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審決分類 審判 無効  意10条1号類似意匠 無効としない D2
管理番号 1063000 
審判番号 無効2001-35326
総通号数 33 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 意匠審決公報 
発行日 2002-09-27 
種別 無効の審決 
審判請求日 2001-07-25 
確定日 2002-07-24 
意匠に係る物品 建築構造材用継手 
事件の表示 上記当事者間の登録第1045990号の類似第1号意匠「建築構造材用継手」の意匠登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。
理由 第1 本件登録意匠及び手続の経緯
本件登録意匠は、本意匠を、平成9年意匠登録願第60575号(登録第1045990号意匠)とする平成9年11月26日の類似意匠登録願に係り、平成11年11月19日に、意匠登録第1045990号の類似1号として設定の登録がなされたものであり、その願書の記載及び願書に添付した図面によれば、意匠に係る物品が、「建築構造材用継手」であり、その形態が、同添付図面に示すとおりである(別紙第一参照)。
第2 請求人の申し立て及び理由
請求人は、「登録第1045990号の類似1号の意匠登録はこれを無効とする、との審決を求める。」と申し立て、その理由として請求書の「6 請求の理由」の項の記載のとおり主張し、その証拠方法として、甲第1号証ないし甲第5号証を提出している。
その主張の大要は、以下の通りである。
1.利害関係
請求人は、合成樹脂製及びスチール製の各種形態の継手群その他の部品類と、好みの長さに切断して前記の継手により接続される合成樹脂接着被覆薄肉鋼管とにより、主として需要者自身の発想、設計による各種の立体構造物(例えば棚、椅子、テーブル等の家具類、藤棚、バラアーチ、植木鉢の台、可搬式のビニル温室、縁台などの屋外装置品、或いは産業用の台車、部品棚、安全柵、ローラコンベア、シューターラックなどの機器類を製作できる新素材商品を、Do it Your Self 商品(DIY商品)として、昭和40年代から登録商標「イレクター」(登録第777170号)を付して製造販売してきた。前記商品は、例えば実公昭36-1014号(考案の名称:組立骨子等における継手)をはじめとして、請求人が昭和30年代の後半から商品化を目指して研究開発を始め、昭和46年8月12日付け特許出願(特開昭48-26878号、発明の名称:合成樹脂を被覆した鋼管の製造方法)に係る発明の完成と共に製造販売を本格化したものである。
被請求人積水樹脂株式会社とタキロン株式会社及び件外のスぺーシア株式会社は、平成10年1月頃から、被請求人積水樹脂株式会社とタキロン株式会社が製造した、上記請求人の合成樹脂接着被覆薄肉鋼管とほぼ同じ構造、同じ外径、同様な地色の合成樹脂接着被覆薄肉鋼管と、径が同じであるがために必然的に請求人商品と互換性があり、対応する商品同士の寸法、形態、地色がそれぞれ見た目にほぼ同じ合成樹脂製およびスチール製の継手群その他の部品類とから成る商品を、スペーシア株式会社が「スぺーシア」の商標を付して、その上、販売方法や商品リスト、カタログの編集方式まで似た内容で販売しはじめた。
そこで請求人は、平成12年6月22日、被請求人積水樹脂株式会社とタキロン株式会社及び件外のスペーシア株式会社を被告とする不正競争防止法第2条第1項第1号等に基づく侵害行為の差止等、及び損害賠償請求の訴を東京地方裁判所へ提起し、現在は平成12年(ワ)第12838号として審理中である。
本件登録意匠に係る物品「建築構造材用継手」も、被請求人及び件外スペーシア株式会社が製造販売する前記合成樹脂製継手群に包含される一種類である。よって、審判請求人が本件審判を請求することについては重大な利害関係を有する。
2.本件登録意匠を無効とするべき理由
登録第1045990号の類似1号意匠(以下、本件登録意匠という。)は、その出願前に日本国内に頒布された刊行物である甲第3号証に記載された意匠(以下、引用意匠という。)と類似し、意匠法第10条第1項に規定する「自己の登録意匠にのみ類似する意匠」ではないにも拘らず、誤って類似意匠の意匠登録を受けたものであるから、意匠法第48条第1項第1号の理由により登録無効とすべきものである。
(1)本件登録意匠
a.本件登録意匠は、意匠に係る物品が「建築構造材用継手」である。
b.本件登録意匠の基本的構成態様
(b-1)コーナー部の垂直な短円管の下端部に対して、水平な直角2方向に、一方は少し長く、他方は少し短い短円管が接合されていると共に、前記長い方の短円管の先端部に、前記短い方の短円管と同一方向に平行な配置で等しい長さの枝円管が一体的に接合されている。
(b-2)前記水平な直角2方向の短円管と枝円管とに囲まれた、平面的に見てほぼ正方形の空間部に、同水平な直角2方向の短円管および枝円管それぞれの中心線を含む平面に沿って管壁とほぼ同じ厚さの補剛板が配置されている。
(b-3)前記垂直な短円管が上方へ突き出た部分と、前記水平な短い方の短円管との間に、両管の中心線を含む平面に沿って、両管の先端より少し手前の位置まで、管壁とほぼ等しい厚さの補強リブが直角二等辺三角形状に形成されている。
c.本件登録意匠の具体的構成態様
(c-1)垂直な短円管と水平な直角2方向の短円管及び枝円管は、それぞれの外径および内径が同一である。垂直な短円管の下端と水平な直角2方向の短円管の下辺とは一致している。垂直な短円管が水平な短円管の上辺から上方へ突き出た長さと、同垂直な短円管の内側辺の位置から水平な短い方の短円管が突き出した長さとは等しい(左側面図)。垂直な短円管が水平な短円管の上辺から上方へ突き出た長さに対して、同垂直な短円管の内側辺の位置から水平な長い方の短円管が突き出した長さは約2倍である(背面図)。前記水平な長い方の短円管の先端と、枝円管の外側辺とは一致している(平面図)。水平な短い方の短円管の先端と枝円管の先端及び補剛板の外側辺とはそれぞれ一致しており、一直線状をなす(平面図)。
(c-2)垂直方向の短円管は、その内径が同一のまま貫通しており、パイプを貫通状態に接続できる(平面図と底面図を参照)。水平な直角2方向の短円管の奥端はそれぞれ垂直方向の短円管の管壁により閉鎖されている(A-A断面図)。
よって水平な直角2方向の短円管にパイプは突き当たり状態に接続される。枝円管の奥端は前記水平な長い方の短円管の管壁により閉鎖されている(A-A断面図)。よって枝円管へのパイプも突き当たり状態に接続される。枝円管に接続したパイプは、前記水平な短い方の短円管へ接続したパイプと平行な配置となる(使用状態を示す参考図)。
(c-3)垂直方向の短円管と、水平な直角2方向の各短円管との接合部分、及び水平な長い方の短円管と枝円管との接合部分は夫々、同径の管の交差部に特有の45度方向の稜線を弧状に形成している。
(c-4)背面図の方向に見ると、垂直方向の短円管と水平な長い方の短円管の外表面に、それぞれの中心線に沿う位置の全長にわたり、管外径の約1/4相当幅の帯状をなす平面部がTの字を横に寝かせた形状に一連に形成されている。右側面図の方向に見ると、枝円管の外表面の中心線に沿う位置の全長にわたり、管外径の約1/4相当幅の帯状をなす平面部が形成されている。左側面図の方向に見ると、垂直方向の短円管と水平方向の短い短円管それぞれの外表面の中心線に沿う位置の全長にわたり、管外径の約1/4相当幅の帯状をなす平面部がTの字を横に寝かせた形状に一連に形成されている。平面図の方向に見ると、水平方向の長い方の短円管及びこれに接合された枝円管それぞれの外表面の中心線に沿う位置の全長にわたり、管外径の約1/4相当幅の帯状をなす平面部がTの字の形状に一連に形成されている。底面図の方向に見ると、水平な長い方の短円管と枝円管それぞれの外表面の中心線に沿う位置の全長にわたり、管外径の約1/4相当幅の帯状をなす平面部が、倒立したTの字形状に一連に形成されている。また、水平な短い方の短円管の外表面にはその中心線に沿う位置の全長にわたり、管外径の約1/4相当幅の帯状をなす平面部が形成されている。前記の各平面部の削り深さは、正面図や右側面図に見られる短円管の管壁の厚さ(甲第2号証に示した願書添付図面の実測で3mm程度)に対して、同0.5mm程度と僅かである。
(2)引用意匠
A.甲第3号証は、請求人が、昭和40年代から登録商標「イレクター」を付して製造販売してきた商品の販売促進用として、主にホームセンター等にて頒布した、1979年(昭和54年)9月印刷の「イレクター仕様書」である。その7頁と8頁に記載された「(3)ジョイント一覧表」の中で商品番号「J-105(R・L)」と表記されたジョイントの意匠、及び同9頁と10頁に記載された「(4)ジョイントの寸法」の中で10頁の3段目の右端に「J-105(R・L)」と表記されたジョイントの意匠をそれぞれ、引用意匠として採用する。
なお、このジョイントに類似する意匠について、請求人は、昭和54年1月31日に物品「建築構造材用継手」の意匠登録出願をし、登録第5671979号として意匠登録を受けているので、その意匠公報を甲第4号証として提出する。水平方向の長い短円管の上下方向に貫通する小円孔を有する点のみが引用意匠と相違する。
B.引用意匠の基本的構成態様
(B-1)コーナー部の垂直な短円管の下端部に対して、水平な直角2方向に、一方は少し長く、他方は少し短い短円管が接合されていると共に、前記長い方の短円管の先端部に、前記短い方の短円管と同一方向に平行な配置で等しい長さの枝円管が一体的に接合されている。
(B-2)前記水平な直角2方向の短円管と枝円管とに囲まれた、平面的に見てほぼ正方形の空間部に、同水平な直角2方向の短円管および枝円管それぞれの中心線を含む平面に沿って管壁とほぼ同じ厚さの補剛板が配置されている。
(B-3)前記垂直な短円管が上方へ突き出た部分と、前記水平な短い方の短円管との間に、両管の中心線を含む平面に沿って、両管の先端より少し手前の位置まで、管壁とほぼ等しい厚さの補強リブが直角二等辺三角形状に形成されている。
C.引用意匠の具体的構成態様
(C-1)垂直な短円管と水平な直角2方向の短円管及び枝円管は、それぞれの外径および内径が同一である。垂直な短円管の下端と水平な直角2方向の短円管の下辺とは一致している。垂直な短円管が水平な短円管の上辺から上方へ突き出た長さと、同垂直な短円管の内側辺の位置から水平な短い方の短円管が突き出した長さとは等しい。垂直な短円管が水平な短円管の上辺から上方へ突き出した長さに対して、同垂直な短円管の内側辺の位置から水平な長い方の短円管が突き出した長さは約2倍である。前記水平な長い方の短円管の先端と、枝円管の外側辺とは一致している。水平な短い方の短円管の先端と枝円管の先端及び補剛板の外側辺とはそれぞれ一致しており、一直線状をなす(以上、甲第3号証10頁3段目右端のジョイント「J-105(R・L)」の図面参照)。
(C-2)垂直方向の短円管は、その内径が同一のまま貫通しており、パイプを貫通状態に接続できる。水平な直角2方向の短円管の奥端はそれぞれ垂直方向の短円管の管壁により閉鎖されている。よって水平な直角2方向の短円管にパイプは突き当たり状態に接続される。枝円管の奥端は前記水平な長い方の短円管の管壁により閉鎖されている。よって枝円管へのパイプも突き当たり状態に接続される。枝円管へ接続したパイプは、前記水平な短い方の短円管へ接続したパイプと平行な配置となる(以上、甲第3号証10頁3段目右端のジョイント「J-105(R・L)」の図面参照)。
(C-3)垂直方向の短円管と、水平な直角2方向の短円管との接合部分、及び水平な長い方の短円管と枝円管との接合部分は夫々、同径の管の交差部に特有の45度方向の稜線を弧状に形成している(甲第3号証8頁のジョイント「J-105(R・L)」の図面参照)。
(3)本件登録意匠と引用意匠との対比
[共通点]
1)両意匠の意匠に係る物品は、「建築構造材用継手」であり共通する。
2)両意匠の基本的構成態様(b-1)〜(b-3)と(B-1)〜(B-3)はそれぞれほぼ完全に一致しており、共通する。
3)両意匠の具体的構成態様(c-1)〜(c-3)と(C-1)〜(C-3)もそれぞれほぼ完全に一致しており、共通する。
[相違点]
本件登録意匠の具体的構成態様(c-4)は、「短円管の外表面に、中心線に沿う位置の全長にわたり、管外径の約1/4相当幅の帯状をなす平面部が形成されている。」が、引用意匠の短円管の外表面にはそのような「平面部」が無いので、相違する。
(4)類否判断
上記相違点に記載したとおり、本件登録意匠の具体的構成態様(c-4)は、「背面図の方向に見ると、垂直方向の短円管と水平な長い方の短円管の外表面に、それぞれの中心線に沿う位置の全長にわたり、管外径の約1/4相当幅の帯状をなす平面部がTの字を横に寝かせた形状に一連に形成されている。右側面図の方向に見ると、枝円管の外表面の中心線に沿う位置の全長にわたり、管外径の約1/4相当幅の帯状をなす平面部が形成されている。左側面図の方向に見ると、垂直方向の短円管と水平方向の短い短円管それぞれの外表面の中心線に沿う位置の全長にわたり、管外径の約1/4相当幅の帯状をなす平面部がTの字を横に寝かせた形状に一連に形成されている。平面図の方向に見ると、水平方向の長い方の短円管及びこれに接合された枝円管それぞれの外表面の中心線に沿う位置の全長にわたり、管外径の約1/4相当幅の帯状をなす平面部がTの字の形状に一連に形成されている。底面図の方向に見ると、水平な長い方の短円管と枝円管それぞれの外表面の中心線に沿う位置の全長にわたり、管外径の約1/4相当幅の帯状をなす平面部が、倒立したTの字形状に一連に形成されている。また、水平な短い方の短円管の外表面にはその中心線に沿う位置の全長にわたり、管外径の約1/4相当幅の帯状をなす平面部が形成されている。
前記の各平面部の削り深さは、正面図や右側面図に見られる短円管の管壁の厚さ(甲第2号証に示した願書添付図面の実測で3mm程度)に対して、同0.5mm程度に僅かである。」ところ、引用意匠にはそのような「平面部」がないので、一応相違点と認める。しかし、この相違点が意匠の類否判断に及ぼす影響については、次のことが考慮されるべきである。
1)特許庁に対する意匠登録出願は書面主義に支配されており、意匠は基本的に図面に記載して特許庁長官に提出する。したがって、本件登録意匠の上記「平面部」も短円管の外表面部に現れる稜線を、白色用紙に明瞭な形状線として記載しているので、そのような「平面部」を有しない引用意匠とは、図面上の対比において一見相違するようにも見える。
しかし、現実問題としては、上記(c-4)に掲記した通り、短円管の外表面に、その中心線に沿う位置の全長にわたり、管外径の約1/4相当幅の帯状をなす平面部が、削り深さにして、短円管の筒壁の厚さ(3mm程度)に対して、0.5mm程度行われているに過ぎないから、短円管の管壁の厚さの変化も、良く目を凝らして見ないと見分けが付かないほどに微々たるものである。しかも垂直方向の短円管と水平方向に長い短円管及び枝円管の外表面には直角3方向に3本の平面部が、そして、水平方向に短い短円管の外表面には直角2方向に2本の平面部が、それぞれ願書添付図面(甲第2号証)の実測によれば、外径が27.5mmの管表面に、幅7mm、中心角にして27度程度に形成されているに過ぎないから、外観上、この「平面部」が意匠的工夫ないし創作として需要者に彼我の意匠を区別するに足る異なった美感を起こさせるものとは認め難い。
2)意匠の類否判断が、需要者の観察において誤認、混同を生ずるや否やにあるとの考え、所謂「混同説」に立てば、一例として甲第4号証に両意匠の実施品を並べた写真を示したように、前記「平面部」の存在を表す稜線は合成樹脂の地色に減殺されて殆ど目立たないから、需要者が一見しただけでは彼我の意匠の見分けがつかず、誤認、混同する虞が大である。
3)意匠の保護は、実は意匠の創作が保護されることに基づき、意匠の類否判断を創作性の有無に求める、いわゆる「創作説」の観点に立ち、本件登録意匠の「帯状をなす平面部」が意匠的工夫、創作の結果として、見る者に起こさせる美感ないし意匠的効果に寄与するかについても検討を進める。
この検討に際しては先ず、甲第3号証の頒布時期と、そこに記載された引用意匠の基本的構成態様(B-1)〜(B-3)、及び具体的構成態様(C-1)〜(C-3)が全て、本件登録意匠の出願時点から遡ること約18年も前から公知、周知の形状として知られた事実が重視されるべきである。
上記(3)の対比で説明したように、本件登録意匠の基本的構成態様(b-1)から(b-3)、及び具体的構成態様のうちの(c-1)〜(c-3)までが、上記したように引用意匠の公知、周知形状(B-1)〜(B-3)及び(C-1)〜(C-3)とぴったり一致して共通する。残る本件登録意匠の具体的構成態様(c-4)のみが僅かに引用意匠と相違するに過ぎないのである。
その上、本件登録意匠の意匠的工夫というべき「平面部」は、いちいち例証するまでもなく、ずいぶん古くより種々な技術分野において日常的に、丸棒や円管等の表面を必要に応じて削除などして形成してきたことであり、格別創作というほどに目新しいものでもない。
したがって、本件登録意匠に「平面部」が存在していて、それが唯一引用意匠との相違点であるとしても、意匠的工夫ないし創作として看者(需要者)に注目されたり、格別の印象を与えたり、異なった美感を起こさせる要因(意匠の要部)になるとは認められない。
4)以上要するに、両意匠の全体観察によれば、引用意匠の全体形状が本件登録意匠の出願日の遥か以前から公知、周知の形状であり、本件登録意匠の大部分の形状がそれと共通し、相違点である本件登録意匠の「平面部」が発揮する意匠的効果が、見る者に格別異なった美感を起こさせる要因というには程遠く、両意匠の前記共通点がもたらす美感を凌駕するものとは認められないので、前記の相違点は部分的な微差の域にとどまり、本件登録意匠は、引用意匠と美感を共通にして類似するものと認められる。
(5)むすび
以上に説明した通り、本件登録意匠は、引用意匠と類似するから、意匠法第10条第1項に規定する「自己の登録意匠にのみ類似する意匠」ではないにも拘わらず、誤って類似意匠の登録を受けたものであるから、意匠法第48条第1項第1号の理由により、その意匠登録を無効とされるべきである。
第3 被請求人の答弁及び理由
被請求人は、「結論同旨の審決を求める。」と申し立て、その理由として答弁書の「7 答弁の理由」の項の記載のとおり主張し、その証拠方法として、乙第1号証及び乙第31号証を提出している。
その主張の大要は、以下の通りである。
1.本件「意匠に係る物品」について
本件登録意匠の「意匠に係る物品」は一応「建築構造材用継手」となっているが、具体的には需要者の好みに応じて需要者自身が所要の長さに切断した断面円形パイプを種々の方向、種々の角度に接合することにより、棚、椅子、テーブル等を組み立てることができる Do it Your Self 商品(DIY商品)に用いる継手に関するものであるが、この継手に関しては本件登録意匠も被請求人の引用意匠も共に用途が限られており、乙第1号証に示すような所謂台車を組み立てる際に用いられるものである。その用い方を説明すれば、乙第1号証の台車の図面の矢印部分における載荷台の引手取付側のコーナー部において、垂直方向の短円管の頂面開口部に引手を構成するパイプが接合され、該垂直短円管の下端部に対して水平な直角2方向に、一方は少し長目の短円管を、他方には短か目の短円管が一体的に延設され、該長目の短円管の先端開口部には載荷台の短辺側の外枠を構成するパイプが接合され、該短か目の短円管の開ロ部には長辺側の外枠を構成するパイプが接合される。また前記長目の短円管の先端部に、前記短か目の短円管と同一方向に平行状態で等しい長さの枝円管が一体的に形成され、該枝円管の先端開口部に前記長辺側の外枠を構成するパイプと平行な補強パイプが接合され、台車における引手取付側コーナー部において引手を構成するパイプ、載荷台を構成する外枠パイプ、及び引手を構成するパイプを各々接合する機能とこのコーナー部を補強する機能を付与する継手として用いられるものである。
2.請求人の主張に対する反論
a.請求人が本件登録意匠と引用意匠との共通点として挙げている引用意匠における基本的構成態様の(B-1)乃至(B-3)、及び具体的構成態様の(C-1)乃至(C-3)は、前記本件意匠に係る物品の項にて詳述したとおり機能上必然的な形状であると共に、請求人が引用した甲第3号証のイレクター仕様書に示すとおり本件登録意匠の出願日である1997年(平成9年)7月3日より遥か18年前である1979年(昭和54年)より販売を開始したものであり、本件登録意匠の出願時においては、すでにすべてありふれた陳腐な形状となっており、格別顕著な形態とはいえず、看者の注意を強く惹く意匠的特徴点とは到底いいえないものである。
これに対し、両者の相違点である「各短円管の外周面長手方向に複数本形成された管外径の約1/4相当幅の帯状をなす平坦面の有無」は、全体観察上看者の注意を強く惹き、看者をして両意匠を充分弁別し得る要因となる顕著な相違点である。
b.上記被請求人の主張が妥当なものであることは、請求人の製造に係り、かつ、本件登録意匠出願前に公知となっていた各種継手の意匠と基本的形態において共通し、短円管の外周長手方向に形成された管外径の約え相当幅の複数の帯状をなす平坦面の有無において相違する継手の意匠につき、被請求人において本件登録意匠を除き以下に示す28件にものぼる意匠が登録されている事実により証明することができる。
第4 請求人の弁駁
請求人は、被請求人の答弁に対し、甲第6号証乃至甲第7号証(検証物、本件登録意匠及び引用意匠の実施品)を提出し、大要以下の通り弁駁した。
請求人が挙示した甲第3号証の3頁最上位にジョイント「J-4」の使用例を本件登録意匠の使用状態を示す参考図と対比すると明かなように、立体物のコーナー部において直角3方向にパイプを接続するジョイントの基本形態は「J-4」の意匠の通りになる。仮に水平2方向の一方のパイプのみ2本接続するダブルパイプ構造とする必要があるとしても、何も引用意匠と基本的構成態様のみならず具体的構成態様まで共通とするべき必然性はない。
被請求人は、上記の反論の妥当性を、28件掲げた意匠登録の事実で証明するとし、乙2号〜乙29号証を挙示し「帯状の平坦面の有無の差異によって両者類似しないと判断されたケースが多数存在する」と主張するが、総論として、拳示された乙2号の1〜乙29号証の1に係る意匠登録の事実は、本件審判とは事案を異にするものであり、また、各乙号証の意匠登録を正当な類否判断の結果と認めるには個別の検討を要するから、前記意匠登録の事実が直ちに本件登録意匠と引用意匠の類否判断に影響を与えるものではない。
被請求人は、「帯状の平坦部」が引用意匠とは異なる印象を与える根拠として乙31号証の対比写真を提出している。これは請求人の甲第5号証に対応するものである。そこで「見ればわかる」と考えて、請求人は甲第5号証に係る二つの物品について証拠申出の手続をとる次第である。
第5 当審の判断
1.本件登録意匠
本件登録意匠は、本意匠を、平成9年意匠登録願第60575号(登録第1045990号意匠)とする平成9年11月26日の類似意匠登録願に係り、平成11年11月19日に、意匠登録第1045990号の類似1号として設定の登録がなされたものであり、その願書の記載及び願書に添付した図面によれば、意匠に係る物品が、「建築構造材用継手」であり、その形態が、同添付図面に示すとおりである(別紙第一参照)。
2.甲号意匠
請求人が引用した意匠は、請求人(矢崎化工株式会社)が頒布した(1979年9月印刷)カタログ「ヤザキのプラスチックス ERECTOR イレクター仕様書」の7頁と8頁に記載された「(3)ジョイント一覧表」の中で8頁7段目右端に商品番号「J-105(R・L)」と表記されたジョイントの意匠、及び同9頁と10頁に記載された「(4)ジョイントの寸法」の中で10頁の3段目の右端に「J-105(R・L)」と表記されたジョイントの意匠であるが、同8頁7段目右端に商品番号「J-105(R・L)」と表記されたジョイントの意匠を甲号意匠とする(別紙第二参照)。
3.両意匠の対比
先ず、両意匠は、意匠に係る物品が共通し、その形態について、以下の共通点及び差異点が認められる。
[共通点]
基本的構成態様において、全体が、円形パイプを接合する短円筒状の管(平面視「横管」)の前方両側に、同径の短円筒状の2本の管(縦管)を突設して、平面視倒「コ」の字状に形成し、その平面視左側のコーナー部に、短円筒状の管(垂直管)を垂設したものである点、
具体的態様において、
(1)横管の長さを、その径の略2倍とし、その左端に、横管よりやや短い垂直管を直角に接合し、その垂直管の前方に、その径よりやや長い縦管(左縦管)を突設し、また、横管の右方前方に、先端部を他方の横管と揃えて縦管(右縦管、請求人のいう「枝円管」)を突設したものである点、
(2)横管と左右の縦管とに囲まれた、平面視略正方形の空間部に、水平に各管の中心線に沿って、管壁と略同厚の補強板を設けている点、
(3)垂直管とそこから直角に突き出た左縦管との間に、両管の中心線に沿って、管壁と略同厚の略二等辺三角形状の補強リブを設けている点、が共通している。
[差異点]
一方、両意匠は、具体的態様において、
(1)本件登録意匠は、横管につき、その平面、底面及び背面に、垂直管につき、その両側及び背面に、左縦管につき、その底面に、右縦管につき、その平面、底面及び右側面に、管外径の略1/4幅の帯状平面部を、その全長にわたって形成しているのに対し、甲号意匠は、これらの帯状平面部が形成されていない点、
(2)本件登録意匠は、平・底面視につき、横管と縦管に形成された帯状平面部が、略Tの字状に表れ、背面視につき、横管と垂直管に形成された帯状平面部が、略倒Tの字状に表れ、また、右側面視につき、横管の端部のリング状から、右縦管の側面の帯状平面部が鍵穴状に連続しているのに対して、甲号意匠はこれらの帯状平面部が形成されていない点、に差異がある。
4.両意匠の類否判断
そこで、共通点及び差異点が、両意匠の類否判断に及ぼす影響について検討する。
先ず、共通点について、両意匠に共通する基本的構成態様、すなわち、全体が、円形パイプを接合する短円筒状の管(平面視「横管」)の前方両側に、同径の短円筒状の2本の管(縦管)を突設して、平面視倒「コ」の字状に形成し、その平面視左側のコーナー部に、短円筒状の管(垂直管)を垂設したものである点は、この種物品分野において、たとえば、台車の載荷台の引手取付側のコーナー部を構成する際に普通に見られる形態であり(被請求人の会社製品カタログ「スペーシア」13頁中段、乙第1号証参照)、また、具体的態様(1)ないし(3)の点は、請求人(矢崎化工株式会社)が頒布した(1979年9月印刷)カタログ「ヤザキのプラスチックス ERECTOR イレクター仕様書」の7頁と8頁に記載された「(3)ジョイント一覧表」の中で8頁7段目右端に商品番号「J-105(R・L)」と表記されたジョイントの意匠、及び同9頁と10頁に記載された「(4)ジョイントの寸法」の中で10頁の3段目の右端に「J-105(R・L)」と表記されたジョイントの意匠に見られるとおり、広く知られたありふれた形態であり(この点については、請求人も、「甲第3号証の頒布時期と、そこに記載された引用意匠の基本的構成態様(B-1)〜(B-3)、及び具体的構成態様(C-1)〜(C-3)が全て、本件登録意匠の出願時点から遡ること約18年も前から公知、周知の形状として知られた事実が重視されるべきである。」と認めるところである。)、看者が注意を惹かれるところと成り得ず、その類否判断に及ぼす影響は、微弱なものといわざるを得ない。
一方、両意匠の差異点、すなわち、管外径の略1/4幅の帯状平面部の有無による差異であるが、この種の物品において、請求人が主張するとおり、「ずいぶん古くより種々な技術分野において日常的に、丸棒や円管等の表面を必要に応じて削除などして形成してきたことであり、格別創作というほどに目新しいものでもない。」としても、(1)本件登録意匠は、横管につき、その平面、底面及び背面に、垂直管につき、その両側及び背面に、左縦管につき、その底面に、右縦管につき、その平面、底面及び右側面に、管外径の略1/4幅の帯状平面部を、その全長にわたって形成しており、また、その帯状平面部について、(2)本件登録意匠は、平・底面視につき、横管と縦管に形成された帯状平面部が、略Tの字状に表れ、背面視につき、横管と垂直管に形成された帯状平面部が、略倒Tの字状に表れ、また、右側面視につき、横管の端部のリング状から、右縦管の側面の帯状平面部が鍵穴状に連続して表れ、そこに本件登録意匠の特徴が発揮されており、両意匠を別異のものとするに十分な意匠的効果が認められものであり、その類否判断に及ぼす影響は、大きいというべきである。
ところで、請求人は、「本件登録意匠に平面部が存在して、それが唯一引用意匠との相違点であるとしても、意匠的工夫ないし創作として看者(需要者)に注目されたり、格別の印象を与えたり、異なった美感を起こさせる要因(意匠の要部)になるとは認められない。」と主張するが、当業者を基準として創作の容易性の観点から比較する場合においてはともかく、一般需要者を基準としての意匠的効果としての印象(美感)の類否の観点から両意匠を比較する場合においては、前記管外径の略1/4幅の帯状をなす平面部の有無による差異から生じる印象の差異は、一般的には、決して小さいものでなく、共通点がこの差異を埋没させてしまうほどに強力な共通の印象をもたらすものでない限り、両意匠は、意匠全体として異なった印象をもたらすものというべきである。
また、請求人は、「意匠の類否判断が、需要者の観察において誤認、混同を生ずるや否やにあるとの考え、所謂混同説に立てば、一例として甲第5号証に両意匠の実施品を並べた写真を示したように、前記平面部の存在を表す稜線は合成樹脂の地色に減殺されて殆ど目立たないから、需要者が一見しただけでは彼我の意匠の見分けがつかず、誤認、混同する虞が大である。」と主張するが、本件登録意匠の範囲は、「その願書の記載及び願書に添付した図面に記載された意匠に基づいて定め」(意匠法第24条)られるものであり、請求人の主張を採用できない。
さらに、請求人は、本件登録意匠の「帯状平面部の削り深さは、正面図や右側面図に見られる短円管の管壁の厚さ(甲第2号証に示した願書添付図面の実測で約3mm程度)に対して同0.5mm程度と極僅かである。」と主張するが、意匠の外観がもたらす美感は、実測による精密な数値より把握されるものというより、外観から受ける印象(美感)として把握されるべきものであり、請求人の主張をそのまま採用することはできない。
以上のとおりであって、両意匠は、意匠に係る物品は共通しているが、その形態について、両意匠における共通点は、その類否判断に及ぼす影響は、微弱なものといわざるを得ないのに対し、差異点は、両意匠の類否判断に及ぼす影響が大きいというべきであり、差異点が共通点を凌駕する両意匠は、結局、類似するものとは認めることができない。
その他、請求人は、甲号意匠の他に、「ヤザキのプラスチックス ERECTOR イレクター仕様書」の10頁の3段目の右端に「J-105(R・L)」と表記されたジョイントの意匠についても、引用意匠としているが、当該意匠は、甲号意匠と実質的に同一のものであり、本件登録意匠と、同様の理由により、類似するものとは認めることができない。
5.まとめ
したがって、本件登録意匠は、その出願前に日本国内に頒布された刊行物である甲第3号証に記載されたいずれの意匠とも類似しないものであるから、意匠法第10条第1項に規定する「自己の登録意匠にのみ類似する意匠」に該当しないとする理由がなく、意匠法第48条第1項第1号の規定によって、その登録を無効とすることはできない。
よって、結論のとおり審決する。
別掲

審理終結日 2002-05-20 
結審通知日 2002-05-23 
審決日 2002-06-12 
出願番号 意願平9-76554 
審決分類 D 1 11・ 3- Y (D2)
最終処分 不成立 
前審関与審査官 上島 靖範 
特許庁審判長 吉田 親司
特許庁審判官 西本 幸男
伊藤 晴子
登録日 1999-11-19 
登録番号 意匠登録第1045990号の類似意匠登録第1号(D1045990/1) 
代理人 川瀬 幹夫 
代理人 小谷 悦司 
代理人 山名 正彦 
代理人 小谷 悦司 
代理人 植木 久一 
代理人 川瀬 幹夫 
代理人 植木 久一 
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