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審決分類 |
審判 査定不服 1項2号刊行物記載(類似も含む) 取り消して登録 C5 |
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管理番号 | 1368169 |
審判番号 | 不服2020-5339 |
総通号数 | 252 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 意匠審決公報 |
発行日 | 2020-12-25 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2020-04-20 |
確定日 | 2020-11-02 |
意匠に係る物品 | カップ |
事件の表示 | 意願2018- 26781「カップ」拒絶査定不服審判事件について、次のとおり審決する。 |
結論 | 原査定を取り消す。 本願の意匠は,登録すべきものとする。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、パリ条約による優先権(最初の出願:アメリカ合衆国、2018年6月7日)を主張する、平成30年(2018年)12月7日の意匠登録出願であって、主な手続の経緯は以下のとおりである。 令和1年(2019年) 7月29日付け 拒絶理由の通知 令和1年(2019年)10月18日 意見書の提出 令和2年(2020年) 1月20日付け 拒絶査定 令和2年(2020年) 4月20日 審判請求書 第2 本願意匠 本願意匠の意匠に係る物品は、本願の願書の記載によれば「カップ」であり、本願意匠の形状、模様若しくは色彩又はこれらの結合(以下、「形状、模様若しくは色彩又はこれらの結合」を「形態」という。)は、願書及び願書に添付した図面に記載されたとおりである(別紙第1参照)。 第3 原査定における拒絶の理由及び引用意匠 原査定における拒絶の理由は、本願意匠が、出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物に記載された意匠又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった意匠に類似するものと認められるので、意匠法第3条第1項第3号に掲げる意匠(先行の公知意匠に類似するため、同条同項の規定により意匠登録を受けることができない意匠)に該当するとしたものである。拒絶の理由に引用した意匠は、以下の意匠である(以下「引用意匠」という。)。 引用意匠は、日本国特許庁が発行した意匠公報(発行日:平成24年3月26日)に記載された、意匠登録第1436977号(意匠に係る物品、蓋付きカップ)の意匠(別紙第2参照)である。 第4 本願意匠と引用意匠の対比 1 意匠に係る物品 本願意匠の意匠に係る物品(以下「本願物品」という。)は蓋付きの「カップ」であり、蓋部の下端寄り外周縁(凸部)が本体部内周面上端寄りの2重線(凹部と推認される)に嵌合して密着し、持ち運びを可能とする用途及び機能を有している。 これに対して、引用意匠の意匠に係る物品(以下「引用物品」という。)は「蓋付きカップ」であって、持ち運びを可能とする用途及び機能を有しており、蓋部の外周部下端が本体部内周面上端寄りの2重線(凸部)の上に載置されるに止まり、蓋部が本願意匠ほどの密着嵌合ではないので、需要者は振動に気を付けて使用することとなる。 2 本願意匠と引用意匠の形態 本願意匠と引用意匠(以下「両意匠」という。)の形態を対比すると、主として、以下の共通点と相違点が認められる。なお、本願意匠の向きに合わせて引用意匠の形態を認定する。 (1)形態の共通点 (A)全体の構成 全体は、略倒立円錐台形状の有底筒体(以下「本体部」という。)に、本体部とヒンジ部で連続した蓋部を設けたものであり、蓋部を本体部の内側上部に嵌め合わせたときに、蓋部が本体部上端よりも低い位置に配されるものである。 (B)本体部 本体部上端部に、周面より厚みのある先端リブが形成されている。 (C)蓋部 平面から見て、本体部に嵌め合わされた蓋部の下半部に、蓋部を指で持ち上げるための略舌片状の爪部が左右対称状に2つ設けられており、爪部は蓋部外周から延伸して本体部の内周に沿って傾斜板状に立ち上がり(以下「傾斜部」という。)、本体部上端の上に係止する位置で外側に屈曲して水平板状に張り出している(以下「水平部」という。)。 また、蓋部の下端付近に、内周側端部が僅かに凹んだ略横長トラック形状の飲み口部が形成されている。 (D)ヒンジ部 平面から見て、本体部に嵌め合わされた蓋部の上部に連続するヒンジ部の上端は水平状に表れており、ヒンジ部の横幅の本体部横幅(最大径)に占める割合は約1/3である。背面から見ると、ヒンジ部の位置は本体部上端よりも低い位置にあり、本体部上端が弧状に下降してヒンジ部の両端に連続している(以下「弧状下降部」という。)。 (2)形態の相違点 (a)本体部 本願意匠の本体部外周面上端寄りには、外周面より僅かに外側に突出した、上下幅が小さい凸リブが周方向に形成されている。この凸リブの位置に相当する、本体部内周面上端寄りには上下幅が小さい凹溝が周方向に形成されていると推認される(その凹溝に蓋部の下端寄り外周縁(凸部)が嵌まる)。 これに対して、引用意匠では、本体部外周面上端寄りにごく僅かな段差が周方向に形成されており、その段差が正面視水平状線として表されている。この段差の位置に相当する、本体部内周面上端寄りには凸部が周方向に形成されている(「蓋を開けた状態を示す平面図」において本体部の先端リブの内側にごく細幅の凸部が認められる)。また、引用意匠の本体部外周面には、凸リブの下に、上下幅が小さい凹溝が周方向に形成されている。 (b)蓋部 (b-1)ストロー孔の有無 本願意匠の蓋部の中央には、円形のストロー孔が設けられており、その径は蓋部の最大径の約1/10であるが、引用意匠の蓋部にはストロー孔がない。 (b-2)蓋部の厚み及び形状 本願意匠の蓋部は厚く、その厚み幅は、背面から見たヒンジ部下端から凸リブの下端までの上下幅に相当する。これに対して、引用意匠の蓋部は薄く、その厚み幅は、背面から見たヒンジ部下端から段差までの上下幅に相当する。また、本願意匠の蓋部の下端寄り外周縁は凸状に形成されているが、引用意匠の蓋部の外周縁に本願意匠のような凹凸はない。 (b-3)膨出の有無 引用意匠の「蓋を開けた状態を示す正面図」及び「蓋を開けた状態を示す右側面図」によれば、引用意匠の蓋を開けたときの蓋部の上面(本体部に嵌め合わされたときの蓋部の下面)は中央にいくにつれて緩やかに膨出している。これに対して、本願意匠の蓋部にそのような膨出があるかは不明である。 (b-4)蓋部の縁形状 本体部に嵌め合わされた蓋部の縁形状について、本願意匠では内向きに傾斜して、平面視2重線に表されている(以下「内向き傾斜部」という。)のに対して、引用意匠ではほぼ傾斜しておらず、平面視3重線状に表されている(以下「3重線部」という。)。 (b-5)飲み口部の位置及び形状 本願意匠では、飲み口部の外周側端部と内向き傾斜部との間に隙間があるのに対して、引用意匠では隙間がなく、飲み口部の外周側端部は3重線部に接している。また、飲み口部の内周側端部の凹みは、本願意匠では緩やかな凹弧状であるが、引用意匠ではごく僅かである。 (b-6)爪部の形状と配置 平面から見た爪部の形状について、本願意匠の傾斜部は上方にいくにつれて横幅がやや小さくなっていくが、引用意匠の傾斜部の横幅は等幅のままである。そして、引用意匠の爪部の外周が2重線状に表されているが、本願意匠の爪部の外周は2重線状に表されていない。 また、2つの爪部の中心と蓋部の中心とがなす角度は、本願意匠では約90°であるが、引用意匠では約100°である。 (c)ヒンジの形状 平面から見たヒンジの左上角部と右上角部は、本願意匠では角丸状であるが、引用意匠では角張っている。また、背面から見た弧状下降部の形状は、本願意匠では略倒J字状であるが、引用意匠では略1/4円弧状である。 (d)全体の縦横比 蓋部が本体部に嵌め合わされた状態での全体の高さ:最大横幅(最大径)の比は、本願意匠では約1.2:1であるが、引用意匠では約1.9:1である。 第5 類否判断 1 意匠に係る物品 両意匠の意匠に係る物品は、共に飲料を入れる蓋部付きのカップであって、持ち運びを可能とするカップであるから、本願意匠が引用意匠に比べて蓋部と本体部の密着の度合いが強いという相違はあるものの、両意匠の用途及び機能はおおむね共通する。 2 蓋付きのカップの意匠の類否判断 蓋付きのカップは、飲料を保持する機能を有しており、その飲料の温度や量などによってストローを使うか否か、蓋部をどのように嵌めるのかなどのカップの使用方法が異なってくる。そして、需要者は、そのような使用方法を考慮しつつ蓋付きのカップを実際に手にとって全体観察し、特に、蓋部と本体部の嵌合の態様、ストロー孔の有無及び態様、及び飲み口部の位置及び形状に注意を払うことになる。したがって、蓋付きのカップの意匠の類否判断においては、これらの態様を特に評価し、かつそれ以外の形状の評価も併せて、各評価を総合して意匠全体として類否を判断する。 3 両意匠の形態の共通点の評価 両意匠の形態の共通点で指摘した全体の構成についての共通点(A)、すなわち、略倒立円錐台形状の有底筒体である本体部とヒンジ部で連続した蓋部を設けて、蓋部を本体部上端よりも低い位置に配した形態、及び共通点(B)で摘示した本体部上端部に周面より厚みのある先端リブを形成した形態は、「カップ」の物品分野において例を挙げるまでもなく本願の出願前に広く知られているから、需要者は当該形態に対して殊更注意を引くということはできない。また、ヒンジ部に係る共通点(D)について、ヒンジ部の平面視上端が水平状に表れている点は、回動するヒンジ部の軸部分が水平状に表れているところ、このようなヒンジの形態はありふれており、背面視本体部上端が弧状に下降してヒンジ部の両端に連続している点も、狭い範囲における共通点であって、いずれも需要者が特に注視するほどのものではない。 他方、蓋部の形態については、飲み口部が略横長トラック形状である共通点は、飲み口部の形態としてありふれているものの、蓋部の下半部に左右対称状に設けられた平面視略舌片状の2つの爪部が、傾斜板状に立ち上がって、外側に屈曲して水平板状に張り出した形態は、需要者に一定の視覚的印象を与えているから、両意匠の類否判断に一定の影響を及ぼしているといえる。 4 両意匠の形態の相違点の評価 これに対して、両意匠の形態の相違点については、以下のとおり評価され、相違点を総合すると、両意匠の類否判断に大きな影響を及ぼすといわざるを得ない。 まず、本体部に係る相違点(a)、すなわち、本願意匠には凸リブ(外周面)と凹溝(内周面)が周方向に形成されているのに対して、引用意匠ではごく僅かな段差(外周面)と凸部(内周面)が周方向に形成されて、更に凸リブの下に凹溝が周方向に形成されている相違は、蓋部の厚み及び形状の相違点(b-2)とあいまって、需要者が一見して気付く相違であって、需要者に異なる美感を与えている。 そして、ストロー孔の有無の相違点(b-1)は、本願意匠が冷たい飲料を保持するものであって引用意匠が熱い飲料を保持する用途の相違に由来し、ストロー孔が円形であって中央に配されることがありふれているとしても、需要者の注意を引くというべきである。また、ストロー孔と飲み口部の両方が蓋部に配されている点は本願意匠特有の形態であって、相違点(b-5)で摘示した飲み口部と蓋部の縁との間の隙間の有無とあいまって、飲み口部の位置及び形状に特に注意を払う需要者の注意を引くといえる。 したがって、相違点(a)、(b-1)、(b-2)及び(b-5)は、いずれも両意匠の類否判断に及ぼす影響が大きいといわざるを得ない。 他方、相違点(b-3)で摘示した、引用意匠の蓋を開けたときの蓋部の上面の膨出は緩やかであって目立つものではなく、蓋部の縁形状に係る相違点(b-4)や、ヒンジの形状に係る相違点(c)は狭い範囲における共通点であって、いずれも需要者が特に注視するほどのものではない。 また、相違点(b-6)で摘示した、爪部の形状の相違(傾斜部の横幅が等幅か否か、外周が2重線状であるか否か)や、爪部の配置の相違(本願意匠の角度が90°、引用意匠の角度が100°)は、いずれも微差であって需要者が注視する相違とはいえず、全体の高さ:最大横幅(最大径)の比が約1.2:1であるか(本願意匠)、約1.9:1であるか(引用意匠)の相違も、カップの意匠においては様々な縦横比のものが見受けられることを勘案すると、需要者は特段注目するとはいい難い。 そうすると、相違点(b-3)、(b-4)、(c)及び(d)が両意匠の類否判断に及ぼす影響は小さい。 5 両意匠の類否判断 両意匠の形態における共通点及び相違点の評価に基づき、意匠全体として総合的に観察した場合、両意匠は、平面視略舌片状の2つの爪部についての共通点が両意匠の類否判断に一定の影響を及ぼしているものの、それ以外の両意匠の形態の共通点が両意匠の類否判断に及ぼす影響は総じて小さい。そして、相違点(a)、(b-1)、(b-2)及び(b-5)が両意匠の類否判断に及ぼす影響はいずれも大きく、それ以外の相違点が両意匠の類否判断に及ぼす影響が小さいとしても、形態の共通点を圧して、両意匠の類否判断に大きな影響を及ぼすといわざるを得ない。 したがって、両意匠の意匠に係る物品の用途及び機能はおおむね共通するが、両意匠の形態については、相違点が共通点を圧して両意匠を別異のものと印象付けるから、本願意匠は引用意匠に類似しない。 第6 むすび 以上のとおりであって、本願意匠は原査定の引用意匠に類似することを理由にして、意匠法第3条第1項第3号に掲げる意匠に該当するということはできないから、同法同条同項の規定によって本願を拒絶すべきものとすることはできない。 また、当審において更に審理した結果、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり審決する。 |
別掲 |
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審決日 | 2020-10-14 |
出願番号 | 意願2018-26781(D2018-26781) |
審決分類 |
D
1
8・
113-
WY
(C5)
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最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 前畑 さおり |
特許庁審判長 |
北代 真一 |
特許庁審判官 |
濱本 文子 小林 裕和 |
登録日 | 2020-11-20 |
登録番号 | 意匠登録第1674396号(D1674396) |
代理人 | 清原 義博 |