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審決分類 審判 査定不服  2項容易に創作 取り消して登録 B1
管理番号 1356005 
審判番号 不服2016-2717
総通号数 239 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 意匠審決公報 
発行日 2019-11-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-02-23 
確定日 2016-09-06 
意匠に係る物品 ズボン 
事件の表示 意願2014- 29007「ズボン」拒絶査定不服審判事件について,次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の意匠は,登録すべきものとする。
理由 1.本願意匠
本願は,物品の部分について意匠登録を受けようとする,平成26年(2014年)12月25日の意匠登録出願であって,その意匠(以下,「本願意匠」という。)は,意匠に係る物品を「ズボン」とし,その形態を願書及び願書に添付された写真に現されたとおりとしたもので,「赤色で着色された部分以外の部分が,部分意匠として意匠登録を受けようとする部分である。」としたものである。(以下,部分意匠として意匠登録を受けようとする部分を「本願部分」という。)(別紙第1参照)

2.原査定における拒絶の理由及び引用意匠
原査定における拒絶の理由は,本願意匠が,出願前にその意匠の属する分野における通常の知識を有する者が日本国内又は外国において公然知られた形状,模様若しくは色彩又はこれらの結合に基づいて容易に意匠の創作をすることができたものと認められるので,意匠法第3条第2項の規定に該当するというものであって,具体的には,以下のとおりである。

この意匠登録出願の意匠に係る物品分野の裾上げ方法及びその取付け位置等には,種々のものが本願出願前より見受けられる(例えば意匠1,意匠2,意匠3,意匠4,意匠5)。
そうすると,本願出願前に公然知られた矩形状の面フャースナーを,一方はズボンの裾後中央に,他方は裾から突出した態様で取付けに過ぎない本願の意匠は,当業者であれば,容易に創作することができたものである。

意匠1(別紙第2参照)
特許庁発行の公開特許公報記載
平成11年特許出願公開第335907号

意匠2(別紙第3参照)
特許庁発行の公開実用新案公報記載
昭和51年実用新案出願公開第060309号

意匠3(別紙第4参照)
特許庁特許情報課が2002年5月30日に受け入れた(DE)ドイツ連邦共和国(西)発行のドイツ意匠公報 2002年4月10日 7巻
第1126頁所載 ズボンの意匠
(特許庁意匠課公知資料番号第HH14013604号)

意匠4(別紙第5参照)
欧州共同体商標意匠庁が発行した欧州共同体意匠公報 2006年10月24日 衣類用裏地(登録番号000585765-0002)の意匠
(特許庁意匠課公知資料番号第HH18269647号)

意匠5(別紙第6参照)
特許庁発行の公開特許公報記載
特開2010-017114
[図4]乃至[図9]で表されている釣用ズボンの係止部材の意匠

3.請求人の主張の要旨
(1)最初に,意匠法第3条第2項の規定の適用についての判断は,「意匠登録を受けようとする部分」の全体の形態が,当該意匠登録出願前に公然知られた形状,模様若しくは色彩又はこれらの結合に基づいて当業者であれば容易に創作することができたものであるか否かを判断すると共に,当該部分の用途及び機能を考慮し,「意匠登録を受けようとする部分」を当該物品全体の形態の中において,その位置,その大きさ,その範囲とすることが,当業者にとってありふれた手法であるか否かを判断することにより行うこととなっている(特許庁の意匠審査基準71.4.3参照)。
この基準を念頭にすると,本願意匠及び引用意匠1?5は以下の通りとなる。
(2)本願意匠
本願意匠は,その物品名がズボンであって,赤色で着色した以外の部分を部分意匠として意匠登録を受けようとする部分であるとした部分意匠である。
本願意匠は,ズボンの裾の踵部分の内面に止着されたタブが,当該踵部分から下方に延びており,このタブの踵側の面(後側の面)に第1面ファスナが設けられ,裾の踵部分の外面(裾の後側部分の面)に第2面ファスナが設けられている。第2面ファスナは上下方向に延びる長尺の矩形状であり,タブの長さ寸法が第2面ファスナの長さ寸法の半分以下であり,第1面ファスナの長さ寸法がタブの長さ寸法よりも短くなっている。タブの第1面ファスナを第2面ファスナの長手方向における任意の一部に係止させることによって,ズボンの裾の踵部分のみを裾上げすることができる。また,第1面ファスナが第2面ファスナに係止される高さ位置を変えることによって,踵部分の裾上げ量を変化させることができる。
(3)引用意匠の要旨
(3-1)引用意匠1A及び1B
引用意匠1Aは,その物品がズボンである。
引用意匠1Aは,ズボンの裾の踵部分の外面に面ファスナ18及び19が上下に間隔を開けて設けられている。面ファスナ18及び19が上下方向において略同じ長さ寸法である。この面ファスナ18と面ファスナ19とを係止させることで,ズボンの裾の踵部分のみを裾上げすることができる。
このように引用意匠1Aは,面ファスナ18及び19の双方がズボンの裾の踵部分の外面に設けられているので,本願意匠のタブ及びこのタブに設けられた第1面ファスナに相当するものを有していないことは明らかである。
しかも,面ファスナ18及び19は,その長さが同じ矩形状であるので,面ファスナ18の形状が,本願意匠の第2面ファスナの形状と相違します。更に,面ファスナ18及び19の長さが同じであるため,面ファスナ19の面ファスナ18に対する係止位置を変えて,裾上げ量を変化させることもできない。
引用意匠1Bも,その物品がズボンである。
引用意匠1Bは,ズボンの裾の踵部分の外面に,折り曲げ片27全体が縫い付けられており,折り曲げ片27の下片28に設けられた鉄片32が,折り曲げ片27の上片28に設けられた磁石31に吸着されることによって,ズボンの裾の踵部分のみを裾上げすることができる。
上記の通り,折り曲げ片27全体が,ズボンの裾の踵部分の外面に縫い付けられており,裾の踵部分から下方に延びていないので,本願意匠のタブに相当するものでないことは明らかである。磁石31及び鉄片32は,いずれも面ファスナではなく且つ折り曲げ片27に設けられているので,本願意匠の第1,第2面ファスナに相当しないことは明らかである。
(3-2)引用意匠2
引用意匠2は,その物品がズボンである。
引用意匠2は,図面に示されるように,ズボンの裾の内面の相対する位置に一対の第1面ファスナ1が設けられ,ズボンの裾の外面の第1面ファスナよりも上方位置に一対の第2面ファスナ1が設けられている。第1面ファスナ1の長さ寸法が,第2面ファスナ1の長さ寸法の半分以下である。
このように引用意匠2は,第1,第2面ファスナ1がいずれもズボンの裾に設けられているので,本願意匠のタブ及びこのタブに設けられた第1面ファスナに相当するものを有していないことは明らかである。
また,引用意匠2は,一対の第2面ファスナ1がズボンの裾の内面に設けられ,一対の第2面ファスナ1がズボンの裾の外面に設けられているが,ズボンの裾のどの部分に設けられているか否か不明である。換言すると,第1,第2面ファスナ1はズボンの裾の踵部分に設けられているか否かは不明である。
更に,引用意匠2は,ズボンの裾全体を折り返し,ズボン裏面の一対の第1面ファスナ1をズボン表面の一対の第2面ファスナ1に係止させることで,ズボンの裾全体を裾上げするものであり,踵部分のみを裾上げするものではない。
(3-3)引用意匠3
引用意匠3は,その物品がズボンである。
引用意匠3は,写真に示されるように,ズボンの脚の太股が挿入される部分の内面に長尺状のタブが止着され,下方に延びており,ズボンの脚全体がたくし上げられ且つタブの自由端がズボンの脚の付け根の外面に係止されることによって,ズボンの脚全体を短くし,半ズボンのように使用することができるものである。
しかし,引用意匠3は,本願意匠のタブ及び第1,第2面ファスナに相当するものを有していない。その理由は以下の通りである。
第1に,引用意匠3のタブ及びタブの自由端とズボンの脚の付け根の外面とを係止する手段は,ズボンの脚全体を短くし,半ズボンのように使用するためのものであるので,その機能及び用途が,本願意匠のタブ及び第1,第2面ファスナの機能及び用途と相違している。
第2に,引用意匠3のタブは,ズボンの脚の太股が挿入される部分の内面に止着されたものであり,ズボンの脚をたくし上げる前の状態(すなわち,ズボンの脚が延びた状態)でズボンの脚の内部に隠れるように配置されるものである。すなわち,このタブはズボンの裾の踵部分に設けられておらず且つズボンの踵部分から下方にも延びていない。したがって,引用意匠3のタブは,その設けられた位置,大きさ及び範囲が,本願意匠のタブが設けられた位置,大きさ及び範囲と全く相違している。
第3に,引用意匠3は,タブとズボンの脚の付け根とがどのような手段で係止されているのかは不明である。換言すると,タブとズボンの脚の付け根とに面ファスナが設けられているのか不明である。仮に,タブとズボンの脚の付け根とに面ファスナが設けられているとしても,タブに設けられた面ファスナは,ズボンの脚の太股が挿入される部分の内面に止着されたタブに設けられているため,タブに設けられた面ファスナが設けられた位置が,本願意匠の第1面ファスナの設けられた位置と全く相違する。脚の付け根の面ファスナも,その形状,設けられた位置,大きさ及び範囲が,本願意匠の第2面ファスナの形状,設けられた位置,大きさ及び範囲と全く相違する。
(3-4)引用意匠4
引用意匠4は,その物品が衣類用裏地である。
引用意匠4は,下記URLに示されるように,ズボンの裾の外周面に黒色が施されており(以下,これを黒色部分と称する。),ズボンの裾の踵部分からタブが下方に延びており,このタブの先端部のつま先側の面(前側の面)に矩形状の緑色が施されている(以下,これを緑色部分と称する。)。
しかし,引用意匠4は,本願意匠のタブ及び第1,第2面ファスナに相当するものを有していない。その理由は以下の通りである。
第1に,下記URLには,引用意匠4の詳細が何ら記載されておらず,黒色部分及び緑色部分が何であるのか不明である。このように緑色部分を黒色部分に係止するか否かについても何ら記載がない以上,引用意匠4のタブ,黒色部分及び緑色部分が,本願意匠のタブ,第1及び第2面ファスナと同様の機能及び用途(すなわち,踵部分のみを裾上げする機能及び用途)を奏するものであると解されるべきでない。
第2に,仮に,黒色部分及び緑色部分が面ファスナであったとしても,以下の1?3)の点で相違している。
1)緑色部分は,タブの先端部のつま先側の面(前側の面)に設けられているので,当該緑色部分は,その設けられた位置が本願意匠の第1面ファスナの設けられた位置と全く相違する。
2)緑色部分を黒色部分の踵側部分に係止させると,タブがO字状に折り返されることになる。このタブの態様は,本願意匠の第1面ファスナが第2面ファスナに係止された状態のタブの態様と全く相違している。
3)黒色部分はズボンの裾の外周面全体に設けられていることから,当該黒色部分の形状,設けられた位置,大きさ及び範囲が,本願意匠の第2面ファスナの形状,設けられた位置,大きさ及び範囲と全く相違している。
https://oami.europa.eu/eSearch/#details/designs/000585765-0002
(3-5)引用意匠5
引用意匠5は,その物品が釣用ズボンである。
引用意匠5は,図6に示されるように,ズボンの裾のつま先側の内面に係止部材11が止着され,係止部材11が下方に延びており,係止部材11の上端部及び下端部にドット釦11bが設けられている。
このように引用意匠5は,本願意匠のタブ及び第1,第2面ファスナに相当するものを有していないことは明らかである。具体的には以下の通りである。
第1に,係止部材11は,図4及び図5に示されるように,釣用履物2の脛部分に設けられたリボン状の布地の係止部材24に通され,二つのドット釦11bが止められることによって,釣用ズボンと釣用履物2とを連結している。このように係止部材11及び二つのドット釦11bは,釣用ズボンと釣用履物2とを連結するためのものであるので,その機能及び用途が,本願意匠の踵部分の裾上げに用いられるタブ及び第1,第2面ファスナの機能及び用途と全く相違している。
第2に,係止部材11は,ズボンの裾のつま先側の内面に設けられ,下方に延びているので,係止部材11が設けられた位置が,本願意匠のタブの設けられた位置と全く相違している。
第3に,二つのドット釦11bは,面ファスナではない。しかも,上側のドット釦11bは,係止部材11の上端部に設けられているので,その位置が本願意匠の第2面ファスナの位置と全く相違している。
(4)創作容易性の判断
以上の通り,引用意匠1?5には,本願意匠のタブ及び第1面ファスナに相当するものが何ら開示されていないので,当業者が引用意匠1?5から本願意匠を容易に創作できたものではない。
もっとも,審査官殿は,拒絶査定において,「ズボンの裾の踵部分のみを裾上げするものも,係止のための第1と第2の面ファスナの長さ寸法が異なるものも,従来より見受けられることは,先の拒絶理由通知書の例示から明らかなことである。
そうだとすると,仮令本願の意匠と同様の態様をしたものが例示されていないとしても,その発想は既にあったと言えるものであり,また,意匠的にもその着想自体に於いて珍しくもなく何ら創意を要するとは言えないところであり,したがって,通常の知識を有する者が日本国内又は外国に於いて公然知られた形状に基づいて容易に創作をすることができたものと認められます」と認定されている。
しかし,仮に,本願意匠のうち個々の構成要素が,ありふれているものであったとしても,ズボンの裾の踵部分のみを裾上げするものの各構成要素は,引用意匠1A,1B及び本願意匠から明らかであるように,取り得る態様が種々あり,その組み合わせから創出される全体としての形態には極めて多くのバリエーションが存在する。そのような状況の中,本願意匠は,裾の踵部分の外面(裾の後側部分の面)に長尺の矩形状の第2面ファスナが設けられ,ズボンの裾の踵部分から第2面ファスナの長さ寸法の半分以下の長さ寸法を有するタブが下方に延びており,このタブの踵側の面(後側の面)にタブの長さ寸法よりも短い長さ寸法を有する第1面ファスナが設けられたものであって,その全体の印象として特有のまとまり感のある特徴を備えているので,当業者にとって容易に創作し得たと言えるものではない。

4.当審の判断
本願意匠が,当業者であれば,容易にその意匠の創作をすることができたものか否かについて,以下検討する。
(1)本願意匠
本願意匠は,意匠に係る物品を「ズボン」とし,本願部分をズボンの両方の足を通す部分(以下,「足通し部」という。)それぞれの裾の踵側に,外した場合に下方に突出するようにズボンの裾の内側の下端寄りに設けられた短冊状の布片であるタブ(以下,「タブ」という。)の外側の面に,面ファスナを設けた第1面ファスナ部(以下,「第1面ファスナ部」という。)の表裏と,ズボンの両方の足通し部それぞれの裾寄りの踵側の外面の左右中央付近に設けられた区画に,第1面ファスナ部と接合する面ファスナを設けた第2面ファスナ部(以下,「第2面ファスナ部」という。)としたもので,本願部分の形態は,第1面ファスナ部において,縦横比が約7:5の縦長長方形状のタブの表裏とし,接合した場合に内面側となるタブの外面の周囲に余地部を残して中央寄りに縦横比が約3:2の隅丸縦長長方形状の面ファスナ(以下,「小面ファスナ」という。)を設け,タブの左右両端及び下端の縁に沿ってステッチを施したもので,第2面ファスナ部において,ズボンの裾寄りに余地部を残して水平方向に裾上げ用のステッチ(以下,「裾上げ用ステッチ」という。)を施し,ズボンの裾上げ用ステッチと交差する垂直方向にズボンの裾の下端部に僅かに余地部を残してズボンの左右中央寄りの外面に,タブより細長い縦横比が約4:1の隅丸縦長長方形状の面ファスナ(以下,「長面ファスナ」という。)を,タブの高さの約2倍程度の高さから僅かな余地部まで設け,タブの小面ファスナと任意の位置で合わせて係止するものである。
(2)原査定の拒絶の理由の引用意匠
(ア)意匠1
意匠1は,発明の名称を「ズボン」とし,【図1】及び【図2】に表された第1の実施の形態に係る態様は,ズボンの裾の踵側に斜めに外側に折り曲げる折り返し部を設け,ズボンの裾寄りの踵側の外面に直接上下に同じ長さの面状ファスナを設け,折り返し部を踵側で係止するものである。【図3】ないし【図5】に表された第2の実施の形態に係る態様は,ズボンの裾の踵側に斜めに外側に折り曲げる折り返し部を設け,当該部分に折り返しを係止する折り返し片を取り付ける態様のものであって,【図3】は,長方形を上下に二つ設け横長帯状の弧状接続部(ひんじ部)で繋いだ縦長短冊状の取り付け片に,上下に同形同大の正方形の面状ファスナを設けたもので,【図4】及び【図5】に示すように,その取り付け片をズボンの裾寄りの踵側の外面に付し,折り返し部を踵側で係止するものである。
(イ)意匠2
意匠2は,考案の名称を「マジックテープのついたズボン」とし,その図面に表された態様は,面ファスナ部は,ズボンの足通し部の裾寄りの内面の裾寄りと上方寄りの位置に面ファスナを取り付けたもので,裾を内側に折り込んで上下の面ファスナを留めるものである。上下の向かい合う位置に,裾寄りは横長長方形の面ファスナを,上方寄りは,裾寄りの面ファスナの長辺と同幅を短辺とした縦長長方形のものを,縦長長方形のもの1個分の距離を横長長方形のものの上に配したものである。
(ウ)意匠3
意匠3は,意匠に係る物品を「ズボン」とし,その写真に現された態様は,七分丈のズボンの内面に縦長短冊状の先端部が三角形状に尖ったタブを設け,ズボンの脚の付け根付近の中央寄りに留め部を設け,ズボンの裾をたくし上げた時にタブを留め部に留められるようにしたものである。係止部が面ファスナかどうかは不明なものである。
(エ)意匠4
意匠4は,意匠に係る物品を「衣類用裏地」とし,その図面に表された態様は,ズボンの裾の下方の中央寄りに突出した縦長短冊状のタブが設けられ,黒色と緑色で上下に色分けされ,下方の緑色の部分の中央に黒色の小型円形の留め部状のものが表されているものである。当該小型円形の部分が面ファスナであるかどうかは不明であり,タブがズボンの踵側に設けられているか,また,当該部分を留める対応部分がどこであるか等も不明である。
(オ)意匠5
意匠5は,発明の名称を「釣用履物及び釣用衣類」とし,【図4】ないし【図9】に表された釣用ズボンに設けられた係止部材で,その図面に表された態様は,ズボンのつま先側の左右中央の内側の折り返し部に縫い付けられた縦長短冊状の係止部材で,係止部材の下端部と折り返し部付近に嵌合する円形状の係止用フックがズボンの内側向きに設けられ,係止部材を靴の横帯状部分に通し,係止部材の上下の係止用フックを留めることによって防寒や防水の効果を高めるものである。
(3)創作容易性の判断
まず,本願意匠が属するこの種のズボンの分野においては,ズボンに裾等の折り返しを留めるために係止部を設けることは,意匠1ないし意匠5に見られるように,本願出願前より既に見られるありふれた態様といえるものである。
また,係止部材を縦長短冊状のタブに設けた態様も,意匠1,意匠3ないし意匠5に見られるように,本願出願前より既に見られるありふれた態様といえるものである。
そして,タブをズボンの踵側に設け,タブに長方形状の面ファスナを設けることも意匠1に見られるように,本願出願前より既に知られた態様といえるものである。
さらに,長い面ファスナと短い面ファスナを設け,裾の長さを調節できるようにした態様も意匠2に見られるとおり,本願出願前より既に知られた態様といえるものである。
しかしながら,意匠1のズボンに設けられた係止部材は,ズボンの外側の縦方向にズボンの裾より上に取り付けられ,正方形の面ファスナが取り付けられた位置で裾が斜めに留められるもので,下方に突出した短冊状のタブを設けている本願部分とは,係止した時に折り返される態様及び面ファスナの形状が異なるものである。
また,本願部分は,タブのほとんどに小面ファスナが設けられ,長面ファスナはズボンの裾の外面に設けられているものであり,長い面ファスナと短い面ファスナをズボンの内面に設けた意匠2とは異なるものであり,意匠1の係止部材を意匠2の長い面ファスナと短い面ファスナと組み合わせたとしても,それらの意匠から,本願部分の態様を直ちに導き出すことはできないものである。
衣類であるズボンの裾等の折り返しを留めるために係止部を設け,係止部材として面ファスナを用いることは,従来より広く用いられている手法といえるものであるが,本願部分の態様は,その面ファスナを大小とし,小面ファスナをズボンの踵側に下方に突出するタブの外側の面に設けた態様が特徴的といえるものであり,また,ズボンの両方の足通し部それぞれの踵側の外面に本願部分の様な長面ファスナを設けた態様は,他には見られないものであるから,当業者にとって,本願部分の態様が容易に創出し得るものということはできない。
そうすると,本願部分の,ズボンの足通し部それぞれの裾の踵側に設け,第1面ファスナ部において,縦横比が約7:5の縦長長方形状のタブの表裏とし,その周囲に余地部を残して,タブの中央寄りの外面に縦横比が約3:2の隅丸縦長長方形状の小面ファスナを設け,タブの左右両端及び下端の縁に沿ってステッチを施したもので,第2面ファスナ部において,ズボンの両方の足通し部それぞれの裾寄りに余地部を残して水平方向に裾上げ用ステッチを施し,ズボンの裾上げ用ステッチと交差する垂直方向にズボンの裾の下端部に僅かに余地部を残してズボンの左右中央寄りの外面に,タブより細長い縦横比が約4:1の隅丸縦長長方形状の長面ファスナを,タブの高さの約2倍程度の高さから僅かな余地部まで設け,タブの小面ファスナと任意の位置で合わせて係止するものとした態様は,本願部分の独特の態様といえるもので,当業者であれば容易に創作することができたものとはいうことができないものである。
よって,本願意匠は,出願前にその意匠の属する分野における通常の知識を有する者が,意匠1ないし意匠5に見られる,日本国内又は外国において公然知られた形状,模様若しくは色彩又はこれらの結合に基づいて容易に創作をすることができた意匠ということはできない。

5.むすび
したがって,本願意匠は,原査定の拒絶の理由によっては,意匠法第3条第2項の規定に該当しないものであり,本願を拒絶すべきものとすることはできない。

また,他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。

よって,結論のとおり審決する。
別掲
審決日 2016-08-22 
出願番号 意願2014-29007(D2014-29007) 
審決分類 D 1 8・ 121- WY (B1)
最終処分 成立  
前審関与審査官 木本 直美 
特許庁審判長 本多 誠一
特許庁審判官 斉藤 孝恵
須藤 竜也
登録日 2016-10-21 
登録番号 意匠登録第1563446号(D1563446) 
代理人 大西 正夫 

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