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審決分類 審判 無効  1項2号刊行物記載(類似も含む) 無効としない L6
審判 無効  2項容易に創作 無効としない L6
審判 無効  意10条1号類似意匠 無効としない L6
管理番号 1062985 
審判番号 無効2001-35281
総通号数 33 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 意匠審決公報 
発行日 2002-09-27 
種別 無効の審決 
審判請求日 2001-06-28 
確定日 2002-07-15 
意匠に係る物品 建築用板材 
事件の表示 上記当事者間の登録第1087962号「建築用板材」の意匠登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。
理由 第1 本件登録意匠及び手続の経緯
本件登録意匠は、平成8年3月19日の意匠登録願(平8-7618号)に係り、平成12年8月11日に、意匠登録第1087962号として設定の登録がなされたものであり、その願書の記載及び願書に添付した図面の記載によれば、意匠に係る物品が、「建築用板材」であり、その形態が、同添付図面に示すとおりである(別紙第一参照)。
第2 請求人の申し立て及び理由
請求人は、「登録第1087962号意匠の登録を無効とする、との審決を求める。」申し立て、その理由として請求書の「6. 請求の理由」の記載のとおり主張し、その証拠方法として、甲第1号証ないし甲第13号証を提出している。
その主張の大要は、以下の通りである。
1.無効理由の要点
登録第1087962号意匠(以下、「本件意匠」という。)は、
(1)その出願前に日本国内において頒布された刊行物に記載された意匠に類似する意匠である(無効理由1)。
(2)その意匠の属する分野における通常の知識を有する者が日本国内において広く知られた形状等に基づいて容易に創作できたものである(無効理由2)。
(3)上記(1)が否定される場合には、本件意匠は、自己の登録意匠にのみ類似する意匠であるのに、独立の意匠登録を受けたものである。
よって、本件意匠は、意匠法第3条第1項第3号、同条第2項、または同法第10条第1項の規定に違反して意匠登録されたものである(無効理由3)。
したがって、同法第48条第1項の規定により本件意匠は無効とされるべきである。
2.本件意匠
本件意匠は、別紙添付の意匠公報に示すとおりのものであって、意匠に係る物品を「建築用板材」とする細長板体状のものであり、その全体の基本的な構成は、施工にあって同形の板体を上下又は左右方向へ連結して壁面とするための嵌合突条板(以下「嵌合突板」という。)と、嵌合凹溝(以下「嵌合溝」という。)との一対による接合部を板材の長手方向の両端縁にそれぞれ設けたものとし、さらに、嵌合突板を設けた端縁には、板材を固定するための取付板を、板材端縁から外方へ突設して固定部としている。
また、その全体の具体的な構成は、板材の表面側を化粧面にし、裏面側には裏打材を設けたものとしている。そして、嵌合突板を設けた端縁側(以下「雄側」という。)は、嵌合突板の裏面と取付板の表面間に、連結板(後記)を挿入するための連結溝を設けたものとし、また、嵌合突板の表面側から化粧面の端縁までの間に、断面形状を折れ線状とする段差を持った止水面による止水段を設けたものとしている。
一方、嵌合溝を設けた端縁側(以下「雌側」という。)は、嵌合溝の裏面側を雄側に設けた連結溝に挿入する連結板としており、化粧面側を接合時に止水段の止水面を覆う覆板としたものである。
そして、その全体の具体的な構成態様については、まず、雄側の具体的な態様は、嵌合突板につき、先端部分のみを丸面状にし、厚さを板材全体の厚さのほぼ1/3の厚さにした平板体状としており、長さを表面側(先端から止水段まで)が裏面側(先端から連結横の底面まで)よりも長く表面側のほぼ2/3の長さになるように形成したものとしている。
また、連結溝につき、溝幅を嵌合突板の厚さのほぼ1/2にしたものとし、取付板につき、その長さを嵌合突板の表面側の長さのほぼ2倍の長さに形成したものとしている。さらに、止水段につき、止水面を直角状に折り曲げた階段状のものにし、長さを嵌合突板の表面側の長さのほぼ1/3の長さのものにしている。
次に、雌側の具体的な構成態様は、嵌合溝につき、表面側の覆板を長く、板材を連結したとき、嵌合突板の先端が嵌合溝の底面とほぼ密着し、覆板の表面先端となる化粧面の端縁が他の板材の化粧面の止水段の端縁と突き合わせ状に現れるような長さに形成しており、裏面側の連結板側を短く形成したものとしている。
また、覆板につき、先端の裏面側部分を先細り状に、且つ、先端を丸面状に形成したものとし、連結板につき、板体の先端部分が裏打材から遊離した状態に現れたものとしている。
3.無効事由1
本件意匠が意匠法第3条第1項第3号の規定に違反している事由
本件意匠は、その出願前に特許庁発行の意匠公報掲載の意匠登録第785267号の類似3号意匠(甲1号意匠、別紙第二参照)に類似する意匠であり、意匠法第3条第1項第3号の規定に違背して意匠登録を受けたものである。
本件意匠と甲1号意匠(以下「両意匠」という。)とを対比考量するに、両意匠は、意匠に係る物品において使用目的、方法及びその具体的な構成が一致しており、同一の物品である。
そして、その意匠に係る形態においても、全体の具体的な構成態様を構成する各部の各部位の態様のうち、雄側においては、嵌合突板の厚さ、止水段の長さ及び折り曲げ角度に差異があるのみである。また、雌側においては、覆板の長さ及び先端部分の形状、連結板の裏面側の形状に差異があるのみであって、その余の各部の各部位の態様はほぼ一致している。
以上の各部位における具体的な態様のうちの各差異につき検討するに、その各差異点は、雄側及び雌側共に接合部の一部分に係る差異であって、何れも施工後に表面側の化粧面に現れるものではなく、壁面における目地の部分に現れるにすぎないもの又は本件意匠では全く現れないものであり、特に重視される部位におけるものではない。
且つ、それらの差異は、何れも、本件意匠を創作するとき、その各部位の各部分の具体的な態様につき、既に先行意匠において、特に、意匠公報及び実用新案公報に掲載されていることにより、各種の態様として常識化していた態様(甲2号意匠乃至甲5号意匠、及び甲8号考案乃至甲11号考案等)をほとんどそのまま現した等による部分的な変形又は微細な部分の変更等の改変をした結果生じたに過ぎないものであり、それらの差異があっても、前記のとおり、一致する部位がほとんどを占めているものである。
これらにより、両意匠における各一致点及び上記の差異点を総合した全体の具体的な構成態様において、両意匠は共通しているものであり、本件意匠は全体として甲1号意匠に類似するものであることは明らかである。
すなわち、前記甲1号意匠乃至甲5号意匠及び上記甲第6号証の1及び2の対比図により、この種の意匠に係る物品の分野において、意匠を創作する又は実施する場合等は、全体の具体的な構成態様のうち、嵌合部における各部位の具体的な態様につき、この種の意匠においてありふれた態様のとおりのものに変形又は変更した等の改変をすることは、きわめて普通に知られていたことであり、改変した部位が部分又は細部であったとき、また、ありふれていた態様の通りに置換・変更をしたに過ぎないもので著しい差異となって現れないときは、未だ全体として類似する意匠の範囲に属しているものであることは明らかである。
以上のとおり、本件意匠は、甲1号意匠に類似するものであるから、意匠法第3条第1項第3号に規定する意匠に該当する。
なお、本件意匠は、板材を連結した施工後の化粧面につき、糸目地に現れるように造形したものとされているが、この種の意匠を実施(製造)するときは、施工時の条件に対応できるように整合可能な態様(わずかに間をあげて固定することができるよう)に製造するものである(甲第10及び12号証参照)。
特に、この種の物品においては、糸目地にすることから、わずかな間隔を開けて取付けることにより溝目地が現れるように施工することもある。
したがって、本件意匠においても、図面に表したとおりの構成比率に製造したものであっても、多少の余裕があるので、わずかに溝目地が現れるように施工することも可能であるということができる。
4.無効理由2
本件意匠が意匠法第3条第2項に該当する事由
本件意匠は、甲各号意匠又は考案に示すとおり、その出願前の甲8号考案のうち、実施例として連結したときに化粧面間へ糸目地に現れるよう意図した第1図及び第4図記載の建築用板の意匠(甲8号意匠、別紙第三参照)に基づき、その全体の具体的な構成態様を構成する各部位の態様について、まず同種の意匠に係る物品における態様と各種多様に現れたものがあったこと、且つ、それらは広く知られていた態様であったこと、そして、それらのうちの一つをほとんどそのまま現したものに変形又は変更した等の改変をしたにすぎないものであり、この種の意匠の分野に属する通常の知識を有する者であればきわめて容易に創作することができた意匠であるから、意匠法第3条第2項の規定に違反して意匠登録を受けたものである。
本件意匠は、連結したとき、表面側の態様につき、各化粧面の両端面が糸目地に現れるよう意図した甲8号意匠に係る全体の具体的な構成態様に基づき、また、意匠に係る物品を建築用板とする分野において広く知られていた甲各号意匠及び考案における全体を構成する各部位の具体的な態様に基づき、雄側の具体的な態様については、嵌合突板の先端部分を甲5号意匠のとおり丸面状のものにした。
さらに、止水段の止水面を甲1号意匠のとおり階段状のものにし、連結溝を甲5号意匠のとおり少し広幅にした。一方、雌側の具体的な態様については、嵌合溝から連結板までをそれぞれ甲5号意匠のとおり嵌合溝の底面を丸面状にし、連結板の先端部分を裏打材から遊離するものにし、覆板を甲4号意匠のとおり先端の裏面側を段差がある先細り状で、先端部分を丸面状のものにした。
以上のとおり、本件意匠は創作にあたって、全体を構成する各部位の具体的な態様につき、それぞれ変更又は変形する等の改変をしたものであるが、その改変をした部位の態様は、何れも同種の物品分野において広く知られている態様とほぼ同一であって、それぞれほとんどそのままの態様のとおりに置換変更をした結果にすぎないものであり、また、改変したその各部位は、何れも細部又は部分に過ぎないものであり.この種の意匠の分野に属しているものであって、その意匠の創作をすることから実施をすることについて通常の知識を有する者であれば、きわめて容易に創作することができたものである。
したがって、本件意匠は、意匠法第3条第2項の規定に違反して登録されたものに該当する。
5.無効理由3
本件が意匠法第10条第1項の規定に違反する事由
本件意匠は、本件と同一の意匠権者所有の先出願に係る甲7号意匠(別紙第四参照)にのみ類似する意匠に該当するものであるにもかかわらず、独立の意匠として意匠登録を受けていることになる。
すなわち、甲7号意匠については、拒絶査定不服審判において、先行意匠等のうちの引用意匠(甲9号考案)と対比し、「施工(接合)の際連結した部位が糸目地に現れる点において差異があるが、糸目地にすることはありふれていたことであり、溝目地が現れるか否かは、意匠の類似範囲判断に影響を与えない。その他においても差異があるが、何れも部分的な差異であり、全体として引用意匠に類似するものである。」と判断して審決したと考えられるのに対し、その審決の取消訴訟においては、「糸目地として現れることによる差異は、この種の意匠の要部における差異であるから、その差異がある以上、類似する意匠とすることはできない。」という趣旨の判断により上記審決が取消された(甲第13号証参照)。
その後、5人の審判官による合議体は.そのまま登録審決をした。
ところで、本件意匠と甲7号意匠とを対比考量するに、本件意匠は、甲7号意匠と同じく連結したとき、化粧面の態様につき、各端緑が糸目地に現れるものであって、その部位はこの種の意匠の要部であり、この部位が同一に現れたものである。
本件意匠は、その他の各部位の態様につきそれぞれ差異の現れるものはあるが、それらは何れも角丸状にしている部分を丸面状に改変したにすぎない程度のものであって、それぞれ部分的または微細部分における差異であり、それらの差異があっても全体として近似するものである。
そして、本件意匠は、甲7号意匠の登録前に出願されたものであって、甲7号意匠に類似するものとして引用された甲9号証考案、また甲各号意匠等よりも甲7号意匠に近似するものであるから、甲7号意匠にのみ類似するものである。
したがって、本件意匠は、自己の登録意匠にのみ類似する意匠であるから、独立の意匠登録を受けることができないものであり、意匠法第10条第1項の規定に違反して意匠登録を受けたものである。
なお、本件意匠は、甲7号意匠に類似する意匠であるのに独立の意匠として意匠登録を受けているものである。このことは、甲7号意匠に係る権利の存続期間を実質的に延長することになるのであるから、速やかに登録無効にすべきでものである。
第3 被請求人の答弁及びその理由
被請求人は、「結論同旨の審決を求める。」と申し立て、その理由を態様以下のとおり主張している。
(1)請求人が主張する無効事由1は、甲1号意匠を引用して、意匠法意匠法第3条第1項第3号に規定する意匠に該当する、旨の主張と認められる。しかし、甲1号意匠と本件意匠とを対比して、「全体の具体的な構成態様を構成する各部の各部位の態様のうち、雄側においては、嵌合突板の厚さ、止水段の長さ及び折り曲げ角度に差異があるのみである。また、雌側においては、覆板の長さ及び先端部分の形状、連結板の裏面側の形状に差異があるのみ」とし、そして、前記差異は「本件意匠では全く現れないものであり、特に重視される部位におけるものではない。」と結論づけて、両意匠の差異点を甚だ軽視した認定、判断を進めていること自体が、既に類否判断を誤らせている。
請求人が用意した甲第6号証の2を一見すれば明らかなように、本件意匠によって形成される目地を表側(左側)から見ると、上下の雌、雄嵌合部の表面上端と表面下端とが完全に密着して線状をなす、いわゆる「糸目地」を形成する。これに対して、甲1号意匠によって形成される目地を表側(左側)から見ると、上下の雌、雄嵌合部の表面上端と表面下端とはかなり大きく離れて凹溝形状をなし、いわゆる「溝目地」を形成する。
要するに、両意匠は、上記のように大きく異なった目地を形成するのであり、そのため必然的に「雌、雄嵌合部」の意匠的構成態様が大きく異なっている。その故に需要者は一見して両意匠を区別できて誤認、混同を生ずる虞がない。よって、請求人の前記差異点を軽視した類否判断の誤りは明らかである。
因みに、請求人が用意した甲第13号証には、同じ物品「建築用板材」の意匠に関する東京高裁の類否判断として、大略、下記のように判示されている。
1)「実はぎ」用の建築用板材の意匠は、需要者に、どのような実はぎが得られるかという観点から注意深く観察され、相当微細な差異であっても有意の差異として認識されるものと解すべきである。
2)工事施工後に2枚の板材の間に凹部(目地)が現れるか否かは、建築物の外壁の美感に強い影響を及ぼすことが明らかである。したがってこ上記の差異点は、本願意匠と引用意匠との類似性を否定するものとして、取引者、需要者である設計者あるいは施工業者によって決して看過されることのないものというべきである。
3)雄連結部の形状と雌連結部の形状の対応の程度を両意匠の差異点として認定せず、かつ、工事施工後の表面に目地が現れるか否かは両意匠の類比に影響を与えるほどのものではないとして、本願意匠は引用意匠に類似するとした審決の結論は、維持することができない。
(2)詳述すると、工事施工後の表面側から見た目地は、本件意匠の場合、上下の雌・雄嵌合部の表面上端と表面下端とが完全に密着して線状をなし、いわゆる「糸目地」を形成している。一方、甲1号意匠の場合は、上下の雌・雄嵌合部の表面上端と表面下端との間はおよそ当該板材の厚さ相当幅の間隔(因みに同参考図の実測で、板厚が17mm、前記間隔も17mmである。)をあけて大きく離れており、凹溝形状のいわゆる「溝目地」を形成している。
前記のように異なった目地が形成される原因として、本件意匠は、甲第6号証の2において下側に位置する建築用板材の上端に相当する「雄連結部」が、表側の化粧板の表面上端を内方へ小さく2段階にそれぞれ約直角に屈曲させて「階段部」を形成した後、垂直上方へ立ち上がらせ上端は半円を描いて下方へUターンさせることによって長円の1/2相当形状の「嵌合凸部」を形成し、前記「嵌合凸部」の高さにUターンさせ内側に「連結溝」を形成しつつ立ち上がる「取付板」を設けた構成態様となっている。因みに、前記「階段部」と「嵌合凸部」及び「連結溝」はそれぞれ、当該建築用板材の厚さをおよそ3分したような幅寸割合で形成されている。一方、上側に位置する建築用板材の下端に相当する「雌連結部」は、表側の化粧板の表面下端を内方へ前記「階段部」の最初の1段と同一幅で小さく半円状にUターンさせて同最初の1段の水平面へ完全に密着する薄い「覆板」を形成し、続いて前記「階段部」の2段目の水平面より少し上の位置にて内方へ約直角に屈曲し、前記「嵌合凸部」に外接する位置で略直角上向きに屈曲させて同「嵌合凸部」の外面に倣って密着するように立ち上がらせ、上端は半円状に下方へUターンさ.せて前記「嵌合凸部」に外接する形状の「嵌合溝」を形成し、更に前記「連結溝」の内側面に倣って密着しつつ下がり、同「連結溝」の底より少し上の位置で再び半円状に上方へUターンさせて「連結板部」を形成した構成態様となっている。したがって、上下の雌・雄競合部は全体がほぼ密接に嵌り合い、特に表面上端と表面下端とは完全に密着して線状のいわゆる「糸目地」を形成する。
これに対して、甲1号意匠は、甲第6号証の2において下側に位置する建築用板材の上端に相当する「雄連結部」が、表側の化粧板の表面上端を内方へ小さく1段だけ略直角に屈曲し、同参考図の実測で内方へ約3.5mmの位置から再び直角上方へ屈曲して「止水面」を形成し、少し立ち上がった位置からは内方へ約45度方向へ傾斜した「止水段」を形成し、当該板材の厚さの約1/2付近の位置から再び垂直上方へ立ち上げ、上端はし形状に鋭角に下方へ折り曲げて断面が細長い三角形状の「嵌合突板」を形成し、同「嵌合突板」の高さの半分強まで下がった位置で半円状に上方へUターンさせて「連結溝」を形成しつつ垂直上方へ立ち上がる「取付板」を設けた構成態様となっている。一方、上側に位置する建築用板材の下端に相当する「雌連結部」は、表側の化粧板の表面下端を前記「雄連結部」の「連結溝」の底とほぼ同じ高さ位置で内方へ屈曲し、前記「嵌合突板」の外面に近接する位置で垂直上方へ屈曲させてやや厚めの「覆板」を形成し、同「嵌合突板」の上端が当接する位置で半円状に下方へUターンさせて[嵌合溝」を形成し、前記「連結溝」の内側面に接するように下降させ、同「連結溝」の底より少し上の位置で半円状に上方Uターンさせて「連結板」を形成した構成態様となっている。したがって、上下の雌・雄嵌合部は、端的に言えば、「嵌合突板」にのみ「嵌合溝」が部分的に嵌り合っているに過ぎず、化粧板の表面上端と表面下端との間は当該板材の厚さ相当幅の間隔をあけて大きく離れ、そこに凹溝形状のいわゆる「溝目地」を形成する。
すなわち、雄連結部の形状と雌連結部の形状の対応の明らかな相違が両意匠の差異点として看者に明瞭に認定され、工事施工後の表面に現れる「目地」の形態が「線」と「溝」で大きく異なることが両意匠の類否判断に強く影響を与えると認めるべきことは、上記甲第13号証の判決が同じ「建築用板材」の意匠の類否判断に関して説示するとおりである。よって、本件意匠が甲1号意匠と類似しないことは明白である。
(3)更に付言すると、請求人は、前記の差異点は、甲2号ないし5号意匠、及び甲8号ないし11号考案等により「常識化していた態様をほとんどそのまま現した等による部分的な変形又は微細な部分の変更等の改変をした結果生じたに過ぎないもの」とか、「この種の意匠においてありふれた態様のとおりのものに変形又は変更した等の改変をすることは、極めて普通に知られていたことであり、改変した部位が部分又は細部であったとき、また、ありふれていた態様の通りに置換、変更をしたに過ぎないもので著しい差異となって現れないときは、未だ全体として類似する意匠の範囲に属しているものである」と、意匠法第3条第2項に規定する、所謂意匠の創作容易性の議論と混同したような、およそ意匠法第3条第1項第3号に掲げる意匠の議論になじまない所論を展開しているが、理由がなく成り立たない。
2.無効事由2について
請求人は、置換の意匠であるとか、寄せ集め又は配置の変更、或いは「ほとんどそのまま」表したにすぎない意匠である、等々の主張はそもそも理由がなく、成り立たない。
本件登録意匠の何処を指して「改変をした部位」といい、「同種物品分野において広く知られている態様」とはいかなる内容であるのか具体的ではなく、不可解である。
3.無効事由3について
その理由および根拠として、本件意匠は、被請求人が所有する「甲7号意匠にのみ類似する意匠に該当する」と主張するが、成り立たない。
請求人が主張する、「本件意匠は、自己の登録意匠にのみ類似するものであるから、・・・意匠法第10条第1項の規定に違反して意匠登録を受けたものである。」との所論については、自己の登録意匠にのみ類似するか否かを議論する以前の問題として、意匠法第48条第1項第1号に規定する「意匠法第10条第1項」は、類似意匠登録が本意匠とは異なる第三の意匠に類似し、自己の登録意匠にのみ類似する意匠ではない場合に適用があるものと解されること、及び意匠法には暇癖を訂正する訂正審判制度がないことを勘案して、特許庁の実務は、請求人が主張する事由では無効にできないとの解釈、運用がなされている。
第4 請求人の弁駁
1.被請求人は、甲第13号証の判旨を答弁書において示し、意匠に係る物品「建築用板材」の意匠に関する類似判断について述べている。
そのうちの、3)において、本願意匠と引用意匠とは、「雄連結部の形状と雌連結部の形状の対応の程度を両意匠の差異点として認定せず、かつ、工事施工後の表面に目地が現れるか否かは両意匠の類否に影響を与えるほどのものではないとして、本願意匠は引用意匠に類似するとした審決の結論は、維持することができない」という点をあげている。
ところが、被請求人が、答弁書において「上下の雄雌嵌合部の表面上端と表面下端とが完全に密着して線状をなし、いわゆる「糸目地」を形成している。」と主張し、また、甲第13号証の3頁下から4〜2行には、これと明らかに同趣旨と解される「下側板材の表面上端と上側板材の表面下端とが密着し、工事施工後の表面には1本の横線が現れる」旨を主張したことが記載されているとおり、本件意匠及び甲第13号証に係る被請求人の意匠(甲第7号証)の何れにも線状の「目地」が現れるものである。
したがって、甲第13号証に記載されているように、「目地」が現れないものであると認定した審決取消判決、取消後の審判官5人の合議体による登録審決は、事実認定を誤ったものであるといわざるを得ない。
そのような誤った事実認定に基づく類否判断を前提にして本件意匠が甲第1号意匠に類似するものではないとの主張は容認できない。 甲第13号証に係る判決においては、「2枚の板材の間に凹部(目地)が現れるか否か」という文言につき、「目地」とは「溝目地」のみであって「糸目地」という目地があることを認識していなかった。
ただし、主に甲第10号証の公報及び甲第13号証のカタログから明らかであるように、取引者、需要者、設計者あるいは施工業者(以下、「当業者」という。)においては、「糸目地」というものは周知であった。
壁面の表面は、建築物の外観を好ましいものにするために各種の形を平面状又は浮彫状に表すことがあり、その壁面を構成する各板材の表面を「化粧面」といっていることも周知であった。そして、壁面の表面を構成している構目地は、化粧面が浮彫状に現れる又は溝状の条線による形が現れることになり、その溝目地が板材の表面に現れるときは化粧面の一部分として認識されるものであること、そのためにその溝目地における溝の幅、深さ、底面及び溝壁面の態様につき、各種の態様が現れるように創作することも当業者間では周知であった。
一方、「糸目地」は、壁面の表面に単純な直線状の切れ目線が現れるのみであって、且つ、その線は必然的に現れるものであり、創作の余地が全くないものであることも当業者間では周知であった。 以上の周知事実に基づくとき、壁面の表面に溝目地が現れるよう、板材における化粧面(表面)の一部分から両端縁側のうち表面側までを造形し、その溝目地が特定の態様に現れるよう保持するために、両側周緑の施工時に現れない部位に一定の形状による雄・雌の連結部を形成したものにすることは、当業者において常識となっていることであった。
そして、それらの両端縁側の表面側を造形して「溝目地」を予定した部位に特徴が現れるように創作したものとして、独立や類似の登録意匠を多く見ることができる(例えば、甲第1号証〜第5号証の公報に示す意匠)。
しかしながら、壁面の表面に単純な線のみの「糸目地」が現れるように板材の両側周縁のうちの化粧面側を単純にし、施工後に現れない部位を造形したものとした登録意匠は見ることが出来ない。
このことは、上述のように、溝目地が現れるように造形した板材は、全体の具体的な構成態様のうちの板材の両端縁側の部位であるが、この種の意匠の創作の要点である化粧面の一部分であって、その部分について創作したものであり、その創作の結果、先行意匠と著しい差異が現れ、その部位に特徴があるので、先行意匠と全体の具体的態様において共通しないものになったときには、意匠登録を受けることができるということである。
そして、その特徴が現れた部位の態様がほとんどそのまま現れるようにしたもので、その余の部位につき、その一部分又は細部の態様を、先行意匠において、例えば意匠公報に掲載された意匠のうちの対応する部位の態様のとおりに改変したものは、全体として相互に類似する意匠として意匠登録を受けていることも当業者において周知である(甲第6号証の1参照)。
したがって、先行意匠とその全体の具体的な構成態様のうちの一部の態様につき、同種の意匠において既に知られた(例えば意匠公報に掲載されていた)態様のとおりに改変したものは、全体の具体的構成態様のうちの一部のうちの一部分又は細部の態様につき改変したにすぎないので、その全体として類似するものとされるのである。
以上のとおり、「糸目地」か「溝目地」により壁面自体に差異が現れ、その差異が現れるようにするために壁面を構成する板材の態様につき創作することも生じる。そして、その創作をする部位は、板材の表面側の一部分から施工後に現れない両端縁側である。
ところで、本件意匠は「建築用板材」であり、施工後に壁面に特徴が現れるように板材自体の態様につき創作したものであるが、その創作をした部位は、板材の全体の形状からみて表面側(化粧面)、裏面側、長手方向の両端縁側、両小口側等の構成各部の形状のうち、化粧面の一部分と両端縁との部分にすぎないものであり、さらに、その構成各部の態様の一部分ということになると細部ということになるのである。
そして、この種の「建築用板材」の意匠においては、その構成各部分の態様につき、どのような態様のものにしているか、どの程度の創作があるのかを理解するために両端緑に形成した嵌合部の構成各部(嵌合突板、嵌合溝、連結板、連結溝等)の有無、それぞれどの位置に基本形状をどうようにしたものが形成されているか、嵌合状態において雄・雌の嵌合部の構成各部はどのような関係で関わり合うのか等を判断するため、通常の6面図だけでは不明確な点があることから、「嵌合状態を示す側面図」 を必要としているのであって、嵌合部の構成各部の態様は、施工後は現れない部位の態様であるために、意匠としては特に重視される部分ではない。
以上により、「建築用板材」の意匠の類似判断にあたっては、両意匠における全体の具体的な構成態様のうち、化粧面の一部分から両端縁の嵌合部までの構成各部は、それぞれ同一位置に設けたものであるか否か、それらの態様は基本形状が共通しているか否か、さらに、それらの構成各部の各部位の態様のうちにこの種の先行意匠における態様と差異が現れたものとなっているか否かによって判断されるのである。
そこで、本件意匠と甲第1号意匠とを全体として考察すると、両意匠は、全体の具体的な構成態様のうち、板材の部分である両端縁のそれぞれ対応する位置に、嵌合部を構成する嵌合突板、嵌合溝、連結板、連結溝等が設けられており、その各基本形状もほぼ共通していて、差異があるのは、本件意匠が各部位の態様につき、この種の先行意匠における態様のとおりに改変をして嵌合時に糸目地が現れるようにした部位のみであり、板体全体においては、板材の両端縁から突出した小幅の板状の部分(覆板)とU字状に切り欠いた小幅の溝状の部分(止水段)とが現れているにすぎないものであって、その余のほとんどの部位は共通しているものであり、板材全体の具体的な構成態様は共通しているものであるから両意匠は全体として類似するものといわざるを得ない。
被請求人の主張は、「建物の外壁」の「美観」に影響を及ぼすということであって、本件意匠である「建築用板材」自体が美観を生じさせるというものではない。本件意匠はあくまで「建築用板材」であって「建物の外壁」ではなく、また、美感が生じるのは「糸目地」が現れた「建物の外壁」であって、「糸目地」を生じさせる「建築用板材」自体が美観を生じさせるわけではないことは明らかである。
意匠は「物品の外観」であり、「建築用板材」が取付けられた「建物の外壁」はすでに不動産の一部であることを考えれば、もはや意匠法上の「物品」に該当するものではない。この点から考えれば、意匠法上の物品でないものの外観に美観が生じるとしても、それは意匠法の保護対象ではないことは明白である。
第5 当審の判断
1.無効理由1について
無効理由1は、本件登録意匠が、その出願前に、平成2年11月21日に特許庁が発行した意匠公報に掲載された登録第785267号の類似3号意匠(甲1号意匠、別紙第二参照)に類似し、意匠法第3条第1項第3号の規定に違反して意匠登録を受けたというものである。
この無効理由1について審理するに、本件登録意匠と甲1号意匠は、意匠に係る物品が共通し、その形態について、以下の共通点及び差異点が認められる。
[共通点]
基本的構成態様において、全体が、断面形状が一定の長尺板材であり、その長手方向の表面及び裏面を幅広な平坦面状とし、表側を化粧面とし、裏面側に裏打材を設けたものであり、その板材の上辺側に略凸状の連結部(以下、「雄嵌合部」という。)を形成し、下辺側に略凹状の連結部(以下、「雌嵌合部」という。)を形成して、いわゆる、「実はぎ」を構成している点、
また、具体的態様において、
(1)雄嵌合部について、断面視(側面視)上辺側の中央部に、略凸状の嵌合突起を設け、その左方を表側の化粧面の上端部に向け、2段階に屈曲させて段部を形成し、嵌合突起につき、先端部を丸面状とし、厚さを板材全幅の略1/3とし。また、嵌合突起右方につき、その下方を略U字状に一旦屈曲させて、その後、垂直に立ち上げて、やや幅広帯状の取付け板部としている点、
(2)雌嵌合部について、断面視(側面視)下辺側の中央部に、嵌合突起を受け入れる嵌合溝を設け、その嵌合溝につき、厚さを板材全幅の略1/3の略逆U字状とし、その左方を、略倒コの字に屈曲して覆板部を形成し、さらに、嵌合溝右方を略U字状に形成している点、が共通している。
[差異点]
一方、両意匠は、具体的態様において、
(イ)嵌合突起について、本件登録意匠は、略逆U字状であるのに対し、甲1号意匠は、略楔状である点、
(ロ)嵌合突起の化粧面側の態様について、本件登録意匠は、嵌合突起の下端から直角に屈曲させて水平な止水段を形成し、その後、L字状に屈曲させて止水面としているのに対し、甲1号意匠は、嵌合突起の下端から斜状に屈曲させて傾斜状の止水段を形成し、その後、L字状に屈曲させて止水面としている点、
(ハ)覆板部について、本件登録意匠は、覆板の化粧面側下部に、幅狭U字状の突起を垂下させて、止水面に当接する態様に形成しているのに対し、甲1号意匠は、そのような突起を形成していない点、に差異がある。
そこで、前記共通点及び差異点が、両意匠の類否判断に及ぼす影響について検討する。
先ず、共通点について、両意匠に共通する態様、すなわち、全体が、断面形状が一定の長尺板材であり、その長手方向の表面及び裏面を幅広な平坦面状とし、表側を化粧面とし、裏面側に裏打材を設けたものであり、その板材の上辺側に略凸状の連結部を形成し、下辺側に略凹状の連結部を形成して、いわゆる、「実はぎ」を構成している点は、この種の物品の基本的構成態様として、極一般的なありふれた態様であり、その類否判断に及ぼす影響は、微弱なものといわざるを得ない。また、具体的態様の共通点(1)の雄嵌合部の態様及び共通点(2)の雌嵌合部の態様は、例えば、本件登録意匠の出願前、平成2年4月20日発行の意匠公報195頁に記載された登録785020号意匠、意匠に係る物品「建築用内外装材」、及び平成2年10月29日発行の意匠公報187頁に記載された登録798758号意匠、意匠に係る物品「建築用内外装材」)に見られるとおり、普通に知られた態様といえ、看者が注意を惹かれるところとなり得ず、その類否判断に及ぼす影響は、微弱なものといわざるを得ない。
一方、両意匠の差異点(イ)の嵌合突起について、本件登録意匠は、略逆U字状であるのに対し、甲1号意匠は、略楔状である点は、その先端部が共に丸面状であるとしても、施工時において、看者(特に、取引者、施工業者)が注目する部分の差異であり、類否判断を左右する要素というべきである。また、(ロ)の嵌合突起の化粧面側の態様について、本件登録意匠が、嵌合突起の下端から直角状に屈曲させて水平な止水段を形成している点の差異は、嵌合突起の左方を表側の化粧板の上端部に向け、2段階に屈曲させた共通する態様の中での、止水段が傾斜状か階段状かの僅かな差異といえ、さほど両意匠の類否判断に影響を及ぼすものとはいえない。しかしながら、差異点(ハ)の覆板部について、本件登録意匠が、覆板の化粧面側下部に、幅狭U字状の突起を垂下させて、止水面に当接する態様に形成している点は、施工後に、看者(特に、需要者、取引者)が化粧面側から見たとき、上下の雌・雄嵌合部が密着して、いわゆる「糸目地」の外観(外壁)と認識するのに対し、甲1号意匠は、覆板の化粧面側下部に幅狭U字状の突起がなく、嵌合時において、化粧面側から見たとき、止水段及び止水面が露出して、溝状の凹陥部が現れ、いわゆる「溝目地」を形成するものであり、需要者・取引者がその差異を看取し、両意匠を別異のものと判断するに十分な意匠的効果が発揮されているものであり、その類否判断に及ぼす影響は、大きいといわざるを得ない。
したがって、本件登録意匠は、その出願前に日本国内に頒布された刊行物である甲第1号証に記載された意匠に類似せず、意匠法第3条第1項第3号の規定に該当しない。
2.無効理由2について
無効理由2は、本件登録意匠は、その意匠の属する分野における通常の知識を有する者が日本国内において広く知られた形状等に基づいて容易に創作できたものであり、意匠法第3条第2項の規定に該当するというものである。
この点について、請求人は、「本件意匠は、連結したとき、表面側の態様につき、各化粧面の両端面が糸目地に現れるよう意図した甲8号意匠(別紙第三参照)に係る全体の具体的な構成態様に基づき、また、意匠に係る物品を建築用板とする分野において広く知られていた甲各号意匠及び考案における全体を構成する各部位の具体的な態様に基づき、雄側の具体的な態様については、嵌合突板の先端部分を甲5号意匠のとおり丸面状のものにした。止水段の止水面を甲1号意匠のとおり階段状のものにし、連結溝を甲5号意匠のとおり少し広幅にした。一方、雌側の具体的な態様については、嵌合溝から連結板までをそれぞれ甲5号意匠のとおり嵌合溝の底面を丸面状にし、連結板の先端部分を裏打材から遊離するものにし、覆板を甲4号意匠のとおり先端の裏面側を段差がある先細り状で、先端部分を丸面状のものにした。以上のとおり、本件意匠は創作にあたって、全体を構成する各部位の具体的な態様につき、それぞれ変更又は変形する等の改変をしたものであるが、その改変をした部位の態様は、何れも同種の物品分野において広く知られている態様とほぼ同一であって、それぞれほとんどそのままの態様のとおりに置換変更をした結果にすぎないものであり、また、改変したその各部位は、何れも細部又は部分に過ぎないものであり.この種の意匠の分野に属しているものであって、その意匠の創作をすることから実施をすることについて通常の知識を有する者であれば、きわめて容易に創作することができたものである。」と主張する。
しかしながら、甲8号意匠に見られる連結部は、ありふれた「相じゃくり張り」であるのに対し、本件登録意匠のものは、覆板の化粧板側下部に、幅狭U字状の突起を垂下させて、止水面に当接する態様に形成するものであって、甲8号意匠とは顕著な差異があり意匠的効果が異なる。
また、請求人は、「覆板を甲4号意匠のとおり先端の裏面側を段差がある先細り状で、先端部分を丸面状のものにした。」と主張するが、甲第号証4号証に見られる覆板の態様は、「溝目地」を構成しており、本件登録意匠の幅狭U字状の突起とは、その目的・効果が異なる。また、本件登録意匠に見られる止水段及び止水面の階段状の形態は、甲2号意匠及び甲5号意匠等に見られるが、本件登録意匠のものは、略逆U字状の嵌合突起の態様と相俟って、本件登録意匠の特異性を発揮しており、その意匠的効果は、大きいといわざるを得ない。
してみると、本件登録意匠は、請求人主張の各甲号意匠に対し、前記の差異による意匠的効果が認められ、これらの差異に係る態様を選択し、これを組み合わせて一体化する創作が、当業者にとって容易であるとすることが、請求人の提出した証拠によって立証されず、意匠法第3条第2項の規定に該当する意匠とすることができない。
3.無効理由3について
無効理由3は、本件登録意匠は、自己の登録意匠にのみ類似する意匠であるのに、独立の意匠登録を受けたものであるから、意匠法第10条第1項の規定に違反して意匠登録を受けたものであるというものである。
この点について、請求人は、「本件意匠と甲7号意匠とを対比考量するに、本件意匠は、甲7号意匠と同じく連結したとき、化粧面の態様につき、各端縁が糸目地に現れるものであって、その部位はこの種の意匠の要部であり、この部位が同一に現れたものである。本件意匠は、その他の各部位の態様につき、それぞれ差異の現れるものはあるが、それらは何れも角丸状にしている部分を丸面状に改変したにすぎない程度のものであって、それぞれ部分的または微細部分における差異であり、それらの差異があっても全体として近似するものである。」と主張する。
しかしながら、本件登録意匠と甲7号意匠(別紙第四参照)には、その具体的態様において、
(イ)嵌合突起について、本件登録意匠は、略逆U字状であるのに対し、甲7号意匠は、略倒コの字状で、先端頂部が傾斜状に形成されている点、
(ロ)嵌合突起の右方の態様につき、本件登録意匠は、その下方を略U字状に一旦屈曲させて、その後、垂直に立ち上げて、やや幅広帯状の取付け板部としているのに対し、甲7号意匠は、その下方を略コの字状に一旦屈曲させて、その後、垂直に立ち上げて、やや幅広帯状の取付け板部としている点、
(ハ)嵌合突起の化粧面側の態様について、本件登録意匠は、嵌合突起の下端から直角に屈曲させて水平な止水段を形成し、その後、L字状に屈曲させて止水面としているのに対し、甲7号意匠は、嵌合突起の下端から斜状に屈曲させて傾斜状の止水段を形成し、その後、L字状に屈曲させて止水面としている点、
(ニ)覆板部について、本件登録意匠は、倒コの字状の化粧板側下部に、幅狭U字状の突起を垂下させて、止水面に当接する態様に形成しているのに対し、甲7号意匠は、覆内側(嵌合突起側)につき、止水面寄りを斜状に形成し、その上方を凹陥状に屈曲させている点、に差異が認められ、その中でも、特に、(イ)の嵌合突起について、本件登録意匠は、略逆U字状であるのに対し、甲7号意匠は、略倒コの字状で、先端頂部が傾斜状に形成されている点、及び(ロ)の嵌合突起の右方の態様につき、本件登録意匠は、その下方を略U字状に一旦屈曲させて、その後、垂直に立ち上げて、やや幅広帯状の取付け板部としているのに対し、甲7号意匠は、その下方を略コの字状に一旦屈曲させて、その後、垂直に立ち上げて、やや幅広帯状の取付け板部としている点は、施工時において、看者(特に、施工業者、取引者)が注目するところの差異であり、「それらは何れも角丸状にしている部分を丸面状に改変したにすぎない程度のものであった」としても、両意匠を別異のものとするに十分な差異といえ、その類否判断に及ぼす影響は、大きいというべきである。また、これらの差異が、差異点(ハ)及び(ニ)と相俟って、両意匠の基本的構成態様の共通性を凌駕しており、両意匠を類似するものとすることはができない。
そうであれば、本件登録意匠が、「本件意匠は、自己の登録意匠にのみ類似する意匠であるから、独立の意匠登録を受けることができないものであり、意匠法第10条第1項の規定に違反して意匠登録を受けたものである。」との主張は、その前提を欠くものであるから、採用することができない。
第6 むすび
以上のとおり、本件登録意匠について、請求人の無効理由及び提出した証拠によっては、意匠法第3条第1項第3号、同条第2項及び同法第10条第1項の規定に違反して登録されたものとして、本件の登録を無効とすることはできない。
よって、結論のとおり審決する。
別掲

審理終結日 2002-05-21 
結審通知日 2002-05-24 
審決日 2002-06-04 
出願番号 意願平8-7618 
審決分類 D 1 11・ 121- Y (L6)
D 1 11・ 113- Y (L6)
D 1 11・ 3- Y (L6)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 山崎 裕造 
特許庁審判長 吉田 親司
特許庁審判官 伊藤 晴子
西本 幸男
登録日 2000-08-11 
登録番号 意匠登録第1087962号(D1087962) 
代理人 林 宏 
代理人 林 直生樹 
代理人 浅賀 一樹 
代理人 後藤 正彦 
代理人 山名 正彦 
代理人 川添 不美雄 

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