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審決分類 審判    D3
管理番号 1357736 
審判番号 無効2018-880005
総通号数 241 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 意匠審決公報 
発行日 2020-01-31 
種別 無効の審決 
審判請求日 2018-05-10 
確定日 2019-11-28 
意匠に係る物品 検査用照明器具 
事件の表示 上記当事者間の意匠登録第1224615号「検査用照明器具」の意匠登録無効審判事件について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。
理由 第1 手続の経緯
本件意匠登録第1224615号の意匠(以下「本件登録意匠」という。)は、平成16年(2004年)4月12日に意匠登録出願(意願2004-11226)されたものであって、審査を経て同年10月22日に意匠権の設定の登録がなされ、同年12月6日に意匠公報が発行され、その後、当審において、概要、以下の手続を経たものである。

・本件審判請求 平成30年 5月10日
・審判事件答弁書提出 平成30年 7月10日
・審判事件弁駁書提出 平成30年 8月21日
・口頭審理陳述要領書(被請求人)提出 平成30年10月 5日
・口頭審理陳述要領書2(被請求人)提出 平成30年10月12日
・口頭審理陳述要領書(請求人)提出 平成30年10月22日
・口頭審理 平成30年11月 5日
・上申書(被請求人)提出 平成30年11月13日
(この上申書は、審理終結後に提出されたものであり、上申の内容が
無効理由に関係しないから、当審における審理の対象にはしない。)


第2 請求人の申し立て及び理由
請求人は、請求の趣旨を
「登録第1224615号意匠の登録を無効とする。
審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求める。」と申し立て、その理由を、おおむね以下のとおり主張し(「審判事件弁駁書」及び「口頭審理陳述要領書」の内容を含む。)、その主張事実を立証するため、後記5に掲げた甲第1号証ないし甲第10号証を提出した。

1 意匠登録無効の理由の要点
本件登録意匠(意匠登録第1224615号の意匠。審判請求書の別紙第1。本審決の別紙第1参照。)は、下記の理由ア又はイにより、意匠法第48条第1項第1号に該当し、無効とすべきである。
ア 本件登録意匠は、本件登録意匠の出願前に頒布された刊行物である甲第1号証に掲載されている意匠(放熱部)により又は甲第2号証に掲載されている意匠(放熱部)により又は甲第3号証に掲載されている意匠(放熱部)により、意匠法第3条第1項第3号又は同法第3条第2項の規定により意匠登録を受けることができないものである。
イ 本件登録意匠は、甲第1号証に掲載されている意匠と甲第2号証に掲載されている意匠により又は甲第1号証に掲載されている意匠と甲第3号証に掲載されている意匠により、意匠法第3条2項の規定により意匠登録を受けることができないものである。

2 本件意匠登録を無効とすべき理由
(1)本件登録意匠と甲第1号証?甲第3号証に掲載の意匠の要旨
ア 本件登録意匠の要旨(別紙第1参照)
本件登録意匠の基本的構成態様は、以下のようである。
(A)検査用照明器具に放熱部(部分意匠)が設けられている。
(B)該放熱部には、延伸する軸体が設けられている。
(C)該軸体には、互いに等しい間隔をあけて配置された円板状の直径が同一の複数枚のフィンが設けられている。
(D)該複数枚のフィンのうち終端のフィンは、他のフィンよりも厚い。
本件登録意匠の各部の形態(具体的構成態様)は、以下のようである。
(E)複数枚のフィンの間隔は、フィンにおける直径の約12.5%である。
(F)フィンの枚数は計3枚であり、そのうち、終端のフィンが1枚、他のフィンが2枚である。
(G)複数枚のフィンのうち、他のフィンの厚みは、フィンの直径の約4.2%であるとともに、終端のフィンは、他のフィンに比べて約2倍の厚みである。
(H)軸体は同一径で延伸し、その直径は、フィンの約20.8%である。
(I)複数枚のフィンのうち、終端のフィンは、後面の縁の全てに面取り(厚みの約10.0%)が施してある。
イ 甲第1号証の要旨(別紙第2参照)
甲第1号証は、書籍「エレクトロニクスのための熱設計完全入門」
発行日 平成9年(1997年)7月18日
著者 国峰 尚樹
発行所 日刊工業新聞社
の抜粋(写し)である。
甲第1号証に掲載の意匠(放熱部(タワー型のヒートシンク))は、本件登録意匠の出願前に公知となった先行意匠であって、物品は、甲第1号証p.169の下から6行目の「表面の熱流密度が大きい電子部品に対して用いられる」という記載からも明らかなように、電子機器一般である。
甲第1号証に掲載の意匠の基本的構成態様は、以下に示すところである。
(a1)電子機器に放熱部が設けられている。
(b1)該放熱部には、延伸する軸体が設けられている。
(c1)該軸体には、互いに等しい間隔をあけて配置された円板状の直径が同一の複数枚のフィンが設けられている。
(d1)該複数枚のフィンのうち終端のフィンは、他のフィンと同じ厚さである。
甲第1号証に掲載の意匠の各部の形態(具体的構成態様)は、以下に示すところである。
(e1)複数枚のフィンの間隔は、フィンにおける直径の約21%である。
(f1)フィンの枚数は計4枚であり、そのうち、終端のフィンが1枚、他のフィンが3枚である。
(g1)全てのフィンの厚みは、フィンの直径の約4%である。
(h1)軸体は同一径で延伸し、その直径は、フィンの約38%である。
(i1)終端のフィンは、後面の縁に面取りを施してない。
ウ 甲第2号証の要旨(別紙第3参照)
甲第2号証に掲載の意匠は、本件登録意匠の出願前に公然実施(遅くとも平成14年)となった先行意匠であって、物品は、検査用照明器具である。
甲第2号証に掲載の意匠の放熱部の基本的構成態様は、以下に示すところである。
(a2)検査用照明器具に放熱部が設けられている。
(b2)該放熱部には、延伸する軸体が設けられている。
(c2)該軸体には、互いに等しい間隔をあけて配置された円板状の直径が同一の複数枚のフィンが設けられている。
(d2)該複数枚のフィンのうち終端のフィンは、他のフィンよりも厚い。
本件登録意匠の各部の形態(具体的構成態様)は、以下に示すところである。
(e2)複数枚のフィンの間隔は、フィンにおける直径の約5%である。
(f2)フィンの枚数は計3枚であり、そのうち、終端のフィンが1枚、他のフィンが2枚である。
(g2)複数枚のフィンのうち、他のフィンの厚みは、フィンの直径の約5%であるとともに、終端のフィンは、他のフィンに比べて約2倍の厚みである。
(h2)軸体は同一径で延伸し、その直径は、フィンの約76%である。
(i2)複数枚のフィンのうち、終端のフィンは、後面の縁の全てに面取り(厚みの約25%)が施してある。
エ 甲第3号証の要旨(別紙第4参照)
甲第3号証(発行日:平成15年6月16日)に掲載の意匠の物品は、検査用照明器具である。
甲第3号証に掲載の意匠の放熱部の基本的構成態様は、以下に示すところである。
(a3)検査用照明器具に放熱部が設けられている。
(b3)該放熱部には、延伸する軸体が設けられている。
(c3)該軸体には、互いに等しい間隔をあけて配置された円板状の直径が同一の複数枚のフィンが設けられている。
(d3)該複数枚のフィンのうち終端のフィンは、他のフィンよりも厚い。
本件登録意匠の各部の形態(具体的構成態様)は、以下に示すところである。
(e3)複数枚のフィンの間隔は、フィンにおける直径の約10%である。
(f3)フィンの枚数は計2枚であり、そのうち、終端のフィンが1枚、他のフィンが1枚である。
(g3)複数枚のフィンのうち、他のフィンの厚みは、フィンの直径の約4.2%であるとともに、終端のフィンは、他のフィンに比べて約2.5倍の厚みである。
(h3)軸体は同一径で延伸し、その直径は、フィンの約42%である。
(i3)複数枚のフィンのうち、終端のフィンは、後面の縁の全てに面取り(厚みの約33%)が施してある。
(2)本件登録意匠と甲第1号証?甲第3号証に掲載の意匠の対比
ア 本件登録意匠と甲第1号証との対比
(物品の対比)
甲第1号証(当審注:「本件登録意匠」の誤記と認められる。)に掲載されている物品が「検査用照明器具」に対して、甲第1号証に掲載されている物品は、「検査用照明器具」に限定されない電子機器である。
(形態の対比)
(イ)本件登録意匠の基本的構成態様(A)の「検査用照明器具」に対して、甲第1号証の基本的構成態様(a1)は「電子機器」である。
(ロ)甲第1号証の基本的構成態様(b1)、(c1)は、本件登録意匠の基本態様(B)、(C)と同じである。
(ハ)本件登録意匠の基本的構成態様(D)の「該複数枚のフィンのうち終端のフィンは、他のフィンよりも厚い。」に対して、甲第1号証の基本的構成態様(d1)は「該複数枚のフィンのうち終端のフィンは、他のフィンと同じ厚さである。」である。
(ニ)本件登録意匠の各部の形態(具体的構成態様)(E)?(H)と甲第1号証の各部の形態(具体的構成態様)(e1)?(h1)は、数値が厳密には異なる。
(ホ)本件登録意匠の各部の形態(具体的構成態様)(I)の「複数枚のフィンのうち、終端のフィンは、後面の縁の全てに面取り(厚みの約10.0%)が施してある。」に対して、甲第1号証の各部の形態(具体的構成態様)(i1)は「終端のフィンは、後面の縁に面取りを施していない。」である。
イ 本件登録意匠と甲第2号証との対比
(物品の対比)
本件登録意匠に係る物品と甲第3号証(当審注:「甲第2号証」の誤記と認められる。)に係る物品は、同一の「検査用照明器具」である。
(形態の対比)
(イ)甲第2号証の基本的構成態様(a2)、(b2)、(c2)、(d2)は、本件登録意匠の基本的構成態様(A)、(B)、(C)、(D)と同じである。
(ロ)本件登録意匠の各部の形態(具体的構成態様)(E)?(I)と甲第2号証の各部の形態(具体的構成態様)(e2)?(i2)は。数値が厳密には異なる。
ウ 本件登録意匠と甲第3号証との対比
(物品の対比)
本件登録意匠に係る物品と甲第3号証に係る物品は、同一の「検査用照明器具」である。
(形態の対比)
(イ)甲第3号証の基本的構成態様(a3)、(b3)、(c3)、(d3)は、本件登録意匠の基本的構成態様(A)。(B)、(C)、(D)と同じである。
(ロ)本件登録意匠の各部の形態(具体的構成態様)(E)?(I)と甲第2号証の各部の形態(具体的構成態様)(e3)?(i3)は、数値が厳密には異なる。
(3)本件登録意匠と甲第1号証?甲第3号証に掲載の意匠の形態の共通点及び差異点の評価
意匠法第3条第1項の規定(及び同法第24条第2項の規定)に基づき以下のように評価すべきである。
ア 本件登録意匠と甲第1号証に掲載の意匠の形態の共通点及び差異点の評価
甲第1号証(当審注:「本件登録意匠」の誤記と認められる。)に掲載されている物品が「検査用照明器具」に対して、甲第1号証に掲載されている物品は、「検査用照明器具」に限定されない電子機器である。よって、本件登録意匠に係る物品「検査用照明器具」は、甲第1号証に掲載されている物品「電子機器」に含まれるので、本件登録意匠に係る物品と甲第1号証に掲載されている物品は共通する。
本件登録意匠において、需要者が注意を惹く部分は、基本的構成態様(B)、(C)である。つまり、以下の構成態様である。
(B)該放熱部には、延伸する軸体が設けられている。
(C)該軸体には、互いに等しい間隔をあけて配置された円板状の直
径が同一の複数枚のフィンが設けられている。
甲第1号証の基本的構成態様(b1)、(c1)は、本件登録意匠の基本的構成態様(B)、(C)と共通する。
また、本件登録意匠の各部の形態(具体的構成態様)(E)?(H)と甲第1号証の各部の形態(具体的構成態様)(e1)?(h1)の数値の差異は、微差であり、需要者に起こさせる美感に明らかに影響しない。
また、本件登録意匠の基本的構成態様(D)及び各部の形態(具体的構成態様)(I)と甲第1号証の基本的構成態様(d1)及び各部の形態(具体的構成態様)(i1)の差異については、「検査用照明器具」においては終端のフィンは他のフィンよりも厚くして面取りを施すことは当然に行われることであるので、需要者に起こさせる美感に影響するものではない。面取りは、安全上、検査用照明器具を含め産業機器では常識的に行われることであり、面取りを施すと必然的に厚みは厚くなる。
イ 本件登録意匠と甲第2号証に掲載の意匠の形態の共通点及び差異点の評価
本件登録意匠に係る物品と甲第2号証に掲載されている物品はともに「検査用照明器具」であり共通する。
本件登録意匠において、需要者が注意を惹く部分は、基本的構成態様(B)、(C)である。甲第2号証の基本的構成態様(b2)、(c2)は、本件登録意匠の基本的構成態様(B)、(C)と共通する。また、甲第2号証の基本的構成態様(d2)は、本件登録意匠の基本的構成態様(D)と共通する。
また、本件登録意匠の各部の形態(具体的構成態様)(E)?(I)と甲第2号証の各部の形態(具体的構成態様)(e2)?(i2)の数値の差異は、微差であり、需要者に起こさせる美感に影響しない。
ウ 本件登録意匠と甲第3号証に掲載の意匠の形態の共通点及び差異点の評価
本件登録意匠に係る物品と甲第3号証に掲載されている物品はともに「検査用照明器具」であり共通する。
本件登録意匠において、需要者が注意を惹く部分は、基本的構成態様(B)、(C)である。甲第3号証の基本的構成態様(b3)、(c3)は、本件登録意匠の基本的構成態様(B)、(C)と共通する。また、甲第3号証の基本的構成態様(d3)は、本件登録意匠の基本的構成態様(D)と共通する。
また、本件登録意匠の各部の形態(具体的構成態様)(E)?(I)と甲第3号証の各部の形態(具体的構成態様)(e3)?(i3)の数値の差異は、微差であり、需要者に起こさせる美感に影響しない。
(4)本件登録意匠と甲第1号証?甲第3号証に掲載の意匠の形態の共通点及び差異点の評価に基づく結論
ア 本件登録意匠と甲第1号証に掲載の意匠の形態の共通点及び差異点の評価に基づく結論
(意匠法第3条第1項の規定(及び同法第24条第2項の規定)に基づく評価に基づく結論)
本件登録意匠は、甲第1号証に掲載されている意匠と美感を共通にするものであるから、意匠法第3条第1項第3号の規定に基づき意匠登録を受けることができないとされるべきである。
(意匠法第3条第2項の規定に基づく評価に基づく結論)
甲第1号証は、平成9年7月18日に発行された初版1刷である。現在も初版が書店又はインターネットで初版のまま(初版26刷)販売されている。また、請求人も、この無効審判請求(或いはこれまでの被請求人との係争)と関係なく以前から所持していた(初版17刷)。このように、甲第1号証で示される書籍が、世の中の熱設計の技術者に広く読み続けてこられた極めて周知なものである。
甲第1号証には、タワー型のヒートシンクは、代表的ヒートシンクの形状であることが示されている(p.171の図16-7)。また、タワー型のヒートシンクを含めヒートシンクは、表面の熱流密度が大きい電子部品に対して用いられることが示されている(p.169の下から6行目)。なお、タワー型のヒートシンクは、代表的ヒートシンクの形状であることが他の書籍(例えば、甲第4号証(図1.1.28)など)に記載されており、また、光関係でも多くの文献等(例えば、甲第2号証、甲第3号証の他、甲第5号証、甲第6号証、甲第7号証など)に記載されている。
従って、検査用照明器具であっても、光を放射するLED(電子部品)から発生する熱を放出するために甲第1号証に掲載された放熱部(タワー型のヒートシンク)を用いることは本書籍が想定していることである。
また、甲第1号証に掲載されている意匠(放熱部(タワー型のヒートシンク))は、極めて周知なものである事実とともに、この書籍の性質において熱設計の技術者に対して手本となるものであるから、これとほぼ違わぬ形状を検査用照明器具において一者(しかも著者とは何ら関係のない者)に独占させることは、熱設計の技術者に酷であるばかりか、世界市場において製品競争力の優位性を保たんとする我が国産業の発展を阻害するものである。
従って、本件登録意匠は、当業者は容易に甲第1号証に掲載されている意匠に基づいて創作することができたものであるから、意匠法第3条第2項の規定に基づき意匠登録を受けることができないとされるべきである。
イ 本件登録意匠と甲第2号証に掲載の意匠の形態の共通点及び差異点の評価に基づく結論
(意匠法第3条第1項の規定(及び同法第24条第2項の規定)に基づく評価に基づく結論)
本件登録意匠は、甲第2号証に掲載されている意匠と美感を共通にするものであるから、意匠法第3条第1項第3号の規定に基づき意匠登録を受けることができないとされるべきである。
(意匠法第3条第2項の規定に基づく評価に基づく結論)
本件登録意匠は、当業者は容易に甲第2号証に掲載されている意匠に基づいて創作することができたものであるから、意匠法第3条第2項の規定に基づき意匠登録を受けることができないとされるべきである。
ウ 本件登録意匠と甲第3号証に掲載の意匠の形態の共通点及び差異点の評価に基づく結論
(意匠法第3条第1項の規定(及び同法第24条第2項の規定)に基づく評価に基づく結論)
本件登録意匠は、甲第3号証に掲載されている意匠と美感を共通にするものであるから、意匠法第3条第1項第3号の規定に基づき意匠登録を受けることができないとされるべきである。
(意匠法第3条第2項の規定に基づく評価に基づく結論)
本件登録意匠は、当業者は容易に甲第3号証に掲載されている意匠に基づいて創作することができたものであるから、意匠法第3条第2項の規定に基づき意匠登録を受けることができないとされるべきである。
エ 本件登録意匠と甲第1号証及び甲第2号証に掲載の意匠の形態の共通点及び差異点の評価に基づく結論
(意匠法第3条第2項の規定に基づく評価に基づく結論)
意匠審査基準(平成10年及び平成11年改正意匠法対応)には、「柵」と「柵用装飾板」が公然知られた意匠である場合、「その意匠の属する分野において、公然知られた意匠の装飾板部分を単に他の装飾板に置き換えて構成することは当業者にとってありふれた手法である」と述べられている。
この「柵」を甲第1号証に掲載の意匠(放熱部)が対応し、「柵用装飾板」を甲第1号証(当審注:「甲第2号証」の誤記と認められる。)に掲載の意匠(放熱部)において他のフィンと異なる厚みで後面の縁の全てに面取りが施してある終端のフィンが対応するので、「その意匠の属する分野において、公然知られた意匠の放熱部の終端のフィンを単に他の終端のフィンに置き換えて構成することは当業者にとってありふれた手法である」ということである。
従って、本件登録意匠は、当業者は容易に甲第1号証及び甲第2号証に掲載されている意匠に基づいて創作することができたものであるから、意匠法第3条第2項の規定に基づき意匠登録を受けることができないとされるべきである。
オ 本件登録意匠と甲第1号証及び甲第3号証に掲載の意匠の形態の共通点及び差異点の評価に基づく結論
(意匠法第3条第2項の規定に基づく評価に基づく結論)
上記「エ 本件登録意匠と甲第1号証及び甲第2号証に掲載の意匠の形態の共通点及び差異点の評価に基づく結論」と同様な理由により、本件登録意匠は、当業者は容易に甲第1号証及び甲第3号証に掲載されている意匠に基づいて創作することができたものであるから、意匠法第3条第2項の規定に基づき意匠登録を受けることができないとされるべきである。
(5)したがって、本件登録意匠は、前記1の理由ア又はイにより、同法第48条第1項第1号に該当し、無効とすべきである。

3 「審判事件弁駁書」における主張
(1)本件登録意匠の要部(後記第3の1(1))に対する反論
被請求人の主張する本件登録意匠の要部の要件A?Eに対する反論は、次項で述べる。
(2)無効理由に対する反論(後記第3の1(2))に対しての反論
ア 「反論1」(後記第3の1(2)イ)に対しての反論
(ア)被請求人は、前記第2の2(1)ア「本件登録意匠の要旨」について、「請求人は、この欄で本件登録意匠・・・・・その内容は客観性に欠けていて、類否及び創作非容易性を判断するうえでの基準となる内容としてみれば、明らかに失当である。客観的にみれば、本件登録意匠の要部は上述したA?Eである。」と述べている。
要件A?Eの中で、前記第2の2(1)ア「本件登録意匠の要旨」に記載されていないのは、要件A中の要件「後端部側周面から電源ケーブルが引き出されたケーシング」と要件E「電源ケーブルは貫通せず、後端面には、電源ケーブルの引き出し口が存在しない」の2点である。従って、被請求人は、これらが記載されていないのが、「客観性に欠けている」と主張しているようである。
前記第2の2(1)ア「本件登録意匠の要旨」が「客観性に欠けている」と主張し、「客観的にみれば、本件登録意匠の要部は上述したA?Eである。」と主張するのは、極めて恣意的であり、次のイに示すように、客観性のないものである。
(イ)要件E「電源ケーブルは貫通せず、後端面には電源ケーブルの引き出し口が存在しない」は、審決取消訴訟(平成30年(行ケ)第10020号)の判決(平成30年6月27日)において、要部となり得ないことが決している。
審決取消訴訟(平成30年(行ケ)第10020号)において、次のように結論されている(注:甲2意匠が本件登録意匠、甲1は本件登録意匠の関連意匠、原告が本無効審判の被請求人)。
「1(1)ウ ・・・一方、原告主張共通点に係る『後フィン部の後端面には電源ケーブルの引き出し口が存在しない、あるいは電源ケーブルが引き出されていない形態』は、本件実線部分及び甲1相当部分から視覚を通じて具体的に認識できる形態ではなく、別紙1及び3の各図面の破線で表した部分において、各軸体及び各フィン部の前方の部材の側周面から配線ケーブル又は電源ケーブルが引き出されていることから、『後フィン部の後端面には電源ケーブルの引き出し口が存在しない、あるいは電源ケーブルが引き出されていない』ことを間接的に把握できるにとどまるものである。そうすると、原告主張共通点は、意匠登録出願の願書に『部分意匠として意匠登録を受けようとする部分』として特定された範囲(本件実線部分及び甲1相当部分)から、視覚を通じて具体的に認識できる形態とはいえないから、本件登録意匠(本件実線部分)と甲1意匠(甲1相当部分)の共通点と認めることができない。」
「前記1(1)ウで説示したのと同様の理由により、原告主張共通点は、本件登録意匠(本件実線部分)と甲2意匠(甲2相当部分)の共通点と認めることができないから、原告の上記主張は、採用することができない。したがって、原告の上記主張は、採用することができない。」
イ 「反論3」(後記第3の1(2)エ)に対しての反論
(ア)「無効理由[1](甲1意匠に基づく新規性欠如)」について
被請求人は、「なぜ甲1意匠の物品が電子機器なのか、その意味すら不明である」と述べているが、その意が分からない。前記第2の2(1)イに、「物品は、甲第1号証p.169の下から6行目の「表面の熱流密度が大きい電子部品に対して用いられる」という記載からも明らかなように、電子機器一般である。」と記載しているように、甲第1号証の物品は、「電子機器」である。
被請求人は、「甲1意匠には、・・・・、フィンもすべて同一厚みであって、本願部分意匠のように複数の中間フィンとこれよりも分厚い後端フィンとからなる形態とは明らかに異なる」と述べている。しかし、本件物品業界では、後端フィンが中間フィンに比べて分厚くすることは当然に行われていることであり(このことは前記2で述べた。)、本件登録意匠の後端フィンが厚いことが美感に影響するものではない。
(イ)「無効理由[2](甲1意匠に基づく創作非容易性欠如)」について
被請求人は、「後端フィンが複数の中間フィンに比べて分厚い構成態様などは、甲1意匠の形態とは明らかに異なり、本件物品業界の需要者・当業者からみれば、従来にない極めて斬新な形態である」と述べている。しかし、上記無効理由「1」について述べたように、本件物品業界では、後端フィンが中間フィンに比べて分厚くすることは当然に行われていることである。
(ウ)「無効理由[3](甲2意匠に基づく新規性欠如)」について
被請求人は、「仮に、この突条がフィンだとしても、それはケーシングの側周囲に設けられているものであり、本件登録意匠のように、ケーシングよりも後方に設けられているものではない」と述べている。しかし、甲第2号証の意匠は、部品の収容機能をもたず放熱効果のみの後方部材(段差より後ろの部分)を設けた構造になっている。
(エ)「無効理由[4](甲2意匠に基づく創作非容易性の欠如)」について
被請求人は、「甲2意匠では、電源ケーブルがケーシング後端から引き出されているが、このデザイン発想から脱却できていない以上、本件物品業界の当業者が容易に創作できるとは到底考えられない」と述べている。しかし、前記ア(イ)でも述べたように、「電源ケーブルは貫通せず、後端面には電源ケーブルの引き出し口が存在しない」は、要部となり得ない。従って、被請求人の主張は明らかに失当である。
(オ)「無効理由[5](甲3意匠に基づく新規性欠如)」について
被請求人は、「そして、右側面図、参考A-A線拡大断面図において、フィン様のものに貫通孔が形成されていることから、この貫通孔が、電源ケーブルを保持・挿通させるためのケーブル貫通孔であることは、需要者・当業者からして明らかに看取できる」と主張している。しかし、前記ア(イ)でも述べたように、「電源ケーブルは貫通せず、後端面には電源ケーブルの引き出し口が存在しない」は、要部となり得ない。
また、被請求人は、「甲3意匠において、フィン様のものはケーシングの一部をなすものというべきであり、本件登録意匠のようにケーシングの後方に、フィン構造体(後方部材)が設けられた構成態様は、この甲3意匠にはー切開示されていない」と述べている。しかし、「ケーシング」なるものが部品の収容機能を有するものという意味のものならば、甲第3号証においてLED等を収容している前半部分がケーシングであり、後半部分はフィン構造体(後方部材)とするのが需要者・当業者からして常識であろう。なお、辞典(デジタル大辞泉)では、ケーシング(casing)は「包装材料。外箱・袋・筒など」と表されている。また、本件登録意匠(当審注:「甲3意匠」の誤記と認められる。)の参考A-A線拡大断面図には、上側の貫通孔と下側の貫通孔があり、右側面図とは整合していない。
(カ)「無効理由[6]「甲3意匠に基づく創作非容易性の欠如」について
被請求人は、「甲3意匠では、電源ケーブルがケーシング後端面から引き出されているが、このデザイン発想から脱却できていない以上、本件物品業界の当業者が容易に創作できるとは到底考えられない」と述べている。しかし、前記ア(イ)でも述べたように、「電源ケーブルは貫通せず、後端面には電源ケーブルの引き出し口が存在しない」は、要部となり得ない。従って、被請求人の主張は明らかに失当である。
(キ)「無効理由[7](甲1意匠及び甲2意匠に基づく創作非容易性の欠如)」について
被請求人は、「甲2意匠は(もちろん甲1意匠も)、ケーシング後端から電源ケーブルを軸方向に引き出すというデザイン発想から脱却できていないのだから、甲2意匠の電源ケーブルが邪魔となり、甲1意匠はおろか、その他の種々の形態に係るフィンをケーシング後端面に取り付けるというデザインに、本件物品分野の当業者が容易に想到するとは到底思えない」と述べている。しかし、前記ア(イ)でも述べたように、「電源ケーブルは貫通せず、後端面には電源ケーブルの引き出し口が存在しない」は、要部となり得ない。
前記2で述べたことではあるが、長年当業者に親しまれて極めて周知な甲第1号証の意匠の後端フィンを、甲第2号証に記載されているような周知の分厚い後端フィンに置き換えて構成することは当業者にとってありふれた手法である。
(ク)「無効理由[8](甲1意匠及び甲3意匠に基づく創作非容易性の欠如)」について
被請求人は、「甲3意匠は(もちろん甲1意匠も)、ケーシング後端から電源ケーブルを軸方向に引き出すというデザイン発想から脱却できていないのだから、甲3意匠の電源ケーブルが邪魔となり、甲1意匠はおろか、その他の種々の形態に係るフィンをケーシング後端面とは到底思えない」と述べている。しかし、前記ア(イ)でも述べたように、「電源ケーブルは貫通せず、後端面には電源ケーブルの引き出し口が存在しない」は、要部となり得ない。
前記2で述べたことではあるが、長年当業者に親しまれて極めて周知な甲第1号証の意匠の後端フィンを、甲第3号証に記載されているような周知の分厚い後端フィンに置き換えて構成することは当業者にとってありふれた手法である。

4 「口頭審理陳述要領書」における主張
(1)後記第3の2(1)について
ア 被請求人は、「前記審決取消訴訟(当審注:平成30年(行ケ)第10020号)の判決において、構成態様Eが要部として認められなかったのは、その表現が間接的であったからに過ぎない」とか「実際には、・・・本件物品の需要者・取引者は、間違いなく、要部Eに着目して類似判断をしているのである。」と述べている。
構成態様Eが要部ではないので、需要者・取引者が要部Eに着目して類似判断をすることはない。
イ 被請求人は、審決取消訴訟で被請求人が敗訴した原因は主張の表現のせいであると言っているが、審理の対象である形状に対して判断がされて敗訴したものであるとするのが正しいのではなかろうか。審決取消訴訟で申し立ての理由の主張の表現により判決が左右されるものではなかろう。
審決取消訴訟により「後端面には電源ケーブルの引き出し口が存在しない」は要部となり得ないのであるから、構成態様Eで残るのは「電源ケーブルは貫通せず」と「平面視した場合、後端フィンの表面が平坦であり、また、各中間フィンの表面は平坦である」である。「平坦である」という表現は、必ずしも一義的なものではないが、もし、これら残った表現のものが孔一つないという意味であるならば、それは、タワー型のヒートシンクの典型的であり最も周知な形状である。それは、要部となり得るものではないし、創作非容易性もない。
(2)結語
よって、被請求人による口頭審理陳述要領書(及び答弁書)における被請求人の主張は誤りである。

5 請求人が提出した証拠
請求人は、以下の甲第1号証ないし甲第10号証(全て写しであると認められる。)を、審判請求書及び審判事件弁駁書の添付書類として提出した。
甲第1号証 書籍「エレクトロニクスのための熱設計完全入門」の抜粋
(写し)
甲第2号証 説明書(I)
甲第3号証 意匠登録第1175712号公報
甲第4号証 書籍「熱設計ハンドブック」の抜粋(写し)
甲第5号証 ネオアーク株式会社製品であるバイオレットレーザー
ダイオードのカタログ(写し)
甲第6号証 特開2000- 75496号公報
甲第7号証 特開2000-131764号公報
甲第8号証 意匠審査基準の抜粋(写し)
甲第9号証 特開2003-240721号公報
甲第10号証 回答書(平成28年11月25日付け)の写し


第3 被請求人の答弁及び理由の要点
被請求人は、審判事件答弁書を提出し、答弁の趣旨を
「本件審判請求は成り立たない、
審判費用は請求人の負担とする、との審決を求める。」と答弁し、その理由を、要旨以下のとおり主張した(「口頭審理陳述要領書」及び「口頭審理陳述要領書(2)」の内容を含む。)。

1 答弁の理由
(1)本件登録意匠の要部
本件登録意匠の要部は、次のとおりである。
A 前端面に発光面(光導出ポート)が設けられ、後端部側周面から電
源ケーブルが引き出されたケーシングの後方部材において、
B 該ケーシングの後端面中心から後方に延伸する支持軸体が設けられ
ており、
C 該支持軸体の中間部分には、中心軸を合致させ、かつ、互いに間隔
をあけて配置された複数枚の同径円盤状をなす中間フィンが設けられ
ており、
D 該支持軸体の後端部分には、該中間フィンと同径であり、中心軸を
合致させた、該中間フィンよりも厚い円盤状をなす1枚の後端フィン
が配置されており、
E 電源ケーブルは貫通せず、後端面には電源ケーブルの引き出し口が
存在しない。
(2)無効理由に対する反論
ア 無効理由の要点
請求人の主張する無効理由(前記第2の1)は、整理すると、以下の8つである。
[1]甲第1号証に掲載された意匠(以下、甲1意匠という)に基づく新
規性欠如
[2]甲1意匠に基づく創作非容易性の欠如
[3]甲第2号証に掲載された意匠(以下、甲2意匠という)に基づく新
規性欠如
[4]甲2意匠に基づく創作非容易性の欠如
[5]甲第3号証に掲載された意匠(以下、甲3意匠という)に基づく新
規性欠如
[6]甲3意匠に基づく創作非容易性の欠如
[7]甲1意匠及び甲2意匠に基づく創作非容易性の欠如
[8]甲1意匠及び甲3意匠に基づく創作非容易性の欠如
イ 反論1
「本件登録意匠と甲第1号証?甲第3号証に掲載の意匠の要旨」
(前記第2の2(1))について
請求人は、この欄で本件登録意匠の構成態様を、図面に基づいて述べたものと思われる。
しかしながら、需要者・当業者が本件登録意匠のどこに着目するかなど、本件登録意匠の出願時における本件物品業界の実情が何ら考慮されておらず、その内容は客観性に欠けていて、類否及び創作非容易性を判断するうえでの基準となる内容としてみれば、明らかに失当である。客観的にみれば、本件登録意匠の要部は上述したA?Eである。
甲1?甲3に掲載の各意匠に関する要旨にしても同様である。本件物品業界の実情を何ら考慮することなく、請求人の恣意的な着目点にのみ基づいて構成態様が記載されており、類否判断及び創作非容易性判断を為すうえでの客観的な構成態様としては記載されていない。
ウ 反論2
「本件登録意匠と甲第1号証?甲第3号証に掲載の意匠の対比」及び
「本件登録意匠と甲第1号証?甲第3号証に掲載の意匠の形態の共通
点及び差異点の評価」(前記第2の2(2)及び(3))について
前述したように、請求人は、そもそも、本件登録意匠の類否及び創作非容易性を判断するうえでの客観的な構成態様を誤認しており、その誤った構成態様に基づく対比結果に意味はなく、その評価も明らかに失当である。
エ 反論3
「本件登録意匠と甲第1号証?甲第3号証に掲載の意匠の形態の共通
点及び差異点の評価に基づく結論」(前記第2の2(4))について
この欄において、前記無効理由[1]?[8]の根拠が主張されている。
しかしながら、この根拠は、前述したように、そもそも、本件登録意匠の類否及び創作非容易性を判断するうえでの客観的な構成態様について対比し、評価した結果に基づくものではないから、その結論、すなわち無効理由[1]?[8]の根拠に係る主張は明らかに失当である。
その詳細な理由を次に述べる。
(ア)無効理由[1]について
請求人は、本件登録意匠が甲1意匠と美感を共通にするもの(前記第2の2(4)ア)などといって類似であることを縷々主張しているが、その主張には根拠がない。
そもそも、甲1意匠は、その物品が本件登録意匠の物品とは全く異なるものであるから、本件登録意匠と甲1意匠とは、形態を比較するまでもなく、非類似である。
請求人は、甲1意匠の物品が電子機器だから本件登録意匠の物品と共通するなどと説明している(前記第2の2(3)ア)が、電子機器と本件登録意匠の検査用照明器具とは明らかに異なる物品であるうえ、そもそも、なぜ甲1意匠の物品が電子機器なのか、その意味すら不明である。
さらに形態についても言及すれば、甲1意匠には、前述したようにLED等を収容するケーシングとの関係が示唆されていないうえ、フィンもすべて同一厚みであって、本願部分意匠のように複数の中間フィンとこれよりも分厚い後端ツインとからなる形態とは明らかに異なる。
したがって、物品、形態の何れの点においても本件登録意匠と非類似である甲1意匠に基づいて本件登録意匠を新規性欠如とする請求人の無効理由[1]は明らかに誤りである。
(イ)無効理由[2]について
請求人は、本件登録意匠が甲1意匠に基づいて創作容易である旨を縷々説明している(前記第2の2(4)ア)が、その主張には根拠がない。
しかしながら、上述したように、本件登録意匠は、電源ケーブルを後端から引き出すという当時の技術常識、デザイン常識を打ち破ってなされたものであって、電源ケーブルが貫通しておらず後端面には電源ケーブルの引き出し口が存在しない(電源ケーブルがケーシングの側周面から出ている)構成態様や、それに加えて後端フィンが複数の中間フィンに比べて分厚い構成態様などは、甲1意匠の形態とは明らかに異なり、本件物品業界の需要者・当業者からみれば、従来にない極めて斬新な形態である。
さらに甲1意匠は物品においても、本件登録意匠と全く共通性がない。
したがって、本件登録意匠のデザイン発想が全くなく、物品においても本件登録意匠とおよそかけ離れた甲1意匠から、当業者といえども本件登録意匠を容易に創作できるはずがない。甲1意匠に基づいて本件登録意匠を創作非容易性欠如とする請求人の無効理由[2]は明らかに失当である。
(ウ)無効理由[3]について
請求人は、本件登録意匠が甲2意匠と美感を共通にするもの(前記第2の2(4)イ)などといって類似であることを縷々主張しているが、その主張には根拠がない。
甲2意匠は、本件物品業界の需要者・当業者からみれば、後端面から電源ケーブルが引き出されているため、この電源ケーブルの引き出し口がケーシングの最後端と認識される。
したがって、この甲2意匠には、本件登録意匠のフィン(中間フィン及び後端フィン)は存在せず、ケーシングの周囲に周回する溝を複数形成してケーシング側周面の放熱面積を大きくした形態と需要者・当業者には看取されるものである。
仮に、この突条がフィンだとしても、それはケーシングの側周囲に設けられているものであり、本件登録意匠のように、ケーシングよりも後方に設けられているものではない。
すなわち、この甲2意匠は、本件登録意匠とは形態が全く異なる。
したがって、甲2意匠に基づいて本件登録意匠を新規性欠如とする請求人の無効理由[3]は明らかに誤りである。
(エ)無効理由[4]について
請求人は、本件登録意匠が甲2意匠から創作容易である旨を縷々主張している(前記第2の2(4)イ)が、その主張の理由が判然としない。
甲2意匠では、電源ケーブルがケーシング後端から引き出されているが、このデザイン発想から脱却できていない以上、本件物品業界の当業者が容易に創作できるとは到底考えられない。
したがって、甲2意匠に基づいて本件登録意匠を創作非容易性欠如とする請求人の無効理由[4]は明らかに失当である。
(オ)無効理由[5]について
請求人は、本件登録意匠が甲3意匠と美感を共通にするもの(前記第2の2(4)ウ)などといって類似であることを縷々主張しているが、その主張には根拠がない。
この甲3意匠においては、ケーシングの後端部に、円盤状のフィン様のものが設けられている。このフィン様のものは、後側の1枚の分厚いフィンと、それよりも薄い前側の1枚のフィンとを備えている。
一方、甲3において使用状態を示す正面図をみれば、電源ケーブルが前記フィン様のものを軸方向に貫通して、その後ろから引き出されている。
そして、右側面図、参考A-A線拡大断面図において、フィン様のものに貫通孔が形成されていることから、この貫通孔が、電源ケーブルを保持・挿通させるためのケーブル貫通孔であることは、需要者・当業者からして明らかに看取できる。
そうすると、需要者・当業者からみれば、この甲3意匠におけるフィン様のものは、電源ケーブルの基端部を収容・保持していることから、ケーシングの一部と看取されるべきものである。
また、このように、フィン様のものに電源ケーブルが挿通保持されていることが外観で把握される以上、放熱性やそれに基づく高輝度性に対して、需要者・当業者は大きな期待感を抱くことはできず、また、実際にも思ったほどの放熱機能の向上を図ることはできていない。
すべては、電源ケーブルを軸方向に沿ってケーシングの後ろから引き出すという発想から脱却できていないがためであり、そのために機能的にもデザイン的にも、このような中途半端なものとなっている。
すなわち、甲3意匠において、フィン様のものはケーシングの一部をなすものというべきであり、本件登録意匠のようにケーシングの後方に、ツイン構造体(後方部材)が設けられた構成態様は、この甲3意匠には一切開示されていない。
そして、この点は、本件物品業界の需要者・当業者であるからこそ看取できるものあって、本件登録意匠は、甲3意匠と明らかに非類似である。
したがって、甲3意匠に基づいて本件登録意匠を新規性欠如とする請求人の無効理由[5]は明らかに誤りである。
(カ)無効理由[6]について
請求人は、本件登録意匠が甲3意匠から創作容易である旨を縷々主張している(前記第2の2(4)ウ)が、その主張の理由が判然としない。
甲3意匠では、電源ケーブルがケーシング後端面から引き出されているが、このデザイン発想から脱却できていない以上、本件物品業界の当業者が容易に創作できるとは到底考えられない。
したがって、甲3意匠に基づいて本件登録意匠を創作非容易性欠如とする請求人の無効理由[6]は明らかに失当である。
(キ)無効理由[7]について
請求人は、本件登録意匠が甲1意匠及び甲2意匠から創作容易である旨を縷々主張している(前記第2の2(4)エ)が、その主張には根拠がない。
甲1意匠は、無効理由[1]に対する反論で述べたように、形態において本件登録意匠とは非類似なのであるから、これを甲2意匠の後端側に取り付けても、その形態は本件登録意匠とは非類似のものとなる。
また、甲2意匠は(もちろん甲1意匠も)、ケーシング後端から電源ケーブルを軸方向に引き出すというデザイン発想から脱却できていないのだから、甲2意匠の電源ケーブルが邪魔となり、甲1意匠はおろか、その他の種々の形態に係るフィンをケーシング後端面に取り付けるというデザインに、本件物品分野の当業者が容易に想到するとは到底思えない。
したがって、甲1意匠及び甲2意匠に基づいて本件登録意匠を創作非容易性欠如とする請求人の無効理由[7]は明らかに失当である。
(ク)無効理由[8]について
請求人は、本件登録意匠が甲1意匠及び甲3意匠から創作容易である旨を縷々主張している(前記第2の2(4)オ)が、その主張には根拠がない。
その理由は上記無効理由[7]に対する反論と実質的に同じである。
すなわち、甲1意匠は、無効理由[1]に対する反論で述べたように、形態において本件登録意匠とは非類似なのであるから、これを甲3意匠の後端側に取り付けても、その形態は本件登録意匠とは非類似のものとなる。
また、甲3意匠は(もちろん甲1意匠も)、ケーシング後端から電源ケーブルを軸方向に引き出すというデザイン発想から脱却できていないのだから、甲3意匠の電源ケーブルが邪魔となり、甲1意匠はおろか、その他の種々の形態の係るフィンをケーシング後端面とは到底思えない。したがって、甲1意匠及び甲3意匠に基づいて本件登録意匠を創作非容易性欠如とする請求人の無効理由[8]は明らかに失当である。
(3)むすび
以上に述べたように、請求人の主張する各無効理由には根拠がなく、本件登録意匠は、有効なものであるから、本件審判は成立し得ない。

2 「口頭審理陳述要領書」及び「口頭審理陳述要領書(2)」における主張
(1)前記第2の3(2)に対して
前記第2の3(2)での請求人の主張の論拠は、要部(構成態様)E、すなわち、「電源ケーブルは貫通せず、後端面には電源ケーブルの引き出し口が存在しない」という表現が、視覚を通じて具体的に認識できる形態とはいえないから、要部として認められず、本件登録意匠と引用意匠との差異点である前記要部Eに係る被請求人の主張は全て誤りである、というものである。
そして、請求人は、構成態様Eが要部として認められない根拠として、別事件(請求人登録意匠が本件登録意匠に類似であるとして、披請求人が無効を請求した無効審判(請求却下))での審決取消訴訟の判決を示している(前記第2の3(2)ア(イ))。
しかしながら、前記別事件での類否判断においては、本無効審判とは、対比すべき意匠が異なっており、当然に特徴点である要部に関する判断も異なることになるから、当該別事件での判決を、単純に一方の意匠(この場合は本件登録意匠)が共通するからといって、根拠とすることはできない。
また、前記審決取消訴訟の判決において、構成態様Eが要部として認められなかったのは、その表現が間接的であったからに過ぎない(なお、この点につき、被請求人の主張表現の稚拙さにも原因があったことは認めざるを得ない。)。実際には、本件物品の需要者・取引者は、間違いなく、要部Eに着目して類否判断をしているのである。そして、この要部Eに着目すれば、請求人の主張する無効理由が失当であることは、前記1で述べたとおりである。
そこで、表現上の疑義をなくすため、被請求人は、本件登録意匠の要部構成態様を、修正する。
A 前端面に発光面(光導出ポート)が設けられたケーシングの後方部
材において、
B 該ケーシングの後端面中心から後方に延伸する支持軸体が設けられ
ており、
C 該支持軸体の中間部分には、中心軸を合致させ、かつ、互いに間隔
をあけて配置された複数枚の同径円盤状をなす中間フィンが設けられ
ており、
D 該支持軸体の後端部分には、該中間フィンと同径であり、中心軸を
合致させた、該中間フィンよりも厚い円盤状をなす1枚の後端フィン
が配置されており、
E 電源ケーブルは貫通せず、後端面には電源ケーブルの引き出し口が
存在しないとともに、平面視した場合、後端フィンの表面が平坦であ
り、また各中間フィンの表面は平坦である。
ここで、平坦とは、電源ケーブル等が貫通する孔がないという意味であり、本件部分意匠における要部を、直接的な形態を示す表現に改めたものである。
この修正により、構成態様Eは、視覚を通じて具体的に認識できる形態ということができ、請求人の挙げた各引用意匠との差異点が明確化されたと確信する。
その結果、請求人が論拠とする、要部(特に構成態様E)が視覚を通じて具体的に認識できる形態とはいえない、という点はすべて的外れなものとなる。また、請求人は、その余にも些末な点を縷々主張しているが、いずれも根拠がなく、あるいは無効理由には関連のないものである。
(2)結語
よって、前記第2の3における請求人の主張は誤りであり、無効理由には根拠がない。

3 被請求人が提出した証拠
被請求人は、以下の乙号証(全て写しである。)を、審判事件答弁書、口頭審理陳述要領書及び口頭審理陳述要領書(2)の添付書類として提出した。
乙第1号証 被請求人カタログ(写し) 作成:平17.6
本件物品が「スポット照明」と称されていること。
新HLVシリーズの形態・内部構造の説明。
乙第2号証 請求人カタログ(写し) 作成:平16
本件物品が「スポット照明」と称されていること。
乙第3号証 被請求人カタログ(写し) 作成:平14.12
スポット照明が開発される前は光ファイバー型である
ハロゲンランプが用いられていたこと。
乙第4号証 被請求人価格表(写し) 作成:平7.11.1
遅くとも1995年11月にはLVシリーズを展示・
販売していたこと。
乙第5号証 被請求人カタログ(写し) 作成:平12
LVシリーズの形態・構造の説明。
乙第6号証 被請求人カタログ(写し) 作成:平16.1
旧HLVシリーズの形態・構造の説明。
乙第7号証 被請求人価格表(写し) 作成:平14.1.15
遅くとも2002年1月には旧HLVシリーズを展示・
販売していたこと。
乙第8号証 意匠登録第1180103号意匠公報(写し)
旧HLVシリーズの意匠登録。
乙第9号証 適時開示情報(写し) 作成:平16.7.28
2004年8月に新HLVシリーズを販売開始したこと
乙第10号証 報道向け資料(写し) 作成:平22.5.26
2010年6月にHLV2シリーズを販売開始したこと
乙第11号証 被請求人カタログ(写し) 作成:平23.7
HLV2シリーズの形態・構造の説明。
乙第12号証 請求人カタログ(写し) 作成:平28
請求人がIHVBシリーズ及びIHVCシリーズを販売
し、その後、途中で販売中止したこと。
乙第13号証 警告書(写し) 作成:平28.8.23
被請求人意匠権(意匠登録第1224780号及び意匠
登録第1224615号)に基づいて、請求人製品IH
VB及びIHVCに警告したこと。
乙第14号証 回答書(写し) 作成:平28.10.31
前記警告に対し、請求人が直ちに販売を停止すると回答
したこと。
乙第15号証 侵害訴訟で被請求人(原告)が提出した原告第5準備書
面(写し)
乙第16号証 同侵害訴訟で原告が口頭で構成態様を修正した内容を示
す経過報告書(写し)
乙第17号証 侵害訴訟での弁論調書(写し)
乙第18号証 同侵害訴訟で訴状に添付した物件目録及び各号物件説明
書(写し)


第4 口頭審理
当審は、本件審判について、平成30年(2018年)11月5日に口頭審理を行い、審判長は、同日付けで審理を終結した。(平成30年11月5日付け「第1回口頭審理調書」)


第5 当審の判断
1 本件登録意匠(別紙第1参照)
(1)本件登録意匠の意匠に係る物品
本件登録意匠の意匠に係る物品は、審判請求書別紙第1(別紙第1参照)の記載によれば「検査用照明器具」であり、審判請求書別紙第1の【意匠に係る物品の説明】には、「本物品は、工場等において製品の傷やマーク等の検出(これらを総称して検査という)に用いられるもので、LEDや光学素子を内蔵し(図示しない)、先端の光導出ポートから光を照射する。」と記載されている。
また、本件登録意匠は、部分意匠として意匠登録を受けようとするものであり、審判請求書別紙第1の【意匠の説明】には、「実線で表された部分(当審注:以下「本件実線部分」という。)が、部分意匠として意匠登録を受けようとする部分である。」と記載されている。
(2)本件実線部分の用途及び機能並びに位置、大きさ及び範囲
本件実線部分は、検査用照明器具のうち、正面右上の3つのフィン部及びそれを繋ぐ軸体が一体になった部分である。本件実線部分は、検査用照明器具の放熱に係る用途及び機能を有すると推認され、正面視全幅の約1/5の横幅の大きさ及び範囲を占めており、正面視右上に位置するものである。
(3)本件実線部分の形態
本件実線部分の形状、模様若しくは色彩又はこれらの結合(以下、「形状、模様若しくは色彩又はこれらの結合」を「形態」という。)は、以下のとおりである。
ア 全体の構成
正面から見て、横向き円柱状の軸体に、それよりも径が大きい略円盤状のフィン部が3つ等間隔に設けられて一体になったものであり、中間のフィン部は同形同大であり、最後部のフィン部(以下「後フィン部」という。)は、中間フィン部とほぼ同形であるが、幅(厚み)が中間フィン部に比べて大きく、後端面の外周角部が面取りされている。
イ 各フィン部の右側面形状
右側面(又は右側面斜め方向)から見た各フィン部の外周は円形状である。
ウ 各フィン部の正面形状
正面から見た各フィン部は略縦長矩形状であって、中間フィン部の横幅:縦幅は約1:24であり、後フィン部のそれは約1:12である。すなわち、後フィン部の厚みは中間フィン部の約2倍である。
エ 軸体と各フィン部の構成比
正面から見た軸体の縦幅と各フィン部の最大縦幅の比は、約1:5である。また、軸体の横幅(=各フィン部の間隔):中間フィン部の横幅の比は、約3:1である。

2 無効理由の要点
ア 無効理由1
請求人が主張する本件登録意匠の登録の無効理由1は、本件登録意匠が、その意匠登録出願の出願前に、日本国内又は外国において頒布された刊行物である甲第1号証(別紙第2参照)に記載された意匠、すなわち、平成9年(1997年)7月18日に発行された書籍「エレクトロニクスのための熱設計完全入門」の第171頁に記載された「タワー型ヒートシンク」の意匠(以下「甲1意匠」という。)に類似するので、意匠法第3条第1項第3号に掲げる意匠に該当し、同条同項柱書の規定により意匠登録を受けることができないことから、本件登録意匠の登録が、同法第48条第1項第1号に該当し、同項柱書の規定によって、無効とされるべきであるとするものである。
イ 無効理由2
請求人が主張する本件登録意匠の登録の無効理由2は、本件登録意匠が、甲1意匠に基づいて、本件登録意匠の属する分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」ともいう。)が容易に創作することができた意匠であるので、意匠法第3条第2項の規定により意匠登録を受けることができないことから、同法第48条第1項第1号に該当し、同項柱書の規定により無効とされるべきであるとするものである。
ウ 無効理由3
請求人が主張する本件登録意匠の登録の無効理由3は、本件登録意匠が、その意匠登録出願の出願前に、日本国内又は外国において公然知られた甲第2号証に記載された意匠、すなわち、遅くとも平成14年(2002年)までに仕様図(甲第2号証の資料1。別紙第3参照。)にしたがって製造され販売された「IHV-27R」(同軸スポット照明)の意匠(以下「甲2意匠」という。)に類似するので、意匠法第3条第1項第3号に掲げる意匠に該当し、同条同項柱書の規定により意匠登録を受けることができないことから、本件登録意匠の登録が、同法第48条第1項第1号に該当し、同項柱書の規定によって、無効とされるべきであるとするものである。
エ 無効理由4
請求人が主張する本件登録意匠の登録の無効理由4は、本件登録意匠が、甲2意匠に基づいて、当業者が容易に創作することができた意匠であるので、意匠法第3条第2項の規定により意匠登録を受けることができないことから、同法第48条第1項第1号に該当し、同項柱書の規定により無効とされるべきであるとするものである。
オ 無効理由5
請求人が主張する本件登録意匠の登録の無効理由5は、本件登録意匠が、その意匠登録出願の出願前に、日本国内又は外国において頒布された刊行物である甲第3号証(別紙第4参照)に記載された意匠、すなわち、平成15年(2003年)4月18日に発行された意匠公報に記載された意匠登録第1175712号(検査用照明器具)の意匠(以下「甲3意匠」という。)に類似するので、意匠法第3条第1項第3号に掲げる意匠に該当し、同条同項柱書の規定により意匠登録を受けることができないことから、本件登録意匠の登録が、同法第48条第1項第1号に該当し、同項柱書の規定によって、無効とされるべきであるとするものである。
カ 無効理由6
請求人が主張する本件登録意匠の登録の無効理由6は、本件登録意匠が、甲3意匠に基づいて、当業者が容易に創作することができた意匠であるので、意匠法第3条第2項の規定により意匠登録を受けることができないことから、同法第48条第1項第1号に該当し、同項柱書の規定により無効とされるべきであるとするものである。
キ 無効理由7
請求人が主張する本件登録意匠の登録の無効理由7は、本件登録意匠が、甲1意匠及び甲2意匠に基づいて、当業者が容易に創作することができた意匠であるので、意匠法第3条第2項の規定により意匠登録を受けることができないことから、同法第48条第1項第1号に該当し、同項柱書の規定により無効とされるべきであるとするものである。
ク 無効理由8
請求人が主張する本件登録意匠の登録の無効理由8は、本件登録意匠が、甲1意匠及び甲3意匠に基づいて、当業者が容易に創作することができた意匠であるので、意匠法第3条第2項の規定により意匠登録を受けることができないことから、同法第48条第1項第1号に該当し、同項柱書の規定により無効とされるべきであるとするものである。

3 無効理由1の判断
本件登録意匠が、甲1意匠と類似する意匠であるか否かについて検討する。
(1)甲1意匠(別紙第2参照)
甲1意匠は、書籍『エレクトロニクスのための熱設計完全入門』の第171頁(甲第1号証。別紙第2参照)に記載された「タワー型ヒートシンク」の意匠であって、同書籍は、本件登録意匠の出願前である平成9年(1997年)7月18日に発行されている。
ア 甲1意匠の意匠に係る物品
上記書籍第169頁には「表面の熱流密度が大きい電子部品に対しては、風速を上げるか放熱面積を増大させるか、どちらかの対策が必要になります。ヒートシンクは簡単に有効放熱面積を拡大して(熱流密度を低減させて)温度対策ができるため、電子機器にとっては不可欠な冷却用部品になっています。」と記載され、また、第171頁には「タワー型も指向性が少なく、空気抵抗が小さいので多くの場合強制空冷に使われます。・・・外部から強制的に空気流動を起こす強制空冷では、自然空冷に比べると熱伝達率の低下は小さくてすみます。このため強制空冷ではフィン間隔を小さめにしてフィン枚数を増やした方が効率がよいのです。」と記載されている。
これらの記載によれば、甲1意匠の意匠に係る物品は、「電子機器用部品」であると推認され、電子機器を冷却する用途を有し、強制空冷に適した機能を有している。
イ 甲1意匠の形態
甲1意匠の形態は、以下のとおりである。
なお、審判請求書別紙第1に表された本件登録意匠の図面の向きに合わせて、甲1意匠の形態を認定する。すなわち、上記書籍第171頁に表された甲1意匠の最上面を右端面として認定し、甲1意匠を右に90°回転させた図を本件登録意匠の「参考斜視図」と同様の向きとして認定する。
(ア)全体の構成
横向き円柱状の軸体に、それよりも径が大きい略円盤状のフィン部が4つ等間隔に設けられて一体になったものであり、フィン部は全て同形同大であると推認される。
(イ)各フィン部の右側面形状
右側面(又は右側面斜め方向)から見た各フィン部の外周は円形状であると推認される。
(ウ)各フィン部の正面形状
各フィン部は、正面の中央部の横幅が最も大きく、上方向又は下方向にいくにつれて横幅が次第に小さくなっており、すなわち、中央部の厚みが最も大きく、上下にいくにつれてしだいに薄くなっていると推認される。喩えると、正面から見た各フィン部の形状は略凸レンズ状であると推認される。
又は、甲1意匠は斜視方向から表された図であって、透視図法的に表されている可能性もあるので、実際には正面視上下にわたって等幅であるかもしれず、あるいは等幅に近い形状であるかもしれない。このように、仮に透視図法に基づく図であるとしても、各フィン部の正面形状は不明である。
(エ)軸体と各フィン部の構成比
正面から見た軸体の縦幅と各フィン部の縦幅の比は約1:2.6であり、軸体の横幅(=各フィン部の間隔):各フィン部の横幅の比は不明である。
(2)本件登録意匠と甲1意匠の対比
ア 意匠に係る物品
本件登録意匠の意匠に係る物品は「検査用照明器具」であり、製品を検査する用途を有し、LEDが内蔵されていて先端の光導出ポートから光を照射する機能を有している。これに対して、甲1意匠の意匠に係る物品は「電子機器用部品」であると推認され、電子機器を冷却する用途を有し、強制空冷に適した機能を有している。そうすると、本件登録意匠の意匠に係る物品と甲1意匠の意匠に係る物品は、用途及び機能が異なっているから、相違する。
イ 本件実線部分と甲1意匠の用途及び機能並びに位置、大きさ及び範囲
本件実線部分と甲1意匠は、共に放熱に係る用途及び機能を有してはいるが、本件実線部分が検査用照明器具の一部を構成して、その放熱に係る用途及び機能を有するのに対して、甲1意匠は電子機器全般に用いられる独立した部品として、その放熱に係る用途及び機能を有する点で相違する。また、本件実線部分は検査用照明器具の正面視右上に位置して、正面視全幅の約1/5の横幅の大きさ及び範囲を占めており、すなわち、検査用照明器具の一部分を占めているのに対して、甲1意匠は、それ自体が冷却用の部品であって他の電子機器に取り付けられて使用されるものであるから、本件実線部分(検査用照明器具の一部分)に相当する位置、大きさ及び範囲を甲1意匠の中に見出すことはできない。
ウ 本件実線部分と甲1意匠の形態
本件実線部分と甲1意匠の形態には、以下の共通点と相違点が認められる。
(ア)共通点
(A)全体の構成についての共通点
横向き円柱状の軸体に、それよりも径が大きい略円盤状のフィン部が複数個等間隔に設けられて一体になったものである。
(B)各フィン部の右側面形状
右側面(又は右側面斜め方向)から見た各フィン部の外周は円形状である。
(イ)相違点
(a)フィン部の個数、及び厚みの大きい後フィン部の有無の相違点
本件実線部分のフィン部は3つであり、後フィン部の厚みが中間フィン部に比べて大きく(約2倍)、後端面の外周角部が面取りされているのに対して、甲1意匠のフィン部は4つであり、全て同形同大である。
(b)各フィン部の正面形状についての相違点
正面から見て、本件実線部分の各フィン部は略縦長矩形状であって、中間フィン部の横幅:縦幅は約1:24であり、後フィン部のそれは約1:12である。これに対して、甲1意匠の各フィン部の形状は略凸レンズ状であるか、又は不明である。
(c)軸体と各フィン部の構成比についての相違点
正面から見た軸体の縦幅と各フィン部の最大縦幅の比が、本件実線部分では約1:5であるが、甲1意匠では約1:2.6である。また、軸体の横幅(=各フィン部の間隔):中間フィン部の横幅の比は、本件実線部分では約3:1であるが、甲1意匠では不明である。
(3)本件登録意匠と甲1意匠の類否判断
本件登録意匠の意匠に係る物品である「検査用照明器具」の使用状態においては、物品の全体が露出しており、使用者は全方向から物品を観察することとなり、特に、本件実線部分のフィン部と軸体は、物品上部の軸方向の約1/5を占めることから、使用者や取引者を含む物品の需要者は、フィン部と軸体の細部に亘って全方向から詳細に観察するということができる。したがって、「検査用照明器具」の意匠の類否判断については、物品の使用や取引を前提として、需要者の視点から、フィン部と軸体の形状を評価することとする。
ア 意匠に係る物品
前記(2)アで認定したとおり、本件登録意匠と甲1意匠の意匠に係る物品は相違する。
イ 本件実線部分の用途及び機能並びに位置、大きさ及び範囲と甲1意匠
前記(2)イで認定したとおり、甲1意匠の中に本件実線部分(検査用照明器具の一部分)に相当する位置、大きさ及び範囲を見出すことができない。
ウ 本件実線部分と甲1意匠の形態の共通点の評価
共通点(A)及び共通点(B)で指摘した、横向き円柱状の軸体に、それよりも径が大きい複数のフィン部を等間隔に設けて一体とし、右側面(又は右側面斜め方向)から見た各フィン部の外周を円形状とした形状は、検査用照明機器の物品分野の意匠において本願の出願前に広く知られている(例えば、日本国特許庁が平成16年(2004年)4月8日に公開した公開特許公報に掲載された特開2004-111377に掲載された「光照射装置(1)」の意匠。別紙第5参照。)ことから、需要者は特にその形状に注視するとはいい難い。したがって、共通点(A)及び共通点(B)が本件実線部分と甲1意匠の類否判断に及ぼす影響は小さいというほかない。
そうすると、本件実線部分と甲1意匠の形態の共通点はいずれも類否判断に及ぼす影響が小さく、共通点があいまった視覚的印象を考慮しても、共通点が類否判断に及ぼす影響は小さいといわざるを得ない。
エ 本件実線部分と甲1意匠の形態の相違点の評価
これに対して、本件実線部分と甲1意匠の形態の相違点については、以下のとおり評価される。
まず、相違点(b)で指摘した各フィン部の正面形状についての相違、すなわち、略縦長矩形状であるか(本件実線部分)、略凸レンズ状であるか又は不明であるか(甲1意匠)の相違は、需要者が詳細に観察する各フィン部の形状に関する相違であって、この相違は異なる美感を需要者に与えているから、相違点(b)が本件実線部分と甲1意匠の類否判断に及ぼす影響は大きい。
次に、相違点(c)で指摘した、軸体の横幅(=各フィン部の間隔):中間フィン部の横幅の比が本件実線部分では約3:1であるが、甲1意匠では不明である相違は、全方向から観察される本件実線部分と甲1意匠の形状に関する相違であって、約3:1の比である本件実線部分を観察した際に需要者が抱く美感と同様の美感を甲1意匠に対して需要者が抱くかは不明である。そして、各フィン部の最大縦幅に対して軸体の縦幅が占める割合が、甲1意匠が本件実線部分の約2倍(≒1/2.6÷1/5)である相違も、需要者に異なる視覚的印象を与えているといえる。そうすると、相違点(c)が本件実線部分と甲1意匠の類否判断に及ぼす影響は大きいといわざるを得ない。
また、後フィン部の厚みが中間フィン部の約2倍であるか(本件実線部分)、全てのフィン部の厚みが同じであるか(甲1意匠)の相違点(a)についても、厚みの大きい後フィン部の有無の相違は需要者が一見して気が付く相違であり、この相違は需要者に異なる視覚的印象を与えているというべきであるから、相違点(a)が本件実線部分と甲1意匠の類否判断に及ぼす影響も大きいというほかない。
そうすると、相違点(a)ないし相違点(c)は、いずれも本件実線部分と甲1意匠の類否判断に大きな影響を及ぼすことから、本件実線部分と甲1意匠を別異のものと印象付けるものであるということができる。
オ 請求人の主張について
請求人は、「甲第1号証に掲載されている物品が『検査用照明器具』に対して、甲第1号証に掲載されている物品は、『検査用照明器具』に限定されない電子機器である。よって、本件登録意匠に係る物品『検査用照明器具』は、甲第1号証に掲載されている物品『電子機器』に含まれるので、本件登録意匠に係る物品と甲第1号証に掲載されている物品は共通する。」と主張する(前記第2の2(3)ア)。
しかし、本件登録意匠は、完成品である「検査用照明器具」であるのに対して、甲1意匠は「電子機器部品」であるから、意匠に係る物品が異なっており、仮に電子機器が検査用照明器具を包含していることを肯定したとしても、完成品と部品が共通するということはできないから、請求人の主張を採用することはできない。
カ 小括
以上のとおり、本件登録意匠と甲1意匠は、意匠に係る物品が相違し、本件実線部分と甲1意匠(部品)の用途及び機能も異なり、甲1意匠の中に本件実線部分(検査用照明器具の一部分)に相当する位置、大きさ及び範囲を見出すことができない上に、形態においても、共通点が類否判断に及ぼす影響はいずれも小さいのに対して、相違点はいずれも類否判断に及ぼす影響は大きく、共通点が需要者に与える美感を覆して本件登録意匠と甲1意匠を別異のものと印象付けるものであるから、本件登録意匠は、甲1意匠に類似するということはできない。
すなわち、本件登録意匠は、その意匠登録出願の出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物(甲第1号証)に記載された甲1意匠(書籍『エレクトロニクスのための熱設計完全入門』の第171頁に記載された「タワー型ヒートシンク」の意匠)に類似しないので、意匠法第3条第1項第3号に掲げる意匠には該当せず、同条同項柱書の規定により意匠登録を受けることができないとはいえない。
したがって、請求人が主張する本件意匠登録の無効理由1には、理由がない。

4 無効理由2の判断
本件登録意匠が、甲1意匠に基づいて、当業者が容易に創作することができた意匠であるか否かについて、検討する。
(1)甲1意匠について
甲1意匠の認定は、前記3(1)のとおりである。
(2)創作非容易性の判断
前記3(2)ウ(イ)のとおり、本件実線部分と甲1意匠の形態は異なっており、特に、各フィン部が正面視略縦長矩形状であって、軸体の横幅:中間フィン部の横幅の比が約3:1であり、後フィン部の厚みが中間フィン部の約2倍である本件実線部分の形態は、その比が不明であって各フィン部の形状が略凸レンズ状又は不明である甲1意匠の形態のみからでは当業者が容易に導き出すことはできず、「検査用照明器具」の物品分野における当業者が甲1意匠の形態に基づいて本件登録意匠を容易に創作したということはできない。
(3)請求人の主張について
請求人は、「甲第1号証に掲載されている意匠(放熱部(タワー型のヒートシンク))は、極めて周知なものである事実とともに、この書籍の性質において熱設計の技術者に対して手本となるものであるから、これとほぼ違わぬ形状を検査用照明器具において一者(しかも著者とは何ら関係のない者)に独占させることは、熱設計の技術者に酷であるばかりか、世界市場において製品競争力の優位性を保たんとする我が国産業の発展を阻害するものである。」と主張する(前記第2の2(4)ア)。
しかし、本件実線部分と甲1意匠の形態は、前記3(2)ウ(イ)のとおり明らかに異なっており、「ほぼ違わぬ形状」であるとする請求人の指摘を首肯することはできず、その指摘を前提にした請求人の上記主張を採用することはできない。
(4)小括
以上のとおり、本件登録意匠は、その意匠登録出願の出願前に日本国内及び外国において公然知られた甲1意匠の形態に基づいて、本件登録意匠の属する分野における通常の知識を有する者が容易に創作をすることができたということはできない。
したがって、請求人が主張する本件意匠登録の無効理由2には、理由がない。

5 無効理由3の判断
本件登録意匠が、甲2意匠と類似する意匠であるか否かについて検討する。
(1)甲2意匠(別紙第3参照)
甲2意匠は、甲第2号証の資料1(別紙第3参照)に記載された「IHV-27R」(同軸スポット照明)の意匠であって、「IHV-27R」に関する平成14年7月26日付けの注文書及び平成14年8月29日付けの出荷案内書(甲第2号証の資料2。別紙第3参照。)によれば、甲2意匠は、本件登録意匠の出願前である平成14年(2002年)までに日本国内又は外国において公然知られたものであると認められる。
ア 甲2意匠の意匠に係る物品
本件登録意匠の出願前である平成15年(2003年)10月1日に発行された『画像ラボ』第14巻第10号(甲第2号証の資料4。別紙第3参照。)には、「IHV-27R」を含むIHVシリーズの用途として「鏡面上のワーク検査に最適」と記載され、特徴として「超高輝度LEDよりさらに高出力のパワーLEDを独自技術で集光させた超高輝度タイプ」と記載されている。
これらの記載によれば、甲2意匠の意匠に係る物品(同軸スポット照明)は、ワーク検査の用途を有し、LEDを集光する機能を有している。
また、甲2意匠において、本件登録意匠の部分意匠として意匠登録を受けようとする部分、すなわち本件実線部分と対比される部分は、本件実線部分に相当する部分(以下「甲2相当部分」という。)である。
イ 甲2相当部分の用途及び機能並びに位置、大きさ及び範囲
甲2相当部分は、同軸スポット照明のうち、「SMR-03V-B」と指示されたコネクターを除いた本体部において、正面右側の4つのフィン部及びそれを繋ぐ軸体が一体になった部分である。甲2相当部分は、同軸スポット照明の放熱に係る用途及び機能を有すると推認され、正面視本体部全幅の約1/4.5の横幅の大きさ及び範囲を占めており、正面視本体部右側に位置するものである。
ウ 甲2相当部分の形態
甲2相当部分の形態は、以下のとおりである。
なお、審判請求書別紙第1に表された本件登録意匠の図面の向きに合わせて、甲2意匠の形態を認定する。すなわち、甲第2号証の資料1の左側に表された甲2意匠の図を「正面図」として認定する。
(ア)全体の構成
正面から見て、横向き円柱状の軸体に、それよりもやや径が大きい略円盤状のフィン部が4つ等間隔に設けられて一体になったものであり、中間のフィン部は同形同大であり、最後部のフィン部(後フィン部)は、中間フィン部とほぼ同形であるが、幅(厚み)が中間フィン部に比べて大きく、後端面の外周角部が面取りされている。
また、右端面には、コネクター(指示線により「SMR-03V-B」と指示されている。)のケーブルが接続されているので、ケーブルとの接続部が設けられていると推認される。(接続部がどのような形状であるか、後フィン部の右側面左右方向のどの位置に設けられているかは不明である。)
(イ)各フィン部の右側面形状
右側面(又は右側面斜め方向)から見た各フィン部の外周は円形状であると推認される(各フィン部の最大縦幅について「φ27」の記載があり、「φ」は円の直径を表す記号である。)。
(ウ)各フィン部の正面形状
正面から見た中間フィン部の横幅:縦幅は約1:18であり、後フィン部のそれは約1:11である。すなわち、後フィン部の厚みは中間フィン部の約8/5倍である。
(エ)軸体と各フィン部の構成比
正面から見た軸体の縦幅と各フィン部の最大縦幅の比は、約5:6.5である。また、軸体の横幅(=各フィン部の間隔):中間フィン部の横幅の比は、約5:8.5である。
(2)本件登録意匠と甲2意匠の対比
ア 意匠に係る物品
本件登録意匠の意匠に係る物品は「検査用照明器具」であり、甲2意匠の意匠に係る物品は「同軸スポット照明」であって、共に検査の用途を有し、LEDを照射又は集光する機能を有しているので、本件登録意匠と甲2意匠の意匠に係る物品は共通する。
イ 本件実線部分と甲2相当部分の用途及び機能並びに位置、大きさ及び範囲
本件実線部分と甲2相当部分は、共に放熱に係る用途及び機能を有し、正面視右上又は右側に位置するものである。また、横幅が正面視全幅の約1/5である本件実線部分と、正面視本体部全幅の約1/4.5である甲2相当部分は、意匠全体に占める大きさ及び範囲がほぼ同一であるといえる。したがって、本件実線部分と甲2相当部分の用途及び機能並びに位置、大きさ及び範囲は共通する。
ウ 本件実線部分と甲2相当部分の形態
本件実線部分と甲2相当部分には、以下の共通点と相違点が認められる。
(ア)共通点
(A)全体の構成についての共通点
正面から見て、横向き円柱状の軸体に、それよりも径が大きい略円盤状のフィン部が複数個等間隔に設けられて一体になったものであり、中間のフィン部は同形同大であり、後フィン部は中間フィン部とほぼ同形であるが、幅(厚み)が中間フィン部に比べて大きく、後端面の外周角部が面取りされている。
(B)各フィン部の右側面形状
右側面(又は右側面斜め方向)から見た各フィン部の外周は円形状である。
(C)各フィン部の正面形状
正面から見た後フィン部の横幅:縦幅は約1:11?12である。
(イ)相違点
(a)ケーブル接続部の有無の相違点
甲2相当部分の右端面には、ケーブルとの接続部が設けられているが、本件実線部分にはケーブルとの接続部は設けられていない。
(b)フィン部の数についての相違点
本件実線部分のフィン部の数は3つであるが、甲2相当部分のフィン部の数は4つである。
(c)軸体の縦幅と各フィン部の最大縦幅の比についての相違点
正面から見た軸体の縦幅と各フィン部の最大縦幅の比が、本件実線部分では約1:5であるが、甲2相当部分では約5:6.5である。
(d)軸体の横幅と中間フィン部の横幅の比ついての相違点
軸体の横幅(=各フィン部の間隔)と中間フィン部の横幅の比は、本件実線部分では約3:1であるが、甲2相当部分では約5:8.5である。
(e)正面から見た中間フィン部の横幅:縦幅は、本件実線部分では約1:24であるが、甲2相当部分では約1:18である。
(3)本件登録意匠と甲2意匠の類否判断
「検査用照明器具」又は「同軸スポット照明」の使用状態においては、物品の全体が露出しており、使用者は全方向から物品を観察することとなり、特に、本件実線部分のフィン部と軸体は、物品上部の軸方向の約1/5を占めることから、使用者や取引者を含む物品の需要者は、フィン部と軸体の細部に亘って全方向から詳細に観察するということができる。したがって、「検査用照明器具」又は「同軸スポット照明」の意匠の類否判断については、物品の使用や取引を前提として、需要者の視点から、フィン部と軸体の形状を評価することとする。
ア 意匠に係る物品
前記(2)アで認定したとおり、本件登録意匠と甲2意匠の意匠に係る物品は共通する。
イ 本件実線部分と甲2相当部分の用途及び機能並びに位置、大きさ及び範囲
前記(2)イで認定したとおり、本件実線部分と甲2相当部分の用途及び機能並びに位置、大きさ及び範囲は共通する。
ウ 本件実線部分と甲2相当部分の形態の共通点の評価
共通点(A)及び共通点(B)で指摘した、横向き円柱状の軸体にそれよりも径が大きい複数のフィン部を等間隔に設けて一体とし、中間のフィン部を同形同大として、後フィン部を中間フィン部とほぼ同形として幅(厚み)を中間フィン部に比べて大きくし、後端面の外周角部を面取りして、右側面(又は右側面斜め方向)から見た各フィン部の外周を円形状とした形状は、検査用照明機器の物品分野の意匠において本願の出願前に広く知られている(例えば、日本国特許庁が平成16年(2004年)4月8日に公開した公開特許公報に掲載された特開2004-111377に掲載された「光照射装置(1)」の意匠。別紙第5参照。)ことから、需要者は特にその形状に注視するとはいい難い。したがって、共通点(A)及び共通点(B)が本件実線部分と甲2相当部分の類否判断に及ぼす影響は小さいというほかない。
また、共通点(C)で指摘した、正面から見た後フィン部の横幅:縦幅が約1:11?12である共通点についても、独特の視覚的印象を呈しているとはいい難いので、共通点(C)が本件実線部分と甲2相当部分の類否判断に及ぼす影響は小さいといえる。
そうすると、本件実線部分と甲2相当部分の形態の共通点はいずれも類否判断に及ぼす影響が小さく、共通点があいまった視覚的印象を考慮しても、共通点が類否判断に及ぼす影響は小さいといわざるを得ない。
エ 本件実線部分と甲2相当部分の形態の相違点の評価
これに対して、本件実線部分と甲2相当部分の形態の相違点については、以下のとおり評価される。
まず、相違点(a)で指摘した、右端面におけるケーブルとの接続部の有無の相違は、需要者が一見して気付く相違であって、この相違は本件実線部分と甲2相当部分を観察する需要者に対して異なる美感を起こさせるといえるから、相違点(a)が本件実線部分と甲2相当部分の類否判断に及ぼす影響は大きい。
次に、相違点(c)で指摘した、正面から見た軸体の縦幅と各フィン部の最大縦幅の比が約1:5であるか(本件実線部分)、約5:6.5であるか(甲2相当部分)の相違は、各フィン部の最大径に対する軸体の径が、本件実線部分の方が甲2相当部分に比べて約1/4(=1/5÷5/6.5)の細さであるという相違であり、本件実線部分の軸体が甲2相当部分に比べて著しく細く、華奢な印象を需要者に与えているから、この相違は、本件実線部分と甲2相当部分の類否判断に大きな影響を及ぼしているといえる。
また、相違点(d)で指摘した、軸体の横幅(=各フィン部の間隔):中間フィン部の横幅の比が約3:1であるか(本件実線部分)、約5:8.5であるか(甲2相当部分)の相違は、前者では軸体が太いのに対して後者では中間フィン部が太いという相違であって、このように太さの大小が逆転した相違は需要者に別異の視覚的印象を与えているというべきであるから、相違点(d)が本件実線部分と甲2相当部分の類否判断に及ぼす影響は大きい。
他方、相違点(e)で指摘した、正面から見た中間フィン部の横幅:縦幅が約1:24であるか(本件実線部分)、約1:18であるか(甲2相当部分)の相違は、甲2相当部分における縦幅に対する横幅の比率が、本件実線部分における同比率の約4/3倍(≒1.3倍)になっているものの、1.3倍は僅かな差であり、需要者に別異の視覚的印象を与えるほどの差であるとはいい難い。したがって、相違点(e)が本件実線部分と甲2相当部分の類否判断に及ぼす影響は小さい。
また、フィン部の数が3つであるか4つであるかの相違点(b)についても、検査用照明機器の物品分野の意匠においてフィン部の数には様々な例が見られるから(例えば、甲3意匠では2つである。)、本件実線部分を観察する需要者がフィン部の数が3つであることに特に注目するとはいい難いので、相違点(b)が本件実線部分と甲2相当部分の類否判断に及ぼす影響は小さい。
そうすると、相違点(a)、相違点(c)及び相違点(d)は本件実線部分と甲2相当部分の類否判断に大きな影響を及ぼすことから、相違点(b)及び相違点(e)の影響が小さいとしても、本件実線部分と甲2相当部分の形態の相違点を総合すると、相違点が本件実線部分と甲2相当部分の類否判断に及ぼす影響は大きく、本件実線部分と甲2相当部分を別異のものと印象付けるものであるということができる。
オ 請求人の主張について
請求人は、「被請求人は、『仮に、この突条がフィンだとしても、それはケーシングの側周囲に設けられているものであり、本件登録意匠のように、ケーシングよりも後方に設けられているものではない』と述べている。しかし、甲第2号証の意匠は、部品の収容機能をもたず放熱効果のみの後方部材(段差より後ろの部分)を設けた構造になっている。」と主張する
(前記第2の3(2)イ(ウ))。
しかし、前記(1)ウ(ア)で認定した甲2相当部分(軸体に4つのフィン部が設けられたもの)に部品の収容機能があるか否かにかかわらず、前記キのとおり、本件実線部分と甲2相当部分の形態の相違点(a)、相違点(c)及び相違点(d)は本件実線部分と甲2相当部分の類否判断に大きな影響を及ぼすことに変わりはないので、請求人の主張を採用することはできない。
カ 小括
以上のとおり、本件登録意匠と甲2意匠は、意匠に係る物品が共通し、本件実線部分と甲2相当部分の用途及び機能並びに位置、大きさ及び範囲も共通するものの、本件実線部分と甲2相当部分の形態においては、共通点が類否判断に及ぼす影響がいずれも小さいのに対して、相違点を総合すると、相違点が本件実線部分と甲2相当部分の類否判断に及ぼす影響は大きく、本件実線部分と甲2相当部分を別異のものと印象付けるものであるから、本件登録意匠は、甲2意匠に類似するということはできない。
すなわち、本件登録意匠は、その意匠登録出願の出願前に日本国内又は外国において公然知られた甲2意匠(甲第2号証の資料1に記載された「IHV-27R」(同軸スポット照明)の意匠)に類似しないので、意匠法第3条第1項第3号に掲げる意匠には該当せず、同条同項柱書の規定により意匠登録を受けることができないとはいえない。
したがって、請求人が主張する本件意匠登録の無効理由3には、理由がない。

6 無効理由4の判断
本件登録意匠が、甲2意匠に基づいて、当業者が容易に創作することができた意匠であるか否かについて、検討する。
(1)甲2意匠について
甲2意匠の認定は、前記5(1)のとおりである。
(2)創作非容易性の判断
前記5(2)ウ(イ)のとおり、本件実線部分と甲2意匠の形態は異なっており、右端面にケーブルとの接続部が無く、正面から見た軸体の縦幅と各フィン部の最大縦幅の比が約1:5であって、軸体の横幅(=各フィン部の間隔)と中間フィン部の横幅の比が約3:1である本件実線部分の形態は、右端面にケーブルとの接続部が有り、正面から見た軸体の縦幅と各フィン部の最大縦幅の比が約5:6.5であって、軸体の横幅(=各フィン部の間隔)と中間フィン部の横幅の比が約5:8.5である甲2相当部分の形態のみからでは当業者が容易に導き出すことはできず、「検査用照明器具」の物品分野における当業者が甲2意匠の形態に基づいて本件登録意匠を容易に創作したということはできない。
(3)請求人の主張について
請求人は、「被請求人は、『甲2意匠では、電源ケーブルがケーシング後端から引き出されているが、このデザイン発想から脱却できていない以上、本件物品業界の当業者が容易に創作できるとは到底考えられない』と述べている。しかし、前記ア(イ)でも述べたように、『電源ケーブルは貫通せず、後端面には電源ケーブルの引き出し口が存在しない』は、要部となり得ない。」と主張する(前記第2の3(2)イ(エ))。
しかし、請求人が引用した、審決取消訴訟(平成30年(行ケ)第10020号)の判決(平成30年6月27日)においては、「後フィン部の後端面には電源ケーブルの引き出し口が存在しない、あるいは電源ケーブルが引き出されていない」ことが間接的に把握できるにとどまるから、原告主張共通点「後フィン部の後端面には電源ケーブルの引き出し口が存在しない、あるいは電源ケーブルが引き出されていない形態」を、視覚を通じて具体的に認識できる共通点と認めることができないと判示されているのみであり、同形態が要部となり得ないとは判示されていない(同判決の「第4 当裁判所の判断」において「要部」という語は用いられていない。)。したがって、請求人の主張を採用することはできない。
(4)小括
以上のとおり、本件登録意匠は、その意匠登録出願の出願前に日本国内及び外国において公然知られた甲2意匠の形態に基づいて、本件登録意匠の属する分野における通常の知識を有する者が容易に創作をすることができたということはできない。
したがって、請求人が主張する本件意匠登録の無効理由4には、理由がない。

7 無効理由5の判断
本件登録意匠が、甲3意匠と類似する意匠であるか否かについて検討する。
(1)甲3意匠(別紙第4参照)
甲1意匠は、意匠公報(甲第3号証。別紙第4参照)に記載された意匠登録第1175712号(検査用照明器具)の意匠であって、同公報は、本件登録意匠の出願前である平成15年(2003年)6月16日に発行されている。
ア 甲3意匠の意匠に係る物品
甲3意匠の意匠に係る物品は、甲第3号証の記載によれば「検査用照明器具」であり、甲第3号証の【意匠に係る物品の説明】には、「この物品は、工場等において、製品に光を照射して製品の外観や傷等の検査に用いる照明器具であ」ると記載されている。
また、甲3意匠において、本件登録意匠の部分意匠として意匠登録を受けようとする部分、すなわち本件実線部分と対比される部分は、本件実線部分に相当する部分(以下「甲3相当部分」という。)である。
イ 甲3相当部分の用途及び機能並びに位置、大きさ及び範囲
甲3相当部分は、検査用照明器具のうち、正面右側の2つのフィン部及びそれを繋ぐ軸体が一体になった部分である。甲3相当部分は、検査用照明器具の放熱に係る用途及び機能を有すると推認され、正面視全幅の約1/7の横幅の大きさ及び範囲を占めており、正面視右側に位置するものである。
ウ 甲3相当部分の形態
甲3相当部分の形態は、以下のとおりである。
(ア)全体の構成
正面から見て、横向き円柱状の軸体に、それよりも径が大きい略円盤状のフィン部が2つ設けられて一体になったものであり、右側の最後部のフィン部(後フィン部)は、左側の中間フィン部とほぼ同形であるが、幅(厚み)が中間フィン部に比べて大きく、後端面の外周角部が面取りされている。
(イ)各フィン部の右側面形状
右側面(又は右側面斜め方向)から見た各フィン部の外周は円形状である。
(ウ)各フィン部の正面形状
平面から見た中間フィン部の横幅:縦幅は約1:23であり、後フィン部のそれは約1:10である。すなわち、後フィン部の厚みは中間フィン部の約9/4倍である。
(エ)軸体と各フィン部の構成比
正面から見た軸体の縦幅と各フィン部の最大縦幅の比は、約5:12である。また、軸体の横幅(=各フィン部の間隔):中間フィン部の横幅の比は、約9:4である。
(オ)貫通孔について
各フィン部には、右側面視上端寄りに円形の貫通孔が設けられており、「使用状態を示す正面図」によれば、この貫通孔にはケーブルが挿入される。
(2)本件登録意匠と甲3意匠の対比
ア 意匠に係る物品
本件登録意匠の意匠に係る物品は「検査用照明器具」であり、甲3意匠の意匠に係る物品は「検査用照明器具」であるから、本件登録意匠と甲3意匠の意匠に係る物品は同一である。
イ 本件実線部分と甲3相当部分の用途及び機能並びに位置、大きさ及び範囲
本件実線部分と甲3相当部分は、共に検査用照明器具の放熱に係る用途及び機能を有し、正面視右上又は右側に位置するものである。また、横幅が正面視全幅の約1/5である本件実線部分と、約1/7である甲3相当部分は、意匠全体に占める大きさ及び範囲が同一ではないが、この差異はフィン部の数に起因するものであり、検査用照明機器の物品分野の意匠においてフィン部の数には様々な例が見られるから(例えば、甲2意匠では4つである。)、本件実線部分の大きさ及び範囲と、甲3相当部分の大きさ及び範囲は、どちらも検査用照明機器の物品分野においてありふれている点で共通する。
したがって、本件実線部分と甲3相当部分の用途及び機能並びに位置、大きさ及び範囲は共通する。
ウ 本件実線部分と甲3相当部分の形態
本件実線部分と甲3相当部分には、以下の共通点と相違点が認められる。
(ア)共通点
(A)全体の構成についての共通点
正面から見て、横向き円柱状の軸体に、それよりも径が大きい略円盤状のフィン部が複数個等間隔に設けられて一体になったものであり、後フィン部は中間フィン部とほぼ同形であるが、幅(厚み)が中間フィン部に比べて大きく、後端面の外周角部が面取りされている。
(B)各フィン部の右側面形状
右側面(又は右側面斜め方向)から見た各フィン部の外周は円形状である。
(C)各フィン部の正面形状
正面から見た中間フィン部の横幅:縦幅は約1:23?24であり、後フィン部のそれは約1:10?12である。すなわち、後フィン部の厚みは中間フィン部のほぼ2倍である。
(イ)相違点
(a)貫通孔の有無の相違点
甲3相当部分の各フィン部には、ケーブルを挿入するために右側面視上端寄りに円形の貫通孔が設けられているが、本件実線部分にはそのような貫通孔は設けられていない。
(b)フィン部の数についての相違点
本件実線部分のフィン部の数は3つであるが、甲3相当部分のフィン部の数は2つである。
(c)軸体の縦幅と各フィン部の最大縦幅の比についての相違点
正面から見た軸体の縦幅と各フィン部の最大縦幅の比が、本件実線部分では約1:5であるが、甲3相当部分では約5:12である。
(d)軸体の横幅と中間フィン部の横幅の比ついての相違点
軸体の横幅(=各フィン部の間隔)と中間フィン部の横幅の比は、本件実線部分では約3:1であるが、甲3相当部分では約9:4である。
(3)本件登録意匠と甲3意匠の類否判断
「検査用照明器具」の使用状態においては、物品の全体が露出しており、使用者は全方向から物品を観察することとなり、特に、本件実線部分のフィン部と軸体は、物品上部の軸方向の約1/5を占めることから、使用者や取引者を含む物品の需要者は、フィン部と軸体の細部に亘って全方向から詳細に観察するということができる。したがって、「検査用照明器具」の意匠の類否判断については、物品の使用や取引を前提として、需要者の視点から、フィン部と軸体の形状を評価することとする。
ア 意匠に係る物品
前記(2)アで認定したとおり、本件登録意匠と甲3意匠の意匠に係る物品は同一である。
イ 本件実線部分と甲3相当部分の用途及び機能並びに位置、大きさ及び範囲
前記(2)イで認定したとおり、本件実線部分と甲3相当部分の用途及び機能並びに位置、大きさ及び範囲は共通する。
ウ 本件実線部分と甲3相当部分の形態の共通点の評価
共通点(A)及び共通点(B)で指摘した、横向き円柱状の軸体にそれよりも径が大きい複数のフィン部を等間隔に設けて一体とし、後フィン部を中間フィン部とほぼ同形として幅(厚み)を中間フィン部に比べて大きくし、後端面の外周角部を面取りして、右側面(又は右側面斜め方向)から見た各フィン部の外周を円形状とした形状は、検査用照明機器の物品分野の意匠において本願の出願前に広く知られている(例えば、日本国特許庁が平成16年(2004年)4月8日に公開した公開特許公報に掲載された特開2004-111377に掲載された「光照射装置(1)」の意匠。別紙第5参照。)ことから、需要者は特にその形状に注視するとはいい難い。したがって、共通点(A)及び共通点(B)が本件実線部分と甲3相当部分の類否判断に及ぼす影響は小さいというほかない。
また、共通点(C)で指摘した、後フィン部の厚みが中間フィン部のほぼ2倍である共通点は、確たる美感を需要者の視覚を通じて起こさせるということはできず、また、正面から見た中間フィン部の横幅:縦幅が約1:23?24である共通点についても、独特の視覚的印象を呈しているとはいい難いので、共通点(C)が本件実線部分と甲3相当部分の類否判断に及ぼす影響は小さいといえる。
そうすると、本件実線部分と甲3相当部分の形態の共通点はいずれも類否判断に及ぼす影響が小さく、共通点があいまった視覚的印象を考慮しても、共通点が類否判断に及ぼす影響は小さいといわざるを得ない。
エ 本件実線部分と甲3相当部分の形態の相違点の評価
これに対して、本件実線部分と甲3相当部分の形態の相違点については、以下のとおり評価される。
まず、相違点(a)で指摘した、各フィン部の右側面視上端寄りにおけるケーブルを挿入するための円形貫通孔の有無の相違は、需要者が一見して気付く相違であって、この相違は本件実線部分と甲3相当部分を観察する需要者に対して異なる美感を起こさせるといえるから、相違点(a)が本件実線部分と甲3相当部分の類否判断に及ぼす影響は大きい。
次に、相違点(c)で指摘した、正面から見た軸体の縦幅と各フィン部の最大縦幅の比が約1:5であるか(本件実線部分)、約5:12であるか(甲3相当部分)の相違は、各フィン部の最大径に対する軸体の径が、本件実線部分の方が甲3相当部分に比べて1/2以下の細さであるという相違であり、本件実線部分の軸体が甲3相当部分に比べて明らかに細く、華奢な印象を需要者に与えているから、この相違は、本件実線部分と甲3相当部分の類否判断に一定程度の影響を及ぼしているといえる。
他方、相違点(d)で指摘した、軸体の横幅(=各フィン部の間隔):中間フィン部の横幅の比が約3:1であるか(本件実線部分)、約9:4であるか(甲3相当部分)の相違は、後者が約3:1.3の比であるから両者の相違は僅かであり、需要者に別異の視覚的印象を与えるほどの相違であるとはいい難い。したがって、相違点(d)が本件実線部分と甲3相当部分の類否判断に及ぼす影響は小さい。
また、フィン部の数が3つであるか2つであるかの相違点(b)についても、検査用照明機器の物品分野の意匠においてフィン部の数には様々な例が見られるから(例えば、甲2意匠では4つである。)、本件実線部分を観察する需要者がフィン部の数が3つであることに特に注目するとはいい難いので、相違点(b)が本件実線部分と甲3相当部分の類否判断に及ぼす影響は小さい。
そうすると、相違点(a)及び相違点(c)は本件実線部分と甲3相当部分の類否判断に大きな影響を及ぼすことから、相違点(b)及び相違点(d)の影響が小さいとしても、本件実線部分と甲3相当部分の形態の相違点を総合すると、相違点が本件実線部分と甲3相当部分の類否判断に及ぼす影響は大きく、本件実線部分と甲3相当部分を別異のものと印象付けるものであるということができる。
オ 請求人の主張について
請求人は、「被請求人は、『そして、右側面図、参考A-A線拡大断面図において、フィン様のものに貫通孔が形成されていることから、この貫通孔が、電源ケーブルを保持・挿通させるためのケーブル貫通孔であることは、需要者・当業者からして明らかに看取できる』と主張している。しかし、前記ア(イ)でも述べたように、『電源ケーブルは貫通せず、後端面には電源ケーブルの引き出し口が存在しない』は、要部となり得ない。」と主張する(前記第2の3(2)イ(オ))。
しかし、請求人が引用した、審決取消訴訟(平成30年(行ケ)第10020号)の判決(平成30年6月27日)においては、「後フィン部の後端面には電源ケーブルの引き出し口が存在しない、あるいは電源ケーブルが引き出されていない」ことが間接的に把握できるにとどまるから、原告主張共通点「後フィン部の後端面には電源ケーブルの引き出し口が存在しない、あるいは電源ケーブルが引き出されていない形態」を、視覚を通じて具体的に認識できる共通点と認めることができないと判示されているのみであり、同形態が要部となり得ないとは判示されていない(同判決の「第4 当裁判所の判断」において「要部」という語は用いられていない。)。したがって、請求人の主張を採用することはできない。
キ 小括
以上のとおり、本件登録意匠と甲3意匠は、意匠に係る物品が同一であり、本件実線部分と甲3相当部分の用途及び機能並びに位置、大きさ及び範囲が共通するものの、本件実線部分と甲3相当部分の形態においては、共通点が類否判断に及ぼす影響がいずれも小さいのに対して、相違点を総合すると、相違点が本件実線部分と甲3相当部分の類否判断に及ぼす影響は大きく、本件実線部分と甲3相当部分を別異のものと印象付けるものであるから、本件登録意匠は、甲3意匠に類似するということはできない。
すなわち、本件登録意匠は、その意匠登録出願の出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物(甲第3号証)に記載された甲3意匠(意匠公報に記載された意匠登録第1175712号(検査用照明器具)の意匠)に類似しないので、意匠法第3条第1項第3号に掲げる意匠には該当せず、同条同項柱書の規定により意匠登録を受けることができないとはいえない。
したがって、請求人が主張する本件意匠登録の無効理由5には、理由がない。

8 無効理由6の判断
本件登録意匠が、甲3意匠に基づいて、当業者が容易に創作することができた意匠であるか否かについて、検討する。
(1)甲3意匠について
甲3意匠の認定は、前記7(1)のとおりである。
(2)創作非容易性の判断
前記7(2)ウ(イ)のとおり、本件実線部分と甲3相当部分の形態は異なっており、右側面視上端寄りに円形の貫通孔が無く、正面から見た軸体の縦幅と各フィン部の最大縦幅の比が約1:5である本件実線部分の形態は、右側面視上端寄りに円形の貫通孔が有り、正面から見た軸体の縦幅と各フィン部の最大縦幅の比が約5:12である甲3相当部分の形態のみからでは当業者が容易に導き出すことはできず、「検査用照明器具」の物品分野における当業者が甲3意匠の形態に基づいて本件登録意匠を容易に創作したということはできない。
(3)請求人の主張について
請求人は、「被請求人は、『甲3意匠では、電源ケーブルがケーシング後端面から引き出されているが、このデザイン発想から脱却できていない以上、本件物品業界の当業者が容易に創作できるとは到底考えられない』と述べている。しかし、前記ア(イ)でも述べたように、『電源ケーブルは貫通せず、後端面には電源ケーブルの引き出し口が存在しない』は、要部となり得ない。」と主張する(前記第2の3(2)イ(カ))。
しかし、請求人が引用した、審決取消訴訟(平成30年(行ケ)第10020号)の判決(平成30年6月27日)においては、「後フィン部の後端面には電源ケーブルの引き出し口が存在しない、あるいは電源ケーブルが引き出されていない」ことが間接的に把握できるにとどまるから、原告主張共通点「後フィン部の後端面には電源ケーブルの引き出し口が存在しない、あるいは電源ケーブルが引き出されていない形態」を、視覚を通じて具体的に認識できる共通点と認めることができないと判示されているのみであり、同形態が要部となり得ないとは判示されていない(同判決の「第4 当裁判所の判断」において「要部」という語は用いられていない。)。したがって、請求人の主張を採用することはできない。
(4)小括
以上のとおり、本件登録意匠は、その意匠登録出願の出願前に日本国内及び外国において公然知られた甲3意匠の形態に基づいて、本件登録意匠の属する分野における通常の知識を有する者が容易に創作をすることができたということはできない。
したがって、請求人が主張する本件意匠登録の無効理由6には、理由がない。

9 無効理由7の判断
本件登録意匠が、甲1意匠及び甲2意匠に基づいて、当業者が容易に創作することができた意匠であるか否かについて、検討する。
(1)甲1意匠及び甲2意匠について
甲1意匠の認定は前記3(1)のとおりであり、甲2意匠の認定は前記5(1)のとおりである。
(2)創作非容易性の判断
前記3(2)ウ(イ)のとおり、本件実線部分と甲1意匠の形態は異なっており、また、前記5(2)ウ(イ)のとおり、本件実線部分と甲2意匠の形態も異なっているので、甲1意匠と甲2意匠のみからでは、正面から見た軸体の縦幅と各フィン部の最大縦幅の比が約1:5であって、軸体の横幅(=各フィン部の間隔)と中間フィン部の横幅の比が約3:1である本件実線部分の形態を当業者が容易に導き出すことはできず、「検査用照明器具」の物品分野における当業者が甲1意匠の形態及び甲2意匠の形態に基づいて本件登録意匠を容易に創作したということはできない。
(3)請求人の主張について
請求人は、「長年当業者に親しまれて極めて周知な甲第1号証の意匠の後端フィンを、甲第2号証に記載されているような周知の分厚い後端フィンに置き換えて構成することは当業者にとってありふれた手法である。」と主張する(前記第2の3(2)イ(キ))。
しかし、仮に甲2意匠の形態に基づいて、後フィンの厚みを大きくすることがありふれた手法であるとしても、上述のとおり、正面から見た軸体の縦幅と各フィン部の最大縦幅の比が約1:5であって、軸体の横幅と中間フィン部の横幅の比が約3:1である本件実線部分の形態を導き出すことはできないので、請求人の主張を採用することはできない。
(4)小括
以上のとおり、本件登録意匠は、その意匠登録出願の出願前に日本国内及び外国において公然知られた甲1意匠の形態及び甲2意匠の形態に基づいて、本件登録意匠の属する分野における通常の知識を有する者が容易に創作をすることができたということはできない。
したがって、請求人が主張する本件意匠登録の無効理由7には、理由がない。

10 無効理由8の判断
本件登録意匠が、甲1意匠及び甲3意匠に基づいて、当業者が容易に創作することができた意匠であるか否かについて、検討する。
(1)甲1意匠及び甲3意匠について
甲1意匠の認定は前記3(1)のとおりであり、甲3意匠の認定は前記7(1)のとおりである。
(2)創作非容易性の判断
前記3(2)ウ(イ)のとおり、本件実線部分と甲1意匠の形態は異なっており、また、前記7(2)ウ(イ)のとおり、本件実線部分と甲3意匠の形態も異なっているので、正面から見た各フィン部の形状が略凸レンズ状であるか又は不明である甲1意匠と、右側面視上端寄りに円形の貫通孔が有る甲3意匠のみからでは、正面から見た各フィン部が略縦長矩形状であり、右側面視上端寄りに円形の貫通孔が無く、正面から見た軸体の縦幅と各フィン部の最大縦幅の比が約1:5である本件実線部分の形態を当業者が容易に導き出すことはできず、「検査用照明器具」の物品分野における当業者が甲1意匠の形態及び甲3意匠の形態に基づいて本件登録意匠を容易に創作したということはできない。
(3)請求人の主張について
請求人は、「長年当業者に親しまれて極めて周知な甲第1号証の意匠の後端フィンを、甲第3号証に記載されているような周知の分厚い後端フィンに置き換えて構成することは当業者にとってありふれた手法である。」と主張する(前記第2の3(2)イ(ク))。
しかし、仮に甲3意匠の形態に見られるように後フィンの厚みを大きくすることがありふれた手法であるとしても、上述のとおり、甲1意匠の形態及び甲3意匠の形態のみからでは、本件実線部分の形態を導き出すことはできないので、請求人の主張を採用することはできない。
(4)小括
以上のとおり、本件登録意匠は、その意匠登録出願の出願前に日本国内及び外国において公然知られた甲1意匠の形態及び甲3意匠の形態に基づいて、本件登録意匠の属する分野における通常の知識を有する者が容易に創作をすることができたということはできない。
したがって、請求人が主張する本件意匠登録の無効理由8には、理由がない。


第6 むすび
以上のとおりであって、請求人の主張する無効理由1ないし無効理由8にはいずれも理由がないので、本件登録意匠の登録は、意匠法第48条第1項の規定によって無効とすることはできない。

審判に関する費用については、意匠法第52条で準用する特許法第169条第2項で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。

よって、結論のとおり審決する。
別掲
審決日 2018-11-27 
出願番号 意願2004-11226(D2004-11226) 
審決分類 D 1 113・ 113- Y (D3)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 太田 茂雄玉虫 伸聡 
特許庁審判長 木本 直美
特許庁審判官 小林 裕和
渡邉 久美
登録日 2004-10-22 
登録番号 意匠登録第1224615号(D1224615) 
代理人 三雲 悟志 
代理人 齊藤 真大 
代理人 藤河 恒生 
代理人 西村 竜平 
代理人 上村 喜永 
代理人 楠本 高義 

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