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審決分類 審判 無効  2項容易に創作 無効とする F2
管理番号 1039584 
審判番号 無効2000-35236
総通号数 19 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 意匠審決公報 
発行日 2001-07-27 
種別 無効の審決 
審判請求日 2000-04-27 
確定日 2001-05-09 
意匠に係る物品 事務用パンチのパンチ刃 
事件の表示 上記当事者間の登録第0938097号「事務用パンチのパンチ刃」の意匠登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 登録第0938097号の登録を無効とする。 審判費用は被請求人の負担とする。
理由 第一 請求人の申し立て及び理由の要点
請求人は、「結論同旨の審決を求める。」と申し立て、その無効理由を要旨以下のとおり主張し、証拠方法として、甲第1号証ないし甲第4号証を提出した。
1.無効理由
本件登録意匠は、その意匠登録出願前にその意匠の属する分野における通常の知識を有する者が日本国内において広く知られた形状に基づいて容易に意匠の創作をすることができた意匠であり、意匠法第3条第2項の規定に該当するものである。よって、本件登録意匠は、意匠法第3条第2項の規定により無効とすべきものである。
2.意匠に係る物品
本件登録意匠と、本件登録意匠出願前に日本国内で頒布されたことが明らかな特開昭64-34699号公報(甲第4号証)の発明に係る物品の同一性について、本件登録意匠の物品は甲第2号証に示す如く「事務用パンチのパンチ刃」であり、一方、甲第4号証の発明に係る物品は「『穿孔器のパンチ刃の取付孔及びその取付装置』のパンチ刃」であり、第1頁右欄第4行〜6行に「この発明は書類やカード等に綴じ込み用の孔を開けるための、穿孔器のパンチ刃の取付孔及びその取付装置に関するものである」との記載から、これらは相互に物品が同一である。
3.本件登録意匠
本件登録意匠は、本体部と、取付け部とから構成されている。本体部は、甲第2号証の正面図、左側面図、底面図に示す如く、筒状に形成されるとともに、4つの刃を設けている。取付け部は、甲第2号証の平面図、底面図、A-A線断面図に示す如く、円形の取付け面の中央から取付け筒が下方に突出している。
4.甲第4号証
(1)甲第4号証において、第19図に示される「パンチ刃」は、本体部と、取付け部とから構成されている。本体部は、甲第4号証の第19図、及びその説明(第4頁左下欄第10行〜17行)に示す如く、筒状に形成されるとともに、4つの刃を設けている。取付け部は、甲第4号証の第19図、及びその説明(第4頁左下欄第10行〜17行)に示す如く、円形の取付け面の中央から取付け筒が下方に突出している。
(2)甲第4号証において、第5図に示される「パンチ刃」は、本体部と、取付け部とから構成されている。本体部は、甲第4号証の第5図、及びその説明(第1頁右欄第10行〜13行)に示す如く、筒状に形成されるとともに、4つの刃を設けている。取付け部は、甲第4号証の第5図、及びその説明(第1頁左下欄第10行〜13行)に示す如く、円形の取付け面の中央から取付け筒が上方に突出している。
5.本件登録意匠と甲第4号証の発明に係る物品の構成とを比較する。
本体部について、甲第4号証の発明に係る物品は本件登録意匠の構成のうち、筒状に形成されるが、「4つの刃」については、「4つ」であることを明確に示していない。取付け部について、甲第4号証の発明に係る物品は本件登録意匠の構成を具備している。従って、本件登録意匠の構成と、甲第4号証の発明に係る物品の相違点は、本体部の刃の構成の点で相違する。
ところが、甲第4号証のに開示された物品には、本件登録意匠の本体部の構成を全て具備するものがあり、該物品と甲第4号証に係る物品とを組み合わせるのは、当業者にとって容易と言える。本件登録意匠の出願日は前述のように平成5年7月27日であり、甲第4号証の特許発明の公開日は昭和64年(平成1年)2月6日である。
従って、本件登録意匠は、その意匠登録出願前に、その意匠の属する分野における通常の知識を有する者が日本国内において広く知られた形状に基づいて容易に意匠の創作をすることができた意匠であり、意匠法第3条第2項の規定に該当するものである。
第二 被請求人の答弁の趣旨
被請求人は、「本件審判の請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求める。」と反論し、乙第1号証及び乙第2号証を提出している。
1.本件登録意匠の創作の容易性について
(1)請求人の株式会社サンヨウケミカル社は、本件登録意匠が、被請求人が出願した甲第4号証の特開昭64-34699号の第19図により、容易に創作できたものであると主張している。
しかしこれはまったくの誤解である。前記三橋良夫はその意匠について研究し、優美なパンチ刃を創作するため苦心研究の結果創作したものである。
2.本件登録意匠のパンチ刃と引例の第19図のパンチ刃との対比について
(1)本件意匠のパンチ刃は、乙第1号証に示すごとく、作動体4を開放したときは、パンチ刃3が上方に向って露出する。このため意匠的美観が強く求められる。
(2)しかしながら甲第4号証第19図のパンチ刃は、切穿能力の向上を求めたもので、刃先を極めて鋭く鋸刃状にしたので、例えば同甲第4号証の第13図に示すごとく、パンチ刃の刃先の形状は特に目立たず、また指先が当らないパンチ器に使用するパンチ刃で、製作目的が全く異るものである。
(3)前記第19図を意匠図面化して示すと、乙第2号証のごとくである。上部の断面図は前記の図面を転記したもので、下方の6面図は、甲第2号証の本件登録意匠と同程度の大きさに作図したものである。
(4)この乙第2号証と、本件登録意匠の甲第2号証と比較すると、次のごとくである。
(イ)意匠図面の正面図及び左側面図の相違点について、
乙第2号証の第19図のパンチ刃は刃先及び刃元部が極めて鋭く鋸刃状になっているため意匠的に優しさがなく、違和感を起こさせる感がある。しかるに、本件意匠の甲第2号証のパンチ刃は、刃先部及び刃元部がゆるやかな波形となっており、親しみやすい曲線美で形成されており両者は全く異っている。
(ロ)意匠図面の平面図及び底面図について、
平面図については、引用のものと本件意匠のものと同じである。底面図については、引用の第19図のものは刃先部と刃元部が鋭角になっているため、鋭角部分の分岐点が、8個所図面に表われるが、本件の甲第2号証のパンチ刃は刃先及び刃元部が波形に形成されているため、図面上には表われない。
(ハ)A-A断面図及び参考斜視図について
両図とも、上面部については同じであるが、引用の第19図のものは、パンチ刃の刃先と刃元が極めて鋭角のため、危険感を起こさせるが、本件登録意匠のものは、ゆるやかな波形のため親しみやすく、優美である。
3.本件登録意匠のパンチ刃と引例第5図のパンチ刃との対比について
(1)請求人はまた、本件登録意匠が、甲第4号証の第5図に示すパンチ刃から本件登録意匠が容易に創作できたものと主張しているが、これは誤った主張である。
(2)前記第5図のものは、取付部3はパンチ刃本体から上方に突出て形成されており、また刃先部分も鋭角に形成されおり、本件登録意匠とは、正面及び平面、底面、断面並びに斜面など全て異なっている。
(3)またこの第5図のパンチ刃は、パンチ器等に取り付けるには、パンチ器の必要個所にはめ込んで、取付部3の上面を工具によってかしめる必要があり、乙第1号証に示す如きパンチ器具には使用することは不可能である。
(4)以上述べたよう第5図に示すパンチ刃から本件登録意匠のパンチ刃が創作されることは絶対にないものと確信するものである。
(5)更にまた、請求人は、前記の第4号証のものから当事者が容易に創作できるパンチ刃であると主張しているが、現在に至るまで、被請求人以外からは、1件の登録及び出願もないのをみても、このパンチ刃が容易に創作できたものでないとの証左である。
4.甲第4号証の第19図について述べると、本件無効審判の引用図第19図は、甲第4号証第6頁の第19図であるべきである。同号証の次の頁に手続補正書(自発)が掲記されているが、この手続補正書は平成5年6月30日付けのもので、当時の(電子処理ではない)紙による処理においては、この手続補正書が本件意匠の登録出願の包袋に入れられたのはその2ないし3月後である。よってこの手続補正書の第19図は、本件意匠の登録出願の日である平成5年7月27日の時点では誰も見ることができず、公知ではなかったのである。
第三 当審の判断
1.本件登録意匠
本件登録意匠は、その願書及び願書添付図面、意匠登録原簿及び意匠公報の記載によれば、平成5年7月27日の出願(意願平5-23156号)に係り、平成7年8月9日に設定の登録がされた登録第938097号意匠であり、意匠に係る物品が、「事務用パンチのパンチ刃」であって、その形態が、その願書添付図面に示されるとおりのものである。(別紙第一参照)
すなわち、基本的構成態様において、全体が、直径を高さの略2倍とした略短円筒状であり、その下方の周端部を、側面視につき、等間隔に連続する波形状に形成して刃先部とし、上面部を、中央に設けた円形の取付孔部を除いて、ドーナツ形の平面状に形成して取付部とし、また、中央の取付孔を、その取付孔の外周から垂下する略短円筒状に形成している点が認められる。
また、具体的な構成態様において、
(1)取付孔部について、その直径が、全体の外周径の略1/2であり、垂下する円筒状の高さが、全体の高さの略1/3である点、
(2)刃先部について、その波形状の頂部及び谷部を略円弧状に形成し、その頂部及び谷部を各々4個とし、その上下幅を、全体の高さの略1/3の幅としている点、が認められる。
2.創作容易性の判断
本件登録意匠に認められる基本的構成態様は、公開特許公報所載の昭和64年2月6日公開、特開昭64-34699号の第19図(別紙第二参照)の他に同平成4年4月16日公開、特開平4-115900号公報の第2図、同平成4年7月7日公開、特開平4-189197号公報に記載の第3図及び第7図、また、平成5年3月11日発行の意匠公報に記載の登録第863417号意匠のA-A`線拡大断面図のパンチの刃の部分、平成5年3月11日発行の意匠公報に記載の登録第863418号意匠のA-A`線拡大断面図のパンチの刃の部分等に多数例示されるとおり、本件登録意匠の出願前に、日本国内において広く知られた形状というべきである。
また、具体的態様(1)の点、すなわち、取付孔部について、その直径が、全体の外周径の略1/2であり、垂下する円筒状の高さが、全体の高さの略1/3である点も、前記先行事例に多数例示されるとおり、本件登録意匠の出願前に、日本国内において広く知られた形状というべきである。
さらに、本件登録意匠に認められる具体的態様(2)の点、すなわち、刃先部について、その波形状の頂部及び谷部を略円弧状に形成し、その頂部及び谷部を各々4個とし、その上下幅を、全体の高さの略1/3の幅としている点の創作性について検討すると、この種の物品において、刃先部の頂部及び谷部を略円弧状に形成すること(被請求人が主張する「刃先部及び刃元部をゆるやかな波形」に形成すること)は、公開特許公報所載の昭和64年2月6日公開、特開昭64-34699号の第17図(従来例を示す斜視図、別紙第二参照)の他に、特許公報所載の昭和63年1月6日公告の昭63-200号の第5図(従来のパンチ刃の斜視図)及び第8図(本発明に係るパンチ刃の斜視図)に刃先部の頂部を略円弧状に形成したパンチ刃が記載されていること、また、谷部については、特許公報所載の昭和63年6月1日公告の昭63-27160号の第1図(従来のパンチ刃の斜視図)及び第7図(他の加工例におけるパンチ刃の斜視図)に、谷部(刃元部)を略円弧状に形成したパンチ刃が従来例として記載されていることを考慮すると、刃先部の頂部及び谷部を共に略円弧状に形成することは、当業者であれば、容易に着想できるものといわざるを得ない。
そして、前記、特開昭64-34699号の第19図、特開平4-115900号公報の第2図、同平成4年7月7日公開、特開平4-189197号公報に記載の第3図及び第7図、登録第863417号意匠のパンチの刃の部分、及び登録第863418号意匠のパンチの刃の部分のパンチ刃の頂部及び谷部は、いずれも4個であり、その上下幅は、そのほとんどのものが、全体の高さの略1/3の幅としているものであることを考慮すると、本件登録意匠に認められる具体的態様(2)の点に、特筆すべき創作は認められない。
してみると、本件登録意匠は、日本国内において広く知られた基本的構成態様及び具体的態様(1)に係る形状のパンチ刃の刃先部を波形状とし、その頂部及び谷部を各々4個形成し、その頂部及び谷部を略円弧状とした程度のものであり、当業者であれば容易に着想し得るものであって、日本国内において広く知られた形状に基づいて容易に意匠の創作をすることができた意匠といわざるを得ない。
第四 まとめ
したがって、本件登録意匠は、意匠法第3条第2項の規定に該当する意匠であるにもかかわらず、これに違反して登録されたものであるから、その登録は無効とすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
別掲

審理終結日 2001-02-26 
結審通知日 2001-03-09 
審決日 2001-03-27 
出願番号 意願平5-23156 
審決分類 D 1 11・ 121- Z (F2)
最終処分 成立  
特許庁審判長 吉田 親司
特許庁審判官 伊藤 栄子
岩井 芳紀
登録日 1995-08-09 
登録番号 意匠登録第938097号(D938097) 
代理人 神谷 巖 
代理人 前島 旭 
代理人 永井 浩之 
代理人 佐藤 一雄 
代理人 清原 義博 

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