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審決分類 審判 無効  1項2号刊行物記載(類似も含む) 無効としない L6
審判 無効  2項容易に創作 無効としない L6
管理番号 1056958 
審判番号 無効2000-35639
総通号数 29 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 意匠審決公報 
発行日 2002-05-31 
種別 無効の審決 
審判請求日 2000-11-24 
確定日 2002-04-04 
意匠に係る物品 溝ぶた用格子材 
事件の表示 上記当事者間の登録第0854857号「溝ぶた用格子材」の意匠登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。
理由 第一 請求人の申し立て及び理由
請求人は、「登録第854857号意匠の登録を無効とする、との審決を求める。」申し立て、その理由として請求書の「6.請求の理由」の項の記載のとおり主張し、その証拠方法として、甲第1号証ないし甲第12号証を提出している。
その主張の大要は、以下の通りである。
1.利害関係
請求人は、津地方裁判所四日市支部にて係争中の平成12年(ワ)第19号事件の被告であり、被請求人は同事件の原告である。この事件においで被請求人は請求人に対し、登録第854857号の意匠権に基づく差止め請求を求めており、請求人はこの意匠登録を無効とすることについて、利害関係を有する。
また請求人は登録第1049525号意匠の意匠権者であるが、被請求人の登録第854857号意匠に類似するとの理由で無効審決(平成11年審判第35513号)を受けた。更にこの審決を不服として東京高裁に提訴(平成12年(行ケ)124号)したが、請求棄却の判決を受けたため、現在最高裁に上告中である。従ってこの点からも、請求人は被請求人の意匠登録を無効とすることについて、利害関係を有する。
2.無効理由の要点
(1)無効理由1
登録第854857号意匠(本件登録意匠という:甲第1号証)は、その出願前に日本国内において頒布された刊行物である米国特許第2941455号明細書(甲第2号証)の図面に記載された意匠(第1公知意匠)類似する意匠であるから、意匠法3条1項3号に該当し、同法48条1項1号の規定により、その意匠登録を無効とすべきである。
(2)無効理由2
本件登録意匠は、その出願前には本国内において頒布された刊行物である英国特許第1103019号完全明細書(甲第3号証)の図面に記載された意匠(第2公知意匠)に類似する意匠であるから、意匠法3条1項3号に該当し、同法48条1項1号の規定により、その意匠登録を無効とすべきである
(3)無効理由3
本件登録意匠は、その出願前に日本国内においで広ぐ知られた形状に基づいて当業者が容易に創作することができたものであるから、意匠法3条2項に該当し、同法48条1項1号の規定により、その意匠登録を無効とすべきである。
3.本件登録意匠について
本件登録意匠は、意匠に係る物品を「溝ぶた用格子材」とするもので、昭和62年5月14日に出願され、平成4年8月28日に登録第854857号として意匠登録されたものである。
(1)本件登録意匠の形態
全体の基本的構成態様について、長手方向に連続する板片部の上端の前後に、側面視略V字状の溝部を形成し、形態全体を溝部に比し板片部を長めとし、側面形状を縦長の略Y字状に形成したものである。また、各部の具体的構成態様について、板片部の上端部分及び下端部分に細幅の肉厚部分を設け、両溝片は厚みを上方に向けて漸次薄めに形成し、両溝片の上端には短い鍔片を外側に向けて水平に突設し、側面視した溝の形状を扁平な略三角形状とし、両溝片の上端面を細幅の平坦面に形成したものである。
4.公知意匠について
(1)第1公知意匠
米国特許第2941455号(甲第2号証)の意匠
第1公知意匠は、本件登録意匠が出願前に発行された米国特許第2941455号(甲第2号証)の図3、図4のメインベアラーバー6として示されたグレーチングの構造用部材の意匠である。甲第2号証第1欄63行以下には、メインベアラーバー6とクロスバー8とによってグレーチングが構成されることが記載されており、このメインベアラーバー6が本件登録意匠と同じく構ぶた用格子材であることは明らかである。
(2)第2公知意匠
英国特許第1103019号(甲第3号証)の意匠
第2公知意匠は、本件登録意匠の出願前に発行された英国特許第1103019号の図1、図2中にサポートバー10として示されたグレーチングの構造用部材の意匠である。甲第3号証の2頁78行以下には、多数のサポートバー10とキーメンバー28とによってグレーチングが構成されることが記載されており、このサポートバー10が本件登録意匠と同じ溝ぶた用格子材であることは明らかである。
5.無効理由1について
本件登緑意匠と第1公知意匠とは、意匠に係る物品が共通し、両意匠の構成を比較すると、下記の通りである。
(1)共通点
両意匠は、長手方向に連続する板片部の上端の前後に、側面視して略V字状の溝部を形成し、形態全体を構部に比し板片部を長めとし、側面形状を縦長の略Y字状に形成したとの全体の基本的構成態様、及び側面視した構の形状を扁平な略三角形状とした具体的構成態様において共通する。
(2)相違点
(イ)本件登録意匠は、板片部の上端部分及び下端部分に細幅の肉厚部分を設けたものであるが、第1公知意匠は板片部の全体が肉厚である。
(ロ)本件登録意匠は、両溝片の厚みを上方に向けて漸次薄めに形成しているが、第1公知意匠は両溝片の厚みがほぼ一定である。
(ハ)本件登録意匠は、両溝片の上端に短い鍔片を外側に向けて水平に突設し、両溝片の上端面を細幅の平坦面に形成したものであるが第1公知意匠では両溝片の上端に鍔片はない。
(3)本件登録意匠と第1公知意匠との類否
上記したように、本件登録意匠と第1公知意匠とは、長手方向に連続する板片部の上端の前後に、側面視して略V字状の溝部を形成し、形態全体を溝部に比し板片部を長めとし、側面形状を縦長の略Y字状に形成したとの全体の基本的構成態様において共通するものであり、この点が本件登録意匠の全体の基調を決定付ける要部である。そしてこの点が本件登録意匠の全体の基調を決定付ける要部であることは、以下に述べる平成12年(行ケ)第124号審決取消請求事件判決(甲第5号証)から明らかである。この審決取消請求事件は、請求人の登録第1049525号意匠(甲第6号証)が本件登録意匠と類似するとして無効とされた審決(平成11年審判第35513号)の取消しを求めた事件であるが、東京高裁は従来の構ぶた用格子材の多くが略I字状または略T字状であるごとを根拠として、側面形状を縦長の略Y字状に形成した点が意匠の全体の基調を決定付ける本件登録意匠の要部であると認定し、請求人の登録第1049525号意匠は本件登録意匠に類似するとした特許庁の審決を支持した。
この判決で東京高裁は、甲第6号証の登録第1049525号意匠と本件登録意匠との相違点である、両溝片の上端の鍔片の違い,溝部の形状の違い、板片部の下端部分の形状の違い等は、溝ぶた用格子材の意匠として普通に見られる形態内のものであるから、格別看者の注意を惹くものではなく、全体の基本的形態の共通点に包摂されるものとの判断を示した。上記の審決における特許庁の判断およびこれを支持した東京高裁の判断に従えば、本件登録意匠と第1公知意匠との相違点(イ)の板片部の有無、(ロ)の両溝片の肉厚形状の差、(ハ)の上端の鍔片の有無などは、何れも上記した全体の基本的形態の共通点に包摂され意匠というべきものである。換言すれば、甲第5号証の意匠が本件登録意匠と類似するとした前記審決及び判決に示された論理によれば、本件登録意匠は明らかに第1公知意匠に類似するものである。なお、溝蓋用格子材の上端面は路面に露出する部分であるため尖らせることば適当ではなく,この部分に適当な広さの平坦面を形成することは技術的要請によるものである。
6.無効理由2について
本件登緑意匠と第2公知意匠とは、意匠に係る物品が共通し、両意匠の構成を比較すると、下記の通りである。
(1)共通点
両意匠は、長手方向に連続する板片部の上端の前後に、側面視して略V字状の溝部を形成し、形態全体を構部に比し板片部を長めとし、側面形状を縦長の略Y字状に形成したとの全体の基本的構成態様、また、板片部の上端部分及び下端部分に肉厚部を設けた点、両溝片の上端部に短い鍔片を主として外側に向けて水平に突設した点、両溝片の上端面を細幅の平坦面形成した点で共通する。
(2)相違点
(イ)本件登録意匠は、両溝片の上端の鍔片を外側にのみ向けて突設してあるが、第2公知意匠は、両溝片の上端の鍔片の一部を僅かに内側に突出させてある。
(ロ)本件登録意匠は、縦横の比率が約7対2と細長いが、第2公知意匠は縦横の比率が2対1と、本件登録意匠よりもずんぐりした形状である。
(ハ)本件登録意匠は、側面視した溝の形状を扁平な略三角形状としたものであるが、第2公知意匠は側面視した溝の形状を底部が平坦な略U字状としたものである。
(3)本件登録意匠と第2公知意匠との類否
上記したように、本件登録意匠と第2公知意匠とは、長手方向に連続する板片部の上端の前後に、側面視して略V字状の溝部を形成し、形態全体を溝部に比し板片部を長めとし、側面形状を縦長の略Y字状に形成したとの全体の基本的構成態様において共通するものであり、この点が本件登録意匠の全体の基調を決定付ける要部である。
一方、差異点(イ)については、前記判決において、「溝片の形状の差異は微差である」とされており、相違点(ロ)の溝の形状の差異についても同様の判断が示されている。相違点(ハ)の縦横の比率の差異については、甲第8号証に示すように、この種の物品として様々な比率のものが従来から多数存在することから、格別看者の注意を引くものではない。
7.無効理由3について
一般に、溝ぶた用格子材はロール成形された型鋼をサイズに応じて切断して製造されるものであり、現に本件登録意匠も意匠の説明の欄において、正面図において連続するとしている。従って、溝ぶた用格子材は切断前は型鋼そのものであり、例えば、前記した甲第7号証の意匠においても、意匠に係る物品は型鋼であり、グレーチングを構成するものであると説明されている。従って、型鋼を溝ぶた用格子材に転用することは慣用的に行われていた事実がある。一方、型鋼には、I型鋼、T型鋼のほか、H型鋼やY型鋼も古くから知られているのであって、単にY型鋼を転用したに等しい本件登録意匠は、創作性がない。なお、甲第12号証として提出する米国特許第3343320号の図11には、溝蓋用ではないが、本件登録意匠と酷似した断面形状を持つコンクリート補強用の型鋼が記載されている。
第二 被請求人の答弁1
被請求人は、「結論同旨の審決を求める。」と申し立て、その理由として答弁書の「4.乃至7.」の項の記載のとおり主張し、その証拠方法として、乙第1号証及び乙第2号証を提出している。
その主張の大要は、以下の通りである。
1.無効理由1について
(1)本件登録意匠と第1公知意匠の類否
両意匠は、物品が一致し、基本的構成態様が共通し、また、具体的態様のうち側面視した溝の形状が扁平な略三角形状である点において共通している。
一方、両意匠は具体的態様において、
(イ)本件登録意匠は、板片部の上端部分に細幅の肉厚部分を設けているが、第1公知意匠はなく、全体が肉厚である。
(ロ)本件登録意匠の両溝片は厚みを上方に向けて漸次薄めて形成しているが、第1公知意匠は同一厚みで、全体が薄い。
(ハ)本件登録意匠は、溝片の上端面を細幅の平坦面に形成しているが、第1公知意匠は平坦面を有しない。
(ニ)本件登録意匠は、板片部の上端部分及び下端部分の双方にそれぞれ肉厚部分を形成しているが、第1公知意匠は肉厚部分を有しない。
(ホ)本件登録意匠は、両溝片の上端の前後に小さな鍔片を水平に突設しているが、第1公知意匠は何も有しない。
(2)評価
両意匠差異点(イ)乃至(ハ)の点は、溝ぶた用格子材上部のV溝部周辺部位における形態であって、この種の物品において、本件登録意匠を同種物品の中から差別化するためになされたと客観的に考えられる意匠の創作部分であり、かつ需要者の注意を最も強く惹きつける部分である。従って、本件登録意匠と第1公知意匠は非類似である。
2.無効理由2について
(1)本件登録意匠と第2公知意匠の類否
両意匠は、意匠に係る物品が共通するが、基本的構成態様において、差異を有する。第2公知意匠の溝形状は、略V字状ではなく、水平底部を有する略U字状である。また、板片部の下端に長手方向に連続する水平板部を有し、全体として「断面高杯状(脚及び台付きコップ状 )」である。また、両意匠は、具体的態様において、
(イ)本件登録意匠は、板片部の上端部分に細幅の肉厚部分を設けているが、第2公知意匠はない。
(ロ)本件登録意匠の両溝片は厚みを上方に向けて漸次薄めて形成しているが、第2公知意匠は漸次薄めとはいえない。
(ハ)本件登録意匠は、溝片の上端面を細幅の平坦面に形成しているが、第2公知意匠の溝片の上端面は溝開口幅より大きい広幅で細幅とはいえない。
(ニ)本件登録意匠は、板片部の上端部分及び下端部分の双方にそれぞれ肉厚部分を形成しているが、第2公知意匠は上端に肉厚部分を有さず、また下端は水平板部である。
(ホ)本件登録意匠は、両溝片の上端の前後に小さな鍔片を水平に突設しているが、第2公知意匠の鍔片は大きく、また、上端の前後ではなく、溝内に突出している。
(へ)本件登録意匠は、側面視した溝の形状が扁平な略三角形状であるが、第2公知意匠は略三角とはいえない。
(2)評価
第2公知意匠は、(イ)乃至(ハ)のいずれも有さず、両者間に類似する印象を惹起させず、本件登録意匠と第2公知意匠は非類似である。
3.無効理由3について
請求人は、第3の無効理由として意匠法3条2項創作容易性を主張するが、甲第12号証として示される米国特許明細書の図面(図11)の型鋼が広く認識された形態であるとする証拠は全く示されておらず、加えて形態的にも本件登録意匠とは異なるものであって、本件登録意匠は意匠法3条2項の規定に該当しない。
4.結語
以上述べたところから明かなように、本件登録意匠は、第1公知意匠又は第2公知意匠とは非類似の意匠であるから、意匠法3条1項3号に該当せず、また甲第12号証に基づいて容易に創作できたものでないから同法第3条第2項に該当せず、従って、同法48条1項1号の規定により、その登録を無効とすることはできない。
第三 請求人の弁駁
1.本件意匠の要部について
被請求人は、本件登録意匠の要部は「断面形状を縦長の略Y字状に形成した」との基本的構成態様に、(あ)、(い)、(う)の具体的構成態様を組み合わせた点にあるとの前提を立てて、第1公知意匠及び第2公知意匠との類否を論じているが、この前提自体があまりにも不自然である。
(あ)の板片部の上端部分に細幅の肉厚部分を設けた点は、溝蓋用格子材としては普通に見られるごくありふれた態様であって、被請求人の主張するように需要者の注意を最も強く惹き付ける意匠の創作部分であるはずがない。この点は被請求人の答弁書に添付された溝蓋用格子材の意匠登録例から明らかである。また東京高裁判決も「板片部の上端及び下端の双方に肉厚部を設けたものも、その上端のみに肉厚部を設けたものも、ともに普通に見られる態様である」と明確に認定している。
(い)の両溝片の厚みを上部に向けて漸次薄めに形成した点は、断面形状を縦長の略Y字状に形成する場合の技術的必然性によるものであり、意匠の創作部分とはいいがたいものである。すなわち、圧延時のメタルフロー(鋼材の流れ)及び使用時に受ける荷重を考慮すると、基部よりも先端を肉薄とすることは溝片部の強度を確保するうえから必要であり、逆に基部を肉薄とすると強度が低下して破損の可能性が生ずる。
また、特許庁は本件に先立つ平成11年審判第35513号審決において、「当該意匠を用いて溝蓋を形成し、構内に充填材を充填した使用形態がほとんど同様の形態をなすことを考慮すると、b(溝片の形状の差異)及びc(溝の形状の差異)の差異についても類杏判断に与える影響は微弱なものといえる」と認定している。この特許庁の認定からも、溝の内外両面を同時に観察した場合にのみ認識できる「両溝片の厚みを上部に向けて漸次薄めに形成した点」が、重要な意味を持たないことは明白である。
(う)の溝片の上端面を細幅の平坦面に形成した点も、上記審決の認定によれば、類否判断に与える影響は微弱なものであるはずである。また溝片の上端面は、使用時に人の足や車のタイヤが直接接する部位であるから、安全面からも鋭利に尖らせておくはずがなく、多かれ少なかれ平坦面を形成することは自然である。
上記のように被請求人の主張する、本件登録意匠の要部は「断面形状を縦長の略Y字状に形成した」との基本的構成態様に、(あ)、(い)、(う)の具体的構成態様を組み合わせた点にあるとの前提は不当である。上記した審決、及びこの審決を支持した東京高裁及び最高裁の判断によれば、これらの(あ)(い)(う)の具体的構成態様は類否判断に与える影響が微弱な部分である。よって(あ)(い)(う)の具体的構成態様が意匠の創作部分であり、需要者の注意を最も強く惹き付ける部分であるとの被請求人の主張は明らかに不当である。
2.第1公知意匠について
従って、この不自然な前提のもとになされた第1公知意匠及び第2公知意匠との対比に関する主張もまた不当である。すなわち、被請求人は第1公知意匠と本件登録意匠とは基本的構成態様と具体的構成態様のうち(か)が共通するのみで、(あ)(い)(う)の各点で異なるから両者は非類似であると主張している。しかし前記審決、及びこの審決を支持した東京高裁及び最高裁は一貫して、本件登録意匠の特徴は「断面形状を縦長の略Y字状に形成した」との基本的構成態様にあり、この点こそが意匠の全体の基調を決定付ける支配的要素であるとの立場を取っている。そして溝片の形状や溝の断面形状に多少の差異があっても、それらは全て上記基本的構成態様の共通性に包摂され、類否判断に与える影響は微弱であると認定している。したがって、意匠の全体の基調を決定付ける支配的要素である基本的構成態様が同一である第1公知意匠と本件登録意匠とは類似するのであり、基本的構成態様の共通性に、(あ)(い)(う)等の微弱な相違点は包摂されるはずである。
3.第2公知意匠について
また被請求人は、第2公知意匠と本件登録意匠とは基本的構成態様が異なり、(あ)(い)(う)の各点でも異なるから非類似であると主張している。しかし第2公知意匠も「断面形状を縦長の略Y字状に形成した」との基本的構成態様において共通するものである。
被請求人は第2公知意匠の溝の断面形状がV字状ではなくU字状であり、したがって、全体は略Y字状ではなく脚及び台付きコップ状であるから、基本的構成態様が異なると主張しているが、被請求人の指摘する相違は(え)(か)等の具体的構成態様の相違に過ぎない。被請求人のように具体的構成態様の相違を基本的構成態様の相違とするのであれば、そもそも意匠を基本的構成態様と具体的構成態様とに分析して論じる意味がない。もし第2公知意匠が脚及び台付きコップ状であるというならば、本件登録意匠もまた脚及び台付きコップ状である。第2公知意匠と本件意匠とはともに、板状部の上部を二股状に開き「断面形状を縦長の略Y字状に形成した」という基本的構成態様において共通するものであるからである。
しかも第2公知意匠と本件登録意匠とは、板状部の上端部と下端部がともに同一幅に突出しており、両溝片の上端の前後に小さな鍔片を水平に突設し、溝片の上端面を細幅の平坦面に形成した点において同一であるから、基本的構成態様及び(う)(お)の具体的構成態様が共通する。なお、(あ)(え)の板片部の上下の肉厚部分に関する構成、(い)(か)の溝片の形状や溝の断面形状に関する構成では相違があるものの、(あ)(え)の相違点については前記したように東京高裁判決が「板片部の上端及び下端の双方に肉厚部を設けたものも、その上端のみに肉厚部を設けたものも、ともに普通に見られる態様である」と認定しており、全く問題とならない。また、(い)(か)は溝片の形状や溝の断面形状に関するものであるが、前記した審決において、「当該意匠を用いて溝蓋を形成し、構内に充填材を充填した使用形態がほとんど同様の形態をなすことを考慮すると、b(溝片の形状の差異)及びc(溝の形状の差異)の差異についても類否判断に与える影響は微弱なものといえる」と認定している。特に、溝内に充填材を充填した使用形態において認識できる外部形状(格子材の外形線)は、第2公知意匠と本件意匠とでほとんど同一となることを強く主張する。
第四 被請求人の答弁2
被請求人は、平成13年10月31日付けで「第2答弁書」を提出し、本件意匠権に関する訴訟(平成12年(ワ)第19号)の判決を、乙第3号証として提出した。
第五 当審の判断
1.本件登録意匠
本件登録意匠は、昭和62年5月14日の意匠登録出願に係り、平成4年8月28日に設定の登録がされた登録第854857号意匠だり、その願書及び願書に添付された図面、登録原簿によれば、意匠に係る物品が「溝ぶた用格子材」であり、その形態が同添付図面に示されるとおりである。(別紙第一参照)
2.無効理由1について
(1)甲1号意匠
請求人が主張する無効理由1に引用された意匠は、本件登録意匠の出願前に日本国内において頒布された刊行物である米国特許第2941455号明細書(甲第2号証)に記載された図3、図4として示された意匠(第1公知意匠、以下、「甲号意匠1」という。)である。(別紙第二参照)
(2)本件登録意匠と甲号意匠1の対比
両意匠は、意匠に係る物品が共通し、その形態について、以下の共通点と差異点が認められる。
[共通点]
基本的構成態様において、全体が、長手方向に連続する板状体であり、その上端に側面視略V字状の翼片を形成して溝部とし、その溝部が高さの略1/5程度であって、側面視において、縦長の略Y字状を呈している点、
[差異点]
(イ)溝部について、本件登録意匠は、溝部の両翼片の厚みを上方に向けて漸次薄く形成しているのに対し、甲号意匠1は、両翼片の厚みが略一定である点、また、本件登録意匠は、両翼片の先端に短い鍔片を外側に向けて水平に形成し、その上面を細幅の平坦面に形成しているのに対し、甲号意匠1は、両翼片の先端を円弧状に形成している点、
(ロ)肉厚部の有無について、本件登録意匠は、板状体の下方及び溝部の下方にそれぞれ肉厚部を形成しているのに対し、甲号意匠1は、肉厚部を有しない点、に差異がある。
(3)類否判断
そこで、上記共通点と差異点が、両意匠の類否の判断に及ぼす影響について検討する。
まず、両意匠に共通する基本的構成態様、すなわち、全体が、長手方向に連続する板状体であり、その上端に側面視略V字状の翼片を形成して溝部とし、その溝部が高さの略1/5程度であって、側面視において、縦長の略Y字状を呈している点は、従来、側面視I字状とするもの、T字状とするものが一般的であり、Y字状とするものが希であったとしても、本件登録意匠の出願前、1967年9月26日発行の米国特許公報に掲載された登録第3343320号の11図(甲第12号証、別紙第四参照)に見られるとおり、Y字状とすること自体にさほど新規性がないことを考慮すると、その類否判断に及ぼす影響が大きいということはできない。
一方、両意匠の差異点(イ)について、本件登録意匠が、溝部の両翼片の厚みを上方に向けて漸次薄く形成している点、また、本件登録意匠は、両翼片の先端に短い鍔片を外側に向けて水平に形成し、その上面を細幅の平坦面に形成している点は、それらを有しないシンプルな甲号意匠1に対し、両意匠の顕著な差異となっており、看者の注意を惹くところであり、その類否判断に及ぼす影響は、大きいというべきである。また、(ロ)肉厚部の有無について、本件登録意匠が、板状体の下方及び溝部の下方にそれぞれ肉厚部を形成している点は、基本的構成態様の共通点と相俟って、本件登録意匠の特徴を成しており、その類否判断に及ぼす影響は、相当程度のものがあるというべきである。
してみると、両意匠の共通点は、前記のとおり、その類否判断に及ぼす影響が大きいということはできないのに対し、両意匠の差異点は、それらが纏まって、類否判断に及ぼす影響が大きいものであるから、結局、両意匠は、差異点が共通点を凌駕していることが明らかであって、類似するものとはいえない。
したがって、本件登録意匠は、意匠法第3条第1項第3号に該当するとはいえない。
3.無効理由2について
(1)甲号意匠2
請求人が主張する無効理由2に引用された意匠は、本件登録意匠の出願前に日本国内において頒布された刊行物である英国特許第1103019号完全明細書(甲第3号証)の図面に記載された意匠(第2公知意匠、以下、「甲号意匠2」という。)(別紙第三参照)である。
(2)本件登録意匠と甲号意匠2の対比
両意匠は、意匠に係る物品が共通し、その形態について、以下の共通点と差異点が認められる。
[共通点]
基本的構成態様において、全体が、長手方向に連続する板状体であり、その上端に側面視略V字状の翼片を形成して溝部とし、その溝部が高さの略1/5程度であって、側面視において、縦長の略Y字状を呈している点、また、具体的態様において、溝部の両翼片の先端に短い鍔片を形成し、その上面を細幅の平坦面に形成している点、が共通している。
[差異点]
(イ)溝部について、本件登録意匠は、溝部の両翼片の厚みを上方に向けて漸次薄く形成しているのに対し、甲号意匠2は、両翼溝片の厚みが略一定である点、
(ロ)溝部の両翼片の態様について、本件登録意匠は、両溝片の上端に小さな鍔片を水平に形成しているが、甲号意匠2の鍔片は略T字状であり、溝の内側にも突出している点、
(ハ)肉厚部の有無について、本件登録意匠は、板状体の下方及び溝部の下方にそれぞれ肉厚部を形成しているのに対し、甲号意匠2は、下端を側面視逆T字状に形成して、長手方向に水平板状部を設けている点、に差異がある。
(3)類否判断
そこで、上記共通点と差異点が、両意匠の類否の判断に及ぼす影響について検討する。
まず、両意匠に共通する基本的構成態様、すなわち、全体が、長手方向に連続する板状体であり、その上端に側面視略V字状の翼片を形成して溝部とし、その溝部が高さの略1/5程度であって、側面視において、縦長の略Y字状を呈している点は、従来、側面視I字状とするもの、T字状とするものが一般的であり、Y字状とするものが希であったとしても、本件登録意匠の出願前、1967年9月26日発行の米国特許公報に掲載された登録第3343320号の11図(甲第12号証、別紙第四参照)に見られるとおり、Y字状とすること自体にさほど新規性がないことを考慮すると、その類否判断に及ぼす影響が大きいということはできない。また、具体的態様において、溝部の両翼片の先端に短い鍔片を形成し、その上面を細幅の平坦面に形成している点について、両翼片の上端面が、使用時に人の足や車のタイヤが直接接する部位であることにより平坦面を形成することが普通であることを考慮すると、その類否判断に及ぼす影響は、微弱なものといわざるを得ない。
一方、両意匠の差異点(イ)の溝部について、本件登録意匠が、溝部の両翼片の厚みを上方に向けて漸次薄く形成している点は、差異点(ロ)の甲号意匠2の鍔片が略T字状であり、溝の内側にも突出している点と相俟って、先端に向け細くなる印象を与えるのに対し、甲号意匠2は、先端に向け太くなる印象を与え、両意匠の明確な差異を成しており、その類否判断に及ぼす影響は、大きいというべきである。また、差異点(ロ)は、溝部の形態について、本件登録意匠が、明確にV字状と認識されるのに対し、甲号意匠2は、略逆「Ω」状の印象を与えるものであり、その類否判断に及ぼす影響は、大きいというべきである。さらに、差異点(ハ)の本件登録意匠は、板状体の下方及び溝部の下方にそれぞれ肉厚部を形成している点は、本件登録意匠が肉厚部と認識されるのに対し、甲号意匠2は、側面視逆T字状と認識されるものであり、両意匠の類否判断に相当程度の影響を及ぼすものといわざるを得ない。
してみると、両意匠の共通点は、前記のとおり、その類否判断に及ぼす影響が大きいということはできないのに対し、両意匠の差異点は、それらが纏まって、類否判断に及ぼす影響が大きいものであるから、結局、両意匠は、差異点が共通点を凌駕していることが明らかであって、類似するものとはいえない。
したがって、本件登録意匠は、意匠法第3条第1項第3号に該当するとはいえない。
4.無効理由3について
請求人は、「溝ぶた用格子材は切断前は型鋼そのものであり、例えば、前記した甲第7号証の意匠においても、意匠に係る物品は型鋼であり、グレーチングを構成するものであると説明されている。従って、型鋼を溝ぶた用格子材に転用することは慣用的に行われていた事実がある。一方、型鋼には、I型鋼、T型鋼のほか、H型鋼やY型鋼も古くから知られているのであって、単にY型鋼を転用したに等しい本件登録意匠は、創作性がない。」と主張する。
しかしながら、基本的構成態様において、本件登録意匠が略Y字状を呈しているとしても、本件登録意匠には、その具体的態様において、溝部の両翼片の厚みを上方に向けて漸次薄く形成している点、また、溝部の両翼片の上端に小さな鍔片を水平に形成している点、さらに、本件登録意匠は、板状体の下方及び溝部の下方にそれぞれ肉厚部を形成して点に意匠的効果が顕著な創作が認められ、当業者が容易に創作ができた意匠ということはできず、意匠法第3条第2項の規定に該当しない。
第五.むすび
以上のとおり、本件登録意匠は、その出願前に係る甲号意匠1(第1公知意匠)及び甲号意匠2(第2公知意匠)に類似する意匠ではないから、意匠法第3条第1項第3号に該当せず、また、同法第3条第2項に規定する意匠にも該当しないから、その登録を、無効とすることができない。
よって、結論のとおり審決する。
別掲

審理終結日 2002-02-05 
結審通知日 2002-02-08 
審決日 2002-02-21 
出願番号 意願昭62-18953 
審決分類 D 1 11・ 113- Y (L6)
D 1 11・ 121- Y (L6)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 山崎 裕造 
特許庁審判長 吉田 親司
特許庁審判官 西本 幸男
伊藤 晴子
登録日 1992-08-28 
登録番号 意匠登録第854857号(D854857) 
代理人 山本 文夫 
代理人 後藤 憲秋 
代理人 植村 元雄 
代理人 林 光佑 
代理人 綿貫 達雄 
代理人 吉田 吏規夫 

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