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審決分類 審判 無効  2項容易に創作 無効としない H5
審判 無効  1項2号刊行物記載(類似も含む) 無効としない H5
管理番号 1004152 
審判番号 審判1997-18133
総通号数
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 意匠審決公報 
発行日 2000-04-28 
種別 無効の審決 
審判請求日 1997-10-28 
確定日 1999-10-06 
意匠に係る物品 インクリボン付カートリツジ 
事件の表示 上記当事者間の登録第 824674号意匠「インクリボン付カートリツジ」の登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。
理由 第I、請求人の申立て及び理由
請求人は、「意匠登録第824674号(以下、本件登録意匠という)の登録を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする。」との審決を求め、その理由として大要以下のとおりの主張をし、立証として、甲第1号証(の1乃至の9)、乃至甲第3号証(の1乃至の11)の書証を提出した。
一、請求人の主張の要旨、
本件登録意匠は、その出願前公知の意匠に類似するもので、意匠法第3条第1項第3号の規定に該当し、あるいは周知の形状に基づいて容易に創作をすることができたものであるから意匠法第3条第2項の規定に該当し、無効とすべきであると主張し、その無効理由の立証のために以下の証拠方法を提出した。
甲第1号証の1 実開昭60-53569号公報
甲第1号証の2 特開昭60-190379号公報
甲第1号証の3 特開昭60-190380号公報
甲第1号証の4 特開昭60-217193号公報
甲第1号証の5 特開昭60-219081号公報
甲第1号証の6 特開昭60-234874号公報
甲第1号証の7 特開昭61-31278号公報
甲第1号証の8 特開昭61-83084号公報
甲第1号証の9 実開昭61-196062号公報
甲第2号証 実開昭62-70963号公報
甲第3号証の1 特開昭61-25875号公報
甲第3号証の2 特開昭60-250982号公報
甲第3号証の3 実開昭60-175650号公報
甲第3号証の4 実開昭60-184659号公報
甲第3号証の5 実開昭60-187064号公報
甲第3号証の6 実開昭61-15162号公報
甲第3号証の7 実開昭61-70059号公報
甲第3号証の8 実開昭61-95553号公報
甲第3号証の9 実開昭61-118761号公報
甲第3号証の10実開昭61-118762号公報
甲第3号証の11実開昭62-70965号公報
二、本件登録意匠
本件登録意匠の形状的要素を分析すると、
a、比較的薄型の略直方体形状を有するカートリツジにおいて、
b、正面図および背面図において下方に見られるように、左右対称に一対の凹部が形成され、
c、インクリボンを巻回してカートリッジ内に収容される一対のボビン位置に対応してカートリッジの厚さ方向に貫通する一対の穴が形成され、
d、上記一対の穴の間にはコアに巻回されたインクリボンを視認し得る略長方形状の透明窓が形成され、
e、カートリッジの四隅がテーパ状に隅切りされており、
f、正面図および背面図において上方に見られるように、中央に断面長方形状の凹部が形成されると共に、その両側角切り部近くに左右対称に一対の小さな凹部が形成されている、ことが認められる。
しかしながら、本件登録意匠が上記a〜fのような形状的要素を有するとしても、これらはいずれも本件登録意匠に係る物品である「インクリボンカートリツジ」 (以下「カートリッジ」という)において周知または公知の形状的要素であり、創作を本質とする意匠として見た場合に保護すべき客体を有するには至らず、登録されるべきでなかったものである。
すなわち、当業界に周知のように、カートリッジはワープロ等に装着して記録媒体面に所要の印字を行うために使用されるものであり、より詳しくは、カートリッジをワープロ等のブラデンに沿って往復移動可能なキヤリッジ上の所定箇所に装着した状態で印字処理が行われるものである。インクリボンは一対のコアに巻回されていてその大半がカートリッジ内に収容されているが、その一部はカートリッジの一面から外部に導出されるよう案内されており、カートリッジ装着時には、該インクリボン導出部の内側に印字ヘッドが挿入される。このようにカートリッジはそれ自体が独立して使用されることはなく、常に、ワープロのキャリッジに装着されて使用されるものであるから、かかる物品としての用途および機能上必然的にカートリッジの形状の大半が決定されることになる。
以上の前提に立って検討すると、aについては、周知の事項である。bについては、インクリボンを外部に導入して凹部内に印字ヘッドを挿入可能とするためのものであり、従来より広く採用されている態様である。cについては、カートキャリッジ上に装着したときにこれら1対の穴に巻取用のボビンを挿入し、モータ駆動されるボビンがカートリッジ内のコアの内周面に間隔をおいて設けられている爪と係合することによりコアを回転させてインクリボンを巻き出し・巻き取るために必須の、当業者において周知の事項である。dについては、インクリボンの巻回状態を使用者が確認するために必須の構成であり、周知慣用の事項である。eについては、貫用されているものである。
fについては、いずれもカートリッジをキャリッジ上の所定位置に位置決めするための手段であると認められ、その形状も基本的かつ最も自然な形状であると認められるものを採用したにすぎない。
以上に述べたように、本件登録意匠の形状的要素a〜fはいずれも、本件意匠がキャリッジに装着して本来の機能を発揮するものであるカートリッジとして必然的に要求されるものをそのまま表現したにすぎず、またその具体的形状もきわめて常識的なものであって、保護客体としての意匠の創作を認めることができない。
このことは、本件登録意匠の出願前に頒布された刊行物に記載のカートリッジの形状に照らして本件登録意匠を観察すれば、より一層明白なものとなる。
すなわち、甲第1号証の1〜9に記載されるカートリッジはいずれも前記a〜cを備えていることが明らかであり、このような基本的形態を有するカートリッジが周知であることを示している。
甲第1号証の3〜6、9に示されるカートリッジはさらにdを備えており、その具体的形状も実質的に何ら異なるものではない。
eについては、先の甲第1号証の1等にもカートリッジ四隅に丸みを持たせた形状が示されており、隈切り形状を十分に予測させるものであるのに加えて、甲第2号証にはカートリツジ四隅を直線的にカットして隈取りした形状が明瞭に示されており、カートリッジの設計においてこのような隅取りを施すことが本件登録意匠の出願前に既に公知であることを示している。なお、fに関して提示する甲第3号証の1〜10にはカートリッジのヘッド挿入用凹部とは反対側の両隅を斜めにカットしたものが、また甲第3号証の11にはヘッド挿入用凹部と反対側の両隅に加えてさらにヘッド挿入用凹部の側の一方の隅部をも斜めにカットしたものが示されており、カートリッジにテーパー状の隅切りを施すことが広く当業界において慣用的に行われていることを示している。
fについては、甲第3号証の1〜11に示されるカートリッジにおいてそのヘッド挿入用凹部とは反対側中央に凹部が設けられている。この凹部がキャリツジ側の係合爪を嵌合してカートリッジをキャリッジ上の所定箇所に位置決めするために用いられるものであることは、甲第3号証の2、3、6、9等より明らかである。この中央の凹部の両側に設けられる一対の小さな凹部は見られないが、前述のようにこれらの凹部も中央の凹部と同様にキャリツジ側に設けられる係合爪を嵌合してカートリッジの位置決めを行うための機能的要請に基づく形態であると認められ、また特に両側の凹部はきわめて小さなものであって本件登録意匠の全体形状に与える影響は微小である。
端的に言って、本件登録意匠は甲第1号証(たとえば甲第1号証の1または2)に示される公知意匠と対比した場合、何ら意匠としての格別の特徴を認めることができないのである。本件登録意匠を全体的に観察したときに最も看者の目を引く部分は前述の形状的要素bに関する部分であると思われるが、この部分は公知意匠においても実質上同一である。中央にテープ透視窓を有することは周知慣用であり、四隅の隅切りも甲第2号証を引用して前述したようにカートリッジ設計上公知の形態処理であり、さらに、キャリツジ側の係台爪を嵌合するための凹部を設けることもまたカートリッジにおいては周知慣用であり且つその具体的形状も単なる長方形状であって格別の意匠的処理が施されているとは旨い難いものである。
すなわち、本件登録意匠は甲第1号証の意匠と基本的形態において同一であり、相違する部分も従来カートリツジにおいて周知または少なくとも公知の形状を採用したにすぎず、またカートリッジ全体として観察した場合には微差というにすぎないものであって、本件登録意匠は甲第1号証の意匠と類似するものと認めざるを得ない。
第II、被請求人の答弁及び理由
被請求人は、「本件審判請求を却下する。本件登録意匠第824674号の登録に違法性はなく、これを無効とすることはできないとの審決を求める。」と答弁し、その理由として、大要以下のとおり主張した。
一、周知意匠に基づいて創作容易との主張についての反論
本件登録意匠の形状的要素が、甲第1号証乃至甲第3号証の存在を根拠として、いずれも公知意匠との関係からして意匠としての特徴を構成し得ないものであり、格別の意匠的処理が施されているとは言い難いものであると主張する。しかしながら、上記意匠としての特微を構成せず、意匠的処理が施されていないとする本件登録意匠が、意匠法第48条に限定列挙されたどの条文に該当した違法性があるのか、何らの説明もなく不明である。
もし仮りに、本件意匠が周知形状に基づいて創作容易であって、意匠法第3条第2項の規定に該当することを主張したのであれば、規定の解釈を大いに誤ったものに外ならない。
すなわち、意匠法第3条2項によって拒絶することができるものは、審査基準においても明確に規定されているように、三角形や楕円形等の、謎もが知っているような通常にありふれた形状、模様若しくは色彩又はこれらの結合に基づいて当業者が容易に創作できた意匠、或いは、周知意匠に基づき当業者が容易に創作できた意匠であって、請求人が主張するような意匠登録出願前に日本国内において公然知られた意匠や頒布された刊行物に記載された意匠に基づいて当業者が容易に創作できた意匠は拒絶の対象とはなっていない。
したがって、上記甲各号証に基づいて本件意匠が容易に創作できたとして意匠法第3条2項によって無効とすべきとの主張は、失当である。
二、甲第1号証の意匠と類似するとの主張についての反論
甲第1号証は1から9まであり、いずれの意匠に類似すると主張するのか不明である。そこで各々について反論する。
まず、本件登録意匠の形状的要素を分析すると以下のとおりである。
A、比較的薄型の略直方体形状を有するカートリッジであること。
B、カートリッジ下面部において左右一対の対称的凹部を形成すると共に、各凹部の両端縁部にガイド突起が外方に向けて突設されていること。
C、カートリッジの四隅がテーバ状に隅切りされ,下部片側の隅切り部にはテープの巻取り終端を検知する切欠き状のセンサー用角窓が形成されていること。
D、カートリッジ上面中央に断面長方形状の凹部が形成されると共に、その両側角切り部近くに左右一対の小さな凹部が形成されていること。
本件登録意匠は、上記の如く、A〜Dの形状的要素を有していることを特徴として登録されたものである。
しかしAについては、単なる前提要件であって意匠の要部となるものではない。
すなわち、本件登録意匠の要部的特徴は、形状的要素B〜Dの3点にある。
一方、請求人は前述したように、本件登録意匠の形状的要素をa〜fと特定しているが、この特定には上述したような重要な要素が欠落しているものである。
そこで被請求人は、新たに特定した上記3点の形状的要素について以下、本件登録意匠を甲第1号証の1から9(以下、甲第1号証(1〜9)という)の意匠と対比する。
Bについては、まず、カートリッジ下面部において左右一対の凹部を形成することに関しては、甲第1号証(1〜9)に開示されている。しかしながら、
上記各凹部の両端縁部にガイド突起が外方に向けて突設されていることについては、甲第1号証(1〜9)には全く存在しないものである。このガイド突起はテープを円滑に移送する上において重要な機能を果すものであり、意匠的に特徴を有するものである。上記ガイド突起は、機能から生じる特異な形熊を有するものであり、このガイド突起の有無の差は、意匠の類似判断に大きな影響を与えるものである。
Cについては、まず、カートリッジの四隅がテーパ状に隅切りされていることに関しては、甲第1号証(1〜9)のいずれにも全くに開示されていないものである。 そして更に、上部片側の隅切り部にはテープの巻取り終端を検知する切欠き状のセンサー用角窓が形成されていることについては、甲第1号証(1〜9)には全く存在しないものである。 この上部片側の隈切り部に形成したテープの巻取り終端を検知する切欠き状のセンサー用角窓は、テープ移送部において顕著に認識できて意匠的に目立つところである。
Dについては、甲第1号証(1〜9)のいずれにおいても全く開示されていないものである。
以上のことから、甲第1号証(1〜9)には、本件登録意匠の要部である形状的要素B〜Dが存在せず、したがって、本件意匠は甲第1号証(1〜9)のいずれの意匠にも類似するものとは言えないものである。
なお、請求人が主張したものではなく、また請求人が新に主張することは、無効審判の請求の要旨を変更することになるので、できないものであるが、付記的に以下述べておく。
三、甲第2号証との類否の対比
Bについては、カートリッジ下面部において左右一対の凹部を形成することが開示されているが、この凹部は本件登録意匠のように対称ではなく、また、各凹部の両端稜部にはガイド突起が外方に向けて突設されておらず、この点において明確な形態差を有している。
Cについては、カートリッジの四隅がテーバ状に隅切りされた形態は開示されていても、この上部片側の隅切り部にテープの巻取り終端を検知する切欠き状のセンサー用角窓が設けられておらず、この点において明らかに形態差を有している。
Dについては、甲第2号証には全く開示されていないものである。
以上のことから、甲第2号証には、本件登録意匠の要部である形状的要素B〜Dが存在せず、したがって、両意匠は類似するものとは到底言えないものである。
四、甲第3号証との類否の対比
Bについては、カートリッジ下面部において左右一対の凹部を形成することが開示されているが、各凹部の両端禄部にはガイド突起が外方に向けて突設されておらず、この点において明確な形態差を有している。
Cについては、カートリッジの上側二隅がテーパ状に隅切りされた形態は開示されていても、下側二隅には存在せず、また、この下部片側の隅切り部にテープの巻取り終端を検知する切欠き状のセンサー用角窓が設けられておらず、この点において明らかに形態差を有している。
Dについては、甲第3号証には全く開示されていないものである。
以上のことから、甲第3号証には、本件登録意匠の要部である形状的要素B〜Dが存在せず、したがって、両意匠は類似するものとは到底言えないものである。
五、甲第1〜3号証との対比
最後に本件登録意匠は、甲第1〜3号証の意匠の組み合せによって容易に創作しえたものかは、これらが周知の形状とはいえないことから、容易に創作できたものとは言えないものである。
以上のことから、登録第824674号に係る意匠は、その出願前公知の意匠である甲各号証の意匠には類似するものではなく、したがって意匠法第3条第1項第3号の規定には該当せず、また、周知の形状に基づいて容易に創作をすることができたものでもないことから、意匠法第3条第2項の規定にも該当せず、よって、その登録が無効とされるべきではない。
第III、当審の判断
一、本件登録意匠
本件登録意匠は、昭和62年5月13日の意匠登録出願に係り、平成3年9月30日に登録第824674号の意匠として意匠権の設定の登録があったもので、その願書の記載及び願書に添付した図面代用写真に現されたところによれば、意匠に係る物品が「インクリボン付カートリッジ」であって、その形態は、別紙のとおりのものである すなわち、筐体と内蔵されたインクリボン(以下リボンという)とからなり、
(1)筐体が、▲1▼正面視略横長方形状の扁平略直方体形状で、その正面部の▲2▼上下中央位置左右に稍間隔を空けて、1対の小正円形の透孔が穿たれ▲3▼その左右透孔の間に横長細帯状の窓部を配し、▲4▼4隅を小さい斜状に隅切りし、▲5▼下端の中央寄り左右に対称状に正面視略横長方形状の凹部一対を稍間隔を設けて配し、▲6▼その凹部際下面に各々細い切り欠き線状のリボン出入口部を左右平行に計4本設け、▲7▼そこから、リボンが各凹部下面側に橋渡し状に裸出する基本的な構成態様である点、各部の具体的な構成態様が、
(2)筐体の構成比率につき、縦横厚みが、略10:16:3の扁平略直方体形状である点、
(3)透孔につき、その内周面にテープ状のリボンの巻き取り用リールの中空円筒状で数個の突起を有する軸心の内周面があらわれる点、
(4)窓部につき、正背面両面に、幅が透孔の径の略4分の1の細幅で、長さが左右透孔の間隔より僅かに短く、外観にリボンの巻き取り状態が表れるものである点、
(5)4隅の斜状の隅切りの態様につき、正面視傾斜度略45度の側方視斜面状の切り欠き状の面で、うち上端側2隅が同一の大きさで下端側2隅より稍大きい斜面である点、
(6)下面は、その左右幅全長を略5分割し、中央略5分の1の面中央には稍広幅の溝部を設け、その左右の略5分の1の各面は稍深い凹部とし、そのさらに左右の5分の1の各面には、中央寄りから両端の斜面部までの間に、細溝部、次ぎに矩形状窓部を設けた点、
(7)稍広幅の溝部につき、正面視稍横長方形状で長さが筐体の奥行きの略3分の2の長さとし、最奥部に小さい爪部を設けた点、
(8)凹部につき、正面視縦横が1対3とする略横長方形状で、筐体前後面を貫いて設けられている点、
(9)4本の切り欠き線からなるリボン出入口部につき、筐体の奥行きと平行に略奥行き一杯に設け、正面部及び背面部の下端凹部際に正面視極小略半円状のガイド突起が延設されている点、
(10)細溝部につき、リボン出入口際に、正面視極小矩形状で長さが筐体の奥行きの略3分の2の長さとし、最奥部に小さい爪部を設けた点、
(11)矩形状窓部につき、1つは、筐体の、正面部下端右斜面際に、正面視小矩形状、下面視筐体の厚みの略半分の長さまでの切り欠き状で、同様に、他1つ、背面部下端右斜面際にも設けたものである点、
(12)筐体上面左右両隅の斜面際に極小さな凹状切り欠き部を各1個対称状に設けた点、
(13)筐体上面中央に正面視小横長方形状の切り欠き状凹部を奥行き一杯に設け、奥行き中央に左右幅一杯に細幅突条の爪部を配した点。
(14)リボンにつき、筐体の厚みより僅かに狭い広幅の往復使用可能にリールに巻かれているテープ状である点、からなるものである。
二、請求理由の当否について
1、意匠法第3条第2項の適用について
請求人は、本件登録意匠を形態要素a-fに分析し、a、c、dの各要素は周知の事項、bの要素は従来より広く採用されている態様、eの要素は慣用手法、fの要素は、必然的形態であるとし、その旨明らかにするものとして、多数の甲号証を提出している。
すなわち、請求人の主張するところは、結局、形態を、それぞれを構成する部分ないし要素に分解してそれぞれの形状は周知、または慣用、必然的態様であることを理由に、本件登録意匠は創作容易な意匠に該当するという点にあるが、意匠すなわち物品の形態は、そもそも種種の部分ないし要素によって構成されるものであって、それらを組み合わせ統合して構成される全体の態様には当然種種の形態が成立するものであって、仮にその構成部分や構成要素に分解して認識した場合に各構成部分や構成要素が各々周知の態様であったとしても、それらによって構成される全体が新たな形態となっている場合は、それらの個々の部分ないし要素が慣用的手段による統合である場合を除き、創作容易とは言い得ないと解すべきである。
請求人主張の各形態要素、aからfについて、当審の認定する本件登録意匠の形態の認定(1)乃至(14)を対応させつつ、その各要素の周知性について以下に検討する。
すなわち、aは、(1)▲1▼と(2)に、bは、(1)▲5▼、▲6▼、▲7▼と(6)乃至(11)及び(14)に、Cは、(1)▲2▼と(3)に、dは、(1)▲3▼と(4)に、eは、(1)▲4▼と(5)に、fは(12)、(13)に該当するものと認められる。
イ、請求人主張のa.c.dについて
甲第1号証に記載の多数の意匠においても、その筐体の縦、横、厚みからなる構成比率、穴の径略長方形の透明窓の形状及び大きさ、筐体自体の組立がビス止めによるか否か等において、相互に差異があり、それらからは、a、比較的薄型の略直方体形状で、c、インクリボンを巻回して力一トリッジ内に収容される一対のボビン位置に対応して厚さ方向に貫通する一対の穴が形成され、d上記一対の穴の間にはコアに巻回されたインクリボンを視認し得る略長方形状の透明窓が形成されている要素が、概念的に把握した場合において、既に知られていることを示すに止まり、請求人主張のa,c,dの要素に対応の本件登録意匠の構成部分ないし要素である(1)▲1▼、(1)▲2▼、(1)▲3▼の基本的な構成態様及び(2)乃至(4)の具体的な態様が周知の事項であることを示すものではないと解される。
そもそも、同様にテープを内蔵したビデオテープや音響テープの筐体においては、その形状が標準規格化によって各部位の大きさ、機構の創作に関して拘束を受け形状の創作の自由度が小さいのに比較すると、インクリボンカートリッジの筐体については必ずしも標準規格化されておらず、装填されるプリンターの構造、キャリツジの構造等に相対的に稍拘束されるものの、その大きさ、機構等の形状の創作の自由度は大きく、これらa、c.dの要素は、インクリボンカートリッジの基本的な且つ必然的な態様ではなく、かつ細部において種種の態様に創作可能であることから、本件登録意匠の有するこれらの要素と甲号証のこれらの要素とは、概念的、類型的に同じ範疇に属する形態要素であることは認められるものの、本件登録意匠が広幅テープの往復可動に対応して筐体の大きさ、厚みのある構成比率(2)、稍大きめのリール穴の径と(3)、及び(4)の個別具体的な特徴を備えた構成とした意匠的な効果は無視できないもので、周知の形状とは認められない。
ロ、eの筐体の四隅の斜状の隅切りについて、
甲2号証に記載のカートリッジは、3隅が斜状であることは認められるものの、リボン出入口は大小各1個の凹部からなり、甲第3号証の1乃至11に記載のカートリッジは、上端両2隅を斜状に切り落としているものの、4隅全てを斜状とするものではなく、かつそれら全てのリボン出入口が下端中央1個の凹部であって、結局全て凹部の態様が異なる筐体における1部の隅切りの例示に止まり、筐体の4隅を隅切りすることが慣用の手法であるとは認めがたい。筐体の内部のリボンの通路機構はリボン出入口の形状に伴い大きく異なるもので、ましてや本件登録意匠の筐体の4隅の斜状の隅切りの態様をリボン出入口の構造が異なる筐体に設けられた構成部分ないし要素を抽出して、同様の慣用の手法であるとする判断は為し難い。
なぜなら、インクリボンカートリッジの筐体の隅部の形状は、容量的に限られた狭い筐体内部にリボンの通路を確保し、且つリボンの残量感知のセンサーなどの機構を配するため、その内部構造は複雑多岐で、且つ種種の拘束を受けているのが通常である。そうであるから、4隅の造形的角部処理として慣用の手法である、例えば矩形状の板体からなる花瓶敷きや置物台などの4隅を装飾のため斜状に切り落とす処理とは大きく異なり、内蔵されている種種の機構を考慮することなく行い得ないもので、慣用の手法と同列ではない。
本件登録意匠にあっては、リボンを往復使用するカートリッジにおいてはリボン終端を感知するためのセンサー窓部を設けることに工夫がなされており、その意匠的特徴が認められる。特に下端左右隅の斜状の切り欠き部際の片側の前面側に矩形状で奥行きが筐体の厚みの半分の切り欠き状の窓部を設け、外からリボンが見える構造とした点は、従来の角処理の範囲に属するものでなく、意匠的効果は看過できないものである。
ましてや本件登録意匠の4隅の隅切りは、上端側と下端側でその大きさを異にし、下端側左右両端の斜状の隅切り部際に正面視小矩形状の窓を設け、上端の両隅の斜状の隅切り際に正面視極小矩形状で奥行きを筐体厚みと略同じ細溝条を設けているものであって、慣用手法によるものとは認め難いものである。
ハ、bの下面部中央寄りの1対の凹部について、
甲第1号証の1、7に表れている凹部は、正面視その左右幅が、左右1対の凹部間隔の左右幅よりかなり狭く、リボン出入口用の凹部際の4本の切り欠き線の向きが、凹部の内周に向かって設けられ、その結果リボンが筐体外周面側に裸出せず、その底部は、側面視山型状に突出している。また甲第1号証の2乃至6、8、9は、筐体自体が前面側と後面側2面体を、小さいビスで計5箇所で接合組立てたもので、4隅が、正面視極細縦長の切り欠き状で側面視中央に極細縦長の突片を突設しており、そのうちの甲第1号証の2乃至5は、左右1対の凹部の間隔面が円弧状の陥没面であるなどの特徴を有する。このように、甲第1号証の各意匠の凹部は具体的な態様において、相互に異なるものであって、概念的に把握した場合において1対の凹部が既に知られていることを示すに止まるものである。
そして、筐体において、リボンの出入口及びその周辺の形状を構成している部分は、面積的に占める割合も大きく、かつ、プリンターの印字部との係わりという物品として主要な機能を有し、リボンの張り具合の調節、リボンの往復駆動の機構などの目的に対応する種種の工夫がなされる重要で、かつ創作の自由度の大きい部分で、個々の周辺部分の形状と相まって意匠の主要な部分を形成しているところであるから、細部の特徴ある形態処理をも含めてその意匠全体に対する意匠的効果は非常に大きいものである。
そうであるから、本件登録意匠の1対の凹部は具体的な態様(6)乃至(11)及び(14)の特徴を有しているものであって、従来より広く採用されている周知のリボン出入口の態様とは認めがたい。
ニ、fの上面中央の凹部とその両側角切り部近くに左右対称に一対の小さな凹部について、
甲第3号証の1乃至11に記載の意匠には、リボン出入口と反対側の面の中央に正面視断面横長長方形状の凹部が形成され、左右両隅が斜状に隅切りされた構成が出願前、公報に記載の事実は認められるが、それらは全て、リボン出入口の凹部を中央に1個とする筐体におけるものであって、しかもそのいずれもが両側角切り部近くの左右対称状の一対の小さな凹部を有しておらず、よって、上面中央の凹部とその両側角切り部近くに左右対称に一対の小さな凹部を配することが必然的な形態であるとは認められない。
そして、本件登録意匠の上面中央凹部の具体的な態様(12)乃至(13)の点は、甲号証のいずれにも見受けられないことからも明らかなように必然的な態様ではなく、特徴を有するものである。
一方、インクリボンカセットの物品においては、前記のように、筐体の形状自体に業界に厳然とした規格が存在しない現状においては、筐体の全体形状の創作には制約がなく、リボンの絡みを防ぐため、リボンの残量検知のため、本体キャリッジへの装填のため、及び筐体組立工程を簡便且つ強度に行うため等の目的に対応して、相対的に限られた容量の筐体内に如何に整然と効率よく筐体外周面に溝部、突起及び爪部を設けるかも創作の見せ所で、意匠創作が発揮されるところで本件登録意匠のそれら(7)(9)(10)(11)(12)の意匠的特徴及びその創作性は看過できないものである。
そこで請求人の提出した証拠をみると、それらは何れも、本件登録意匠を構成する部分ないし要素を概念的に把握した場合においてそれらがすでに知られていることを示すに止まるもので、本件登録意匠の構成部分ないし要素の具体的な態様が既に知られていることを示すものではなく、またそれらを組み合わせ統合して構成した形態全体がすでに知られていることを明らかにするものでもない。
そうであってみれば、請求人が提出した証拠からは、到底本件登録意匠が出願前にその意匠の属する分野における通常の知識を有する者が日本国内において広く知られた形状、模様若しくは色彩又はこれらの結合に基づいて容易に創作できたものとはできないもので、ましてや出願前周知の部分形態と断定できない多くの特徴点を有しているものであるから、意匠法第3条第2項の規定の創作が容易な意匠と認めることはできない。
2、意匠法第3条第1項第3号の適用について
意匠は、全体観察による、意匠全体の総合判断に基づいて意匠の類似性の有無に関する判断を行うのであって、意匠の類否判断をするに際して、意匠全体を対比観察し判断するにあたっては、全体から一般的に知られた形態要素を含む部分を個々に取り出して、それらの個々の部分について対比観察しこれをもって全体的結論に導くということはなし得ず、本件登録意匠と特定の1個の意匠との対比観察を行うことによりなされなければならない。
そして、請求人の請求理由には、第3条第1項第3号の規定に該当の適否検討のための本件登録意匠に類似する意匠である具体的な対象客体である甲号意匠を特定していない。
しかし、各甲号証には、各々インクリボンカートリッジの意匠が掲載されているので、以下付記的に各号証につき本件登録意匠との類否判断を行う。
イ、甲第1号の1と本件登録意匠との対比。
甲第1号証の1は、筐体の構成比率につき、縦横厚みが、略6:4:1の稍薄い筐体で、筐体正面部左右透孔の間隔の横長細帯状の窓部を有さず、4隅に斜状の隅切りがなく、下端(甲第1号証の第1図においては上端)の左右1対の凹部の間隔が広く、切り欠き線状のリボン出入り口が、、凹部の内側面に設けられていてリボンが筐体外郭形状より僅かに内側を通路とするもので、凹部の底面が断面形状山形状であって、上端(甲第1号証においては下面)中央の凹部、両隅の小さい凹部を有さないもので両者は大きく相違し類似しない。
ロ、甲第1号の2乃至6、甲第1号証の8、9と本件登録意匠との対比。
これら7個の意匠は、その筐体が前面側と後面
側2面体を、小さいビスで計5箇所を接合したもので、4隅が斜状の隅切りではなく、正面視極細縦長の切り欠き状で側面視中央に極細縦長の突片を突設しており、下端凹部際に正面視極小略半円状のガイド突起がなく、上端(甲第1号証においては下面)側中央の凹部、その両隅側の小さい凹部がない点、また甲第1号証の2乃至5は、左右1対の凹部の間隔面が円弧状の陥没面である点、で大きく相違し類似しない。
ハ、甲第1号の7と本件登録意匠との対比。
甲第1号の7は、筐体正面部左右透孔の間隔の横長細帯状の窓部を有さず、4隅に斜状の隅切りがなく、下端(甲第1号証の第1図においては上端)の左右1対の凹部の、切り欠き線状のリボン出入口が、凹部の内周側に設けられていてリボンが筐体外郭形状より僅かに内側を通路とするもので、リボン出入口の反対面中央の凹部、及びその両隅側の小さい凹部を有さない点で相違し類似しなものである。
ニ、甲第2号証と本件登録意匠との対比。
甲第2号は、正面視3隅が斜状に隅切りされているものの、1隅は正面視のみ斜状であって、リボン出入口が大小異なる大きさの凹部からなり、リボンが凹部の空間部に突出する略L字状ガイド桿及び上面に設けられた小さいロールの下を通って回動するものである点で、その基本的な構成態様及び、各部の具体的な構成態様が大きく相違し、類似しない。
ホ、甲第3号証の1乃至の11と本件登録意匠との対比、
何れも、リボン出入口が、左右1対の凹部ではなく、中央に1個の凹部からなる点、リボン出入口側の左右両隅端に斜状の隅切りがない点、で大きく相違し、両者は類似しない。
以上、本件登録意匠は、甲第1号証乃至甲第3号証の全てに類似しない。
三、結び
以上のとおりであって、請求人の主張する本件登録意匠を無効とすべき理由は、いずれも理由のないものであるから、その理由を以て本件登録意匠が意匠法第48条第1項第1号の規定により無効とされるべきものとすることはできない。
よって、結論のとおり審決する。
別掲 別紙

審理終結日 1998-07-29 
結審通知日 1998-08-18 
審決日 1998-08-24 
出願番号 意願昭62-18774 
審決分類 D 1 11・ 113- Y (H5)
D 1 11・ 121- Y (H5)
最終処分 不成立 
前審関与審査官 原田 雅美 
特許庁審判長 森本 敬司
特許庁審判官 秋間 哲子
西本 幸男
登録日 1991-09-30 
登録番号 意匠登録第824674号(D824674) 
代理人 ▲桑▼原 史生 
代理人 村田 幹雄 
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