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審決分類 審判 査定不服  その他 取り消して登録 K9
管理番号 1338216 
審判番号 不服2017-12740
総通号数 220 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 意匠審決公報 
発行日 2018-04-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-08-29 
確定日 2018-03-20 
意匠に係る物品 排ガス浄化用触媒担体 
事件の表示 意願2016- 19967「排ガス浄化用触媒担体」拒絶査定不服審判事件について,次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の意匠は,登録すべきものとする。
理由 第1 手続の経緯
本願の手続の経緯は,以下のとおりである。
平成28年 9月15日 :意匠登録出願
平成29年 2月24日付け:指令書(協議指令)
平成29年 2月24日付け:拒絶理由
平成29年 4月 3日 :意見書
平成29年 5月22日付け:拒絶査定
平成29年 8月29日 :審判請求書

第2 本願意匠
本願は,物品の部分について意匠登録を受けようとし,本意匠の出願番号を意願2016-019963号とする関連意匠の意匠登録出願であって,その意匠は,意匠に係る物品を「排ガス浄化用触媒担体」とし,その形状,模様若しくは色彩又はこれらの結合(以下「形状,模様若しくは色彩又はこれらの結合」を「形態」という。)を,願書の記載及び願書に添付した図面に記載されたとおりとしたものであり,本願意匠において部分意匠として意匠登録を受けようとする部分(以下「本願部分」という。)を,「実線で表された部分が部分意匠として意匠登録を受けようとする部分である。一点鎖線は部分意匠として意匠登録を受けようとする部分とその他の部分との境界のみを示す。」としたものである(別紙第1参照)。

第3 原査定における指令書及び拒絶の理由
1.平成29年2月24日付け指令書
原査定の特許庁長官による指令書の概要は,本願意匠は,同一の出願人が同日に出願された下記の出願の意匠と同一又は類似のものと認められ,意匠法第9条第2項前段の規定に該当するので,意匠法第9条第4項の規定に基づき,この指令書を送付し,また,これとともに意匠法第9条第2項後段の規定に基づく拒絶理由通知書も送付するとしたものである。

この意匠登録出願の意匠と類似と認められる意匠登録出願
意願2016-019977

2.平成29年2月24日付け拒絶理由通知書
原査定の拒絶の理由の概要は,この意匠登録出願人は,平成29年2月24日付けの協議指令の趣旨に添う届出をしないので,意匠法第9条第5項の規定により協議が成立しなかったものとみなされる。したがって,本件意匠登録出願人は,この意匠について意匠法第9条第2項後段の規定により意匠登録を受けることができない,としたものである。

第4 指令書に記載された意匠登録出願の意匠
1.意願2016-019977の意匠
意願2016-019977は,物品の部分について意匠登録を受けようとし,本意匠の出願番号を意願2016-019975号とする,本願意匠の出願日と同日の平成28年9月15日の関連意匠の意匠登録出願であって,その意匠(以下「意匠1」という。)は,意匠に係る物品を「排ガス浄化用触媒担体」とし,その形態を,願書の記載及び願書に添付した図面に記載されたとおりとしたものであり,意匠1において部分意匠として意匠登録を受けようとする部分(以下「意匠1部分」という。)を,「実線で表された部分が部分意匠として意匠登録を受けようとする部分である。一点鎖線は部分意匠として意匠登録を受けようとする部分とその他の部分との境界のみを示す。」としたものである(別紙第2参照)。

なお,本願意匠及び意匠1の意匠登録出願人は,同一の者である。

第5 当審の判断
1.原査定の適否について
本願意匠と意匠1について類否判断を行い,原査定の適否について,以下判断する。
(1)類否判断に当たって
本願意匠及び意匠1の意匠に係る物品は,いずれも自動車エンジン等から排気される排ガス中に含まれる有害物質を除去するために,触媒成分を含んだ泥漿(以下「スラリー」という。)を,長手方向に貫通する多数の孔(以下「セル」という。)に塗布し,それを保持するために用いられる「排ガス浄化用触媒担体」である。
そして,この「排ガス浄化用触媒担体」においては,セル内部に塗布されたスラリーの表面積を,浄化性能を高めるために大きくする必要から,突出部(以下「フィン」という。)をセル内部の長手方向に形成することが求められ,また,スラリーが触媒溜まりを作ることなく,フィン表面に均一に塗布することも求められている。
本願意匠に係る物品の需要者は,排ガスの浄化効率向上を求める自動車部品メーカー等の者であるところ,この需要者は触媒性能に影響を与えるフィンの具体的形態について特に注目し,スラリーの表面積に影響を与える場合には,フィンの配置態様についても考慮するといえる。一方,セル内部に形成されるフィンの数に関しては,セルを通過する排ガスの流量に応じて決定される事項であって,フィンの形態に比較して重視されるとはいえないものである。
したがって,本願意匠と意匠1の類否判断に際しては,需要者は,フィンの具体的形態に最も関心を持って観察するとの前提に基づいて,共通点及び相違点における類否判断に及ぼす影響を評価することとする。

(2)本願意匠と意匠1の対比
ア.意匠に係る物品の対比
本願意匠及び意匠1(以下「両意匠1」という。)の意匠に係る物品は,いずれも「排ガス浄化用触媒担体」であるから,両意匠1の意匠に係る物品は,用途及び機能が一致する。

イ.本願部分と意匠1部分の用途及び機能の対比
本願部分と意匠1部分(以下「両部分1」という。)は,いずれもスラリーを塗布し保持するために用いられる排ガス浄化用触媒担体のセルの部分であり,排ガス中に含まれる有害物質を除去することを主たる機能とする部分であるから,両部分1の用途及び機能は一致する。

ウ.両部分1の位置,大きさ及び範囲の対比
両部分1は,いずれも略円柱状の排ガス浄化用触媒担体の正面視中央付近に設けた,隣接する一辺を共有して隣り合う2つの正面視正方形枠状の長手方向に連続する部分であるから,両部分1の位置,大きさ及び範囲は一致する。

エ.両部分1の形態の対比
(ア)形態の共通点
(共通点1)両部分1は,部分全体の形状が,いずれもその内壁に長手方向に連続するフィンが形成された,長手方向に連続する正面視正方形枠状の2つの枠体を,隣接する一辺を共有して左右に並設した態様である点で共通する。
(共通点2)両部分1は,いずれも正面視左側のセルに設けられたフィンの配置態様を上下辺の中央部分に1つ,左右辺に等間隔に2つ形成したものとし,右側のセルのものは左側のセルを右に90°回転した配置態様とした点で共通する。

(イ)形態の相違点
(相違点1)本願部分は,フィンの具体的な形態が,頂点部分が隅丸の略角丸二等辺三角形状であるのに対し,意匠1部分は,フィンの具体的な形態が,略縦長長方形状である点で相違する。

(3)判断
ア.両意匠1の意匠に係る物品の類否判断
両意匠1の意匠に係る物品は,用途及び機能が一致するものであるから同一である。

イ.両部分1の用途及び機能の類否判断
両部分1の用途及び機能は,一致するものであるから同一である。

ウ.両部分1の位置,大きさ及び範囲の類否判断
両部分1は,物品全体の形態の中における位置,大きさ及び範囲が一致するものであるから同一である。

エ.両部分1の形態の共通点及び相違点の評価
(ア)形態の共通点の個別評価
共通点1は,両部分1の形態全体に係るものではあるが,フィンをその内壁に長手方向に連続して形成した,正面視正方形枠状の長手方向に連続する枠体は,この種物品分野におけるセルの形態としてごく一般的なものに過ぎず,これら2つを隣接する一辺を共有して左右に並設した態様も,既に存在するものに過ぎないから,この共通点1の形態は,両部分1のみに認められる格別の特徴とはいえない。
共通点2は,フィンの配置態様についてであるが,フィンをセル内壁中央部分に1つ配設することも,等間隔になるように2つ配設することも格別の特徴であるとはいえず,また,フィンに塗布されたスラリー同士が干渉せず,スラリーの表面積に影響を与えない配置であれば,各フィンの配置態様はたいして注目されないものといえるから,右側のセルのフィンの配置態様が左側のものを右に90°回転した態様として配置されている両部分1のフィンの配置態様に格別の特徴があるとはいえないものである。

(イ)形態の相違点の個別評価
相違点1は,この物品分野の需要者にとって特に注目するフィンの部分の形態であって,両部分1全体の美感に強く影響するものであるところ,本願部分が先端部分を隅丸とする放物線状の凸部の印象であるのに対して,意匠1部分は先端部分を直角とする一定の幅の角張った凸部の印象であるから,異なる美感を与えるものである。

オ.両意匠1の類否判断
両部分1の形態における各共通点及び相違点についての個別評価に基づき,両部分1の部分全体として全ての共通点及び相違点を総合的に観察した場合,需要者の注意を最も強く引く部分であるフィンの形態について,その美感に大きな相違があり,フィンの配置態様が共通であることを考慮しても,両部分1の部分全体として観察した際には異なる美感を起こさせるものといえる。
したがって,両意匠1は,意匠に係る物品が同一であり,両部分1の用途及び機能,並びに位置,大きさ及び範囲も同一であるが,その形態において,相違点が共通点を凌駕し,両部分1全体として需要者に異なる美感を起こさせるものであるから,両意匠1は類似しないものである。

(4)小括
上記のとおり,本願意匠は,意匠1とは類似しないものであるから,意匠法第9条第2項後段の規定により意匠登録を受けることができない意匠に該当するものではなく,原査定の理由によって本願を拒絶することはできない。

2.その他の審理
本願は,本意匠の出願番号を意願2016-019963号とする関連意匠の意匠登録出願であるから,本願意匠と意願2016-019963号の意匠(以下「本意匠」という。)について,上記1.の「(1)類否判断に当たって」に準じて,本願意匠の関連意匠としての登録の適否について,以下判断する。
(1)本意匠
本意匠の意匠登録出願(意願2016-019963号)は,本願意匠の出願日と同日の平成28年9月15日の意匠登録出願であって,その意匠は,意匠に係る物品を「排ガス浄化用触媒担体」とし,その形態を,願書の記載及び願書に添付した図面に記載されたとおりとしたものであり,本意匠において部分意匠として意匠登録を受けようとする部分(以下「本意匠部分」という。)を,「実線で表された部分が部分意匠として意匠登録を受けようとする部分である。一点鎖線は部分意匠として意匠登録を受けようとする部分とその他の部分との境界のみを示す。」としたものである(別紙第3参照)。

(2)本願意匠と本意匠の対比
ア.意匠に係る物品の対比
本願意匠及び本意匠(以下「両意匠2」という。)の意匠に係る物品は,いずれも「排ガス浄化用触媒担体」であるから,両意匠2の意匠に係る物品は,用途及び機能が一致する。

イ.本願部分と本意匠部分の用途及び機能の対比
本願部分と本意匠部分(以下「両部分2」という。)は,いずれもスラリーを塗布し保持するために用いられる排ガス浄化用触媒担体のセルの部分であり,排ガス中に含まれる有害物質を除去することを主たる機能とする部分であるから,両部分2の用途及び機能は一致する。

ウ.両部分2の位置,大きさ及び範囲の対比
両部分2は,いずれも略円柱状の排ガス浄化用触媒担体の正面視中央付近に設けた,隣接する一辺を共有して隣り合う2つの正面視正方形枠状の長手方向に連続する部分であるから,両部分2の位置,大きさ及び範囲は一致する。

エ.両部分2の形態の対比
(ア)形態の共通点
(共通点1)両部分2は,部分全体の形状が,いずれもその内壁に長手方向に連続するフィンが形成された,長手方向に連続する正面視正方形枠状の2つの枠体を,隣接する一辺を共有して左右に並設した態様である点で共通する。
(共通点2)両部分2は,フィンの形態が,頂点部分が隅丸の略角丸二等辺三角形状である点で共通する。

(イ)形態の相違点
(相違点1)本願部分は,正面視左側のセルに設けられたフィンの配置態様が,上下辺においては中央部分に1つ,左右辺においては等間隔に2つ形成した配置態様であり,正面視右側のセルのものは左側のセルを右に90°回転した配置態様であるのに対し,本意匠部分は,左右のセルに設けられたフィンの配置態様が,上下辺においては中央部分に1つ,左右辺においては等間隔に2つ形成した同様の配置態様である点で相違する。

(3)判断
ア.両意匠2の意匠に係る物品の類否判断
両意匠2の意匠に係る物品は,用途及び機能が一致するものであるから同一である。

イ.両部分2の用途及び機能の類否判断
両部分2の用途及び機能は,一致するものであるから同一である。

ウ.両部分2の位置,大きさ及び範囲の類否判断
両部分2は,物品全体の形態の中における位置,大きさ及び範囲が一致するものであるから同一である。

エ.両部分2の形態の共通点及び相違点の評価
(ア)形態の共通点の個別評価
共通点1は,両部分2の形態全体に係るものではあるが,フィンをその内壁に長手方向に連続して形成した,正面視正方形枠状の長手方向に連続する枠体は,この種物品分野におけるセルの形態としてごく一般的なものに過ぎず,これら2つを隣接する一辺を共有して左右に並設した態様も,既に存在するものに過ぎないから,この共通点1の形態は,両部分2のみに認められる格別の特徴とはいえない。
共通点2は,この物品分野の需要者にとって特に注目するフィンの部分の形態であって,両部分2全体の美感に強く影響するものであるから,この共通する形態が両部分2に共通する美感を強く与えるものである。

(イ)形態の相違点の個別評価
相違点1は,フィンの配置態様についてであるが,フィンの形態に比較して重視されるものではない上に,左右のセルにおけるフィンの数及び各辺に形成されたフィンの配置態様は同様なものであるから,セルの一方を右に90°回転させただけの相違でしかない本願部分と本意匠部分では,その与える印象に大きな差異はなく,両部分2全体の美感に与える影響は小さいといえる。

オ.両意匠2の類否判断
両部分2の形態における各共通点及び相違点についての個別評価に基づき,両部分2の部分全体として全ての共通点及び相違点を総合的に観察した場合,両部分2は,需要者の注意を最も強く引く部分であるフィンの形態における美感が共通するものであり,フィンの配置態様が相違することを考慮しても,両部分2の部分全体として観察した際には共通する美感を起こさせるものといえる。
したがって,両意匠2は,意匠に係る物品が同一であり,両部分2の用途及び機能,並びに位置,大きさ及び範囲も同一であり,両部分2の形態においても,相違点の与える印象は共通点のそれに埋没し,両部分2全体として需要者に共通する美感を起こさせるものであるから,本願意匠は本意匠に類似するものと認められる。

(4)小括
上記のとおり,本願意匠は本意匠に類似するものであり,本意匠の意匠権について専用実施権が設定されていないから意匠法第10条第1項の条件規定である同法同条第2項の要件を充足し,かつ,本意匠の意匠権者と本願意匠の出願人とは同一の者であるから,本意匠については出願人の自己の登録意匠と認められ,なおかつ,本願意匠の出願日がその本意匠の意匠登録出願の日以後であって,その本意匠の意匠公報の発行の日前であるので,意匠法第10条第1項の要件を充足しているものである。
よって,本願意匠は,意願2016-019963号を本意匠とする関連意匠として意匠登録を受けることができるものである。

第6 むすび
以上のとおり,本願意匠は,平成29年2月24日付け指令書に記載された意匠1に類似しないものであるから,意匠法第9条第2項後段の規定により意匠登録を受けることができない意匠に該当するものではない。
したがって,原査定の理由によっては,本願を拒絶することはできない。

また,他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。

よって,結論のとおり審決する。
別掲
審決日 2018-03-08 
出願番号 意願2016-19967(D2016-19967) 
審決分類 D 1 8・ 5- WY (K9)
最終処分 成立  
前審関与審査官 坂田 麻智古賀 稔章 
特許庁審判長 内藤 弘樹
特許庁審判官 江塚 尚弘
渡邉 久美
登録日 2018-03-30 
登録番号 意匠登録第1602792号(D1602792) 
代理人 宗助 智左子 
代理人 松井 宏記 

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