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審決分類 審判 無効  1項2号刊行物記載(類似も含む) 無効とする H2
管理番号 1015030 
審判番号 審判1998-35503
総通号数 11 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 意匠審決公報 
発行日 2000-11-24 
種別 無効の審決 
審判請求日 1998-10-21 
確定日 2000-01-11 
意匠に係る物品 電線引留金具 
事件の表示 上記当事者間の登録第1015275号意匠「電線引留金具」の登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 登録第1015275号意匠の登録を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。
理由 第1 請求人の申し立て及び理由
請求人は、結論同旨の審決を求める、と申し立て、その理由として審判請求書及び弁駁書を提出し、以下に要点として摘記するように主張し、立証として甲第1号証を提出した。
[請求理由の要点]
1 登録第1015275号意匠(以下、「本件登録意匠」という。)は、その出願前に頒布された甲第1号証に記載された意匠(以下、「甲号意匠」という。)に類似するものであるから、意匠法第3条第1項第3号の規定により意匠登録を受けることができないものであり、その登録は意匠法第48条第1項第1号により、無効とすべきである。
2 本件登録意匠
本件登録意匠に係る物品は「電線引留金具」であり、物品の説明によると、本物品は、電柱等に電線を引き留めるのに用い、斜視図のクサビ部材の上部に、引き留められる電線の一部が固定され、同電線はクサビ部材とこの周囲を覆う枠部材との間を通され、電柱等に固定される前記枠部材の右端部の接手部で、電柱間に電線が緊張状態におかれるものである。
3 甲第1号証
甲第1号証は、東京電力株式会社発行の「電気機器材料仕様書・6E-101架空アルミ配線用引留クランプ」 (昭和42年2月制定、同47年7月改訂、同47年7月実施)であって、同社が自社使用のため購入する各種の電気機器材料に関して制定した仕様書の1つであり、同社・本社の資材部・資材計画グループに常時置かれており、これを所望する製造業者等に対して自由に頒布されているものである。
甲第1号証において、主として第8頁の付図「アルミ線用高圧引留クランプ(HDC-2,HDC-4)の形状と寸法」に記載の3図面に現された甲号意匠が、本件登録意匠に類似する。なお、第10頁には、くさび単独の図も示されている。
4 本件登録意匠と甲号意匠との対比
1)物品について
両意匠とも、クサビ型の電線引留具であるから一致する。
2)形態について
a)両意匠は、クサビ部材と枠部材とから構成されている。
b)枠部材は、クサビ部材のクサビ部が差し込まれるクランプ部と、電柱に固定する為の接手部からなる。クランプ部はその一方の側面に開口を持つ概ねC字形の溝を有する断面形状をなす。また、そのクランプ部には4つのフインが形成されている。接手部は、2枚の板が対向する形状で、側面に凹部が形成され、引き留めピンが貫通し割ピンで止められている。枠部材の基部に架線用ワイヤの取付穴を持ち、両意匠の右側面図の対比から見ても、クランプ部のなす傾斜角度や、クランプ部と接手部の大きさの比例関係、および、2辺の長さの比率等、きわめて類似する。
c)クサビ部材は、クサビ部と電線把持部とからなる。電線把持部は、ヒンジピンを中心として、可動部が回動可能に取り付けられ、ピンで回動可能に取り付けられたボルトがU字形切り欠きに係合し、ナットが螺合している。クサビ部については、本件登録意匠では外観としてあまり現れてはいないが、特別目立つ形状でなく差違もない。
差異点として以下の点がみられる。
1)クランプ部の開口の上縁において、本件登録意匠は、基部側が円弧状にカーブしているのに対して、甲号意匠は、直線的になっている点。
2)ボルトの取付位置について、本件登録意匠は固定部側であるのに対して、甲号意匠は可動部側である点。
上述の通り、両意匠の個々の部材どうしも外観が極めてよく類似し、各部材の組み付け方や各部材間の大きさの比率も両者はほとんど同一であり、当然の結果、両意匠の電線引留具は全体として、ほとんど同一に近い程度といえる。
[答弁に対する弁駁の要点]
1)被請求人は、甲第1号証に示した仕様書は、日本国内頒布刊行物とするには、その公開性に関して不十分である旨主張するが、この仕様書は、公開することに意味があり、秘密にする必要はまったくないもので、東京電力株式会社という公共性の高い性格からも、新たに取引に参入しようとする者が仕様書の入手を所望する時に、資材部・資材計画グループが公開を目的として常備していた(現在も常備している)ものであり、また、これを求める者が黙秘義務を負わされることもなく、入手を許可された者のリストがあった訳でもない。
したがって、不特定者が入手できる状態にあったということができ、公開性を有するものであるから、甲第1号証の仕様書は、頒布された刊行物である。
2)被請求人は、両意匠の形態における差異点を主張するが、いずれの差異点も、全体のなかのごく一部についての微差にすぎず、見る者の注意を大きく喚起するほどの顕著な差異とはいえないから、それらの差異をすべて加えてみても、物品全体としての両意匠の類似性を否定し得るものではない。
第2 被請求人の答弁の趣旨及び理由
被請求人は、本件審判の請求は成り立たない、審判の費用は請求人の負担とする、との審決を求める、と答弁し、その理由として以下に要点として摘記するように主張した。
[答弁の理由の要点]
▲1▼ 請求人は、本件登録意匠と甲号意匠との類似性を主張するが、甲第1号証を頒布された刊行物とするには相当の無理がある。
すなわち、そもそも取引対象となる機器の性能、機械的強さや寸法等を表す仕様書は、機器内容を表す書類として当事者間のみに用いられるから、非公開であるのが原則である。仮に配布先の多い大会社や大組織で用いるために、仕様書が多数の印刷物として構成されたとしても、不特定者が入手できる状態にあったとの特別な事情がない限り、非公開刊行物である仕様書としての性格は当然に維持されていると理解される。
また、この仕様書が東京電力株式会社の資材部等に常備されていることをもって、直ちに甲第1号証が意匠法第3条1項3号にいう日本国内頒布刊行物と断定することは無謀な主張である。日本国内頒布と主張するには、本件登録意匠の出願日以前に甲第1号証を不特定の誰でもが入手できたことを少なくとも立証する必要がある。
よって、甲第1号証の存在指摘をもって、日本国内頒布刊行物とするには、不十分である。
▲2▼次に、両意匠の形態には、以下のように多数の差異点がみられるから、類似するものではない。
a)枠部材における右側面視の取付穴の形状差。
b)枠部材の左側面視のクランプ部態様差。
c)クサビ部材のクサビ部のくぼみの有無。
d)クサビ部材の電線把持部の突状の有無。
e)電線把持部のボルト係合位置が可動部側か固定部側かの差。
第3 当審の判断
1 本件登録意匠
本件登録意匠は、平成8年9月11日の意匠登録出願に係り、同10年5月8日に設定の登録がなされた意匠登録第1015275号の意匠であって、願書の記載及び願書に添付された図面代用写真に現されたものによれば、意匠に係る物品を「電線引留金具」とし、その形態を次のとおりとしたものである。(別紙第一参照)
すなわち、1)形態全体を、クサビ部材と枠部材とを上下に嵌合して構成し、
2)下部の枠部材は、全体形状を、右側面視左向きの略半矢印形としたものであって、半矢印の三角部をクサビ部材のクサビ部を差し込み嵌合するクランプ部とし、矢印の棒部にあたる水平横長板状部を電柱に固定する為の接手部とし、▲1▼クランプ部の右側面視において、その三角斜辺に平行にクサビ嵌合用の帯状開口部を設け、その断面形状を略C字形溝とし、その開口部上縁の左方寄りを上向き弧状にカーブさせ、三角斜辺の上湾曲面から左側面側にかけての全面にやや大きな4枚の略C字形板状フインをほぼ等間隔に突設して、その内の上方側3枚のフインに下方の一点に向けた放射線状の角度を持たせ、三角斜辺の下端寄り上面部に架線用ワイヤ取付用円形穴部を大きく突設し、▲2▼接手部を対向する2枚の板から構成し、そのほぼ中央に略三角形凹部を設け、右端を貫通する引き留めピンをさらに割ピンで止めたものとし、
3)上部のクサビ部材は、電線把持部とクサビ部とを上下に一体に構成し、その右側面視を略倒L字形としたもので、▲1▼上部の電線把持部において、ヒンジピンを中心に左右対称状にほぼ同形の可動部と固定部とを係合して略扁平U字柱を形成し、ボルトを可動部側面の小U字形切り欠きに係合してナットを螺合し、▲2▼下部クサビ部を上記クランプ部開口溝に差し込み嵌合して垣間見られる構成態様としたものである。
2 甲号意匠
甲号意匠は、甲第1号証である、東京電力株式会社発行の仕様書、「電気機器材料仕様書・6E-101架空アルミ配線用引留クランプ」に記載されたものであって、同仕様書の第1頁右上の記載によれば、昭和42年2月制定し、同47年7月改訂し、同47年7月実施されたものであり、同仕様書の第8頁の付図「アルミ線用高圧引留クランプ(HDC-4)の形状と寸法」に記載された3つの図面によって現された意匠であって、その形態を、前記本件登録意匠として認定した内、上部クサビ部材の電線把持部において、ボルトを「可動部側面」・・・に係合して、の部分を、ボルトを「固定部側面」・・・に係合して、に変更して、その他を本件登録意匠として認定したとおりとしたもの(一致するもの)である。(別紙第二参照)
3 甲号意匠の公開性等について
被請求人は、甲第1号証の仕様書の存在指摘をもって、日本国内頒布刊行物とするには、不十分である旨主張するので、この点について以下検討する。
まず、前提として、意匠法第3条第1項第2号が規定する「頒布された刊行物」については、東京高等裁判所の判決(昭和59年(行ケ)第211号、昭和60年10月23日言渡)によれば、「刊行物」とは、公衆に対し頒布により公開することを目的として複製された文書、図画その他これに類する情報伝達媒体をいい、「頒布」とは、そのような情報伝達媒体が不特定多数の者の見得るような状態に置かれることをいう、と判示している。
1)そこで、甲第1号証の仕様書について、被請求人は、仕様書は当事者間のみに用いられるものであるから非公開が原則である旨主張するが、請求人も弁駁するとおり、当審もそのように考えることはできない。
すなわち、一般に仕様書とは、ある事業者が必要とする物品等の製造を発注するための製造業者を選定するに当たって、その物品の具体的内容を不特定の製造業者に広く知らしめて入札させることを目的に作成するものであるから、格別の事情がない限り、目的達成のために公開することをこそ原則とするものであると考えられる。
そして、東京電力株式会社という公共性が高く大量の物品を取り扱う事業者の性格から、同社が作成した仕様書が存在する以上、その仕様書は、新規取引参入希望者に容易に入手できるように同社のしかるべき部署(資材部等)において常備され公開されていたと推認することが自然であり、それを覆すに足る被請求人からの反証もない。
2)また、被請求人は、仕様書を不特定者が入手できる状態にあったことの証明がない旨主張するが、これも請求人が弁駁するとおり、一般に仕様書は秘密を目的とせずそれを入手する者が守秘義務を負わされることもないから、逆に被請求人が、入手対象者が東京電力株式会社により限定さていたとの事実の証明でもしない限り、不特定者が入手できる状態で公開されていたと推定することが極自然である。
また、仕様書第1頁右上の記載から判断すれば、昭和47年7月に本クランプ(甲号意匠に係る物品)が実施されていたのであるから、少なくとも、本クランプが記載された仕様書は、昭和47年7月以前に公開されていたと推認することができる。
3)したがって、これらの点についての被請求人の主張はいずれも採用することができず、結局、この仕様書は、不特定多数の者の見得るような状態に置かれ、公開することを目的とした文書であるから、甲号意匠は、その出願前に日本国内において頒布された刊行物に記載された意匠であるとするのが相当である。
4 両意匠の対比
本件登録意匠と甲号意匠は、意匠に係る物品が一致する。
次に、形態について対比すると、両意匠は、前記第3の、1及び2の項で記載した通り、1)〜3)の内、電線把持部のボルトが「可動部側面」か「固定部側面」かのみを除いて、ほとんどの構成態様が一致するものである。
他方、両意匠をさらに子細に観察した場合の差異点として、クランプの開口部上縁左方寄りの上向きカーブの態様において、本件登録意匠は甲号意匠よりそのカーブが緩やかである点が認められる。
5 両意匠の類否判断
以上の一致点及び差異点を総合して、両意匠の類否を意匠全体として考察すると、両意匠の一致する構成態様は、形態上の骨格、かつ、主要部を成し、しかも、これらは形態全体の大部分を占めるものであるから、意匠全体の基調を顕著に表出するところとなり、したがって、この一致性は両意匠の類否判断を支配すると認められる。
これに対して、前記した両意匠間の各差異点は、類否判断に影響を及ぼす要素としては微弱なものといわざるを得ない。すなわち、
まず、ボルトの取付位置の差異は、単に、電線把持部におけるボルト取付位置を左右逆転しただけのことで、極めて常套的な設計変更の範囲にすぎないものであるから、これは微弱な差異というほかないものである。
次に、クランプの開口部上縁のカーブの態様差については、その部分のみを注視した場合に差が認識できる程度のものであって、意匠全体から観れば、両者の形態全体の大部分を占める一致する前記構成態様の中に吸収されてしまうものであるから、到底、類否判断に影響を及ぼす要素ということはできない。
なお、被請求人はこの他にも差異点として、前記a)ないしd)の差異点をも主張するが、いずれの差異点も全体のなかの局部的な微細な差異にとどまるものであるから、類否判断上、格別の差異点として抽出・認定するまでに至らないものである。
そうすると、これらの微弱な差異点を総合しても、両意匠の類否判断を到底左右するには至らないと判断される。
したがって、両意匠は、意匠に係る物品が一致し、形態においても前述したとおり両意匠の形態上の基調を成す構成態様において一致し、その一致点が差異点を凌駕するものであるから、本件登録意匠は、甲号意匠に類似するものであると認められる。
6 結び
以上のとおりであって、本件登録意匠は、その出願前に頒布された刊行物に記載された意匠に類似し、意匠法第3条第1項第3号に該当するものであるにもかかわらず、これに違反して登録されたものであるから、同法第48条第1項の規定により、その登録を無効とすべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
別掲 別紙第一


審理終結日 1999-10-29 
結審通知日 1999-11-12 
審決日 1999-11-19 
出願番号 意願平8-26885 
審決分類 D 1 11・ 113- Z (H2)
最終処分 不成立 
前審関与審査官 楽 勝広 
特許庁審判長 前川 幸彦
特許庁審判官 伊藤 晴子
藤 正明
登録日 1998-05-08 
登録番号 意匠登録第1015275号(D1015275) 
代理人 加川 征彦 
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