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審決分類 審判 無効  2項容易に創作 無効としない B1
管理番号 1058426 
審判番号 無効2001-35225
総通号数 30 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 意匠審決公報 
発行日 2002-06-28 
種別 無効の審決 
審判請求日 2001-05-25 
確定日 2002-04-30 
意匠に係る物品 ワイシャツ 
事件の表示 上記当事者間の登録第1088952号「ワイシャツ」の意匠登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。
理由 第1 請求人の申し立て及び理由
請求人は、「本件審判請求は成り立たない。審判費用は請求人の負担とするとの審決を求める。」と申し立て、その理由として審判請求書を提出し、以下に要点として摘記するように主張し、立証として甲第1号証ないし甲第6号証を提出した。
1.請求の理由の要点
(1)請求人は、被請求人から、請求人の製造、販売にかかる商品が被請求人の有する意匠登録第1088952号意匠(以下「本件登録意匠」という)の意匠権を侵害している旨の警告書(甲第1号証)を受けているから、本件審判請求につき利害関係を有するものである。
(2)該警告書によると、本件登録意匠の特徴は、は、「・・・両胸ポケットに略T字形模様を、前袷部分の線状の模様を介して左右対称に配置している点・・・・」であるとしている。
(3)そこで、検討すると、
イ.「前袷部分の線状の模様」については、いかに遅くとも1980年代において既に日本国内において公然知られた模様であったことは明らかである(甲第3号証ないし甲第5号証)。
ロ.「・・・ポケットに略T字形模様を左右対称に配置」する点については、フラップの縁を色を変えて「T」字の横棒とした模様は、ジャケットの腰部に位置するポケット及びユニホ-ムにおいて既に日本国内において公然知られた模様であった(甲第3号証、甲第6号証)。また、フラップ全体の色を変えて
「T」字の横棒とした模様の例は、ワンピ-スにおいて既に日本国内において公然知られた模様であった(甲第4号証)。
ハ.左右対称に2個の胸ポケットを配置するのは、かなり以前から知られており、日本国内において公然知られた形状となっていた(甲第4号証)。
(4)上記イ.及びロ.を基にすれば、遅くとも1997年には、被服業界の者にとっては、ワイシャツに、「前袷部分の線状の模様」を配置し、かつ、その両胸ポケットに、上記ハ.の技法に基づき、上記ロ.両胸ポケットの「略T字形模様」をヒントに、「フラップの縁を色を変えて「T」字の横棒とした模様」を付す、という意匠を創作するのは極めて容易であったのである。
(5)してみると、被請求人が自認する本件登録意匠の特徴である「・・・両胸ポケットに略T字形模様を、前袷部分の線状の模様を介して左右対称に配置している点・・・・」は、本件登録意匠の「意匠登録出願前」に被服業界における「通常に知識を有する者」が「日本国内・・・・において公然知られた形状、模様・・・の結合に基づいて容易に意匠の創作ができた・・・・」ものに該当する。
(6)よって、本件登録意匠は、意匠法第48条第1項第1号、同法第3条第2項に該当し、その登録を無効とされるべきものである。
第2 被請求人の答弁の趣旨及び理由
被請求人は、「結論同旨の審決を求める。」と答弁し、その理由として以下に要点として摘記するように主張した。
[答弁の理由の要点]
1.本件登録意匠について
本件登録意匠は、ワイシャツの両胸ポケットに略T字型模様を、前袷部分の線状の模様を介して左右対称に配置され構成されている。
当該略T字型は、その上部の横線にあたる部分がポケットのフラップの袷側の端と下端の2辺のみを縁取りをしたもので、そのフラップの形状も、台形で幅が広がった袷側の下の角が曲線になっている変形した台形である。そして、T字の縦線として、ポケットのボタンの位置と重なる部分から縦一直線引かれている。略T字型は、このような左右非対称のカ-ブを有する流れのあるデザインとなっている。
2.請求人の主張について
請求人は、甲第3号証ないし同第6号証を挙げて本件登録意匠が容易に創作出来るものであった旨主張するが、請求人の証拠から分かるのは、せいぜい袷の部分の色を変えるデザインが存在したことと、腰部のポケットにT字形の模様を施したものがあったということに過ぎない。また、請求人の主張は、どの意匠にどの意匠を組み合わせれば本件登録意匠を創作できるのか、まったく特定しておらず、組み合わせの容易性自体考慮することが不可能である。
いずれにしても、請求人の挙げる証拠からは、本件登録意匠のように胸ポケットに特徴のある略T字形の模様を施し、同時に袷部分を線状の模様にした独特のデザインは到底容易に創作し得るものでないことは明らかであり、本件請求が失当であることもまた明らかである。
3.請求人が挙げる公知文献について
請求人は、各デザインを分断して意見を述べているが、本件登録意匠はそもそも、前述のように前袷の部分と胸ポケットの略T字型とが、一体としてデザインされているものである。そして、一体としてみる場合に、請求人の掲げる各証拠はいずれも、本件登録意匠を創作するための参考となり得るものではない。
なお、個別にみると、(1)「前袷部分の線状の模様」に関する各証拠は、ヌバックジャンパ-、スタンドカラ-のシャツ、ウ-ル素材のカ-ディガン、ニット素材のセ-タ-であり、本件登録意匠が対象としているワイシャツとは異なり、さらに、各証拠のその態様も、本件登録意匠のそれとは異なるものである。また、(2)「ポケットに略T字型模様を左右に配置する」に関する各証拠は、背広の上衣の腰部のポケット、ワンピ-ス、メンズブルゾンであり、本件登録意匠が対象としているワイシャツとは異なり、さらに、各証拠のその態様も、本件登録意匠のそれとは異なるものである。
4.以上、請求人が掲げるいずれの公知文献によっても、日本国内において公然知られた形状模様の結合に基づいて、本件登録意匠を容易に創作できたとはいえない。
第3 答弁に対する弁駁の要点
(1)被請求人は、警告書では、本件登録意匠の特徴について、「・・・・両胸ポケットに略T字型模様を、前袷部分の線状の模様を介して左右対称に配置されている点・・・・」であると明言して、「請求人の製品は侵害物である」旨を断言しておきながら、答弁書において、急にその態度を翻して「・・・・ 当該略T字型は、その上部の横線にあたる部分がポケットのフラップの袷側の端と下端の2辺のみを縁取りをしたもので、そのフラップの形状も、台形で幅が広がった袷側の下の角が曲線になっている変形した台形である。そして、T字の縦線として、ポケットのボタンの位置と重なる部分から縦一直線引かれている。略T字型は、このような左右非対称のカ-ブを有する流れのあるデザインとなっている・・・」と、意匠の特徴点を増加し、自己の意匠権の及ぶ範囲を狭く主張し、無効となるのを免れようとしているのである。これは、「禁反言」の原則に触れる不当な主張であると言わざるをえない。
(2)被請求人は、請求人の提出した証拠につき、「裏革」とか「ウ-ル素材」とか「ニット素材」とか素材の相違を理由に先例にならないと決めつけているが、「素材の相違」は「意匠の類否」の問題に対して全く影響を与えないものである。
(3)さらに、被請求人は、請求人の提出した証拠につき、「ヌバックジャンパ-」であるとか「カ-ディガン」であるとか「ワンピ-ス」であるとかは、「ワイシャツ」とは異なる旨主張するが、いずれも「被服のポケット」であり、当然、「ワイシャツ」のデザイナ-は被服業界の者で熟知しているから、この反論は根拠に欠けるものである。
(3)被請求人は、また、「・・・(T字型の)の上部の横線にあたる部分がポケットのフラップの袷側の端と下端の2辺のみを縁取りをし・・・・・袷側の下の角が曲線になっている・・・」と新たな意匠の特徴を主張するので、これに対処するための甲第7号証を提出する。
第4 当審の判断
1.本件登録意匠
本件登録意匠は、平成11年(1999年)4月2日の意匠登録出願に係り、同12年8月18日に設定の登録がなされた意匠登録第1088952号の意匠であって、願書の記載及び願書に添付の図面代用カラ-写真によれば、意匠に係る物品を「ワイシャツ」とし、その形態を同添付写真に示されるとおりとしたものである。(別紙第一参照)
すなわち、
その基本的構成態様は、襟部を有する長袖の前開きの所謂ワイシャツにおいて、その前開き部に縦長帯状の打合わせ部と、左右両胸位置に左右対称のポケット部と、また、両肩に肩章とを設けたものとし、
また、その各部の具体的態様は、
(1)襟部について、その左右両先端の小三角形状部を濃紺色とし、
(2)打合わせ部について、その帯状全面を濃紺色とし、
(3)ポッケット部について、そのフラップの打合わせ側の垂直側辺と、斜状下辺との2辺を角丸を介して接続した縁取りと、該下辺中央位置からポケット本体下辺までの縦一直線の縁取りとによって、略「ケ」の字状の濃紺色の縁取りを形成し、
(4)肩章について、全体を横長帯状とし、襟部側の両略矢印状先端部と、間隔を開けて現した短縦線とを濃紺色に表したものである。
2.本件登録意匠の創作容易性についての判断
そこで、本件登録意匠について本件登録意匠の出願前のこの種物品分野における形態と比較して、本件登録意匠の創作容易性について検討すると、上記認定した本件登録意匠の形態の、基本的構成態様、すなわち「襟部を有する長袖の前開きの所謂ワイシャツにおいて、その前開き部に縦長帯状の打合わせ部と、左右両胸位置に左右対称のポケット部と、両肩の肩章とを設けた態様」は、本件登録意匠の骨格を形成し、大部分を占めるところであるが、肩章を設けた点を除けば、例示するまでもなく、従来よりこの種ワイシャツの意匠における典型的且つ一般的な態様といい得、また、肩章を付したワイシャツもこの種物品分野の当業者であれば比較的容易に着想し得た態様といえるものである。
しかしながら、本件登録意匠の特徴は、上記基本的構成態様よりも、寧ろ、下記の各部の具体的態様にあり、それらが結合し相俟って独自のワイシャツの意匠を創作したものといえる。
すなわち、具体的態様のうち、(1)の、襟先部の小三角形状部を濃紺色とした態様については、請求人及び被請求人とも、本件登録意匠の特徴として一切主張していないが、この種ワイシャツ等の分野の襟をこのように小三角形先端部のみ着色を施す態様は、当審の調査においても、一定以上の創作性が認められるものである。
(2)の、打合わせ部の帯状全面を濃紺色とした態様については、請求人の、「「前袷部分の線状の模様」については、いかに遅くとも1980年代において既に日本国内において公然知られた模様であったことは明らかである」旨の主張と、その証拠(甲第3号証ないし甲第5号証)とによると、この種ワイシャツの打合わせ部の帯状全面に明度差を施す態様は、従来より比較的一般的態様であることが認められる。
(3)の、ポッケット部について、そのフラップの打合わせ側の垂直側辺と、斜状下辺との2辺を角丸を介して接続した縁取りと、該下辺中央位置からポケット本体下辺まで縦一直線による縁取りとによって、略「ケ」の字状の濃紺色の縁取りを形成した態様について、まず、この縁取り態様を、請求人は、請求書において「T」字形模様と認定し、該模様の公知性を立証するため甲各号証を提出したが、その認定も立証も本件登録意匠のポケット部の縁取りの形態を誤って捉えた結果のものであるから、いずれも採用することができない。
その後、請求人が、答弁書の主張に即して弁駁書と同時に提出した甲第7号証によると、そのジャケット腰部のポケットからは、その「ケ」の字の上部形状さえも明確に看取されず、縁取り全体形状はなおのこと不明であるから、この「ケ」の字状縁取り態様を公然知られた形状ということはできない。
(4)の、帯状肩章の襟部側の両矢印状先端部と、間隔を開けて現した短縦線とを濃紺色とした態様について、請求人及び被請求人とも、何ら主張も証拠も提出していないものである。しかしながら、この肩章自体は軍服等の制服に従来よりみられ本件登録意匠独自の特徴的なものではないものの、本件登録意匠の特徴を形成する主要な構成要素の一つと認められるものであるから、これを除外して本件登録意匠の創作性を判断することは到底できない。
以上のとおり、本件登録意匠の創作容易性の判断の対象は、ワイシャツの意匠全体であるから、請求人及び被請求人のように、本件登録意匠の特徴を意匠全体として捉えず、部分的に袷部やポケット部のみ限定し捉えた主張は、その前提において失当といわざるを得ない。
そうして、上記本件登録意匠の各部の具体的態様の(1)〜(4)の中に公知で創作容易な態様も含まれているものの、本件登録意匠は、その基本的構成態様を土台とし、それらの各部の態様が結合し相俟って意匠的効果が認められる独自のワイシャツの意匠を創作したものといえることから、本件登録意匠出願前にその意匠の属する分野における当業者が公然知られた形状、模様若しくは色彩又はこれらの結合に基づいて容易に創作できた意匠ということはできない。
3.結び
したがって、請求人の提出した主張及び証拠をもっては、本件登録意匠が意匠法第3条第2項の規定に違反して登録されたものとすることはできないから、本件登録意匠の登録を無効とすることはできない。
よって、結論のとおり審決する。
別掲
審理終結日 2002-03-04 
結審通知日 2002-03-07 
審決日 2002-03-19 
出願番号 意願平11-8748 
審決分類 D 1 11・ 121- Y (B1)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 関口 剛清野 貴雄 
特許庁審判長 吉田 親司
特許庁審判官 伊藤 晴子
西本 幸男
登録日 2000-08-18 
登録番号 意匠登録第1088952号(D1088952) 
代理人 窪田 英一郎 
代理人 吉村 仁 
代理人 吉村 悟 
代理人 吉田 聡 
代理人 柿内 瑞絵 

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