• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判    B5
管理番号 1344905 
審判番号 無効2017-880011
総通号数 227 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 意匠審決公報 
発行日 2018-11-30 
種別 無効の審決 
審判請求日 2017-11-24 
確定日 2018-09-25 
意匠に係る物品 靴 
事件の表示 上記当事者間の意匠登録第1582576号「靴」の意匠登録無効審判事件について,次のとおり審決する。 
結論 意匠登録第1582576号の登録を無効とする。 審判費用は被請求人の負担とする。
理由 第1 手続の経緯
本件登録意匠,すなわち,意匠登録第1582576号の意匠(別紙第1参照)は,平成28年(2016年)10月20日に意匠登録出願(意願2016-22891)されたものであって,審査を経て平成29年(2017年)7月7日に意匠権の設定の登録がなされ,同年7月31日に意匠公報が発行され,その後,当審において,概要以下の手続を経たものである。

平成29年11月24日 :審判請求書提出
平成30年 1月23日 :審判事件答弁書提出
平成30年 3月15日付け:審理事項通知書
平成30年 3月28日 :口頭審理陳述要領書提出(請求人)
平成30年 4月11日 :口頭審理陳述要領書提出(被請求人)
平成30年 4月25日 :口頭審理
平成30年 5月21日付け:無効理由通知書(被請求人に対して)
職権審理結果通知書(請求人に対して)

第2 請求人の申し立て及び理由
請求人は,「登録第1582576号意匠の登録を無効とする。審判費用は被請求人の負担とする,との審決を求める。」と申し立て,その理由として,概要以下のとおり主張し(「口頭審理陳述要領書」の内容を含む。),その主張事実を立証するため,後記3に掲げた甲第1号証ないし甲第6号証を提出した。

1 請求の理由
(1)意匠登録無効の理由の要点
本件登録意匠は,甲第3号証ないし甲第6号証の意匠と類似するものであるから,意匠法第3条第1項3号の規定により意匠登録を受けることができないものである。よって,意匠法第48条第1項第1号により,無効とすべきである。

(2)本件意匠登録を無効とすべき理由
ア 本件登録意匠の説明
本件登録意匠に係る物品は,甲第2号証登録公報に掲載のとおり,「靴」(短靴)であって,ソール部を除いたアッパー部について,部分意匠として意匠登録されたものである。
甲部は紐で緊締するタイプの短靴で,タン,アイレットが,一般的な短靴と同様に設けられており,前記左右両アイレットの外側には,ライン模様が配されている。また,アッパー側面は,縫い目を活用して凹凸を形成したキルティングタイプのものとなっており,前記凹凸は,三角形ないしは菱形の模様を成している。

イ 第3号証ないし甲第6号証の説明
甲第3号証ないし甲第6号証は,アマゾンジャパン合同会社(本社:東京都目黒区下目黒1丁目8番1号Arco Tower Annex,代表者:ジャスパー・チャン)が運営するAmazon.co.jpの商品掲載ページの写しであり,甲第3号証ないし甲第6号証には,「靴」(短靴)が掲載されている。そして,甲第3号証に掲載された「靴」の商品が2015年3月26日から,甲第4号証に掲載された「靴」の商品が2016年3月1日から,甲第5号証に掲載された「靴」の商品が2016年6月16日から,甲第6号証に掲載された「靴」の商品が2014年12月24日から,Amazon.co.jpで取り扱われていることが分かる。即ち,甲第3号証ないし甲第6号証に掲載の商品は,本件登録商標(当審注:「本件登録意匠」の誤記と認められる。)の出願日である2016年10月20日前から公になっているものである。

ウ 甲第3号証ないし甲第6号証の意匠の説明
甲第3号証ないし甲第6号証に係る意匠(甲第3号証ないし甲第6号証に掲載されている商品を意味し,以下「意匠3」ないし「意匠6」とする。)は,「靴」(短靴)であって,甲部は紐で緊締するタイプで,タン,アイレットが一般的な短靴と同様に設けられており,前記左右両アイレットの外側にはライン模様が配されている。また,アッパー側面は,縫い目を活用して凹凸を形成したキルティングタイプのものとなっており,意匠3ないし意匠5の前記凹凸は,三角形ないしは菱形の模様を成し,意匠6の前記凹凸は,四角形の模様を成している。

エ 本件登録意匠と意匠3ないし意匠6の類否
本件登録意匠及び意匠3ないし意匠6は,いずれも「靴」(短靴)であって,甲部は紐で緊締するタイプで,タン,アイレットが一般的な短靴と同様に設けられており,前記左右両アイレットの外側には,ライン模様が配されている。また,いずれのアッパー側面においても,縫い目を活用して凹凸模様を形成したキルティングタイプのものとなっており,本件登録意匠及び意匠3ないし意匠5の前記凹凸模様は,三角形ないしは菱形であり,意匠6の前記凹凸模様は,四角形である。
即ち,本件登録意匠及び意匠3ないし意匠6は,その構成を略同一にするもので,それぞれから生ずる視覚性美感は共通している。特に,両アイレットの外側にライン模様が配されている点,縫い目を活用して凹凸模様を形成したキルティングタイプのものとなっている点から生ずる立体感は,大きな共通点であると言える。子細に見ると,本件登録意匠と意匠6の前記凹凸模様の相違のような微細な相違が存するかもしれないが,その相違は,前記共通点を凌駕できるものではなく,全体から生ずる視覚性美感に影響を与えるものではない。

オ 甲第3号証ないし甲6号証まとめ
以上のとおり,本件登録意匠と意匠3ないし意匠6は,その視覚性美感を共通にし,類似する意匠である。そして,意匠3は,遅くとも,本件登録意匠の出願日前である2015年3月26日の時点では,意匠4は,遅くとも,本件登録意匠の出願日前である2016年3月1日の時点では,意匠5は,遅くとも,本件登録意匠の出願日前である2016年6月16日の時点では,意匠6は,遅くとも,本件登録意匠の出願日前である2014年12月24日の時点では,公になっていたものである。
よって,本件登録意匠は,本来,意匠3ないし意匠6の存在を根拠に,意匠法第3条第1項第3号の規定により登録を受けることが出来なかったものであるため,本件意匠登録は,意匠法第48条第1項第1号の規定により,無効とされるべきものである。

(3)むすび
上記理由により,本件登録意匠は,意匠法第3条第1項第3号の規定により登録されるべきではなかったことは明らかであるため,意匠法第48条第1項第1号の規定により,無効とすべきである。

2 「口頭審理陳述要領書」における主張
(1)被請求人による類否判断について
被請求人は,後記第3の1において,請求人が証拠として提出した意匠との相違点を挙げているが,それによって生ずる視覚性美感については主張していない。つまり,被請求人は,後記第3の1においては,単に相違点を挙げたに過ぎず,請求人提出の証拠と本件登録意匠の適切な類否判断は行われていないものと思料する。

(2)意匠が類似するか否かの判断について
意匠法第24条第2項の規定により,登録意匠と他の意匠が類似であるか否かの判断は,需要者の視覚を通じて起こさせる美感に基づいて行われる。つまり,本件においても,その類否判断は,需要者の視覚を通じて感取される美感に基づいて,行われるべきものであるが,被請求人はそのような方法による類否判断を行っていない。

(3)後記第3の1(1)イないしオにおける主張に対する反論
被請求人は,後記第3の1(1)イないしオにおいて,本件登録意匠と甲第3号証ないし甲第6号証に係る意匠(以下「意匠3」ないし「意匠6」とする。)との類否判断,即ち,両意匠の発現する美感を対比しての類否判断を行っていないが,念のため,以下のとおり,陳述する。

ア 「意匠3ないし意匠5のアイレット外側のライン模様は,ソール部分に達する前のつま先の保護部材で途切れている。つまり,意匠3ないし意匠5には上端から下端まで延びる鮮明且つ太いライン模様がない。」との点について
この点に関し,意匠3ないし意匠5に係る靴に接した需要者が「ライン模様がソール部分に達する前のつま先の保護部材で途切れている。」と視認し,また,本件登録意匠に係る靴に接した需要者が「ライン模様がソール部分にまで達している。」と視認するようなことが,果たしてあるだろうか。意匠3ないし意匠5にも本件登録意匠にも,上端から下端方向への鮮明且つ太いライン模様は存在しており,需要者は,そのライン模様から「履き口からソール方向への流線感」,「甲部中央との分断感」を感取すると考える。即ち,意匠3ないし意匠5の本件ライン模様と本件登録意匠の本件ライン模様からは,共通の視覚性美感が感取される。このことは,たとえライン模様がソール部分に達する前のつま先の保護部材で途切れていたとしても言えることである。

イ 「意匠6のアイレット外側のライン模様は,履き口からソール部分にまで延びている。しかし,当該ライン模様は,鮮明な太いライン模様としては表れていない。つまり,意匠6には,上端から下端まで延びる鮮明且つ太いライン模様がない。」との点について
この点に関し,ここにいう上端から下端まで延びる鮮明且つ太いライン模様は,本件登録意匠のみならず,意匠6にも存在しており,それは明確に視認可能であることに疑いの余地はない。つまり,この被請求人の主張は失当であることは明らかで,本件登録意匠及び意匠6のこのライン模様から,需要者は「履き口からソール方向への流線感」,「甲部中央との分断感」を感取すると考えられる。即ち,意匠6の本件ライン模様と本件登録意匠の本件ライン模様からは,共通の視覚性美感が感取される。

ウ 「また,意匠3ないし意匠5の側面の縫い目模様は,菱形がベースであって,縫い目のみで作られた三角形はなく,ライン模様と略平行になる直線模様もない。」との点について
この点に関し,意匠3ないし意匠5に係る側面の縫い目も,本件登録意匠に係る側面の縫い目も,その靴の生地と同系色の紐で構成されており,その模様自体は目立つものではない。仮に,その形状が浮かび上がって,視覚上認識できる縫い目模様であったとしても,その模様は三角形がベースであるとか,菱形がベースであるとかいった非常に細かい判断はされることはなく,本件登録意匠と意匠3ないし意匠5からは,縫い目によって構成される模様から生ずる「凹凸感(キルティング感)」,規則的な縫い目から生ずる「模様の連続感」が感取されると考える。
また,ここにいうライン模様と略平行になる直線模様は生地と同系色であり,その直線模様が,縫い目模様から生ずる視覚性美感に影響を及ぼすとは言えない。つまり,この直線模様の有無は視覚性美感に影響を与えるものではなく,上述した同じ「凹凸感(キルティング感)」,「模様の連続感」が感取されることに変わりない。
よって,この主張における縫い目模様及び直線模様からは,本件登録意匠と意匠3ないし意匠5において共通した視覚性美感が感取される。

エ 「また,意匠6の側面の縫い目模様は,菱形がベースであって,縫い目のみで作られた三角形はない。」との点について
この点に関し,意匠6に係る側面の縫い目も,本件登録意匠に係る側面の縫い目も,その靴の生地と同系色の紐で構成されており,その模様自体は目立つものではない。仮に,その形状が浮かび上がって,視覚上認識できる縫い目模様であったとしても,その模様は三角形がベースであるとか,菱形がベースであるとかいった非常に細かい判断はされることはなく,両者からは,縫い目によって構成される模様から生ずる「凹凸感(キルティング感)」,規則的な縫い目から生ずる「模様の連続感」が感取されると考える。
よって,この主張における縫い目模様及び直線模様からは,本件登録意匠と意匠6において共通した視覚性美感が感取される。

オ 「また,履き口の保護部には,トップラインに沿った別のライン模様が鮮明に施されている。」との点について
この点に関し,履き口保護部のトップラインに沿った別のライン模様は,本件登録意匠にも意匠3ないし意匠6にも存しており,そこからは側面の凹凸模様と,履き口ないし踵部との「分離感」,「分断感」が感取される。即ち,この点に関し,本件登録意匠と意匠3ないし意匠6からは,共通した視覚性美感が感取される。

カ 「当該別のライン模様と菱形との配置の関係性は見られない。」との点について
この点に関し,前記ウ及びエにいうライン模様で構成される三角形等は,当該別のライン模様に接しているため,ここにおいて被請求人が何を言わんとしているか,理解に苦しむ。

キ 「意匠3ないし意匠6の側面には,鮮明な太いライン模様,及び各境界線と関連して均一的に配置された複数の三角形の模様がない。」との点について
被請求人は,総括的に本件登録意匠と意匠3ないし意匠6との相違点を挙げているが,上述のとおり,両意匠の各部位から生ずる視覚性美感はいずれも共通しており,全体から生ずる視覚性美感についても,当然に共通していると言える。

以上の点から,被請求人が後記第3の1(1)イないしオの項において述べた,本件登録意匠と意匠3ないし意匠6との関係性についての主張は,いずれも失当であるか,あるいは,類否判断の体を成さないものである。
そして,上述のとおり,本件登録意匠と意匠3ないし意匠6の全体から生ずる視覚性美感,及び,要部から生ずる視覚性美感は,いずれも共通している。
よって,本件登録意匠は,全体として,意匠3ないし意匠6に類似する意匠であることに疑いの余地はない。

(4)むすび
以上のとおり,被請求人による後記第3の1における主張は,いずれも本件登録意匠と意匠3ないし意匠6との視覚性美感を比較したものではなく,答弁と成りえないと考える。
また,本件意匠登録は,上述のとおり,本件登録意匠が出願される前から公になっていた意匠3ないし意匠6のいずれとも類似していると考えられるので,本件登録意匠は,意匠法第48条第1項の規定により無効とされるべきものと考える。
よって,前記1の請求の趣旨に記載のとおり,本件登録意匠を無効とする審決を求める次第である。

3 請求人が提出した証拠
請求人は,以下の甲第1号証ないし甲第6号証を,審判請求書の添付書類として提出した。
(1)甲第1号証 意匠登録第1582576号原簿写し
(2)甲第2号証 意匠登録第1582576意匠公報写し
(3)甲第3号証 Amazon.co.jpの商品掲載Webページの写し
(4)甲第4号証 Amazon.co.jpの商品掲載Webページの写し
(5)甲第5号証 Amazon.co.jpの商品掲載Webページの写し
(6)甲第6号証 Amazon.co.jpの商品掲載Webページの写し

第3 被請求人の答弁及び理由の要点
被請求人は,審判事件答弁書を提出し,答弁の趣旨を,「本件無効審判の請求は成り立たない。審判費用は請求人の負担とする,との審決を求める。」とし,その理由として,概要以下のとおり主張した。(「口頭審理陳述要領書」の内容を含む。)

1 答弁の理由
(1)本件無効審判の請求が成り立たない理由
ア 本件登録意匠の説明
本件登録意匠(意匠登録第1582576号)に係る物品は「靴」であり,ソール部分を除いたアッパー部分について,部分意匠として意匠登録されたものである。
本件登録意匠は,基本的構成態様として,主に,履き口,側面,甲部,及びかかと部を備え,全体として,履き口が低位置にあるローカット型となっている。
(ア)履き口
本件登録意匠の具体的構成態様として,履き口は,上端部及び内周部を構成する履き口パッド(クッション部分)と,履き口の外周部を構成する履き口保護部と,を備えている。履き口保護部は,最も上方に位置するアイレットの後方において,トップラインに沿って配置された肉厚の部分である。以下,履き口保護部の下端の境界線を「履き口境界線」と称する。
(イ)かかと部
かかと部の左右の側面には,弧状のパイピングがなされた肉厚のかかと側面保護部が設けられている。以下,かかと側面保護部の弧状の境界線を「かかと境界線」と称する。かかと部では,背面図において,左右のかかと境界線により,2本のラインが下方に向かうほど左右幅が狭くなるように配置されている。
(ウ)甲部
甲部は,アイレットを含む部分であって,つま先に肉厚のつま先保護部を備えている。甲部は,後述するライン模様の内側(アイレット側)の領域である。
(エ)側面
左右の側面には,アイレットの外側に,幅が略一定の太いライン模様が,履き口からソール部分にまで切れ目なく延びている。詳細に,ライン模様は,アイレットの配列に沿って履き口から直線的に延びる部分(以下「ライン直線部」とする。)と,ライン直線部の下端から延伸方向をより下方に変えてソール部分まで延びる部分とで構成されている。履き口保護部,側面のうちライン模様以外の部分,甲部,及びかかと部は,互いに同様の配色であって,ライン模様とは異なる配色である。また,ライン模様と履き口パッドとは同様の配色である。また,当該太く鮮明なライン模様は,全体のうち,左右アイレットの外側部分にのみ形成されている。ライン模様は,全体を分断するように上端から下端にまで延びている。
また,左側面において,ライン模様上には,インソールと同様の配色のタブが付されている。ライン模様と履き口パッド,タブとインソール,及びその他の部分の配色により,上方又は側方から見た際に,統一感が表れる。
また,側面のうちライン模様の外側(以下「側面中央部」ともいう)には,連続的に形成された複数の三角形の縫い目模様(凹凸模様)が形成されている。この三角形の縫い目模様が形成された領域(以下「三角模様領域」という)は,ライン模様,履き口境界線,及びかかと境界線によって区画されている。
詳細に,各三角形の1辺は,略鉛直方向に延びている。また,前後方向に並んで配置された複数の三角形の底辺により,ライン直線部に平行な2本の直線模様が形成されている。また,複数の三角形の1辺をつないで形成された,後方ほど下方になるように傾斜した直線模様は,履き口境界線の前方部分と,略平行になっている。つまり,側面における各三角形は,ライン直線部と平行な直線と,履き口境界線の前方部分と略平行な直線と,鉛直方向に略平行な直線と,により形成されている。三角模様領域を区画するライン直線部及び履き口境界線の周辺には,いびつな形状はなく,すべて同形状の三角形が並んで配置されている。また,履き口境界線とかかと境界線とが近接する部分には,当該近接して形成された模様に合わせた三角形が配置されている。このように,本件登録意匠の側面には,全体として整列された複数の三角形模様が表現されている。
ライン直線部及び履き口境界線の周辺の部位は,側方からだけでなく斜め上方からの外観にも含まれ,意匠全体に与える影響は大きい。この境界部分での上記整然とした三角形の配置は,全体に大きな影響を与える。また,ライン模様と複数の三角形とのラインの強弱もアクセントとなっている。なお,縫い目自体の配色は,ライン模様と異なり,その他の部分と同様の配色である。また,縫い目模様の領域は,綿製であって,外観に柔らかな質感が表れている。
以上,鮮明に浮き出る直線的なライン模様と,そこから均一的に整列された複数の三角形の縫い目模様との組み合わせは,需要者の目を引き,本件登録意匠の要部を構成する。

イ 本件登録意匠と甲第3号証の意匠との類否
甲第3号証に係る意匠(以下「意匠3」とする。)は,ローカット型の靴であり,基本的構成態様は,本件登録意匠と同じである。
具体的構成態様において,意匠3のアイレット外側のライン模様は,ソール部分に達する前のつま先の保護部材で途切れている。つまり,意匠3には,上端から下端まで延びる鮮明且つ太いライン模様がない。また,意匠3の側面の縫い目模様は,菱形がベースであって,縫い目のみで作られた三角形はなく,ライン模様と略平行になる直線模様もない。また,履き口の保護部には,トップラインに沿った別のライン模様が鮮明に施されている。当該別のライン模様と菱形との配置の関連性は見られない。意匠3の側面には,鮮明な太いライン模様,及び各境界線と関連して均一的に配置された複数の三角形の模様がない。
このように,本件登録意匠と意匠3とは,少なくとも要部において異なり,全体として需要者に異なる美感を生じさせる。つまり,両意匠は,全体として非類似である。

ウ 本件登録意匠と甲第4号証の意匠との類否
甲第4号証に係る意匠(以下「意匠4」とする。)は,ローカット型の靴であり,基本的構成態様は,本件登録意匠と同じである。
具体的構成態様において,意匠4のアイレット外側のライン模様は,ソール部分に達する前のつま先の保護部材で途切れている。つまり,意匠4には,上端から下端まで延びる鮮明且つ太いライン模様がない。また,意匠4の側面の縫い目模様は,菱形がベースであって,縫い目のみで作られた三角形はなく,ライン模様と略平行になる直線模様もない。また,履き口の保護部には,トップラインに沿った別のライン模様が鮮明に施されている。当該別のライン模様と菱形との配置の関連性は見られない。意匠4の側面には,鮮明な太いライン模様,及び各境界線と関連して均一的に配置された複数の三角形の模様がない。
このように,本件登録意匠と意匠4とは,少なくとも要部において異なり,全体として需要者に異なる美感を生じさせる。つまり,両意匠は,全体として非類似である。

エ 本件登録意匠と甲第5号証の意匠との類否
甲第5号証に係る意匠(以下「意匠5」とする。)は,ローカット型の靴であり,基本的構成態様は,本件登録意匠と同じである。
具体的構成態様において,意匠5のアイレット外側のライン模様は,ソール部分に達する前のつま先の保護部材で途切れている。つまり,意匠5には,上端から下端まで延びる鮮明且つ太いライン模様がない。また,意匠5の側面の縫い目模様は,菱形がベースであって,縫い目のみで作られた三角形はなく,ライン模様と略平行になる直線模様もない。また,履き口の保護部には,トップラインに沿った別のライン模様が鮮明に施されている。当該別のライン模様と菱形との配置の関連性は見られない。意匠5の側面には,鮮明な太いライン模様,及び各境界線と関連して均一的に配置された複数の三角形の模様がない。
このように,本件登録意匠と意匠5とは,少なくとも要部において異なり,全体として需要者に異なる美感を生じさせる。つまり,両意匠は,全体として非類似である。

オ 本件登録意匠と甲第6号証の意匠との類否
甲第6号証に係る意匠(以下「意匠6」とする。)は,ローカット型の靴であり,基本的構成態様は,本件登録意匠と同じである。
具体的構成態様において,意匠6のアイレット外側のライン模様は,履き口からソール部分にまで延びている。しかし,当該ライン模様は,鮮明な太いライン模様としては表れていない。つまり,意匠6には,上端から下端まで延びる鮮明且つ太いライン模様がない。また,意匠6の側面の縫い目模様は,菱形がベースであって,縫い目のみで作られた三角形はない。また,履き口の保護部には,履き口に沿った別のライン模様が施されている。当該別のライン模様と菱形との配置の関連性は見られない。意匠6の側面には,鮮明な太いライン模様,及び各境界線と関連して均一的に配置された複数の三角形の模様がない。
このように,本件登録意匠と意匠6とは,少なくとも要部において異なり,全体として需要者に異なる美感を生じさせる。つまり,両意匠は,全体として非類似である。

2 「口頭審理陳述要領書」における主張
(1)答弁の要約及び補足
靴の側面は,需要者がよく見る部分であり,デザイン性に大きく関わる部分である。本件登録意匠では,当該側面に,特徴的である,鮮明に浮き出る直線的なライン模様と,そこから均一的に整列された複数の三角形の縫い目模様とが設けられている。
側面の縫い目模様及びそれによる凹凸は,側面の大部分を占め,側面の生地と縫い目とが同系色であっても視認でき,確実に需要者の目に留まる。需要者が良く見る側面の大部分において,縫い目模様及び凹凸が目に見える形で表れている以上,その模様・形状の違いは,需要者の視覚を通した美感に大きな影響を与える。
三角形(本件登録意匠)と菱形(意匠3?6)とは,言うまでもなく異なる形状である。本件登録意匠のように,上下左右に整列された複数の三角形は,見方を変えることで,六角形,様々な向きの台形,様々な向きの菱形,又は噛合った歯のような模様(対向配置されたのこぎりの歯のような模様)を形成し,靴を見た需要者に秩序だった幾何学的な印象を与える。一方,意匠3?6における菱形が並んだ模様では,このような模様・形状は視認できず,単に格子状に見えるのみで,需要者に上記のような印象を与えることはできない。
このように,需要者の注目を集める部分において,上記のように縫い目模様が決定的に異なる2つの靴が,需要者に共通の美感を生じさせるとは到底考えられない。本件登録意匠と意匠3?6とは,非類似である。
なお,前記1(1)イないしオの「別のラインと菱形との配置の関連性は見られない」とは,履き口境界線が同様の菱形の形成に寄与していないことを意味している。

(2)むすび
以上のとおり,本件登録意匠と意匠3?6とは,非類似である。

第4 口頭審理
当審は,本件審判について,平成30年(2018年)4月25日に口頭審理を行い,審判長は,以後書面審理とした。(平成30年4月25日付け「第1回口頭審理調書」)

第5 当審の無効理由通知
当審は,請求人及び被請求人の主張について審理し,更に請求人が申し立てない理由についても審理したところ,本件登録意匠の意匠登録に無効理由が認められたので,その無効理由を,被請求人に対して,平成30年(2018年)5月21日付け無効理由通知書により通知し,期間を指定して意見書の提出を求めたが,被請求人からの応答はなかった。併せて,その審理の結果を,請求人に対して,同日付け職権審理結果通知書により通知し,期間を指定して意見書の提出を求めたが,請求人からの応答はなかった。
当無効理由通知書及び職権審理結果通知書により通知した無効理由は,同内容であり,本件登録意匠が,その出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物に記載された意匠又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記2の意匠(以下「引用意匠」という。)に類似するものと認められ,意匠法第3条第1項第3号に規定する意匠に該当するから,本件の意匠登録が同法同条同項の規定に違反してされたものであり,意匠法第48条第1項第1号の規定に該当するので無効とすべきものであるとの理由であり,具体的には以下のとおりである。

1 本件登録意匠(別紙第1参照)
本件の意匠登録は,平成28年10月20日に意匠登録出願(意願2016-022891)され,平成29年7月7日に意匠権の設定の登録(意匠登録第1582576号)がなされたものであって,物品の部分について意匠登録を受けたものであり,その意匠は,意匠に係る物品を「靴」とし,その形状,模様若しくは色彩又はこれらの結合(以下「形状,模様若しくは色彩又はこれらの結合」を「形態」という。)を,願書の記載及び願書に添付した図面に記載されたとおりとしたものであり,本件登録意匠において部分意匠として意匠登録を受けようとする部分を,「青色で示された部分以外の部分(当審注:以下「本件登録部分」という。)が,部分意匠として意匠登録を受けようとする部分である。」としたものである。
本件登録部分の形態は,具体的には以下のとおりである。
(1)全体の基本的な形態は,履き口部,甲部,踵部及び側面部により構成し,履き口部が踝よりも低位置となる短靴型としたものである。
(2)履き口部の形態は,平面視略逆U字状,側面視左右から中央に向かい緩やかに下降する略弧状とし,全体に亘ってやや膨らんだ肉厚の態様としたものであり,外周面全体には帯状の履き口保護部を形成し,その下端には端部形状に沿って2本のステッチを施したものであり,色彩については,内周面を白色,外周面の履き口保護部を黒色として,内側と外側の色彩を切り替えたものである。
(3)甲部の形態は,平面視略U字状で,つま先方向になだらかに下降する傾斜面状としたものであり,略等間隔直線状に6つずつの小円形アイレットを配した,履き口部の両端からつま先方向に延びる2つの左右対称の帯状部(以下「アイレット配列帯状部」という。)を形成し,そのつま先側は側面視下方に向かいR状に緩やかに屈曲した形状としたものであり,2つのアイレット配列帯状部の間には靴を緊縮する靴紐を配して,それらの下側に両端が隠れるタン部を形成し,そのタン部履き口側には略正方形白色の布張りを形成して,その布張り近傍のアイレット配列帯状部内側は履き口の内側内周面から延長した白色部分が表されており,タン部はつま先部へ一体的に繋がり,つま先部には略U字状の外形状に合わせて帯状のつま先保護部を形成し,その内側端部には,端部形状に沿って2本のステッチを施し,つま先保護部の左右端部はアイレット配列帯状部端部により隠されたものであり,色彩については,タン部の布張り,アイレット配列帯状部内側部分,及び金属色のアイレット以外は,ステッチを含め黒色としたものである。
(4)踵部の形態は,左右側面に頂部が後方に寄った略山状の踵側面保護部を形成し,その端部には1条のパイピングを施し,パイピングのすぐ下には端部形状に沿って1本のステッチを施し,一方の踵側面保護部にのみ略弧状2列に文字部を設けた凹部を形成したものであり,後面即ち両踵側面保護部間には,背面視上辺が弧状の変形五角形の踵後面保護部を形成し,その端部には端部形状に沿って2本のステッチを施し,2本のステッチ間はやや盛り上がった畝状の態様としたものであり,色彩については,ステッチを含め全て黒色としたものである。
(5)側面部の形態は,履き口保護部,アイレット配列帯状部,及び踵側面保護部に囲われた側面視略変形五角形状で,略垂直面状としたものであり,アイレット配列帯状部の外側,即ち側面部の甲部側端部には,履き口部の前方上端部から側面部前方下端部に亘って白色細幅のライン部を形成し,その形状はアイレット配列帯状部の形状に沿い,側面視つま先方向に直線状に下降し,つま先側で下方に向かいR状に緩やかに屈曲した形状とし,そのライン部内中央延伸方向に1本の白色ステッチを施し(斜視図において明瞭に表れる),一方の側面部にのみ,そのライン部中央よりやや上に小さな赤色長方形のタグ部を形成したものであり,側面部全体には,等間隔平行直線状の複数のステッチを,キルティング状にやや盛り上がった正三角形状の区画部が整列して表れるように3方向に配し,3方向のうち1つ目は,白色細幅のライン部と平行に2本形成し,その下方に位置するステッチの一部は,踵側面保護部端部の一部と接して形成し,3方向のうち2つ目は,履き口保護部下端部前方と平行に4本形成し,その最も上方に位置するステッチの一部は,履き口保護部下端部前方と接して形成し,3方向のうち3つ目は,略垂直方向に5本形成し,中央から1つ踵寄りの最長となるステッチは,白色細幅のライン部と履き口保護部前端の交点位置から下方へ形成したものであり,色彩については,ライン部,ライン部内のステッチ,及びタグ部を除き,黒色としたものである。

2 引用意匠(別紙第2参照)
引用意匠は,米国非営利法人インターネット・アーカイブが運営するインターネット・アーカイブにより,2015年12月1日付けで保存・公開されている,表題「(エドウィン)EDWIN ED-7133 メンズ ローカット スニーカー」として掲載された「靴」の意匠のうち,本件登録部分に相当する部分,即ち,靴底部を除いた部分(以下「引用部分」という。)の意匠である。(別紙第2第2頁。同第7頁及び第8頁は拡大図。)
出力日:2018年5月14日
インターネット・アーカイブURL:
https://web.archive.org/web/20151201022820/http://www.amazon.co.jp/エドウィン-EDWIN-ED-7133-ローカット-スニーカー/dp/B013HWGLIM
引用部分の形態は,具体的には以下のとおりである。なお,引用意匠の正面視等の方向は,本件登録意匠に合わせたものとする。
(1)全体の基本的な形態は,履き口部,甲部,踵部及び側面部により構成し,履き口部が踝よりも低位置となる短靴型としたものである。
(2)履き口部の形態は,平面視略逆U字状,側面視左右から中央に向かい緩やかに下降する略弧状とし,全体に亘ってやや膨らんだ肉厚の態様としたものであり,外周面全体には帯状の履き口保護部を形成し,その下端には端部形状に沿って2本のステッチを施したものであり,色彩については,内周面を白色,外周面の履き口保護部を黒色として,内側と外側の色彩を切り替えたものである。
(3)甲部の形態は,平面視略U字状で,つま先方向になだらかに下降する傾斜面状としたものであり,略等間隔直線状に6つずつの小円形アイレットを配した,履き口部の両端からつま先方向に延びる2つの左右対称の帯状部(以下「アイレット配列帯状部」という。)を形成し,そのつま先側は側面視下方に向かいR状に緩やかに屈曲した形状としたものであり,2つのアイレット配列帯状部の間には靴を緊縮する靴紐を配して,それらの下側に両端が隠れるタン部を形成し,そのタン部履き口側には略正方形白色の布張りを形成し,その布張り内には文字部を有する2列の青色帯部と3列の文字部を形成して,その布張り近傍のアイレット配列帯状部内側は履き口の内側内周面から延長した白色部分が表されており,タン部はつま先部へ一体的に繋がり,つま先部には略U字状の外形状に合わせて帯状のつま先保護部を形成し,その内側端部には,端部形状に沿って2本のステッチを施し,つま先保護部の左右端部はアイレット配列帯状部端部により隠されたものであり,色彩については,タン部の布張り,アイレット配列帯状部内側部分,及び金属色のアイレット以外は,ステッチを含め黒色としたものである。
(4)踵部の形態は,左右側面に頂部が後方に寄った略山状の踵側面保護部を形成し,その端部には1条のパイピングを施し,パイピングのすぐ下には端部形状に沿って1本のステッチを施し,一方の踵側面保護部にのみ略弧状2列に文字部を設けた凹部を形成したものであり,後面即ち両踵側面保護部間には,背面視上辺が弧状の変形五角形の踵後面保護部を形成し,その端部には端部形状に沿って2本のステッチを施し,2本のステッチ間はやや盛り上がった畝状の態様としたものであり,色彩については,ステッチを含め全て黒色としたものである。
(5)側面部の形態は,履き口保護部,アイレット配列帯状部,及び踵側面保護部に囲われた側面視略変形五角形状で,略垂直面状としたものであり,アイレット配列帯状部の外側,即ち側面部の甲部側端部には,履き口部の前方上端部から側面部前方下端部に亘って白色細幅のライン部を形成し,その形状はアイレット配列帯状部の形状に沿い,側面視つま先方向に直線状に下降し,つま先側で下方に向かいR状に緩やかに屈曲した形状とし,そのライン部内中央延伸方向に1本の白色ステッチを施し(斜視図において明瞭に表れる),一方の側面部にのみ,そのライン部中央よりやや上に小さな赤色長方形のタグ部を形成し,そのタグ部内には1列の文字部を形成したものであり,側面部全体には,等間隔平行直線状の複数のステッチを,キルティング状にやや盛り上がった正三角形状の区画部が整列して表れるように3方向に配し,3方向のうち1つ目は,白色細幅のライン部と平行に2本形成し,その下方に位置するステッチの一部は,踵側面保護部端部の一部と接して形成し,3方向のうち2つ目は,履き口保護部下端部前方と平行に4本形成し,その最も上方に位置するステッチの一部は,履き口保護部下端部前方と接して形成し,3方向のうち3つ目は,略垂直方向に5本形成し,中央から1つ踵寄りの最長となるステッチは,白色細幅のライン部と履き口保護部前端の交点位置から下方へ形成したものであり,色彩については,ライン部,ライン部内のステッチ,及びタグ部を除き,黒色としたものである。

3 対比
(1)意匠に係る物品の対比
本件登録意匠と引用意匠(以下「両意匠」という。)の意匠に係る物品は「靴」であり,一致する。
(2)本件登録部分と引用部分の用途及び機能並びに位置,大きさ及び範囲の対比
本件登録部分と引用部分(以下「両部分」という。)は,靴底を除く靴本体部,即ち,履き口部,甲部,踵部及び側面部であるから,両部分の用途及び機能並びに位置,大きさ及び範囲は一致する。
(3)両部分の形態の対比
ア 形態の共通点
(共通点1)両部分は,全体の基本的な形態が共通する。
(共通点2)両部分は,履き口部の形態が共通する。
(共通点3)両部分は,甲部の形態が共通する。
(共通点4)両部分は,踵部の形態が共通する。
(共通点5)両部分は,側面部の形態が共通する。
イ 形態の相違点
(相違点1)両部分は,タン部の布張り及び側面部のタグ部に文字部が列状に形成されているか否かが相違し,また,タン部の布張りに2列の青色帯部が形成されているか否かが相違する。

4 判断
(1)意匠に係る物品の類否判断
両意匠の意匠に係る物品は,同一である。
(2)両部分の用途及び機能並びに位置,大きさ及び範囲の評価
両部分の用途及び機能並びに位置,大きさ及び範囲は,同一である。
(3)両部分の形態の共通点及び相違点の評価
ア 形態の共通点の評価
(共通点1)履き口部,甲部,踵部及び側面部により構成し,短靴型とした両部分全体の基本的な形態は,この種物品分野においてありふれたものにすぎないから,需要者の注意を惹かないものであって,共通点1が類否判断に及ぼす影響は小さい。
(共通点2)平面視略逆U字状,側面視略弧状とし,全体に肉厚の態様とした両部分の履き口部の形態は,この種物品分野においてありふれたものにすぎないから,需要者の注意を惹かないものであって,共通点2が類否判断に及ぼす影響は小さい。
(共通点3)両部分の甲部におけるアイレット配列帯状部,略正方形布張りを配したタン部,及び,つま先保護部を配したつま先部のいずれの形態も,この種物品分野においてありふれたものにすぎないから,需要者の注意を惹かないものであって,共通点3が類否判断に及ぼす影響は小さい。
(共通点4)踵部は甲部や側面部と比較すると,さほど目に付きやすい部分とはいえないが,両部分の踵部における略山状の踵側面保護部及び変形五角形の踵後面保護部の形態は,この種物品分野においてありふれたものとはいえず,需要者の注意を惹くから,共通点4に係る両部分の踵部の形態は,需要者に共通する美感を与え,共通点4が類否判断に及ぼす影響は大きい。
(共通点5)側面部の白色細幅のライン部の形状は,この種物品分野の他の先行意匠にも見られるものであるが,両部分の白色細幅のライン部は周囲を黒色としていることから非常に目立つものであり,目に付きやすい側面部にあることも併せて需要者の注意を惹くものといえ,また,複数の直線状ステッチを交差しキルティング状に盛り上がる正三角形状の区画部を形成した態様は,ステッチを周囲の帯状部や保護部の端部に合わせて形成することで同形の三角形が整然と並んだ印象を与える具体的な態様も考慮すれば,この種物品分野においてありふれたものとはいえず,目に付きやすい側面部全体の広い範囲に亘り,需要者の注意を強く惹くものといえるから,両部分は,共通点5に係る側面部の美感に大きな共通性があり,共通点5が類否判断に及ぼす影響は大きい。
イ 形態の相違点の評価
(相違点1)引用部分のタン部の布張り内及び側面部のタグ部内に形成された文字部は,ブランド名等の情報を表示したものであり,専ら情報伝達のために使用される文字そのものは,模様と認められず意匠を構成しないから,タン部の布張りにおける青色帯部の有無の相違を考慮したとしても,相違点1が類否判断に及ぼす影響は小さい。
(4)両意匠の類否判断
両部分の形態における共通点及び相違点の評価に基づき,意匠全体として総合的に観察した場合,両部分は,需要者の注意を強く惹く側面部の美感に大きな共通性があり(共通点5),踵部の形態も需要者に共通する美感を与える(共通点4)から,両部分は全体として美感に大きな共通性があるといえる。そうすると,タン部の布張り内及び側面部のタグ部内に文字部等が形成されているか否かが相違する(相違点1)としても,意匠全体として観察した際に共通する美感を起こさせるものといえる。
したがって,両意匠は,意匠に係る物品が同一であり,両部分の用途及び機能並びに位置,大きさ及び範囲が同一であって,その形態においても,需要者に共通する美感を起こさせるものであるから,両意匠は類似する。

第6 当審の判断
無効理由通知書(又は職権審理結果通知書)で示したとおり,本件登録意匠は,無効理由に掲げた意匠(以下「引用意匠」という。)に類似するものと認められるので,意匠法第3条第1項第3号に掲げる意匠に該当し,同項柱書の規定により意匠登録を受けることができないものである。

1 本件登録意匠
前記第5の1のとおりである。

2 引用意匠
前記第5の2のとおりである。

3 本件登録意匠と引用意匠の対比
前記第5の3のとおりである。

4 本件登録意匠と引用意匠の類否判断
前記第5の4のとおりである。

5 無効理由について
引用意匠は,前記第5の2に示したとおり,本件登録意匠の意匠登録出願前に,日本国内又は外国において電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった意匠である。
そうすると,本件登録意匠は,その意匠登録出願の出願前に,日本国内又は外国において電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった意匠に類似するので,意匠法第3条第1項第3号に掲げる意匠に該当し,同項柱書の規定により意匠登録を受けることができないものである。

第7 むすび
以上のとおり,本件登録意匠は,意匠法第3条第1項第3号に掲げる意匠に該当し,同項柱書の規定に違反して登録されたものであるから,本件の意匠登録は,意匠法第48条第1項第1号の規定に該当し,無効とすべきものである。
審判に関する費用については,意匠法第52条で準用する特許法第169条第2項で準用する民事訴訟法第61条の規定により,被請求人が負担すべきものとする。

よって,結論のとおり審決する。

審理終結日 2018-07-20 
結審通知日 2018-07-24 
審決日 2018-08-16 
出願番号 意願2016-22891(D2016-22891) 
審決分類 D 1 113・ 113- Z (B5)
最終処分 成立  
前審関与審査官 並木 文子 
特許庁審判長 小林 裕和
特許庁審判官 渡邉 久美
竹下 寛
登録日 2017-07-07 
登録番号 意匠登録第1582576号(D1582576) 
代理人 大川 宏 
代理人 齋藤 晴男 
代理人 齋藤 貴広 
代理人 山田 博司 
代理人 瀧川 彰人 

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ