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審決分類 審判 無効  1項2号刊行物記載(類似も含む) 無効とする K3
管理番号 1010654 
審判番号 審判1998-35610
総通号数
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 意匠審決公報 
発行日 2000-09-29 
種別 無効の審決 
審判請求日 1998-12-07 
確定日 1999-11-29 
意匠に係る物品 育茸箱 
事件の表示 上記当事者間の登録第1010414号意匠「育茸箱」の登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 登録第1010414号意匠の登録を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。
理由 第1.請求人の申し立て及びその理由
請求人は、結論同旨の審決を求めると申し立て、その理由として、「本件登録意匠は、本件登録意匠出願前に頒布された刊行物である甲第1号証(無効理由1)に記載された意匠と類似するものであり、また本件登録意匠出願前に公然知られた甲第2号証のものと類似するものであり、意匠法第3条第1項第3号の規定により意匠登録を受けることができないものである。さらに本件登録意匠は、先願に係る甲第3号証の意匠と類似するものであって、最先の意匠登録出願人によるものではなく、意匠法第9条第1項の規定により意匠登録を受けることができないものである。従って本件登録意匠は同法第48条第1項第1号により、無効とすべきである。」と主張し、証拠として、甲第1号証乃至甲第20号証を提出した。そして、その理由として大要以下の通り主張している。
(1)本件登録意匠の説明
本件登録意匠は物品「育茸箱」の態様に関するもので、その要旨は次のとおりである。
(イ)基本的な構成態様は、底板の前後辺にそれぞれ低い側板を立ち上げて設けると共に底板の左右辺にそれぞれ高い側板を立ち上げて設けることによって、上面が開口する箱体として全体を形成し、前後の各低い側板の上端縁に側板の外面と間隔を隔てて垂下される垂下板片を設け、前後の各低い側板に複数の開口窓を、底板に多数の透孔を、左右の高い側板に多数の開口孔をそれぞれ設けたものである。
(ロ)具体的な構成態様は、▲1▼底板の全面に亘って正方形の透孔を碁盤目配置で設け、▲2▼底板の下面に格子状のリブを設け、▲3▼底板の下面にこの格子状のリブと交差する斜めのリブを設けると共に斜めのリブが横切る各透孔を二つの分離された三角形に形成し、(以上、平面図及び底面図参照)、▲4▼前後の各低い側板に等間隔で4個の開口窓を設けると共に、▲5▼開口窓間の柱部の外面の両側端に縦突条を突設し(以上、正面図及びC-C線端面図参照)、▲6▼前後の各低い側板の上端とその外側の各垂下板片の上端との間に水平の連絡片を設け、▲7▼連絡片に長孔と丸孔を交互に複数形成し(以上、平面図及びA-A線断面図参照)、▲8▼各連絡片の両端と左右の各高い側板の背面の側端縁の間に段状の突部を設けると共にこの段状の突部の外面を凹部として形成し(正面図参照)、▲9▼各垂下板片の下部を台形形状に切り欠き、▲10▼各垂下板片の両側の各端部にそれぞれ横長矩形の小さめの二つの凹部と縦長矩形の大さめの二つの凹部を設けると共に縦長矩形の凹部の一つを内外に開口する開口部として形成し(以上、正面図及びC-C線端面図参照)、▲11▼左右の各高い側板にその上端縁及び両側端縁を除くほぼ全面に多数の開口孔を設けると共に、▲12▼開口孔を上下四列に配置して上二列の開口孔を略正方形に、下二列の開口孔を縦に長い矩形に形成し、▲13▼この左右の各高い側板の外面に各開口孔を囲むと共に上端縁及び両側端縁に至る格子状の配置でリブを設け、▲14▼この左右の各高い側板の上部の中央に横長矩形の把手用開口を設け(以上、右側面図及びA-A線断面図参照)、▲15▼この左右の各高い側板の上端縁をその両側端よりも高く突出させる(正面図、右側面図、A-A線断面図参照)と共にこの突出する上端縁の外面に設けられる縦のリブが上側程低くなるようにし(B-B線断面図参照)、▲16▼この左右の各高い側板の上端の二カ所に半円形の凹所を設けた(右側面図、A-A線断面図参照)ものである。
(2)甲第1号証の意匠(無効理由1)について
甲第1号証は、平成8年11月19日に出願公開された特開平8-298874号公報である。
甲第1号証の物品は、第2頁第1欄の第18行〜第21行に「【産業上の利用分野】本発明は、椎茸などのキノコ類や植物などの菌や苗の栽培調整及び食品の保冷保管をおこなうために用いられる通気性を有する容器に関するものである。」と記載されているように、「育茸箱」に関するものであり、その要旨は次のとおりである。
(イ)基本的な構成態様は、底板の前後辺にそれぞれ低い側板を立ち上げて設けると共に底板の左右辺にそれぞれ高い側板を立ち上げて設けることによって、上面が関口する箱体として全体を形成し、前後の各低い側板の上端縁に側板の外面と間隔を隔てて垂下される垂下板片を設け、前後の各低い側板に複数の開口窓を、底板に多数の透孔を、左右の高い側板に多数の開口孔をそれぞれ設けたものである。
(ロ)具体的な構成態様は、(以下、▲1▼〜▲16▼のうち、本件登録意匠と共通する態様のものは同じ数字で、共通しないものはダッシュ付きの数字で示し、本件登録意匠に存在し甲第1号証に存在しない態様は欠番とする)▲1▼底板の全面に亘って正方形の透孔を碁盤目配置で設け(図1及び第2頁第2欄第50行〜第3頁第3欄第3行の記載参照)、▲2▼底板の下面に格子状のリブを設け(図5参照)、▲4▼前後の各低い側板に等間隔で4個の開口窓を設け(図2参照)、▲6▼前後の各低い側板の上端とその外側の各垂下板片の上端との間に水平の連絡片を設け、▲7▼´連絡片に丸孔を複数形成し(以上、図1及び図3参照)、▲8▼各連絡片の両端と左右の各高い側板の背面の側端縁の間に段状の突部を設けると共にこの段状の突部の外面を凹部として形成し、(図1、図2、図4参照)、▲9▼各垂下板片の下部を台形形状に切り欠き、▲10▼´各垂下板片の両側の各端部にそれぞれ二つの縦長矩形の凹部を設けると共に凹部の一つを内外に開口する開口部として形成し(以上、図1、図2、図4参照)、▲11▼左右の各高い側板にその上端縁及び両側端縁を除くほぼ全面に多数の開口孔を設けると共に、▲12▼´開口孔を上下六列に配置して各開口孔を略正方形に形成し、▲13▼´この左右の各高い側板の外面に四個ずつの開口孔を囲むと共に上端縁及び両側端縁に至る格子状の配置でリブを設け、▲14▼この左右の各高い側板の上部の中央に横長矩形の把手用開口を設け(以上、図1、図5、図6参照)、▲15▼この左右の各高い側板の上端縁をその両側端をよりも高く突出させる(図1、図2参照)と共にこの突出する上端縁の外面に設けられる縦のリブが上側程低くなるようにし(図2の断面部分参照)、▲16▼この左右の各高い側板の上端の二カ所に半円形の凹所を設けた(図1参照)ものである。
(3)本件登録意匠と甲第1号証の意匠との対比
(イ)両意匠の共通点
本件登録意匠と甲第1号証の意匠とは、物品「育茸箱」の態様に関するものであり、両意匠は意匠に係る物品が一致する。
そしてその構成態様は、次の点で共通する。
すなわち、底板の前後辺にそれぞれ低い側板を立ち上げて設けると共に底板の左右辺にそれぞれ高い側板を立ち上げて設けることによって、上面が開口する箱体として全体を形成した点、前後の各低い側板の上端縁に側板の外面と間隔を隔てて垂下される垂下板片を設けた点、前後の各低い側板に複数の開口窓を、底板に多数の透孔を、左右の高い側板に多数の開口孔をそれぞれ設けた点の、基本的な構成態様において、両意匠は共通する。
また、具体的な構成態様においても、▲1▼底板の全面に亘つて正方形の透孔を碁盤目配置で設けた点、▲2▼底板の下面に格子状のリブを設けた点、▲4▼前後の各低い側板に等間隔で4個の開口窓を設けた点、▲6▼前後の各低い側板の上端とその外側の各垂下板片の上端との間に水平の連絡片を設けた点、▲8▼各連絡片の両端と左右の各高い側板の背面の側端縁の間に段状の突部を設けると共にこの段状の突部の外面を凹部として形成した点、▲9▼各垂下板片の下部を台形形状に切り欠いた点、▲10▼左右の各高い側板にその上端緑及び両側端緑を除くほぼ全面に多数の開口孔を設けた点、▲14▼左右の各高い側板の上部の中央に横長矩形の把手用開口を設けた点、▲15▼左右の各高い側板の上端縁をその両側端をよりも高く突出させると共にこの突出する上端縁の外面に設けられる縦のリブが上側程低くなるようにした点、▲16▼この左右の各高い側板の上端の二カ所に半円形の凹所を設けた点で共通する。
(ロ)両意匠の差異点
一方、本件登録意匠と甲第1号証の意匠とは、具体的な構成態様において次の点で差異がある。
すなわち、(差異点1)本件登録意匠が、▲3▼底板の下面に斜めのリブを設けると共に斜めのリブが横切る各透孔を二つの分離された三角形に形成するようにしているのに対して、甲第1号証の意匠には斜めのリブが設けられていない点。(差異点2)本件登録意匠が、▲5▼開口窓間の柱部の外面の両側端に縦突条を突設しているのに対して、甲第1号証の意匠にはこのような縦突条が設けられていない点。(差異点3)本件登録意匠が、▲7▼連絡片に長孔と丸孔を交互に複数形成しているのに対して、甲第1号証の意匠では、▲7▼´連絡片に丸孔のみ複数形成するようにしている点。(差異点4)本件登録意匠が、▲10▼垂下板片の両側の各端部にそれぞれ横長矩形の小さめの二つの凹部と縦長矩形の大さめの二つの凹部を設けているのに対して、甲第1号証の意匠では、▲10▼´垂下板片の両側の各端部にそれぞれ二つの縦長矩形の凹部を設けている点。(差異点5)本件登録意匠が、▲12▼左右の高い側板の開口孔を上下四列に配置して上二列の開口孔を略正方形に、下二列の開口孔を縦に長い矩形に形成しているのに対して、甲第1号証の意匠では、▲12▼´開口孔を上下六列に配置して各開口孔を略正方形に形成している点。(差異点6)本件登録意匠が、▲13▼左右の高い側板の外面に各開口孔を囲む格子状の配置でリブを設けているのに対して、甲第1号証の意匠では、▲13▼´四個ずつの開口孔を囲む配置でリブを設けている点。
(4)本件登録意匠と甲第1号証の意匠との類否判断
本件登録意匠と甲第1号証の意匠の共通する前記の基本的構成態様、すなわち、底板前後辺にそれぞれ低い側板を立ち上げて設けると共に底板の左右辺にそれぞれ高い側板立ち上げて設けることによって、上面が開口する箱体として全体を形成した点、前後の低い側板の上端縁に側板の外面と間隔を隔てて垂下される垂下板片を設けた点、前後の各低い側板に複数の開口窓を、底板に多数の透孔を、左右の高い側板に多数の開口孔をそれぞれ設けた点は、形態全体にわたる広い部分を占めるところを形成して意匠全体の基調を表出するものであり、また具体的構成態様の前記の共通点とも相挨つて、両意匠の強い共通感を決定付けており、両意匠の類否に著しい影響を与えてこれを左右しているものである。
一方、両意匠の具体的構成態様における(差異点1)について、本件登録意匠が、▲3▼底板の下面に斜めのリブを設けると共に斜めのリブが横切る各透孔を二つの分離された三角形に形成するようにしているのに対して、甲第1号証の意匠には斜めのリブが設けられていない点は、看者において特に注目されない物品内部に位置する底板の上面や底面の態様に関するものであり、両意匠の類否に影響を与えるような差異ではない。
次に、両意匠の具体的構成態様における(差異点2)である、本件登録意匠が、▲5▼開口窓間の柱部の外面の両側端に縦突条を突設しているのに対して、甲第1号証の意匠にはこのような縦突条が設けられていない点については、本件登録意匠の縦突条は意匠全体から見れば微小なものであって、しかも大部分が垂下板片に隠れるものであり、看者の注意を惹くほどのものではなく、両意匠の類否に与える影響は殆どない。
次に、両意匠の具体的構成態様における(差異点3)の、本件登録意匠が、▲7▼連絡片に長孔と丸孔を交互に複数形成しているのに対して、甲第1号証の意匠では、▲7▼´連絡片に丸孔のみ複数形成するようにしている点については、これらの連絡片に設けられる孔は、意匠全体から見れば微小なものであって、看者の注意を惹くほどのものではなく、両意匠の類否に与える影響は微弱である。
次に、両意匠の具体的構成態様における(差異点4)の、本件登録意匠が、▲10▼垂下板片の両側の各端部にそれぞれ横長矩形の小さめの二つの凹部と縦長矩形の大きめの二つの凹部を設けているのに対して、甲第1号証の意匠では、▲10▼´垂下板片の両側の各端部にそれぞれ二つの縦長矩形の凹部を設けている点は、垂下板片の両側端部での凹部の数や形態の差異に過ぎないものであって、さほどその差異が目立つものではなく、両意匠の類否に与える影響は微弱である。
次に、両意匠の具体的構成態様における(差異点5)の、本件登録意匠が、▲12▼左右の高い側板の開口孔を上下四列に配置して上二列の開口孔を略正方形に、下二列の開口孔を縦に長い矩形に形成しているのに対して、甲第1号証の意匠では、▲12▼´開口孔を上下六列に配置して各開口孔を略正方形に形成している点は、この種の物品分野の意匠において通常行われている変更の範囲であり、格別評価される程のものではなく、両意匠の類否に与える影響は微弱である。
さらに、両意匠の具体的構成態様における(差異点6)の、本件登録意匠が、▲13▼左右の高い側板の外面に各開口孔を囲む格子状の配置でリブを設けているのに対して、甲第1号証の意匠では、▲13▼´四個ずつの開口孔を囲む配置でリブを設けている点は、この種の物品分野の意匠において通常行われている変更の範囲であり、ことさら看者の注意を惹く程のものではなく、両意匠の類否に与える影響は微弱である。
このように、本件登録意匠と甲第1号証の意匠における具体的構成態様の各差異点は、いずれも両意匠の類否に与える影響が殆どない程度に微弱なものであり、これらの差異点を総合しても、両意匠の共通点を凌駕するものではない。
以上のように、本件登録意匠と甲第1号証に記載された意匠とは、意匠に係る物品が共通し、その形態においても、両意匠の基調を表出し、両意匠の強い共通感を決定付けているところのものにおいて共通するものであり、前記のような差異があっても、両意匠は類似するものである。
(5)甲第2号証の意匠(無効理由2)について
甲第2号証の意匠は、本件請求人である岐阜プラスチック工業株式会社が製造販売している合成樹脂製容器「商品名MC-60」を示すものである。
甲第2号証の意匠に係る物品は、甲第20号証の1の実施参考写真にみられるように、茸の栽培に用いられる容器であり、「育茸箱」に関するものである。
そして、甲第2号証の意匠は、甲第1号証の意匠の実施品であり、その構成態様は甲第1号証の意匠とほぼ同一である。
(6)本件登録意匠と甲第2号証の意匠との対比及び類否判断
本件登録意匠と甲第2号証の意匠とは、物品「育茸箱」の態様に関するものであり、両意匠は意匠に係る物品が一致する。
また、甲第2号証の意匠の構成態様は甲第1号証の意匠の構成態様とほぼ同一である。
従って、本件登録意匠と甲第2号証の意匠とは、その構成態様において前記(3)と同様な共通点と差異点を有するものであり、また前記(4)と同様な理由によって、両意匠は類似するものである。
(7)甲第3号証の意匠(無効理由3)について
甲第3号証の1は意願平9-60911号の出願書類であり、この意願平9-60911号は、特願平7-109746号を特許法第44条第1項の規定に基づいて分割出願した特願平9-180868号を、意匠法第13条第1項の規定に基づいて変更出願した意匠登録出願であり、同法同条第4項の規定によりその出願は特願平7-109746号の出願のときにしたものとみなされるものであって、その出願日は特願平7-109746号の出願日である平成7年5月8日である。従って、甲第3号証の意匠は本件登録意匠出願前の出願に係るものである。
甲第3号証の2は、平成10年12月1日付け差し出しの手続補正書であり、甲第3号証の意匠に係る物品は、甲第3号証の2にみられるように、「キノコ類の栽培用容器」に関するものである。
そして甲第3号証の意匠は甲第1号証の意匠をそのままの形態で意匠出願したものであるから、その構成態様は甲第1号証の意匠と同一である。
(8)本件登録意匠と甲第3号証の意匠との対比及び類否判断
本件登録意匠の物品「育茸箱」と甲第3号証の意匠の物品「キノコ類の栽培用容器」は一致するものであり、少なくとも両物品は類似する。
また、甲第3号証の意匠の構成態様は甲第1号証の意匠の構成態様と同一である。 従って、本件登録意匠と甲第3号証の意匠とは、その構成態様において前記(3)と同様な共通点と差異点を有するものであり、また前記(4)と同様な理由によって、両意匠は類似するものである。
以上のように、本件登録意匠は、本件登録意匠出願前に頒布された刊行物である甲第1号証に記載された意匠と類似するものであり、また本件登録意匠出願前に公然知られた甲第2号証のものと類似するものであり、意匠法第3条第1項第3号の規定により意匠登録を受けることができないものである。さらに本件登録意匠は、先願に係る甲第3号証の意匠と類似するものであって、最先の意匠登録出願人によるものではなく、意匠法第9条第1項の規定により意匠登録を受けることができないものである。
よって本件登録意匠は同法第48条第1項第1号により、無効とすべきである。
第2.答弁に対する弁駁
(1)被請求人は、乙第1号証乃至乙第7号証を証拠として提出し、審判請求書で請求人が主張した、共通点・差異点における請求人の判断は過去の登録意匠によって示される類否判断基準を無視した判断であると主張し、乙各号証の過去の意匠公報によって示される判断基準から両意匠を考察すると、意匠法上の保護の対象となる創作の主体は具体的な構成態様にあると主張する。
しかしながら、審判請求書で請求人が主張した本願意匠と甲第1号証乃至甲第3号証の意匠の共通点・差異点における請求人の判断は、乙第1号証乃至乙第7号証の意匠公報によって示される類否判断基準から、変更を必要とされるようなことはなく、むしろ乙第1号証乃至乙第7号証の意匠公報によって裏付けられるものであるので、その理由を説明する。
(2)まず、基本的な構成態様に関して、被請求人は「基本的な構成態様中(A)の点は乙第2号証乃至7号証の各意匠において・・・(中略)・・・見受けられるものであって、引用意匠のみに見られる特徴と到底云えない」と主張する点について反論する。
乙第7号証は、平成9年9月25日に発行された意匠公報であり、本件登録意匠の出願の後に、公知になった登録意匠である。従って、この乙第7号証の登録意匠は類否判断の基準にはならない。
そして(A)の点、すなわち底板の前後辺にそれぞれ低い側板を立ち上げて設けると共に底板の左右辺にそれぞれ高い側板を立ち上げて設ける点について、乙第2号証〜乙第6号証をみると、底板の前後辺の低い側板と底板の左右辺の高い側板の高さ関係は、高い側板が低い側板の2倍前後の高さであるに過ぎない。このために、乙第2号証〜乙第6号証では、高い側板が低い側板より少しばかり突出しているだけであり、意匠全体に対して高い側板がことさら目立つような態様にはなっていない。
一方、本件登録意匠や甲第1号証乃至甲第3号証の意匠において、底板の前後辺の低い側板と底板の左右辺の高い側板の高さ関係は、高い側板が低い側板の3.5倍以上の高さになっている。このために本件登録意匠や甲第1号証乃至甲第3号証の意匠では、高い側板が低い側板よりはるかに上方へ突出しており、意匠全体に対しても高い側板が大きく目立った態様にはなっている。この本件登録意匠や甲第1号証乃至甲第3号証の意匠において高い側板が大きく目立つ態様は、乙第2号証〜乙第6号証と比較して単なる量的な程度の差にとどまるものではなく、意匠全体の印象に影響を与える顕著な差である。
このように、左右両側の高い側板が大きく目立つ態様は、乙第2号証〜乙第6号証の公知の登録意匠に見られない新規なものであり、本件登録意匠や甲第1号証乃至甲第3号証の意匠はこの点に特徴があると共にこの点が意匠法上の保護の対象となる創作の主体の一つであることが、乙第2号証〜乙第6号証の公知の登録意匠によって、より明確になったものである。
(3)また被請求人は、▲8▼の点、すなわち連絡片の両端と左右の高い側板の背面の側端縁の間に段状の突部を設けた点について、「段状の突部は小さく、且つ、低い側板の両側端で、高い側板の裏側ということもあって目立たず、この点における共通点が全体を支配するものとは到底考えられない」と主張する。
本件登録意匠や甲第1号証乃至甲第3号証の意匠にあって、この段状の突部は、低い側板の上方に高く突出する高い側板を補強する作用を有するものであり、高い側片が高く突出するものではない乙第2号証乃至乙第6号証のものでは、高い側片を補強する必要性がないので、このような段状の突部は設けられていない。つまり、段状の突部は高く突出する高い側板を補強する必要のある本件登録意匠や甲第1号証乃至甲第3号証の意匠に固有のものであり、この段状の突部は、底板の前後辺にそれぞれ低い側板を立ち上げて設けると共に底板の左右辺にそれぞれ低い側板の約3.5倍の高さの高い側板を立ち上げて設けるようにした態様と相俟って、意匠の類否に大きな影響を与えるものである。従って、上記のような被請求人の主張は認められない。
(4)差異点1、すなわち本件登録意匠が、底板の下面に斜めのリブを設けると共に斜めのリブが横切る各透孔を二つの分離された三角形に形成するようにしているのに対して、甲第1号証の意匠には斜めのリブが設けられていない点が、意匠の類否に影響を与えるような差異ではないのは、甲第4号証〜甲第18号証を挙げて審判請求書で説明した通りである。
これに対して被請求人は、「提出された証拠は、何れも側周壁面の態様に特徴がある上に、底板に施された個々の透孔模様は、本意匠と類似意匠が何れも同一範囲に属する類型的な模様であって、本件の場合のように周側壁面の態様に、とりわけ特徴がなく、底板に施された透孔模様に顕著な相違が見られる事例はなく、底板の相違が類否判断に影響しないとする請求人の主張には承服することが出来ない」と主張する。
しかしながら、本件登録意匠や甲第1号証乃至甲第3号証の意匠は、底板の前後辺にそれぞれ低い側板を立ち上げて設けると共に底板の左右辺にそれぞれ低い側板の約3.5倍の高さの高い側板を立ち上げて設けた、周側壁面の態様に特徴を有することは既述の通りである。また甲第6号証に対する甲第7号証〜甲第9号証の事例には底板に施された透孔模様に顕著な相違が見られる。従って、被請求人のこのような主張は認められるものではない。
また被請求人は、「下面リブの相違によって、平面視の態様が、本件登録意匠が格子地に図案化した「X」の文字を表出してなるのに対し、甲第1号証の意匠は弁慶格子状をなすものであって、極めて顕著な相違を有する。と主張するが、底面に「X」の文字を表出させることは甲第5号証や甲第9号証にみられるものであり、特に下面リブで底面に「X」の文字を表出させることは乙第4号証にみられるものであり、従来から周知の態様であって、この点に意匠創作の要部があるとは考えることができない。
さらに被請求人は、「前後の壁面が低く特徴が無いため、底板平面の視認性が高く全体に大きく影響を与えるものであるから、この点の相違点のみで前記の共通点を凌駕する」と主張するが、請求人が呈示した甲第4号証〜甲第18号証は、前後の壁面だけでなく左右の側面も低く、本件登録意匠や甲第1号証乃至由第3号証よりもさらに底板平面の視認性が高く全体に大きく影響を与えるはずであるにも拘わらず、底面の態様が相違しても類似とされている。従って、被請求人のこの点の主張も認められない。
(5)差異点5について、被請求人は、「上方3分の1に正方形状の透孔を2段、下方3分の2に縦長方形状の透孔を2段に形成して、上方部と下方部に変化を与え規則性を打破した態様としているのに対し、甲第1号証の意匠は、全体に正方形状の透孔を規則的な碁盤目状に形成している点」でも両意匠は相違していると主張する。
しかしながら、本件登録意匠における高い側板の開口孔等の態様は、甲第1号証乃至甲第3号証の意匠における高い側板の開口孔等の態様を部分的に改変するだけで容易に形成される程度のものにしか過ぎない。
本件登録意匠の高い側板の開口孔等の態様は、甲第1号証乃至甲5第3号証の意匠の高い側板に変更を加える程度で容易に形成されるものであり、本件登録意匠の高い側板の開口孔等の態様に意匠創作の要部は存し得ないのは明らかである。
また、差異点5について、被請求人は、「その開口孔の両側部を占め視覚的に目立つ周側面四方の出隅部について、本件登録意匠が、出隅部を直角状の角張った態様に形成していることから、正面視では、側面の両側端に形成された横リブが視認できず、単に細幅の縦長帯状板が現われているのみであるのに対し、甲第1号証の意匠は、出隅部を弧状に面取りした丸面に形成されていることから、正面視の両側端には側面両側端に形成された横リブ5段が緩やかな曲面を持つ棚板状に現れている点」でも両意匠は相違していると主張する。
しかしながら被請求人が主張するこの差異点は、高い側板の外面に設けられた縦リブにおいて、本件登録意匠ではその両側端の縦リブを他の縦リブと同じ突出寸法で外側方へ突出させているのに対して、甲第1号証では両側端の縦リブの突出寸法が他の縦リブよりも小さいということからくる相違に過ぎないものであり、被請求人が主張するような大げさな差異ではない。そしてこの程度の差異が視覚に与える影響は微々たるものであり、意匠の類否の判断を左右することはあり得ない。
(6)このように、被請求人は、差異点1と差異点5を最も重視しているようであるが、上記のようにいずれも意匠の類否に与える影響は微弱である。また差異点2、差異点3、差異点4、差異点6についても審判請求書で説明したように、いずれも意匠の類否に与える影響は微弱である。
第3.被請求人の答弁
審判請求人は、審判請求書(以下、請求書という)において、登録第1010414号意匠(乙第1号証、平成8年12月27日出願、意匠に係る物品「育茸箱」、以下、本件登録意匠という)は、本件登録意匠出願前、平成8年11月19日に出願公開された特開平8-298874号公報に記載された「育茸箱」に関する意匠(甲第1号証)と類似するものであり、また、本件登録意匠出願前に、請求人が甲第1号証の意匠の実施品として製造販売(平成7年11月22日公知)した「商品名MC-60」と称する合成樹脂製容器の意匠(甲第2号証)と類似するものであり、意匠法第3条第1項第3号の規定により意匠登録を受けることができないものである。さらに本件登録意匠は、甲第1号証の特許出願から分割・変更した意顕平9-60911号の意匠(甲第3号証、意匠に係る物品「収納用容器」)に類似するものであって、最先の意匠登録出願人によるものではなく、意匠法第9条第1項の規定により意匠登録を受けることができないものである。
従って本件登録意匠は同法第48条第1項第1号により無効とするべきである。旨主張し、その理由として、本件登録意匠と甲第1号証の意匠の共通点・差異点を認定したうえで、共通点は、両意匠の強い共通感を決定付けており、両意匠の類否に著しい影響を与えてこれを左右しているものである。
一方、両意匠の具体的構成態様における差異点は、いずれも、両意匠の類否に与える影響が殆どない程度に微弱なものであり、これらの差異点を総合しても、両意匠の共通点を凌駕するものではない。
以上のように、本件登録意匠と甲第1号証の意匠とは、意匠に係る物品が共通し、その形態においても、両意匠の基調を表出し、両意匠の強い共通感を決定付けているところのものにおいて共通するものであり、前記のような差異があっても、両意匠は類似するものである。と主張しているものであるが、この判断は、両意匠の基本的な構成態様及び具体的な構成態様における共通点に実質以上の新規性、創作性を認めて、これ等の点が両意匠の類似判断を左右する主要素(要部)であるとしたことによって生じたもの、換言すれば、公知事実を看過することによって引用意匠に不当に広い新規性を認めるという、全くの錯誤を基調としたものという他ないものであるから到底承服することができないものである。
以下、その点について詳述するものである。
1.本件登録意匠と甲第1号証の意匠について
(1)請求人は、本件登録意匠と甲第1号証の意匠との共通点として、底板の前後辺にそれぞれ低い側板を立ち上げて設けると共に底板の左右辺にそれぞれ高い側板を立ち上げて設けることによって、上面が開口する箱体として全体を形成した点(以下、(A)という)、前後の各低い側板の上端縁に側板の外面と間隔を隔てて垂下される垂下板片を設けた点(以下、(B)という)、前後の各低い側板に複数の開口窓を、底板に多数の透孔を、左右の高い側板に多数の開ロ孔をそれぞれ設けた点(以下、(C)という)の、基本的な構成態様において、両意匠は共通する。
また、具体的な構成態様においても、▲1▼底板の全面に亘って正方形の透孔を碁盤目配置で設けた点、▲2▼底板の下面に格子状のリブを設げた点、▲4▼前後の各低い側仮に等間隔で4個の開口窓を設けた点、▲6▼前後の各低い側板の上端とその外側の各垂下板片の上端との間に水平の連絡片を設けた点、▲8▼各連絡片の両端と左右の各高い側板の背面の側端縁の間に段状の突部を設けると共にこの段状の突部の外面を凹部として形成した点、▲9▼各垂下板片の下部を台形形状に切り欠いた点、▲11▼左右の各高い側板にその上端縁及び両側端縁を除くほぼ全面に多数の開口孔を設けた点、▲14▼左右の各高い側板の上部の中央に横長矩形の把手用開口を設けた点、▲15▼左右の各高い側板の上端縁をその両側端よりも高く突出させると共にこの突出する上端縁の外面に設けられる縦のリブが上側程低くなるようにした点、▲16▼この左右の各高い側板の上端の二カ所に半円形の凹所を設けた点の各点を認定して、これ等共通点が両意匠の類否に著しい影響を与えてこれを左右しているものである。と判断し、
(2)一方、請求人は、本件登録意匠と甲第1号証の意匠との相違点(差異点)として、差異点1、本件登録意匠が、▲3▼底板の下面に斜めのリブを設けると共に斜めのリブが横切る各透孔を二つの分離された三角形に形成するようにしているのに対して、甲第1号証の意匠には斜めのリブが設けられていない点。
差異点2、本件登録意匠が、▲5▼開口窓間の柱部の外面の両側端に縦突条を突設しているのに対して、甲第1号証の意匠にはこのような縦突条が設けられていない点。差異点3、本件登録意匠が、▲7▼連絡片に長孔と丸孔を交互に複数形成しているのに対して、甲第1号証の意匠では、▲7▼´連絡片に丸孔のみ複数形成するようにしている点。差異点4、本件登録意匠が、▲10▼垂下板片の両側の各端部にそれぞれ横長矩形の小さめの二つの凹部と縦長矩形の大きめの二つの凹部を設けているのに対して、甲第1号証の意匠では、▲10▼´垂下板片の両側の各端部にそれぞれ二つの横長矩形の凹部を設けている点、差異点5、本件登録意匠が、▲10▼左右の高い側板の開ロ孔を上下四列に配置して上二列の開口孔を略正方形にへ下二列の閉口孔を縦に長い矩形に形成しているのに対して、甲第1号証の意匠では、▲12▼´開ロ孔を上下六列に配置して各開ロ孔を略正方形に形成している点。差異点6、本件登録意匠が、▲13▼左右の高い側板の外面に各開口孔を囲む格子状の配置でリブを設けているのに対して、甲第1号証の意匠では、▲13▼´四個ずつの開ロ孔を囲む配置でリブを設けている点。を認定し、これらの差異点は何れも両意匠の類否に与える影響が殆どない程度に微弱なものであると判断しているものであるが、これ等、共通点・差異点における請求人の判断はこの種意匠における過去の登録意匠によって示される類否判断基準を無視した判断であって、到底容認することが出来ないものであり、過去の意匠公報(乙各号証参照)によって示される判断基準から両意匠を考察すると、意匠法上の保護の対象となる創作の主体は具体的な構成態様にあり、以下の通り解するのが相当であると思料するものである。
即ち、先ず、請求人主張の共通点に関し、具体的な構成態様のうち、▲1▼の底板における両者の態様は全く異なっており、共通する点としては認められないのであるから、この点については相違点の項において再度言及するものである。
その余の共通点については、基本的な構成態様中(A)の点は乙第2号証乃至7号証の各意匠において、(B)の点は、乙第5号証、乙第6号証の各意匠において、(C)の点は、乙第2号証乃至乙第7号証において、それぞれ見受けられるものであって、引用意匠のみに見られる特徴と到底云えないものであり、また、具体的な構成態様における▲2▼の点は、乙第2号証乃至乙第7号証の各意匠において、▲6▼▲9▼の点は、乙第5号証乙第6号証の各意匠において、▲11▼の点は、乙第2号証乃至乙第4号証、乙第6号証、乙第7号証の各意匠において、▲14▼の点は、乙第2号証乃至乙第7号証の各意匠において、それぞれ見受けられるものであって、これ等両意匠における各共通点は、甲第1号証の意匠のみに見られるものではなく、有り触れた態様であって、看者の注意を惹かず、類否判断の要素としては微弱と云う他ないものであり、▲4▼の点にしても、一般化している透孔を4個設けたに過ぎず、且つ該部の外側には垂下板が設けられて、その内側ということもあって、特徴と云える程のものではなく、▲15▼、▲16▼の各点にしても、甲第1号証に記載された図面中、従来例を示す斜視図、図7、及び乙第7号証において見受けられるものであって、これまた微弱と云う他ないものである。
してみると、両意匠間における共通点中看者の注意を惹く点は、▲8▼の点にあると云えるが、▲8▼における段状の突部は小さく、且つ、低い側板の両側端で、高い側板の裏側ということもあって目立たず、この点における共通点が全体を支配するものとは到底考えられないものである。
他方、差異点1、底板の相違点について、請求人は、主として下面の相違を述べているが、下面リブの相違によって、平面視の態様が、本件登録意匠が格子地に図案化した「X」の文字を表出してなるのに対し、甲第1号証の意匠は弁慶格子状をなすものであって、極めて顕著な相違を有するものであり、請求人はこの底板の相違について、多くの証拠を挙げて類否判断の要素としては評価できないことを立証しようとしているようであるが、提出された証拠は、何れも周側壁面の態様に特徴がある上に、底板に施された個々の透孔模様は、本意匠と類似意匠が何れも同一範囲に属する類型的な模様であって、本件の場合のように周側壁面の態様に、とりわけ特徴がなく、底板に施された透孔模様に顕著な相違(類型的に全く異なる態様)が見られる事例はなく、底板の相違が類否判断に影響しないとする請求人の主張には承服することが出来ないものであり、本件の場合は、その相違は顕著であり、且つ、前後の壁面が低く特徴が無いため、底板平面の視認性が高く全体に大きく影響を与えるものであるから、この点の相違のみで前記の共通点を凌駕するものと思料するものであるが、両意匠間には更に、差異点5、高い側板の開口孔について、本件登録意匠が、上方3分の1に正方形状の透孔を2段、下方3分の2に縦長方形状の透孔を2段に形成して、上方部と下方部に変化を与え規則性を打破した態様としているのに対し、甲第1号証の意匠は、全体に正方形状の透孔を規則的な碁盤目状に形成している点、その開口孔の両側部を占め視覚的に目立つ周側面四方の出隈部について、本件登録意匠が、出隅部を直角状の角張った態様に形成していることから、正面視(低い側板側)では、側面(高い側板側)の両側端に形成された横リブが視認できず、単に細幅の縦長帯状板が現われているのみであるのに対し、甲第1号証の意匠は、出隈部を弧状に面取りした丸面に形成されていることから、正面視(本件登録意匠と同一方向、甲第3号証の意匠の正面図参照)の両側端には側面両側端に形成された横リブ5段が緩やかな曲面を持つ棚板状に現われている点、等においても両者は顕著に相違しているものであり、これ等底板(差異点1)、開口孔(差異点5)、及び出隈部の相違が相俟った相違感は前記の共通点(その一部に特徴があったとしても)を圧倒しているものであり、そのうえ両意匠間には、差異点2、▲5▼の低い側仮に設けられた開口窓間の柱部外面の縦突条2本の有無、差異点3、▲7▼の低い側板と垂下板との連絡片(以下、低い側板上端面という)に設けられた透孔の態様、差異点4、▲10▼の垂下板(片)両側の凹陥面の態様、差異点6、▲13▼高い側板の開口孔を囲むリブの態様等においても相違があるものであるから、本件登録意匠と甲第1号証の意匠は、全体として明らかに非類似であって、本件登録意匠は甲第1号証の意匠の存在によって、その登録を無効とされる謂われは無いものである。
2.本件登録意匠と甲第2号証の意匠について
請求人は甲第2号証の意匠について、甲第1号証の意匠の実施品であり、その構成態様は甲第1号証の意匠とほぼ同一である。と主張しているように甲第1号証の意匠と略同一のものであるから、本件登録意匠と甲第2号証の意匠とは前記第一と同様の理由によって、両意匠は類似しないものである。
3.本件登録意匠と甲第3号証の意匠について
請求人は甲第3号証の意匠について、甲第1号証の意匠をそのままの形態で意匠出願したものであるから、その構成態様は甲第1号証の意匠と同一である。と主張しているように甲第1号証の意匠と略同一のものであるから、本件登録意匠と甲第3号証の意匠とは前記第一と同様の理由によって、両意匠は類似しないものである。
以上のとおり、本件登録意匠は、甲第1号証乃至甲第3号証の各意匠に類似しない意匠であって、本件登録意匠と甲第1号証乃至甲第3号証の各意匠が類似することを根拠とした請求人の主張は到底受け入れられないものである。
第4.当審の判断
1.本件登録意匠
本件登録意匠は、平成8年12月27に意匠登録出願し、平成10年3月6日に設定の登録がなされた登録第1010414号意匠であって、その意匠登録原簿及びその願書の記載並びに願書添付図面によれば、意匠に係る物品を「育茸箱」とし、その形態は、別紙第1に示すとおりである。
2.甲号意匠
甲号意匠は、請求人が、甲第1号証として提出した公開特許公報所載の「平成8年11月19日公開の特許出願公開番号、特開平8-298874号の図1乃至図6に示される通気性を有する容器(植物の苗を植した苗床やキノコ類の菌を付着した菌床を収納して苗や菌を栽培したり、食品の保冷保管に用いる容器)に係る意匠」であって、その形態は、別紙第2に示すとおりである。
3.本件登録意匠と甲号意匠の類否について
本件登録意匠と甲号意匠を対比し総合的にその類否を検討すると、両意匠は、共に、茸類を栽培する用途のもので、意匠に係る物品が共通しており、その形態においては、以下の共通点と差異点が認められる。
先ず、共通点として、両意匠は、全体が、多数の格子状透孔を有する方形厚板状の底板の前後辺部に横長長方形厚板状の側板を立設し、また、左右側辺部に前後の側板の略3倍の高さの多数の格子状透孔を有する横長長方形厚板状の側板を立設して囲み、上方が開口する箱体状に形成したものであって、前後辺部の側板の下方を左右に余地を残して、扁平略横長台形状に切截して空気出入口を設け、左右側辺部の側板の上方中央の横長矩形状の開口部を手掛け部とした基本的構成態様が共通している。また、その具体的態様において、(1)底板について、その全面に小さな正方形の透孔を碁盤目様に設け、底板の裏面に、正方形の透孔4個を1単位として囲む格子状のリブ状を設けている点、(2)左右の側板について、その縦横比を略1:2とし、全面を把手部を除いて格子窓状に形成し、その両側の窓部及び最上段の窓部を閉塞し、その余の窓部を開口したものとし、側板上端の左右略1/3の部位に左右対称に弧状の凹陥部を二カ所に設け、また、両端を鉤状に切截している点、(3)前後の側板について、左右の側板に連接して、下方が扁平略横長台形状に凹陥した横長長方形厚板状を橋様に形成したものであって、その側板の左右に対称に、各々2個の略縦長矩形状の凹陥部を形成し、内側のものを開口し、外側のものを閉塞したものとし、また、その外側のものの上方(左右と前後の側板の交接部)に略同形状の段状突出部を設けている点、(4)前後の側板の内側について、等間隔に4個の略矩形状の開口部を設け、その開口部が前後の側板の扁平略横長台形状の切截部と通じて空気出入口を形成している点、が共通する。
一方、両意匠は、その具体的な構成態様において、主として次の点に差異が認められる。
(イ)底板について、本件登録意匠は、その裏面の略対角線上に略「X」字状に平行な2条の斜状のリブ状を設けており、表面視において、格子状透孔がその斜状のリブ状により二分されて、対角線上に略三角形の透孔が略「X」字状に表れているのに対して、甲号意匠にはそのような斜状のリブ状は設けられていない点、(ロ)前後の側板について、▲1▼空気出入口につき、本件登録意匠は、側板内側上方を庇状とし、それに縦長矩形板状を柱状に等間隔の横3列に立設し、その柱状の間を開口部としているのに対して、甲号意匠は、横長長方形板状の側板を、上方に余地を残して略方形状に、等間隔に4個切截して開口部としている点、▲2▼また、空気出入口の正面視において、本件登録意匠は、(ロ)▲1▼の柱部の両端に縦に凸状リブを設けているのに対して、甲号意匠は、平面状である点、▲3▼その上端面につき、本件登録意匠は、小さな長円孔と小円孔を交互に等間隔に設けているのに対して、甲号意匠は、小円孔のみを等間隔に設けている点、▲4▼その両側部につき、本件登録意匠は、両側端部寄りに左右対称に、それぞれ略縦長矩形状の大きな二つの凹部とその上方の小さい略矩形状の二つの凹部を設けているのに対して、甲号意匠は、それぞれ略縦長矩形状の二つ凹部を設けている点、(ハ)左右の側板について、▲1▼格子窓状の開口孔につき、本件登録意匠は、上方3分の1に正方形状の透孔を2段、下方3分の2に縦長長方形状の透孔を2段に形成しているのに対し、甲号意匠は、各正方形状の透孔4個を囲繞して規則的な碁盤目様に形成している点、▲2▼四方の出隈部につき、本件登録意匠は、出隅部を平面視直角状に形成しいるのに対し、甲号意匠は、出隈部を平面視隅丸状に面取りしており、正面視において、左右の側板に形成された格子窓状の横桟が現われている点。
そこで、上記の共通点と差異点について総合して検討するに、まず、共通点について、両意匠に共通する基本的構成態様、即ち、全体が、多数の格子状透孔を有する方形厚板状の底板の前後辺部に横長長方形厚板状の側板を立設し、また、左右側辺部に前後の側板の略3倍の高さの多数の格子状透孔を有する横長長方形厚板状の側板を立設して囲み、上方が開口する箱体状に形成したものであって、前後辺部の側板の下方を左右に余地を残して、扁平略横長台形状に切截して空気出入口を設け、左右側辺部の側板の上方中央の横長矩形状の開口部を手掛け部とした点は、両意匠の形態の骨格を構成し、全体の基調をなす特徴といえ、類否判断に支配的な影響を及ぼすものといえる。また、両意匠に共通する具体的態様、(1)底板について、その全面に小さな正方形の透孔を碁盤目様に設け、底板の裏面に、正方形の透孔4個を1単位として囲む格子状のリブ状を設けている点、(2)左右の側板について、その縦横比を略1:2とし、全面を把手部を除いて格子窓状に形成し、その両側の窓部及び最上段の窓部を閉塞し、その余の窓部を開口したものとし、側板上端の左右略1/3の部位に左右対称に弧状の凹陥部を二カ所に設け、また、両端を鉤状に切截している点、(3)前後の側板について、左右の側板に連接して、下方が扁平略横長台形状に凹陥した横長長方形厚板状を橋様に形成したものであって、その側板の左右に対称に、各々2個の略縦長矩形状の凹陥部を形成し、内側のものを開口し、外側のものを閉塞したものとし、また、その外側のものの上方に略同形状の段状突出部を設けている点、(4)前後の側板の内側について、等間隔に4個の略矩形状の開口部を設け、その開口部が前後の側板の扁平略横長台形状の切截部と通じて空気出入口を形成している点は、基本的構成態様の共通点と相俟って、両意匠の共通感をより一層際だたせ、看者の注意を強く惹くところといえ、その類否判断に及ぼす影響は大きいといわざるを得ない。
他方、両意匠の差異点について、(イ)底板について、本件登録意匠が、その裏面の略対角線上に略「X」字状に平行な2条の斜状のリブ状を設けており、表面視において、格子状透孔がその斜状のリブ状により二分されて、対角線上に略三角形の透孔が略「X」字状に表れている点であるが、この種の物品において、底板部の補強のためにその裏面に略対角線上にリブ状を設けることは極く普通であって(例えば、昭和53年8月5日発行の意匠公報110頁記載の登録第316129類似3号意匠、平成6年11月29日発行の意匠公報97頁記載の登録第913784号意匠)、それを設けることに格別の特異性がなく、また、表面視において、格子状透孔がその斜状のリブ状により二分されて、対角線上に略三角形の透孔が略「X」字状に表れるとしても、その略三角形の透孔は、極く小さなものでさほど目立たず、両意匠の具体的態様の共通点(1)に埋没し、両意匠の類否判断に及ぼす影響は、微弱なものといわざるを得ない。(ロ)前後の側板について、▲1▼の空気出入口につき、本件登録意匠が、側板内側上方を庇状とし、それに縦長矩形板状を柱状に等間隔の横3列に立設し、その柱状の間を開口部としている点の差異であるが、側板の内側のさほど目立たない部位についての差異であって、両意匠は共に側板の内側に等間隔に4個の略矩形状の開口部を設けた点では共通しており、その共通点に包摂されるところの部分的差異であって、微弱な差異といわざるを得ず、▲2▼の空気出入口の正面視において、本件登録意匠が、柱部の両端に縦に凸状リブを設けている点であるが、それは、正面視において、扁平略横長台形状の切截部から、僅かに見える程度のもので、さほど目立たず小さな差異というほかない。▲3▼その上端面につき、本件登録意匠は、小さな長円孔と小円孔を交互に等間隔に設けている点であるが、側板の上端のさほど幅の広くない部位についてのもので、長円孔か円孔かの違いはあるものの共に円孔を等間隔に7乃至8個を設けている点ではほぼ共通しており、その類否判断に及ぼす影響は微弱なものといわざるを得ない。▲4▼の両側部について、本件登録意匠が、両側端部寄りに左右対称に、それぞれ略縦長矩形状の大きな二つの凹部とその上方の小さい略矩形状の二つの凹部を設けている点の差異であるが、その小さい矩形状の凹部は、大きな凹部の上に袋棚様に設けたものでさほど目立たず、具体的態様の共通点(3)に包摂される部分的な小さな差異といえ、微弱な差異といわざるを得ない。(ハ)の左右の側板の差異について、▲1▼の格子窓状の開口孔につき、本件登録意匠が、上方3分の1に正方形状の透孔を2段、下方3分の2に縦長方形状の透孔を2段に形成している点の差異であるが、両意匠は、その全面について、把手部を除いて格子窓状に形成し、その両側の窓部及び最上段の窓部を閉塞し、その余の窓部を開口したものとし、また、側板上端の左右略1/3の部位に左右対称に弧状の凹陥部を二カ所に設け、両端を鉤状に切截している点が特徴的であって、本件登録意匠が、下方3分の2に縦長長方形状の透孔を2段に形成しているとしても、格子窓状という両意匠に共通する強い印象から脱することができず、その類否判断に及ぼす影響は、微弱なものといわざるを得ない。▲2▼の四方の出隈部につき、本件登録意匠が、出隅部を平面視直角状に形成しいるのに対し、甲号意匠は、出隈部を平面視隅丸状に面取りしている点の差異であるが、この種の箱状の容器に係る物品において、出隅部を直角状とし角張ったままとしたもの、また、角を丸く面取りしたもの共に極く一般的であって、両意匠の四隅の造形処理に特徴がなく、また、甲号意匠は、正面視において、左右の側板に形成された格子窓状の横桟が現われるが、それは角部を面取りした結果必然的に現れるものであって、その両意匠の類否判断に及ぼす影響は、微弱なものといわざるを得ない。
そうして、上記の差異点が相俟って、相乗効果を生じることを考慮しても、本件登録意匠は、意匠全体として甲号意匠にない格別の特異性を有するものといえず、両意匠の類否判断に及ぼす影響は、微弱なものといわざるを得ない。
以上のとおり、両意匠は、意匠に係る物品が共通しており、その形態について、両意匠の共通点は、類否判断に大きな影響を及ぼすものと認められるのに対して、差異点は、いずれも類否判断に及ぼす影響が微弱なものであり、共通点を凌駕することができず、両意匠は類似するものといわざるを得ない。結局、本件登録意匠は、その出願前に頒布された刊行物である甲第1号証(無効理由1)に記載された意匠と類似するものであり、本件登録意匠の出願前に公然知られた甲第2号証(無効理由2)及び先願に係る甲第3号証(無効理由3)の意匠について検討するまでもなく、本件登録意匠は、その出願前に日本国内において頒布された刊行物に記載された意匠に類似し、意匠法第3条第1項第3号に該当し、同条同項柱書の規定により意匠登録出願を受けることができない意匠であるにもかかわらず、意匠登録を受けたものであって、意匠法第48条第1項第1号に該当し、同条同項柱書の規定によって、その登録を無効とする。
よって結論のとおり審決する。
別掲 別紙第一


審理終結日 1999-09-13 
結審通知日 1999-09-28 
審決日 1999-09-28 
出願番号 意願平8-39330 
審決分類 D 1 11・ 113- Z (K3)
最終処分 成立  
前審関与審査官 並木 文子 
特許庁審判長 吉田 親司
特許庁審判官 本多 誠一
市村 節子
登録日 1998-03-06 
登録番号 意匠登録第1010414号(D1010414) 
代理人 横山 浩治 
代理人 水野 尚 
代理人 西川 惠清 
代理人 森 厚夫 

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