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審決分類 審判 判定  同一・類似 属さない(申立成立) K2
管理番号 1340216 
判定請求番号 判定2017-600042
総通号数 222 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 意匠判定公報 
発行日 2018-06-29 
種別 判定 
判定請求日 2017-10-04 
確定日 2018-05-25 
意匠に係る物品 釣用リール 
事件の表示 上記当事者間の登録第1226935号の判定請求事件について,次のとおり判定する。 
結論 イ号意匠の図面及びその説明により示された「釣用リール」の意匠は,登録第1226935号意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属しない。
理由 第1 手続の経緯
平成16年 2月 3日 意匠登録出願(意願2004-2614号)
平成16年11月19日 意匠権の設定登録(登録第1226935号)
平成29年10月 4日付け 本件判定請求(本件判定請求人)
平成29年11月27日付け 答弁書提出(本件判定被請求人)

第2 請求の趣旨及び理由
1.請求の趣旨
本件判定請求人(以下「請求人」という。)は,イ号意匠(甲第2号証)及びその説明書に示す意匠は,登録第1226935号意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属しない,との判定を求め,要旨,以下のとおり主張した。

2.請求の理由
(1)判定請求の必要性
請求人は,イ号意匠の説明書(甲第2号証)に示す「RAGE」(イ号物件)を製造販売しているものである。
請求人は,本件判定請求に係る登録意匠「釣用リール」(甲第1号証,以下「本件登録意匠」という。)の意匠権者である本件判定被請求人(以下「被請求人」という。)から平成29年2月24日付にてお伺い書(甲第3号証)を受け取った。
そして,その後,請求人と被請求人との間で協議した結果,イ号意匠が,本件登録意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属するか否かの判断を特許庁の判定に委ねることで合意した。
そこで,特許庁による判定を求める。

(2)本件登録意匠の手続の経緯
出願 平成16年2月3日
拒絶理由通知 平成16年8月19日(起案日)
意見書 平成16年10年6日(差出日)
登録 平成16年11月19日

(3)本件登録意匠の説明
本件登録意匠は,甲第1号証のとおり,物品「釣用リール」のスプールが内装され,巻装用ハンドルやドラグレバーが設けられるギアボックスに取り付けられるケーシング部分を,意匠登録を受けようとする部分とした部分意匠であり,そのケーシング部分の形態は,
基本的構成態様が,
(A)ギアボックスに接続される円形状の右側半部を備え,
(B)その反対に円形状の左側半部を備え,
(C)両半部同士を架橋状に連結する3本の連結部を備える,
ものであり,
具体的構成態様が,
(D)左側半部の径が,右側半部の径よりも小さくなっており,
(E)左側半部の左側面には,その中央にネジの取付部が設けられており,
(F)左側半部の左側面には,ネジの取付部を囲むように一重円状の線模様が現れ,通孔が形成されておらず,
(G)3本の連結部には,いずれにも通孔が形成されていない,
ものである。

(4)イ号意匠の説明
イ号意匠は,甲第2号証のとおり,物品「釣用リール」のスプールが内装され,巻装用ハンドルやドラグレバーが設けられるギアボックスに取り付けられるケーシング部分を備えており,そのケーシング部分の形態は,
基本的構成態様が,
(a)ギアボックスに接続される円形状の右側半部を備え,
(b)その反対に円形状の左側半部を備え,
(c)両半部同士を架橋状に連結する3本の連結部を備える,
ものであり,
具体的構成態様が,
(d)左側半部の径が,右側半分の径よりも小さくなっており,
(e)左側半部の左側面には,その中央から偏心した位置にネジの取付部が設けられており,
(f)左側半部の左側面には,一重円状の線模様が現れ,その一重円状の線模様の周囲に複数の円形状の通孔が二重円状に並べて形成されており,
(g)3本の連結部に,それぞれ通孔が形成されており,正面側及び背面側の連結部の通孔は略ひし形状になっている,
ものである。

(5)本件登録意匠とイ号意匠との比較説明
ア.物品の対比
両意匠に係る物品は,いずれも物品「釣用リール」(以下,「本物品」という)であり,同一の物品である。
イ.部分意匠として意匠登録を受けようとする部分の対比
本件登録意匠の部分意匠として意匠登録を受けようとする部分は,本物品におけるケーシング部分であり,イ号意匠も同一の部分を備えている。
ウ.形態の対比
共通点及び相違点は,以下のとおりである。
i.共通点
本件登録意匠は,基本的構成態様の(A),(B),(C)において,本意匠と共通する。
また,本件登録意匠は,具体的構成態様の(D)において,本意匠と共通する。
ii.差異点
(ア)本件登録意匠は,左側半部の左側面の中央にネジの取付部が設けられているのに対して,イ号意匠は,左側半部の左側面の中央から偏心した位置にネジの取付部が設けられている点。
(イ)本件登録意匠は,左側半部の左側面に一重円状の線模様のみが現れるのに対し,イ号意匠は,左側半部に一重円状の線模様が現れ,かつ,その周囲に複数の円形状の通孔が二重円状に並べて形成されている点。
(ウ)本件登録意匠は,3本の連結部のいずれにも通孔が形成されていないのに対して,イ号意匠は,3本の連結部のいずれにも通孔が形成されており,正面側及び背面側の連結部に略ひし形状の通孔が形成されている点。

(6)イ号意匠が本件登録意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属しない理由の説明
ア.本件登録意匠とイ号意匠との類否の考察
本物品は,釣り具に関するものであり,使用に際しては,甲第18号証に示すように,釣竿に取り付けられた状態で,左手で左側半部を把持すると共に,右手でハンドルを把持する。
従って,本物品に接した需要者は,本物品が趣味性の高い釣り具に属するものであることから,先ず,その態様が自らの趣味(好み)に合っているか否かを確認するため,細部の形態よりも一見して把握できる形態を重要視するものと考えられる。
また,本物品に接した需要者は,使用態様を考慮し,本物品を実際に手に取って確認することが一般的であり,このことから,実際に手に触れる部分,具体的には,左側半部やハンドルの態様も重要視するものと考えられる。
以上を考慮し,本件登録意匠とイ号意匠との共通点及び差異点を比較検討する。

i.共通点の検討
先ず,基本的構成態様の(A),(B),(C)については,平成16年10月6日付意見書第1頁(「甲第4号証」)において被請求人自ら一般的な形態と主張している。
また,甲第5号証及び甲第6号証にも同様の態様の「釣用リール」が開示されている。
これらを考慮すれば,基本的構成態様の(A),(B),(C)については,公知の形態であることから,需要者が本物品を一見して把握できる態様であるものの,類否判断に与える影響が小さいと判断できる。
次に,具体的構成態様の(D)について,被請求人は,前記意見書において,把持性を向上させる機能を発揮させるための態様であり,機能美を備える旨を主張している。
しかし,同様に把持性を向上させることを目的とした発明が記載された甲第7号証及び甲第8号証にも,ケーシング部分の左側半部を右側半部の大きさよりも小さくした態様の「釣用リール」が開示されている。
特に,甲第7号証には,ケーシング部分の円形状の左側半部の径を,円形状の右側半部の径よりも小さくした態様の「釣用リール」が図示されている。
さらに,甲第9号証に示す「釣用リール」は,本件登録意匠に係る意匠登録出願日(2004年2月3日)の22年前である1982年当時に米国で販売されていたものであり,この「釣用リール」においても,ケーシング部分の左側半部を,右側半部の大きさよりも小さくした態様を採用している。
これらを考慮すると,具体的構成態様の(D)は,公知の態様であり,類否判断に与える影響が小さいと判断できる。
そもそも,具体的構成態様の(D)については,両意匠共に,左側半部及び右側半部を注視して初めて気が付く程度にしか径が相違しておらず,需要者が,左側半部及び右側半部を一見して分かる程に径を相違させている訳ではなく,細部の態様における差異と言える。
そして,需要者が,本物品を手に取った際に,左側半部は直接把持するものの,右側半部はハンドルやギアボックスが邪魔になって直接把持することはないから,左側半部と右側半部との径の違いを両手で実感することはなく,このため,需要者が,左側半部と右側半部との径の違いを注視して観察することもない。
よって,具体的構成態様の(D)については,需要者が本物品を一見して把握できない細部の態様における差異であり,かつ,需要者が注視して観察する態様でもないことから,類否判断に与える影響が小さいと判断できる。

ii.差異点の検討
差異点(ア),(イ),(ウ)については,両意匠の表面に現れる形態の差異であり,需要者が本物品を一見して把握できる形態であることから,類否判断に与える影響が大きいと判断できる。
特に,差異点(イ)については,甲第10?12号証に係る意匠と,甲第14?17号証に係る意匠とが,類似しない意匠として意匠登録されていることを考慮すれば,類否判断に与える影響が大きい差異であることは明白である。
また,差異点(イ),(ウ)については,通孔の有無により,本件登録意匠に接した需要者に対し,重量ボディーというイメージを与える一方,イ号意匠に接した需要者に対し,軽量ボディーというイメージを与え,両意匠に対して正反対のイメージを与えると判断できる。
従って,差異点(イ),(ウ)は,需要者が本物品を一見して把握できる形態であり,かつ,本物品の全体的なイメージに影響を与えるものであるから,類否判断に与える影響が大きいと判断できる。

iii.まとめ
以上の判断を前提として両意匠を全体的に考察すると,両意匠の差異点は,いずれも,本物品を一見して把握できる態様における差異であり,類否判断に与える影響が大きく,共通点を凌駕しており,それらが纏まって両意匠の類否判断に及ぼす影響は,その結論を左右するに至るものである。

(7)むすび
従って,イ号意匠は,本件登録意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属しないので,請求の趣旨どおりの判定を求める。

7.証拠方法
甲第1号証:意匠登録第1226935号公報
甲第2号証:イ号意匠の説明(製品写真及び当該写真を補足する3D図面)
甲第3号証:お伺い書
甲第4号証:意匠登録第1226935号公報に係る意匠登録出願の審査時に提出された平成16年10月6日付意見書
甲第5号証:特許庁意匠課公知資料番号第HC12020875号
甲第6号証:意匠登録第1053671号公報
甲第7号証:特開2002-65128号公報
甲第8号証:特開2001-275530号公報
甲第9号証:商品名「PresidentII 1982年モデル」の写真及び説明書(抜粋)
甲第10号証:意匠登録第1009401号公報
甲第11号証:意匠登録第1009401(類似1)号公報
甲第12号証:意匠登録第1009401(類似2)号公報
甲第13号証:意匠登録第954538号公報
甲第14号証:意匠登録第954538(類似1)号公報
甲第15号証:意匠登録第954538(類似2)号公報
甲第16号証:意匠登録第954538(類似3)号公報
甲第17号証:意匠登録第954538(類似4)号公報
甲第18号証:本物品の使用態様を説明する写真

第3 被請求人の答弁
1.答弁の趣旨
イ号意匠及びイ号意匠の説明に示す意匠は,登録第1226935号意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属する,との判定を求め,要旨,以下のとおり主張した。
2.答弁の理由
(1)本件登録意匠の説明
本件登録意匠(意匠登録第1226935号)は,甲第1号証の意匠公報に掲載されているように,意匠に係る物品を「釣用リール」とした部分意匠であり,正面図,背面図,底面図,平面図,左右両側面図,及び斜視図において実線で表された部分を,部分意匠として意匠登録を受けようとする部分として意匠登録を受けたものである。
本件登録意匠に係る出願人でもある被請求人が,本件登録意匠に係る意匠登録出願(以下,単に「本件出願」という場合がある。)と同日に特許庁に提出した特徴記載書には,「本意匠に係る物品は,両軸の釣用リールであって,部分意匠として意匠登録を受ける部分はスプールが内装されるケーシング部分である。該ケーシングは,巻装用ハンドルやドラグレバーが設けられる右側半部とその反対の左側半部と該両半部同志を架橋状に連結する3本の連結部とからなるが,左側半部は,大きさが右側半部よりも小さくなっており,これによって,ギア等の内部機構を収納できるよう右側半部を大きくしたものであっても,左側半部は左手で握りやすい小さなものとなり,ルアー釣りをする場合のように,リールの左側半部を握った手を上下しての竿のポンピング操作が行い易いようにしたことに特徴がある。」と記載されている。当該記載は,本件登録意匠の意匠公報(甲第1号証)の「意匠の特徴」に記載されている。
本件登録意匠の構成態様は,以下のとおりである。
スプールが内装され,巻装用ハンドルやドラグレバーが設けられるギアボックスに取り付けられるケーシング部分の形態であって,
基本的構成態様において,
(ア)右端側がギアボックスに接続される,扁平円柱形状の右側半部を備え,
(イ)右側半部に対向して配される,扁平円柱形状の左側半部を備え,
(ウ)両半部を架橋状に連結する連結部を,正面,背面,底面側にそれぞれ設けたものとする一方,上面側には連結部を設けず,
(エ)右側半部と左側半部を同軸心上に配し,
(オ)両半部の対向面には,スプールを内嵌するための,側面視で両半部と同軸心で互いに同径の円形状に凹んだスプール取付部を設けたものとし,
具体的構成態様において,
(カ)左側半部の直径は,右側半部の直径より小径なものとし,
(カ-1)左側半部の直径は,右側半部の直径の約93%とし,
(キ)両半部の対向面におけるスプール取付部を除いた肉厚部分の厚さは,右側半部のものが左側半部のものの約1.6倍程度とし,
(ク)右側半部と左側半部とは,右側半部の半径と同程度の距離で離間して対向したものとし,
(ケ-1)左側半部の左側面は,ドーム状に膨らんだ形状とし,
(ケ-2)左側半部の左側面は,その中央部に円形の蓋部を設けたものとし,
(ケ-3)左側半部の左側面は,蓋部の外周に一重の円模様を現したものとし,
(ケ-4)左側半部の左側面には,通孔は形成されておらず,
(コ)正面側及び背面側の連結部は,いずれも両半部の軸心よりもわずかに下方に設けたものとし,
(サ)3本の連結部には,いずれにも通孔を形成しておらず,
(シ-1)3本の連結部は,右側半部の対向面外周部から殆ど段差なく左側半部側に延出し,
(シ-2)3本の連結部は,左側半部側に偏倚した部位で小径となって左側半部に至るものである。

(2)イ号意匠の説明
甲第2号証の製品写真及び3D図面に基づき特定されるイ号意匠の構成態様は,以下のとおりである。
スプールが内装され,巻装用ハンドルやドラグレバーが設けられるギアボックスに取り付けられるケーシング部分の形態であって,
基本的構成態様において,
(ア)右端側がギアボックスに接続される,扁平円柱形状の右側半部を備え,
(イ)右側半部に対向して配される,扁平円柱形状の左側半部を備え,
(ウ)両半部を架橋状に連結する連結部を,正面,背面,底面側にそれぞれ設けたものとする一方,上面側には連結部を設けず,
(エ)右側半部と左側半部を同軸心上に配し,
(オ)両半部の対向面には,スプールを内嵌するための,側面視で両半部と同軸心で互いに同径の円形状に凹んだスプール取付部を設けたものとし,
具体的構成態様において,
(カ)左側半部の直径は,右側半部の直径より小径なものとし,
(カ-1)左側半部の直径は,右側半部の直径の約94%とし,
(キ)両半部の対向面におけるスプール取付部を除いた肉厚部分の厚さは,右側半部のものが左側半部のものの約1.6倍程度とし,
(ク)右側半部と左側半部とは,右側半部の半径と同程度の距離で離間して対向したものとし,
(ケ-1)左側半部の左側面は,ドーム状に膨らんだ形状とし,
(ケ-2)左側半部の左側面は,その正面側にフィッシュアラーム動作用の小径な略楕円形状の凹部を形成し,
(ケ-3)左側半部の左側面は,中央部に一重の円模様を現したものとし,
(ケ-4)左側半部の左側面は,円模様の周囲に複数の円形状の通孔を二重円状に並べて形成したものとし,
(コ)正面側及び背面側の連結部は,いずれも両半部の軸心よりもわずかに下方に設けたものとし,
(サ)3本の連結部には,それぞれ通孔を形成し,
(サ-1)正面側及び背面側の連結部の通孔は,2つの対称な略ひし形状の通孔が連続したものとし,
(サ-2)底面側の連結部の通孔は,2つの対称な楕円形状の通孔が連続したものとし,
(シ-1)3本の連結部は,右側半部の対向面外周部から殆ど段差なく左側半部側に延出し,
(シ-2)3本の連結部は,左側半部側に偏倚した部位で小径となって左側半部に至るものである。

(3)本件登録意匠とイ号意匠の対比
ア. 両意匠の意匠に係る物品
本件登録意匠とイ号意匠(以下,「両意匠」という。)を対比すると,意匠に係る物品については,共に「釣用リール」である。
イ. 両意匠の共通点
両意匠は,スプールが内装され,巻装用ハンドルやドラグレバーが設けられるギアボックスに取り付けられるケーシング部分の形態である。本件登録意匠は部分意匠であるところ,意匠登録を受けようとする部分として登録を受けた部分の物品全体における位置・大きさ・範囲はイ号意匠と同一である。
そして,両意匠の形態については,主として以下の共通点が認められる。
基本的構成態様において,
(A)(ア)右端側かギアボックスに接続される扁平円柱形状の右側半部を備え,(イ)右側半部に対向して配される,扁平円柱形状の左側半部を備えている点。
(B)(ウ)両半部を架橋状に連結する連結部を,正面,背面,底面側にそれぞれ設けたものとする一方,上面側には連結部を設けず,(エ)右側半部と左側半部を同軸心上に配し,(オ)両半部の対向面には,スプールを内嵌するための,側面視で両半部と同軸心で互いに同径の円形状に凹んだスプール取付部を設けたものとした点。
具体的態様において,
(C)(力)左側半部の直径は,右側半部の直径より小径なものとした点。
(D)(キ)両半部の対向面におけるスプール取付部を除いた肉厚部分の厚さは,右側半部のものを左側半部のものの約1.6倍程度とした点。
(E)(ク)右側半部と左側半部を,右側半部の半径と同程度の距離で離間して対向したものとした点。
(F)(ケ-1)左側半部の左側面を,ドーム状に膨らんだ形状とした点。
(G)(ケ-3)左側半部の左側面に一重の円模様を現した点。
(H)(コ)正面側及び背面側の連結部を,いずれも両半部の軸心よりもわずかに下方に設けた点。
(I)(シ-1)3本の連結部は,右側半部の対向面外周部から殆ど段差なく左側半部側に延出し,(シ-2)左側半部側に偏倚した部位で小径となって左側半部に至る点。
ウ. 両意匠の相違点
両意匠の形態については,主として以下の相違点が認められる。
(a)左側半部の直径につき,(力-1)本件登録意匠は右側半部の直径の約93%であるのに対して,イ号意匠は右側半部の直径の約94%である点。
(b)左側半部の左側面につき,(ケ-2)本件登録意匠は中央部に円形の蓋部を設けているのに対して,イ号意匠は正面側にフィッシュアラーム動作用の小径な略楕円形状の凹部を形成している点。
(c)左側半部の左側面に現した円模様につき,(ケ-3)本件登録意匠は,蓋部の外周に現されているのに対して,イ号意匠では中央部に現されている点。
(d)左側半部の左側面の通孔につき,(ケ-4)本件登録意匠には形成されていないのに対して,イ号意匠では円模様の周囲に複数の円形状の通孔を二重円状に並べて形成している点。
(e)3本の連結部の通孔につき,(シ)本件登録意匠は,通孔が形成されていないのに対して,イ号意匠では,(シ-1)正面側及び背面側の連結部には,2つの対称な略ひし形状の通孔が連続して形成されており,(シ-2)底面側の連通部には,2つの対称な楕円形状の通孔が形成されている点。
エ. 需要者の認定
本件登録意匠及びイ号意匠に係る物品は「釣用リール」である。そして,類否判断における需要者の認定においては,当該リールがどのような釣用リールであるかを勘案する必要がある。請求人が主張するように,釣用リールが属する釣り具は趣味性が高いものであることは認める。しかし,趣味性が高いということは,必ずしも一見して把握できる形態を重要視することにはならない。むしろ,趣味性が高い分野ほど,上級者になれば細部にも注意を払って吟味して購入することが通常である。
本件登録意匠とイ号意匠に係る釣用リールは,上級者・プロ用の釣用リールである。このことは,上記した基本的構成態様の共通性から説明することができる。すなわち,共通点(A),(B)から明らかなように,いずれもスプールの両端部がケーシング内に内装される両軸リールであって,レベルワインダーが設けられていないタイプのものである。
このように,レベルワインダーが設けられていない両軸リールは,初心者を購入対象として殆ど想定しておらず,主として上級者・プロを対象としたものである。
また,イ号物件は,請求人による雑誌広告である乙第10号証(ソルトワード2017年2月号16頁)に掲載された「RAGE/レイジ」というモデルであり,当該広告によれば,イ号物件は消費税別で6万5000円で販売されている。一般的なベイトリールは,入門・初級者向けのモデルで1万?2万円程度,中級者向けで3?5万円程度であることから,イ号物件は,その価格設定からしても,釣り上級者に向けられて販売されていることは明らかである。
以上のように,本件登録意匠及びイ号意匠に係る釣用リールの需要者は,釣りの上級者・プロや,これらの者に対して釣り具を販売する小売店等であり,いずれも釣りやその道具について高い見識を有し,釣用リールの外観に基づき,操作性や機能性,耐久性等の性能を把握することができる。
オ. 本件登録意匠の要部の認定
本件登録意匠の要部は,(ア)及び(イ)の構成態様を有する釣用リールにおいて,(ウ)?(カ),(サ-1)及び(サ-2)の構成態様を備えている点である。基本的構成態様のうち,(ア),(イ)については,釣用リールのうち,両軸リールのケーシングの一般的な態様である。そして,(ウ)?(オ)は,例えば甲第5?6号証に係る意匠のように,レベルワインダーが設けられていないタイプのベイトリールにおける一般的な態様である。そして,(カ)については,それ単独の態様として着目すれば,請求人が主張するように,確かに甲第7?9号証により公知となった意匠が備える態様ではある。しかしながら,(ウ)?(オ)の態様を有するタイプの釣用リールにおいて,(カ)の態様を備えるものは,本件出願前に存在していない。
甲第7?9号証に係る意匠は,上述したように,いずれもレベルワインダーが設けられたタイプのベイトリールである。そして,両半部が円柱形状である甲第7号証の図1,2において,レベルワインダーが左側半部の内径内に収まるよう配されていることが一見して明らかであり,その結果として,スプールの軸は,両半部の軸心に対して後方に偏心している。また,両半部同士も,左側半部が右側半部に対して上方後方に偏心している。
他方,本件登録意匠では,レベルワインダーを設けていないため,両半部とスプール軸とが偏心することなく,同軸心上に配されており,しかも左側半部が右側半部より小径となることによって,需要者にとって,全体としてケーシング部分が同軸心上で均整の取れたすっきりとした形状でありながら,左手によるパーミングの操作性もよいという機能性を感じさせる美感をも生じさせている。かかる美感は,周辺意匠として提示されたいかなる意匠からも感得しえないものである。
さらに,甲第7?9号証に係る意匠では,両半部を連結する連結部が,何れも小径の左側半部の径でスプール軸に略平行に延出している。需要者の認定において説明したように,レベルワインダーが設けられていない両軸リールにおいて釣糸を巻き取る場合,釣り人は,釣糸が同じ位置に重なって山盛りに巻き取られないよう,リールを把持する手の親指で釣糸を左右に振りながら巻き取ることになる。そうした場合に,この山盛り部が連結部に当接すると,釣糸の巻取りができなくなってしまい,これによって魚をバラしてしまうことがある。
釣りの上級者はこのようなことを熟知しており,(サ-1),(サ-2)の構成態様から,左側半部が把持しやすい小径なものであっても,釣糸が山盛り状態に巻かれたときに,山盛り部の連結部への当接が少しでも遅くなるよう対応できるものであることに想到することができる。そして,連結部が,小径な左側半部ではなく大径な右側半部のリールの径に準じたものであるから,スプールから連結部までのストローク(周方向の長さ)が長く,このような対応ができるものとして着目し,購買意欲が喚起されることになる。
このように,本件登録意匠は上記の(ウ)?(カ)によって全体としてケーシング部分が同軸心上で均整の取れたすっきりとした形状でありながら,左手によるパーミングの操作性もよいという機能性を感じさせる美感を生ずるとともに,(サ-1),(サ-2)によって,左側半部が小径なコンパクトなものでありながら,偏巻状態への対応も配慮されたものであるという印象を需要者に与える。
以上より,本件登録意匠の要部は,両軸リールにおいて,(ウ)?(カ),(サ-1),(サ-2)の構成態様を備えた点である。
カ.両意匠の共通点・相違点の評価
<共通点について>
まず,共通点(A),(B)のとおり,本件登録意匠とイ号意匠は,その基本的構成態様において共通するが,これらの構成態様自体は,甲第5,6号証に係る意匠にも認められるように,本件出願前から公知の態様であり,レベルワインダーが設けられていない両軸リールの基本的な構成態様であるといえる。
そして,これに加えて,両意匠には共通点(C)が認められる。要部認定において説明した通り,共通点(C)のみに着目すると,確かに甲第7?9号証により本件出願前に公知となった態様ということもできる。しかしながら,甲第7?9号証に係る意匠は,いずれもレベルワインダーの存在により,スプールの軸心が両半部の軸心よりも後方に偏心しており,しかも,両半部自体も軸心がずれている。甲第8,9号証に係るものについて付言すれば,両半部が円形状ではなく扁平形状となっている(この点は,請求人も,判定請求書7頁においてそれぞれの記載を書き分けていることから,認識しているものと理解される。)。
これに対して,両意匠は,上記共通点(A)?(C)を備えることにより,両半部とスプール軸とが偏心することなく,同軸心上に配されており,しかも左側半部が右側半部より小径となることによって,需要者にとって,全体としてケーシング部分が同軸心上で均整の取れたすっきりとした形状でありながら,左手によるパーミングの操作性もよいという機能性を感じさせる美感をも生じさせている。このような構成態様を有する公知意匠は本件出願前において存在しないものであって,かかる構成態様は前述のとおり本件登録意匠の要部を構成するものであるから,これらの共通点は,全体として類否判断に与える影響が極めて大きいものである。
また,共通点(D)については,需要者が両意匠を観察するに際して,一見して両半部の対向面のスプール外周の肉厚部の厚さに相違があることを知らしめるものである。需要者は,両軸リールを手に取って観察する場合,ハンドルを回転させてスプールの回転を確かめるのが通常である。その際に,一見して両半部の厚みが異なっていることに気づく程度にその厚みの比率が異なっていることは,乙第13号証の1?2頁の写真からも明らかである。しかも,その割合が両意匠で同程度であることから,共通点(D)は,共通点(B)及び(C)による美感と相俟って,類否判断に与える影響が大きいものである。
さらに,共通点(I)につき,両半部の径が異なる両軸リールとして請求人が示した3つの意匠(甲第7?9号証)は,いずれも連結部が小径な左側半部の径内に収まるものであるのに対し,両意匠は大径な右側半部の径を基本としたものとなっている。かかる態様は,需要者に対して,要部認定において説明したとおり,左側半部が把持しやすい小径なものであっても,釣糸が山盛り状態に巻かれたときに,山盛り部の連結部への当接が少しでも遅くなるよう対応できるものであるという印象を与えることとなる。よって,共通点(I)は,両半部を異径とした共通点(C)と相俟って,従来にない共通の印象を需要者に与えることとなるため,類否判断に与える影響が大きいものである。
共通点(E)は,両意匠の基本的な骨格の共通性を示すものである。
共通点(F),(G)は,左側半部の左側面の態様であり,後述するように当該部分は,本件登録意匠の要部の共通性からすれば,類否判断に与える影響が低い部分ではあるものの,両意匠は左側面においても一定の形態の共通性を有しており,両意匠の美感が共通するものと需要者が認識するものである。
共通点(H)については,このような態様とすること自体はありふれたものであるが,他の共通点と相俟って,需要者に両意匠の美感の共通性を想起させるものである。

<相違点について>
相違点(a)については,具体的な数値上の差異であり,微差に過ぎない。具体的な数値は,両意匠の特定として,具体的にどの程度左側半部が小径になっているかを説明するためのものであり,むしろ共通点として認定してもよい程度のものである。左側半部の径が小径となっていることが,需要者にとって容易に看取可能であることの理由は,共通点(D)についての評価において説明したとおりである。よって,相違点(a)は,その数値の差が類否判断に与える影響は極めて小さいものである。
相違点(b)?(d)は,左側半部の左側面の形態についての相違である。請求人は,これらの相違が「一見して把握できる形態であることから,類否判断に与える影響が大きい」旨を主張するが,失当である。まず,需要者が一見把握性のある箇所を重要視するものではないことは,需要者の認定において説明したとおりである。そして,イ号意匠における左側半部の左側面の形態は,取り立てて斬新なものではなく,需要者の注意をひくものではないことを,以下に説明する。
まず,相違点(b)に係る本件登録意匠,イ号意匠の態様につき,請求人は「ネジの取付部」として特定しているが,本件登録意匠の当該部分は左側半部内のベアリング機構を覆塞するための蓋部であり,イ号物件における当該部分は,フィッシュアラーム用の凹部である。フィッシュアラームを設け,その動作用の凹部を設けた両軸リールは,乙第1?4号証に係る釣用リールに例示されるように,本件出願前から公知であり,格別需要者の注意をひくものではない。特にジギング釣りにおいては,通常釣竿を固定せず,常にリールを巻き操作しながら釣竿をポンピング操作するため,魚がかかったときのアタリをすぐに感知できることから,ジギング用の両軸リールにおいては,フィッシュアラームの存在は重要視されない。また,本件登録意匠の蓋部によって現れる円形状も,乙第9号証にも見られるように,特段新規な態様ではない。よって,相違点(b)に係る両意匠の態様はいずれも需要者の注意をひくものではなく,類否判断に与える影響は小さい。
次に,相違点(c),(d)について検討する。請求人も主張するように,確かに,甲第10?12号証と甲第14?17号証は,左側半部の左側面の通孔の有無で相違しているといえる。しかし,これら意匠公報及び甲第13号証の意匠公報の発行により,これら意匠はいずれも本件登録意匠の出願前において既に公知となっており,翻って,左側半部の左側面に,複数の円形状の通孔を円状に並べて形成することは,本件登録意匠に係る出願時において既に斬新な態様ではなくなったものであるといえる。実際に,左側半部に通孔を設けたものが,当該意匠公報の意匠権者の製品として,本件出願前に発行された当該意匠権者のカタログに記載されている(乙第5号証:株式会社シマノのカタログ)。そして,当該意匠権者による当該製品の販売により,かかる態様は本件登録意匠に係る出願時において周知の形状となっている。また,乙第6号証に係る意匠は,片軸リールに近い態様の両軸リールであるが,左側半部の左側面に円形状の通孔が円状に並べて形成されている。片軸リールにおいては,このような態様は極めてありふれたものである。また,本件出願後においては,両軸リールの左側半部に円形状の通孔を円状に並べて設けたものとして,乙第11号証のものが挙げられる。また,円形状の凹部を円状に並べて設けたものとして,乙第12号証のものが挙げられる。このように,左半部の左側面に円形状の通孔を円状に並べた態様は,両軸リールにおいて,もはやありふれた態様である。加えて,円状に並べた通孔の内周に円模様を現したとしても,公知意匠と異なるほどの美感を与えるものでもない。むしろ,三重円状に並べた甲第13号証の態様に近いものともいえる。これらに基づけば,両意匠の相違点(c),(d)に係る態様は,いずれも斬新なものではなく,ありふれた態様ということができるから,需要者の注目をひくものではなく,類否判断に及ぼす影響が小さいといえる。
(b)?(d)に関し,左側半部の左側面について付言すると,物品の使用態様からも,当該部分の重要度は低いものであるといえる。両意匠のようなジギング用の両軸リールは,一般的には,左手の親指の先端部を右側半部の外周に,付け根部分を左側半部の外周にかけて,手のひらで左側半部を包み込むように把持するものである(乙第13号証の写真3?4頁参照)。そうすると,左側半部の左側面は左手に覆われてしまうため,需要者の関心が相対的に低くなる。両軸リールのカタログでは左側半部の左側面側を掲載することは少なく,実際に請求人によるイ号物件の雑誌広告(乙第10号証)においても,左側半部の左側面が現れているものは,5つのリールのうちイ号物件とは異なる左上のリール1つのみであり,請求人ですら当該部分を重要視していないことが窺える(なお,両軸リールには左ハンドルのものもあり,その場合には左右が入れ替わることとなる。)。この点からも,需要者が釣用リールにおいて左側半部の左側面を重要視していないことが推認される。したがって,相違点 (b)?(d)は,共通点によって生じる新規な美感の共通性を凌駕するものではなく,類否判断に与える影響は小さいものである。
相違点(e)につき,連結部に通孔を設けた両軸リールは,甲第13?17号証や,乙第7,8号証において開示されており,通孔を設けた形態は何ら新しいものではない。そして,その具体的な形態をひし形としたとしても,本件登録意匠の要部の共通性と比して,需要者の注目度は小さい。特に,スプールに釣糸を巻装した場合,背面側の連結部は視認されないし,上述のようにリールを左手で把持すると,左手親指によって正面側の連結部も隠れてしまうため,需要者は連結部の通孔についてあまり注意を払わない。以上より,相違点(e)については,類否判断に与える影響か小さいものである。

ク.類否判断
以上の通り,イ号意匠は,本件出願前の公知意匠には見られない美感を与える,本件登録意匠の要部を有するものと認められ,両意匠の共通点が類否判断に及ぼす影響は大きい。他方,その他の相違点は,微細なものであるか,ありふれた態様であって,需要者の注意を強く喚起させるものではなく,共通点に埋没する程度のものである。したがって,イ号意匠は本件登録意匠に少なくとも類似することは明らかである。

3.結語
以上より,イ号意匠は,本件登録意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属するものであるから,答弁の趣旨のとおりの判定を求める。

4.証拠方法
乙第1号証:意匠登録第590435号公報の写し
乙第2号証:意匠登録第590435の類似1号公報の写し
乙第3号証:意匠登録第568538号公報の写し
乙第4号証:意匠登録第568538の類似3号公報の写し
乙第5号証:株式会社シマノ 製品カタログ(2000年)の写し(抜粋)
乙第6号証:意匠登録第1006590号公報の写し
乙第7号証:意匠登録第1090115号公報の写し
乙第8号証:リョービ株式会社 製品カタログ(1999年)の写し
乙第9号証:意匠登録第964538号公報の写し
乙第10号証:株式会社えい(木へんに世)出版社「ソルトワールド」 Vol.122,平成29年1月14日,第4巻,第1号
乙第11号証:被請求人代理人が出力した「AMAZON/ダイワ リール ベイヤード 150」
乙第12号証:被請求人代理人が出力した「AMAZON/AOTSURI(アオツリ)両軸リール」
乙第13号証:被請求人代理人が撮影した写真「イ号物件のカラーバリエーション」

第4 当審の判断
1.本件登録意匠
本件登録意匠(意匠登録第1226935号)は,その願書及び願書に添付した図面によれば,意匠に係る物品を「釣用リール」とし,その形状,模様若しくは色彩又はこれらの結合(以下「形態」という。)は,願書の記載及び願書に添付した図面に表されたとおりとしたもので,「実線で表された部分が,部分意匠として意匠登録を受けようとする部分である。」としたものである(請求人が提出した甲第1号証(別紙第1)参照)。
すなわち,部分意匠として意匠登録を受けようとする部分は,「釣用リール」のスプールが内装され,巻装用ハンドルやドラグレバーが設けられるギアボックスに取り付けられるケーシング部分である(以下,本件登録意匠の意匠登録を受けようとする部分を「本件部分」という。)。

(1)本件部分の形態
ア.基本構成は,正面視して,左側端部(以下「左半部」という。)を,扁平な有底円筒状,右側端部(以下「右半部」という。)を,扁平な円筒状とし,左半部と右半部(以下「両半部」という。)を正面,底面及び背面の3か所で帯状の連結部によって同軸心上に連結したものである。
イ.具体的構成態様は,
(a)左半部は,
(a-1)右半部よりやや小径な扁平ドーム状で,径は右半部の約93%である。
(a-2)左側面視において,中央に左半部の直径の約5分の2の円形部分を有し,その外周に円模様が表れ,表面に孔部は形成されていない。
(b)右半部は,
(b-1)正面視及び背面視において,左半部の幅の約3分の1の扁平円筒状で,上端のケーシング外周縁から,破線で表されたスプール端縁までのケーシングの厚みは,左半部の約1.6倍である。
(c)連結部は,
(c-1)左半部の幅の約3倍の差し渡しに対して,正面及び背面の2か所は,幅が差し渡しの約2分の1弱の帯状をなし,両半部の軸心に対してやや下方にU字状に湾曲して設けられ,両端部は弧状に拡幅して両半部と一体的に形成されている。また,平面視して,差し渡しの中央付近が膨出してアーチ状に両半部に連続しており,表面には孔部を有さない。
(c-2)底面は,差し渡しに対してほぼ同幅の帯状をなし,両半部の中央に設けられ,両端部は弧状に拡幅して両半部と一体的に形成されている。また,正面視して,差し渡しの中央付近が膨出してアーチ状に両半部に連続しており,平面視して4か所に螺子用の小円孔が認められる。

2.イ号意匠
イ号意匠は,判定請求書と同時に提出された甲第2号証(別紙第2参照)で示されたものであって,意匠に係る物品は「釣用リール」であると認められ,その形態は,甲第2号証において,「イ号意匠の説明」として,「1.製品写真」の写しにより現されたとおりのものである。なお,補足資料として「2.補足3D図面」が添付されている。
また,本件部分と対比され,類否判断の対象となるイ号意匠の部分は,イ号意匠における本件部分に相当する部分(以下「イ号部分」という。)であり,イ号部分の形態は,請求人が提出したイ号意匠の写真に現されたとおりのものである。

(1)イ号部分の形態
ア.基本構成は,正面視して,左半部を,扁平な有底円筒状,右半部を,扁平な円筒状とし,両半部を正面,底面及び背面の3か所で帯状の連結部によって同軸心上に連結したものである。
イ.具体的構成態様は,
(a)左半部は,
(a-1)右半部よりやや小径な扁平ドーム状で,径は右半部の約93%である。なお,被請求人は判定請求答弁書において,左半部の径を右半部の約94%としているが,写真からは1%の違いを正確に実測することは困難であるため,合議体では,本件意匠と同程度の約93%と認定した。
(a-2)左側面視して中央に左半部の直径の約2分の1の円形模様を有し,その右方に,長径を円形模様の約2分の1とするやや横長な長円形の凹部が,円模様と一部が重なるように形成され,該凹部の右端寄りに二重円に現れる部材を設けている。また,中央の円形模様の外周には2重円状に並んだ小円孔が,外側が内側より径を大きくして形成されており,右側の長円形凹部の上下2個については孔部ではなく凹部となっている。
(b)右半部は,
(b-1)正面視及び背面視において,左半部の幅の約3分の1の扁平円筒状で,上端に表れるスプール端縁からケーシング外周縁までの厚みは左半部の約1.6倍である。
(c)連結部は,
(c-1)左半部の幅の約1.5倍の差し渡しに対して,正面及び背面の2か所は,中央部の幅が差し渡しの約3分の1弱で上下辺は円弧状で端部が拡幅した帯状をなし,両半部の軸心に対してやや下方に両半部と一体的に形成されている。また,平面視して,左半部の基端部が外方に湾曲し右半部と面一な水平面で右半部に連続し,表面には略菱形状の孔部が2つ形成されている。
(c-2)底面は,差し渡しに対して,中央部がほぼ同幅で上下辺は円弧状で端部が拡幅した帯状をなし,両半部下端の中央に両半部と一体的に形成されている。また,正面視して,左半部の基端部が外方に湾曲し右半部と面一な水平面で右半部に連続し,平面視して竿の取付具の両側に及ぶ孔部を有するものと推認される。

3.本件登録意匠とイ号意匠の対比
(1)両意匠の意匠に係る物品
本件登録意匠とイ号意匠(以下「両意匠」という。)を対比すると,意匠に係る物品については,共に「釣用リール」である。

(2)本件部分とイ号部分の用途及び機能,並びに位置,大きさ及び範囲
本件部分とイ号部分(以下「両部分」という。)は,「釣用リール」のスプールが内装され,巻装用ハンドルやドラグレバーが設けられるギアボックスに取り付けられるケーシング部分であり,両部分の用途及び機能,並びに位置,大きさ及び範囲は共通する。

(3)両部分の形態
両部分の形態を対比すると,以下の共通点と相違点がある。
ア 共通点
基本構成について,
(ア)正面視して,左半部を扁平な有底円筒状,右半部を扁平な円筒状として,両半部を正面,底面及び背面の3か所で帯状の連結部によって同軸心上に連結した点。
具体的構成態様について,
(イ)左半部を,右半部よりやや小径の扁平ドーム状とし,径を右半部の約93%とした点。
(ウ)右半部を,正面視及び背面視において,左半部の幅の約3分の1の扁平円筒状で,上端に表れるスプール端縁からケーシング外周縁までの厚みを左半部の約1.6倍とした点。
(エ-1)連結部を,正面及び背面の2か所は,両半部の軸心に対してやや下方に,両半部と一体的に形成した点。
(エ-2)底面の連結部を,差し渡しとほぼ同幅として,中央に両半部と一体的に形成した点。
イ 相違点
具体的構成態様について,
(a)左半部につき,
(a-1)本件部分は,左側面視において中央に左半部の直径の約5分の2の円形部分と,外周縁よりやや小径の円模様を有し,イ号部分は,左側面視して中央に左半部の直径の約2分の1の円形模様を有し,その右方に,長径を円形模様の約2分の1とするやや横長な長円形の凹部が,円模様と一部が重なるように形成され,該凹部の右端寄りに二重円に現れる部材を設けている点。
(a-2)また,本件部分は,表面に孔部は形成されていないのに対して,イ号部分は,中央の円形模様の外周には2重円状に並んだ小円孔が,外側が内側より径を大きくして形成されているが,右側の長円形凹部の上下に位置する各々2個の小円については孔部ではなく凹部となっている点。
(b)連結部につき,
(b-1)正面及び背面の2か所は,本件部分が,左半部の幅の約3倍の差し渡しに対して,幅が差し渡しの約2分の1弱で,U字状をなし,両端部が弧状に拡幅した帯状であるのに対して,イ号部分は,左半部の幅の約1.5倍の差し渡しに対して,中央部の幅が差し渡しの約3分の1弱で上下辺が円弧状で端部が拡幅した帯状である点。
(b-2)正面及び背面の2か所は,平面視して,差し渡しの中央付近が膨出して両半部にアーチ状に連続しているのに対して,イ号部分は,左半部の基端部が外方に湾曲し右半部と面一な水平面で右半部に連続している点。
(b-3)正面及び背面の2か所は,本件部分は,表面には孔部を有さないのに対して,イ号部分は,表面に略菱形状の孔部が2つ形成されている点。
(b-4)また,底面の連結部は,本件部分が,両端部を弧状に拡幅した帯状で,平面視して4か所に螺子用の小円孔が認められ,正面視して差し渡しの中央付近が膨出してアーチ状に両半部に連続しているのに対して,イ号部分は,上下辺が円弧状で端部が拡幅した帯状で,平面視して竿の取付具の両側に及ぶ孔部を有するものと推認され,正面視して左半部の基端部が外方に湾曲し右半部と面一な水平面で右半部に連続している点。

4.類否判断
イ号意匠が本件登録意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属するか否かについて,すなわち,両意匠が類似するか否かについて,検討する。
(1)両意匠の意匠に係る物品
両意匠の意匠に係る物品は,共に「釣用リール」であって,一致している。

(2)両部分の用途及び機能,並びに位置,大きさ及び範囲
両部分は,用途及び機能が共通し,物品全体の中における位置,大きさ及び範囲が一致している。

(3)両部分の形態
ア.共通点の評価
共通点(ア)の基本構成については,本件登録意匠の出願前に,この種物品分野においては既に見られる態様(甲第6号証で示す先行意匠:意匠登録第1053671号(別紙第3参照))であって,両意匠のみの特徴とはいえないものであるから,部分全体の美感に与える影響は小さい。
共通点(イ)の左半部の径が右半部の約93%である点は,両半部の径が相違する態様については本件登録意匠の出願前に見られるものの,両半部の径の割合が本件登録意匠と近似し,かつ,両半部が同軸心上に構成された態様のものは見受けられず,本物品が趣味性の高い釣り具に関するものであることを考慮すれば,径の違いは,共通点(ウ)のスプール端縁からケーシング外周縁までの厚みの共通点と相まって,使用時に需要者が注目する部位ということができ,共通点(イ)及び(ウ)が相まった態様は,部分全体の美感に一定の影響を及ぼすものである。
共通点(エ-1)及び(エ-2)の連結部の態様については,3か所の連結部の位置を概括的に捉えた共通点であって,部分全体の美感に与える影響は小さい。
イ.相違点の評価
相違点(a-1)及び(a-2)は,左半部の態様についての相違であって,需要者から観察されやすい外観上の特徴となりやすい部位の相違であるから,小円孔の有無や円形模様の態様は,部分全体の美感に与える影響が極めて大きいといえる。
なお,被請求人は,小円孔を設けることや,長円形の凹部に二重円状に現れる部位(被請求人が「フィッシュアラーム」とする部位。)についても,この種物品において既に見られる態様であることを主張したが,その具体的な態様については様々な選択肢があるものと考えられ,イ号部分の孔部と凹部からなる小円と長円形凹部及び二重円の部位の配置構成がありふれた態様とまでいうことはできない。
相違点(b-1)ないし(b-4)の連結部については,まず,(b-1)の両半部間の差し渡しの比率の相違は両半部間の構成比率に影響するものであって,部分全体の美感に影響を与えるものであり,また,正面及び背面の連結部は,本件部分がイ号部分に比べて太く,U字状をなす点や,(b-2)の平面視した際の湾曲の態様が相違する点,及び(b-3)の孔部の有無が相違する点は,いずれも連結部の視覚的印象に影響を及ぼすものであって,正面及び背面の比較的目に付きやすい部位の態様の相違であることから,部分全体の美感に影響を与えるものである。(b-4)の相違については,使用時には竿に隠れて目に付きにくい底面の態様の相違であることから,部分全体の美感に与える影響は小さい。

5.小括
上記のとおり,両意匠は,意匠に係る物品が一致し,両部分の用途及び,機能,並びに位置,大きさ及び範囲が共通するものであり,両部分の形態については,共通点が両意匠の類否判断に及ぼす影響は,左右半部の具体的な構成比率及び部材の厚みにおいて一定程度認められるものであるとしても,相違点が相まって生じる視覚的効果が,共通点のそれを凌駕して,類否判断に大きな影響を及ぼしており,意匠全体として需要者に与える美感が異なるものであるから,本件意匠とイ号意匠は類似しないものと認められる。

第5 むすび
以上のとおりであって,イ号意匠は,本件登録意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属しない。

よって,結論のとおり判定する。
別掲
判定日 2018-05-14 
出願番号 意願2004-2614(D2004-2614) 
審決分類 D 1 2・ 1- ZA (K2)
最終処分 成立 
前審関与審査官 井上 和之 
特許庁審判長 木本 直美
特許庁審判官 宮田 莊平
温品 博康
登録日 2004-11-19 
登録番号 意匠登録第1226935号(D1226935) 
代理人 廣瀬 郁夫 
代理人 上村 喜永 
代理人 鈴木 佑子 
代理人 廣瀬 哲夫 
代理人 齊藤 真大 
代理人 西村 竜平 
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