及ぼす影響は大きく,相違点が相まって生じる視覚的効果は,共通点のそれを凌駕して,類否判断を支配しているものであるから,意匠全体として見た場合,本願意匠と引用意匠とは類似しないものである。

第4 むすび

以上のとおりであって,本願意匠は,引用意匠に類似せず,意匠法第3条第1項第3号に掲げる意匠に該当しないものであるから,本願については,原査定における拒絶の理由によって拒絶すべきものとすることはできない。

また,当審が更に審理した結果,他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。

よって,結論のとおり審決する。
別掲
審決日 2017-06-27 
出願番号 意願2016-16155(D2016-16155) 
審決分類 D 1 8・ 113- WY (G2)
最終処分 成立  
前審関与審査官 加藤 真珠 
特許庁審判長 斉藤 孝恵
特許庁審判官 神谷 由紀
江塚 尚弘
登録日 2017-07-28 
登録番号 意匠登録第1584097号(D1584097) 
代理人 特許業務法人深見特許事務所 

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